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(平15.2.20裁決、裁決事例集No.65 46頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、美容業を営む同族会社である審査請求人(以下「請求人」という。)が受領した紹介手数料等を代表者の個人名義の預金口座に入金することなどにより、その一部を益金の額に算入しなかったことについて、国税通則法(以下「通則法」という。)第70条《国税の更正、決定等の期間制限》第5項の規定を適用して更正処分をすることができるか否かを主な争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成4年10月1日から平成5年9月30日まで、平成5年10月1日から平成6年9月30日まで、平成6年10月1日から平成7年9月30日まで、平成7年10月1日から平成8年9月30日まで、平成8年10月1日から平成9年9月30日まで、平成9年10月1日から平成10年9月30日まで及び平成10年10月1日から平成11年9月30日までの各事業年度(以下、順次「平成5年9月期」、「平成6年9月期」、「平成7年9月期」、「平成8年9月期」、「平成9年9月期」、「平成10年9月期」及び「平成11年9月期」といい、「平成5年9月期」及び「平成6年9月期」を併せて「本件各事業年度」という。ただし、消費税については「事業年度」を「課税期間」と読み替えるものとする。)の法人税について、青色の確定申告書に別表1の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までにそれぞれ申告した。
ロ 請求人は、平成5年9月期、平成6年9月期、平成7年9月期、平成8年9月期、平成9年9月期、平成10年9月期及び平成11年9月期(以下、「平成5年9月期」及び「平成6年9月期」を併せて「本件各課税期間」という。)の消費税について、確定申告書に別表2の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までにそれぞれ申告した。
ハ 原処分庁は、平成12年11月28日付で、別表1の「更正処分等」欄のとおりの法人税の更正処分(以下、本件各事業年度に係る更正処分を「本件法人税更正処分」という。)及び重加算税の賦課決定処分(以下、本件各事業年度に係る重加算税の賦課決定処分を「本件法人税賦課決定処分」という。)並びに別表2の「更正処分」欄のとおりの消費税の更正処分(以下、本件各課税期間に係る更正処分を「本件消費税更正処分」といい、本件法人税更正処分と併せて「本件更正処分」という。)をした。
ニ 請求人は、これらの処分を不服として、平成13年1月18日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年4月11日付でいずれも棄却の異議決定をした。
ホ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成13年5月11日に審査請求をした。

(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、昭和58年2月8日に美容業及び美容業に附帯する一切の業務を営むことを目的として設立された。
ロ 請求人は、平成2年12月26日にE銀行○○支店で「G」名義普通預金口座(口座No.○○○をいい、以下「本件公表外銀行預金口座」という。)を開設し、当該口座を請求人の備付けの帳簿(以下「本件公表帳簿」という。)に記載していない。
ハ 請求人は、婚礼用衣裳の紹介に係る手数料(以下「本件紹介手数料」という。)を次表のとおり、株式会社H(以下「H社」という。)から、本件公表外銀行預金口座に振り込ませており、当該金額を本件公表帳簿に記載していない。

ニ 請求人は、次表の「仕入割戻金」欄のとおり、美容材料の仕入先である株式会社Fから美容材料の仕入金額に応じて支払われる仕入割戻金を現金で受領し、そのうち同表「差引金額」欄の金額(以下「本件仕入割戻金」という。)を本件公表帳簿に記載していない。

ホ 原処分庁は、前記ハ及びニの本件紹介手数料及び本件仕入割戻金を、請求人の本件各事業年度の益金の額及び本件各課税期間の税込課税売上高に加算して本件更正処分を行った。
ヘ 原処分に係る調査(以下「本件調査」という。)の担当職員(以下「調査担当職員」という。)は、本件調査に当たり、請求人の関与税理士であるJ(以下「関与税理士」という。)に対して事前通知を行っていない。
ト 請求人は、平成13年11月26日に有限会社Kから有限会社Lに商号を変更した。

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2 主張

(1)請求人

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 本件法人税更正処分等について
(イ)調査手続
A 調査担当職員が、原処分庁の管轄外であるM税務署管内の請求人の代表取締役Gの自宅に調査に行ったことは、法人税法第153条《当該職員の質問検査権》及び第154条第1項の規定から判断すると、質問検査権の範囲を逸脱している。法人の調査は、法人の本店、支店又は営業所等において行われるべきもので、Gの自宅は調査を行う場所ではない。
B 調査担当職員は、本件調査の着手日である平成12年8月8日の午前8時30分にGの自宅に行き、午後1時から会社の店舗で調査する旨を告げて帰ったのであるから、本件調査の着手は午後1時である。したがって、4時間半前に調査着手が決まったのであるから、関与税理士に対して調査の事前通知を行うべきであるのに、それを行わなかったことは、税理士法第34条《調査の通知》に違反している。
(ロ)通則法第70条第5項の規定の適用
 原処分庁は、次の理由により、請求人に対して通則法第70条第5項の規定を適用することができない。
A 偽りその他不正の行為
 最高裁判所昭和42年11月8日大法廷判決(昭和40年(あ)第65号物品税法違反被告事件)によれば、詐欺その他不正の行為とは、ほ脱の意図をもって、その手段としての税の賦課徴収を不能若しくは著しく困難ならしめるような何らかの偽計その他の行為を行うことをいう旨判示されている。
 また、福岡高等裁判所昭和51年6月30日判決(昭和50年(行コ)第4号所得税更正処分取消請求控訴事件)によれば、偽りその他不正の行為とは、税額を免れる意図の下に、税の賦課徴収を不能又は著しく困難にするような何らかの偽計その他の行為を伴う不正な行為を行っていることをいう旨判示し、単なる不申告行為はこれに含まれず、偽計その他の工作を伴う不正な行為を行うとは、名義の仮装、二重帳簿の作成等を例に挙げている。
 以上の判決を要約すると、偽りその他不正の行為とは、〔1〕ほ脱の意図をもって、〔2〕税の賦課徴収を不能又は著しく困難にする、〔3〕偽計その他の行為を行うことである。
 本件紹介手数料については、〔1〕請求人は、当初は、G個人とH社との契約であったから請求人の収入とは認識していなかった、〔2〕貸衣裳の紹介は、請求人の事業目的である美容業とは異なり、美容業の附帯業務にも含まれない、〔3〕請求人は、本件公表外銀行預金口座の通帳を本件調査の初日に調査担当職員に提示し隠ぺいの認識は全くなかったことから、取引名義の仮装、借用でもなく、二重帳簿の作成、証ひょう類の破棄にも該当しないので、不正、偽りによるものではなく、かつ、仮装・隠ぺいによるものでもない。また、本件仕入割戻金についても、単純な計算誤りにより差額が生じたものであり、不正、偽りによるものではなく、かつ、仮装・隠ぺいによるものでもない。
B 衆参両議院大蔵委員会の附帯決議
 通則法第70条第5項の規定については、更正決定等の期間制限が5年から7年に改正された時である昭和56年4月24日及び同年5月15日の衆参両議院大蔵委員会において、「今回の改正により延長された更正、決定等の制限期間における調査に当たっては、高額かつ悪質な脱税者に重点を置き、中小企業者を苦しめることのないよう特段の配慮をすること」との附帯決議(以下「本件附帯決議」という。)がなされており、当時の大蔵大臣及び国税庁直税部長が「今回の除斥期間延長によって、従来からの高額・悪質重点という調査方針の変更ということは考えていない。しかし、大口・悪質なものについては、7年間そ及して課税する」と発言している。
 附帯決議は、法律そのものではないが、法律の解釈適用又は運用に当たっては、附帯決議に至る立法趣旨、審議内容等を十分踏まえて適用すべきで、重要な判断基準となるものである。
 原処分庁は、本件調査において、中小企業者に対し過度の調査を行い、また僅少な金額についてまで課税しており、本件更正処分は、本件附帯決議に反している。また、本件法人税更正処分においては、大口又は悪質な不正計算が想定されると判断して7年間の調査を行った旨主張するが、平成10年9月期及び平成11年9月期の否認金額は零円であり、何をもって大口又は悪質と想定したのか明らかでないので、通則法第70条第5項の規定は適用できない。
(ハ)本件法人税賦課決定処分
 重加算税の賦課要件である仮装・隠ぺいについて、次のような裁判例があり、本件は前記(ロ)のAのとおりであるので仮装・隠ぺいに該当しない。
A 東京地方裁判所昭和53年8月24日判決(昭和43年(行ウ)第202号事業所得等不存在確認等請求事件)によれば、売上金額が会計帳簿に記載されていなかったとしても、原告会社が調査の際に売上代金の一部について自供している場合には、当該売上取引額全部について自供しなかった部分についてのみ隠ぺいがあったと認めるべきである旨判示している。
B 和歌山地方裁判所昭和50年6月23日判決(昭和45年(行ウ)第9号重加算税賦課決定取消請求事件)によれば、仮装・隠ぺいは、いずれも行為の意味を認識しながら故意に行うことを要するものと解すべきである旨判示している。
ロ 本件消費税更正処分について
(イ)調査手続
 本件消費税更正処分の調査手続は、前記イの(イ)の法人税の場合と同様の理由により、違法である。
(ロ)通則法第70条第5項の規定の適用
A 偽りその他不正の行為
 本件紹介手数料及び本件仕入割戻金については、前記イの(ロ)のAの法人税の場合と同様の理由により、不正、偽りによるものではなく、かつ、仮装・隠ぺいによるものでもない。
B 衆参両議院大蔵委員会の附帯決議
 前記イの(ロ)のBの法人税の場合と同様の理由により、本件消費税更正処分は本件附帯決議に反した不当な処分である。
 また、本件消費税更正処分により納付することとなった税額は1万円以下であり、原処分庁がいうように総合勘案して判断すべきであるとしても、その金額が高額とは到底考えられないので、通則法第70条第5項の規定は適用できない。

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(2)原処分庁

 原処分は、次のとおり適法であるから、審査請求をいずれも棄却するとの裁決を求める。
イ 本件法人税更正処分等について
(イ)調査手続
A 原処分庁は、本件調査を法人税法第153条、第154条及び消費税法第62条《当該職員の質問検査権》に基づき適法に行っており、その結果、通則法第24条《更正》、第68条《重加算税》第1項及び第70条第5項に該当する事実を把握したことから、適法に原処分を行ったものである。
 なお、請求人は本件調査着手時の違法性について主張するが、調査担当職員は、Gの自宅を訪れた際に、応答者が請求人の代表者である旨を確認するとともに、調査担当職員の所属、氏名を伝え、請求人の法人税及び消費税の調査で伺った旨を告げており、何ら違法性はない。また、質問検査権の範囲、程度、時期、場所等については、法律上特段の定めがなく、質問検査の必要があり、かつ、これと相手方の私的利益との衡量において、社会通念上相当な限度にとどまる限り、権限ある税務職員の合理的な選択にゆだねられていることから、調査担当職員がM税務署管内にあるGの自宅に調査に行くことができない旨の請求人の主張には理由がない。
B 本件調査については、あらかじめ請求人に対し日時・場所を通知して調査を開始していないことから、関与税理士に対して、税理士法第34条に規定する通知を行う必要はない。
(ロ)通則法第70条第5項の規定の適用
A 偽りその他不正の行為
(A)原処分庁は、請求人に対する平成11年9月期の調査において、請求人の取引先から本件公表外銀行預金口座に振込みが行われている事実を把握したこと及びG等の答弁から、大口又は悪質な不正計算が想定されると判断して、7年間の調査を行ったものである。
(B)原処分庁は、本件紹介手数料及び本件仕入割戻金が請求人の所得に帰属するにもかかわらず、請求人が本件紹介手数料及び本件仕入割戻金を本件公表外銀行預金口座に入金することなどにより、請求人の益金の額に算入していなかったことから、これらの請求人の行為が偽りその他不正の行為に該当するとして、本件更正処分を行ったものである。
B 衆参両議院大蔵委員会の附帯決議
 国会の附帯決議は、立法府の意見を表明したものとして尊重されるべきものであるが、それ自体が法律ではないことは明らかであり、これに基づいて課税処分が行われるべきではない。
 本件調査については、当初から7年間の調査を行ったものではなく、前記Aのとおり平成11年9月期の調査で把握された事実をもって、大口又は悪質な不正計算が想定されるとして、7年間の調査を行うこととしたものである。
(ハ)本件法人税賦課決定処分
 請求人は、請求人に帰属する本件紹介手数料及び本件仕入割戻金を本件公表外銀行預金口座に入金することなどにより、請求人の益金の額に算入せず、法人税を免れたものである。このことは、通則法第68条第1項に規定する重加算税の賦課決定処分の要件を満たすことは明らかであり、同項に基づいて行った本件法人税賦課決定処分は適法である。
ロ 本件消費税更正処分について
(イ)調査手続
 本件消費税更正処分の調査手続は、前記イの(イ)の法人税の場合と同様の理由により、適法である。
(ロ)通則法第70条第5項の規定の適用
A 偽りその他不正の行為
 前記イの(ロ)のAの法人税の場合と同様の理由により、適法である。
B 衆参両議院大蔵委員会の附帯決議
 前記イの(ロ)のBの法人税の場合と同様の理由により、適法である。

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3 判断

 本件は、原処分に係る調査手続の違法性の存否及び通則法第70条第5項の規定の適用について争いがあるので、以下審理する。

(1)本件法人税更正処分等について

イ 調査手続
(イ)認定事実
 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、請求人に対する本件調査の初日の状況は、次のとおりである。
A 調査担当職員は、請求人に対し事前通知を行うことなく、平成12年8月8日午前8時30分にGの自宅に臨場し、応対したGに対して、請求人の法人税及び消費税の調査に伺った旨を説明したところ、Gから午前中は新店舗の開業準備のための業者との打合せの予定が入っている旨の申出があったことから、午後1時に請求人のP市Q町の店舗(以下「N店」という。)に臨場することを約して、午前中の調査を中断した。
B そして、調査担当職員は、午後1時からN店において関与税理士の立会いの下、調査を再開した。
(ロ)請求人は、S税務署の職員である調査担当職員が、M税務署管内のGの自宅に調査に行ったことは、質問検査権の範囲を逸脱している旨主張する。
 ところで、法人税法第153条及び第154条には、法人の納税地の所轄税務署の当該職員は、法人税に関する調査について必要があるときは、法人や取引先等に対して質問し、又は検査することができる旨規定されている。また、消費税法では第62条に同様の規定がある。そして、法人や取引先等に対する質問検査の範囲、程度、時期、場所等のその実施の細目については実定法上これを定めた規定がなく、これらは、調査の目的に照らし、質問又は検査の必要性があり、かつ、調査の必要性と被調査者の私的利益との衡量において社会通念上相当な限度にとどまる限り、権限ある税務職員の合理的な選択にゆだねられているものと解されている。
 これを本件についてみると、前記(イ)のとおり、調査担当職員は、事前通知を行うことなく午前8時30分にGの自宅に臨場しているが、当審判所の調査によれば、調査担当職員がGの自宅に臨場したことについて、これを格別不相当とするような事情は認められず、かつ、調査担当職員は、Gの申出を受けて、午前中の調査を中断して午後に再開しており、調査の必要性と請求人の私的利益との衡量において社会通念上相当な限度を超える行為があったとは認められない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ハ)請求人は、関与税理士に対して調査の事前通知を行わなかったことは税理士法第34条に違反している旨主張する。
 ところで、税理士法第34条には、税務職員は、申告書を提出した者について、あらかじめその者に日時場所を通知してその帳簿書類を調査する場合において、税理士法第30条《税務代理の権限の明示》の規定による書面を提出している税理士があるときは、あわせて当該税理士に対しその調査の日時場所を通知しなければならない旨規定されている。
 これを本件についてみると、調査担当職員は、前記(イ)のAのとおり、本件調査に当たり請求人に対して事前通知を行っていないことが認められ、このため関与税理士に対しても事前通知をしなかったものであり、税理士法第34条に規定するあらかじめその者に日時場所を通知してその帳簿書類を調査する場合には当たらないと認められる。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ロ 通則法第70条第5項の規定の適用
(イ)認定事実
 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
A H社の取締役本部長Tは、異議申立てに係る調査の担当職員に対し、次のように申述している。
(A)平成2、3年ころから請求人との取引が始まった。
(B)貸衣裳については、契約書を作成するのが一般的であるが、以前は口頭での契約もあり、請求人との契約書は見当たらない。
(C)本件紹介手数料に係る契約は、特にG個人と契約した訳ではなく、当初から請求人との契約であった。また、請求人と契約を結び直したという記憶はない。
B Gは、当審判所に対し、本件公表外銀行預金口座は個人的な金銭の貸借等に使用するため開設したものであり、本件紹介手数料は個人に帰属すると認識していたため本件公表外銀行預金口座に振り込んでもらった旨答述している。
(ロ)偽りその他不正の行為
A 通則法第70条第1項は、更正処分は、その更正に係る国税の法定申告期限から3年を経過した日以後においてはすることができない旨規定し、さらに、同条第5項は、偽りその他不正の行為によりその全部若しくは一部の税額を免れた国税についての更正は、その更正に係る国税の法定申告期限から7年を経過する日まですることができる旨規定している。
 そして、ここにいう偽りその他不正の行為とは、税額を免れる意図の下に、税の賦課徴収を不能又は著しく困難ならしめるような何らかの偽計その他の工作を伴う不正な行為を行っていることをいい、例えば、名義の仮装、二重帳簿を作成する等して、法定の申告期限内に申告せず、税務署員の調査上の質問に対し虚偽の陳述をしたり、申告期限後に作出した虚偽の事実を呈示したりして、正当に納付すべき税額を過少にして、その差額を免れたことはもちろん納税者が真実の所得を隠匿し、それが課税の対象となることを回避するため、所得の金額をことさらに過少にした内容虚偽の申告書を提出し、正当な納税額を過少にして不足税額を免れる行為、いわゆる過少申告行為も、それ自体偽りの工作的不正行為といえるから、偽りその他不正の行為に該当すると解されている。
B 請求人は、本件紹介手数料及び本件仕入割戻金については、次のとおり、不正、偽りによるものではなく、かつ、仮装・隠ぺいによるものではない旨主張する。
(A)本件紹介手数料については、当初はG個人と契約していたことから、請求人の収入とは認識していなかった。
(B)本件仕入割戻金については、単純な計算誤りである。
 しかしながら、請求人は、前記1の(3)のハ及びニのとおり、本件紹介手数料を本件公表外銀行預金口座に振り込ませ、また、本件仕入割戻金を現金で受領し、これらを本件公表帳簿に記載していないことが認められる。
 また、本件紹介手数料に係る契約が当初はG個人とであったと認めるに足りる証拠はなく、前記(イ)のAの事実に照らすと、当該契約は、当初から請求人との間で行われたと認めるのが相当である。また、本件仕入割戻金については、前記1の(3)のニの実際に受領した金額と元帳記載額を対比してみると、単なる計算誤りとは到底認められるものではない。
 そうすると、請求人は、本件紹介手数料を本件公表外銀行預金口座に振り込ませていたほか、本件仕入割戻金を現金で受領するなどして、いずれも本件公表帳簿に記載せず隠ぺいし、これに基づき確定申告したものであり、請求人の当該行為は、真実の所得を隠匿し、それが課税対象となることを回避するため、所得金額を過少にした内容虚偽の申告書を提出し、正当な納税額を過少にして、その不足税額を免れる行為であり、偽りその他不正の行為に該当すると認めるのが相当である。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ハ)本件附帯決議
 請求人は、通則法第70条第5項の規定を適用して行われた本件更正処分は、本件附帯決議に反し違法である旨主張する。
 しかしながら、本件附帯決議は、原処分庁も主張するとおり調査に当たって尊重する趣旨のものであるところ、本件において、原処分庁は、請求人の取引先から本件公表外銀行預金口座に振込みが行われている事実等から、大口又は悪質な不正計算が想定されたので、本件各事業年度についての調査が必要であると判断したというものであり、その判断は相当と認められる。また、本件更正処分は、前記(ロ)のとおり、請求人の行為が通則法第70条第5項の規定における偽りその他不正の行為に該当するからなされたものであることが明らかであるから、本件更正処分に違法な点はなく請求人の主張は理由がない。
 以上のとおり、請求人の主張にはいずれも理由がなく、通則法第70条第5項の規定を適用してなされた本件法人税更正処分は適法である。
ハ 本件法人税賦課決定処分
 請求人は、本件は重加算税の賦課要件である仮装・隠ぺいに該当しないので、本件法人税賦課決定処分はその全部を取り消すべきである旨主張する。
 ところで、通則法第68条第1項は、国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときに重加算税を課する旨規定している。
 また、加算税制度の趣旨は、納税義務違反に対して一種の行政上の措置を講じることにより、納税義務違反の発生を防止し、納税申告の適正を確保して、申告納税制度の秩序を維持するところにある。
 したがって、加算税の一種である重加算税は、脱税者の不正行為の反社会性又は反道徳性に対して科される刑事罰とは異なり、納税義務違反が事実の隠ぺい又は仮装という不正な方法に基づいて行われたと判断された場合に違反者に対して特に重い経済的負担を課すための行政上の措置であるといえる。
 このような制度の趣旨にかんがみれば、重加算税を課すためには、課税標準等又は税額等の計算の基礎となる事実の全部又は一部の隠ぺい又は仮装があり、その隠ぺい又は仮装の行為を原因として過少申告の結果が発生したものであれば足り、それ以上に、申告に際し、納税者において過少申告を行うことの認識を有していることまで必要とするものではないと解すべきである。
 そして、ここにいう事実を隠ぺいするとは、課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実について、これを隠ぺいし又は脱漏することをいい、事実を仮装するとは、所得、財産又は取引上の名義等に関しあたかもそれが事実であるかのように装う等事実をわい曲することをいうものと解される。
 これを本件についてみると、前記ロの(ロ)のBのとおり、請求人は、本件紹介手数料を本件公表外銀行預金口座に振り込ませていたほか、本件仕入割戻金を現金で受領するなどして、いずれも本件公表帳簿に記載せず隠ぺいし、これに基づいて申告したことが認められる。このような請求人の行為は、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、隠ぺいしたところに基づき納税申告書を提出していたときに該当する。
 したがって、通則法第68条第1項の規定に基づき、隠ぺいの事実に係る部分の税額を計算の基礎としてなされた本件法人税賦課決定処分は適法である。

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(2)本件消費税更正処分について

イ 調査手続
 請求人は、本件消費税更正処分に係る本件調査は、前記2の(1)のイの(イ)の法人税の場合と同様の理由により違法である旨主張するので、以下審理する。
(イ)調査担当職員が、Gの自宅に調査に行ったことに違法がないことについては、前記(1)のイの(ロ)のとおりである。
(ロ)調査担当職員が関与税理士に対して本件調査の事前通知をしなかったことに違法がないことについては、前記(1)のイの(ハ)のとおりである。
したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ロ 通則法第70条第5項の規定の適用
 請求人は、本件紹介手数料及び本件仕入割戻金を申告しなかった行為は、通則法第70条第5項に規定する偽りその他不正の行為に該当しないから同規定の適用はない旨及び本件消費税更正処分は本件附帯決議にも反し違法である旨主張するので、以下審理する。
(イ)請求人が本件紹介手数料及び本件仕入割戻金を申告しなかった行為が通則法第70条第5項に規定する偽りその他不正の行為に該当することについては、前記(1)のロの(ロ)のとおりである。
(ロ)本件消費税更正処分が本件附帯決議に反し違法でないことについては、前記(1)のロの(ハ)のとおりである。
したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
以上のとおり、請求人の主張にはいずれも理由がなく、通則法第70条第5項の規定を適用してなされた本件消費税更正処分は適法である。
(3)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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