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(平15.5.20裁決、裁決事例集No.65 833頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、物納申請に係る土地が相続税法第42条《物納の手続及び許可》第2項ただし書に規定する管理又は処分をするのに不適当な財産に当たるか否かを争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 審査請求人(以下「請求人」という。)は、平成11年4月19日に死亡したGの共同相続人の一人であるが、この相続(以下「本件相続」という。)に係る相続税の申告書に課税価格を○○○○円、納付すべき税額を115,221,600円と記載して法定申告期限内の平成12年2月18日に申告するとともに、同日併せて、納付すべき税額のうち、現金で納付する税額を10,942円、延納を求めようとする税額を2,400,000円及び物納を求めようとする税額を112,810,658円並びに物納に充てようとする財産として次表のとおり記載した相続税物納申請書(以下「本件物納申請書」という。)を提出した。

(単位:平方メートル、円)
所在地番地目地積価額
P市Q町○○雑種地12,000.00112,810,658

ロ 原処分庁は、これに対し、平成13年6月11日付で、本件物納申請書に記載された物納申請に係る土地は、相続税法第42条第2項ただし書に規定する管理又は処分をするのに不適当な財産であるとして、相続税物納財産変更要求通知処分(以下「本件変更要求通知処分」という。)をした。
 なお、本件変更要求通知処分に対して、所定の期限までに請求人から他の財産による物納申請書の提出がなかったため、原処分庁は、請求人に対し、相続税法第42条第4項の規定により、平成13年7月9日付で物納申請みなす取下げ通知書を送達した。
ハ 請求人は、本件変更要求通知処分を不服として、平成13年7月31日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年10月30日付で棄却の異議決定をした。
ニ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成13年11月27日に審査請求をした。

(3)関係法令等

イ 相続税法第41条《物納−物納の要件》第1項は、税務署長は、納税義務者について同法第33条《納付》又は国税通則法(以下「通則法」という。)第35条《申告納税方式による国税等の納付》第2項の規定により納付すべき相続税額を延納によっても金銭で納付することを困難とする事由がある場合においては、納税義務者の申請により、その納付を困難とする金額を限度として、物納を許可することができると規定している。
ロ 相続税法第42条第1項は、物納の許可を申請しようとする者は、その物納を求めようとする相続税の納期限又は納付すべき日までに、相続税法施行令第18条《物納申請書の記載事項等》第1項の定めるところにより、金銭で納付することを困難とする金額及びその困難とする事由、物納を求めようとする税額、物納に充てようとする財産の種類及び価額その他必要な事項を記載した申請書を納税地の所轄税務署長に提出しなければならない旨規定しており、また、相続税法第42条第2項ただし書において、税務署長は、当該申請に係る物納財産が管理又は処分をするのに不適当であると認める場合においては、その変更を求め、当該申請者が同条第4項の規定による変更申請書を提出するのをまって当該申請の許可又は却下をすることができる旨規定している。
ハ 相続税法基本通達(昭和34年1月28日付直資10国税庁長官通達。以下「基本通達」という。ただし、平成14年7月8日付課資2−9ほか2課共同による改正前のもの。)42−2《管理又は処分をするのに不適当な財産》は、相続税法第42条第2項ただし書に規定する「管理又は処分をするのに不適当であると認める」財産について、次に掲げるような財産をいうものとする旨、ただし、許可の時までに、管理又は処分をするのに不適当とする事由が消滅(解除)されるときは、この限りではない旨定めている。
(イ)共通事項
A 質権、抵当権その他の担保権の目的となっている財産
B 所有権の帰属等について係争中の財産
C 共有財産。ただし、共有者全員が持分の全部を物納する場合を除く。
(ロ)不動産
A 売却できる見込みのない財産
例えば、次に掲げるような不動産をいう。
(A)崖地や地形狭長な土地等で、単独には通常の用途に供することができない土地
(B)借地権又は借地権の及ぶ範囲が明らかでない貸地
B 現状を維持するための土留、護岸等の築造又はその修理を要する土地
C 境界線が明確でない土地で、隣接地主から境界線に異議のない旨の了解が得られない土地
D 現に公共の用に供されている又は近い将来において供されることが見込まれる土地又は建物
ニ 基本通達42−3《管理官庁との協議》は、税務署長又は国税局長は、物納申請財産が不動産、船舶又は有価証券である場合において、当該物納申請財産の管理又は処分につき物納申請財産の管理官庁の意見を聞く必要があると認められる場合には管理官庁と協議するものとする。この場合において、管理官庁による物納申請財産の調査の結果、管理又は処分するのに不適当である旨の回答があったときは、当該回答に則して相続税法第42条第2項ただし書の規定による物納財産の変更を求めるものとすると定めている。

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(4)基礎事実

 以下の事実については、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 本件変更要求通知処分に係る通知書には、変更を求める理由として、申請財産は市街化調整区域内に所在する土地で、現況が原野状の上、処理を要する恒常的な流水もあり、管理のため多大な費用を必要とする財産と認められ、「管理又は処分をするのに不適当な財産」に該当するためであると記載されている。
ロ 請求人が本件物納申請書に記載した物納申請に係るP市Q町○○番の土地(以下「本件物納申請土地」という。)は、請求人と共同相続人であるHとの共有財産であり、請求人は、当該土地の地積16,000平方メートルに請求人の持分である100分の75を乗じて算出した地積12,000平方メートルを物納申請に係る土地の地積としている。
ハ Hは、平成12年2月18日に、上記ロの土地の地積16,000平方メートルにHの持分である100分の25を乗じて算出した地積4,000平方メートルを物納申請に係る土地の地積とした本件相続に係る相続税物納申請書を請求人とともに原処分庁に提出している。
ニ 原処分庁は、Hに対し、平成13年6月11日付で、相続税物納財産変更要求通知処分をした。
ホ Hは、上記ニの処分を不服として、平成13年8月13日に異議申立てをしたが、原処分庁の同年10月30日付の棄却の異議決定を受け、同年12月12日に、他の財産を物納申請財産とする相続税物納申請書を原処分庁に提出している。
ヘ 本件物納申請土地について
(イ)請求人は、本件相続に係る相続税の申告に当たり、本件物納申請土地の相続税評価額について、国税庁長官の定める昭和39年4月25日付直資56、直審(資)17財産評価基本通達に基づき、当該土地の固定資産税評価額125,345,176円に、○○国税局長が定めた平成11年分の財産評価基準の評価倍率表の倍率1.2を乗じて、150,414,211円と算定している。
(ロ)本件物納申請土地は、都市計画法上の市街化調整区域内に所在している。
(ハ)本件物納申請土地は、平成12年11月9日に「錯誤」を登記原因として、地積を15,646平方メートルとする変更登記がされている。
(ニ)本件物納申請土地の不動産登記簿上の地目は、「山林」となっている。
(ホ)本件物納申請土地には、地役権、抵当権等は設定されていない。
(ヘ)本件物納申請土地は、平成14年2月13日付で分筆登記が、また、同月28日付で所有権の移転登記がそれぞれ行われており、その状況は次表のとおりである。

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2 主張

(1)請求人の主張

 本件変更要求通知処分は、次の理由により違法であるから、その取消しを求める。
イ 原処分庁は、本件物納申請土地について、現状の維持・管理のため多大な費用が必要であるから物納財産として不適当であると認定しているが、相続税法第42条第2項ただし書に規定する「管理又は処分をするのに不適当であると認められる」財産については、基本通達42−2の定めに沿って認定されるべきところ、同通達には、「管理のために多大な費用を必要とする」場合の例示がない。
 仮に、上記1の(3)のハの(ロ)のBに定める「現状を維持するための土留、護岸等の築造又はその修理を要する土地」のように、特別の費用を要する場合の例示を類推解釈したとするならば、本件物納申請土地は、何ら特別の費用を要することもなく、そもそも前提となる事実を曲解したものというほかはなく、法令の解釈適用誤りは明白である。
ロ 原処分庁は、本件物納申請土地について、市街化調整区域内に所在し、開発行為が制限され、換価性に乏しく、仮に処分可能としても金銭で納付があった場合と同等の経済的利益を確保できないと主張するが、仮に処分しても相続税額を充足する額に満たないからだめであるとするのであれば、その主張は矛盾している。
 請求人は、相続税の申告に当たって、相続税法の規定等に従って、相続財産を評価し相続税額を算定し、抵当権等の権利関係のない財産をもって物納申請をしたものであり、本件物納申請土地は、その周辺の土地の売買実例もあり、売却可能な土地である。
 もとより、土地の評価に当たっては、その立地、利便性、利用性及び換価性等を考慮した結果の評価方法が採用されているものであるから、本件物納申請土地に係る評価額もこれらの諸条件を織り込んだ評価額のはずである。
 したがって、評価方法に織り込まれていない特段の事情を摘示するならばともかく、殊更に開発行為の制限とか換価性に乏しい等の一般的な事項をもって主張すること自体が失当である。
 原処分庁がそれほどまでに価値のない財産だと主張するのであれば、本件物納申請土地について妥当と認められる額まで職権をもって評価額を減額すべきが相当である。
 相続税法第43条《物納財産の収納》第1項の規定によれば、物納財産の収納価額は、原則的に評価額によるべきことは論ずるまでもなく明白であるにもかかわらず、一つの課税とその納付手続において一物二価の主張をする原処分庁は、相続税法の予定する解釈に沿っていない。
ハ 原処分庁は、本件物納申請土地について、〔1〕現況が原野状で整地が施されていないため、降雨時には大きな水溜りができる等、有効活用するためには整地が必要であること、〔2〕恒常的な流水があり、流水のはん濫・地形の変化等を防止するための工事が必要であること及び〔3〕比較的広い土地であることから、用途については極めて限定されることになる旨主張するが、本件物納申請土地は、流水によるはん濫はなく、P市からの改善等の指導を受けたこともなく、その活用等については、本件物納申請土地が収納された後、仮に第三者に売却されたとした場合は、買受人が予定する活用方法に沿って最も合理的な方策で解決すべきことであり、原処分庁が本件物納申請土地の活用等についてまで判断すべきではなく、原処分庁の主張は独断に基づくものである。
ニ 以上のとおり、原処分庁の認定は、いずれも客観的な合理性に欠け、全く根拠がないものであり、管理又は処分をするのに不適当であるのか具体的な理由を明確にすることなく行った本件変更要求通知処分は違法である。

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(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 通則法第34条《納付の手続》第1項の規定により、国税を納付しようとする者は金銭をもって納付するのを原則としているが、法律に特別の定めがある場合において物納の許可があった国税については、金銭納付に代えて金銭以外の財産で課税原因と関連のあるものを納付することにより、納税義務を履行することができるものとされている。
ロ この場合、物納された財産は国有財産法が適用され、国が国有財産のうち普通財産として取得した上、これを管理又は処分することになる。さらに、国の財産の処分、管理については、財政法が適用され、同法第9条は、適正な対価なくしてこれを譲渡し若しくは貸し付けてはならず、また、常に良好の状態においてこれを管理し、その所有の目的に応じて、最も効率的にこれを運用しなければならない旨規定している。
 また、相続税の物納制度は、収納後国がこれを管理又は処分し、その代金をもって財政収入に充てることを目的としているものであるから、収納後の国有財産として管理・処分という観点から判断されることになる。
ハ したがって、租税の金銭納付の例外として認められている相続税の物納制度により物納される財産は、国が上記ロのような管理又は処分を行うことができるものでなければならず、しかも、処分(売却)するまでの管理や実際の処分手続が容易なものということが、極めて重要な要件となることは明白である。
ニ ところで、本件物納申請土地は、都市計画法に規定する市街化調整区域内に所在し、不動産登記簿上の地目は山林となっていることが認められる。
 市街化調整区域内で開発行為を行う場合は、都道府県知事の許可が必要であるが、特別な場合を除いて原則として開発行為は許可されないから、本件物納申請土地についても事実上、宅地造成等の開発行為ができないこととなる。
 そして、市街化調整区域内の既存宅地を除く山林及び原野等の土地については、開発行為が制限されていることから、本件物納申請土地は処分性に乏しく、仮に処分可能としても、物納制度の目的とする、相続税について金銭で納付があった場合と同等の経済的利益を確保することができないと認められる。
 そうすると、本件物納申請土地は、相続税の課税上どのような評価がされているかにかかわらず、収納不適当であるといわざるを得ないことになる。
ホ また、本件物納申請土地は、原野状で整地がされておらず、降雨時には大きな水溜りができる等、有効活用するためには整地が必要であること、そして、比較的広い土地であるから、用途については極めて限定されることとなり、さらに、隣接地からの流水路には恒常的な流水があり、隣接地からの当該流水の流入部分約5メートルには土管が埋設されているものの、そこから下流の流水路については、流水のはん濫、地形の変化等を防止するための工事が施されていないことから、このまま放置すれば隣接地に浸透する等の損害を与えることとなり、また、地形の変化も予測される。
 したがって、本件物納申請土地は、現状を維持・管理するための、土管の埋設、土留工事等の多大な費用を要する財産に該当すると認められる。
ヘ さらに、本件物納申請土地については、上記1の(3)のニのとおり、基本通達42−3の定めに基づき、あらかじめ物納財産の管理官庁であるK財務局長(以下「本件管理官庁」という。)と協議し、その結果、本件物納申請土地は、本件管理官庁から管理又は処分をするのに不適当な財産であるとの回答を受けている。
ト 以上のとおり、本件物納申請土地は、相続税法第42条第2項ただし書に規定する、管理又は処分をするのに不適当であると認める場合に該当することから、本件変更要求通知処分は適法である。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、本件物納申請土地が管理又は処分をするのに不適当な財産に当たるか否かにあるので、以下審理する。

(1)認定事実

イ 当審判所が原処分関係資料を調査したところによれば、次の事実が認められる。
(イ)原処分庁は、上記1の(3)のニの基本通達42−3の定めに基づき、平成13年3月9日付で本件管理官庁に対し、本件物納申請土地が、管理又は処分をするのに適当な財産であるか否かについて意見を求めており、それに対して本件管理官庁は、同年4月13日付で、当該財産は市街化調整区域内に所在する土地で、基本通達42−2に定める売却できる見込みのない財産に当たるほか、現況が原野状で、処理を要する恒常的な流水もあり、管理のために多大な費用を要する財産と認められることから、基本通達に定める「管理又は処分をするのに不適当な財産」に該当する旨を原処分庁に回答している。
(ロ)本件物納申請土地の所在する市街化調整区域内における周辺土地の売買実例は、次表のとおりである。

ロ 当審判所が、本件物納申請土地について、現地等を確認・調査したところ、次の事実が認められる。
(イ)本件物納申請土地は、流水路を挟んで公道(市道)に接しており、当該公道へは、流水路の一部にヒューム管を埋設した6メートル幅程度の道によって接している。
(ロ)本件物納申請土地のほぼ中央部の上空約10メートルには、北東から南西方向にL株式会社が所有する特別高圧架空電線(以下「本件高圧線」という。)が架設されている。
ハ 本件物納申請土地の近隣に所在する田の耕作者(以下「近隣耕作者」という。)は、当審判所に対し、要旨次のとおり答述している。
(イ)本件物納申請土地内の流水路は、耕作している田の農業用水の取水に利用している。
(ロ)農業用水の取水に当たり、M土地改良区から賦課金が徴収されていることから、水利権がある。
(ハ)本件物納申請土地内の流水路を利用するに当たって、請求人及びHと契約書あるいは承諾書を取り交わしている事実はない。
ニ M土地改良区担当職員は、当審判所に対し、耕作者が農業用水を取水するに当たっては水利権を有していることが必要であるが、耕作者は耕作地の地積に応じた賦課金を土地改良区に納付することにより当該水利権を取得することになる旨及び近隣耕作者は当土地改良区の組合員であり、毎年賦課金が課されている旨答述している。
ホ N株式会社S営業所担当者は、当審判所に対して、本件高圧線の架設に伴う土地の利用制限等に関し、本件高圧線により送電される電圧は154,000ボルトであり、本件高圧線下において、高圧線が最も下がった部分の周囲半径4.8メートル内に接する構築物の築造はできない旨答述している。
ヘ P市役所都市計画課担当職員は、本件調査担当職員に対し、本件物納申請土地は市街化調整区域内に所在し、当該土地全体について開発許可を受けるのは事実上困難であり、当該土地の一部について開発許可を受けられても、残りの部分については制限がある旨申述している。
(2)ところで、国税の納付については、通則法第34条第1項の規定により、金銭による納付が原則とされているところ、相続財産の物納による納付は、上記1の(3)のイのとおり、相続税法第41条第1項の規定に基づき、相続税を金銭で納付することが困難とする事由がある場合に、その納付を困難とする金額の範囲内を限度として許可されたときに限り、例外的に認められているものである。
 これらの規定からすると、相続税の物納制度は、国税を金銭で納付するという原則に対して、相続税が財産課税であるという特殊性を考慮して設けられた特例的な制度であるということができ、物納申請財産を国に帰属させることは真の目的ではなく、相続税の単なる納付手段であり、国がこれを換価し、その代金をもって財政収入に充てることが真の目的であると解される。
 そこで、物納申請財産は、その収納が金銭納付に代わるものである以上、国が物納された財産の管理・処分を通じて金銭の納付があった場合と同等の経済的利益を確保し得るものでなければならないと解するのが相当である。
 そして、上記1の(3)のロのとおり、相続税法第42条第2項ただし書で、税務署長は、物納申請財産が管理又は処分をするのに不適当であると認める場合においては、その変更を求めた上で、その申請の許可又は却下をすることができる旨規定している。
 この場合、どのような財産が管理又は処分をするのに不適当なものに該当するかについて、相続税法に明文の規定はないが、上記1の(3)のハのとおり、基本通達42−2は、共通事項として、〔1〕質権、抵当権その他の担保権の目的となっている財産、〔2〕所有権の帰属等について係争中の財産及び〔3〕共有財産等が該当する旨、さらに、不動産については、売却できる見込みのない財産、現状を維持するための土留、護岸等の築造又はその修理を要する土地等が該当する旨定めている。
 また、上記1の(3)のニのとおり、基本通達42−3は、税務署長又は国税局長は、物納申請財産が不動産である場合において、当該物納申請財産の管理又は処分につき物納財産の管理官庁の意見を聞く必要があると認める場合には、管理官庁と協議する旨定め、この場合において、管理官庁による物納申請財産の調査の結果、管理又は処分をするのに不適当である旨の回答があったときは、当該回答に則して相続税法第42条第2項ただし書の規定による物納財産の変更を求めるものとする旨定めているところ、これらの取扱いは、当審判所においても相当と認められる。
(3)そこで、上記1の(4)及び上記(1)のイ及びロの各事実並びに上記(1)のハ、ニ及びホの各答述及びヘの申述を、上記(2)に照らして判断すると、次のとおりである。
イ 請求人は、原処分庁が本件物納申請土地について、現状の維持・管理のため多大な費用が必要であることを理由として、物納財産として不適当であると認定したことに対し、この理由は基本通達42−2に例示がないもので、本件物納申請土地は、何ら特別の費用を要することもなく、相続税法第42条第2項ただし書の規定の解釈と適用を誤ったものであり違法である旨主張する。
 しかしながら、本件物納申請土地は、上記(1)のロの(イ)のとおり流水路があり、上記(1)のハの(イ)及び(ロ)の近隣耕作者の答述並びに上記(1)のニのM土地改良区担当職員の答述を併せ考えると、近隣耕作者は水利権を有し、当該流水路を農業用水の取水の用に供していると認められ、上記(1)のハの(ハ)のとおり、近隣耕作者は当該流水路の利用に当たって請求人及びHと具体的に契約書等を取り交わしている事実はないものの、当該流水路は現に農業用水の取水の用に供されていることから、本件物納申請土地は、その実質において地役権等の用益権が設定されている土地と同様の状況にあると認めるのが相当である。
 ところで、本件物納申請土地内の流水路については、上記(1)のロの(イ)のとおり、公道に接する一部についてはヒューム管が埋設されているが、当該流水路の他の部分については何ら整備がされておらず、国が本件物納申請土地の管理又は処分をするためには、当該流水路を農業用水路として利用する上で、維持・整備のための新たな費用を要することになる。
 そうすると、本件物納申請土地は、その管理又は処分をするために費用を要し、このことは、国税の納付の趣旨に反することになり、管理又は処分をするのに不適当な財産であると認めるのが相当であり、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ロ 請求人は、本件物納申請土地の評価額については、その立地、利便性、利用性及び換価性等の諸条件を織り込んだものとなっており、原処分庁が、本件物納申請土地について、金銭で納付があった場合と同等の経済的利益を確保できないとして、一つの課税とその納付手続において一物二価を主張することは、相続税法の予定する解釈に沿っておらず、本件物納申請土地は、その周辺の土地の売買実例もあることから、売却可能な土地である旨主張する。
(イ)当審判所の調査によっても、上記(1)のイの(ロ)のとおり、本件物納申請土地の周辺の土地の売買実例があることが認められ、上記1の(4)のヘの(ロ)のとおり本件物納申請土地が市街化調整区域内に所在することをもって、上記1の(3)のロのとおり、相続税法第42条第2項ただし書に規定する、管理又は処分をするのに不適当な財産に該当するとまではいえない。
 しかしながら、物納は、上記(2)で述べたとおり、通則法第34条第1項に規定する金銭による納付の例外として特に認められているものであるから、物納申請に係る財産が管理又は処分をするのに不適当であるか否かの判断に当たっては、当該財産の物納を受け、国がこれを管理又は処分をすることにより、金銭で国税の納付があった場合と同等の経済的利益を将来現実に確保することができるか否かという観点から判断されることになる。
 ところで、一般に、市街化調整区域内における開発行為については、上記(1)のホのP市都市計画課担当職員の申述でも明らかなように、都市計画法第33条《開発許可の基準》に規定する一定の基準に適合していることのほか、さらに、同法第34条に規定する厳しい要件に該当するものでなければ許可されないこと及び上記(1)のホのとおり、N株式会社S営業所担当者の本件高圧線の架設に伴う構築物の築造制限が課されている旨の答述を併せ考えると、本件物納申請土地は、現状においてはもちろん、将来においてもその開発及び利用にはおのずと制限を受けることとなり、当該土地を物納財産として収納し、国がその管理又は処分を通じて金銭で納付があった場合と同等の経済的利益を確保することは困難であり、また、これを早期に売却することも困難であると認めるのが相当である。
(ロ)また、相続税の課税は、相続による財産の取得という事実についてその担税力を認めて行われるものであり、そして、相続税評価額は、相続開始時における当該財産の時価、すなわち不特定多数の当事者間で自由な取引が行われた場合に通常成立すると認められる価額であるから、相続税評価額の算定が可能である以上、当該財産をその評価額により処分することが絶対的に不可能であるとはいえない。
 しかしながら、物納申請に係る財産の管理又は処分の適否は、上述のとおり、当該財産を国において管理又は処分をすることにより、金銭による国税の納付があった場合と同等の経済的利益を将来現実に確保することができるか否かという観点から判断されるのであって、ある相続財産について、それが課税計算の基礎となった財産であっても、そのことから直ちに当該財産が物納財産として管理又は処分に適するということを意味するものではなく、管理又は処分をするのに不適当であるとされることもあり得るというべきである。
(ハ)上記(イ)及び(ロ)を併せ考えれば、本件物納申請土地については、売却の見込みのない財産であり、相続税評価額の算定が可能であったにしても、やはり、本件物納申請土地は、管理又は処分をするのに不適当と認めるのが相当であり、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ハ 請求人は、原処分庁が本件物納申請土地について、有効活用するためには整地が必要であること及び現状においてはその用途は極めて限定されると主張することに対し、原処分庁が本件物納申請土地の活用等についてまで判断すべきではなく、原処分庁の主張は、独断に基づくものである旨主張する。
 しかしながら、物納制度は、上記(2)で述べたとおり、国が物納された財産の管理・処分を通じて、金銭による国税の納付があった場合と同等の経済的利益を確保し得るものでなければならないと解されるところ、本件物納申請土地が、将来、国が予定する管理又は処分に耐える財産に当たるか否かについて、上記1の(3)のニのとおり、基本通達42−3の定めに基づき、本件管理官庁との協議を行うことには理由がある。
 そして、原処分庁が上記(1)のイの(イ)の本件管理官庁との協議結果を踏まえ、本件物納申請土地について、管理又は処分をするのに不適当なものに該当すると判断したことは相当と認められ、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ニ 以上のとおり、本件物納申請土地は、管理又は処分をするのに不適当な財産であると認めるのが相当であり、原処分庁が、相続税法第42条第2項ただし書の規定に基づき行った本件変更要求通知処分は適法である。
(4)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所の調査によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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