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(平15.4.23裁決、裁決事例集No.65 228頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、施設園芸農業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)の譲渡所得の金額の計算において、請求人の母が租税特別措置法(以下「措置法」という。)第37条《特定の事業用資産の買換えの場合の譲渡所得の課税の特例》第1項(以下「本件特例」という。)の規定を適用して取得した土地を請求人が相続した後、当該土地を譲渡した場合に控除できる取得費は、実際に当該買換資産の取得に要した金額によるのか、措置法第37条の3《買換えに係る特定の事業用資産の譲渡の場合の取得価額の計算等》に規定する取得価額によるのかを争点とする事案である。

(2)審査請求に至る経緯

 審査請求に至る経緯等は、別表1(以下、平成13年12月12日付でされた平成12年分の所得税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分を、順次「本件更正処分」及び「本件賦課決定処分」という。)のとおりである。

(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
イ 請求人の母のAは、P市Q町○○番○○ほかの土地(畑)4,314.5平方メートルを譲渡し、平成3年分の所得税の確定申告において、本件特例の規定を適用する旨の承認申請をした。
ロ その後、Aは、承認申請に基づきR市S町○○番の土地(畑)2,800平方メートル(以下「本件土地」という。)を平成4年4月27日に買換資産として取得した。
ハ 請求人は、本件土地をAから平成6年9月21日に単純承認に係る相続(以下「単純相続」という。)により取得した。
ニ 請求人は、本件土地を平成12年9月29日に売買により譲渡した。
ホ 請求人は、平成12年分の所得税について、別表1の「確定申告」欄のとおり記載して法定申告期限までに申告(以下「当初申告」という。)した。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 更正処分について
 本件土地の取得費は、次の理由により所得税法第60条《贈与等により取得した資産の取得費等》第1項の規定を適用し、Aが本件土地を取得した際に要した21,590,800円(以下「被相続人の購入価額」という。)となる。
(イ)本件土地は、請求人がAから相続により取得したものであることから、相続等により取得した資産の取得費等の計算規定である所得税法第60条《贈与等により取得した資産の取得費等》第1項の規定が適用される。また、所得税法第60条の規定には、本件特例の規定の適用を受けた買換資産を相続により取得した後に譲渡した場合の取得費について、措置法第37条の3の規定を適用しなければならないとの定めはない。
(ロ)措置法第37条の3《買換えに係る特定の事業用資産の譲渡の場合の取得価額の計算等》第1項は、本件特例の規定の適用を受けた者と定めてあるが、本件で「適用を受けた者」とは、請求人ではなくAであることは明らかである。
 したがって、措置法第37条の3第1項の規定は、Aが譲渡した場合に適用されるものであり、請求人が譲渡した場合に適用されるものではない。
ロ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 上記イのとおり更正処分は違法であるから、過少申告加算税の賦課決定処分も、取り消すべきである。

(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 更正処分について
 本件土地の取得費は、次の理由により措置法第37条の3の規定を適用して算定した6,805,774円である。
(イ)所得税法第60条第1項は、居住者が譲渡所得の基因となる資産を相続により取得したものを譲渡した場合、その譲渡による譲渡所得の金額を計算するときの取得時期及び取得価額は、被相続人の取得時期及び取得価額を引き継ぎ、相続人が被相続人の所有期間を含めて引き続き所有していたものとみなされる旨規定したものである。
(ロ)本件土地は、Aが本件特例の規定を適用して取得したものであり、請求人は、本件土地を平成6年9月にAから相続により取得し、平成12年9月に譲渡していることから、請求人の平成12年分の譲渡所得の計算における取得費は、被相続人であるAの取得費を引き継ぐことになり、その取得費は、措置法第37条の3の規定により、Aが平成3年に譲渡した資産の取得費相当額を基礎として計算された金額となる。
ロ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 上記イのとおり更正処分は適法であり、また、国税通則法(以下「通則法」という。)第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定に基づき行った過少申告加算税の賦課決定処分は適法である。

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3 判断

 本件の争点は、譲渡所得の金額の計算において、控除できる本件土地の取得費は、実際に当該買換資産の取得に要した金額によるのか、措置法第37条の3に規定する取得価額によるのかにあるので、以下審理する。

(1)更正処分について

イ 認定事実
 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ)本件土地の譲渡価額は、46,585,000円である。
(ロ)本件土地の当初申告の取得費は21,570,800円であるが、当初申告の取得費のほかに本件土地を取得する際の売買契約書に貼付された印紙代20,000円が取得費として認められることから、所得税法第38条《譲渡所得の金額の計算上控除する取得費》第1項の規定を適用して算出した取得費は、21,590,800円となる。
(ハ)本件土地の取得費(上記(ロ)の印紙代20,000円を含む。)は、措置法第37条の3の規定を適用して算出すると6,805,774円となる。
(ニ)本件土地の当初申告の譲渡費用は1,001,000円であるが、当初申告の譲渡費用のほかに本件土地を売却する際の売買契約書に貼付されている印紙代20,000円が譲渡費用として認められる。
(ホ)本件土地の特別控除額は、措置法第31条《長期譲渡所得の課税の特例》第4項の規定により1,000,000円である。
ロ 関係法令
(イ)所得税法第38条《譲渡所得の金額の計算上控除する取得費》第1項は、控除する資産の取得費は、別段の定めがあるものを除き、その資産の取得に要した金額並びに設備費及び改良費の額の合計額とする旨規定している。
(ロ)また、所得税法第60条第1項は、居住者が贈与、相続(限定承認に係るものを除く。)等の事由により取得した譲渡所得の基因となる資産を譲渡した場合における譲渡所得の金額の計算については、その者が引き続きこれを所有していたものとみなす旨規定している。
(ハ)さらに、措置法第37条の3は、所得税法第38条第1項の別段の定めとして、措置法第37条第1項の規定の適用を受けた者の買換資産に係る当該買換資産の取得の日以後その譲渡があった場合において、譲渡所得の金額を計算するときは、当該買換資産の取得価額は、当該各号に掲げる金額とする旨規定している。
ハ これを本件についてみると、次のとおりである。
(イ)請求人は、本件土地はAから相続により取得したものであることから、相続等により取得した資産の取得費等の計算規定である所得税法第60条第1項の規定が適用され、被相続人の購入価額が取得価額となる旨主張する。
 ところで、所得税法第60条第1項の規定は、上記ロの(ロ)のとおり、その者が引き続きこれを所有していたものとみなすと定めてあり、取得時期及び取得価額を引き継ぐこととされている。
 そうすると、一般的には、単純相続により取得した資産を譲渡した場合は、所得税法第60条第1項の規定により被相続人の取得価額が引き継がれることから、被相続人の購入価額が取得価額となる。また、措置法第37条第1項を適用して取得した買換資産を単純相続により取得した後に譲渡した場合の取得価額についても、所得税法第60条第1項の規定により被相続人の取得価額が引き継がれることになり、一般的な単純相続の場合と同様である。
 しかしながら、本件の場合の取得価額の算定に当たっては、上記ロの(ハ)のとおり、所得税法第38条第1項の「別段の定め」の規定により、措置法第37条の3の規定を適用して算出された当該買換資産の取得価額となる。
 また、請求人は、所得税法第60条第1項の規定には、本件特例の規定の適用を受けた買換資産を相続により取得した後に譲渡した場合の取得費について、措置法第37条の3の規定を適用しなければならないとの定めはない旨主張する。
 しかしながら、措置法第37条の3の規定は、上記ロの(ハ)のとおり、所得税法第38条第1項の「別段の定め」として適用されるものであり、所得税法第60条第1項に規定されていないことをもって、措置法第37条の3の規定が適用できないとされるものではないことから、請求人の主張には理由がない。
(ロ)請求人は、措置法第37条の3に規定する本件特例の規定の「適用を受けた者」とは、請求人ではなく、Aであることは明らかなことから、措置法第37条の3の規定は、Aが譲渡した場合に適用されるものであり、請求人が譲渡した場合に適用されるものではない旨主張する。
 しかしながら、措置法第37条の3の規定は、上記(イ)のとおり、買換資産の譲渡等をした場合に、譲渡所得の金額の計算をするときの当該買換資産の取得費を算定するための規定であり、「適用を受けた者」に限らず、単純相続等により取得した者が譲渡等をした場合、譲渡所得の金額の計算をするときに適用する規定であることは条文からも明らかである。
 そうすると、本件の場合、本件特例を受けた者は、請求人の主張するとおりAであるものの、Aの死亡に伴い、単純相続により取得した請求人が譲渡したのであるから、本件土地を譲渡した請求人に措置法第37条の3が適用されることとなる。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ハ)以上のとおり、請求人の主張にはいずれも理由がなく、原処分庁は、買換資産である本件土地の取得価額を、措置法第37条の3の規定を適用して譲渡取得の金額の計算上控除できる取得費を算定していることから、原処分は適法である。
ニ 分離長期譲渡所得等の金額
(イ)収入金額は、上記イの(イ)のとおり、46,585,000円となる。
(ロ)必要経費のうち取得費は、上記イの(ハ)のとおり、措置法第37条の3の規定を適用して計算した取得費6,805,774円となる。また、譲渡費用は、上記イの(ニ)のとおり、1,021,000円となる。
(ハ)長期譲渡に係る特別控除額は、上記イの(ホ)のとおり、措置法第31条第4項に基づき1,000,000円となる。
(ニ)そうすると、分離長期譲渡所得の金額は、収入金額46,585,000円から必要経費である取得費6,805,774円及び譲渡費用1,021,000円の合計額7,826,774円を差し引いた38,758,226円となり、さらに、特別控除額1,000,000円を差し引いた37,758,226円となる。
(ホ)したがって、納付すべき税額は、別表2の「審判所認定額」欄のとおり○○○○円となり、この金額は原処分の納付すべき税額○○○○円を上回ることから、本件更正処分は適法である。

(2)過少申告加算税の賦課決定処分について

 過少申告加算税の賦課決定処分については、上記(1)のニのとおり、本件更正処分は適法であり、また、本件更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正処分前の税額の計算の基礎とされなかったことについて、通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定に基づきなされた本件賦課決定処分は適法である。

(3)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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