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(平15.4.18裁決、裁決事例集No.65 973頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、租税特別措置法(以下「措置法」という。)第73条《住宅用家屋の所有権の移転登記の税率の軽減》の規定(以下「本件軽減措置」という。)を適用せずに登録免許税を納付した後に、所定の証明書を添付して当該登録免許税の還付通知をすべき旨の請求をした場合において、本件軽減措置の適用があるか否かを争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 審査請求人(以下「請求人」という。)は、平成14年5月10日、別紙に記載した建物(以下「本件建物」という。)について、登記の目的を所有権移転、原因を平成14年5月2日売買、登記権利者を請求人、課税価格を5,318,000円、登録免許税の額を265,900円と記載した登記申請書(以下「本件登記申請書」という。)に基づき、登記(以下「本件登記」という。)を了した。
 なお、請求人は、上記登録免許税の額に相当する金額の収入印紙を本件登記申請書に貼付し、登録免許税を納付した。
ロ その後、請求人は、平成14年9月25日付で、原処分庁に対し、登録免許税法第31条《過誤納金の還付等》第2項の規定に基づき、本件登記において過大に納付した登録免許税の額250,000円につき、請求人の納税地の所轄税務署長に還付通知をすべき旨の請求(以下「本件還付通知請求」という。)をしたが、原処分庁は、同年10月16日付で、還付通知をすべき理由がない旨の通知処分(以下「本件通知処分」という。)をした。
ハ 請求人は、この処分を不服として、平成14年10月25日に審査請求をした。

(3)関係法令

イ 登録免許税法第9条《課税標準及び税率》は、登録免許税の課税標準及び税率は、この法律に別段の定めがある場合を除くほか、登記等の区分に応じ、別表第1の課税標準欄に掲げる金額及び同表の税率欄に掲げる割合による旨規定している。
ロ 登録免許税法別表第1の1の(2)のニは、相続、法人の合併、遺贈、贈与その他無償名義及び共有物の分割以外の原因による所有権の移転の登記に係る税率は、1000分の50である旨規定している。
ハ 登録免許税法第31条第1項第3号は、登記機関は、過大に登録免許税を納付して登記を受けた事実があるときは、当該過大に納付した登録免許税の額を登記を受けた者の納税地の所轄税務署長に通知しなければならない旨、また、同条第2項は、登記を受けた者は、当該登記の申請書に記載した登録免許税の課税標準又は税額の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったこと又は当該計算に誤りがあったことにより、登録免許税の過誤納があるときは、当該登記を受けた日から1年を経過する日までに、その旨を登記機関に申し出て、第1項の通知をすべき旨の請求をすることができる旨、それぞれ規定している。
ニ 措置法第73条は、個人が、昭和59年4月1日から平成15年3月31日までの間に建築後使用されたことのある住宅用家屋のうち政令で定めるものを取得し、当該個人の居住の用に供した場合には、この住宅用家屋の所有権の移転の登記に係る登録免許税の税率は、財務省令で定めるところによりこの住宅用家屋の取得後1年以内に登記を受けるものに限り、登録免許税法第9条の規定にかかわらず、1000分の3とする旨規定している。
ホ 租税特別措置法施行令(以下「措置法施行令」という。)第42条《所有権の移転登記の税率が軽減される建築後使用されたことのある住宅用家屋の範囲等》第1項は、措置法第73条に規定する建築後使用されたことのある住宅用家屋のうち政令で定めるものは、所定の家屋であることにつき、当該個人の申請に基づき当該家屋の所在地の市町村長が証明したものとする旨規定している。
ヘ 租税特別措置法施行規則(以下「措置法規則」という。)第25条の2《住宅用家屋の所有権の移転登記の税率の軽減を受けるための手続等》第1項第2号は、措置法第73条の規定の適用を受けようとする者は、その登記の申請書に、当該家屋についての市町村長の措置法施行令第42条第1項の規定による証明書で当該家屋の取得年月日の記載のあるものを添付しなければならない旨規定している。

(4)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 本件登記申請書の登録免許税の額265,900円は、課税価格5,318,000円に税率1000分の50を乗じて算出したものであること。
ロ 本件登記申請書には、本件軽減措置の適用を受けるための本件建物についての市町村長の措置法施行令第42条第1項の規定による証明書(以下「住宅用家屋証明書」という。)の添付はないこと。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 本件登記は、本件軽減措置に該当するところ、原処分庁は、本件登記申請書に住宅用家屋証明書の添付がないから、本件軽減措置は適用されないとしている。
ロ しかし、請求人は、本件登記を代理人に依頼してP市長に住宅用家屋証明書の交付申請をしたところ、P市役所所属の担当職員(以下「市役所職員」という。)から「請求人は、現在本件建物に転居する前の住宅も所有しているから住宅用家屋証明書は発行しない。」旨の回答があり、同証明書の交付をしてもらえなかったので、本件登記申請書に住宅用家屋証明書を添付できなかった。
ハ そして、請求人は、本件登記完了後に市役所職員に対して住宅用家屋証明書が交付されなかった事情について照会したところ、同職員から「他に住宅を所有しているだけの理由で住宅用家屋証明書の発行を拒否することはない。」旨の回答を得たことから、平成14年9月18日付でP市長から本件建物に係る住宅用家屋証明書(以下「本件証明書」という。)の交付を受けた上、同月25日に原処分庁に対し本件証明書を添付して本件還付通知請求をした。
ニ 本件建物が措置法施行令第42条第1項に規定する家屋であることにつき、本件登記申請書の提出時と本件証明書の交付時において何ら変わりはなく、また、請求人には具体的欠陥がないのであるから、本件還付通知請求は認められるべきである。

(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 請求人は、平成14年5月10日、本件登記申請書に住宅用家屋証明書を添付することなく、本件登記に係る登録免許税の額を登録免許税法別表第1の1の(2)のニに掲げる1000分の50の税率を適用した265,900円として、国に納付した。
ロ そこで、原処分庁は、本件登記申請書を調査したところ、本件登記に係る登録免許税法所定の登録免許税の納付があり、かつ、他に本件登記の申請を却下する事由もなかったので、本件登記の申請を受理し、平成14年5月10日受付第○○号をもって登記をした。
ハ ところが、請求人は、平成14年9月25日に至り、原処分庁に対して、本件登記に係る登録免許税については本件軽減措置により1000分の3の税率が適用されるべきであるとして、本件還付通知請求をした。
ニ しかしながら、措置法規則第25条の2第1項の規定によれば、本件軽減措置の適用を受けようとする者は、その登記の申請書に住宅用家屋証明書を添付しなければならないことになっている。しかも、本件軽減措置に係る法令には、やむを得ない事情によって同証明書の添付をすることができなかった場合においても本件軽減措置を適用することができる旨のいわゆるゆうじょ規定が設けられていない。
ホ したがって、本件登記申請書には住宅用家屋証明書の添付がなく、過誤納の事実が認められないから、本件通知処分をしたものである。

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3 判断

 本件登記に係る登録免許税の税率について、本件軽減措置の適用があるか否かについて争いがあるので、以下審理する

(1)本件軽減措置について

イ 国税通則法第15条《納税義務の成立及びその納付すべき税額の確定》第2項第12号は、登録免許税の納税義務は登記の時に成立する旨、また、同条第3項第5号は、登録免許税は納税義務の成立と同時に特別の手続を要しないで納付すべき税額が確定する国税である旨、それぞれ規定している。
ロ そして、本件軽減措置に係る法令の規定は、上記1の(3)のニないしヘのとおりであるところ、本件軽減措置は、個人が政令(措置法施行令)で定める住宅用家屋を取得し当該個人の居住の用に供した場合で、財務省令(措置法規則)で定めるところにより登記を受けるものに限り、登録免許税の税率を登録免許税法第9条の規定にかかわらず1000分の3とするものであり、本件軽減措置の適用を受けようとする者は、その登記の申請書に当該家屋についての住宅用家屋証明書を添付しなければならないこととされている。
ハ そうすると、登録免許税は、登記の時に納税義務が成立し、それと同時に特別の手続を要しないで納付すべき税額が確定するものであるから、本件軽減措置の適用がある場合とは、登記の申請時において、その登記の申請書に当該家屋についての住宅用家屋証明書の添付がある場合に限られるものと解される。

(2)本件登記に係る登録免許税について

イ 上記(1)のハに述べたとおり、住宅用家屋証明書を登記申請書に添付しなかった場合には、本件軽減措置の適用は受けられないこととなるところ、本件登記申請書には、上記1の(4)のロのとおり、本件建物についての住宅用家屋証明書が添付されていないのであるから、本件登記については、本件軽減措置の適用はないこととなる。
ロ そうすると、本件登記に係る登録免許税の額は、登録免許税法第9条及び同法別表第1の1の(2)のニの各規定により1000分の50の税率を適用して算出することとなり、上記1の(4)のイのとおり、本件登記申請書に係る登録免許税の額と同額となるから、本件登記に係る登録免許税の額265,900円は、適法に算出されている。
(3)請求人は、本件建物は措置法施行令第42条第1項に規定する家屋に該当するところ、本件登記申請書提出時にはP市長から住宅用家屋証明書の交付をしてもらえなかったから本件登記申請書に住宅用家屋証明書を添付できなかったのであり、本件登記完了後ではあるが、本件証明書の交付を受けこれを添付して本件還付通知請求をしたのであるから、本件登記は本件軽減措置に該当し、本件還付通知請求は認められるべきである旨主張する。
 しかしながら、本件登記について本件軽減措置の適用がないことは、上記(2)のイで述べたとおりであるところ、請求人が主張するような事情があったとしても、措置法第73条には登記申請時に住宅用家屋証明書の添付がない場合でも本件軽減措置の適用を受けることができるとするゆうじょ規定は存在しないから、請求人の主張には理由がない。
(4)以上のとおり、本件登記に係る登録免許税の額は、適法に算出されており、過誤納の事実はないから、本件還付通知請求に対してなされた本件通知処分は適法である。
(5)その他
 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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別紙 本件建物の表示

 (1棟の建物の表示)

所在P市Q町○丁目○○番地
構造鉄筋コンクリート造陸屋根地下1階付9階建
床面積1階417.84平方メートル
 2階555.51平方メートル
 3階473.68平方メートル
 4階473.68平方メートル
 5階428.88平方メートル
 6階428.88平方メートル
 7階384.70平方メートル
 8階384.70平方メートル
 9階52.54平方メートル
 地下1階67.74平方メートル
(専有部分の建物の表示)
家屋番号Q町○丁目○○番の○
建物の番号○○
種類居宅
構造鉄筋コンクリート造1階建
床面積2階部分68.82平方メートル