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(平15.5.19裁決、裁決事例集No.65 721頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が相続により取得したP町宅地及びK社使用宅地に係る借地権の存否を主な争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成11年4月17日に死亡したL(以下「被相続人」という。)の相続人であるが、この相続(以下「本件相続」という。)開始に係る相続税について、申告書に別表1の「申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告した。
ロ その後、請求人は、平成12年12月25日に課税価格及び納付すべき税額を別表1の「更正の請求」欄のとおりとすべき旨の更正の請求をした。
ハ 原処分庁は、これに対して、平成13年2月7日付で別表1の「減額更正」欄のとおりの更正処分をした。
ニ その後、原処分庁は、平成13年2月27日付で別表1の「更正処分等」欄のとおりとする更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
ホ 請求人は、これらの処分を不服として、平成13年3月16日に別表1の「異議申立等」欄のとおりとすべき異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年6月14日付で棄却の異議決定をした。
ヘ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成13年7月9日に審査請求をした。

(3)関係法令等

イ 財産評価基本通達(昭和39年4月25日付直資56、直審(資)17国税庁長官通達(以下「評価基本通達」という。)。ただし、平成11年7月19日付課評2−12ほか「財産評価基本通達の一部改正について」による改正以前のもの。以下同じ。)25《貸宅地の評価》は、その(1)で借地権の目的となっている宅地の価額を自用地としての価額から評価基本通達27《借地権の評価》の定めにより評価したその借地権の価額を控除した金額によって評価する旨定めている。
ロ 評価基本通達27は、借地権の価額をその借地権の目的となっている宅地の自用地としての価額に当該価額に対する借地権の売買実例価額、精通者意見価格、地代の額等を基として評定した借地権の価額の割合(以下「借地権割合」という。)がおおむね同一と認められる地域ごとに国税局長の定める割合を乗じて計算した金額によって評価する旨定めている。
ハ 「使用貸借に係る土地についての相続税及び贈与税の取扱いについて(昭和48年11月1日付直資2−189ほか2課共同国税庁長官通達)」(以下「使用貸借通達」という。)3《使用貸借に係る土地等を相続又は贈与により取得した場合》において、使用貸借に係る土地又は借地権を相続(遺贈及び死因贈与を含む。以下同じ。)又は贈与(死因贈与を除く。以下同じ。)により取得した場合における相続税又は贈与税の課税価格に算入すべき価額は、当該土地の上に存する建物等又は当該借地権の目的となっている土地の上に存する建物等の自用又は貸付けの区分にかかわらず、すべて当該土地又は借地権が自用のものであるとした場合の価額とする旨定めている。
ニ 法人税基本通達(昭和44年5月1日付直審(法)25国税庁長官通達。ただし、平成11年12月1日付課法2−9による改正前のものをいう。以下同じ。)13−1−7《権利金の認定見合わせ》は、法人が借地権の設定等により他人に土地を使用させた場合において、これにより収受する地代の額が相当の地代の額に満たないときであっても、その借地権の設定等に係る契約書において将来借地人等がその土地を無償で返還することが定められており、かつ、その旨を借地人等との連名の書面により遅滞なく当該法人の納税地の所轄税務署長に届け出たときは、当該借地権の設定等をした日の属する事業年度以後の各事業年度において、相当の地代の額から実際に収受している地代の額を控除した金額に相当する金額を借地人等に対して贈与したものとして取り扱うものとし、使用貸借契約により他人に土地を使用させた場合についても、同様とする旨定めている。

(4)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人が本件相続により取得したQ市に所在する各土地は、相続開始時において、次表のとおりの画地(以下、各土地は符号で表示することとし、また、本件A宅地ないしF宅地を「P町宅地」といい、有限会社K(以下「K社」という。)の使用に係る本件G宅地ないしI宅地を「K社使用宅地」という。さらに、これらの宅地を併せて「本件総宅地」という。)に区分され利用されていたこと。
ロ P町宅地に係る土地賃貸借契約書(以下「本件土地賃貸借契約書」という。)の内容は、別表2の(1)P町宅地のとおりであり、当該賃貸借契約書には、いずれも賃貸人として被相続人名、賃借人として賃借人名及び賃貸人の承継人として請求人名が記載されていること。
ハ K社使用宅地の利用状況等は、別表2の(2)K社使用宅地のとおりであり、被相続人とK社との間の貸借に係る契約書は、作成されていないこと。
ニ 請求人は、昭和63年12月22日に設立された不動産賃貸を業とするK社の代表者であること。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その一部の取消しを求める。
イ 本件更正処分について
(イ)P町宅地
A P町宅地は、いずれも被相続人と別表2の「賃借人」欄に掲げる者との間の本件土地賃貸借契約書に基づき、被相続人が各賃借人に貸付け、各賃借人自らがその上に建物を建築して使用していることから、当該宅地上には借地権が存在し、当該宅地の価額は、その自用地としての価額から借地権価額を控除して評価すべきである。
B 原処分庁は、かつて使用借権が設定されていたこと及び賃料はK社を通じて請求人の収入としている実態にあることなどを根拠に、同宅地の利用の関係は、被相続人と請求人との間の使用貸借であると認定した。
 しかしながら、当該使用借権は、農地であった昭和52年当時、被相続人から請求人に農業の経営移譲のために、被相続人の所有に係る他の農地とともに、10年間の使用借権を設定したものであるが、その後、これら農地は次々と宅地化されて賃貸に供されるようになったものであり、宅地化後において被相続人と請求人との間に使用貸借契約が継続しているとみるべきではない。
 この点につき、原処分庁は、本件土地賃貸借契約書に、請求人が「被相続人の承継人」と記載されていることは、請求人が使用借権を有する立場で契約に参加しており、使用借権を有するものと認定するが、請求人は土地の賃貸借に関しては無権利者であり、被相続人が行うべき契約を代理で行っているものにすぎず、土地の評価に何ら影響を与えるものではない。
C 賃料に関しては、本来、P町宅地の賃貸人である被相続人が収受すべきであった賃料を請求人が受け取っていたことは、同宅地の賃料について請求人は何ら権限がないということと矛盾する面もあるが、これは収益の帰属という観点から、相続税(贈与税)又は所得税の課税関係において正当な権限に即して是正されるべき問題であり、請求人が使用借権を有するという根拠となるべきものではない。
(ロ)K社使用宅地
 K社使用宅地は、その宅地の利用に関して土地賃貸借契約書は作成されておらず、また、賃料の授受もなされていないが、別表2の(2)K社使用宅地のとおり、同宅地上に平成3年から同6年にかけてK社所有の建物が建築されて他に貸し付けられており、相続開始日現在において、K社に帰属する借地権が存在することとなる。
 原処分庁は、かつて請求人と被相続人との間で農業者年金基金法を適用するために使用借権が設定されていたことなどを根拠に、その利用関係を使用貸借と認定するが、K社がK社使用宅地上に建物を建築した時点において、すでに農地に係る使用貸借契約は終了しており、当該時点で新たに建物の所有を目的とする借地権に相当する権利が設定されたものとみるべきである。
(ハ)本件総宅地の価額
 以上のとおり、本件総宅地には、いずれも借地権が認められるべきであり、同宅地に係る自用地の価額から借地権に相当する価額を控除して算定すると、別表3のとおり196,354,263円となり、原処分は、その価額を過大に認定している。
ロ 本件賦課決定処分について
 上記イのとおり、本件更正処分はその一部を取り消すべきであるから、これに伴い、本件賦課決定処分もその一部を取り消すべきである。

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(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 本件更正処分について
(イ)認定事実
 原処分庁が調査したところによれば、次の事実が認められる。
A 請求人は、P町宅地の賃貸借契約が、いずれも請求人を含めた三者間となった経緯について、被相続人が農業者年金を受給するため(農業経営を被相続人から請求人に移譲するため)に、当該賃貸借契約以前に、当時、農地であった同宅地につき被相続人との間で使用貸借契約を締結していたことに由来する旨異議調査担当職員に申し述べていること。
B P町宅地に係る賃料の支払は、本件土地賃貸借契約書において、いずれも請求人名義の銀行預金口座が振込先として指定されていること。
C K社設立後、P町宅地及び請求人所有不動産に係る賃料等は、すべて同社が収受しており、請求人には、これらの不動産に係る賃料として、同社から月額850,000円が支払われていること。
D 被相続人がK社との間で賃貸借契約書を取り交わしていたのは、同社が株式会社Xに転貸している建物のみであり、同人の平成8年から同11年までの所得税の確定申告書及び不動産所得収支内訳書によれば、同社から得ていた賃料は、本件総宅地以外の宅地に係る月額200,000円のみであること。
E 請求人は、P町宅地に係る賃料収入及び固定資産税等の必要経費について、請求人の不動産所得に関するものとして申告していること。
(ロ)P町宅地
 P町宅地上には、別表2のとおり、各賃借人所有の建物が存在するが、本件土地賃貸借契約書に被相続人の承継人として使用借権を有する請求人の立場を明示していることは、請求人との間で使用貸借契約が締結されていたものと認められること及び同宅地に係る賃料はK社を通じて請求人の収入としている実態からすると、同宅地は、いずれも請求人が被相続人から使用貸借により借地し、それを請求人が転貸していたものとみるのが相当である。
(ハ)K社使用宅地
 K社使用宅地は、P町宅地と同様、K社が建物を建築する以前は農地であり、被相続人が農業者年金を受給するため請求人との間で使用貸借契約を締結していたこと、また、K社が同宅地を利用するに当たり、賃貸借契約書は作成されていないこと及び賃料の授受は認められないことから、請求人が被相続人から使用貸借により借地し、それをK社に転貸していたものとみるのが相当である。
(ニ)本件総宅地の価額
 以上のとおり、本件総宅地は、いずれも請求人が被相続人から使用貸借により借地したものを他に転貸していたものであるから、その価額は、使用貸借通達を適用して、借地権の価格を控除せずに自用地として評価するのが相当である。
 そうすると、本件総宅地の価額は、総額291,364,392円となり、本件更正処分は適法である。
ロ 本件賦課決定処分について
 上記イで述べたとおり、本件更正処分は適法であり、更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正前の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法(以下「通則法」という。)第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないので、同条第1項の規定に基づき行われた本件賦課決定処分は適法である。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、請求人が相続により取得したP町宅地及びK社使用宅地に係る借地権の存否にあるので、以下審理する。

(1)本件更正処分について

イ 借地権又は使用借権の目的となっている宅地の評価
 土地の使用貸借は、その無償性に起因して、建物の所有を目的とするものであっても借地借家法の適用はないこととされ、借地権(建物の所有を目的とする賃借権)のような強い法的保護は受けられず、また、当事者間の対人関係を重視し、借主の死亡によって使用貸借は終了する(民法第599条)など、使用貸借における使用権は、その経済的価値は借地権に比し極めて弱いものである。
 そこで、評価基本通達は、上記1の(3)のイないしハのとおり、借地権設定の目的となっている宅地の価額をその自用地としての価額から借地権に相当する価額を控除して評価し、使用借権設定の目的となっている宅地の価額を当事者が個人間である場合には、自用地としての価額により評価することとされており、この評価方法は一般的に合理的なものと解されている。
 ところで、土地の貸借の当事者の一方が同族法人で、他方がその代表者という関係であっても、法律上はそれぞれ独立した人格であるから、その間の取引は、すべて第三者間における取引と同様の経済的合理性に従い行われるべきであるので、土地の使用につき通常収受すべき権利金を収受せず、しかも、その収受する地代の額が相当の地代に満たないときは、基本的には権利金の認定課税が行われる。
 もっとも、例外的に、土地の貸借契約書において将来借地人がその土地を無償で返還することが明らかにされている場合又は土地の使用が使用貸借契約に係るものである場合において、その土地を将来無償で返還する旨を借地人等と連名の書面により所轄税務署長に届け出たときは、上記1の(3)のニのとおり、権利金の認定を行わない取扱いを定めている。
 すなわち、土地貸借契約の当事者の一方が法人である場合には、特別の事情がない限り、第三者間で通常取り交わされる土地貸借契約に引きなおされて課税関係が律せられるのであり、このことは法人税課税のみならず、相続税・贈与税課税においても同様である。
 これらの取扱いは、借地権の設定に際し権利金を授受する慣行のある地域において土地の貸借が行われた場合の経済実態を反映したもので、当審判所においても合理的な取扱いと認めることができる。
ロ P町宅地
(イ)認定事実
 請求人の提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果並びに請求人の答述によれば、次の事実が認められる。
A 被相続人と請求人は、昭和52年2月25日に、P町宅地ほかについて、農業者年金受給のため、農地に使用借権を設定したい旨の「農地法第3条の規定による許可申請書」をQ市農業委員会(以下「農業委員会」という。)に提出していること。
B 被相続人及び請求人は、昭和56年2月20日に、P町宅地について、農業委員会に「農地法第3条による使用貸借解約による通知書」を提出するとともに、被相続人は、同日、同宅地について、「農地法第5条の規定による許可申請書」を農業委員会に提出しているが、当該申請書には、要旨次の記載があること。
(A)賃貸人は、いずれも被相続人であり、賃借人は、本件A宅地についてはM及び本件B宅地ないしF宅地については株式会社Nである。
(B)転用目的は店舗用地である。
(C)賃借権の期間は20年及び対価は3.3平方メートル当たり250円とする。
C 本件土地賃貸借契約書の主な内容は、別表2のとおりであるが、いずれも要旨次の記載があること。
(A)賃貸借契約の当事者は、賃貸人を被相続人、賃借人を別表2記載の賃借人及び賃貸人の承継人を請求人とする三者である。
(B)賃料の振込先に請求人名義の銀行預金口座を指定している。
(C)保証金の受取人は、いずれも被相続人である。
D 請求人は、本来被相続人が収受すべきであった賃料に関して、上記2の(1)のイの(イ)のCのとおり、権限に即した課税関係に是正されるべきであると主張し、当審判所に対して、被相続人から請求人に対する貸付金が存在していたとして、次の内容の関係資料を提出していること。
(A)各年分の賃料収入から被相続人が負担すべきであった所得税、住民税及び固定資産税を差し引いた残額である平成10年分2,626,935円、同9年分2,672,283円、同8年分2,347,734円、同7年分2,653,300円及び同6年分2,724,165円(詳細は別表4のとおり)が、被相続人から請求人に対する貸付金として相続開始時に存在しており、その総額は13,024,417円である。
(B)上記Cの(C)の保証金については、その内容を検討の上、被相続人の債務として相続財産に計上し、相続税の申告をしている。
(ロ)利用関係
A P町宅地の利用関係は、上記(イ)のAないしCの事実及び別表2の賃貸契約に係る内容を総合して判断すると、昭和52年2月25日に「農地法第3条の規定による許可申請書」を農業委員会に提出して許可を受けた日以後、昭和56年2月20日に「農地法第3条による使用貸借解約による通知書」を農業委員会に提出した日までの間は、請求人を相手方として使用借権が設定されていたものと推認されるが、同日以後は、被相続人が農地法の手続を経た上で、これらの土地を宅地に転用し、被相続人が賃貸人となって、順次、別表2に記載する賃借人に対して賃貸し、賃借人が建物を建築して利用していることが認められる。
 そうすると、同宅地には、相続開始時において建物の所有を目的とする賃借権が存するものと認めるのが相当である。
B 原処分庁は、P町宅地の賃貸借契約に請求人が使用借権を有する立場で参加していること及び賃料を請求人が収受している実態があることをもって、利用関係は、請求人が被相続人から使用貸借により借地したものを他の者に転貸したものである旨主張する。
 しかしながら、本件土地賃貸借契約書には、賃貸人の承継人として請求人名が記載されているだけで、どのような権限を有することになるのかは明らかではないが、〔1〕賃貸人は被相続人と明記されていること及び〔2〕農地に関しての被相続人と請求人との間の使用貸借は宅地転用される前にすでに解除されていることから、当該記載をもって、原処分庁主張のとおりに解することはできないし、また、賃料を現実に享受している者が誰であるかのみによって、同宅地の利用関係が決せられることにもならないので、原処分庁の主張には理由がない。
ハ K社使用宅地
(イ)認定事実
 請求人の提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果並びに請求人の答述によれば、次の事実が認められる。
A 被相続人と請求人は、昭和52年2月25日に、K社使用宅地について、農業者年金受給のため、農地に使用貸借を設定したい旨の「農地法第3条の規定による許可申請書」を農業委員会に提出していること。
B 被相続人は、本件G宅地については平成2年8月20日に、本件H宅地については平成3年10月18日に、「農地法第5条の規定による許可申請書」を農業委員会に提出しており、当該申請書には、賃貸人は被相続人で賃借人はK社であること及び転用の目的は貸店舗等の建設であることなどの記載があること。
C K社は、本件G宅地上の店舗・倉庫用建物(鉄骨造亜鉛メッキ鋼板葺2階建760平方メートル)を月額725,000円・賃貸期間15年としてV株式会社に、また、本件H宅地上の事務所用建物(木造亜鉛メッキ鋼板葺平家建49.68平方メートル)を月額100,000円・賃貸期間10年としてW株式会社に、さらに、本件I宅地上の共同住宅用建物(木造亜鉛メッキ鋼板葺2階建216.12平方メートル)を複数の居住者にそれぞれ貸し付けていること。
D 請求人は、K社使用宅地について、被相続人とK社との間に土地使用に関する契約書を作成しておらず、権利金の授受及び賃料の取り決めも金員の授受もなかった旨当審判所に答述していること。
E K社は、原処分庁に対して「土地の無償使用に関する届出書」(以下「無償返還届出書」という。)を提出しておらず、また、原処分庁は、K社に対して借地権の認定課税を行っていないこと。
F 請求人は、本件相続により取得したK社の出資分の評価に際して、K社使用宅地に係る借地権を同社の帳簿上資産として計上していないものの、当該借地権を有するものとして出資の価額を評価した結果、出資の価額は零円として申告していること。
(ロ)利用関係
A K社使用宅地は、上記(イ)のAないしDの事実からその利用状況を判断すると、「農地法第5条の規定による許可申請書」において、被相続人が賃借人に賃貸する旨の記載があるものの、その実態は、被相続人がK社に対して同宅地を無償で使用することを許諾し、これに基づいて同社が利用していたものと認められる。
 また、K社使用宅地が借地権設定の目的となっているか否かについては、その利用の内容が堅固な建物を建築して賃貸し、長期間にわたって使用するというものであり、上記イに照らし、土地の貸借において当事者の一方が法人である場合には、その間の取引は第三者間における取引と同様の経済的合理性に従い行われるべきであるから、将来無償で返還されるという特別の事情のない限り、被相続人が同社に対して無償で使用することを許諾したときに、同宅地に借地権が設定されたものと認めるべきである。
 そして、本件においては、借地人であるK社が将来無償で返還することが土地の貸借契約において明らかにされておらず、また、上記(イ)のEのとおり、無償返還届出書は提出されていないことから特別の事情は存在せず、また、過去に借地権の認定課税が行われていないとしても、そのことが利用関係に影響して借地権の目的となっているか否かを左右するものでないことは明らかであるから、本件相続開始時において、同宅地は借地権設定の目的となっている宅地と認めるのが相当である。
B 原処分庁は、被相続人が農業者年金を受給するため被相続人と請求人との間で使用貸借契約を締結していたことを主たる理由として、請求人が被相続人から使用貸借により借地し、それをK社に転貸していたものと主張するが、K社使用宅地について、請求人と被相続人との間の使用貸借契約が解除された経緯は、P町宅地と同様であると認められ、他に請求人が被相続人から使用貸借により同宅地を借地していたとする理由も認められないから、原処分庁の主張は採用できない。
ニ 総遺産価額
(イ)本件総宅地の評価については、上記ロ及びハのとおり、借地権の存する貸宅地であるから、上記1の(3)のイの定めるところにより、自用地としての価額から借地権の価額を控除した金額によって評価するのが相当であり、別表5の審判所認定額のとおり196,354,263円となる。
(ロ)P町宅地の賃料は、本来、被相続人に帰属するものであるにもかかわらず、本件の場合、K社を経由してすべて請求人が享受しており、また、請求人は、当審判所に対して、相続開始時において、上記(1)のロの(イ)のDのとおり、被相続人から請求人に対する貸付金13,024,417円が存する旨答述するとともに、その算定資料を提出している。
 そこで、当審判所において、当該算定資料に基づき貸付金の算定根拠等を検討したところ、貸付金13,024,417円を被相続人の総遺産価額に加算することが相当と認められる。
 なお、請求人は、本件相続によりK社の出資分を取得しているところ、上記ハの(ロ)のとおり、当該借地権を同社が有するものとして出資の価額を評価基本通達の定めに基づいて算定するとその価額は零円となり、総遺産価額の増減には影響を及ぼさない。
以上のことから、被相続人の総遺産価額を算定すると別表5の審判所認定額のとおりとなり、原処分の額を下回ることとなるから、本件更正処分は、その一部を取り消すべきである。

(2)本件賦課決定処分について

 本件更正処分は、上記(1)のとおり、その一部を取り消すべきであるから、過少申告加算税の賦課決定処分の基礎となる税額は 6,530,000円となる。
 また、この税額の計算の基礎となった事実については、通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められない。
 したがって、請求人の過少申告加算税の額は653,000円となり、本件賦課決定処分の金額に満たないから、その一部を取り消すべきである。

(3)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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