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(平15.4.24裁決、裁決事例集No.65 788頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、相続税の申告期限後に分割された宅地等について、納税者が行った相続税法第32条《更正の請求の特則》の規定に基づく更正の請求により、小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例の適用が認められるか否かを争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 審査請求人のA、B、C、D、E、F及びG(以下「請求人ら」という。)並びにH(以下、請求人らと併せて「相続人ら」という。)は、平成9年12月28日に死亡したJ(以下「被相続人」という。)の共同相続人であるが、この相続開始に係る相続税(以下「本件相続税」という。)について、被相続人の相続財産は未分割であるとして、相続税法第55条《未分割遺産に対する課税》の規定に従い課税価格を算出した上、申告書に別表1の「申告」欄のとおり記載して、いずれも法定申告期限までに申告(以下「本件申告」という。)した。
ロ 次いで、相続人らは、別表1の「修正等〔1〕」欄のとおりとする修正申告書を、いずれも平成11年1月21日に提出した。
ハ その後、遺産の一部の分割に基づき、Hは、平成12年6月28日に本件相続税について別表1の「修正等〔2〕」欄のとおりとすべき旨の更正の請求をし、また、請求人らは、同表の同欄のとおりとする修正申告書をいずれも同日に提出した。
ニ 原処分庁は、Hの更正の請求に対し、平成12年8月30日付で別表1の「修正等〔2〕」欄のとおりの更正処分をした。
ホ その後、相続人らは、原処分庁所属の調査担当職員の調査を受け、本件相続税について、別表1の「修正等〔3〕」欄のとおり記載した修正申告書をいずれも平成12年12月28日に提出した。
ヘ 原処分庁は、これに対し、平成13年1月26日付で別表1の「修正等〔3〕」欄のとおりの過少申告加算税の賦課決定処分をした。
ト その後、相続人らは、遺産の一部の分割に伴い、P市Q町○番○の宅地(借地権、179.78平方メートルのうち貸家の敷地の用に供されている部分129.48911895平方メートル。以下「本件P土地」という。)及びR市S町○番○の宅地(土地、83.64平方メートル。以下「R土地」といい、このうちの70.51088105平方メートルを「本件R土地」という。)について租税特別措置法(平成11年法律第9号による改正前のものをいい、以下「措置法」という。)第69条の3《小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例》第1項の規定(以下「本件特例」という。)を適用し、平成13年9月19日に本件相続税について別表1の「更正の請求」欄のとおりとすべき旨の更正の請求(以下「本件更正の請求」という。)をした。
チ 原処分庁は、これに対し、本件更正の請求のうち本件R土地については更正の請求の期限を経過しているから認められないとして、平成13年10月18日付で別表1の「原処分」欄のとおりの更正処分(以下「本件更正処分」という。)をし、併せて上記ヘの過少申告加算税の変更決定処分をした。
リ 相続人らは、本件更正処分を不服として、平成13年12月17日に異議申立てをした。
ヌ その後、Hは、平成14年1月5日に死亡したので、その相続人である請求人らはHの国税の納付義務を承継したものであり、本件更正処分に伴う請求人らの納付義務の承継額は別表2のとおりである。
ル 異議審理庁は、上記リの異議申立てに対し、平成14年3月13日付で棄却の異議決定をした。
ヲ 請求人らは、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、亡Hに係る処分については平成14年4月11日に、また、請求人らに係る処分については同月12日に、それぞれ審査請求をした。
 なお、請求人らは、Aを総代として選任し、その旨を平成14年4月16日に届け出た。

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(3)関係法令

イ 相続税法第32条は、相続税の申告書を提出した者は、同条第1号ないし第7号に掲げる事由に該当することにより、その申告に係る課税価格及び相続税額が過大となったときは、その事由が生じたことを知った日の翌日から4か月以内に限り、税務署長に対して、その課税価格及び相続税額につき国税通則法(以下「通則法」という。)第23条《更正の請求》第1項の規定による更正の請求をすることができる旨規定している。
 そして、相続税法第32条は、その事由について、要旨次のとおり規定している。
(イ)第1号
 相続税法第55条の規定により分割されていない財産について民法の規定による相続分(以下「法定相続分」という。)の割合に従って課税価格が計算されていた場合において、その後当該財産の分割が行われ、共同相続人が当該分割により取得した財産に係る課税価格が当該法定相続分の割合に従って計算した課税価格と異なることとなったこと。
(ロ)第6号
 相続税法第19条の2《配偶者に対する相続税額の軽減》第2項ただし書の規定に該当したことにより、同項の分割が行われた時以後において同条第1項の規定を適用して計算した相続税額がその時前において同項の規定を適用して計算した相続税額と異なることとなったこと。
ロ 措置法第69条の3は、要旨次のとおり規定している。
(イ)第1項
 個人が相続により取得した財産のうちに、その相続開始の直前において、被相続人等の事業の用又は居住の用に供されていた宅地等がある場合には、これらの宅地等の200平方メートルまでの部分のうち、当該個人が取得をした宅地等で政令で定めるものについては、相続税の課税価格に算入すべき価額は、当該宅地等の価額に所定の割合を乗じて計算した金額とする。
(ロ)第3項
 第1項の規定は、相続税の申告期限までに共同相続人によって分割されていない宅地等には適用しない。ただし、その分割されていない宅地等が申告期限から3年以内に分割された場合には、その分割された当該宅地等については、この限りでない。
(ハ)第4項
 相続税法第32条の規定は、措置法第69条の3第3項ただし書の場合について準用する。この場合において、相続税法第32条第6号中「相続税法第19条の2第2項ただし書」は、「措置法第69条の3第3項ただし書」と読み替えるものとする。
(ニ)第5項
 第1項の規定は、同項の規定の適用を受けようとする者の相続税の申告書に同項の規定の適用を受けようとする旨を記載し、所定の書類の添付がある場合に限り、適用する。
(ホ)第6項
 税務署長は、第5項の規定による記載又は添付がない相続税の申告書の提出があった場合においても、その記載又は添付がなかったことについてやむを得ない事情があると認めるときは、所定の書類の提出があった場合に限り、第1項の規定を適用することができる。

(4)基礎事実

 以下の事実は、請求人ら及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によっても、その事実が認められる。
イ 相続人らは、平成12年3月1日、被相続人の相続財産のうち本件R土地ほかを請求人らがそれぞれ持分7分の1の割合で取得することに合意し、遺産分割協議書を作成したこと。
ロ 相続人らは、平成13年5月21日、被相続人の相続財産のうち本件P土地ほかを、Hが持分2分の1の割合で、また、請求人らがそれぞれ持分14分の1の割合で取得することに合意し、遺産分割協議書を作成したこと。

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2 主張

(1)請求人らの主張

 本件R土地について本件特例の適用を認めない原処分は、次の理由により違法であるから、その取消しを求める。
イ 本件特例は、相続人や受遺者の生活基盤をある程度まで保護することを目的とした制度であり、宅地等を取得した相続人等が事実上200平方メートルの範囲内で最も課税価格の減額が大きくなるような宅地等を選択することを予定した制度である。
 また、本件特例は、分割されていない宅地等にはその適用を認めていないことから、遺産分割が数回にわたり成立した場合に本件特例をその都度適用せざるを得ないとすると、その適用する宅地等の選択の仕方によっては不利益が生ずる場合がある。
ロ 本件相続税においては、本件P土地(129.48911895平方メートル)を第一順位とし、本件R土地(70.51088105平方メートル)を第二順位として本件特例を適用することが最も有利な選択方法であるが、遺産分割協議が成立した順に本件特例を適用すると、第一にR土地(83.64平方メートル)、第二に本件P土地のうち116.36平方メートル(200平方メートル−83.64平方メートル)を適用することとなり、その結果、最も有利な選択方法に比較して相続税が多額になる。
ハ 以上のように、本件特例には、数回にわたった遺産分割の場合を想定していない救済措置上の不備があり、措置法第69条の3第6項に規定する「やむを得ない事情」で救済しない限り、納税者の不利益は解消することができない。
 そして、措置法第69条の3第6項の「やむを得ない事情」については、その明文の規定がない以上、本件R土地につき相続人らがその更正の請求の期限内である平成12年6月28日に行った更正の請求及び修正申告において本件特例の適用を失念した場合も、この「やむを得ない事情」に該当するものとして解すべきである。
 なお、過去に、上記のように本件特例の適用を失念した場合において、更正の嘆願という納税者側からの意思表示があったことにより、税務署長が措置法第69条の3第6項の規定を根拠に本件特例の適用を認めた事例がある。

(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 本件特例に係る規定については、次のとおりである。
(イ)本件特例の適用に当たり、相続税の申告期限までに遺産が未分割であっても、申告期限から3年以内に分割された宅地等については、本件特例の適用をすることができることとなるが、本件特例を適用して計算した相続税額が減額となる場合は、当該分割されたときから4か月以内に更正の請求をした場合に限り本件特例の適用が認められることとなる。
(ロ)また、措置法第69条の3第6項の「やむを得ない事情」とは、自然的災害、人為的災害、交通途絶等の客観的にみて本人の責めに帰すことのできない事情をいい、納税者の主観的ないし個人的事情はこれに当たらないものと解されている。
ロ これを本件についてみると、次のとおりである。
(イ)本件R土地について本件特例を適用するためには、本件R土地の遺産分割が成立した平成12年3月1日から4か月以内に更正の請求をしなければならないところ、本件更正の請求は、平成13年9月19日にされているから、期限を経過した後にされた更正の請求となる。
(ロ)そして、相続税法第32条各号に規定する事由が生じた場合の更正の請求について、その更正の請求の期限を経過した後にされた場合においても、当該更正の請求を認める減額の更正をしなければならない旨を定めた法令の規定はない。
(ハ)また、平成12年6月28日のHの更正の請求及び請求人らの修正申告書の各提出時において、相続人らが本件特例の適用を失念したことは、措置法第69条の3第6項の「やむを得ない事情」には当たらない。
ハ 以上のとおり、本件R土地については、本件特例の適用はできない。

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3 判断

 本件R土地について、本件更正の請求により本件特例の適用を受けることができるか否かに争いがあるので、以下審理する。

(1)更正の請求について

イ 措置法第69条の3第3項、第4項及び相続税法第32条の各規定によれば、本件特例に係る更正の請求の適用要件は、次のとおりである。
(イ)更正の請求により本件特例の適用ができる宅地等
 相続税の申告期限までに共同相続人によって分割されていない宅地等で、その申告期限から3年以内に分割された宅地等
(ロ)本件更正の請求に係る更正の請求の事由
 宅地等の分割が行われた時以後において本件特例を適用して計算した相続税額がその時前において同項の規定を適用して計算した相続税額と異なることとなったことにより、その申告に係る課税価格及び相続税額が過大となったとき
(ハ)本件特例を適用する場合の更正の請求の期限
 相続税の申告に係る課税価格及び相続税額が過大となった事由が生じたことを知った日の翌日から4か月以内
ロ 租税特別措置法(相続税法の特例のうち延納の特例関係以外)の取扱いについて通達(昭和50年11月4日付直資2−224ほか。ただし、平成14年5月27日付課資2−3ほかによる改正後のものをいい、以下「措置法通達」という。)69の4−26《申告書の提出期限後に分割された特例対象宅地等について特例の適用を受ける場合》は、相続税の申告期限後に特例対象宅地等の全部又は一部が分割された場合には、当該分割された日において他に分割されていない特例対象宅地等があるときであっても、当該分割された特例対象宅地等の全部又は一部について措置法第69条の4(措置法第69条の3が平成12年法律第13号の改正により改められたもの)第1項の規定の適用を受けるために同条において準用する相続税法第32条の規定による更正の請求を行うことができるのは、当該分割された日の翌日から4か月以内に限られており、当該期間経過後において当該分割された特例対象宅地等について同条の規定による更正の請求をすることはできないのであるから留意する旨定めている。

(2)本件更正の請求について、上記(1)の法令等の規定並びに上記1の(2)及び(4)の事実から検討すると、次のとおりである。

イ 本件R土地は、その申告期限から3年以内の平成12年3月1日に分割されたことにより、同日以後、本件特例の適用に係る上記(1)のイの(イ)の要件を満たすことになる。
 そして、本件R土地について、本件特例を適用して本件相続税に係る課税価格及び相続税額を計算すると、これらの金額は、本件申告に係る課税価格及び相続税額を下回ることになる。
 換言すれば、本件R土地が分割されたことにより、本件R土地について本件特例の適用が可能となり、また、本件R土地につき本件特例を適用することにより、本件申告に係る課税価格及び相続税額は過大となるから、相続人らは、相続税法第32条に規定する更正の請求をすることができることになる。
ロ ところで、上記(1)のイの(ハ)及びロのとおり、この更正の請求ができる期限について、相続税法第32条は「相続税の申告に係る課税価格及び相続税額が過大となった事由が生じたことを知った日の翌日から4か月以内」と規定し、この「過大となった事由が生じたことを知った日」の解釈ついて、措置法通達69の4−26は「相続税の申告期限後に特例対象宅地等が分割された日」と定めているところ、この解釈は、当審判所の判断するところによっても相当と認められる。
ハ そうすると、本件R土地に係る「過大となった事由が生じたことを知った日」とは、本件R土地が共同相続人によって分割された平成12年3月1日であり、相続人らがした本件更正の請求(平成13年9月19日)は、本件R土地の分割が行われた日から4か月を経過した後になされたものと認められる。
ニ 以上のとおり、本件更正の請求のうち本件R土地に係る部分については、本件R土地の分割が行われた平成12年3月1日の翌日から4か月以内にされなかったものであり、期限を経過した後に行われた不適法なものとなる。

(3)請求人らのその他の主張について

イ 請求人らは、本件R土地は平成12年3月1日に分割され、この分割の日から4か月以内の同年6月28日にHの更正の請求及び請求人らの修正申告をし、これに本件特例の適用を失念したが、この失念したことは措置法第69条の3のやむを得ない事情に該当するものとして解すべきである旨主張する。
 しかしながら、措置法第69条の3第6項は、税務署長が相続税の申告書に本件特例の適用を受けようとする旨の記載又は所定の書類の添付がなかったことについてやむを得ない事情があると認めるとき、かつ、所定の書類の提出があった場合に限り本件特例を適用することができる旨規定しており、この「やむを得ない事情」とは、例えば、災害、交通や通信の途絶等、納税者の責めに帰すことのできない客観的事情によるものをいい、本件のように請求人らが失念したことは、やむを得ない事情に該当しない。
ロ 請求人らは、請求人らのように本件特例の適用を失念していた場合でもその適用を認めた事例がある旨主張する。
 しかしながら、具体的にどのような事例か明らかでなく、請求人らのこのような主張のみをもって、本件更正処分を取り消すことはできない。
(4)以上の結果、本件更正の請求のうち本件R土地に係る部分については、相続税法第32条の規定に該当しないから、原処分庁がした本件更正処分は適法である。
(5)原処分のその他の部分については、請求人らは争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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