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(平15.2.17裁決、裁決事例集No.65 511頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、漁業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)が、法人税の確定申告に当たり、G建設事業等の施行に伴い分配された補償金に租税特別措置法(平成14年法律第15号による改正前のもの。以下「措置法」という。)第65条の2《収用換地等の場合の所得の特別控除》に規定する特別控除(以下「本件特別控除」という。)を適用しなかったことについて、同条第5項に規定する「やむを得ない事情」があるか否かが争われた事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成12年4月1日から平成13年3月31日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税について、青色の確定申告書(以下「本件確定申告書」という。)に、所得金額を零円、還付金の額に相当する税額を787円及び翌期へ繰り越す欠損金(以下「繰越欠損金」という。)を6,108,485円と記載して、法定申告期限までに申告した。
ロ その後、請求人は、分配を受けた補償金に本件特別控除の適用を求めて、原処分庁に対し、平成14年4月15日に繰越欠損金を32,716,360円とすべき旨の更正の請求をした。
ハ 原処分庁は、これに対し、平成14年6月19日付で更正をすべき理由がない旨の通知処分(以下「本件通知処分」という。)をした。
ニ 請求人は、本件通知処分を不服として、平成14年7月29日に審査請求をした。

(3)関係法令

イ 措置法第65条の2第4項において、同条第1項又は第2項の規定は、確定申告書等にこれらの規定により損金の額に算入される金額の損金算入に関する申告の記載があり、かつ、当該確定申告書等にその損金の額に算入される金額の計算に関する明細書及びこれらの規定の適用を受けようとする資産につき公共事業施行者から交付を受けた同条第3項の買取り等の申出があったことを証する書類その他の財務省令で定める書類の添付がある場合に限り、適用する旨規定している。
ロ 措置法65条の2第5項において、税務署長は、同条第4項の記載又は添付がない確定申告書等の提出があった場合においても、その記載又は添付がなかったことについてやむを得ない事情があると認めるときは、当該記載をした書類並びに同項の明細書及び財務省令で定める書類の提出があった場合に限り、同条第1項又は第2項の規定を適用することができる旨規定している。

(4)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、P県Q市R町○○番地の○に所在するA漁業協同組合(以下「A漁協」という。)の組合員である。
ロ A漁協は、B株式会社、P県企業庁、P県及びC株式会社が施行するG建設事業・H地域開発用地埋立建設事業・対岸部埋立建設事業・道路連絡橋建設事業・鉄道連絡橋建設事業のため、平成11年10月5日を買取り等の年月日として、漁業に関する権利の消滅又は価値の減少に伴う補償金の交付を受け、請求人を含む組合員に分配した。
ハ 請求人に分配される補償金(以下「本件漁業補償金」という。)は、出資金などと相殺の上、平成12年9月12日にA漁協からA漁協の請求人名義の貯金口座(口座番号○○○○)に入金されている。
ニ 請求人が提出した本件確定申告書には、本件漁業補償金について、損金の額に算入される金額の損金算入に関する申告の記載(以下「申告記載」という。)がなく、かつ、本件確定申告書にその損金の額に算入される金額の計算に関する明細書(以下「計算明細書」という。)及びこれらの規定の適用を受けようとする資産につき公共事業施行者から交付を受けた買取り等の申出があったことを証する書類その他の財務省令で定める書類(以下「法定書類」という。)の添付がない。
ホ A漁協は、標題が「G建設事業に伴う漁業補償の特別適用条文(措置法33条の4)の適用について(お願い)」と記載された書類(以下「お願い文書」という。)を平成13年8月22日付で原処分庁に提出しており、お願い文書には、要旨、次のことが記載されている。
(イ)法人である組合員には、公共事業施行者から交付を受けた漁業補償金に係る「公共事業用資産の買取り等の証明」の取扱いの通知をしていなかったので、本件特別控除の適用を受けずに申告した法人(6社)について特別な配慮を願いたい。
(ロ)本件漁業補償金は41,125,000円であり、その内訳は、対価補償分26,607,875円、収益補償分14,517,125円である。
(ハ)本件漁業補償金の金額の確定日は平成12年8月27日、支払日は平成12年9月12日である。
ヘ 請求人の関与税理士D(以下「D税理士」という。)は、東京国税局法人税課長編による「平成11年版法人税申告書作成のポイント」と題する文献(以下「本件文献」という。)を確認して、本件漁業補償金に本件特別控除を適用することなく本件確定申告書を作成した。

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2 主張

(1)請求人

イ 請求人は、次の理由により本件漁業補償金に本件特別控除がないと判断したのであるから、措置法第65条の2第5項に規定する「やむを得ない事情」に該当する。
(イ)本件文献には、漁業補償金について特別控除が適用できる旨の記載がなかった。
(ロ)A漁協から、措置法第65条の2の規定の適用を受けるための本件確定申告書に添付する証明書が、申告時期に届いていなかった。
ロ したがって、本件漁業補償金について、本件特別控除の適用を認めるべきである。

(2)原処分庁

 原処分は、次のとおり適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 措置法65条の2第4項は、上記1の(3)のイのとおり規定しているところ、本件確定申告書には、本件漁業補償金について、申告記載並びに計算明細書及び法定書類の添付がないことが認められるので、原則として、本件特別控除の適用は認められない。
ロ 次に、措置法第65条の2第5項に規定する申告記載などがなかったことについて「やむを得ない事情」があると認めるときとは、本来認められないはずのものであるが、本人の責めに帰することが困難な特別な事情によって例外的な事態や取扱いを認めることをしても致し方ない事情をいうのであり、税法の不知は「やむを得ない事情」には該当しない。
 そうすると、D税理士が確認した本件文献に漁業補償金に措置法第65条の2の規定の適用がある旨の記載がなかったとする主張は、主要な事項を例示的に解説している本件文献により確認した結果、D税理士が本件漁業補償金には同法の規定の適用がないと判断したものであり、同法第5項に規定する「やむを得ない事情」には該当しない。
ハ さらに、本件漁業補償金は、本件事業年度が終了する平成13年3月31日までに請求人名義の口座に入金されており、本件確定申告書の雑収入に計上されていることから、請求人は、本件確定申告書作成時には本件漁業補償金を収受したことを知っており、また、請求人が本件漁業補償金について、本件特別控除の対象にならないと思い込んだとしても、上記ロのとおり、措置法65条の2第5項に規定する「やむを得ない事情」には該当しないのであるから、同法第65条の2の規定の適用は認められない。
 したがって、請求人の主張には理由がない。
ニ 本件確定申告書に記載された請求人の所得金額及び法人税額等は法令の規定に従い正しく計算されており、本件通知処分は適法である。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、本件確定申告書に申告記載並びに計算明細書及び法定書類の添付がないことを前提にして、D税理士が本件確定申告書の作成に当たって参考とした本件文献には漁業補償に関する特別控除の規定が記載されていなかったこと、及びA漁協から措置法第65条の2の規定の適用を受けるための証明書が確定申告書の提出期限までに届かなかったことが、同条第5項に規定する「やむを得ない事情」に該当するか否かにあるので、以下審理する。

(1)認定事実

 請求人の提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
イ A漁協の業務課長E(以下「E業務課長」という。)は、当審判所に対し、平成12年8月27日に開催した組合員の代表で構成される漁業補償金分配委員会において、本件漁業補償金の課税関係について質問されたため、その回答として収益補償分について収入に入れることを説明した旨答述している。
ロ 原処分庁は、平成12年10月3日にA漁協に対して、法定書類は事業施行者からA漁協に発行されるので、〔1〕法定書類に代えてA漁協から各組合員に「G建設事業等に係る漁業補償金の支払明細書」(以下「本件支払明細書」という。)を発行すること、〔2〕措置法第65条の2の規定の適用を受ける組合員には、本件支払明細書を確定申告書に添付して原処分庁へ提出することを指導している。
ハ A漁協の参事F(以下「F参事」という。)は、当審判所に対し、本件支払明細書はA漁協のF参事及びE業務課長が作成し、平成13年1月以降3月の所得税の確定申告期日前までに法人も含む組合員全員に手渡したと記憶している旨答述している。もっとも、その後提出された当審判所長あての申立書には、要旨、本件支払明細書を確実に渡したか否かについて自信はないが、「G建設事業等に係る漁業補償金の支払対象者名簿」を作成し、その名簿を原処分庁に提出しており、また、平成13年1月以降は、法人の組合員が本件支払明細書をA漁協に請求すれば、何時でも発行できる状態にあった旨記載されている。
(2)ところで、本件漁業補償金について本件特別控除の適用を受けるための要件は、上記1の(3)のイのとおり、措置法第65条の2第4項において規定され、さらに、上記1の(3)のロのとおり、同条第5項において、同条第4項の記載又は添付がない確定申告書等の提出があった場合においても、「やむを得ない事情」があると認めるときは本件特別控除を適用することができる旨規定されている。
 ここにいう「やむを得ない事情」とは、自然的災害、人為的災害、交通途絶等の客観的に見て本人の責めに帰すことのできない事情をいい、個人的な事情はこれに該当しないと解されている。
(3)そこで、上記1の(4)の基礎事実及び上記(1)の認定事実を、上記1の(3)及び上記(2)に照らし判断すると、次のとおりである。
イ 請求人が主張する事情は、上記1の(4)のへ及び上記2の(1)のイの(イ)のとおり、D税理士において本件文献を確認したところ、同文献に漁業補償に関する特別控除の規定が記載されていなかったことから、本件漁業補償金には措置法65条の2の適用はないと軽信したということである。
 しかし、本件漁業補償金につき申告記載などのない本件確定申告書を提出したのは、要するに、本件文献に漁業補償に関する特別控除の規定が記載されていなかったことをもって措置法65条の2の規定の適用はないと軽信したことによるのであるから、請求人が主張する事情は単に個人的な事情に過ぎないのであって、同条第5項に規定する「やむを得ない事情」には該当しない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ロ さらに、請求人は、A漁協から本件支払明細書が確定申告書の提出期限までに届かなかったことが、措置法第65条の2第5項に規定する「やむを得ない事情」に該当する旨主張する。
 しかしながら、上記(2)に照らし、このような事情が措置法第65条の2第5項に規定する「やむを得ない事情」に該当しないことは明らかである。かえって、上記(1)のイのとおり、本件漁業補償金の課税関係については、組合員の代表で構成される漁業補償金分配委員会において説明されており、また、上記(1)のハのとおり、請求人がA漁協に本件支払明細書の発行を請求すれば、本件支払明細書を取得できる状況にあったにもかかわらず、本件漁業補償金には本件特別控除の適用がないと軽信していたため請求をしなかったにすぎず、請求人が主張する事情は客観的に見て請求人の責めに帰すべき事情というべきものである。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(4)以上のとおり、措置法第65条の2第5項に規定する「やむを得ない事情」はないから、請求人に本件特別控除を適用することはできないというべきであり、原処分庁が行った本件通知処分は適法である。
(5)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠書類等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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