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(平15.5.15裁決、裁決事例集No.65 274頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、租税特別措置法(以下「措置法」という。)第41条の15《同居の特別障害者又は老親等に係る扶養控除等の特例》第1項に規定する扶養控除の特例(以下「本件特例」という。)の適用の可否が争われた事案である。

(2)審査請求に至る経緯

 平成13年分の所得税について争われ、その経緯は別表1のとおりである。

(3)参考法令

イ 所得税法第84条《扶養控除》第1項は、居住者が扶養親族を有する場合には、その居住者のその年分の総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額から、その扶養親族1人につき38万円を控除する旨規定している。
ロ 措置法第41条の15第1項は、居住者の有する扶養親族が特別障害者で、かつ、当該居住者又は当該居住者の配偶者若しくは当該居住者と生計を一にするその他の親族のいずれかとの同居を常況としている者である場合、扶養控除の額は、所得税法第84条第1項に規定する金額に35万円を加算した額とする旨規定している。

(4)基礎事実

 以下の事実は、審査請求人(以下「請求人」という。)及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によっても、その事実が認められる。
イ 原処分庁は、請求人の妹であるGが請求人の所得税法第2条《定義》第1項第34号に規定する扶養親族に該当するとして、同法第84条に定める38万円の扶養控除の適用を認めて原処分を行ったこと。
ロ Gは、所得税法第2条第1項第29号に規定する特別障害者に該当すること。
ハ Gは、請求人の弟宅(以下「実家」という。)であるP市Q町○番地に住民登録をしていること。
ニ Gは、S市T町○番地所在の社会福祉法人H(以下「本件施設」という。)に昭和56年8月に入所し、以後、毎年十数日程度の実家への帰宅期間を除き、本件施設で生活していること。

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2 主張

(1)原処分庁の主張

 原処分は、次のとおり適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ Gは、次の理由により本件特例の対象となる者に該当しない。
(イ)原処分庁の調査によると、Gは、平成13年中に、本件施設の更生プログラムの家庭実習として、次の期間のみ本件施設を出て実家に滞在している。
A 1月1日から1月3日までの間
B 3月29日から3月31日までの間
C 8月13日から8月17日までの間
D 12月29日から12月31日までの間
(ロ)本件特例について、措置法第41条の15第1項は、上記1の(3)のロのとおり規定しているが、これは在宅において特別障害者が介護されることを税制面でも促進し、福祉対策にも資する等の観点から設けられたものであると解される。そして、ここでいう「同居を常況としている」とは、扶養親族が施設などに入所せずに、在宅により介護等を受けていることを意味するものと解される。
(ハ)Gは、上記1の(4)のニのとおり昭和56年8月に本件施設に入所して以降、本件施設で通年起居し、本件施設で介護を受けており、同人は、本件施設に居住しているというべきであって、本件施設への入所の目的は、病気治療のため等の一時的なものとは認められない。
 また、上記(イ)のとおり、Gは、平成13年中に14日間実家に滞在しているが、それは本件施設の更生プログラムである家庭実習として一時的に滞在しているものであって、家庭実習終了後は本件施設に帰所しており、この家庭実習期間を同人が請求人と起居を共にしていたとしても、そのことをもってGが請求人と「同居を常況としている」ということはできない。
ロ したがって、Gが本件特例の対象となる者に該当するとしてされた請求人の更正の請求に対し、原処分庁がその更正をすべき理由がないとして行った原処分は適法である。

(2)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ Gは、次に述べるような状況にあり、毎年、数日間とはいえ、請求人はGの介護を行い、Gと生活を共にしているのであるから、5日以上の同居の実態があれば、本件特例に定める「同居を常況としている」とみなすことができる。
(イ)Gが本件施設に入所したのは、昭和56年8月20日であるが、同人は、本件施設に入所してから現在まで、年365日のすべての期間を通じて本件施設で生活しているわけではなく、毎年、15日程度は実家に帰宅している。
 なお、原処分庁は、平成13年1月1日から同年1月3日までの間、Gは実家に滞在したと主張するが、同人は、同年1月4日の昼食を実家で食べており、施設に戻ったのは、同日午後2時以降である。
(ロ)Gは、尿道にカテーテルを入れており、小水を自分で処理することができず、介護を必要としているため、同人が毎年、年末から正月とお盆に実家に滞在する際は、請求人が実家に出向いてGのしもの処理をしている。
(ハ)Gは、平成13年中に原処分庁が主張する期間のほか、4月29日から5月7日までの間、請求人宅に滞在しているが、その間、請求人がGのしもの処理をした。
(ニ)Gは、重度障害者1級の手帳の交付を受けている者であって本件施設の更生プログラムである家庭実習などできるはずがない。
ロ 請求人の扶養親族であるGは、特別障害者であり、また、上記イのとおり請求人と同居を常況としている者に該当するとみなされるから、請求人の平成13年分の所得税の額の計算に当たり、所得金額から差し引かれる扶養控除の額は、通常の扶養控除の額38万円に本件特例を適用して35万円を加算した73万円とすべきである。
ハ これに基づき請求人の平成13年分の所得税額を計算すると、別表2の「更正の請求額」欄記載のとおりとなるから、請求人の平成13年分の源泉徴収税額91,482円のうち、確定申告によって既に還付を受けた○○○○円を除いた○○○○円は還付されるべきである。

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3 判断

 本件審査請求は、請求人の妹が本件特例の対象となる者に該当するか否かにあるので、以下審理する。

(1)認定事実

 原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の各事実が認められる。
イ 本件施設は、平成14年9月9日付で原処分庁に対してGの平成13年中における実家への帰宅状況について、次表のとおり書面で回答していること。

ロ Gは、上記イの期間のほか、平成13年1月4日の午後1時ころまで及び同年5月2日から同月4日までの間は、本件施設にはいなかったこと。
ハ Gが本件施設で生活している間の同人に対する介護は、本件施設の職員が行っていること。

(2)本件特例の適用に係る対象者について

イ 上記1の(3)のロのとおり、本件特例は、居住者の有する扶養親族が、〔1〕特別障害者で、かつ、〔2〕その居住者又はその居住者の配偶者若しくはその居住者と生計を一にするその他の親族のいずれかとの同居を常況としている者であることをその適用の要件としている。
ロ ところで、請求人は、本件特例の適用に関し、毎年、数日間とはいえ、請求人がGの介護を行い、Gと生活を共にしているのであるから、年5日以上の同居の実態があれば、本件特例に定める「同居を常況としている」とみなすことができる旨主張する。
 しかしながら、本件特例は、特別障害者が家庭において家族と一緒に生活できるよう配慮し、在宅において特別障害者が介護されることを税制面でも促進し、福祉対策に資する等の趣旨で設けられたものであるから、本件特例に定める「同居を常況としている」とは、特別障害者が介護施設などに入居せず、在宅により介護等を受けている場合をいうものと解される。
ハ これを本件についてみると、上記1の(4)の基礎事実及び上記(1)の当審判所の認定事実によれば、Gは、昭和56年8月に本件施設に入居後、そのほとんどの期間を本件施設で過ごしており、Gが本件施設で生活している間の同人に対する介護は、本件施設の職員が行っていると認められる。
 請求人は、平成13年中において原処分庁が主張する期間のほかに、Gは平成13年1月4日の昼食時までは実家に、また、平成13年4月29日から同年5月7日までの間は請求人宅に滞在しており、その間は請求人がGの介護等を行った旨主張するが、Gは、昭和56年8月に本件施設に入所後、年十数日程度の実家への帰宅期間を除き、本件施設で起居し、本件施設の職員の介護を受けているのであるから、仮に、平成13年中において請求人の主張する期間、請求人がGと起居を共にしていたとしても、その程度のことをもってGが請求人と「同居を常況としている」ということはできない。
ニ 以上のとおりであるから、原処分庁が原処分を行うに当たり、本件特例の適用を認めなかったことは相当と認められる。

(3)平成13年分の納付すべき税金(還付される税金)について

イ 原処分における別表2の「原処分額」欄記載の各金額について当審判所が原処分関係資料を検討したところ、請求人が平成13年分の確定申告書に添付した共済掛金払込証明書及び損害保険料控除証明書によれば、請求人が平成13年中に支払った共済掛金3,150円(割戻金を除く。)及び損害保険料12,402円は、いずれも所得税法第77条《損害保険料控除》第1項第1号に該当するものと認められ、その合計額は4,000円を超えるので、同号ハの規定に基づき、請求人の総所得金額から控除される損害保険料の額を算定すると、その金額は3,000円となる。
ロ 以上に基づき、請求人の平成13年分の還付される所得税額を算定すると、別表2の「審判所認定額」の「〔16〕」欄記載のとおり○○○○円となる。
ハ そうすると、原処分における請求人の平成13年分の還付される所得税額○○○○円(別表2の「原処分額」の「〔16〕」欄記載の金額)は、上記ロの当審判所の認定額○○○○円の範囲内であるから、これに基づき行われた原処分は適法である。

(4)その他

 原処分のその他の部分について、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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