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(平15.2.20裁決、裁決事例集No.65 343頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、写真製版業及び出版業を営む同族会社である審査請求人(以下「請求人」という。)が、翌事業年度に対応する役員報酬等を事業年度終了の日までに一括して支払ったことについて、当該役員報酬等をいつの事業年度の損金の額に算入すべきであるかが争われた事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成9年5月1日から平成10年4月30日まで、平成10年5月1日から平成11年4月30日まで及び平成11年5月1日から平成12年4月30日までの各事業年度(以下、順次「平成10年4月期」、「平成11年4月期」及び「平成12年4月期」といい、これらを併せて「本件各事業年度」という。)の法人税について、青色の確定申告書に別表1の「確定申告」欄のとおり記載して、いずれも法定申告期限までに申告した。
ロ 原処分庁は、これに対し、平成13年5月21日付で、別表1の「更正処分等」欄のとおりの各更正処分(以下「本件各更正処分」という。)及び過少申告加算税の各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」という。)をした。
ハ 請求人は、原処分を不服として、平成13年7月17日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年10月15日付で、平成10年4月期及び平成11年4月期の各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分に対する異議申立てをいずれも棄却し、平成12年4月期の更正処分に対する異議申立てを却下する異議決定をした。
ニ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成13年11月14日に審査請求をした。

(3)関係法令等

イ 法人税法(平成12年法律第97号による改正前のもの。以下同じ。)第22条《各事業年度の所得の金額の計算》
 法人税法第22条第3項第2号は、内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の損金の額に算入すべき金額として、当該事業年度の販売費、一般管理費その他の費用(以下「費用等」という。)の額を掲げるとともに、その費用等の範囲について、償却費以外の費用の場合には、当該事業年度終了の日までに債務の確定しているものとする旨規定している。
ロ 法人税基本通達2−2−12《債務の確定の判定》(以下「本件債務通達」という。)
 本件債務通達は、上記イの「当該事業年度終了の日までに債務の確定しているもの」とは、別に定めるものを除き、当該事業年度終了の日までに、〔1〕当該費用に係る債務が成立していること(以下「債務成立要件」という。)、〔2〕当該債務に基づいて具体的な給付をすべき原因となる事実が発生していること(以下「給付原因発生要件」という。)及び〔3〕その金額を合理的に算定することができるものであること(以下「合理的算定要件」といい、債務成立要件及び給付原因発生要件と併せて「確定債務3要件」という。)の3つの要件をすべて満たしている場合をいう旨定めている。
ハ 法人税基本通達2−2−14《短期の前払費用》(以下「本件前払通達」という。)
 本件前払通達は、その前段において、前払費用(一定の契約に基づき継続的に役務の提供を受けるために支出した費用のうち、当該事業年度終了の時においてまだ提供を受けていないものをいう。以下同じ。)の額は、当該事業年度の損金の額に算入されないとの原則を定めるとともに、その後段において、前払費用の額でその支払った日から1年以内に提供を受ける役務に係るものを支払った場合において、その支払った額に相当する金額を継続してその支払った日の属する事業年度の損金の額に算入しているときは、これを認める旨の取扱い(以下「後段の取扱い」という。)を定めている。

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(4)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所が調査したところによっても、その事実が認められる。
イ 役員報酬
(イ)請求人の平成9年4月25日付の臨時株主総会議事録には、役員報酬について、要旨次のとおり決議された旨の記載がある。
A 取締役の平成9年4月26日から平成10年4月25日までの年俸額(以下「9年4月役員報酬」という。)は、Gが18,000,000円、Hが7,750,800円。
B 当該取締役が、上記Aの期間中に辞任するか解任された場合は、原則として、年俸額を日数按分する。
(ロ)請求人の平成10年4月24日付の臨時株主総会議事録には、役員報酬について、要旨次のとおり決議された旨の記載がある。
A 取締役の平成10年4月26日から平成11年4月25日までの年俸額(以下「10年4月役員報酬」という。)は、Gが18,000,000円、Hが7,750,800円。
B 当該取締役が、上記Aの期間中に辞任するか解任された場合は、原則として、年俸額を日数按分する。
(ハ)請求人の平成11年4月23日付の臨時株主総会議事録には、役員報酬について、要旨次のとおり決議された旨の記載がある。
A 取締役の平成11年4月26日から平成12年4月25日までの年俸額(以下「11年4月役員報酬」という。)は、Gが18,000,000円、Hが8,110,800円。
B 当該取締役が、上記Aの期間中に辞任するか解任された場合は、原則として、年俸額を日数按分する。
(ニ)請求人の平成12年4月25日付の臨時株主総会議事録には、役員報酬について、要旨次のとおり決議された旨の記載がある。
A 取締役の平成12年4月26日から平成13年4月25日までの年俸額(以下「12年4月役員報酬」といい、「10年4月役員報酬」及び「11年4月役員報酬」と併せて「本件各役員報酬」という。)は、Gが18,000,000円、Hが8,110,800円。
B 当該取締役が、上記Aの期間中に辞任するか解任された場合は、原則として、年俸額を日数按分する。
(ホ)請求人は、9年4月役員報酬の合計金額25,750,800円、10年4月役員報酬の合計金額25,750,800円、11年4月役員報酬の合計金額26,110,800円及び12年4月役員報酬の合計金額26,110,800円を、それぞれ平成8年5月1日から平成9年4月30日までの事業年度(以下「平成9年4月期」という。)、平成10年4月期、平成11年4月期及び平成12年4月期の損金の額に算入した。
(ヘ)請求人は、上記(ホ)の各金額を、それぞれ平成9年4月25日、平成10年4月25日、平成11年4月25日及び平成12年4月25日に、社会保険料等として控除する金額を差し引いた残額の12分の1を額面金額とする12枚の約束手形を振り出して支給した。
 なお、約束手形の決済期日は、各年5月25日以降の各月の25日である。
ロ 従業員給与
(イ)年俸制に関する合意書
 請求人が、従業員(以下「本件従業員」という。)との間で締結した平成10年4月24日付、平成11年4月26日付及び平成12年4月25日付の年俸制に関する各合意書(以下「本件各合意書」という。)には、要旨別表2及び次のAないしCのとおりの内容が記載されている(以下、本件各合意書の各日付に従い、本件各合意書記載の年俸を順次「10年4月給料」、「11年4月給料」及び「12年4月給料」といい、これらを併せて「本件各給料」という。)。
A 本件従業員は、請求人に対して、年俸対象期間中において、その労務を誠実に提供しなければならない。ただし、年俸対象期間中に本件従業員が退職する場合は、本件従業員は、退職後は労務を提供しないことになるので、退職月後に決済される予定の月割額を受給する権利はない(本件各合意書の第4条)。
B 請求人は、本件従業員に対し、年俸金額を12で除した額を毎月28日に支払う(本件各合意書の第3条第1項)。
C 請求人は、本件従業員に対して、年俸金額の月割額から控除すべき金額を差し引いた残額を額面金額とする約束手形で支払う(本件各合意書の第3条第2項)。
(ロ)請求人は、10年4月給料の合計金額14,983,200円、11年4月給料の合計金額21,392,400円及び12年4月給料の合計金額18,177,600円を、それぞれ平成10年4月期、平成11年4月期及び平成12年4月期の損金の額に算入した。
(ハ)請求人は、本件各合意書の内容(上記(イ)のB及びC)に応じた約束手形を振り出した。
(ニ)承諾書
 本件従業員が請求人に対して提出した平成10年4月24日付、平成11年4月26日付及び平成12年4月25日付の各承諾書(以下「本件各承諾書」という。)には、別表3の内容を承諾する旨の記載がある(以下、本件各承諾書の各日付に従い、本件各承諾書記載の賞与を順次「10年4月賞与」、「11年4月賞与」及び「12年4月賞与」といい、これらを併せて「本件各賞与」という。)。
(ホ)請求人は、10年4月賞与の合計金額1,205,000円、11年4月賞与の合計金額4,540,000円及び12年4月賞与の合計金額4,140,000円を、それぞれ平成10年4月期、平成11年4月期及び平成12年4月期の損金の額に算入した。
 なお、請求人は、平成9年4月期において、平成10年4月期に対応する給料及び賞与を損金の額に算入していない。

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2 主張

(1)原処分庁の主張

イ 平成12年4月期に係る更正処分
 平成12年4月期に係る更正処分は、当該事業年度の納付すべき税額を増加させる更正処分でないことが明らかであり、請求人の権利又は利益を侵害するものではないから、当該更正処分に対する審査請求は不適法である。
 よって、当該審査請求を却下するとの裁決を求める。
ロ 原処分のうち上記イ以外の各処分
 原処分のうち上記イ以外の各処分は、次の理由により適法であるから、当該各処分に係る審査請求をいずれも棄却するとの裁決を求める。
(イ)平成10年4月期及び平成11年4月期に係る各更正処分
 本件各役員報酬、本件各給料及び本件各賞与(以下、これらを併せて「本件各役員報酬等」という。)は、以下の理由により、その支払った日の属する事業年度(以下「支払事業年度」という。)の損金の額に算入すべきではなく、その翌事業年度の損金の額に算入すべきである。
A 債務の確定
 費用等が法人税法第22条第3項第2号の債務の確定したものとして損金の額に算入すべき金額となるためには、本件債務通達の定める確定債務3要件を満たす必要がある。
 また、役員報酬は、役員が株主からの委任を受けて業務を執行したことの対価として支払われるものであり、また、従業員給料及び賞与は、法人と使用人の雇用契約に基づいて提供した労務の対価として支払われるものであるから、役員報酬、従業員給料及び賞与(以下「役員報酬等」という。)は、時の経過に応じて自動的に費用化される性質のものではなく、役員及び従業員が、業務の執行や労務の提供(以下「労務の提供等」という。)をして、その職務等を全うすることによって初めて、役員及び従業員は役員報酬等を法人に請求することができ、法人においては、その時に支払債務が確定することになる。
 そうすると、本件各役員報酬等は、その支払事業年度の翌事業年度に対応する費用であり、各支払事業年度終了の日までに、労務の提供等がされていないから、本件債務通達の給付原因発生要件を満たしているとはいえず、請求人の支払債務は確定していないことになる。
 したがって、本件各役員報酬等は、各支払事業年度の損金の額に算入すべき金額とはならない。
B 本件前払通達の後段の適用
 請求人は、仮に本件各役員報酬等が各支払事業年度の翌事業年度に対応する費用であるとしても、本件前払通達が定める後段の取扱いの要件を充足しているから、本件各役員報酬等を各支払事業年度の損金の額に算入することができる旨主張する。
 しかしながら、本件前払通達の後段の取扱いは、前段で定められた前払費用に係る費用収益対応の原則の例外であり、この例外を認める根拠は、「重要性の原則」(企業の会計処理の基準となる原則の1つで、重要性の乏しいものについては本来の厳密な会計処理によらないで他の簡便な方法によることを認める旨の原則をいう。以下同じ。)に基づく会計処理を、税務においても認めたものであると解されている。
 これを本件についてみると、本件各役員報酬等は、課税所得の計算上重要性が乏しいとは到底いえないから、本件前払通達の後段の取扱いの適用を受けることはできない。
 したがって、請求人の主張には理由がない。
(ロ)本件各賦課決定処分
 上記(イ)のとおり、平成10年4月期及び平成11年4月期に係る各更正処分は適法であり、また、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、平成10年4月期については同条第1項及び第2項の、平成11年4月期については同条第1項の規定に基づいて行った本件各賦課決定処分は、いずれも適法である。

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(2)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 本件各更正処分
 本件各役員報酬等は、以下の理由により、その支払事業年度の損金の額に算入すべきである。
(イ)債務の確定
A 法人税法第22条第3項の解釈及び適用
 法人税法第22条第3項は、債務の確定という法人税法特有の概念を用いて、企業会計上当該事業年度の費用とされるものであっても、債務の確定がないものについては、法人税法に特段の定めがあるものを除き、法人税法上、損金として取り扱われないことを定めている。
 このように、法人税法が、損金の額に算入すべき金額について、債務の確定なる概念を特に要求しているのは、費用を、単に会計的事実によってではなく、何らかの法的な債権債務関係によってとらえようとする立場を採っているからであり、法人が計上した費用が企業会計上は期間に対応していないとしても、必ずしも法人税法上の損金にならないわけではない。
B 本件における「債務の確定」
(A)原処分庁は、役員報酬等が、時の経過に応じて自動的に費用化される性質のものではなく、役員及び従業員が、労務の提供等をして、その職務を全うすることによって初めて、請求することができ、法人の支払義務もその時に確定するものである旨主張する。
(B)確かに、会社と役員及び従業員との間に法律の規定と異なる特段の取決めがない場合には、原処分庁が主張するように取り扱うべきである。
 しかしながら、本件については、臨時株主総会議事録、本件各合意書及び本件各承諾書における特段の取決め(以下「本件取決め」という。)があることによって、本件各役員報酬等の支払対象である役員(以下「本件役員」という。)及び本件従業員は、その職務等を全うする前に、上記の特段の取決めを根拠に、本件各役員報酬等の支払を求めることができ、また、請求人は、当該求めに応じて支払う義務を負い、請求人は、実際に当該支払義務に基づいて、本件役員及び本件従業員に対して手形を振り出しているのである。
 したがって、請求人の債務は確定したものであるといえる。
C これに対して、原処分庁は、本件各役員報酬等に係る債務について、当該事業年度終了の日までに本件債務通達の給付原因発生要件を満たしているとはいえず、請求人の支払債務は確定していないと主張する。
 しかしながら、上記Bの(B)のとおり、本件各役員報酬等は、本件取決めによって、各支払事業年度終了の日までにその債務が確定し、本件債務通達を充足しているにもかかわらず、翌事業年度に対応する費用であるという理由だけでその事実を否定するのは、私的自治という私法取引の大原則を無視した重大な誤りであり、違法なものである。
D 以上のとおりであり、本件各役員報酬等は、それが翌事業年度に対応する費用かどうかに関係なく、各支払事業年度において、本件取決めによる支払義務があるから、上記のとおり法人税法に内在する「法的な債権債務関係」に基づき、各支払事業年度の損金とすべきである。
(ロ)本件前払通達の後段の適用
 仮に、本件各役員報酬等が支払事業年度の翌事業年度に対応する費用であるとしても、本件各役員報酬等は、本件前払通達の後段の取扱いが定める費用等に該当するから、各支払事業年度の損金の額に算入すべきである。
A 本件前払通達の後段は、期間対応していない費用であっても、〔1〕支払った日から1年以内に提供を受ける役務に係る前払費用であること、〔2〕支払った額に相当する金額を継続してその支払事業年度の損金の額に算入していること、この2つの要件を満たすものについては、支払事業年度の損金の額に算入することを認める旨定めているところ、原処分庁は、当該後段の取扱いについては、重要性の原則から逸脱しない限度でその適用が認められるものである旨主張する。
B しかし、本件前払通達の後段の取扱いには、「重要性の乏しいものを対象にする。」あるいは「重要性の高いものは除外する。」などという文言はないのに、課税当局が、恣意的に「重要性の有無」という尺度で適用対象を判断することになると、納税者の税額確定における予測可能性が担保されないことになる。
 このような公権力による恣意的な課税は、日本国憲法の要請する租税法律主義に反することとなり、違憲である。
C また、仮に、本件前払通達の後段の取扱いが重要性の原則に基づくものであるとしても、次のとおり、本件各役員報酬等について適用がないとする理由が不明確である。
(A)原処分庁は、請求人が、支払事業年度の翌事業年度に係る前払家賃を、その支払った日の属する各事業年度の損金の額に算入しているにもかかわらず、本件各更正処分の対象とはしていない。
(B)また、原処分庁は、本件各役員報酬等について、役務提供の内容が翌事業年度に対応するものであるからという理由で、その各支払事業年度の損金の額への算入を認めない。
(C)原処分庁が、このように矛盾した取扱いをし、その主張する「重要性の原則」についての具体的な適用基準を明確にしないまま、本件前払通達の後段の取扱いを適用するか否かの判断をしていることは、原処分庁が通達を単なる課税の道具としかとらえていないことを示しており、租税法規の補完である通達の性格に反し、租税法律主義にも違反しているから、違法である。
(ハ)以上のとおり、本件各更正処分は、法人税法第22条第3項及び本件前払通達の解釈から不適法であり、取り消すべきである。
ロ 本件各賦課決定処分
 上記イのとおり、本件各更正処分は違法であるから、本件各賦課決定処分は、いずれもその全部を取り消すべきである。

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3 判断

(1)平成12年4月期に係る更正処分

 平成12年4月期については、別表1のとおり、原処分庁が行った上記の更正処分によっても、請求人が納付すべき税額が増加しないことから、当該更正処分の取消しを求める審査請求は、請求の利益が認められない。
 したがって、当該更正処分に対する審査請求は、不適法であり、却下するのが相当である。

(2)平成10年4月期及び平成11年4月期に係る更正処分

イ 債務の確定
(イ)法人税法第22条第3項第2号は、上記1の(3)のイのとおり、内国法人の各事業年度の損金の額に算入すべき金額について、費用等の額で、かつ、償却費以外の費用の場合には当該事業年度終了の日までに債務の確定しているものとする旨規定している。
 そして、この「債務の確定しているもの」に係る判定については、本件債務通達が、上記1の(3)のロのとおり、別に定めるものを除き、当該事業年度終了の日までに確定債務3要件のすべてに該当することをもって、「債務の確定しているもの」と判定する旨定めているところ、当審判所においても、課税の公平を図り、所得計算は可能な限り客観的に覚知し得る事実関係に基づいて行われるべきであるという観点から、本件債務通達の取扱いを相当と認める。
 そうすると、費用等を損金の額に算入するためには、当該費用等を損金の額に算入しようとする事業年度終了の日までに、単に債務が成立しているということだけでは足りず、確定債務3要件のうちの他の2要件である給付原因発生要件及び合理的算定要件をも充足することにより、債務が確定することが必要である。
(ロ)本件における債務の確定
A 請求人は、本件各役員報酬等について、法人とその役員及び従業員との間に法律の規定と異なる特段の取決めがない場合には、原処分庁が主張するように取り扱うべきであるが、本件取決めによって、各支払事業年度終了の日までにその債務が確定しているのであるから、当該各支払事業年度の損金に算入すべきである旨主張する。
B 確かに、請求人が主張するように、本件取決めによって、請求人と本件役員及び本件従業員との間において、請求人がいう法的な債務が成立し、本件各役員報酬等が具体的に支払われていることが認められる。
 しかしながら、本件各役員報酬等が、法人税法上いずれの事業年度の損金の額に算入されるべきかを判断するに当たっては、本件取決めの有無、内容及び法的性格等を考慮しつつも、あくまでも上記1の(3)のイないしハの法人税に関する法令等の規定に従って、上記(イ)のとおり、法人税法が要件としている債務が確定しているかどうかを検討すべきである。
C そうすると、請求人が本件各役員報酬等をその支払事業年度である本件各事業年度の損金の額に算入するためには、本件各事業年度終了の日までに確定債務3要件すべてを充足しなければならないところ、上記1の(4)のとおり、本件取決めによっても、辞任や退職等によって労務の提供等がされない場合には、役員報酬等の支払義務が生じないことと定められていることからしても、後記Dの金額を除いた本件各役員報酬等は、それぞれ本件各事業年度の翌事業年度において役務の提供等を受けることを具体的な給付をすべき原因として支出されたものであるから、給付原因発生要件を充足しているとは認められない。
 したがって、請求人が平成10年4月期及び平成11年4月期の損金の額に算入した本件各役員報酬等の金額は、後記Dの金額を除いて、それぞれ平成10年4月期及び平成11年4月期の各事業年度終了の日までに、当該事業年度の損金の額に算入すべき債務が確定しているものとは認められないので、具体的に役務の提供等を受けた事業年度の損金の額に算入すべきである。
D 他方、10年4月役員報酬及び11年4月役員報酬のうち別表4の1及び2の各「〔2〕」欄に記載された金額は、上記1の(4)のとおり、平成10年4月期及び平成11年4月期に対応する費用等の金額であり、確定債務3要件を充足していると認められることから、それぞれの金額を各事業年度の損金の額に算入することが相当である。
ロ 本件前払通達
(イ)本件前払通達の後段の取扱い
A 前払費用は、企業会計上、一定の契約に従い、継続して役務の提供を受ける場合において、いまだ提供されていない役務に対して支払われる対価で、時間の経過とともに次期以降の費用となるものをいう。また、前払費用のうち、重要性の乏しいものについては、重要性の原則から、これを経過勘定項目として処理しないことができるとされ、その代表的なものは、未経過保険料、未経過利息、前払賃借料等で、時の経過に応じて自動的、合理的に費用化されるものである。
B そして、前払費用は、本来、その支出事業年度の損金に算入されないのが原則であるが、本件前払通達は、上記Aのような企業会計の趣旨から、法人税法第22条第4項に規定する一般に公正妥当と認められる会計処理の基準といえる重要性の原則に沿う限りにおいて、後段の取扱いを例外として適用する旨定めているものと解される。
C そうすると、本件前払通達の後段の取扱いは、重要性の原則の範囲内においてその適用が認められるべきものであり、同原則の範囲内か否かの判断に当たっては、前払費用の金額だけではなく、当該法人の財務内容に占める割合や影響等も含めて総合的に考慮する必要があると考えるべきである。
D これに対して、請求人は、〔1〕本件前払通達の後段の取扱いには「重要性の乏しいものを対象にする。」などの文言はなく、「重要性の有無」で適用対象を判断すると納税者の予測可能性が担保されなくなること、〔2〕本件前払通達の後段の取扱いを具体的な適用基準を明確にしないまま適用するのは、租税法規の補完という通達の性格に反することを理由として、租税法律主義に反する旨主張する。
 しかしながら、このような重要性の原則は、企業会計上の明確な原則であり、その適用範囲も合理的に判断できるものであるから、本件前払通達の後段の取扱いが重要性の原則に基づくことやその判断基準が本件前払通達に明示されていないからといって、租税法律主義に反するとはいえない。
(ロ)本件各役員報酬等に対する本件前払通達の後段の取扱いの適用
 上記(イ)のCの基準に照らして、本件前払通達の後段の取扱いが、本件各役員報酬等に適用されるか否かについて、以下検討する。
A 請求人は、本件各役員報酬等が、本件前払通達の後段の取扱いの各要件に該当するので、後段の取扱いが適用され、本件各事業年度の損金の額へ算入すべきである旨主張する。
B しかしながら、本件各役員報酬は請求人の業務を執行したことに対する対価として、本件各給料及び本件各賞与は請求人の指揮命令の下に労務を提供したことに対する対価として、それぞれ支払われるものであって、このような人件費は、企業が営利活動を行う上で必要なものであり、企業活動の根幹に係る行為に対する対価であることからすると、会計科目としての重要性を有するといえる。
 また、請求人の本件各事業年度の申告所得金額に対する人件費(請求人が決算書に記載している「給与」金額をいい、以下同じ。)の割合は、おおむね314.3ないし853.2%、売上金額に対する人件費の割合は、おおむね52.5ないし56.3%で、本件各事業年度に係る人件費のうちに本件各役員報酬等の金額が占める割合も、おおむね31.0ないし40.7%と、高率かつ可変的であり、金額的にみても重要性を有するといえる。
 そうすると、本件各役員報酬等は、時の経過に応じて自動的、合理的に費用化されるような重要性の乏しい費用とは本質的にその性質を異にするものであると認められ、本件各役員報酬等に対して、本件前払通達の後段の取扱いを適用することはできないと解するのが相当である。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ハ 以上のことから、請求人が平成10年4月期及び平成11年4月期の損金の額に算入した本件各役員報酬等の金額は、上記イの(ロ)のDの金額を除き、いずれも当該事業年度の損金の額に算入されない費用等として取り扱うのが相当である。
 なお、9年4月役員報酬の合計金額のうち、別表4の3の「〔3〕」欄に記載された金額は、平成10年4月期に対応する費用等の金額であるから、同事業年度の損金の額に算入すべき費用等として取り扱うのが相当である。

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(3)平成10年4月期及び平成11年4月期の所得金額及び税額

イ 平成10年4月期
(イ)請求人の平成10年4月期の所得金額は、別表5の1のとおり、更正処分前の請求人の平成10年4月期の所得金額である別表1の「確定申告」欄の○○○○円に、平成11年4月期に対応する費用等の金額に当たる〔1〕10年4月役員報酬の合計金額のうち別表4の1の「〔3〕」欄の金額25,398,050円、〔2〕10年4月給料の合計金額14,983,200円及び〔3〕10年4月賞与の合計金額1,205,000円を加算し、平成10年4月期に対応する費用等の金額に当たる、9年4月役員報酬の合計金額のうち別表4の3の「〔3〕」欄の金額25,398,050円を減算した、○○○○円となる。
(ロ)そして、上記(イ)の所得金額に対する請求人の納付すべき法人税額(差引合計税額)は、11,583,000円となる。
 なお、原処分庁は、法人税法第67条《同族会社の特別税率》の適用に当たり、平成10年4月期に留保した金額から9年4月役員報酬の合計金額を減算していないが、9年4月役員報酬の合計金額のうち平成10年4月期の損金の額に算入される金額25,398,050円は、平成10年4月期の留保金額を算定する上で、同期に留保した金額から控除されるべきである。
(ハ)そうすると、請求人の納付すべき法人税額は、平成10年4月期に係る更正処分の額を下回るから、平成10年4月期に係る更正処分は、その一部を取り消すべきである。
ロ 平成11年4月期
(イ)請求人の平成11年4月期の所得金額は、別表5の2のとおり、更正処分前の請求人の平成11年4月期の所得金額である別表1の「確定申告」欄の○○○○円に、平成12年4月期に対応する費用等の金額に当たる〔1〕11年4月役員報酬の合計金額のうち別表4の2の「〔3〕」欄の金額25,754,096円、〔2〕11年4月給料の合計金額21,392,400円及び〔3〕11年4月賞与の合計金額4,540,000円を加算し、平成11年4月期に対応する費用等の金額に当たる〔4〕10年4月役員報酬の合計金額のうち別表4の1の「〔3〕」欄の金額25,398,050円、〔5〕10年4月給料の合計金額14,983,200円、〔6〕10年4月賞与の合計金額1,205,000円及び〔7〕上記イで認定した所得に基づいて、新たに平成10年4月期の損金の額に算入される事業税の金額1,942,600円を減算した、○○○○円となる。
(ロ)そして、上記(イ)の所得金額に対する請求人の納付すべき法人税額(差引合計税額)は、8,478,300円となる。
(ハ)そうすると、請求人の納付すべき法人税額は平成11年4月期に係る更正処分の額を下回るから、平成11年4月期に係る更正処分はその一部を取り消すべきである。
ハ 本件各賦課決定処分
 平成10年4月期及び平成11年4月期に係る更正処分は、上記イの(ハ)及びロの(ハ)のとおり、いずれもその一部を取り消すべきであり、過少申告加算税の賦課決定処分の基礎となる税額は、平成10年4月期が6,400,000円、平成11年4月期が2,940,000円となる。
 また、この税額の計算の基礎となった事実については、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められない。
 したがって、請求人の過少申告加算税の額は、平成10年4月期が701,000円、平成11年4月期が294,000円となる。
 そうすると、平成10年4月期については、賦課決定処分の額を下回ることから、平成10年4月期の過少申告加算税の賦課決定処分は、その一部を取り消すべきである。
 他方、平成11年4月期については、賦課決定処分の額と同額であるから、平成11年4月期の過少申告加算税の賦課決定処分は適法である。

(4)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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