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(平15.3.20裁決、裁決事例集No.65 500頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、水産養殖業を営む同族会社である審査請求人(以下「請求人」という。)に対してなされた法人税法第127条《青色申告の承認の取消し》第1項第3号の規定に基づく法人税の青色申告の承認の取消処分は、適法か否かを争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 平成6年6月1日から平成7年5月31日まで、平成7年6月1日から平成8年5月31日まで、平成8年6月1日から平成9年5月31日まで、平成9年6月1日から平成10年5月31日まで及び平成10年6月1日から平成11年5月31日までの各事業年度(以下、順次「平成7年5月期」、「平成8年5月期」、「平成9年5月期」、「平成10年5月期」及び「平成11年5月期」という。)の法人税について、青色の確定申告書に別表の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までにそれぞれ申告した。
ロ 請求人は、原処分庁所属の調査担当職員の調査(以下「前回調査」という。)を受け、別表の「前回修正申告」欄のとおり記載して各修正申告書を平成11年12月17日に提出した。
ハ 原処分庁は、これに対し、平成11年12月21日付で、別表の「前回賦課決定処分」欄のとおりの重加算税の賦課決定処分をした。
ニ その後、請求人は平成11年6月1日から平成12年5月31日までの事業年度(以下「平成12年5月期」という。)の法人税の青色の確定申告書に別表の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告した。
ホ 請求人は、原処分庁所属の調査担当職員の調査(以下「今回調査」という。)を受け、別表の「今回修正申告」欄のとおり記載して各修正申告書を平成13年6月21日に提出した。
ヘ 原処分庁は、これに対し、平成13年6月27日付で、別表の「今回賦課決定処分」欄のとおりの重加算税の賦課決定処分をした。
ト さらに、原処分庁は、平成13年6月27日付で、法人税法第127条第1項第3号の規定に基づき、平成11年5月期以後の法人税の青色申告の承認の取消処分(以下「本件取消処分」という。)をした。
チ 請求人は、本件取消処分を不服として、平成13年8月10日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年10月31日付で棄却の異議決定をした。
リ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成13年11月30日に審査請求をした。

(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いはなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、昭和50年8月20日から昭和51年5月31日までの事業年度から法人税の申告書を青色申告書によって提出したい旨の青色申告の承認申請書を、昭和50年9月9日に原処分庁に提出し、法人税法第125条《青色申告の承認があったものとみなす場合》第1項に基づく青色申告の承認があったものとみなされた。
ロ Aは、請求人の関連法人である株式会社B(以下「B社」という。)の従業員であったが、平成12年4月13日に開催された請求人の臨時株主総会において、請求人の役員(取締役)に、また、同日に開催された取締役会において、請求人の代表取締役に就任した。
ハ Aが請求人の代表取締役に就任する前の代表取締役は、Aの父であるCであり、また、Cは、B社の代表取締役である。
ニ 請求人は、前回調査及び今回調査に係る重加算税の賦課決定処分に対して、不服申立てを行っていない。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により平成12年7月3日付課法2−10「法人の青色申告の承認の取消しについて(事務運営指針)」通達の5「相当の事情がある場合の個別的な取扱い」の〔1〕(以下「事務運営指針の5の〔1〕」という。)の判断を誤ったものであり違法であるから、その取消しを求める。
イ 「役員その他相当の権限を有する地位に就いている者が知り得なかったこともやむを得ないと認められるなどその事実の発生について特別な事情」の判断について
 今回調査において明らかになった不正行為については、当該不正行為に係る実行者であったAが、当時、B社の従業員という社外の立場にいた者であり、社外の立場にいた者が独自の考えに基づき、請求人に発覚しないよう行っていたものである。
 したがって、不正行為が行われていた当時、その不正事実の発生について、請求人の役員その他相当の権限を有する地位に就いている者が知り得る状況ではなかったのであり、このことは、事務運営指針の5の〔1〕の「その事実の発生について特別な事情」に該当する。
ロ 「再発防止のための監査体制を強化する等今後の適正な記帳及び申告が期待できる」の判断について
 請求人は、平成12年4月13日に開催された臨時株主総会において、今後適正な記帳及び申告納税義務の履行が行えるよう、取締役の増員、代表取締役の交代等を行い、再発防止のための監査体制を強化している。また、同日に開催された取締役会において、上記イの不正実行者であるAが請求人の代表取締役に就任したが、就任後は代表取締役としての業務に専念し、今後の監査体制強化のための経営方針等の検討、計画の作成並びに一部の実施を行っていた。その矢先に今回調査が実施されたため、過去の誤った経営方針等の全てにつき再検討を行う時間的な余裕がなかったのであり、請求人が過去の不正事実を隠していたものではない。
 さらに、今回調査において明らかになった不正事実は、監査体制の強化以前に発生していたものであり、監査体制の強化の効力を過去にさかのぼり求めている原処分庁の判断は誤りである。

(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 「役員その他相当の権限を有する地位に就いている者が知り得なかったこともやむを得ないと認められるなどその事実の発生について特別な事情」の判断について
(イ)今回調査で明らかになった不正行為の実行者であるAは、請求人の代表取締役に就任する以前、請求人の前代表取締役であるCから請求人の事業の根幹をなす魚類の仕入れ及び飼育管理の仕事を依頼されており、その業務について独断で行える状況であったことから、A本人が、当該不正行為の実行当時においても請求人の重要な地位にあり、かつ、相当な権限を有していたものと認められる。
(ロ)Aは、当該不正行為の実行当時、B社の従業員という立場であったが、AはB社の代表取締役であるCの長男であり、また、請求人とB社は、当該不正行為の実行当時、いずれもCを代表取締役とする同族グループ法人であり、相互に密接な関係の法人であったと認められる。
(ハ)上記(イ)及び(ロ)の理由から、当該不正行為の実行当時、Aは請求人において「その他相当な権限を有する地位に就いている者」に該当していたのであり、また、当該不正行為の実行当時、請求人において「役員その他相当の権限を有する地位に就いている者が知り得なかったこともやむを得ない」という事実も認められない。
 事務運営指針の5の〔1〕においては、「役員その他相当の権限を有する地位に就いている者が知り得なかったこともやむを得ないと認められるなどその事実の発生について特別な事情があり」と定められているが、これは、例えば、役員など権限を有する者をだますために不正の行為者が巧みに隠ぺいして売上金を着服していた場合など、税務調査で判明した不正行為について役員等が通常の注意力をもってしても認識できなかったなど、特別の事情がある場合をいうものである。
 そうすると、仮に、当該不正行為の実行当時、Aが事務運営指針の5の〔1〕にいう「その他相当の権限を有する地位に就いている者」に該当しなかったとしても、Aは当該不正行為を行った者であるから、Aが請求人の代表取締役に就任した時点で不正行為を知り得る役員等が存在していたことになる。
 そして、Aは、その時点でも速やかに当該不正行為を取締役会に報告するとともに、請求人の修正申告を行うことができたにもかかわらず、今回調査で指摘されるまでそれをしなかったのであって、すなわち、Aは、請求人の代表取締役の立場でありながら当該不正行為を容認していたものというべきである。
 したがって、事務運営指針の5の〔1〕の「その事実の発生について特別な事情」に該当しないことは明らかである。
ロ 「再発防止のための監査体制を強化する等今後の適正な記帳及び申告が期待できる」の判断について
 請求人が、前回調査で指摘を受けた不正事実を反省し、その再発防止のための監査体制の強化を行ったのであれば、まず、最初に今回調査で指摘された不正事実の自主的な是正、すなわち、適正な申告に努めるべきであり、また、修正申告は税務調査に基づく指摘を待たなくても、自主的にいつでも行うことができるところ、今回調査で指摘された不正事実に係る請求人の修正申告は、その指摘があるまでなかったものである。
 したがって、Aに時間的余裕がなかったため修正申告をすることができなかったとの請求人の主張には理由がない。
 また、今回調査で不正事実が判明した後も、Aに対する何らの処分も行われておらず、依然として代表取締役に留任しており、新たな監査体制の強化もされていない。
 以上のとおり、平成12年4月に再発防止のため強化したとする監査体制は、適正な申告を行うという観点から充分に機能していないことは明らかであり、今後の適正な記帳及び申告が期待できるとはいえない。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、本件取消処分が適法か否かにあるので、以下審理する。

(1)認定事実

 原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
イ 今回調査において明らかになった不正行為の実行者は、Aであり、Aは当該不正行為の実行当時、請求人の役員、従業員のいずれでもなく、B社の従業員という立場であった。
ロ Aは、当該不正行為の実行当時に請求人の代表取締役であったCから指示を受け、請求人の取締役であったDが担当していた請求人の仕入れ及び在庫管理に係る業務の一部を引継いで担当していた。
ハ 今回調査において明らかになった不正行為は、平成11年5月期及び平成12年5月期において、Aが請求人の売上金の一部をA名義の銀行の預金口座に振り込ませることにより当該売上金を除外し、請求人の法人税の所得金額の計算に当たり益金の額に算入しなかったものである。

(2)関係法令等

イ 法人税法第127条第1項第3号は、青色申告の承認を受けた内国法人について、その事業年度に係る帳簿書類に取引の全部又は一部を隠ぺいし又は仮装して記載し又は記録し、その他その記載又は記録した事項の全体についてその真実性を疑うに足りる相当の理由がある場合には、納税地の所轄税務署長は、当該事実が生じた事業年度までさかのぼって、その青色申告の承認を取り消すことができる旨規定している。
ロ また、当該事務運営指針は、税務署長が法人税法第127条第1項の規定の適用に関し留意すべき事項等を定めたものであるが、事務運営指針の5の〔1〕では、同法第127条第1項の規定により青色申告の承認の取消しをすべき事実がある場合においても、役員その他相当の権限を有する地位に就いている者が知り得なかったこともやむを得ないと認められるなどその事実の発生について特別な事情があり、かつ、再発防止のための監査体制を強化する等今後の適正な記帳及び申告が期待できるなど、取消しをしないことが相当と認められるものについては、所轄国税局長と協議の上その事案に応じた処理を行うものとする旨定めている。
 この取扱基準は、青色申告制度の趣旨及び法人税法第127条第1項の規定に照らし、当審判所においても相当と認められる。

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(3)これを本件についてみると、次のとおりである。

イ 上記(1)の認定事実のハのとおり、Aは、請求人の平成11年5月期及び平成12年5月期において、売上金の一部を除外し、請求人の法人税の所得金額の計算に当たり益金の額に算入しなかったことが認められ、このことは、上記(2)のイの「取引の全部又は一部を隠ぺいし又は仮装して記載し」に該当することは明らかである。
ロ 請求人は、本件取消処分は事務運指針の5の〔1〕の「役員その他相当の権限を有する地位に就いている者が知り得なかったこともやむを得ないと認められるなどその事実の発生について特別な事情」の判断を誤ったものであり、違法である旨主張する。
 しかしながら、上記(1)の認定事実のロのとおり、Aは、今回調査で明らかになった不正事実の発生当時に請求人の代表取締役であったCから指示を受け、請求人の仕入れ及び在庫管理に係る業務を担当していた役員のDから業務の引継ぎをして、請求人の仕入れ及び在庫管理に係る業務の一部を担当していたと認められることからすると、請求人に「その事実の発生について特別な事情」があるということはできない。
 また、仮に、請求人の主張するとおり、今回調査で明らかになった不正事実の発生当時において、当該不正事実について請求人の役員その他相当の権限を有する地位に就いている者が知り得なかったこともやむを得ないと認められる事情があったとしても、当該不正行為の実行者であるAが代表取締役に就任した平成12年4月13日以後においても、請求人は、当該不正事実を認識しながら、平成11年5月期に係る不正事実を是正したところでの修正申告を行わず、さらには、平成12年5月期についても、当該不正行為に係る売上金の一部を除外し、事実を隠ぺいした帳簿書類に基づいて確定申告書を提出していたものであるから、本件において「その事実の発生について特別な事情」があるとは、到底認められない。
ハ また、請求人は、本件取消処分は事務運営指針の5の〔1〕の「再発防止のための監査体制を強化する等今後の適正な記帳及び申告が期待できる」の判断を誤ったものであり、違法である旨主張する。
 しかしながら、上記ロのとおり、当該不正行為の実行者であるAが代表取締役に就任した以後においても、請求人は、当該不正行為に係る売上金の一部を除外し、事実を隠ぺいした帳簿書類に基づいて確定申告書を提出していたものであるから、請求人が平成12年4月13日に開催された臨時株主総会において再発防止のために強化したとする監査体制は、適正な申告を行うという観点から十分に機能しているとは認められない。
 したがって、この点に関する請求人の主張は採用できない。
(4)以上のとおり、請求人の主張にはいずれも理由がなく、帳簿書類に取引の全部又は一部を隠ぺいし又は仮装して記載した事実は、法人税法第127条第1項第3号の規定に該当するとして、原処分庁が行った本件取消処分は適法である。
(5)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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