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(平15.4.9裁決、裁決事例集No.65 84頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が外国法人の株主として受けた当該法人の子会社の株式の分配が、所得税法(平成12年法律第97号による改正前のもの。以下同じ。)第24条《配当所得》第1項に規定する「利益の配当」に該当するか否か及び過少申告加算税の賦課決定処分の適否を主たる争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成12年分の所得税について、確定申告書(以下「本件確定申告書」という。)に別表1の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告した(以下、この申告を「本件申告」という。)。
ロ 原処分庁は、これに対し、外国税額控除の額等の計算に誤りがあるとして、平成13年8月28日付で、別表1の「更正処分等」欄のとおりの更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
ハ 請求人は、これらの処分を不服として、平成13年9月17日に異議申立てをしたところ、異議審理庁が同年12月17日付で棄却の異議決定をしたので、平成14年1月15日に審査請求をした。

(3)関係法令等

イ 所得税法第24条第1項は、配当所得とは、法人から受ける利益の配当、剰余金の分配(出資に係るものに限る。)、基金利息及び公社債投資信託以外の証券投資信託の収益の分配(以下「配当等」という。)に係る所得をいう旨規定している。
ロ 所得税基本通達24−1《利益の配当又は剰余金の分配に含まれるもの》は、所得税法第24条第1項に規定する「利益の配当、剰余金の分配(出資に係るものに限る。)」には、法人が確定した決算において利益又は剰余金の処分により配当又は分配をしたものだけでなく、株主(出資者を含む。)に対しその株主である地位に基づいて供与した経済的な利益が含まれる旨定めている。
ハ 所得税法第25条《配当等の額とみなす金額》第1項は、法人の株主等が当該法人から、当該法人の資本若しくは出資の減少又は株式の消却等により金銭その他の資産の交付を受けた場合において、その金銭の額及び金銭以外の資産の価額の合計額が当該法人の資本等の金額のうちその交付の基因となった株式に係る部分の金額を超えるときは、この法律の規定の適用については、その超える部分の金額は、利益の配当又は剰余金の分配の額とみなす旨規定している。
ニ 所得税法第36条《収入金額》第1項は、その年分の各種所得の金額の計算上収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、その年において収入すべき金額(金銭以外の物又は権利その他経済的な利益をもって収入する場合には、その金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額)とする旨、また、同条第2項は、同条第1項の金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額は、当該物若しくは権利を取得し、又は当該利益を享受する時における価額とする旨規定している。
ホ 所得税法第95条《外国税額控除》第1項は、居住者が各年において外国所得税を納付することとなる場合には、同法第89条から第92条まで(税率及び配当控除)の規定により計算したその年分の所得税の額のうち、その年において生じた所得でその源泉が国外にあるものに対応するものとして政令で定めるところにより計算した金額(以下「控除限度額」という。)を限度として、その外国所得税の額をその年分の所得税の額から控除する旨規定している。
ヘ 所得税法施行令第222条《控除限度額の計算》第1項は、所得税法第95条第1項に規定する控除限度額は、同項の居住者のその年分の所得税の額に、その年分の所得総額のうちにその年分の国外所得総額の占める割合を乗じて計算した金額とする旨規定している。

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(4)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、G証券株式会社(以下「G証券」という。)が請求人に送付したカナダ所在法人H(以下「H社」という。)の株式に係る「外国証券のお知らせ」と題する書面(以下「本件お知らせ書面」という。)を本件確定申告書に添付した。
 本件お知らせ書面には、要旨次のとおりの記載がある。
(イ)外国証券についての明細

項目内容
銘柄名H社
通貨カナダドル
現地支払日平成12年5月8日
支払区分株式分配
みなし配当

(ロ)支払明細

項目内容
数量4,200株
1株当たりの配当金・割当率など0.785193
国内源泉徴収税額20%8,277,885円
割当株式J社6,595株

(ハ)配当金・分配金などを確定申告する際の金額等

項目内容
源泉徴収基準日源泉徴収レート
平成12年5月8日71.52円
課税対象金額41,389,428円
源泉徴収税額8,277,885円
外国税額控除の対象となる金額

(ニ)注記
A J社(以下「J社」という。)は、平成12年5月8日に株式分割(1株を2株に分割)を実施した。上記支払明細の割当株式6,595株は、分割後の数量を表示している。
B J社株の分割に係る源泉徴収税額の算出方法は、次のとおりである。
J社株数×確定日(平成12年5月5日)終値×源泉徴収レート×税率
 (6,595株 × 87.75カナダドル × 71.52円 × 20%)
ロ 本件確定申告書における外国税額控除の額は、平成12年分の所得税の額(○○○○円)に、同年分の所得総額(○○○○円)のうちに同年分の国外所得総額(43,646,367円)の占める割合を乗じて計算した金額13,306,063円、すなわち、上記1の(3)のホ及びヘに述べた外国税額控除の控除限度額の計算と同様に計算した額である。
 なお、請求人は、本件お知らせ書面に係る収入については、上記イの(ハ)の内容のとおり、配当所得として本件申告をした。

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2 主張

(1)請求人

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 本件更正処分について
(イ)請求人は、本件お知らせ書面に記載の株式分配を配当所得の収入金額に算入して本件申告をしたが、当該株式分配は、株式配当ではなく、所得とはならないものである。
(ロ)H社の株主である請求人が、同社から同社が所有していたJ社の株式分配を受けたことは事実であるが、カナダの裁判所が、H社の株主に対する当該株式分配は「投資した水準を維持する措置」であると判決に示しているとおり、H社が所有していたJ社の株式をH社の株主へ返還したにすぎない。すなわち、請求人も含めH社の株主は、当該株式分配前には、H社を通じてJ社を間接的に所有していたが、当該株式分配後は、J社を直接所有することに変わっただけであるから、当該株式分配は配当にも所得にも当たらない。
 カナダにおいては、当該株式分配を受けたH社の株主は、何らカナダ連邦所得税が課税されていないし、J社の株主については、カナダだけではなくアメリカ合衆国(以下「米国」という。)においても課税しないとされている。
 これらの判断は、当該株式分配の目的が、両社の経営上の独立性を確保するための経営戦略上の措置であることからしても当然である。
 また、当該株式分配は、企業分割に伴う株式分配であるから、日本国内の法令である所得税法第24条に規定する配当にも、同法第25条に規定するみなし配当にも該当しない。
 したがって、請求人がJ社の株式を受け取ったという表面的な事由だけを捉えて、みなし配当の規定を単純に適用して行った本件更正処分は、日本国内の法令に反するだけでなく、カナダの裁判所の判断をも無視した違法な処分である。
(ハ)仮に、H社からのJ社の株式分配が配当所得に当たると解しても、請求人がH社から分配を受けたJ社の株式の数量は、6,595株ではなく、その2分の1の3,297株である。
 H社の株式を4,200株所有していた請求人は、1株につき0.785193株の割合で行われたJ社の株式分配とほぼ同時にJ社が1対2の割合で株式分割をしたため、1株につき1.570386株、すなわち6,595株の株式分配を受けたように見かけ上なっているにすぎない。
ロ 本件賦課決定処分について
(イ)請求人は、例年、所得税の確定申告に当たり、所轄税務署の職員に、外国税額控除の計算の仕方などについての指導を受けて申告しており、平成12年分の所得税の確定申告においても、原処分庁所属の職員の指導を受けて申告書を提出している。しかも、原処分庁は、当該申告書を収受し、その内容を認めた上で申告どおり税金を還付しているにもかかわらず、原処分庁は、本件申告は過少申告であったとして本件更正処分及び本件賦課決定処分を行った。
 以上のとおり、過少申告となった原因は、原処分庁所属の職員の知識不足と不適切な指導にあることは明らかであるから、その責任は税務職員にあり、請求人にはない。
(ロ)さらに、本件更正処分は、H社によるJ社の株式分配が所得税法第24条に規定する配当所得に該当するとしてなされたものであるにもかかわらず、原処分調査時(平成13年8月3日)及び異議調査時(平成13年10月4日)において、各調査担当職員は、当該株式分配は同法第25条に規定する「みなし配当」に該当する旨繰り返し説明するなど、本件申告後も同様の説明誤りを犯している。
(ハ)上記のとおり、請求人には本件申告が過少申告となったことの責任がないにもかかわらず、原処分庁が本件賦課決定処分を行ったことは違法である。

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(2)原処分庁

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求をいずれも棄却するとの裁決を求める。
イ 原処分庁の調査によれば、上記1の(4)の各事実のほか、次の事実が認められる。
(イ)請求人は、H社が投資家向けに作成した「H社によるJ社株式の分配に関する質問と回答」と題する書面(以下「本件質問回答書」という。)を異議申立書に添付しており、当該書面には、要旨次の記載がある。
A J社株式の分配は、平成12年5月1日に発効した。
B J社株式の分配は、H社のすべての株主に対して一定の割合で行われている。
C H社の株主には、平成12年5月5日に保有する同社の株式1株につき、J社の株式1.570386株が分配された(以下、当該株式分配を原処分庁の主張において「本件J社株式分配」という。)。
(ロ)H社の平成12年第2四半期報告書には、本件J社株式分配は、同社の利益剰余金を原資として行われている旨記載されている。
ロ 本件更正処分について
(イ)本件J社株式分配の配当所得の該当性について
A 本件J社株式分配は、本件質問回答書に記載されているとおり、一定の時期におけるH社のすべての株主に対して行われていることから、請求人においても、請求人のH社の株主としての地位に基づいて分配されたものと認められ、また、本件J社株式分配に当たって、H社は同社の利益剰余金を原資として行っていることから、H社が同社の株主に対して利益の分配を行ったことになる。したがって、本件J社株式分配は配当所得に該当する。
B 請求人は、カナダの裁判所がH社によるJ社の株式分配について連邦所得税を課税しないとの判断をしているのであるから、これを遵守すべきである旨主張する。
 しかしながら、このカナダの裁判所の判断は、カナダ又は米国の株主に対する本件J社株式分配について判断したものであると思料されるところ、請求人は、我が国の所得税法において、非永住者以外の居住者に該当し、その課税所得の範囲については、所得税法第5条《納税義務者》第1項及び同法第7条《課税所得の範囲》第1項第1号により、すべての所得が所得税の課税対象となる旨規定されているので、請求人の場合、国外において生じた本件J社株式分配に係る所得についても、我が国の所得税法の規定が適用され、上記Aのとおり、配当所得として課税対象とされるものである。したがって、この点についての請求人の主張には理由がない。
C そして、上記1の(3)のニのとおり、所得税法上の収入金額には、金銭以外の物等による収入も含まれることから、請求人が本件J社株式分配により得たJ社の株式については、その分配を受けたときにおける同社の株式の価額が配当所得の収入金額となる。
 したがって、本件J社株式分配に係る所得が生じていないとの請求人の主張には理由がない。
D また、請求人は、仮に、H社からの本件J社株式分配が配当所得に当たるとしても、請求人がH社から分配を受けたJ社の株式の数量は、6,595株ではなく、その2分の1の3,297株である旨主張する。
 しかしながら、J社の株式の分配及びその株式の分割は、一体のもので一連の取引と判断され、現実にもH社の株主に交付された株式の数量は分割後のものである。したがって、当該株式分割後の数量がH社からの配当と解するのが相当であり、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ロ)課税総所得金額について
A 配当所得の金額
 請求人の配当所得の金額は、上記(イ)のとおり、本件J社株式分配が配当所得に当たることから、別表2の「配当等の金額」欄の合計額となり、その額は43,766,338円である。
B 給与所得の金額及び雑所得の金額
 請求人の給与所得の金額及び雑所得の金額は、いずれも本件確定申告書に記載した金額と同額となり、その額は、6,039,600円及び○○○○円である。
C 所得控除の額
(A)扶養控除
 請求人は、同居の特別障害者である請求人の母K(大正2年6月21日生)の扶養控除の額を480,000円としているが、租税特別措置法第41条の14《同居の特別障害者又は老親等に係る扶養控除等の特例》第1項及び第2項の規定により、当該金額に450,000円が加算されることから、扶養控除の額は930,000円となる。
(B)その他の所得控除
 その他の所得控除の額は、いずれも請求人が本件確定申告書に記載した金額である。
したがって、所得控除の額は、別表1の「異議決定」欄のとおり、○○○○円である。
D 課税総所得金額
 課税総所得金額は、別表1の「異議決定」欄のとおり、○○○○円である。
(ハ)納付すべき税額について
A 配当控除の額
 配当控除の額は、所得税法第92条《配当控除》第1項第3号のイの規定に基づいて算定した金額で、その額は、6,000円である。
B 外国税額控除の額
 外国税額控除の額は、請求人が納付した別表2の「外国所得税の額」欄の金額について、所得税法第95条第1項の規定に基づき算定した金額であり、その額は、298,112円である。
C 源泉徴収税額
 源泉徴収税額は、請求人が本件確定申告書の「源泉徴収税額の内訳」欄に記載した給与所得に係るもの238,800円及び雑所得に係るもの109,950円に、配当所得に係る別表2の「源泉徴収税額」欄の金額の合計額を加算した金額であり、その額は、9,042,382円である。
D 納付すべき税額
 以上の結果、納付すべき税額は、別表1の「異議決定」欄のとおり、○○○○円となり、本件更正処分の額を上回るから、本件更正処分に違法はない。
ハ 本件賦課決定処分について
(イ)請求人は、本件申告の誤りは、税務職員の誤った指導によるものであるから、請求人がその責めを負うものではない旨主張するが、請求人からは原処分庁所属の職員との相談内容について確認できる資料の提示はなく、また、過少申告加算税は、単に過少申告であるという客観的事実のみによって課される性質のものであって、還付金の受領の有無によって本件賦課決定処分の適否が左右されるものではない。
(ロ)また、請求人は、原処分庁所属の職員が、原処分調査時(平成13年8月3日)及び異議調査時(平成13年10月4日)において、いずれも本件J社株式分配は所得税法第25条のみなし配当に当たる旨の説明をしたにもかかわらず、異議決定書においては、その根拠条文を同法第24条と記載していると主張するが、原処分庁所属の職員は、原処分調査時及び異議調査時のいずれにおいても同法第25条のみを説明したものではなく、同法第24条に規定する配当所得についても説明していることから、請求人の主張は誤りである。
(ハ)したがって、請求人の場合、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があると認められるものがある場合には該当しないから、請求人の主張には理由がない。

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3 判断

(1)認定事実

 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
イ カナダの会社法に基づきH社及びJ社の間で締結されたアレンジメントプラン(以下「本件プラン」という。)は、2000(平成12)年4月26日及び同月27日に開催された両社の各株主総会で承認された。本件プランの概要は次のとおりである。
(イ)H社は、同社が所有するJ社の株式をH社の株主に対し、1株につき約0.78株を分配する。
(ロ)その後、J社は、同社の株式1株を2株に分割する。したがって、H社の株主は、1株につき約1.56株のJ社の株式を取得する。
ロ カナダのオンタリオ州高等裁判所は、2000(平成12)年○月○日に本件プランを承認した。
ハ H社は、本件プランに基づき、2000(平成12)年5月5日を基準日として、同月8日に、同社の株主に対して株式1株につき0.785193株のJ社の株式を分配(以下「本件株式分配」という。)した。
 また、J社は、本件株式分配に係る上記スケジュールと同じ日程で、同社の株式1株を2株に分割(以下「本件株式分割」という。)した。その結果、H社の株主は、本件株式分配及び本件株式分割により、1.570386株のJ社の株式を得た。
ニ 請求人は、本件株式分配及び本件株式分割の基準日に、H社の株主としての地位にあり、同社の株式を4,200株所有していたことから、本件株式分配及び本件株式分割により、合わせて6,595株のJ社の株式を得た。
ホ H社は、2000(平成12)年3月7日に、カナダ関税歳入庁から、本件プランに基づく本件株式分配については、カナダのH社の株主に対して、カナダ連邦所得税を課さない旨の裁定を受領した。
ヘ H社の2000年の年次決算書によれば、本件株式分配に係る原資は、同社の利益剰余金(Retained Earnings)で、その額は、101.1億カナダドルである。
ト G証券は、本件株式分配が、上記ヘのとおり、H社の利益剰余金から拠出されていることから、本件株式分配は所得税法第24条第1項に規定する配当所得に当たると判断し、租税特別措置法第9条の2《国外で発行された株式の配当所得の源泉徴収等の特例》第2項の規定に基づき、同証券の営業店にH社の株式を保護預かりとしている者から所得税の源泉徴収をした。
チ G証券は、本件株式分割が、本件株式分配と同じ日を基準日(2000(平成12)年5月5日)にして行われたことから、本件株式分配に係る源泉徴収税額を算定するに当たっては、本件株式分割に係る権利落ち後の同日の証券取引所における終値87.75カナダドルを基にしなければならなかったため、本件株式分割後のJ社の株式の数量をベースにして源泉徴収税額を算出し、本件お知らせ書面には、本件株式分割後の数量を表記している旨の注記をするとともに、便宜上「みなし配当」という記載をした。
リ 請求人が、平成12年中に納付した外国所得税の額は、別表2の「外国所得税の額」欄のとおり、298,112円である。

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(2)本件更正処分について

イ 本件株式分配について
(イ)本件株式分配は、上記(1)のハ、ニ及びヘの各事実のとおり、H社が同社の株主に対して同社の利益剰余金を原資に、株主の所有株数に応じて分配したものと認められることから、請求人が本件株式分配によって取得したJ社の株式は、所得税法第24条第1項に規定する「利益の配当」に該当するものと認められるので、配当所得には当たらない旨の請求人の主張には理由がない。
(ロ)また、法人が自己の保有する株式をもって利益の配当をした場合には、所得税法第36条第2項の規定により、当該株式の価額によって配当等に係る収入金額を計算することになると解するのが相当であるから、本件株式分配に係る配当等の額は、本件株式分配が確定した日におけるJ社の株式の価額により算定することになる。
(ハ)そうすると、本件株式分配に係る請求人の配当等の金額は、上記1の(4)のイの(ハ)のとおり、本件株式分配を受けることが確定した日における価額として41,389,428円と認めるのが相当であり、源泉徴収税額の計算にも誤りは認められない。
(ニ)請求人は、本件株式分配がカナダ裁判所の判決によって課税を受けないとされたにもかかわらず、本件株式分配を配当所得として課税するのは違法である旨主張する。
 しかしながら、本件株式分配に適用される法律は、請求人が本件株式分配を受けた時において日本国内で施行されている所得税法等その他国税に関する法律であって、所得税法の適用に当たって外国の税法や裁定等に基づく非課税措置を考慮する必要はないというべきであるから、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ホ)また、請求人は、本件株式分割において同人が取得した株式の数量は本件株式分割がなされる前の3,297株である旨主張する。
 確かに、本件プランによれば、請求人がH社から受けるJ社の株式数は3,297株であるが、その収入すべき金額は、上記(ロ)のとおり、所得税法第36条第2項の規定により、本件株式分配を受けるための基準日における価額となり、その価額の算定に当たっては、本件株式分割が本件株式分配と同時になされたことから、株式分割後の株式の価額及び株数を基に算出したものであって、本件株式分配に係る配当等の金額の計算は相当であると認められるので、請求人の主張には理由がない。
ロ 課税総所得金額について
(イ)請求人の平成12年分の所得税に係る配当所得の金額は、当審判所の調査の結果によっても、別表2の「配当等の金額」欄の合計額のとおりとなる。
(ロ)給与所得の金額及び雑所得の金額は、請求人が本件確定申告書に記載したとおりの金額であり、所得控除の額については、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によっても相当と認められる。
(ハ)したがって、請求人の平成12年分の課税総所得金額は、別表1の「審判所認定額」欄のとおり、本件更正処分の額と同額となる。
ハ 納付すべき金額について
(イ)請求人の平成12年分の所得税に係る配当控除の額は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によっても相当と認められる。
(ロ)外国税額控除の額については、請求人は、上記1の(4)のロのとおり、外国税額控除の控除限度額を外国税額控除の額13,306,063円として、上記(1)のリのとおりの実際に納税した外国所得税の額298,112円を上回る額を税額控除していることが認められる。これを、所得税法第95条第1項の規定に基づき算出すると、外国税額控除の額は、当審判所の調査によっても、別表1の「審判所認定額」欄のとおり298,112円となる。
(ハ)原処分庁は、上記2の(2)のロの(ハ)のCのとおり、請求人の源泉徴収税額を算定しているところ、当審判所の調査の結果によっても、当該算定額は相当と認められる。
(ニ)以上の結果、請求人の納付すべき税額は、別表1の「審判所認定額」欄のとおりとなり、本件更正処分の額を上回ることとなるから、本件更正処分は適法である。

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(3)本件賦課決定処分について

イ 請求人は、本件申告において過少申告となった原因は、原処分庁職員による不適切な指導にあるから、請求人に責任はない旨主張する。
ロ ところで、国税通則法第65条第4項は、更正により納付すべき税額の計算の基礎となった事実のうちにその更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて正当な理由があると認められるものがある場合には、その納付すべき税額からその正当な理由があると認められる事実に基づく税額として政令で定めるところにより計算した金額を控除し、その控除後の金額を基礎として過少申告加算税を賦課する旨規定している。
ハ しかしながら、当審判所の調査の結果によると、請求人の平成10年分及び平成11年分の所得税の確定申告における外国税額控除の額の計算に誤りは認められないこと、原処分庁は、平成12年分の所得税の確定申告相談の際に相談を受け付けた納税者全員について、その住所及び氏名等を記載した「受付票」を使用していたところ、請求人に係る「受付票」の存在が認められないこと及び請求人から申告相談に基づき本件申告をしたと認めるに足る証拠資料の提出もないことからすれば、原処分庁が本件申告について不適切な指導をしたとは認められないことから、請求人の主張は採用できない。
ニ また、請求人は、同人が本件株式分配に係る課税の根拠について説明を求めたところ、原処分庁及び異議審理庁職員のいずれも誤った説明をしたのであるから、本件賦課決定処分は違法である旨主張する。
 しかしながら、請求人が本件株式分配を配当所得として本件申告をしたことは、上記(2)のとおり、相当であると認められること及び本件更正処分による納付すべき税額の基礎となった事実は、本件確定申告書における外国税額控除の額の計算誤り及び内国法人からの配当の申告漏れであることからすれば、請求人が主張する理由は、国税通則法第65条第4項に規定する「正当な理由があると認められるものがある場合」に該当しないことは明らかであるから、請求人の主張には理由がない。
ホ 以上のとおり、本件更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が本件更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定に基づきなされた本件賦課決定処分は適法である。

(4)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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