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(平15.3.25裁決、裁決事例集No.65 671頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、審査請求人F、G及びH(以下、これら3名を「請求人ら」という。)が、平成8年3月13日に死亡したX(以下「被相続人」という。)から相続(以下、この相続を「本件相続」という。)により取得した土地の時価を、財産評価基本通達(昭和39年4月25日付直資56ほか国税庁長官通達。ただし、平成9年4月22日付課評2−5による改正前のもの。)により算定することの適否が主に争われた事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人らは、本件相続に係る相続税の申告に当たり、本件相続により取得した土地のうち、P市Q町○○番の土地161平方メートル、同所○○番○の土地10平方メートル及び同所○○番○の土地1,907平方メートル(以下、順次、「A土地」、「B土地」、「C土地」といい、これら3筆の土地を併せて「本件土地」という。)及びP市Q町○番○の土地ほか1筆の土地(以下、この2筆の土地を「別件土地」という。)の評価を有限会社JのK不動産鑑定士(以下「K鑑定士」という。)に依頼し、同社が平成9年1月7日付で作成した鑑定評価書(以下「K鑑定書」という。)における収益還元法による鑑定評価額(以下「K鑑定評価額」という。)に基づいて、A土地及びB土地の価額を7,000,000円、C土地の価額を48,000,000円、別件土地の価額を18,500,000円とし、相続税の申告書に別表1の「申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告した。
ロ 次いで、請求人らは、本件相続に係る相続税について、原処分庁所属の調査担当職員の調査を受け、G及びHは、本件土地の評価額については変更せず、別件土地の価額について、財産評価基本通達に基づき、40,820,589円と算定し、その他の土地の評価誤りなどと併せて、別表1の「修正申告」欄のとおりとする修正申告書を平成11年1月27日に提出した(なお、Fについては、当該修正申告と同様に本件相続に係る土地の価額を算定すると、その他の土地の評価誤りにより、納付すべき税額が申告額より減少すべきこととなった。)。
ハ これに対し、原処分庁は、平成11年10月12日付で本件相続に係る相続税の修正申告について、別表1の「賦課決定」欄のとおりの過少申告加算税の賦課決定処分をした。
ニ さらに、原処分庁は、本件土地のK鑑定評価額は相続税法第22条《評価の原則》が規定する時価を適正に算定したものとはいえないとして、財産評価基本通達に基づき、A土地及びB土地の価額を25,328,520円、C土地の価額を133,992,640円と算定して、平成11年10月12日付で別表1の「更正処分等」欄のとおりの更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」といい、本件更正処分と併せて「本件更正処分等」という。)をした。
ホ 請求人らは、本件更正処分等を不服として、平成11年12月9日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成12年3月9日付で棄却の異議決定をした。
ヘ 請求人らは、異議決定を経た後の本件更正処分等に不服があるとして、平成12年4月7日に審査請求をした。
 なお、請求人らは、Fを総代として選任し、その旨を平成12年4月7日に届け出た。

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(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人ら及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
イ 被相続人は、昭和23年ころ、本件土地を取得し、また、被相続人の父であるL(同人は昭和41年7月8日に死亡しており、以下「故L」という。)も、昭和23年ころ、本件土地の隣地であるP市Q町○番○の土地2,145平方メートル(以下「隣地土地」という。)を取得した。
ロ 本件土地は、被相続人が取得した後、隣地土地と共に故Lが営む樹苗園業の用に供された。
 なお、当該樹苗園業は、故Lによって昭和30年に設立された株式会社M(以下「M社」という。)に引き継がれた。
ハ 昭和40年ころ、故Lは、A土地上にあった樹苗園業に係る未登記の簡易な資材置き小屋をC土地上に引き家し、同小屋のあった場所に自己の居宅(以下「別件建物」という。)を建てた。
 そのため、A土地の一部分とB土地は別件建物の敷地の用に供され、A土地のその余の部分は、C土地及び隣地土地への進入路の用に供されることとなった。
 なお、M社は、平成6年ころまで、別件建物のうちの1部屋を事務所として使用していた。
ニ 隣地土地については、故Lの死亡後、昭和58年9月5日付で、共同相続人である故Lの妻T、故Lの子U(同人は、M社の前代表者であり、平成5年5月25日に死亡している。)、同V、同W及び被相続人に、相続を原因として、法定相続分に従った所有権移転登記がなされ、その後、Tの死亡(昭和62年5月16日)後、同人の持分についても、昭和63年8月31日付で、その共同相続人であるU、V、W及び被相続人に、相続を原因として、法定相続分に従った所有権一部移転登記がなされていたが、相続人間で隣地土地の所有権の帰属等を巡り係争となり、同年、V及びW(以下、両名を「Vら」という。)が、〔1〕U及び被相続人に対し、隣地土地の所有権一部移転登記手続を求める訴えを、〔2〕その土地上に樹木等を植栽するなどして隣地土地を占有するM社に対しては、仮植中の樹木等の撤去、隣地土地の明渡しなどを求める訴えを、それぞれ○○地方裁判所に提起し、一方、Uも、Vらに対し、隣地土地等の所有権移転登記手続等を求める訴えを同裁判所に提起した(以下、これらの訴訟を「本件訴訟」という。)。
ホ 本件訴訟の控訴審裁判所たる○○高等裁判所は、平成7年○月○日、U及び被相続人に対し、Vらへの隣地土地の所有権一部移転登記手続を命じる旨の原判決に対するUの訴訟承継人の控訴を棄却しながら、M社に対し、隣地土地の明渡し等を命じる旨の原判決については破棄して、Vらの請求を棄却するなどの判決をした(以下、この判決を「本件判決」という。)。
 本件判決において、判示された事項は要旨以下のとおりである。
(イ)隣地土地の所有権
 隣地土地は、故Lの相続に係る遺産分割協議により、Vらが持分2分の1ずつ取得しており、Vらが所有権者である。
(ロ)M社の隣地土地の占有権原
 故LとM社との間で、隣地土地の賃貸借契約が締結されたとは認められないが、故Lの相続に係る遺産分割協議書上、隣地土地は「小作畑地」と表示され、Vらもこれが故Lの家業のM社の営業に使用されていることを前提に遺産分割協議を成立させ、その利用解消のための格別の合意もしていないことに照らすと、樹苗園業が継続されている限りは使用させるとの目的を定めた使用貸借契約が、M社とVらとの間に黙示的に成立したものと解するのが相当であり、現時点ではM社が家業の樹苗園業を継続中であるから、使用貸借契約が使用収益目的の達成により終了しているとは認めがたい。
ヘ Vは、本件判決を不服として上告したが、最高裁判所第1小法廷は、平成9年○月○日、上告を棄却し、本件判決は確定した。
ト 本件相続に係る遺産分割協議は、平成9年1月11日に成立し、これにより、Hは、A土地及びB土地を取得し、Fは、C土地を取得した。
 本件相続の開始時における本件土地付近の現況は、別図のとおりであり、当時、別件建物は、Uの子Nほか5名が所有し、N(同人は、M社の現代表者である。)及びこれと生計を一にする親族の居住の用に供されていた。

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2 主張

(1)原処分庁の主張

 本件更正処分等は、次の理由により適法かつ正当であるから、審査請求をいずれも棄却するとの裁決を求める。
イ 本件更正処分について
(イ)相続税法第22条は、相続等により取得した財産の価額は、特別に定める場合を除き、当該財産の取得の時における時価による旨規定しているところ、この時価とは、相続開始時における財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額、すなわち、客観的な交換価値をいうものである。
 ところで、財産の客観的な交換価値を確定(評価)することは、必ずしも容易ではないことから、課税実務上、特別の事情がある場合を除き、相続財産を評価するための一般的な基準として財産評価基本通達及び財産評価基本通達に基づき毎年各国税局長が定める財産評価基準に基づく画一的な評価方式によって相続財産の評価を行うこととしている。
 この画一的な評価方式により評価することとしている趣旨は、相続財産の客観的な交換価値を個別的に評価する方法を採ると、その評価方式や基礎資料の選択の仕方等により異なった評価額が生じ、納税者間の公平の観点から好ましくないことなどの理由に基づくものと解される。
 したがって、客観的な交換価値が明らかでない場合には、財産評価基本通達の定めるところにより算定した評価額が形式的にすべての納税者に適用されることによって、租税負担の実質的な公平をも実現することができることとなるから、相続税評価額が相続開始時におけるその財産の価額を明らかに上回っていると認められるような特別の事情がない限り、相続税の課税においては、相続税評価額をその財産の時価とするのが相当である。
 なお、一般に、財産評価基本通達によらないこととされる特別の事情とは、当該通達が基準とした価格時点(毎年1月1日)から課税時点までの地価の下落等が著しいときなどで、当該通達により評価した場合には課税時期における現実の交換価額によって評価した場合に比べて相続税の課税価格に著しい差を生じ、実質的な租税負担の公平という点からして見過ごし難い事態を招来することとなる場合等をいうものと解される。
(ロ)そこで、本件において、上記のような特別の事情の有無について検討するに、本件土地の近隣に所在(P市Q町○○番○)する地価公示法第6条《標準地の価格等の公示》及び同法第12条《設置》に基づき国土庁に設置された土地鑑定委員会が価格を判定した標準地の1平方メートル当たりの公示価格は、平成8年1月1日時点が385,000円、平成9年1月1日時点が352,000円であることから、本件相続に適用される財産評価基準の評価時点である平成8年1月1日から本件相続の開始時(平成8年3月13日)までの間に、本件土地の周辺の地価は下落傾向にあったことは認められるが、そのことが財産評価基本通達により難い特別の事情であるとは認められない。
(ハ)請求人らは、本件土地には、本件判決の効果が及び、M社が事業を継続する限り使用させる義務があるとされた土地である旨主張するが、この主張を特別の事情に関する主張とみても、次のとおり、本件判決が存することをもって、財産評価基本通達により難い特別の事情があるとすることはできない。
A 隣地土地に係る本件判決は、本件土地以外の物件の所有権に関する判決であり、この判決が判示したことを直ちに本件土地に適用することは相当ではない。
B 本件判決は、隣地土地について故Lの遺産を分割する際の使用貸借契約の成立を認め、その後、当該使用貸借契約が終了したとは認められない旨を判示しているのであって、請求人らが主張するようなM社が事業を継続する限り使用する権利を認めたものではない。
(ニ)また、K鑑定評価額は、次のとおり合理性がないことから、これを本件相続の開始時における客観的な交換価値と認めることはできない。
A 本件土地の権利関係について
 K鑑定評価額は、次のとおり、評価の前提となる本件土地の権利の事実関係を誤って算定している。
(A)A土地及びB土地
 K鑑定士は、A土地及びB土地の権利関係について、その全体を借地権が付着した底地と認定しているが、A土地及びB土地は、その一部が建物の敷地の用に供せられ、その余の部分は通路の用に供せられており、建物の敷地部分については地代の授受がなく使用貸借と認められることから使用借権の付着した土地であり、通路部分については安価な賃貸料でC土地とともに貸し付けられていたと認められることから建物の所有を目的としない賃借権の付着した土地である。
 なお、K鑑定士は、通路部分についても借地権が付着している土地と認定するが、借地権とは建物の所有を目的とする地上権又は土地の賃借権をいうのであり、建物の敷地ではない部分にも借地権が存在するという合理的な理由は存在しない。
(B)C土地
 K鑑定士は、C土地の権利関係について、借地権が付着した底地と認定しているが、C土地は、その一部が未登記である簡易な構造の建物の敷地の用に供され、その余の大部分が樹苗地の用に供されており、A土地の通路部分とともに貸し付けられていたものと認められることから建物の所有を目的としない賃借権が付着した土地である。
 なお、K鑑定士は、第三者がC土地を利用するためには、借地権者との借地解約手続きが必要となり、それは不確定で困難である旨述べるが、本件の場合、借地人の権利は建物の所有を目的としない土地の賃借権であり、仮に、売買され、新地主から土地の明渡しを求められた場合には、借地人はこれまでの権利をもって新地主に対抗できない。
B K鑑定評価額の算定過程について
(A)K鑑定士は、本件土地の鑑定評価額として、収益還元法を適用して得られた試算価格(以下「収益価格」という。)と、取引事例比較法を適用して求めた建付地としての価格に近隣及び同一需給圏内の底地取引慣行割合と評価基準による底地割合等を勘案して求めた価格(以下「割合価格」という。)を算定しているところ、割合価格の方が一般に公正妥当な資産価値を示していると認めながら、本件土地の地代が著しく低額であることを理由にその市場価値がほとんど期待されないとして収益価格の方が妥当であるとしている。
 しかしながら、地代が著しく低額なのは、賃貸人(被相続人)と賃借人(M社)の代表者との間に親族関係があることが原因と思料されるところ、このような特殊な関係者の間で決められた低額な地代によって、なにゆえに土地の市場価値を低下させることになるのか、その合理的な理由は不明である。
(B)K鑑定士は、本件土地に係る年間地代の総額をA土地及びB土地の合計地積とC土地の地積とにそれぞれ2対1の割合で加重したものの比により按分してそれぞれの土地の年間地代を求めている。
 しかしながら、加重按分した根拠が明らかではなく、財団法人RのS不動産鑑定士(以下「S鑑定士」という。)も、このような方法には問題があると申述しており、年間地代は適正に求められているとはいえない。
(C)K鑑定士は、A土地及びB土地の更地価格の0.75%が地代相当額であるとして求めた純収益を基礎として両土地の収益価格を算定している。
 しかしながら、S鑑定士及び株式会社YのZ鑑定士(以下「Z鑑定士」という。)とも、地代相当額は更地価格のおおむね1%が適当である旨申述しており、A土地及びB土地の収益価格は適正に求められているとはいえない。
(D)K鑑定士は、本件土地の建付地価格に底地割合32.5%を乗じての割合価格を求めている。
 しかしながら、S鑑定士及びZ鑑定士は、底地割合を32.5%とすることは減価のしすぎである旨申述しており、さらに、上記Aのとおり、本件土地には借地権は存しないことなどを考え併せると本件土地の割合価格は適正に求められたということはできない。
(ホ)以上のことから、本件土地の価額は、財産評価基本通達に基づき算定するのが相当であるところ、当該通達等により算定した本件土地の相続税評価額は、次のとおりとなる。
A A土地及びB土地
 A土地及びB土地は、上記(ニ)のAの(A)のとおり、別件建物の敷地部分と通路部分とで利用単位が異なるため、利用単位ごとに評価すると、別表2のとおり、別件建物の敷地部分が、23,989,726円、通路部分が8,127,151円、合計32,116,877円となる。
 なお、別件建物の敷地部分は、昭和48年11月1日付直資2−189国税庁長官通達「使用貸借に係る土地についての相続税及び贈与税の取扱いについて」の定めにより、自用地として評価し、また、通路部分は、建物の所有を目的としない賃借権が付着した土地であるから、財産評価基本通達87《賃借権の評価》の(2)の定めによる賃借権の価額を控除した価額とする。
B C土地
 C土地は、上記(ニ)のAの(B)のとおり、建物の所有を目的としない賃借権が付着した土地であるから、財産評価基本通達87の(2)の定めによる賃借権の価額を控除した価額で、別表2のとおり、214,388,224円となる。
(ヘ)なお、次のとおり、原処分庁が依頼した複数の不動産鑑定士による鑑定評価額は、本件更正処分によるA土地及びB土地の相続税評価額25,328,520円並びにC土地の相続税評価額133,992,640円をいずれも上回っている。
A A土地及びB土地
 財団法人Rのm鑑定士(以下「m鑑定士」という。)による鑑定評価額は、36,200,000円、Z鑑定士による鑑定評価額は、30,609,000円である。
B C土地
 m鑑定士による鑑定評価額は、299,000,000円、Z鑑定士による鑑定評価額は、202,142,000円である。
(ト)そうすると、本件更正処分におけるA土地及びB土地の相続税評価額25,328,520円並びにC土地の相続税評価額133,992,640円は、上記の(ホ)の原処分庁主張の相続税評価額を下回り、かつ、上記(ヘ)の原処分庁が依頼したm鑑定士及びZ鑑定士の鑑定評価額を下回っているから、本件相続の開始時における時価を超えるものではないことは明らかである。
 したがって、本件更正処分は適法である。
ロ 本件賦課決定処分について
 以上のとおり、本件更正処分は適法であり、かつ、請求人らが過少申告したことについて、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由がある場合に該当しないから、同条第1項及び第2項の規定に基づき行った本件賦課決定処分は適法である。

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(2)請求人らの主張

 本件更正処分等は、次の理由により違法・不当であるから、その全部を取り消すべきである。
イ 本件更正処分について
(イ)財産の評価は、相続税法第22条において、原則としてその財産の取得の時における時価により行う旨規定され、その時価とは「課税時期において、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額」であり、財産の評価に当たっては、その財産の価額に影響を及ぼすべきすべての事情を考慮することとされている。
 なお、本件更正処分は、本件土地の評価を財産評価基本通達に基づいて行っているが、財産評価基本通達は上級庁(国税庁)が下級庁に発する命令であって、法律規範たる性格を有さず、それ自体が納税者を拘束するものではない。
(ロ)本件土地に隣接する隣地土地について、被相続人の親族等の間で所有権等の争いがあり、その結果、上記1の(3)のホのとおり「(隣地土地は)使用法人(M社)が事業を継続する限り使用させる義務がある。」との本件判決が出されているところ、本件判決から類推すると、本件土地について、借地法人であるM社と借地返還について争えば、隣地土地と同様の判決がなされると考えられる。
 財産評価基本通達には、このような特別の事情を有する土地の評価方法についての定めはなく、本件土地は、財産評価基本通達による評価にはなじまない。
 したがって、本件土地の時価は、原則に立ち戻り不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額を採用すべきであり、その評価方法は収益還元法しかないから、K鑑定評価額によるべきである。
(ハ)K鑑定評価額は、別表3−1及び3−2のとおり、以下の事項を考慮して算定している。
A 土地の時価とは、現在の低迷した市況を反映した市場換価価値であり、現在の低迷している不動産市場において、廉価な地代でM社に貸地するしかない瑕疵ある本件土地の市場換価は極めて難しく、その市場換価価値は限りなく廉価にならざるを得ない。
 しかしながら、原処分庁は本件判決を一切考慮せず、本件土地を無理に財産評価基本通達により評価しているが、このような特別の事情がある土地を財産評価基本通達に基づく路線価で購入する者はいるはずもないことから、本件土地の地代収益に見合ったK鑑定評価額こそ適正妥当な時価である。
B 本件土地の地代は一括で支払われており、その内訳明細はないが、A土地及びB土地は宅地としての使用であり、C土地は畑としての使用である。
 この年間地代をそれぞれに面積按分すると求められる地代は、C土地については公租公課を超えるが、A土地及びB土地については貸主が負担している公租公課に満たない地代となり、地代とは言い得ないものとなる。
 一般に土地のもつ収益性から宅地の地価は畑に比べて大幅に高く、地代も宅地が高いことが通常であることから、本件でも現状に即して地代にウェイトを付けるのが相当である。
 したがって、一括して支払われた地代を加重按分してA土地及びB土地とC土地とに配分することには根拠があり、補正後の地代をもって初めて現況地目に即した元本価格が適正に求められることとなる。
C 収益価格は、対象不動産が生み出す収益、すなわち地代に着目して対象不動産の経済価値を試算するもので、果実である地代の現在価値の総和をもって元本たる対象不動産の価格と決定する。
 不動産鑑定評価基準は底地を評価するに当たり、その前提となる地代には「実際支払賃料」を採用することを明記し、さらに総合勘案事項として「賃料改定の実現性とその程度」ほかを掲げている。
 原処分庁は、更地価格の1%が相当地代と主張するが、本件更正処分による本件土地の更地価格の1%相当額は2,933,100円となり、この地代とするには実際支払賃料の12倍の値上げが必要となり、また、これに替えて請求人らが主張する本件土地の更地価格を基に、その1%相当の賃料を求めると3,558,250円となり、この金額は、実際支払賃料の約15倍となるなど、全く地代改訂の実現性のないものである。
 K鑑定評価額の算定に当たって採用した相当地代1,534,023円でさえ、改訂は容易ではないことから、原処分庁の主張は首肯できない。
D 本件土地に係る一般的な底地割合は50%程度であるが、不動産鑑定評価基準によれば「底地の鑑定評価額は、実際支払賃料に基づく純収益を還元して得た収益価格及び比準価格を関連づけて決定する。」となっていることから、実際支払賃料が異常に低額であり、底地の収益価格は低額に求められるとの判断から、本件の底地割合は通常の底地割合50%に対して35%程度の減価が必要と判定し、32.5%としたもので不動産鑑定評価基準に準拠した適正なものである。
(ニ)原処分庁が依頼した2名の不動産鑑定士の鑑定評価額は、次の問題点があり認めがたい。
A m鑑定士の鑑定評価額について
(A)m鑑定士はA土地及びB土地の権利関係を「使用借権付土地所有権」と認定しているが、本件土地の確定及び評価条件に誤りがあり、この誤った条件の下に求められたm鑑定士の鑑定評価額はA土地及びB土地の適正な価額とは認められない。
 借地人であるM社の代理人であるn弁護士(以下「借地法人弁護士」という。)からは、借地契約の目的土地はA土地、C土地及びP市Q町○番○の宅地(別図D土地)である旨を確認しており、適法な借地権が付着する土地と認めるのが相当である。
 なお、B土地は面積狭小のために契約から漏れたものと考えられるが、A土地とともに借地契約の対象であることは明らかである。
(B)m鑑定士のC土地の価額を求める評価手法の骨子は、更地価格から借地権価格を控除して底地価格を求めるものであるが、これは不動産鑑定評価基準に準拠した手法ではなく、結果として求められた評価額はC土地の適正な価額とは認められない。
B Z鑑定士の鑑定評価額について
(A)Z鑑定士はm鑑定士と同様、A土地及びB土地を「使用借権付土地所有権」と認定している誤りがあり、誤った条件の下に求められたZ鑑定士の鑑定評価額は、A土地及びB土地の適正な価額とは認められない。
(B)C土地の評価手法については次の問題点があり、結果として求められた評価額はC土地の適正な価額とは認められない。
a Z鑑定士は収益価格を求めていながら、地代が異常に安いため、合理的な市場を前提とする正常価格を求めるには不適切とする。
 しかしながら、C土地の借地内容の事実の下に合理的市場を想定し、この市場における交換価値(価格)を求めることが正常価格を求める鑑定評価であるが、Z鑑定士は底地の正常価格を求めておきながら、地代が安いことを理由に正常価格として不適切とすることには論理的矛盾がある。
b 次に、Z鑑定士は20年の有期還元方式と現行地代の修正を試みているが、本件の借地契約には借地期限の定めがなく、また、一定期間を経過すれば借地が返却されるとの期待はないことから、返却されることを前提とした有期還元方式には根拠がない。
 なお、その際、地代を年額修正して1,178,032円ないし1,500,315円に修正しているが、これは本件相続の開始時の地代の5.2倍ないし6.7倍もの実現性のない値上げを想定しており、現実の収益を基に求められる収益価格として信頼性がない。
c C土地は無道路地で、しかも借地権が付着している土地であり、現在の長期低迷する不動産市況において、買い手は見込めない状況にある。
 このような土地の収益価格を求めておきながら、これを大きく上回る割合価格をもって鑑定額と決定することは、現在の低迷する不動産市況を反映しておらず妥当ではない。
(ホ)また、原処分庁が主張する本件土地の権利関係については、次のとおり誤りが認められる。
A A土地及びB土地について
 原処分庁は、A土地及びB土地の建物敷地部分における借地の事実を否定して「使用借権が付着する土地」と認定するが、M社は、賃料を支払って、借地権を主張しており、また、隣地土地に係る最高裁判決を基に土地返却の意思はないのであるから、この認定には疑問がある。
 さらに、原処分庁は、A土地を建物敷地部分とその余を通路と判断しているが、門や塀のない本件において建物敷地の範囲は区分できず、また、通路部分についても貸主は通路として貸していたものではなく、さらに、A土地は隣地との隣接境界が不明であることから、どの部分が通路であるかは特定できない。
 したがって、現況通路とされている部分は建物の敷地ではないとの原処分庁の認定には問題がある。
B C土地について
 C土地は、上記1の(3)のロのとおりM社の樹苗地として使用されており、これと同様に使用されている隣地土地に係る本件判決の効果がC土地に及び、M社が存続する限り借地させる必要があり、このような土地を原処分庁が主張する「対抗力なき賃借権が付着する土地」と断定することはできない。
(ヘ)本件土地の価額
 以上により、本件土地の評価額は、財産評価基本通達に基づく相続税評価額ではなく、K鑑定評価額によるべきであるから、A土地及びB土地が7,000,000円、C土地が48,000,000円となる。
ロ 本件賦課決定処分について
 以上のとおり、本件更正処分は違法・不当で取り消されるべきであるから、これに基づく本件賦課決定処分もその全部を取り消すべきである。

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3 判断

 双方の主張に基づいて調査、審理したところ、次のとおり判断される。

(1)本件更正処分について

イ 請求人らの提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
(イ)本件相続の開始時までに、被相続人とM社の間で、本件土地の占有権原に係る権利関係を明らかにする契約書は作成されていない。
(ロ)M社は、A土地等に係る地代として、別表4の「供託金額」欄に記載の金員を○○法務局に供託している。
 なお、上記地代に係る供託書には供託の事由として「被供託者より賃貸借不存在の主張があり、あらかじめ賃料の受領を拒否され目下係争中のため受領しないことが明らかである。」と記載されている(以下、この供託書を「本件供託書」という。)。
(ハ)M社の本件相続の開始日を含む平成7年8月1日から平成8年7月31日までの事業年度に係る確定申告書の地代家賃等の内訳書には、被相続人を貸主とする「木植地」に対する支払地代として239,600円との記載がある。
(ニ)Nは、平成8年3月当時の本件土地に係るM社の支払地代について、当審判所に対し、「地代については契約書もなく、どの土地が幾らかは分かりません。自分としては親から引き継いで、それだけ払えば本件土地が利用できるということだけでした。」と答述した。
(ホ)Fの代理人であるr弁護士(以下「請求人弁護士」という。)から借地法人弁護士に宛てた平成9年8月26日付の「ご連絡」と題する書類には、〔1〕C土地について、正当な対価を支払ってもらう関係に改訂することが妥当で、賃貸借契約を締結してはどうか、〔2〕A土地及びB土地はそもそも賃貸借の目的地にはなっていないのではないか、現実にも樹苗が植えられているところではないなどの記載がある。
(ヘ)借地法人弁護士から請求人弁護士に宛てた平成9年8月26日付の「Fと(株)Mの件」と題する書類には、〔1〕C土地と一体利用している隣地土地の訴訟において、裁判所の判断では使用貸借が成立しているとし、その期限はM社が営業を継続するまでとしている、〔2〕M社としては権利強化のため賃貸借は前向きに検討する意向である、〔3〕A土地は隣地土地の入口部分でM社が使用しているなどの記載がある。
ロ 相続税法第22条にいう時価の意義について
 相続税法第22条は、相続により取得した財産の価額は、特別の定めのあるものを除き、当該相続財産の取得の時における時価による旨規定しており、この時価とは、相続による取得の時において、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額、すなわち客観的な交換価値をいうものと解するのが相当である。
 しかしながら、相続税の課税対象となる財産は多種多様であり、時価を適正に把握することは必ずしも容易でないこと及び納税者間で評価が区々になることは課税の公平の観点からいえば好ましいことではないことから、課税庁は、その事務の統一性を図ることなどのため、各種財産の時価の評価に関する原則及びその具体的評価方法を明らかにし、財産評価基本通達を定め、部内職員に示達するとともに、これを公開することによって納税者の申告及び納税の便に供していることが認められる。
 このように課税実務上、相続財産の評価について財産評価基本通達による画一的な評価方法がとられているのは、納税者間の公平、納税者の便宜、徴税費用の節減など、公平な税負担と効率的な租税行政の実現という見地から合理的であると認められる。
 そして、路線価の価額は、売買実例、地価公示法による公示価格、精通者意見価格等を基礎として、その路線に面する標準的な画地の1平方メートル当たりの価額として国税局長が評定するものとされ、路線価については、従来から、評価の安全性等を考慮して、公示価格の評価水準と比較して低めに定められており、平成4年分以降の路線価は、毎年1月1日を価格時点として、同日を価格時点とする公示価格の評価水準の原則として80%となるように価格決定がなされており、通常は、財産評価基本通達の定める路線価方式によって評価した土地の価額は、相続税法第22条にいう時価の範囲内になるものと解される。
 しかしながら、土地の評価の基礎とされた路線価の評価時点以降において地価が大幅に下落し、路線価を基に評価した土地の価額が当該土地の相続開始時における時価を上回ることになるなど特別の事情がある場合には、財産評価基本通達の定める路線価方式による評価について一定の修正を施すべきこととなると解するのが相当である。
 なお、このような財産評価基本通達や財産評価基準は、法規としての性格を有するものでないから、納税者はこれによらず、適正な時価を主張することができることはいうまでもないが、適格な主張がない場合には、財産評価基本通達及び財産評価基準によって評価した価額に基づき課税処分を行うことができるというべきである。
ハ 特別の事情の有無について
 請求人らは、本件土地には隣地土地に係る本件判決の効果が及び、借地人であるM社が営業を継続する限り返還されることのない土地であるところ、財産評価基本通達にはこのような土地の評価方法の定めがないことから、財産評価基本通達によることのできない特別の事情があり、その価額は、収益還元法によって時価を算定したK鑑定評価額によるべきである旨主張するので、以下審理する。
(イ)本件判決について
A 本件判決は、上記1の(3)のホのとおり、故Lの死去に伴い、相続人間で隣地土地をVらが持分2分の1ずつ取得するとの遺産分割協議が有効に成立したとし、その際、家業の樹苗園が存続する限りは使用させるとの使用貸借契約がVらとM社の間において黙示的に成立したと認定した上で判断がなされていることが認められる。
 しかしながら、本件土地は、上記1の(3)のイ及びトのとおり、故Lの相続財産ではなく、黙示の使用貸借契約が成立したとされる遺産分割協議の対象となっていないこと、隣地土地は、樹苗地として使用されているが、A土地及びB土地は上記1の(3)のハのとおり、別件建物の敷地並びに同敷地、C土地及び隣地土地への通路の用に供されており、樹苗地としてM社の事業の用に供されている土地ではないことが認められる。
 したがって、本件土地と隣地土地とでは取得の経緯及びその占有者の使用権原を異にするものであるから、本件土地については、「遺産分割協議に当たって、家業の樹苗園が存続する限りは使用させるとの使用貸借契約が黙示的に成立した。」との法律関係は認められない。
B また、そもそも、使用貸借契約に基づく借主の権利は、債務者たる貸主に対してのみ主張し得るものであり、仮に、借地が第三者に譲渡された場合、借主は借地の新所有者に対しては何ら対抗し得ないものであるから、市場換価価値に影響を及ぼすものではない。
C そうすると、隣地土地に係る本件判決が本件土地の評価に影響することにはならない。
(ロ)本件土地の権利関係について
 次いで、本件土地に財産評価基本通達により評価し難い特別の事情があるといえるような権利関係が認められるか否かについて検討する。
A A土地及びB土地について
(A)本件土地は、上記1の(3)のロ及びハのとおり、長年にわたって被相続人の親族及びその関係法人に貸地されてきた経緯から使用者の権利関係が明確でなく、また、上記イのとおり、M社から被相続人に支払われていた地代の対象地、地代の算定根拠等についても不明確なままであったことが認められ、さらに、本件供託書には供託の事由として、被供託者(被相続人)より賃貸借不存在の主張があると記載されているところ、上記1の(3)のハ及びトのとおり、別件建物は、故Lが取得し、その一部は、一時M社の事務所として使用されていたが、本件相続の開始時には、N及びこれと生計を一にする親族の居住の用に供されていることが認められ、M社の事業の用に供されている事実はないこと、M社も「木植地」として地代を支出していることからすれば、A土地の別件建物敷地部分及びB土地に対するM社からの地代の支払はなかったものと認められ、他方、別件建物の所有者又は居住者から被相続人への地代の支払も認められない。
 また、A土地の別件建物敷地部分を除く部分は、M社が樹苗地として使用する無道路地であるC土地及び隣地土地への進入路の用に供されている土地であり、借地法人弁護士も、A土地は隣地土地の入り口部分でM社が使用していると請求人弁護士に伝えていることから、本件供託書に記載のとおり、M社から地代の支払を受ける対象地であると認められる。
 そうすると、A土地及びB土地の建物敷地部分は使用借権が付着する土地であり、C土地及び隣地土地への通路部分は、建物所有を目的としない賃借権が付着した土地と認められる。
(B)この点について、請求人らは、原処分庁がA土地の一部を建物敷地部分とし、その余を通路と判断していることについて、門や塀のない本件において建物敷地の範囲は区分できず、また、通路部分についても貸主は通路として貸していたものではなく、さらに、A土地は隣地との隣接境界が不明であることから、どの部分が通路であるかは特定できないので、A土地全体の権利関係を一体として判断すべきである旨主張する。
 しかしながら、上記(A)のとおり、A土地及びB土地の建物敷地部分は使用貸借関係にある使用借権が付着する土地であり、C土地及び隣地土地への通路部分は、建物所有を目的としない賃借権が付着した土地であるところ、当審判所の現地調査によれば、両者は、建物敷地部分と通路部分とが生垣によって明確に区分されていることが認められ、そのことは、K鑑定書に添付されている写真でも明らかであり、また、隣地との境界が不明確であることなどをもって、A土地全体の権利関係を一体として判断することは相当ではないから、この点に関する請求人らの主張には理由がない。
B C土地について
(A)C土地は、その一部に未登記の簡易な農機具等を収蔵している建物が建てられており、また、その余の大部分はM社の樹苗地として使用されていることから、本件供託書に記載のとおり、M社から地代の支払を受ける対象地であると認められる。
 したがって、C土地は、建物所有を目的としない賃借権が付着した土地と認められる。
(B)この点について、請求人らは、C土地の権利関係について、その全体を建物が地上に建っていることを所与とした底地とするが、C土地の一部にある当該未登記の簡易建物の存在をもってC土地を建物の所有を目的とする地上権又は土地の賃借権が付着する土地と判断することは相当ではないから、この点に関する請求人らの主張には理由がない。
C そうすると、本件土地は、特段の制約を受ける土地ではなく、その他に、本件土地について適用される路線価230,000円が、客観的交換価値である時価を上回っていることを推認させるような事情は何らうかがえないのであるから、本件において、財産評価基本通達により難い特別な事情があるとは認められない。
 したがって、本件土地の評価は、財産評価基本通達により評価するのが合理的であると認められる
(ハ)K鑑定評価額について
 ところで、相続税法第22条に規定する時価を収益還元法による価額を勘案して決定する場合には、対象不動産が将来生み出すと期待される純収益を算定するために予測される諸要素を的確に把握すること及び収益還元率を正しく定めることが不可欠の要件であるが、これらには、〔1〕土地の価額に見合う収益の算定が困難であること、〔2〕経営者の能力、財産の状態により収益の額が左右されること、〔3〕還元利回りの算定が困難なことなどの問題があると認められるところ、本件において、請求人らは、本件判決の効果が本件土地に及ぶことを前提とし、還元利回りもこれを考慮して算定しているのであって、その前提に誤りがある上、これに代わる適正な還元利回りの算定も困難であることからすれば、本件において、収益還元法を本件土地の評価の基準として採用することは相当とは認められない。
 したがって、この点に関する請求人らの主張は採用できない。
ニ 本件土地の時価について
 そこで、財産評価基本通達等に基づき本件土地の時価を算定すると次のとおりとなる。
(イ)A土地及びB土地の評価額
A A土地及びB土地の評価に当たっては、建物敷地部分と通路の用に供されている部分があることから、課税時期における利用単位ごとに区分して評価することとなる。
 そうすると、通路部分を除くA土地及びB土地の価額は、使用借権が付着する土地であるから、昭和48年11月1日付直資2−189国税庁長官通達「使用貸借に係る土地についての相続税及び贈与税の取扱いについて」の定めにより、自用地としての価額で、原処分庁主張額のとおり、23,989,726円となる。
 また、A土地の通路部分の価額は、建物の所有を目的としない賃借権が付着した土地であるから、財産評価基本通達87の(2)の定めによる賃借権の価額を控除した価額で、原処分庁主張額のとおり、8,127,151円となる。
B この点について、請求人らは隣地等との境界が不明確である旨主張するところ、確かに、A土地と隣地との境界は必ずしも明確とはいえないとの事情は認められるが、当審判所が公図と実地に現地を確認した結果から総合的に判断すると、原処分庁が公簿地積を基に、別件建物の敷地部分の地積を119.34平方メートル、通路部分の地積を51.66平方メートルとしたことは合理的であると認められるから、この点に関する請求人らの主張には理由がない。
(ロ)C土地の評価額
 C土地は、建物の所有を目的としない賃借権が付着した土地であるから、財産評価基本通達87の(2)の定めによる賃借権の価額を控除した価額で、原処分庁主張額のとおり、214,388,224円となる。
(ハ)なお、請求人らは、m鑑定士及びZ鑑定士による鑑定評価方法には誤りがあり、その価額は本件土地の適正な価額とは認められない旨種々主張するが、原処分庁は、m鑑定士及びZ鑑定士の鑑定評価額に基づき本件土地の相続税評価額(時価)を算定したものではなく、本件において、本件土地の評価を財産評価基本通達によってなすべきことは上記ハで述べたとおりであるから、m鑑定士及びZ鑑定士による鑑定評価方法についての適否を判断するまでなく、この点についての請求人らの主張は採用できない。
ホ そうすると、A土地及びB土地の相続税評価額32,116,877円(通路部分を除くA土地及びB土地の相続税評価額23,989,726円とA土地の通路部分の相続税評価額8,127,151円の合計額)並びにC土地の相続税評価額214,388,224円は、いずれも本件更正処分におけるA土地及びB土地並びにC土地の相続税評価額を上回ることから、この範囲内でされた本件更正処分は適法である。

(2)本件賦課決定処分について

 以上のとおり、本件更正処分は適法であり、また、請求人らには、更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、原処分庁が同条第1項及び第2項の規定に基づいて行った本件賦課決定処分は適法である。
(3)原処分のその他の部分については、請求人らは争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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