ホーム >> 公表裁決事例集等の紹介 >> 公表裁決事例 >> 裁決事例集 No.65 >> (平15.6.19裁決、裁決事例集No.65 436頁)

(平15.6.19裁決、裁決事例集No.65 436頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、ばね製造業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)がした商品券及びビール券(以下「商品券等」という。)の引渡しの一部について、これが租税特別措置法(以下「措置法」という。)第62条《使途秘匿金の支出がある場合の課税の特例》に規定する使途秘匿金の支出に当たるか否かを争点とする事案である。

トップに戻る

(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成10年3月21日から平成11年3月20日まで、平成11年3月21日から平成12年2月29日まで及び平成12年4月1日から平成13年3月31日までの各事業年度(以下、順次「平成11年3月期」、「平成12年2月期」及び「平成13年3月期」といい、これらを併せて「本件各事業年度」という。)の法人税について、青色の確定申告書に、別表1の「確定申告」欄のとおり記載して、いずれも法定申告期限までに申告した。
ロ 原処分庁は、これに対し、平成14年4月30日付で、別表1の「更正処分等」欄のとおりとする各更正処分(以下「本件各更正処分」といい、平成11年3月期及び平成12年2月期の各更正処分を併せて「本件各増額更正処分」という。)及び過少申告加算税の各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」という。)をした。
ハ 請求人は、原処分を不服として、平成14年6月28日に審査請求をした。

(3)関係法令

イ 措置法第62条第1項は、法人が使途秘匿金の支出をした場合には、当該法人に対して課する各事業年度の所得に対する法人税の額に、当該使途秘匿金の支出の額に100分の40の割合を乗じて計算した金額を加算する旨規定している。
ロ 措置法第62条第2項は、同条第1項に規定する使途秘匿金の支出とは、法人がした金銭の支出(贈与、供与その他これらに類する目的のためにする金銭以外の資産の引渡しを含む。以下同じ。)のうち、相当の理由がなく、その相手方の氏名又は名称及び住所又は所在地並びにその事由(以下「相手方の氏名等」という。)を当該法人の帳簿書類に記載していないものをいう旨規定している。
ハ 措置法第62条第3項は、税務署長は、法人がした金銭の支出のうちにその相手方の氏名等を当該法人の帳簿書類に記載していないものがある場合においても、その記載していないことが相手方の氏名等を秘匿するためでないと認めるときは、その金銭の支出を同条第1項に規定する使途秘匿金の支出に含めないことができる旨規定している。

(4)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、本件各事業年度において、別表2の「購入金額」欄に掲げる金額を交際費等の額に計上した。
ロ 上記イの金額は、いずれも、商品券等の購入代金である。
ハ 請求人は、上記ロの商品券等の引渡しの相手方の氏名等を請求人の帳簿書類に記載していない。
ニ 原処分庁は、別表2の「購入金額」欄に掲げる金額に相当する商品券等の引渡しは使途秘匿金の支出に当たるとして、当該金額の100分の40に相当する税額を加算する更正処分を行った。

トップに戻る

2 主張

(1)請求人

 原処分のうち、別表2の「係争額」欄に記載する金額に相当する商品券等(以下「本件係争商品券等」という。)の引渡しを使途秘匿金の支出と認定した部分は、次の理由により違法であるから、その取消しを求める。
イ 本件各更正処分について
(イ)措置法第62条は、企業の不明朗な支出が違法ないし不当な支出につながりやすく、公正な取引を阻害することになるから、これを抑制することを目的として制定されたものであり、単に支出先が不明であるというだけでいたずらに対象を拡大することのないよう配慮する必要があることから、同条第3項において、上記1の(3)のハのとおり規定して、税務署長の裁量による執行ができることとしている。
(ロ)本件係争商品券等は、食品詰め合わせ、石鹸などの中元・歳暮用品とともに、株式会社H(以下「H社」という。)で購入し同社から直接配送されているものであり、以下に述べるとおり、配送を委託する際に作成するH社の「ご進物申込票」又は同社からの請求書により、その配送先が判明するか又は配送された事実を推認することができるので、贈答品として使用されたことは明らかである。
A 別表2の平成13年3月期の「係争額」欄の120,000円及び140,000円に相当する商品券並びに同欄の159,731円のうち143,206円に相当するビール券については、平成13年6月25日申込み分の「ご進物申込票」の「前回」又は「前々回」欄の金額に一致することから、当該「ご進物申込票」と同じ配送先に中元又は歳暮用品として配送されたことが判明し、また、159,731円のうち残額の16,525円に相当するビール券については、平成12年6月30日付のH社の請求書に配送件数に見合う荷具配送料の請求があることから、中元用品として配送された事実を推認することができる。
B 別表2の平成11年3月期及び平成12年2月期の「係争額」欄の金額に相当するビール券については、「ご進物申込票」の控の保管がなく、その配送先は直接的には判明しないものの、平成13年3月期を含む毎事業年度にビール券を中元又は歳暮用品として配送した事実があること及びH社の請求書に配送件数に見合う荷具配送料の請求があることからみて、中元又は歳暮用品として配送された事実を推認することができる。
(ハ)本件係争商品券等の引渡しの相手方の氏名等を帳簿書類に記載しなかったのは、過去の税務調査においても指摘がなく、商品券等の引渡しが使途秘匿金の支出に当たるとの認識がなかったからであり、また、過去の「ご進物申込票」の控を保管しなかったのは、最新の「ご進物申込票」の控を保管することで用が足りるからであって、引渡しの相手方の氏名等を秘匿するためではない。
 また、請求人は交際費の支出を極力抑制しており、その額も同業他社と比較して決して過剰なものでもなく、本件係争商品券等の引渡しが不公正な取引を伴うものでもない。
 さらに、配送したビール券は、金額に換算すると3,300円ないし4,400円程度のものであり、このような少額儀礼的に使用したビール券については、その引渡しの相手方の氏名等が帳簿書類に記載されていないことについて、措置法第62条第2項の「相当な理由」があると認められる。
 そうすると、上記(イ)の立法趣旨に照らしてみても、請求人がした本件係争商品券等の引渡しは、使途秘匿金の支出に当たるとは到底考えられない。
(ニ)なお、原処分庁に提出した平成13年12月20日付の申し述べ書(以下「本件申し述べ書」という。)の「商品券等の配付先をすべて管理している」旨の記述は、配送分に係る商品券等については、H社の「ご進物申込票」の控をみれば配送先が判明するので、その意味で管理を行っているという趣旨である。
ロ 本件各賦課決定処分について
 上記イのとおり、本件各更正処分は違法であり、その一部を取り消すべきであるから、これに伴い本件各賦課決定処分もその一部を取り消すべきである。

トップに戻る

(2)原処分庁

 本件各増額更正処分及び本件各賦課決定処分は、次の理由により適法であるので、本件各増額更正処分及び本件各賦課決定処分に対する審査請求をいずれも棄却するとの裁決を求める。
イ 本件各増額更正処分について
(イ)原処分庁の調査によれば次の事実が認められる。
A 請求人が平成11年3月期及び平成12年2月期において、別表2の「購入金額」欄のとおり支出し、交際費等の額に計上した商品券等(以下「本件商品券等」という。)の購入(以下「本件各支出」という。)については、請求人が贈答したとする相手方の氏名等が請求人の提示した帳簿書類に記載がなく、その使途を明らかにする帳簿、証ひょう等の提示もなく、その使途が不明である。
B 本件商品券等については、その使途が明らかでないため、原処分に係る調査担当職員(以下「本件調査担当職員」という。)が、再三にわたり請求人に対して帳簿あるいは証ひょう等を提示するなどしてその贈答先及び在庫の状況等を明らかにするよう求めたが、請求人はこれに応じなかった。
C 請求人は、本件申し述べ書において、要旨以下のとおり申述している。
(A)請求人は、創業以来、得意先仕入先などとの取引の慣習として商品券等を利用してきたが、当該商品券等については、当然、社内管理上配付先についてはすべて管理を行っている。
(B)請求人は、設立以来法人税調査において本件のような指摘を受けたことはなく、また、使途秘匿金課税についても特別な行政指導を受けたこともないので、商品券等の管理上、使途を明らかにできるものとできないものとの特別の区分管理を行っていなかった。
(C)請求人は、今後においても商品券等の使用は引き続き行い、指摘を受けた使途秘匿金については、使用管理を厳格に行い使途が明らかにできるものと明らかにできないものとを区分し、明らかにできないものについては自主的に使途秘匿金課税を受け、申告納税する所存である。
(ロ)上記(イ)の事実からすれば、本件各支出は、請求人において本件商品券等の引渡先を明らかにしないことから、その使途が明らかでなく、その引渡しの相手方の氏名等が相当の理由がなく請求人の帳簿書類に記載されていないので、上記1の(3)のロに規定する使途秘匿金の支出に該当することとなる。
(ハ)請求人の主張について
A 請求人は、本件商品券等を、贈答品として使用したものであり、その引渡しの相手方の氏名等を帳簿書類に記載していなかったのは、過去の税務調査で指摘されなかったことにより、その引渡しが措置法第62条の適用対象となるとの認識がなかったためであり、措置法第62条の立法趣旨からしても、その記載をしていないことが相手方の氏名等を秘匿するためでないものとして、同条第3項を適用すべきである旨主張する。
 しかしながら、措置法第62条の趣旨は、企業が相手先を秘匿するような支出は、違法ないし不当な支出につながりやすく、それがひいては公正な取引を阻害することにもなることにかんがみて、そのような支出を極力抑制するためであるとされているところ、請求人は、上記(イ)のとおり、本件商品券等の配付先をすべて管理しているとしながらも、本件調査担当職員の再三にわたる帳簿書類等の提示要求に対し、相手方の氏名等を明らかにしなかったのであるから、本件商品券等の引渡しの相手方の氏名等が秘匿されているのは明らかであるのみならず、本件各支出が請求人の交際費その他の費用に該当するものか否かさえ確認できない。また、仮に本件商品券等が措置法第62条の適用対象となることの認識がなく、過去の税務調査において指摘等がなかったとしても、これらのことより、請求人が本件商品券等の引渡しの相手方の氏名等を秘匿している事実が覆るものではないから、請求人の場合、措置法第62条第3項を適用する余地はない。
 したがって、請求人の主張には理由がない。
B 請求人は、本件係争商品券等は、歳暮又は中元用品として食品詰め合わせ、石鹸などとともに、H社より発送しており、贈答品として使用した旨主張し、請求書及び「ご進物申込票」の各写しを提出している。
 しかしながら、まず、「ご進物申込票」は平成13年6月25日申込み分であって、原処分とは何ら関係がなく、また、当該提出資料のうち、原処分調査時に本件調査担当職員に提示されたのは請求書の1枚目から4枚目までであり、当該資料だけではビール券を購入した事実は推認されるものの、その引渡しの相手方及び目的が不明であるため、本件調査担当職員が当該資料に記載された商品券等の配付先等について質問した際も、請求人において相手方の氏名等を明らかにせず、また、H社より発送していた旨の回答もなかった。
C また、請求人は、交際費等の支出を極力抑制しており、同業他社と比較して決して過剰なものではないので、措置法第62条の趣旨からして、使途秘匿金の支出には当たらない旨主張する。
 しかしながら、交際費等が同業他社と比較して過剰であるか否かということは、請求人が本件商品券等の引渡しの相手方を秘匿しているか否かということとは無関係である。
 なお、本件各支出については、本件商品券等の購入の事実が推認されるのみで、引渡しの事実及びその目的並びに相手方が何ら明らかにされておらず、そもそも、請求人の交際費等であるのか否かさえ判断できないから、本件各支出を請求人の交際費等であると認めることはできない。
ロ 本件各賦課決定処分について
 請求人の場合、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する「正当な理由があると認められるものがある場合」に該当しない。
 したがって、国税通則法第65条第1項の規定を適用して過少申告加算税の額を計算すると、当該金額は本件各賦課決定処分の額と同額であるから、本件各賦課決定処分はいずれも適法である。

トップに戻る

3 判断

(1)平成13年3月期の更正処分について

 平成13年3月期の更正処分は、別表1の「更正処分等」欄のとおり、納付すべき税額を増加させる更正処分でないことが明らかであり、請求人の権利又は利益を侵害するものとはいえないから、その取消しを求める利益はなく、平成13年3月期の更正処分に対する審査請求は、請求の利益を欠く不適法なものである。

(2)本件各増額更正処分について

 別表2の平成11年3月期及び平成12年2月期の「係争額」欄の金額に相当するビール券(以下「本件ビール券」という。)の引渡しが使途秘匿金の支出に当たるか否か、また、その相手方の氏名等を帳簿書類に記載しなかったことが、引渡しの相手方の氏名等を秘匿するためであったか否かについて争いがあるので、以下審理する。
イ 請求人の提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ)請求人は、当審判所に対し、要旨次のように答述している。
A 請求人は、毎年、商品券等を食品詰め合わせなどと同様に、H社から中元又は歳暮用品として配送してもらっている。
B 本件ビール券の配送先は、該当時期の「ご進物申込票」の控を保管していないため不明であるが、いずれも請求人の取引先の関係者であった。
C 過去の「ご進物申込票」の控を保管していないのは、贈答時期になると、H社から前回及び前々回の贈答事績が印字された最新の「ご進物申込票」が送付され、これを保管すれば贈答の用が足りるからであり、配送先の氏名等を秘匿するためではない。
D ビール券は6枚を1セット、缶ビール券は5枚を1セットとして贈答していた。
(ロ)請求人は、最新の「ご進物申込票」の控を保存しているところ、当該「ご進物申込票」の控の「品名」欄には、「全国共通商品券」「びんビール」「缶ビール」「海苔」「せっけん」「焼酎」等の記載があり、また、「びんビール」等は、いずれも請求人の取引先の関係者に、5枚ないし6枚を1セットとして配送されている。
(ハ)請求人は、H社に依頼して、同社で保管している最も古い平成13年6月25日申込み分の「ご進物申込票」を取り寄せ、その写しを平成14年10月15日に当審判所に提出しているところ、当該「ご進物申込票」の「びんビール」等は、いずれも請求人の取引先の関係者に、5枚ないし6枚を1セットとして配送されている。
(ニ)H社のビール券に係る荷具配送料は全国一律410円である。
(ホ)本件ビール券の購入時のH社の各請求書の「お買上げ代表品名」欄には、「ビール券」「ビールギフト券」「缶ビール券」「せっけん」「海苔」「焼酎」「荷具配送料」等の記載があり、荷具配送料(410円)の数量は「ビール券」等の数量から計算される配送件数に一致する。
ロ 使途秘匿金の支出とは、上記1の(3)のロのとおり、金銭の支出のうち、相当の理由がなく、その相手方の氏名等が帳簿書類に記載されていないものとされているところ、「相当の理由」があるかどうかは法令上明らかにされていないので、措置法第62条の趣旨及び社会通念に照らして判断することになる。
 ところで、措置法第62条の趣旨は、企業が相手先を秘匿するような支出は、違法ないし不当な支出につながりやすく、それがひいては公正な取引を阻害することにもなるので、そのような支出を極力抑制することにあると解される。
 そうすると、例えば、支出の時期、金額の多寡等からみて相当の支出であると認められる金品の贈答については、公正な取引を阻害することにつながるものではなく、相手方の住所・氏名まで一々帳簿書類に記載しないのが通例であると認められるから、その相手方の氏名等が帳簿書類に記載されていないことに「相当の理由」があるものと解される。
ハ これを本件についてみると、〔1〕本件ビール券は、H社を通じて通常の中元又は歳暮時期に配送されたと認められること、〔2〕本件ビール券の配送先は、平成13年6月25日申込み分の「ご進物申込票」及び最新の「ご進物申込票」の控に記載されたビール券の送付先がいずれも請求人の取引先の関係者であることから、請求人の取引先の関係者であったと推認されること及び〔3〕各配送先への配送枚数からみて、本件ビール券は中元又は歳暮用品として金額的に相当であると認められることに照らしてみれば、本件ビール券の配送先については、これを帳簿書類に記載しないのが通例であると認められる。
 したがって、本件ビール券の引渡しの相手方の氏名等を帳簿書類に記載していないことに「相当の理由」があるから、その相手方の氏名等を帳簿書類に記載しなかったことが秘匿するためであったか否かを判断するまでもなく、その引渡しは使途秘匿金の支出には当たらないというべきである。
ニ なお、本件ビール券については、上記ロのとおり、直接的には、その配送先が判明しないものの、他の贈答品と同様に、H社から配送されたと認められ、その配送先は請求人の取引先の関係者であると推認することができるから、本件ビール券の購入金額は、交際費等の額に該当するものと認められる。
ホ そうすると、請求人の平成11年3月期及び平成12年2月期の納付すべき税額は、それぞれ、70,057,500円及び68,474,300円となり、これらの金額は本件各増額更正処分に係る納付すべき税額を下回るから、本件各増額更正処分は、いずれもその一部を取り消すべきである。

(3)本件各賦課決定処分について

 上記(2)のとおり、本件各増額更正処分の一部が取り消されることに伴い、平成11年3月期及び平成12年2月期の過少申告加算税の計算の基礎となる税額は、それぞれ、1,150,000円及び1,010,000円となる。
 また、納付すべき税額の計算の基礎となった事実が、本件各増額更正処分前の税額の計算の基礎とされなったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められない。
 そうすると、請求人の平成11年3月期及び平成12年2月期の過少申告加算税の額は、それぞれ、115,000円及び101,000円となり、これらの金額は本件各賦課決定処分の金額を下回るから、本件各賦課決定処分は、いずれもその一部を取り消すべきである。

(4)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

トップに戻る