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(平15.2.26裁決、裁決事例集No.65 283頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、日本国内において人的役務の提供を受けたことに関して支払った外国法人に対する支払額について、その国内源泉所得の範囲を争点とする事案である。

(2)審査請求に至る経緯

イ 原処分庁は、平成13年12月25日付で、平成10年4月から平成13年3月までの各月分(以下「本件各月分」という。)の源泉徴収に係る所得税(以下「源泉所得税」という。)について、別表の「納税告知処分の額」欄のとおりの各納税告知処分(以下「本件各納税告知処分」という。)及び同表の「不納付加算税の額」欄のとおりの不納付加算税の各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」という。)をした。
ロ 請求人は、これらの処分を不服として、平成14年2月26日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年5月23日付でいずれも棄却の異議決定をしたので、同年6月20日に審査請求をした。

(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、大韓民国(以下「韓国」という。)の居住者である芸能人(以下「本件芸能人」という。)を、韓国に主たる事務所を有する財団法人G及び財団法人H(以下、併せて「韓国芸能法人」という。)を通じて日本国内に招へいし、請求人が請負契約を締結したクラブ等(以下「出演先」という。)に本件芸能人を派遣して、出演先から受け取る出演料を収益としている。
ロ 請求人は、韓国芸能法人を通じて招へいした本件芸能人の役務提供に関して、韓国芸能法人に対し、外国送金依頼書(外国送金依頼書兼告知書又は海外送金取組依頼書を含む。以下、これらを併せて「外国送金依頼書等」という。)の送金目的欄に、給料、企画料、制作料などと記載した上で一括して送金するか又は現金で、別表の「支払総額」欄のとおりの各金額(以下「本件各支払額」という。)を支払い、その全額を韓国芸能法人に対する制作費として費用処理しているが、その各支払額に対する源泉所得税の徴収及び納付はされていない。
ハ 請求人は、本件芸能人の招へいに当たり、日本国の法務省入国管理局(以下「入国管理局」という。)に対し、「在留資格認定証明書交付申請書」(以下「本件交付申請書」という。)を提出し、入国許可を得ている。

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2 主張

(1)請求人

 原処分は、次の理由により違法であるから、本件各支払額のうち、諸経費に係る部分の取消しを求める。
イ 本件各支払額は、韓国芸能法人に対し、本件芸能人の役務提供に関して支払われているものであり、その内訳は、本件芸能人の出演先における公演による出演料(以下「本件出演料」という。)と旅費等の諸経費(以下「本件諸経費」という。)から成っている。
 請求人は、本件芸能人の招へいに伴う本件諸経費の支払に関して、韓国芸能法人と日本に所在するB協会との取決めに基づき、韓国芸能法人を経由して一括送金しているが、韓国芸能法人は、一括送金された金額から衣装会社等に対してそれぞれの金額を支払っているのであり、請求人は各支払先からの領収書を入手している。
 また、韓国芸能法人へ本件各支払額を送金する際、外国送金依頼書等の送金目的欄に衣装代、制作費、コミッション代、航空チケット代等と記入している。
 したがって、本件各支払額のうち請求人に所得税法上の源泉徴収義務があるのは、本件出演料に係る部分のみであり、本件芸能人に支払われていない実費であるところの本件諸経費については、韓国芸能法人を経由した支払であっても、源泉所得税の対象とはならない。
ロ 上記イのとおり、本件各納税告知処分は違法であり、その一部を取り消すべきであるから、これに伴い本件各賦課決定処分もその一部を取り消すべきである。

(2)原処分庁

 原処分はいずれも適法に行われているから、本件審査請求をいずれも棄却するとの裁決を求める。
イ 関係法令等
(イ)外国法人が、芸能人を日本国内に派遣し、その芸能人が日本国内で活動したことによる対価の支払を受ける場合には、当該対価は、所得税法第161条《国内源泉所得》第2号に規定する「国内において人的役務の提供を主たる内容とする事業で政令で定めるもの(所得税法施行令第282条《人的役務の提供を主たる内容とする事業の範囲》第1号に規定する映画若しくは演劇の俳優、音楽家その他の芸能人又は職業運動家の役務の提供を主たる内容とする事業)を行う者が受ける当該人的役務の提供に係る対価」に該当することになり、当該外国法人には、所得税法第5条《納税義務者》第4項、同法第7条《課税所得の範囲》第1項第5号、同法第178条《外国法人に係る所得税の課税標準》及び同法第179条《外国法人に係る所得税の税率》の規定により所得税が課されることとなる。
 そして、上記人的役務の提供の対価に含まれるものとして、所得税基本通達161−10の4《人的役務の提供に係る対価に含まれるもの》において、所得税法施行令第282条各号に掲げる事業を行う者が受ける所得税法第161条第2号に規定する人的役務の提供に係る対価には、国内において当該事業を行う者が、当該人的役務の提供に関して支払を受けるすべての対価が含まれることが明らかにされている。
(ロ)また、所得税法上の取扱いに優先して適用される租税条約による規定があるが、昭和45年10月3日条約第20号「所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための日本国と韓国との間の条約」(以下「昭和45年日韓租税条約」という。)では、その第6条(1)の規定により、日本国内に恒久的施設(事業を行う一定の場所をいう。以下同じ。)を有しない韓国の法人は、原則として、日本国においては租税を免除されるが、韓国の法人が日本国内で芸能人の役務を提供して所得を得た場合は、例外的に同条約第4条(4)の(b)の(〈2〉)の規定により、日本国内に恒久的施設を有するものとされ、同条約第6条(2)の規定により、日本国の租税が課される。
 さらに、その後の条約改正により、平成12年1月1日以降の支払に適用される平成11年10月27日条約第14号「所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための日本国と韓国との間の条約」(以下「平成11年日韓租税条約」という。)でも、その第7条1の規定により、韓国の法人の利得に対しては、日本国の恒久的施設を通じて行う部分に対してのみ、日本国の租税が課されることとなっているが、日本国内において韓国の芸能人が行った役務提供による所得が、韓国の法人に帰属する場合には、同条約第17条2の(a)の規定により、日本国の租税を課すことができることとなる。
(ハ)ところで、所得税法第212条《源泉徴収義務》第1項は、「非居住者に対し国内において同法第161条第1号の2から第12号までに掲げる国内源泉所得の支払をする者又は外国法人に対し国内において同条第1号の2から第7号まで若しくは第9号から第12号までに掲げる国内源泉所得の支払をする者は、その支払の際、これらの国内源泉所得について所得税を徴収し、その徴収の日の属する月の翌月10日までに、これを国に納付しなければならない」と規定している。
 したがって、韓国の法人に対して、所得税法第161条第2号に規定する人的役務の提供に係る対価の支払をする者は、同法第212条第1項及び同法第213条《徴収税額》第1項第1号の規定により、その対価の額に100分の20の税率を乗じて計算した金額を所得税として徴収し、これを国に納付しなければならないこととなる。
(ニ)これを本件各支払額についてみると、請求人は、本件芸能人の役務提供を主たる業務とする韓国芸能法人から本件芸能人の派遣を受け、派遣された本件芸能人が日本国内の出演先で役務の提供をしたことに関して本件各支払額を韓国芸能法人に支払っていたのであるから、請求人が韓国芸能法人に支払った本件各支払額は、外国法人に対して支払われる国内源泉所得に該当し、また、昭和45年日韓租税条約及び平成11年日韓租税条約上も日本国において租税を課すことができるので、請求人は、その各支払額の金額に1OO分の20の税率を乗じて計算した金額を所得税として徴収し、国に納付すべきことになる。
(ホ)請求人は、本件各支払額には、国内源泉所得に該当しない本件諸経費が含まれている旨主張する。
 しかしながら、上記(イ)に記載したとおり、人的役務の提供に係る対価には、国内において所得税法施行令第282条各号に掲げる事業を行う者が、所得税法第161条第2号に規定する人的役務の提供に関して支払を受けるすべての対価が含まれることになるので、請求人の主張には理由がない。
 また、請求人は、本件諸経費の支払を本件各支払額に含めて一括して支払っているのは日本と韓国の関係団体の合意等によるものである旨主張するが、仮に当該合意等があったとしても、これらのことにより本件諸経費の額が人的役務の提供に関して支払を受けるすべての対価に該当しなくなるものでないので、この点についての請求人の主張にも理由がない。
ロ 本件各納税告知処分
 請求人は、韓国芸能法人に対する本件各支払額の支払の際に源泉所得税を徴収し、これを国に納付すべきところ、これを行っていないので、所得税法第213条第1項第1号の規定に基づき、請求人の本件各月分の納付すべき源泉所得税の額を計算すると、別表の「納税告知処分の額」欄の額と同額となることから、本件各納税告知処分は適法である。
ハ 本件各賦課決定処分
 上記ロに記載したとおり、本件各納税告知処分は適法であり、本件各納税告知処分により納付すべきこととなった源泉所得税を法定納期限までに納付しなかったことについて、請求人の場合、国税通則法第67条《不納付加算税》第1項ただし書に規定する「正当な理由があると認められる場合」に該当する事実は認められないことから、本件各賦課決定処分は適法である。

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3 判断

 本件は、本件各支払額につき、国内源泉所得の範囲に争いがあるので、以下審理する。

(1)認定事実

 原処分関係資料、請求人提出資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
イ 請求人の代表取締役であるDは、平成14年11月15日、当審判所に対し、要旨次のとおり答述している。
(イ)本件芸能人の招へいについては、韓国労働部の許可の関係から、韓国芸能法人を通じて行う必要があり、また、芸能人として国外に出国するためには、社団法人F(以下「F社」という。)による技能試験に合格する必要があることから、請求人が韓国芸能法人に本件芸能人の招へいを依頼する。
 なお、この際、請求人と韓国芸能法人の間では契約書等は取り交わされていない。
(ロ)請求人は、本件芸能人の日本国内への入国手続について、上記(イ)のF社が発行する「合格事実確認書」、請求人と本件芸能人との「契約書」、請求人と出演先との「請負契約書」などの書類を本件交付申請書に添付して入国管理局に提出し、入国許可を得ている。
(ハ)請求人は、韓国芸能法人に対する本件各支払額のうち、航空チケット代を除き、本件芸能人1人1か月当たりの基本金額をおおむね330,000円とする旨の取決めがあるものの、本件諸経費の支払については、韓国芸能法人が各支払先への手配をしていることから、本件各支払額の支払時点では、本件諸経費の内訳を確認できず、本件諸経費の各支払額を把握できるのは、韓国芸能法人への送金後に各支払先から領収書が送付されてからである。
 なお、上記基本金額のうち、あらかじめ定められている金額は、本件出演料が1人1か月当たり200,000円で、韓国芸能法人へのコミッション代が、本件芸能人1人1か月当たり40,000円である。
(ニ)請求人は、本件各支払額について、韓国芸能法人から、大部分は電話で、ときには、本件芸能人の空港への到着時間を通知するファックスにより、総額で請求される。
(ホ)本件各支払額を韓国芸能法人へ海外送金するときは、すべて一括して送金しているが、韓国芸能法人の者等が来日したり、請求人が韓国へ出向いた時には、韓国芸能法人、制作会社及び衣装会社へ直接現金で支払うことがある。
(ヘ)なお、請求人は、原処分のうち本件出演料に相当する金額に係る部分については争わない。
ロ 平成12年5月以降の外国送金依頼書等の送金目的欄には、給料以外に、企画料、制作料等の本件諸経費の項目は記載されているが、送金額の内訳は不明である。
ハ 請求人から提出された本件諸経費に係る各支払先からの各領収書は、これを本件各月分に分けると、本件各支払額の本件各月分の合計額に合致するにとどまり、本来、本件各支払額を構成すべき本件諸経費の支払に個別的に対応しておらず、その記載自体からも本件諸経費を直接支払ったことを明らかにできるものでなく、加えて、当該各領収書の中には、その金額が2か月分合計のものや、領収日付後に作成された領収書の用紙を使用したものなどがあることから、当該各領収書をもって、請求人が、本件諸経費に係る部分を各支払先へ直接支払ったとする事実は認められない。
ニ 請求人から提出された本件諸経費に係る各支払先からの領収書以外に、請求人が制作会社、衣装会社等へ本件諸経費を直接現金で支払ったことを認めるに足る証拠資料は提出されておらず、当審判所の調査によっても、その事実は認められない。

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(2)関係法令等

イ 所得税法第2条《定義》第1項第7号に規定する外国法人に対する所得税法における課税所得の範囲については、同法第7条第1項第5号の規定に基づき、同法第161条第1号の2から第7号まで及び第9号から第12号までに掲げるものを国内源泉所得と定めているところ、外国法人が日本国内において芸能人の役務を提供することにより取得する対価については、同法第161条第2号において国内源泉所得に該当する旨規定されている。
 また、所得税法第161条第2号に規定する国内源泉所得に係る事業の範囲について、所得税法施行令第282条第1号に「映画若しくは演劇の俳優、音楽家その他の芸能人又は職業運動家の役務の提供を主たる内容とする事業」と規定されている。
 そして、外国法人に対して、国内において所得税法第161条第2号に掲げる国内源泉所得の支払をする者は、所得税法第212条第1項及び同法第213条第1項第1号の規定により、その対価の額に1OO分の20の税率を乗じて計算した金額を所得税として徴収し、国に納付することとされている。
ロ 国内源泉所得とされる所得税法第161条第2号に規定する人的役務の提供に係る対価については、人的役務の提供事業に関する対価の支払者が、その役務の提供事業者にとって経費相当分となる額を含めて支払ったとしても、それが、その役務の提供事業者にその役務の提供に関するものとして一括して支払われ、いったんその全額が役務の提供事業者に帰属した上で、その役務の提供事業者によりその経費の支払に充てられる場合には、その対価の支払者による支払の段階では、その役務の提供事業者の収入金額となることから、上記経費相当分(その役務の提供事業者による支払の段階でその者の必要経費となる。)は、当該対価に含まれるものと解するのが相当である。

(3)国内源泉所得の範囲

イ 請求人は、韓国芸能法人に対する本件各支払額のうち、本件諸経費は、本件芸能人に支払われていない実費である旅費等の経費であるから、韓国芸能法人を経由した支払であっても、源泉所得税の対象とはならない旨主張する。
 しかしながら、韓国芸能法人に対する本件各支払額の中に、衣装代、制作費、コミッション代、航空チケット代等が含まれているとしても、本件各支払額は韓国芸能法人から総額で請求され、韓国芸能法人へ一括して支払われているのであって、このことを、上記(2)のロの国内源泉所得とされる所得税法第161条第2号に規定する人的役務の提供事業に係る対価の趣旨に照らすと、請求人が主張するところの本件諸経費も、すべて人的役務の提供事業に係る対価と認められる。
ロ 請求人は、本件各支払額を一括して韓国芸能法人に支払っているのは、韓国芸能法人と日本に所在するB協会の取決めによるものであり、外国送金依頼書等の送金目的欄には本件諸経費の項目を記入するとともに、本件諸経費に係る各支払先から領収書を入手している旨主張する。
 しかしながら、上記(1)のロからニまでのとおり、〔1〕本件各支払額は、韓国芸能法人へ一括して支払われていること、〔2〕請求人が、本件諸経費について、当該諸経費に係る各支払先へ直接現金で支払をした事実は認められないことから、韓国芸能法人とB協会との取決めの有無、外国送金依頼書等の送金目的欄の記載内容及び本件諸経費に係る各支払先からの領収書の有無にかかわらず、本件諸経費は、人的役務の提供事業に係る対価の額に含まれることとなる。
ハ したがって、請求人が韓国芸能法人に支払った本件諸経費を、所得税法第161条第2号に規定する人的役務の提供事業に係る対価であると認めた原処分は相当であり、この点に関する請求人の主張にはいずれも理由がない。

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(4)本件各納税告知処分

 上記1の(3)のとおり、請求人は、外国法人である韓国芸能法人から本件芸能人の派遣を受け、これを出演先に派遣した上で、本件芸能人が提供する人的役務の対価として、出演料を出演先から受領し、本件芸能人の役務提供事業に関して、本件各支払額を韓国芸能法人に支払っているものと認められる。
 そうすると、韓国芸能法人は、所得税法第5条第4項及び同法第7条第1項第5号の規定により、本件各支払額について、国内源泉所得として所得税を納める義務を負い、同法第178条及び同法第179条の規定により、本件各支払額の金額を課税標準とし、これに100分の20の税率を乗じて計算した金額が韓国芸能法人に対する所得税となる。
 そして、所得税法第212条及び同法第213条の規定により、外国法入に対し日本国内において、同法第161条第2号の国内源泉所得の支払をする者は、その支払の際、その国内源泉所得について、100分の20の税率を乗じて計算した所得税を徴収し、その徴収の日の属する翌月10日までに、これを国に納付しなければならないことから、請求人は、国内源泉所得である本件各支払額について源泉徴収をする義務がある。
 しかしながら、請求人は、本件各支払額を支払った翌月10日までに源泉所得税を納付しなかったのであるから、本件各月分における納付すべき源泉所得税の額を計算すると、別表の「納税告知処分の額」と同額となるので、本件各納税告知処分は適法である。

(5)本件各賦課決定処分

 以上のとおり、本件各納税告知処分は適法であり、また、本件各納税告知処分に係る源泉所得税を法定納期限までに納付しなかったことについて、国税通則法第67条第1項ただし書に規定する正当な理由がある場合に該当しないので、本件各賦課決定処分は適法である。

(6)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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