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(平15.2.6裁決、裁決事例集No.65 366頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、婦人既製服輸入業を営む同族法人である審査請求人(以下「請求人」という。)が所有する車両の盗難による損失の計上時期及び当該盗難車両に係る保険金収入の計上時期を争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成12年8月1日から平成13年7月31日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税について、別表1の「確定申告」欄のとおり記載した青色の確定申告書を、法定申告期限までに提出した。
 なお、請求人は、上記申告において、平成13年7月22日に盗難にあった車両運搬具(以下「本件車両」という。)に係る固定資産除却損9,376,000円(以下「本件盗難損失」という。)を損金の額に算入した。
ロ 原処分庁は、これに対し、本件盗難損失のうち本件車両の減価償却費に相当する2,243,208円を超える7,132,792円は損金の額に算入されないとして、別表1の「更正処分等」欄のとおり、平成14年4月26日付で、法人税の更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
ハ 請求人は、これらの処分を不服として平成14年6月25日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成14年7月25日付で棄却の異議決定をしたので、平成14年8月23日に審査請求をした。

(3)関係法令等

 法人税法第22条《各事業年度の所得の金額の計算》第3項は、内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の損金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、〔1〕当該事業年度の収益に係る売上原価、完成工事原価等の額(同項第1号)、〔2〕当該事業年度の販売費、一般管理費その他の費用(償却費以外の費用で当該事業年度終了の日までに債務の確定しないものを除く。)の額(同項第2号)、〔3〕当該事業年度の損失の額で資本等取引以外の取引に係るもの(同項第3号)とする旨規定しており、また、同条第4項は、当該事業年度の収益及び損金の額は、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算されるものとする旨規定している。

(4)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所が調査したところによっても、その事実が認められる。
イ 請求人は、平成12年11月20日に、本件車両を9,376,000円で取得した。
ロ 請求人は、従前より所有していた車両については、平成12年8月29日にF株式会社(以下「F社」という。)と自家用自動車総合保険契約を締結したが、本件車両の取得に当たり、平成12年11月20日に上記保険契約の被保険自動車を本件車両に変更するとともに、車両価額協定保険特約に基づく協定保険価額を9,500,000円とした(以下、この変更後の保険契約を「本件保険契約」という。)。
ハ F社は、平成13年8月31日付の「保険金お支払のご案内」で、本件車両の盗難に係る保険金9,690,000円(内訳は、全損盗難9,500,000円、臨時費用100,000円及び盗難代車費用90,000円)を請求人に支払う旨通知した。
ニ 請求人は、上記ハの保険金の額を平成13年8月1日から平成14年7月31日までの事業年度(以下「平成14年7月期」という。)の益金の額に算入した。

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2 主張

(1)原処分庁

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 保険を掛ける目的は、将来の偶発的な損失の補てんであり、保険金は契約に基づいて支払われるものであることから、損失の全部又は一部が保険金収入によって補てんされることが明らかなときには、損失とそれに基因する保険金収入の会計処理は、一般に公正妥当な会計処理基準として認められている費用収益対応の原則に従い、同一事業年度において対応させる必要があるため、保険金収入の計上がない時点においては、損失だけを先行して損金の額に算入できない。
 また、この損失と当該損失に基因する保険金収入との対応については、法人税基本通達(以下「基本通達」という。)2−1−43の注書において、当該損害賠償金の請求の基因となった損害に係る損失の額は、保険金又は共済金により補てんされる部分の金額を除き、その損害の発生した日の属する事業年度の損金の額に算入することができる旨定めている。
ロ 本件事業年度において、本件盗難損失を補てんする保険金収入は、収益に計上されていない。また、本件保険契約では、全損(車両盗難を含む)の場合、協定保険価額の全額が保険金として支払われることになっている。
ハ 以上のことから、本件盗難損失だけを先行して本件事業年度の損金の額に算入することはできない。

(2)請求人

 本件盗難損失は、次の理由により、本件事業年度の損金の額に算入されるべきであり、これを認めなかった原処分は違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 法人税法第22条第3項第3号に規定する当該事業年度の損失の額は、保険金等で補てんされる金額を控除すべき旨が明文をもって規定されていない以上、当該事業年度の損失の額から保険金等で補てんされる金額を除いたものであるとは、当然には解されない。
 また、原処分庁は、本件盗難損失の計上を認めなかった根拠として、基本通達2−1−43の注書の定めを引用しているが、これに定める当該損害賠償金の請求の基因となった損害に係る損失の額は、車両の盗難による損失の額とは別異のものであり、本件盗難損失について、当該通達を適用する余地はない。
 したがって、本件盗難損失は、法人税法第22条第3項第3号にいう損失の額に該当するので、本件車両が盗難にあった日(平成13年7月22日)の属する本件事業年度の損金の額に算入される。
ロ 原処分庁は、本件保険契約により、全損の場合は協定保険価額の全額が保険金として支払われることが明らかであるので、本件盗難損失だけ先行して損金の額に算入されない旨主張する。
 しかしながら、本件保険契約の保険約款には、F社が保険金を支払わない場合としての免責事項(以下「免責事項」という。)が定められており、F社の調査の結果、重過失と認められる場合には、保険金が一切支払われない場合もあることから、請求人が無条件に保険金を受け取ることができるものではない。
 また、本件において、請求人が車両盗難に係る保険金を受領することを認識したのは、F社から「保険金のお支払のご案内」の通知を受けた平成13年8月31日であるから、保険金収入を計上すべき事業年度は、車両価額協定保険特約によって保険金が支払われることが明らかであるかどうかにかかわりなく、上記通知を受けた日の属する平成14年7月期である。

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3 判断

(1)本件更正処分

イ 原処分関係資料、請求人提出資料及び当審判所が調査したところによれば、次の事実が認められる。
(イ)本件保険契約に係る保険約款において、保険金に関する事項は、要旨次のとおりである。
A 盗難事故が発生した場合、保険者(F社)は、被保険者(請求人)に保険金を支払う。
B 保険金請求権を行使することができる時期は、事故発生の時からである。
C 車両価額協定保険特約が付されている場合、保険金を支払うべき損害の額は、全損の場合は協定保険価額とされ、この全損には、車両の盗難事故の場合が含まれる。
(ロ)原処分庁が請求人に通知した法人税額等の更正通知書及び加算税の賦課決定通知書(以下「本件通知書」という。)の「翌期首現在の利益積立金額」欄には、本件更正処分に基づいて計上された「未収保険金7,132,792円」の記載がある。
(ハ)F社のGサービスセンターの担当者は、当審判所に対し、重過失に基因する車両盗難事故による損害は本件保険契約の保険約款の免責事項に該当せず、仮に重過失があったとしても、保険金が支払われる旨答述した。
ロ 損失等の計上
(イ)法人税法第22条第3項第3号にいう「損失」とは、会計上、一般に収益の獲得のための活動に貢献せず、収益と因果関係のない財産上の価値の喪失をいい、典型的なものとして、災害損失、為替損失、盗難による損失などがある。
 また、損失は、資産の滅失等があった場合と、事故等により債務が生じた場合とに区分できるが、前者に該当する災害や盗難(以下「災害等」という。)による損失は、後者のように債務が確定して初めて損失として認識することができる場合(不法行為に基づく損害賠償なども含む。)と違って、災害等の事実が生じた時点で損失を認識することができるから、災害等による損失の額は、基本的には、災害等があった日の属する事業年度の損金の額に算入することになる。
(ロ)しかしながら、災害等による滅失等に備えて資産に損害保険が付されている場合においては、災害等により損失が発生すると同時に、保険会社に対する保険金の支払請求権が発生し、当該損失額の全部又は一部が補てんされることとなる。
 そうすると、適正な期間損益の算定という観点からは、企業会計上の費用収益対応の原則に準じて、当該損失と当該保険金との間に対応関係を求めることが、法人税法第22条第4項にいう「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」によった処理ということになる。
 したがって、資産に損害保険が付されている場合においては、災害等による損失は、損失額を補てんする保険金の額が確定するまで仮勘定とし、その保険金の額が確定した日の属する事業年度において処理することが妥当である。
 なお、この場合でも、保険契約の内容等に照らして受け取るべき保険金の額が確定しているときは、保険会社から支払われる保険金額の通知等がなくても、その金額が確定した時点において、当該保険金を収益に計上し、同時に、災害等の損失を計上すべきである。
ハ これを本件について見れば、前記イの(イ)のB及びCによると、請求人が、本件盗難損失が発生した平成13年7月22日以降、F社に対して、本件保険契約に基づいて、前記1の(4)のロの協定保険価額である9,500,000円の保険金請求権を行使できることが明らかであり、当該保険金の額は本件事業年度に確定しているから、上記ロの(ロ)の後段に照らすと、当該保険金の額である9,500,000円を本件事業年度の益金の額に算入すべきであり、同時に、本件盗難損失も本件事業年度の損金の額に算入することになる。
ニ これに対して、請求人は、本件保険契約の保険約款には保険会社の免責事項があり、無条件に保険金が保険会社から支払われるものでないから、本件盗難損失に係る保険金収入の計上時期は、「保険金のお支払のご案内」の日付である平成13年8月31日の属する平成14年7月期である旨主張する。
 しかしながら、前記イの(ハ)のとおり、重過失に基因する車両盗難は、当該保険約款の免責事項に該当せず、たとえ、請求人に重過失があったとしても、保険金が支払われることが明らかであるから、上記ハのとおり、本件盗難損失に係る保険金収入を本件事業年度の益金の額に算入すべきである。
ホ 他方、原処分庁は、盗難損失と保険金収入とは、費用収益対応の原則に従い、同一事業年度において対応させるべきである旨主張し、原処分において、本件盗難損失(9,376,000円)から本件車両の減価償却費(2,243,208円)を差し引いた金額(7,132,792円)は、本件事業年度の損金の額に算入されないとするとともに、前記イの(ロ)のとおり、未収保険金(7,132,792円)が計上漏れであったとする処理をしている。
 このうち、盗難損失と保険金収入を同一事業年度において対応させるべきであるとし、未収保険金を計上漏れであったとする処理をしている点については、損害保険の付された資産の損失であることを前提として、費用収益対応の原則に準じて扱っていると解される限りにおいては、妥当であるといえる。
 しかしながら、本件盗難損失から当該減価償却費を差し引いた7,132,792円を損金に算入されないとし、当該金額を未収保険金としている点については、前記ハで述べたように、本件事業年度においては、本件盗難損失を損金の額に算入し、同時に保険金収入(9,500,000円)を益金の額に算入すべきであったことに照らし、適切とはいえない。
ヘ 以上のとおり、本件盗難損失は本件事業年度の損金の額に算入され、また、保険金収入の9,500,000円は益金の額に算入されるべきであるから、請求人の本件事業年度の所得金額は、別表2の「審判所認定額」欄のとおり○○○○円となる。
 そうすると、本件更正処分による所得金額○○○○円は、上記認定額を下回ることから、この範囲でされた当該更正処分は適法と認められる。

(2)本件賦課決定処分

 本件更正処分は、上記(1)のとおり適法であり、これにより納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正処分前の税額の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づいてされた本件賦課決定処分は適法である。
(3)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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