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(平15.6.6裁決、裁決事例集No.65 238頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)の勤務する内国法人と資本関係がない外国法人から請求人に対し付与された株式購入選択権(以下「ストック・オプション」という。)の行使に係る経済的利益が、所得税法第34条《一時所得》に規定する「一時所得」、同法第35条《雑所得》に規定する雑所得のいずれに該当するかを主たる争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成10年分の所得税について、確定申告書に別表1の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告した。
ロ 原処分庁は、これに対し、請求人がアメリカ合衆国(以下「米国」という。)法人K(以下「米国K社」という。)から付与されたストック・オプション(以下「本件ストック・オプション」という。)の行使に係る利益(以下「本件利益」という。)が申告漏れとなっているとして、また、本件利益は「雑所得」に該当するとして、平成14年3月12日付で、別表1の「更正処分等」欄のとおりの更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
ハ 請求人は、これらの処分を不服として、平成14年5月7日に異議申立てをしたところ、異議審理庁が、同年8月7日付で棄却の異議決定をしたので、同年9月4日に審査請求をした。

(3)関係法令等

イ 所得税法第34条第1項は、一時所得とは、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得及び譲渡所得以外の所得のうち、営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の一時の所得で労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しないものをいう旨規定している。
ロ 所得税法第35条第1項は、雑所得とは、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得及び一時所得のいずれにも該当しない所得をいう旨規定している。
ハ 所得税法第22条《課税標準》第1項は、居住者に対する所得税の課税標準は、総所得金額、退職所得金額及び山林所得金額とする旨規定している。
 そして、所得税法第22条第2項は、総所得金額は、次に掲げる金額の合計額とする旨規定している。
(イ)利子所得の金額、配当所得の金額、不動産所得の金額、事業所得の金額、給与所得の金額、譲渡所得の金額(所得税法第33条《譲渡所得》第3項第1号に掲げる所得に係る部分の金額に限る。)及び雑所得の金額の合計額
(ロ)譲渡所得の金額(所得税法第33条第3項第2号に掲げる所得に係る部分の金額に限る。)及び一時所得の金額の合計額の2分の1に相当する金額

(4)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、後記ロのマーケティング提携契約の締結時において、株式会社L(以下「L社」という。)の代表取締役に就任しており、以後、後記ニの本件ストック・オプションの行使時まで、継続して、同職にあった。
ロ L社と米国K社は、1996(平成8)年10月8日にマーケティング提携契約(以下「本件業務提携契約」という。)を締結し、請求人は、L社の代表取締役として、米国K社の日本における子会社(以下「日本K社」という。)の設立事業に参加した。
ハ L社と米国K社との間には資本関係はない。
 また、請求人は、本件ストック・オプションの行使時以前において、米国K社との間で雇用契約を締結したことはない。
ニ 請求人は、1997(平成9)年1月20日に米国K社から本件ストック・オプションを付与され、1998(平成10)年5月8日にこれを行使した。
ホ 請求人の平成10年分の本件利益の額は、26,514,460円である。
ヘ 請求人の平成10年分のL社、株式会社M及びN株式会社からの給与(以下、これらの給与を併せて「本件給与」という。)に係る給与等の収入金額は、34,000,000円である。

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2 主張

(1)請求人

 原処分には、次の理由による違法があるから、その一部の取消しを求める。
イ 一時所得の該当性
 ストック・オプションの権利行使利益の所得区分に関する訴訟において、平成14年11月26日に東京地方裁判所において言い渡された判決によると、「ストック・オプションの行使利益は、原告の就労の対価ではなく、その投資判断に基づく偶然的、偶発的所得であって、勤労性所得ではなく、ストック・オプションという期待権に基づく資産性所得であり、回帰的に発生するとは限らないものとみるべきであって、給与所得や雑所得とは異なっており、一時所得であるというほかはない」とされている。また、「労務の対価であると評価できるためには、従業員が提供した労務と当該給付との間に経済的合理性に基づいた対価関係がなければならないはずであり、そのようにいえるためには、従業員が提供した労務の質及び量と当該給付との間に厳密な比例関係は不要としても何らかの相関関係がなければならないものと解される」とされている。
 本件利益は、その給付と請求人の提供した労務の質及び量との間に何らの相関関係も認められないから労務の対価であるとはいえず、偶発的・偶然的所得そのものであるから、一時所得に該当する。
ロ 雑所得の非該当性について
 次の理由により、本件利益は、雑所得に該当しない。
(イ)請求人は、L社の代表取締役であり、日本K社の設立事業に参加し、米国K社に対して役務の提供を行ったが、その報酬は同社からL社に支払われており、役務に対する報酬は会社間で別途収受されている。
 また、本件ストック・オプションは米国K社のものであるところ、将来的に株価が上昇するか下落するかは不明であり、上昇したとしても、請求人の同社への貢献度には関係ない。
 したがって、本件利益は、労務その他の役務の対価とはいえない。
(ロ)請求人は、本件ストック・オプションを付与した米国K社の従業員ではない。また、権利付与時以降に、米国K社の指揮監督に服して労務を提供したことは全くない。さらに、米国K社とL社とは資本関係がなく、同社の業績が米国K社の株価に影響を与えることはない。
(ハ)役務を提供することにより得た報酬であれば必ず役務の提供者が所得を得るはずである。しかしながら、本件ストック・オプションについては、米国K社の株価が上昇し、さらに権利行使を行わない限り所得を得ることができないものである。
 また、本件ストック・オプションに係る権利の行使が可能になった後において、権利を行使するか否か、いつ行使するかは専ら請求人の判断にゆだねられており、本件利益の額は、その判断により左右されるものである。すなわち、本件利益の額は、請求人の投資判断という就労とはおよそ異なる要素によって定まるものといわざるを得ない。
 したがって、本件利益は、就労の対価としての性格を有しない所得であり、役務を提供することにより得た所得とはいえない。
ハ 税務指導の現場における指導の不統一等について
 税務指導の現場における指導の不統一は、ストック・オプションの性格が所得税法上の定義に一致しなかったことに由来し、さらにこれに対して適切な法律改正及び税務指導が行われなかったことに起因しているにもかかわらず、原処分庁は、税法等の不備、欠陥を無視して当該税法等を納税者に適用しており、到底、受け入れられない。
 また、平成14年6月24日付で公表された通達においてストック・オプションに係る部分が一部改正されたが、本件ストック・オプションは当該公表の前のものであるから、当該一部改正された後の通達を適用し雑所得として課税することはできない。
ニ なお、請求人は、上記イからハまでに述べたこと以外については争わない。

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(2)原処分庁

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求をいずれも棄却するとの裁決を求める。
イ 原処分庁の調査の結果によれば、上記1の(4)の各事実のほか、次の事実が認められる。
(イ)米国K社は、同社及び子会社の従業員並びにコンサルタント及びアドバイザー(以下、コンサルタント及びアドバイザーを併せて「コンサルタント等」という。)を対象としてストック・オプションを付与する制度を有しており、これらの者にストック・オプションを付与している。
(ロ)米国K社は、日本K社を設立するため、平成8年10月に、L社に対して日本K社の設立事業への請求人の参加を依頼した。
 そして、請求人は、L社を通じて当該設立事業に参加し、米国K社に対して役務の提供を行った。
(ハ)本件ストック・オプションは、請求人が日本K社の設立事業に役務の提供をすることを条件に米国K社から付与されたものである。
(ニ)米国K社のストック・オプション制度の要旨は、次のとおりである。
A ストック・オプション・プランの目的は、米国K社及びその子会社の選ばれた従業員で取締役会のメンバーでない者並びに米国K社及びその子会社に対して役務の提供をするコンサルタント等による米国K社及びその子会社への役務の提供を保持することである。
B この権利は、権利付与日から10年後に失効する。
C 何らかの理由(死亡、永久的障害又は非行を除く。)によりストック・オプションを付与された者が役務の提供を停止した場合には、その停止後、60日間以内に当該ストック・オプションを行使しなければならない。
(ホ)請求人は、日本K社設立後、同社の取締役会長に就任した。
ロ 本件利益の雑所得の該当性について
(イ)所得税法第28条第1項に規定する「これらの性質を有する給与」とは、単に雇用契約に基づき労務の対価として支給される報酬というよりは広く、雇用又はこれに類する原因に基づいて、非独立的に提供される労務の対価として、他人から受ける報酬及び実質的にこれに準ずべき給付をいい、労務の提供が自己の危険と計算によらず他人の指揮監督ないし組織の支配に服してなされる場合にその対価として支給されるものであると解される。
 一方、所得税法第34条第1項は、上記1の(3)のイのとおり規定しており、労務その他の役務の対価としての性質を有するものについては、一時所得に該当しないこととなる。
 なお、所得税法第35条第1項は、上記1の(3)のロのとおり規定しており、非課税とされる場合を除き、他の所得に該当しない所得はすべて雑所得に該当することになる。
(ロ)ところで、ストック・オプションの制度は、株式会社の役員又は使用人等の士気や勤労意欲を高め、かつ、優秀な人材確保の有効な手段として、ひいては、企業の業績向上に資するものとして導入されたものであり、ストック・オプションを付与された者は、企業の業績向上のために努力し、それにより株価が上昇すれば、ストック・オプションを行使することで、業績に対応する利益を享受できることになることから、ストック・オプションの制度は、役員又は使用人等の業績向上へのインセンティブとして機能することが期待されている。
 このため、このストック・オプションの行使による利益は、役員又は使用人等の地位又は職務等に関連する一種の成功報酬としての性格を有するものであり、労務その他の役務の対価としての性質を有するものと解される。
 そして、請求人の場合のように、ストック・オプションの付与会社の事業に、従業員としてではなく他の企業からのコンサルタント等として役務を提供する者に対してストック・オプションが付与された場合においても、これは、ストック・オプションを付与された者の精勤による役務の提供の保持が当該ストック・オプションの付与会社の事業の業績向上に寄与することに着目して行われているものと認められるから、労務その他の役務の対価としての性質を有するものと解される。
 したがって、このようにストック・オプション付与会社におけるコンサルタント等への役務の提供の保持を求める対価として付与されたストック・オプションの行使に係る所得は、労務その他の役務の対価としての性質をもった所得と認められるから、一時所得には該当しない。
(ハ)これを本件ストック・オプションについてみると、次のとおりである。
A 米国K社のストック・オプションは、同社のストック・オプション・プランに記載されているとおり、米国K社及びその子会社の選ばれた従業員並びに同社及びその子会社に役務の提供を行うコンサルタント等に対して、その役務提供を保持する目的で付与されるものであって、本件ストック・オプションは、請求人がL社を通じて日本K社の設立事業のために精勤することを期待し、また、請求人が日本K社の設立事業に係る継続的な役務の提供を保持することに対して、米国K社から付与されたものであることは明らかである。
 さらに、米国K社のストック・オプション・プランには、当該ストック・オプションを付与された者が役務の提供を停止した場合には、権利の行使を当該停止の日から60日間以内にしなければならないことが記載されている。
 このように、米国K社のストック・オプションは、コンサルタント等として役務の提供をすることを前提に、その役務の提供を一定期間継続することによりその利益を享受し得るものであって、本件利益が労務その他の役務の対価としての性質を有するものであることは明らかである。
B そして、請求人は、上記1の(4)のハのとおり、本件ストック・オプションの付与時から当該行使の日までの間に米国K社と雇用契約又はこれに類する関係にはなかったものであり、また、請求人が米国K社との間で、営利を目的として継続的に行う事業を行っていたとも認められない。
C したがって、本件利益は、請求人が米国K社の非従業員として、L社を通じて、米国K社に役務を提供することにより得た報酬に該当するので、給与所得には該当せず、また、一時所得にも該当しないことから、雑所得として課税するのが相当である。
D なお、所得税法第34条第1項に規定する一時所得の要件の一つである「労務その他の役務の対価としての性質を有しないもの」にいう「対価」とは、給付が具体的役務行為に対応する場合に限られるものではなく、給付が一般的に人の地位、職務行為に対応、関連してなされる場合をも含むものと解されるところ、米国K社のストック・オプションは、同社及びその子会社の従業員及びコンサルタント等に対して付与されるものであって、その行使に係る所得は、このような地位や職務行為を離れてはあり得ないから、この点からみても、本件ストック・オプションの行使に係る所得が一時所得に該当しないことは明らかである。
ハ 総所得金額について
(イ)事業所得の金額及び給与所得の金額
 請求人の平成10年分の事業所得の金額及び給与所得の金額は、いずれも請求人が同年分の確定申告書に記載した金額である。
(ロ)雑所得の金額
 請求人の平成10年分の雑所得の金額は、上記1の(4)のホに記載した本件利益の額26,514,460円である。
(ハ)総所得金額
 以上の結果、請求人の平成10年分の総所得金額は別表2のとおりとなり、この金額は、本件更正処分の額(57,188,597円)を上回るから、本件更正処分は適法である。

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3 判断

(1)本件更正処分について

イ 認定事実
 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ)本件業務提携契約に係る書面には、要旨次の記載がある。
A 米国K社及びL社は、日本市場における米国K社の日本語サービス事業(以下「本件事業」という。)の設立及び展開に協力して取り組む。米国K社は、このためにL社へ設立運営資金を貸し付け、L社は、本契約及び米国K社が随時与える指示に従い、日本において役務の提供をする(第A条)。
B 米国K社は、本件事業の設立運営資金2,200,000ドルを2年間で、具体的には、本件業務提携契約の発効日である1996(平成8)年10月8日に600,000ドル、当該発効日から6か月後に600,000ドル、2年目は第1四半期に残額の25%、その後は四半期ごとに25%ずつを、L社に貸し付ける(第B条の1)。
C この設立運営資金の返済及び当該設立運営資金に係る年間3%の利息の支払には、本件事業の純益が充てられるものとする。当該設立運営資金の返済及び当該利息の支払に関し、L社が米国K社に対して負うすべての債務について、請求人、S及びTは、別添A(後記H)に記載するように、保証の義務を引き受けるものとし、L社と連帯して、又はそれぞれ、責任を負うものとする(以下、この保証を「本件個人保証」という。)。そして、これにより、当該義務の履行に関し、本件業務提携契約の条件に同意するものとする(第B条の2)。
D 設立運営資金のうち1年目における貸付金及びこれに係る利息については、L社は、当該貸付金の支払日から2年以内に返済及び支払をするものとする。設立運営資金のうち2年目における貸付金及びこれに係る利息については、それぞれ当該貸付金の支払日から1年以内に返済及び支払をするものとする(第B条の3)。
E 設立運営資金の返済及び当該設立運営資金に係る利息の支払の終了後は、本件事業の純益は、L社にその37.5%が、米国K社にその62.5%が分配される(第B条の4)。
F 米国K社と、請求人、S及びTとの間で将来交わされるストック・オプション契約を除き、本件業務提携契約は、本件業務提携契約の内容に関する本件業務提携契約の当事者間の議論、交渉、提案等並びに過去の取扱い及び業界の慣行に取って代わる(第M条の1)。
G 本件業務提携契約の両当事者は、米国K社が適切とみなした時に、本件事業を法人化することを望むものとする。本件事業の法人化の際には、本件業務提携契約の両当事者は、本件業務提携契約の精神を反映し、経済的にほぼ同様の結果をもたらし、かつ、税負担を最小限に留めるような形の株主契約その他の契約を締結するよう、誠意をもって交渉するものとする(第N条)。
H L社が、本件業務提携契約により予期される米国K社との間の取引において、同社に対して負うすべての債務について、保証人である請求人、S及びTは、保証の義務を引き受けるものとし、L社と連帯して、又はそれぞれ、責任を負うものとする。そして、これにより、当該義務の履行に関し、本件業務提携契約の条件に合意するものとする。本件個人保証は、米国K社が、本件業務提携契約を締結するための条件である(別添A個人保証)。
(ロ)請求人への本件ストック・オプションの付与に際しては、米国K社から請求人あてに付与通知書(以下「本件付与通知書」という。)が送付されており、本件付与通知書には、要旨次の記載がある。
A 米国K社は、1997(平成9)年1月20日付で、請求人に対し、同社の普通株式25,000株を9.375米国ドルで購入するストック・オプションを付与する。
B 本件ストック・オプションの権利確定期間の開始日は、1996(平成8)年10月8日であり、また、本件ストック・オプションは、2007(平成19)年1月20日に失効する。
C 付与される本件ストック・オプションの25%については、請求人が権利確定期間の開始日から1年間の役務の提供を達成したときに行使可能となり、残余については、その後36か月にわたり、36分の1ずつが、請求人が各月の役務の提供を達成したときに行使可能となる。
D 請求人は、本件ストック・オプションが米国K社の1996年ストック・オプション・プラン(以下「本件プラン」という。)の条件に従い付与されるものであることに同意し、さらに、本件プランの条件及び証拠物件Aとして本件付与通知書に添付されているストック・オプション契約書(以下「本件契約書」という。)の条件に拘束されることに同意する。
(ハ)本件契約書には、要旨次の記載がある。
A 米国K社の取締役会は、〔1〕米国K社並びにその親会社及び子会社(以下「米国K社等」という。)の選抜された被用者及び役員(以下「本件被用者等」という。)、〔2〕米国K社等に対して役務の提供をするコンサルタント等(以下「本件コンサルタント等」という。)を米国K社等に留めることを目的として、本件プランを採択した。
 被付与者は、米国K社等に対し価値ある役務を提供するものとし、この契約は、本件プランに従い履行され、本件プランの目的を達成することを意図するものである。
B 米国K社は、付与通知書に記載したとおりのストック・オプションを被付与者に付与する(第1条)。
C ストック・オプションは、その付与日から10年後に失効する(第2条)。
D ストック・オプションは、遺言による場合あるいは相続及び遺産分配に関する法令による場合を除き、移転及び譲渡のいずれもすることができず、被付与者の生存中は、当該被付与者のみが行使できる(第3条)。
E ストック・オプションは、付与通知書に明記された方法により(1回又は複数回の分割で)行使可能となる(第4条)。
F 被付与者が、米国K社等に対する役務の提供を終了する場合には、当該終了の日において行使可能なストック・オプションに限り、当該終了の日後60日間は行使することができる(第5条)。
(ニ)本件プランの概要と題する資料によれば、本件プランの概要は、次のとおりである。
A 本件プランの目的は、本件被用者等及び本件コンサルタント等が米国K社等に留まるためのインセンティブとして、これらの者に対して、米国K社の所有者意識をもつ機会を提供することである。
B 本件プランは、米国K社の取締役会の報酬委員会により運営される。
C ストック・オプションは、本件被用者等及び本件コンサルタント等に対し付与される。
D ストック・オプションは、遺言による場合又は相続に関する法令による場合を除き、譲渡及び移転のいずれもすることができない。
E ストック・オプションは、被付与者が米国K社等に留まり役務を提供している期間において、行使可能となる。
F 被付与者が、米国K社等に対する役務の提供を終了した場合、当該終了の日において行使可能なストック・オプションに限り、当該終了の日後一定期間は、行使することができる。
(ホ)本件業務提携契約において本件個人保証を行うものとされている請求人、S及びTは、いずれも、本件業務提携契約の締結時において、L社の代表取締役又は取締役であった。
(ヘ)請求人は、本件業務提携契約の締結の経緯について、当審判所に対し、要旨次のとおり答述している。
 すなわち、本件業務提携契約の締結に際し、米国K社の交渉担当者から、L社の交渉担当者であった請求人に対し、同社の代表者である請求人、S及びTの3人が、同社に留まり、業務提携に当たり同社が負う債務につき個人保証をして欲しい旨要請があった。請求人が、保証するだけならばリスクのみが請求人側に残る一方的な契約になるため、インセンティブがなくては個人保証することはできないと交渉した結果、請求人、S及びTにストック・オプションが付与された。
ロ 所得区分について
(イ)所得分類の意義について
 所得税法は、所得をその源泉ないし性質によって10種類に分類しているが、これは、所得はその性質や発生の態様によって担税力が異なるという前提に立って、公平負担の観点から、各種の所得について、それぞれの担税力の相違に応じた計算方法を定め、また、それぞれの態様に応じた課税方法を定めたものと解される。したがって、所得分類に関する規定については、この立法趣旨に照らし、その所得の経済的実質に即して解釈適用をすることが合理的解釈といえる。
(ロ)本件利益が一時所得に該当するか否かについて
A 一時所得については、上記1の(3)のハのとおり、その2分の1が課税の対象とされているが、これは、一時所得が一時的・偶発的な所得であることから、超過累進税率の適用を緩和しているものである。
 そして、所得税法第34条第1項が「役務の対価としての性質を有する所得」を一時所得から除くこととしているのは、その所得が一時的なものであっても、役務の対価としての性質を有する限り、偶発的に発生した所得ではないからであると解される。
 一時所得に該当するためには、「その所得が役務の対価ではないこと」が不可欠の要件となるが、この場合における「役務の対価」とは、〔1〕経済的利益の供与が具体的な役務行為に対応する場合だけでなく、一般的に人の地位又は職務に関連してなされる場合も対価性の要件を充たすと解され、また、〔2〕その対価は、給付が具体的・特定的な役務行為に対応・等価の関係にある場合に限られるものではなく、給付が抽象的・一般的な役務行為に密接・関連してなされる場合をも広く含むと解される。
B これを本件についてみると、次のとおりである。
(A)本件プランには、米国K社のストック・オプションは、本件被用者等及び本件コンサルタント等に対して付与される旨記載されているところ、請求人が本件被用者等に該当しないことは明らかであるから、米国K社は、請求人が、本件コンサルタント等すなわち米国K社等に対して役務の提供をするコンサルタント等に該当するとして、本件ストック・オプションを付与したものと認められる。
 そして、上記イの(イ)のC、F、Hの本件業務提携契約の条項及び上記イの(ヘ)の請求人の答述から、請求人は、実際に、本件業務提携契約に基づき、本件個人保証を行うことのインセンティブとして、本件ストック・オプションを付与されたものと認められる。
 また、この本件個人保証については、上記イの(イ)のC及びH並びに上記イの(ホ)のとおり本件個人保証を行うものとされている者がいずれもL社の代表取締役又は取締役であること及び上記イの(ヘ)の請求人の答述から、本件個人保証は、同社の代表取締役としての地位に基づくものであったと認められ、他方、本件個人保証を行うか否かについての判断は請求人にゆだねられていたと解されることから、本件個人保証は、請求人が個人の責任において行ったものと認められる。
(B)上記(A)の事項及び上記イの(ロ)のCのとおり本件ストック・オプションは請求人の一定期間の役務の提供をもって行使可能となることからすると、本件利益は、請求人が、L社の代表取締役としての地位に基づき、それとともに、個人の責任において本件個人保証を行うことにより、米国K社に対して役務の提供をすることを前提に、同社の株式を購入することができる権利を同社から付与され、同社に対して一定期間役務の提供をすること(本件個人保証を継続すること)により、これを行使して得たものであるということができる。
 換言すれば、本件利益は、請求人の役務の提供の対価としての性質をもった所得ということができるから、一時所得に該当しないと解するのが相当である。
(C)なお、原処分庁は、本件ストック・オプションは、請求人がL社を通じて日本K社の設立事業のために精勤することを期待し、また、請求人が日本K社の設立事業に係る継続的な役務の提供を保持することに対して、付与されたものであると認定しているが、本件ストック・オプションについては、上記(A)及び(B)のとおり、むしろ、請求人が本件個人保証を行うことの対価として付与されたものと認めるのが相当である。
C この点について、請求人は、本件利益は、その給付と請求人が提供した労務の質及び量との間に何らの相関関係も認められない偶発的・偶然的所得そのものであるから労務の対価とはいえず、したがって、一時所得に該当する旨主張する。
 しかしながら、本件利益が、役務の提供の対価としての性質を有するものと認められることについては、上記A及びBで述べたとおりであるから、この点に関する請求人の主張は採用できない。
(ハ)本件利益が雑所得に該当するか否かについて
 上記(ロ)のとおり、本件利益は一時所得に該当しない。
 また、所得税法第35条第1項は、上記1の(3)のロのとおり規定しているところ、本件利益が、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得及び譲渡所得のいずれにも該当しないことについては、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によっても、本件利益については上記(ロ)のBに述べたとおりであると認められ、本件利益が上記8種類の所得に該当するとは認められない。
 したがって、本件利益は、雑所得に該当すると解するのが相当である。
(ニ)税務指導の現場における指導の不統一等について
 請求人は、税務指導の現場における指導の不統一は、ストック・オプションの性格が所得税法上の定義に一致しなかったことに由来し、さらにこれに対して適切な法律改正及び税務指導が行われなかったことに起因しているにもかかわらず、原処分庁は、税法等の不備、欠陥を無視して当該税法等を納税者に適用しており、到底、受け入れられない旨、また、平成14年6月24日付で公表された通達においてストック・オプションに係る部分が一部改正されたが、本件ストック・オプションは当該公表の前のものであるから、当該一部改正された後の通達を適用し雑所得として課税することはできない旨主張する。
 しかしながら、上記(イ)及び(ハ)で述べたとおり、本件利益は、所得税法における所得分類の立法趣旨に照らし、その経済的実質に着目して雑所得に該当すると判断されるものであるから、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ハ 総所得金額について
(イ)事業所得の金額及び給与所得の金額
 請求人の平成10年分の事業所得の金額及び給与所得の金額については、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によっても相当と認められる。
(ロ)一時所得の金額
 上記ロの(ロ)で述べたとおり、本件利益は一時所得に該当しないから、請求人の平成10年分の一時所得の金額は、零円である。
(ハ)雑所得の金額
 上記ロの(ハ)で述べたとおり、本件利益は雑所得に該当するから、請求人の平成10年分の雑所得の金額は、上記1の(4)のホに記載した本件利益の額26,514,460円である。
(ニ)総所得金額
 以上の結果、請求人の平成10年分の総所得金額は別表2のとおりとなり、この金額は、本件更正処分の額を上回るから、本件更正処分は適法である。

(2)本件賦課決定処分について

 以上のとおり本件更正処分は適法であり、また、本件更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が本件更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づきなされた本件賦課決定処分は、適法である。

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4 その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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