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(平15.6.19裁決、裁決事例集No.65 576頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が祖母から売買により不動産を譲受けたことが、相続税法第7条《贈与又は遺贈により取得したものとみなす場合−低額譲受》に規定する著しく低い価額の対価で財産の譲渡を受けた場合に該当するか否かを争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成12年分の贈与税について申告書を提出しなかったところ、原処分庁は、原処分庁所属の調査担当職員の調査に基づき、平成13年10月31日付で、課税価格を12,882,000円及び納付すべき税額を4,541,000円とする決定処分(以下「本件決定処分」という。)並びに無申告加算税の額を681,000円とする賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
ロ 請求人は、これらの処分を不服として、平成13年11月12日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成14年2月12日付でいずれも棄却の異議決定をした。
ハ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成14年3月11日に審査請求をした。

(3)関係法令等

イ 相続税法第7条は、著しく低い価額の対価で財産の譲渡を受けた場合においては、当該財産の譲渡があった時において、当該財産の譲渡を受けた者が、当該対価と当該譲渡があった時における当該財産の時価との差額に相当する金額を当該財産を譲渡した者から贈与により取得したものとみなす旨規定している。
ロ 相続税法第22条《評価の原則》は、相続、遺贈又は贈与により取得した財産の価額は、特別に定める場合を除き、当該財産の取得の時における時価による旨規定している。
ハ 「負担付贈与又は対価を伴う取引により取得した土地等及び家屋等に係る評価並びに相続税法第7条及び第9条の規定の適用について」と題する通達(平成元年3月29日付直評5ほか国税庁長官通達。以下「本件通達」という。)は、財産評価基本通達(昭和39年4月25日付直資第56号ほか国税庁長官通達、ただし、平成13年5月10日付課評2−6による改正前のものをいい、以下「評価基本通達」という。)第2章から第4章までの定めにかかわらず、平成元年4月1日以後に取得したものの評価並びに相続税法第7条及び第9条の規定の適用について、要旨次のとおり取り扱う旨定めている。
(イ)土地等及び家屋等のうち、負担付贈与又は個人間の対価を伴う取引により取得したものの価額は、当該取得時における通常の取引価額に相当する金額によって評価する。
(ロ)上記(イ)の対価を伴う取引による土地等及び家屋等の取得が、相続税法第7条に規定する「著しく低い価額の対価で財産の譲渡を受けた場合」又は同法第9条に規定する「著しく低い価額の対価で利益を受けた場合」に当たるかどうかは、個々の取引について取引の事情、取引当事者間の関係等を総合勘案し、実質的に贈与を受けたと認められる金額があるかどうかにより判定するのであるから留意する。

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(4)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によっても、その事実が認められる。
イ 請求人は、平成12年12月4日付で、祖母であるJ(以下「譲渡人」という。)との間で、請求人が譲渡人から別表1の「土地」欄の各土地(以下、同表の「備考」欄のとおり、順次「甲土地」、「乙土地」等といい、これらを併せて「本件土地」という。)を売買代金52,000,000円及び同表の「家屋」欄の共同住宅(以下「本件家屋」といい、本件土地と併せて「本件不動産」という。)を売買代金19,950,000円(売買代金総額71,950,000円)で譲り受ける旨の土地付建物売買契約(以下「本件売買契約」という。)を締結し、本件売買契約に基づく契約書を作成した。
ロ 不動産の登記簿謄本によれば、本件不動産は、平成12年12月26日受付で、平成12年12月4日売買を原因として、譲渡人から請求人に所有権移転の登記がされている。
ハ 譲渡人が原処分庁に提出した平成12年分所得税青色申告決算書(不動産所得用)によれば、本件家屋は賃貸用家屋であり、その取得価額は63,000,000円、本件売買契約により売却した時点での未償却残高は25,002,552円である。
ニ 本件家屋に係る平成12年度固定資産税の評価額は、19,835,625円である。
ホ 請求人は、要旨次のとおり記載された不動産鑑定士Kが作成した平成13年10月22日付の不動産鑑定評価書(以下「本件鑑定書」という。)を原処分庁及び当審判所に提出した。
(イ)価格時点は、平成12年12月4日とする。
(ロ)本件土地の最有効使用は、共同住宅(貸家)の敷地と判定した。
(ハ)本件土地の鑑定評価額は52,000,000円(以下「本件鑑定評価額」という。)である。
(ニ)本件鑑定評価額は、〔1〕取引事例比較法、〔2〕収益還元法及び〔3〕開発法を適用した上で、これらを調整して求めたものである。
 なお、本件土地の面積が大きくかつ細長い特殊な地形のため、個別格差査定に当たっては、原価法の考え方を活用した開発法を活用し理論的格差を査定する。
(ホ)〔1〕取引事例比較法に基づく比準価格は、標準画地(面大地)(以下「本件標準画地」という。)を設定し、別表2の「区分」欄の各取引事例を基に査定した1平方メートル当たり105,000円とし、〔2〕収益還元法に基づく収益価格は1平方メートル当たり107,000円とし、また〔3〕開発法に基づく試算価格は1平方メートル当たり104,300円とした上、これらをそれぞれ関連付けて、本件土地の価格を1平方メートル当たり105,000円とし、本件鑑定評価額は、この価格に面積495.33平方メートルを乗じて求めたものである。
(ヘ)本件標準画地は、近隣地域内の幅員4.55メートル市道に等高に接面する宅地で、間口約25メートル、奥行約19.8メートル、地積規模約495平方メートル、平坦地の中間画地を想定したものである。

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2 主張

(1)原処分庁

 原処分は、次の理由により適法であるから、本件審査請求をいずれも棄却するとの裁決を求める。
イ 本件決定処分について
(イ)異議審理庁の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
A 本件土地の近隣地域における土地の売買取引事例は、別表3のとおりである。
B 本件土地の近隣地域における地価公示法第6条《標準地の価格等の公示》に基づく公示された標準地(以下「公示地」という。)の価格(以下「公示価格」という。)は、別表4のとおりである。
(ロ)本件土地の本件鑑定評価額について
 本件鑑定書における本件標準画地の比準価格は、次の理由によりいずれも不適切であり、その比準価格を基にした本件鑑定評価額は、本件土地の時価を表したものとは認められない。
A 取引事例A
 取引事例Aは、本件標準画地に比べ街路条件が劣っていると認められるから、取引事例Aの標準化補正の街路条件を100%としたことは相当ではなく、また地域格差修正の住環境を10%としている根拠が明確ではないため不適切といわざるを得ない。
B 取引事例B
 取引事例Bは地域格差修正の住環境を15%としている根拠が明確ではないため不適切といわざるを得ず、またその比準試算値が1平方メートル当たり157,000円となるところ、当該取引事例の近隣の取引事例3の比準試算値が1平方メートル当たり195,000円であることからすると、取引事例Bは取引に何らかの事情が内包されていることが推定されることから、取引事例Bを選択するに当たっては、取引の事情補正をすべきであったと認められる。
C 取引事例C
 取引事例Cは、別表3の取引事例4と地積が同一であると認められるところ、取引事例4の1平方メートル当たりの取引価格が199,647円となることから、取引事例Cの1平方メートル当たりの取引価格149,182円は、取引事例価格として適正であるか疑問である。
D 取引事例D
 取引事例Dは、「公法上の規制」欄に「準工」と記載されていることからすると、取引事例Dの標準化補正の環境条件が本件標準画地に優っているとは認められず、また地域格差修正の住環境を15%とする根拠が明確ではなく、当該取引事例の価格を基に算出した本件標準画地の比準価格は、不適切といわざるを得ない。
(ハ)本件土地の価額について
A 相続税法第22条に規定する時価とは、不特定多数の当事者で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額、すなわち、客観的な交換価値をいうものと解されている。
 他方、公示価格は、地価公示法第2条《標準地の価格の判定等》に規定する「正常な価格」を判定したものであり、この「正常な価格」とは、同条第2項において通常成立すると認められる価格である旨規定されており、一般の土地取引についての取引価額の指標、不動産鑑定士等の鑑定評価及び公共用地買取りの補償の規準とされるものであることから、その年1月1日現在の客観的な交換価値を表しているものと解される。
 そうすると、地価公示法に規定する「正常な価格」と相続税法第22条に規定する「時価」とは、ともに自由な取引が行われたとした場合に通常成立すると認められる価格を指向しているものと解することができる。
B 本件土地の価額は、その更地価額から、その価額に本件土地に係る借地権割合と本件建物に係る借家権割合との相乗積を乗じて計算した価額を控除した価額とすべきであると解される。
C 以上のことから、本件土地の価額は、公示価格を基に算出すると別表5のとおり65,538,875円となる。
(ニ)相続税法第7条の適用について
 本件土地の価額は、上記(ハ)のとおり65,538,875円であるから、本件土地の価額と本件土地の対価52,000,000円との差額は13,538,875円となる。
 ところで、請求人及び譲渡人は、相続関係において直系的なつながりをもち、また贈与が最も発生しやすい間柄であり、いわば、売買価額を自由に設定できる事情にある当事者であるという関係が存すること及び上記のとおり13,538,875円という多額の価額差が生じていること等から、それらを総合的に勘案すれば、贈与税負担における公平バランスを担保する趣旨で規定された相続税法第7条にいう「著しく低い価額の対価で財産の譲渡を受けた場合」に該当することは明らかである。
(ホ)本件通達の適用について
A 請求人は、本件通達は、バブル経済崩壊後の急激な土地の下落により通常の取引価額と評価基本通達に定める方法により算定した価額(以下「相続税評価額」という。)との乖離が少なくなり、また相続税評価額が通常の取引価額を上回ることも生じている現状では、本件通達の前提条件を欠くから本件通達を基に行われた本件決定処分は違法である旨主張する。
 しかしながら、相続税法第7条の趣旨は、「著しく低い価額の対価で財産の譲渡を受けた場合には、課税の公平負担の見地から、対価と時価との差額について贈与があったものとみなして贈与税を課することとしている」のであり、また本件通達が措置された趣旨は、「最近における土地、家屋等の不動産の通常の取引価額と相続税評価額との開きに着目しての贈与税の税負担回避行為に対して、税負担の公平を図るため」とあり、いずれも「課税の公平負担」という趣旨を同じくしており、そして、かかる趣旨は、何ら経済状況等その時代背景に左右されるという性質のものではないことから、本件通達は、平成12年分の贈与税の課税においても当然に適用がある。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
B 請求人は、本件通達は、「通常の取引価額」の意義を明確にしておらず、相続税法第7条により贈与税が課税されるか否かの予測可能性がないから、本件通達を基に行われた本件決定処分は違法である旨主張する。
 しかしながら、相続税法第7条の「著しく低い価額の対価」との比較の対象となる「時価」を算定する趣旨は、「買主が通常必要とするであろう取得資金の一部を負担なくして取得できたという経済的利益を判定することにあること」にあるから、この場合の時価は、通常の経済人が通常の取引条件の下で売買契約を締結した場合に実現するであろう価額が、すなわち「通常の取引価額」であることが、同法の趣旨から明らかというべきである。また本件土地の「通常の取引価額相当額」は、上記(ハ)のとおり算出することができ、相続税法第7条により贈与税が課税されるか否かの判定は可能である。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
C 請求人は、本件不動産の取得は、贈与税の負担回避を目的としたものではなく、本件不動産の売買に係る当事者に、贈与する意思が全くないことからも、本件通達を基に行われた本件決定処分は違法である旨主張する。
 しかしながら、相続税法第7条は、「法律的には贈与とはいえないとしても、実質的には贈与と同視できる」こと、また「課税の公平負担の見地から、対価と時価との差額について贈与があったものとみなす」ことにより贈与税を課すものであることから、請求人が主張する「贈与税の負担回避の目的の有無」及び「当事者に贈与の意思の有無」は、同法の適用に当たり何ら影響を及ぼすものではない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ヘ)以上のとおり、請求人は、上記(ハ)及び(ニ)のとおり、相続税法第7条の適用により本件土地の時価と本件土地の対価との差額13,538,875円を贈与により取得したものとみなされ、当該金額を基に平成12年分贈与税の納付すべき税額を計算すると4,569,000円となり、本件決定処分はこの金額の範囲内で行われたものであるから適法である。
ロ 本件賦課決定処分について
上記イのとおり、本件決定処分は適法であり、請求人の場合、国税通則法第66条《無申告加算税》第1項ただし書に規定する「正当な理由があると認められる場合」に該当しないから、同項の規定に基づき無申告加算税を賦課決定したことは適法である。

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(2)請求人

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 本件決定処分について
 本件売買契約に係る本件土地の譲受価額52,000,000円は、次のとおり本件土地の時価であり、著しく低い価額の対価で財産の譲渡を受けた場合に該当しないのであるから、相続税法第7条の規定を適用してなされた本件決定処分は違法である。
(イ)本件土地の価額について
A 本件土地の譲受価額は、請求人の父であるMが知人の不動産業者に当時の相場を相談したところ、本件土地を3区画の土地として利用するのが最も有効な利用形態であり、道路として使わざるを得ない部分を評価上考慮して算定した価額が妥当であると判断されたこと並びに本件土地の固定資産税評価額及び時価の下落率等を考慮して決定したものであるが、この譲受価額は、本件鑑定評価額と同額であるから、適正な時価である。
B 原処分庁が主張する本件土地の価額は、次の理由により適正な時価とはいえない。
(A)原処分庁は、公示価格は、自由な取引が行われたとした場合に通常成立すると認められる価格を指向しているから時価である旨主張する。
 しかしながら、取引価額は、近年まれにみる地価の下落が続き、公示価格のみならず、路線価をも下回る場合もあることを課税庁、審判所においても認めているような状況にあることから、公示価格は、通常成立すると認められる価格を指向しているから時価であるという主張には理由がない。
(B)原処分庁は、公示価格の一般的説明をするのみで、やにわに公示価格が本件土地の時価算定の基礎を表していると主張する。
 しかしながら、時価の概念は、公示価格だけでなく、その取引に応じて相続税評価額、売買実例額及び不動産鑑定士による不動産鑑定評価額等様々な尺度があるのは周知のとおりであり、一般論と本件土地を結び付ける個別的説明がないから原処分庁の主張には理由がない。
(C)仮に、原処分庁が主張するとおり公示価格が時価であったとしても、公示価格に時点補正及び場所的補正を行った上、評価基本通達に定める奥行価格補正率及び不整形地補正率を乗じて本件土地の価額を求めているが、次の理由により適正な時価とはいえない。
 評価基本通達に定める各補正率は、税理士会から、不動産鑑定士及び不動産取引業者など実務家の評価割合と乖離があるという問題点を指摘されているところであり、特に不整形地補正率については、乖離が大きく、補正率が実態より小さいので時価を上回ることがあるとされているため、修正された公示価格を基に、不動産鑑定士が採用する方法に基づき評価するのが合理的である。
(ロ)本件通達の適用について
 本件土地の売買については、次の理由により本件通達を適用をすべきではないので、本件決定処分は違法である。
A 本件通達は、土地及び家屋等の通常の取引価額と相続税評価額との乖離部分に着目した贈与税の負担回避行為に対して贈与税の負担の公平を図る措置として定められたものであるが、バブル経済崩壊後の急激な土地の下落により通常の取引価額と相続税評価額との乖離が少なくなり、また相続税評価額が通常の取引価額を上回ることも生じている現状では、本件通達の前提条件を欠くので、本件土地の売買について、本件通達を適用したことは違法である。
B 原処分庁は、相続税法第7条及び本件通達の趣旨が、いずれも「課税の公平負担」という趣旨を同じくしており、かかる趣旨は、経済状況に左右されるものではないから、本件通達は平成12年分の贈与税においても適用される旨主張する。
 しかしながら、本件通達の正当性は、〔1〕単純に親族間であるか否かだけによって課税される場合と課税されない場合があること、〔2〕不動産以外の場合には、相続税評価額を基礎としているのに、不動産の場合のみ本件通達により「通常の取引価額」としていること及び〔3〕単純な贈与の場合の課税財産の評価に当たっては、相続税評価額を用いるのに、対価を伴う取引の場合には、本件通達により「通常の取引価額」を用いることから、「課税の公平負担」という一言では言い表すことはできず、本件通達を適用することは違法である。
C 原処分庁は、本件土地の通常の取引価額相当額は、公示価格を基に算出することができ、相続税法第7条により贈与税が課税されるか否かの判断は可能である旨主張する。
 しかしながら、〔1〕本件通達に原処分庁の採用した評価方法による「通常の取引価額」によって求める旨が明らかにされていれば、請求人はその評価方法に従っていたのであろうから、贈与する意思が当事者間にないにもかかわらず、贈与税が課税されるという予測可能性がなく、また〔2〕公示価格の時点補正は、取引後にしか分からず、取引時点では予測可能性がないのであるから、本件通達を適用することは違法である。
D 仮に、本件通達の前提条件が現在にもあり、「通常の取引価額」が明確で贈与税の課税の予測可能性があったとしても、本件通達は、露骨な税負担回避行為を防止するために設けられたものであることから、本件の場合、本件土地を長期間所有した後に売買されたものであり、また当事者間に贈与する意思がないから本件通達が予定している贈与税の負担回避行為ではなく、本件通達を拡大して適用することは違法である。
E また、本件通達が適用され、本件土地の時価が原処分庁の主張のとおりであったとしても、原処分庁が異議決定書で示した本件不動産の時価と本件不動産の売買価額との差額についてみると、後者の前者に対する割合が15.84%に過ぎず、相続税法第7条が規定する「著しく低い価額の対価」に該当しないから、本件不動産の売買に相続税法第7条を適用した本件決定処分は違法である。
ロ 本件賦課決定処分について
 上記イのとおり本件決定処分は違法であるから、本件賦課決定処分についてもその全部を取り消すべきである。

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3 判断

本件は、本件土地の譲受けが、相続税法第7条に規定する著しく低い価額の対価による譲受けに該当するか否かについて争いがあるので、以下審理する。

(1)本件決定処分について

イ 認定事実
 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ)本件土地の地積は、昭和52年3月15日、昭和53年2月5日及び同年6月12日作成の地積測量図によれば、別表1の「当審判所」欄の各土地の地積のとおり合計495.84平方メートルであり、本件土地の間口距離は10.17メートル、奥行距離は46.17メートルである。
(ロ)請求人は、当審判所に対して、要旨次のとおり答述している。
A 譲渡人は、大正7年生まれで高齢となり、本件不動産を所有していても、その所得税の申告、アパート経営及び管理が煩わしくなったこと並びに本件家屋の建築資金に充てた金融機関からの借入金を完済することを目的として本件不動産を譲渡することとした。
B 請求人は、株式会社L(以下「L社」という。)の代表取締役社長である父M(譲渡人の長男)から本件不動産の取得を提案され、将来、父の後をついで経営者となるに当たっては、個人資産を所有すべきと考え、その提案を了解したものである。
C 本件不動産の売買価額は、父が知人の不動産業者から本件不動産の相場を聞き、固定資産税評価額を参考に、本件不動産の利用形態を考慮しつつ決定した。
D 本件建物は、売買当時全室(11室)を賃貸しており、本件売買契約後、請求人が貸主となったが、請求人は、平成13年分からその賃貸収入を不動産所得として申告した。
E 譲渡人は、平成12年12月18日にL社から40,000,000円を借り入れ、当該資金及び自己資金によって、本件家屋の建築の際に借り入れたN銀行の借入金残高40,623,711円を返済し、平成13年1月10日に請求人から受領した本件不動産に係る売買代金によりL社からの借入金を返済した。
F 請求人は、平成13年1月10日に、G銀行○○支店から本件不動産の購入資金の融資を受けた。
(ハ)譲渡人の平成12年分所得税の確定申告書によれば、譲渡人の収入は、本件不動産の賃貸収入10,576,000円、本件不動産以外の賃貸収入396,000円及び年金収入732,180円である。
(ニ)不動産の登記簿謄本によれば、本件不動産は、平成7年1月31日受付で平成6年10月8日相続を原因として、Q(譲渡人の夫)から譲渡人に所有権移転の登記がされている。
 なお、本件土地のうち、別表1の「備考」欄の甲土地、乙土地及び丁土地は、昭和34年12月21日受付で同月10日売買を原因として、また丙土地及び戊土地は、昭和57年5月10日受付で同月8日売買を原因として、それぞれQに所有権移転の登記がされており、本件建物は、平成4年10月15日新築を原因として登記されている。
(ホ)公示価格及び国土利用計画法施行令第9条《基準地の標準価格》が規定する基準地(以下「基準地」という。)の標準価格(以下「基準地価格」という。)のうち、本件土地の近隣で用途地域を同じくする基準地S市−a(S市T町○○番○)の基準地価格は、平成9年が1平方メートル当たり268,000円、平成10年が1平方メートル当たり262,000円、平成11年が1平方メートル当たり246,000円、平成12年が1平方メートル当たり233,000円及び平成13年が1平方メートル当たり221,000円である。
ロ 法令等の解釈について
(イ)相続税法第7条は、上記1の(3)のイのとおりであるところ、その趣旨は、財産の譲渡が、贈与という法律行為に該当すれば贈与税が課税されることを予想して、有償で、しかも僅少の対価をもって財産の移転を図ることによって贈与税の課税回避を図るとともに、相続財産の生前処分による相続税の負担の軽減を防止する目的をもって定められていると解され、また時価よりも著しく低い価額の対価で財産を取得すれば、それが法律的には贈与といえないとしても、当事者間に贈与の意思があったかどうかを問わず、経済的にはその対価と時価との差額については、実質的に贈与があったと同視することができるため、この経済的実質に着目して、課税の公平負担の見地から、相続税法上、これを贈与とみなして贈与税を課税するものと解される。
(ロ)ところで、相続税法第7条に規定する時価とは、上記1の(3)のロの相続税法第22条の時価とその意義に差異はなく、課税時期において、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われた場合に通常成立すると認められる価額、すなわち、客観的な交換価値を示す価額をいうものと解するのが相当であるが、客観的な交換価値は必ずしも一義的に確定されるものではなく、これを個別に評価すると、評価方法等により異なる評価額が生じたり、課税庁の事務負担が重くなり、課税事務の迅速な処理が困難となるおそれがあるため、課税実務上は、財産評価の一般的基準が評価基本通達により定められ、これに定められた評価方法によって画一的に財産の評価が行われており、このことは、納税者間の公平、納税者の便宜、徴税費用の節減という見地からみても合理的であり、相当と認められる。
 そして、路線価は、毎年1月1日を評価時点として、売買実例価額、公示価格、精通者意見価格等を基に、当該日現在の客観的な交換価値を表していると解される公示価格と同水準の価格の80%程度となるように国税局長が路線ごとに設定している。これは、路線価等が評価時点であるその年の1月1日以後の1年間における相続財産の評価について等しく適用されることから、その間の地価変動にも耐え得るものであること等の評価上の安全性に配慮していることによるものであると解される。
(ハ)以上のことから、相続税法第7条にいう「著しく低い価額の対価」に該当するか否かは、当該財産の譲受けの事情、当該財産の譲受けの対価の額、当該財産の市場価額及び当該財産の相続税評価額などを総合勘案して社会通念に従い判断すべきものと解するのが相当である。
 なお、相続税法第7条に規定する「著しく低い価額」であるかどうかは、譲渡があった財産が2以上ある場合には、譲渡があった個々の財産ごとに判定するのではなく、財産の譲渡があった時ごとに譲渡があった財産を一括して判定するものと解される。
ハ 相続税法第7条の適用の有無
(イ)相続税法第7条の規定の適用に当たっては、上記ロの(ハ)のとおり、当該財産に係る譲受けの事情、譲受価額、市場価額及び相続税評価額などを総合勘案して社会通念に従い「著しく低い価額の対価」に該当するか否か判断すべきものであるところ、本件の場合、〔1〕上記イの(ロ)のA及びBのとおり、譲渡人は高齢となり、アパート経営及び管理が煩わしくなったこと及び譲渡人自身の借入金を返済することから、本件不動産を譲渡したものであり、請求人は将来のことなどを考えて、金融機関からの借入金を基に本件不動産を取得したこと、〔2〕上記イの(ロ)のCのとおり、本件不動産の売買価額は、父が不動産業者から相場を聞き、固定資産税評価額を参考に、利用形態を考慮して決定したものであること、〔3〕仮に原処分庁が主張する本件土地の価額(時価)65,538,875円が本件土地の通常の取引価額であるとしても、本件土地の譲受価額が52,000,000円であり、その譲受価額がその時価に占める割合は79.3%であること、〔4〕譲渡人は、上記イの(ニ)のとおり、本件不動産を相続により取得したもので、長期間所有していた本件不動産を譲渡したものであること及び〔5〕本件不動産の譲受価額が71,950,000円であるところ、次のとおり本件不動産の相続税評価額は69,236,309円であり、その譲受価額がその相続税評価額を上回っていることを総合勘案すると、本件土地の譲受けは、相続税法第7条に規定する「著しく低い価額の対価」による譲受けに該当しないとするのが相当である。
A 本件土地の相続税価額
 本件土地には、上記1の(4)のハのとおり、賃貸されている本件建物があることから、本件土地の相続税評価額は、別表6のとおり、その土地の自用地としての価額から、その価額にその土地に係る借地権割合と借家権割合との相乗積を乗じて計算した価額を控除した価額55,351,372円である。
B 本件建物の相続税評価額
 本件建物は、上記1の(4)のハのとおり、賃貸されていることから、本件建物の相続税評価額は、別表6のとおり、平成12年度固定資産税の評価額から、その価額に借家権割合を乗じて計算した価額を控除した価額13,884,937円である。
C 本件不動産の相続税評価額
 本件不動産の相続税評価額は、上記Aの本件土地の相続税評価額55,351,372円に上記Bの本件建物の相続税評価額13,884,937円を加えた価額69,236,309円である。
(ロ)したがって、原処分庁は、本件土地の譲受けは、相続税法第7条にいう「著しく低い価額の対価で財産の譲渡を受けた場合」に該当することは明らかである旨主張するが、上述(イ)のとおり、この点に関する原処分庁の主張は採用することができない。
ニ 本件通達について
 原処分庁は、本件通達は、何ら経済状況等その時代背景に左右されるという性質のものではないから、平成12年分の贈与税の課税においても当然に適用がある旨主張する。
 しかしながら、本件通達の趣旨は、土地等及び家屋等の不動産の通常の取引価額と相続税評価額との開きに着目しての贈与税の負担回避行為に対して、税負担の公平を図るため、負担付贈与又は対価を伴う取引により取得した土地等及び家屋等に係る価額は、評価基本通達にかかわらず、通常の取引価額に相当する金額によって評価することとしたものであり、本件通達の適用に当たっては、本件通達が制定された当時における地価の動向及び路線価の時価に対する水準を考慮しなければならない。
 すなわち、本件通達の制定された当時は、路線価の時価に対する水準が公示価格の70%相当を目途としていたにもかかわらず、その後の地価の急騰に伴い、路線価がその適用年分の終わりに時価の20%から30%程度にすぎず、路線価に相当する金額を対価とした負担付贈与や低額譲受けという形式を採ることによる実質的な財産の移転が行われるようになり、これを放置することは、課税の公平の見地からみて弊害があることから、当該財産の価額は、評価基本通達にかかわらず、通常の取引価額に相当する金額によって評価することとする取扱いが定められたものである。
 ところで、本件の場合、本件不動産の譲受けが行われた平成12年の課税年分においては、路線価は公示価格の80%を目途に評定されており、かつ、本件土地の近隣の基準地価格は、上記イの(ホ)のとおり下落傾向にあったものであるから、本件不動産の相続税評価額は、課税庁が課税実務の公平と効率のために時価の範囲内と認める水準に留まるものと推認される。しかも、本件不動産の譲受価額71,950,000円は、本件不動産の相続税評価額69,236,309円を超えるものであり、このことをもっても、贈与税の負担回避行為があったとは認められないから、このような状況の下にあっては、本件通達の適用の前提を欠くものといわざるを得ない。
 したがって、この点に関する原処分庁の主張は採用することができない。
ホ 以上の結果、本件の場合は、上記ハの(ロ)で述べたとおり、相続税法第7条の規定の適用がないのであるから、原処分庁がした本件決定処分は違法であり、その全部を取り消すべきである。

(2)本件賦課決定処分について

 上記(1)のとおり、本件決定処分は違法であり、その全部を取り消すべきであるから、本件賦課決定処分についても、その全部を取り消すべきである。

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