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(平15.1.15裁決、裁決事例集No.65 67頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)の長男名義の土地建物を譲渡したことにより生じた損失が請求人に帰属するか否かを争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成11年分の所得税について、確定申告書に別表1の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告した。
ロ 請求人は、別表2に記載する土地建物(以下「本件物件」という。)の譲渡に係る分離長期譲渡所得の損失額50,695,700円(以下「本件損失額」という。)が申告漏れであるとして、平成13年2月8日に別表1の「更正の請求」欄のとおり更正の請求をしたところ、原処分庁は、同年10月29日付で、更正をすべき理由がない旨の通知処分(以下「本件通知処分」という。)をした。
ハ 請求人は、本件通知処分を不服として、平成13年11月24日に異議申立てをしたところ、異議審理庁が平成14年2月22日付で棄却の異議決定をしたので、同年3月26日に審査請求をした。

(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所が調査したところによっても、その事実が認められる。
イ G(以下「G」という。)は、請求人の長男で、H病院の勤務医である。
 なお、Gの居住地は、後記ロの本件物件購入時には、E市○○町○番○号であったが、平成10年1月ころにF市○○町○番○○−○○号に、平成11年9月ころにV市○○町○番地○にそれぞれ移転し、現在に至っている。
ロ 本件物件の取得
(イ)平成2年8月13日付で作成された不動産売買契約書(以下「本件売買契約書」という。)には、買主をG、売主をI有限会社として、本件物件を142,000,000円で売買する旨の記載がある。
(ロ)平成2年8月13日付で作成された金銭消費貸借契約書(以下「本件消費貸借契約書」といい、本件消費貸借契約書に基づく借入金を「本件借入金」という。)には、次のとおりの記載がある。

〔1〕契約者・・・・貸主株式会社J(以下「J銀行」という。)
 借主G
〔2〕借入金額・・・150,000,000円
〔3〕利率・・・・・7.6%

なお、本件借入金を返済するため、J銀行K支店のG名義の普通預金口座(口座番号○○○○。以下、この普通預金口座を「本件借入返済口座」という。)が開設されている。
また、借入れに当たって、J銀行K支店に提出した平成2年7月31日付のG名義の与信申請書の「資金需要の原因」欄には、将来の診療所開業に備えて資産形成目的のために収益マンションを購入する旨の記載がある。
(イ)本件物件に係る登記簿謄本には、次のとおりの記載がある。
A 甲区欄
〔1〕登記の目的・・・・・・・・・所有権移転
〔2〕受付年月日(受付番号)・・平成2年8月13日(XXX7号)
〔3〕原因・・・・・・・・・・・平成2年8月13日売買
〔4〕権利者その他の事項・・・・所有者 G
B 乙区欄
〔1〕登記の目的・・・・・・・・・根抵当権設定
〔2〕受付年月日(受付番号)・・平成2年8月13日(XXX8号)
〔3〕原因・・・・・・・・・・・平成2年8月13日設定
〔4〕権利者その他の事項
・極度額・・・・・・・・・150,000,000円
・債権の範囲・・・・・・・銀行取引、手形債権、小切手債権
・債務者・・・・・・・・・G
・根抵当権者・・・・・・・J銀行
(ロ)本件物件の賃貸料収入の受入口座として、株式会社L銀行M支店のG名義の普通預金口座(口座番号○○○○。以下、この普通預金口座を「本件賃料受入口座」という。)が開設されている。
(ハ)株式会社Nが発行した平成2年8月13日付の領収証には、仲介手数料として4,120,000円を領収した旨の記載があり、領収証のあて名は「G」である。
(ニ)O司法書士が発行した平成2年8月13日付の領収書には、登記申請手続費用等として2,821,000円を領収した旨の記載があり、領収書のあて名は「G」である。
ハ 本件物件の管理・運営
(イ)委託契約
A 平成2年9月ころに契約があったと思われるマンション管理委託契約書には、所有者をG、管理者を株式会社Pとして、委託契約が締結された旨の記載がある。
B 平成8年10月31日付の賃貸住宅入居管理委託契約書には、所有者をG、管理者を株式会社Qとして、委託契約が締結された旨の記載がある。
(ロ)不動産賃貸料収入の状況
 本件物件の賃貸料収入は、すべて本件賃料受入口座に入金されている。
(ハ)確定申告
 平成2年分から平成11年分までのGの所得税の確定申告において、本件物件に係る不動産所得の申告がある。
ニ 本件物件の譲渡
(イ)本件物件に係る登記簿謄本には、平成11年10月1日の売買を原因として、所有権が、Gから、請求人が代表取締役となっている株式会社R(以下「R社」という。)に移転した旨の記載がある。
(ロ)平成11年8月1日から平成12年7月31日までの事業年度に係る法人税の確定申告書に添付されたR社の決算報告書の「固定資産の内訳書」には、平成11年10月1日に本件物件の土地部分を31,500,000円、建物部分を56,500,000円で、それぞれGから購入した旨の記載がある。
ホ Gは、請求人を相手として、S簡易裁判所に対して、平成12年11月29日に即決和解を申し立て、平成13年1月19日に請求人とGとの間で和解(以下「本件和解」という。)が成立した。
 なお、本件和解の調書には、要旨次のとおりの記載がある。
(イ)請求の原因及び争いの実情
 請求人は、本件物件及び本件借入金の名義がGである以上、請求人がG名義の当該借入金を返済したことは、Gに対する貸付けに当たるとして、金銭消費貸借契約の締結を要求する。
 しかしながら、請求人がGの名義で本件物件の購入から譲渡に至るまでの一切の行為を行ったものであるから、実質的な本件物件の取得者及び本件借入金の借入者は請求人である。
 したがって、請求人がG名義の本件借入金を返済したとしても、請求人に対するGの債務は存在しない。
(ロ)和解条項
A 請求人及びGは、請求人が平成11年10月1日にJ銀行から借り入れた62,000,000円の消費貸借契約上の債務に関し、Gと請求人との間には何らの債権債務がないことを相互に確認する。
B 請求人は、本件物件をG名義で購入したことにより生ずる租税負担義務を負う。

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2 主張

(1)請求人の主張

 本件損失額が請求人に帰属することは、次の理由により明らかであるから、原処分を全部取り消すべきである。
イ 本件通知処分
(イ)本件物件は、請求人がG名義で購入したものである。売買契約の締結に至る一連の行為は、すべて請求人が一人で行っており、本件売買契約書の買主欄に署名したのも請求人である。
(ロ)本件消費貸借契約書に署名をしたのはGであるが、同人は請求人に言われるままに署名したものである。本件物件及び本件借入金の名義はGであるが、Gは請求人に名前を貸しているだけである。
(ハ)請求人は、本件物件の購入と同時に本件借入返済口座及び本件賃料受入口座を開設し、本件物件を管理・運営しており、Gは、本件物件の管理・運営に一切関与していない。
 なお、平成2年8月から平成5年12月までは、本件借入金の利息及び不動産に対する必要経費の額が賃貸料収入額より多かったため、請求人が資金を補充しており、平成6年1月以降は、賃貸料収入額が本件借入金の利息及び不動産に対する必要経費の額より多くなったため、請求人がその差額金を費消していた。
 また、本件借入返済口座及び本件賃料受入口座間の資金移動は、請求人の指示により、次男のTが行っていた。
(ニ)本件物件に係る不動産所得の確定申告については、請求人がU会計事務所に依頼したが、同事務所からG名義で申告するよう指導されたことから、請求人がGから同人の源泉徴収票を取り寄せたものであり、Gにおいては、自分の所得であるという認識はない。
 なお、Gは、確定申告書に署名、押印をしておらず、本件物件に係る不動産所得に対する所得税及び住民税(以下「所得税等」という。)は、請求人が負担した。
(ホ)平成11年9月ころ、Gは、自宅を購入するに当たり、本件借入金がJ銀行K支店に残っていることを知ったことから、請求人に対して、本件借入金の名義を請求人名義へ変更することを要請した。
 そのため、本件物件の実質所有者である請求人は、平成11年10月1日に本件物件をR社に対して88,000,000円で譲渡し、本件借入金の弁済に当該譲渡代金及びJ銀行から借り入れた62,000,000円を充てた。
(ヘ)Gは、本件借入金はもともと請求人の債務であり、上記債務62,000,000円が自己の負うべき債務でないことを立証、確定させるため、平成12年11月29日にS簡易裁判所へ即決和解を申し立てたところ、平成13年1月19日付で本件和解が成立し、和解調書が作成された。
 本件和解は、本件物件の購入から譲渡に至るまで、請求人の意思でしたことを踏まえたものであり、本件物件の実質所有者が請求人であればこそ、「請求人は、本件物件をG名義で購入したことにより生ずる租税負担義務を負う。」ことになるのである。
ロ 異議審理庁の調査
 平成14年2月22日付でされた異議決定には、重大な事実誤認と錯誤があるので、これを取り消した上、更正の請求を認容すべきである。

(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 本件通知処分
(イ)請求人は、上記(1)のイの(イ)ないし(ホ)に係る各手続(以下「本件手続」という。)を自らが行ったことから、本件物件の実質所有者は請求人である旨主張する。
 しかしながら、〔1〕本件物件がG名義であったこと、〔2〕本件物件の取得資金は、GがJ銀行K支店から借り入れ、また、本件賃料受入口座に入金された金員で本件借入金を弁済していたこと及び〔3〕Gは、本件物件から生じる不動産所得を自己の所得であると自認した上で確定申告していたと認められることを併せ考えると、Gは、本件物件の法律的な権利者であるとともに、経済的・実質的な収益の享受者であることが明らかであり、仮に、請求人が本件手続を行っていたとしても、Gが真実の権利者と認められるので、請求人の主張には理由がない。
(ロ)なお、請求人は、上記(1)のイの(ニ)のとおり、本件物件に係る不動産所得について、Gには自己の所得であるという認識はない旨主張するが、当該不動産所得を計上した自らの確定申告書に署名、押印して、所轄の税務署に提出している以上、Gは確定申告の内容を自認していたと認めるのが相当である。
(ハ)請求人は、上記(1)のイの(ヘ)のとおり、本件和解によって本件物件の所有権が請求人に帰属確定したものである旨主張するが、本件和解によって合意された事項は、〔1〕請求人とGの間には債権債務がないこと及び〔2〕請求人が本件物件の租税負担義務を負うことのみであり、本件物件の所有者が請求人であるとした和解ではない。
ロ 異議審理庁の調査
 請求人は、異議決定には重大な事実誤認と錯誤がある旨主張するが、異議調査手続における違法又は不当は原処分の取消事由に当たらないので、原処分の取消しを求める審査請求において、異議調査手続の違法性を理由とすることはできない。

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3 判断

(1)本件通知処分

イ 原処分関係資料及び当審判所が調査したところによれば、次の事実が認められる。
(イ)請求人は、異議審理庁に対し、要旨次のとおり申述した。
A 請求人がG名義で本件物件を購入したのは、請求人が多くの不動産を所有していることから、将来の相続税対策として行ったものである。
B 本件物件に係る不動産所得をG名義で確定申告したのは、本件物件の名義がGであり、賃貸料も本件賃料受入口座に振り込まれていたためであるが、実際に所有していたのは請求人であるから、請求人が所得税等を負担していた。
C Gが本件借入金の名義を請求人に変更するように要請したのは、Gが、V市に自宅を購入するため、J銀行に借入れを申し込んだ際、本件借入金の存在を聞いたからである。
 請求人は、Gから「親父が勝手にしたことだから、早いこときっちりしてくれ。」と言われたため、本件物件をR社に譲渡する方法を考えた。
(ロ)請求人は、当審判所に対し、要旨次のとおり答述した。
A 本件売買契約書は、契約日の約1週間前に、請求人が代表者である株式会社Wの事務所において、請求人が署名し、事前にGから預かっていた印鑑を押印して作成したもので、当該売買契約の締結に当たり、Gは立ち会っていない。
B 本件消費貸借契約書については、Gが、J銀行K支店において、住所、借主及び借入金額を記入し、押印した。
C Gの平成11年分の所得税の確定申告書は、請求人の承認の上で、U会計事務所の職員がGの住所、氏名を記入し、請求人が押印して提出した。
D 本件損失額をGの確定申告に含めなかったのは、Gが本件物件は自己のものでないと言ったからであり、請求人の確定申告に含めなかったのは、U会計事務所に相談したところ、検討するので待ってほしいと言われたからである。
ロ ところで、申告納税制度は、納税者自身の判断と責任において課税標準等及び税額等を計算して申告を行い、それによって税額が確定する制度であり、国税通則法(以下「通則法」という。)第23条《更正の請求》第1項は、このような納税申告の性質にかんがみ、その申告内容に過誤があることを理由に更正の請求をなし得る場合を限定的に列挙している。
 また、通則法第23条第3項は、更正の請求をしようとする者は、その請求に係る更正前の課税標準等又は税額等、当該更正後の課税標準等又は税額等、その更正の請求をする理由、当該請求をするに至った事情の詳細その他参考となるべき事項を記載した更正の請求書を税務署長に提出しなければならない旨規定している。
 これらのことからすると、申告納税制度においては、自ら計上記載した申告書をいったん提出した以上、その申告書に記載された所得金額が真実に反するものであるとの立証責任は、更正の請求をする者にあると解される。
ハ さらに、所得税法第12条《実質所得者課税の原則》は、資産から生ずる収益の法律上帰属するとみられる者が単なる名義人であって、その収益を享受せず、その者以外の者がその収益を享受する場合には、その収益は、これを享受する者に帰属するものとして、その帰属する者に所得税を課税する旨規定している。
 また、資産から生ずる収益を享受する者がだれであるかは、その収益の基因となる資産の真実の権利者がだれであるかにより判定し、それが明らかでない場合には、その資産の名義者が真実の権利者であるものと推定するのが相当であると解される。
 そうすると、本件損失額の帰属の判定に当たっては、本件物件の真実の所有者がだれであるかを明らかにする必要があるので、前記1の(3)の基礎事実及び当審判所が認定した事実に基づいて判断する。
ニ 本件物件については、その登記、本件売買契約書、本件消費貸借契約書の名義がいずれもGとなっている上、本件売買契約書にはGの実印が押印されていること、本件消費貸借契約書は、E市に居住していたGがわざわざJ銀行K支店に赴いて作成したこと、Gが送付した源泉徴収票に基づいて本件物件から生じる不動産所得が確定申告されていることからすると、Gが本件物件の実質所有者であることが基本的に推認できる。
ホ これに対して、請求人は、請求人が実質所有者であるとして、次のとおり主張するので、以下検討する。
(イ)請求人は、上記2の(1)のイの(イ)のとおり、実質的に本件物件を購入することを決定したのは請求人であり、請求人が本件売買契約書に署名、押印した旨主張する。
 しかしながら、前記イの(ロ)のAのとおり、請求人は、事前にGから印鑑を預かった旨答述しており、また、本件売買契約書の印鑑が実印であることからすると、請求人がGから売買契約の締結を委任された可能性も十分にうかがわれ、請求人が本件売買契約書に署名、押印したからといって、請求人が本件物件を購入したと認めることはできない。
 また、請求人は、前記イの(イ)のAのとおり、多くの不動産を所有しているため、将来の相続税対策として、G名義にしたものである旨申述するが、前記1の(3)の基礎事実ロの(イ)ないし(ハ)のとおり、J銀行のG名義の与信申請書には、将来の診療所開業に備えて、資産形成目的のための収益マンションを購入する旨記載されていること、G名義の本件売買契約書及び本件消費貸借契約書が存在すること並びに本件物件がG名義で登記されていることの各事実からすると、請求人の申述は、にわかに信用することはできない。
(ロ)請求人は、上記2の(1)のイの(ロ)のとおり、本件消費貸借契約書へのGの署名は請求人の指示によるものであり、実質的にJ銀行から借り入れたのは請求人である旨主張する。
 しかしながら、請求人は、前記イの(ロ)のBのとおり、Gの記入、押印はJ銀行K支店においてなされた旨答述しているところ、前記1の(3)の基礎事実イのとおり、当時E市に住んでいたGが、本件消費貸借契約書を作成するためわざわざJ銀行K支店まで赴いて記入、押印したというのであるから、当該金銭消費貸借契約は、Gの意思に基づき締結されたものと推認できる。
 また、前記1の(3)の基礎事実ロの(ホ)及び(ヘ)のとおり、本件物件の仲介手数料の領収証及び登記申請手続費用等の領収書のあて名が「G」であり、本件借入金から本件物件の購入代金、仲介手数料及び登記申請手続費用等が支払われていることからすると、J銀行から融資を受けたのはGであるとするのが相当であり、請求人の主張は採用することはできない。
(ハ)請求人は、上記2の(1)のイの(ハ)のとおり、本件物件を管理・運営し、所得税等を負担していた旨主張し、当審判所に対して、これらを証明するものとして、〔1〕取引明細検索普通預金当日移動口座明細表(以下「普通預金明細表」という。)、〔2〕預金移動明細と題する資料(以下「預金移動明細」という。)、〔3〕Gの平成6年度市民税・県民税通知書写し並びに〔4〕請求人の妻が作成したとする平成3年度から平成6年度までの(個人)税金一覧表及び覚え書帳と題する資料を提出した。
 そこで、当審判所が、これらについて調査したところ、次のとおりである。
A 上記〔1〕の普通預金明細表は、Y信用金庫Z支店の請求人名義に係る普通預金口座の移動状況明細表のコピーであり、上記〔2〕の預金移動明細は、請求人が作成したもので、平成3年6月3日から平成9年9月14日までの請求人名義のY信用金庫Z支店の普通預金口座、J銀行K支店の当座預金と記載している二つの口座並びにG名義の本件賃料受入口座及び本件借入返済口座で、それぞれの口座の入金額及び出金額を日付ごとに取りまとめたものである。
 なお、上記〔1〕及び〔2〕の資料を検討すると、預金移動明細に記載されたY信用金庫Z支店欄の出金額については、普通預金明細表でその推移状況の確認ができるが、預金移動明細では、本件借入返済口座に入金されたとする金員が、どの口座から出金され、当該口座に入金されているかを確認することはできない。
B 上記〔3〕のGの平成6年度市民税・県民税通知書写しは、X市長からGあてで本件物件の所在地に送付されたもので、請求人の作成した住民税計算書がこれに添付されており、当該住民税計算書には、Gの平成6年度の住民税について、給与所得分と不動産所得分に区分して算定した金額がそれぞれ記載されている。
 また、上記〔4〕の請求人の妻が作成したとする平成3年度から平成6年度までの(個人)税金一覧表及び覚え書帳と題する資料には、所得税等の金額が記載されている。
 しかしながら、所得税等について、その原資、負担者及び負担金額等を確認する書類がないので、上記の請求人が提出した〔3〕及び〔4〕の資料からは、請求人が当該所得税等を負担していた事実を推認することができない。
C そうすると、上記の請求人が提出した資料は、請求人が本件物件を管理・運営し、所得税等を負担していたという事実を推認するに足りる証拠とはいえず、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ニ)なお、請求人は、請求人が本件賃料受入口座及び本件借入返済口座の管理・運用を指示していた旨主張する。
 しかしながら、本件物件の賃貸斡旋業務及び賃貸入居管理業務は、前記1の(3)の基礎事実ハの(イ)のとおり、株式会社Q等に委託されており、本件賃料受入口座及び本件借入返済口座の入出金事務は、請求人の指示により次男のTがしていたとしても、請求人は、単に金員を移動していたものにすぎず、このことをもって請求人が本件物件を管理・運用していたと認めることはできない。
(ホ)請求人は、上記2の(1)のイの(ニ)のとおり、本件物件に係る不動産所得について、G自身には自己の所得であるとの認識がない旨主張する。
 しかしながら、所得税の申告は、納税者自身が課税標準等及び税額等の基礎となる要件事実を確認し、租税債務の内容を具体的に確定して税務署長に通知する公法行為であり、Gが送付した源泉徴収票に基づいてGの所得税の確定申告書が提出されている以上、Gが収益を享受して申告したものと認めるのが相当である。
 また、勤務医であるGが、請求人から言われるままに、毎年、理由もなく自己の源泉徴収票を請求人に送付していたとは考えられないことから、Gにあっては、送付した源泉徴収票がどのように使用されるかを認識した上、請求人に送付したものと認められる。
 さらに、本件物件の賃貸料が本件賃料受入口座に振り込まれ、本件借入金の返済に充当されていたこと及びGが本件物件に係る不動産所得について、本件物件を取得してから譲渡するまで、毎年、確定申告書を提出していたことからも、Gが本件物件に係る収益を享受していたと認められる。
 したがって、この点に関する請求人の主張は採用できない。
(ヘ)請求人は、上記2の(1)のイの(ホ)のとおり、平成11年9月ころ、Gが本件借入金のことを知って本件借入金の名義を請求人に変更するよう要請したので、本件物件の実質所有者である請求人が、本件物件をR社に譲渡した旨主張する。
 しかしながら、前記イの(ロ)のBのとおり、請求人が、G自らが本件消費貸借契約書に記入、押印した旨答述していることからすると、Gが本件借入金の存在を知らなかったと認めることはできないから、Gは、請求人が主張するように、本件借入金の存在を知ったために本件借入金の名義をG名義から請求人名義に変更することを要請したものではなく、むしろ、自己名義の本件借入金を消滅させることを目的として、請求人に本件物件を処分することを要請したものと推認するのが相当である。
 そうすると、請求人は、本件物件を処分したいというGの要請に基づいてR社に本件物件を譲渡することを考え、GがJ銀行から借り入れた150,000,000円を弁済したものであるから、請求人名義の借入金62,000,000円は、Gの残債務を請求人が肩代りしたものにすぎないといわざるを得ない。
 また、本件物件は、登記簿謄本にはGからR社に所有権が移転した旨、R社の決算報告書の固定資産の内訳書にはR社がGから購入した旨記載されており、請求人が本件物件を譲渡したことを推認するに足りる証拠はないから、請求人が本件物件をR社に譲渡したと認めることはできない。
 したがって、この点に関する請求人の主張は採用できない。
(ト)請求人は、上記2の(1)のイの(ヘ)のとおり、本件物件の実質所有者が請求人であることを踏まえて、本件和解が成立している旨主張する。
 しかしながら、前記1の(3)の基礎事実ニ及びホのとおり、〔1〕本件和解は、譲渡成立から1年以上経た平成12年11月29日にGが申し立て、平成11年分の所得税の更正の請求期限の直前である平成13年1月19日に、当事者間に争いのない即決和解として成立していること及び〔2〕本件和解条項では、所有権の帰属についての記述はなく、J銀行から借り入れた62,000,000円を請求人が負担すること及び本件物件に係る税金を請求人が負担することが請求人とGとの間で確認されたものにすぎないことが認められる。
 そうすると、本件和解は、単に、請求人がGの債務を肩代わりすべくJ銀行から借り入れた62,000,000円の消費貸借契約上の債務に関して、Gと請求人との間には何らの債権債務がないことを相互に確認したものといわざるを得ない。
 したがって、本件和解により本件物件の真実の所有者が請求人であると認めることはできず、この点に関する請求人の主張は採用できない。
ヘ 以上のとおり、本件物件はGの所有と認められることから、本件損失額はGに帰属することとなる。
 したがって、更正の請求には理由がないから、本件通知処分は適法である。

(2)異議審理庁の調査

 請求人は、異議決定には重大な事実誤認と錯誤があることを理由として、原処分の取消しを求めるが、原処分後の事情である異議審理手続における違法性は、原処分を違法とする理由にならないから、この点に関する請求人の主張は採用できない。
(3)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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