ホーム >> 公表裁決事例集等の紹介 >> 公表裁決事例 >> 裁決事例集 No.65 >> (平15.3.24裁決、裁決事例集No.65 993頁)

(平15.3.24裁決、裁決事例集No.65 993頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、差押えの前提となった相続税の申告書が無効である上、相続税の基礎となった遺産の帰属についての訴訟が係属中であるから、滞納国税は存在していないと主張されて、不動産の共有持分の差押処分の適否が争われた事案である。

トップに戻る

(2)審査請求に至る経緯

イ 平成11年12月14日に死亡したA(以下「A」という。)の相続人の一人であるB(以下「B」という。)は、C税務署長に対し、Aの相続に係る相続税の申告書(以下「本件申告書」という。)を、他の共同相続人とは別に、平成13年6月22日付で、提出した。
ロ C税務署長は、本件申告書が法定申告期限後に提出されたことから、平成13年9月5日付で、10,977,500円の無申告加算税の賦課決定処分を行った。
ハ Bは、別表記載のとおりの前記イの申告に係る相続税(以下「本件相続税」という。)、上記ロの無申告加算税及び延滞税(以下、これらを併せて「本件滞納国税」という。)を納付しなかったので、C税務署長は、平成13年12月21日付で、Bの共同相続人である審査請求人Dほか6名(以下「請求人ら」という。)に対して、本件滞納国税について相続税法第34条《連帯納付の義務》第1項の規定に基づく連帯納付義務があるとして、国税通則法(以下「通則法」という。)第37条《督促》に基づき、督促した。
 なお、C税務署長は、平成13年12月26日付で、通則法第43条《国税の徴収の所轄庁》第3項に基づき、原処分庁へ徴収の引継ぎをした。
ニ 原処分庁は、平成14年2月22日付で、本件滞納国税を徴収するため、別紙1記載の各不動産に係る請求人らの共有持分について、差押処分をした(以下「本件差押処分」という。)。
 なお、差押えの登記がなされた日は、平成14年2月25日である。
ホ 請求人らは、本件差押処分を不服として、平成14年4月16日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年6月3日付で、棄却の異議決定をした。
ヘ 請求人らは、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成14年7月1日に審査請求をした。
ト なお、請求人らは、Dを総代として選任し、その旨を平成14年9月19日に当審判所へ届け出た。

(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人ら及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所が調査したところによっても、その事実が認められる。
イ Aに係る請求人らの相続関係は、別紙2の相続関係図のとおりであり、請求人らとBは、Aの共同相続人である。
ロ 別紙1記載の各不動産は、Aの相続開始時における遺産の一部である。
ハ 相続税の申告について請求人らから相談を受けていた税理士は、平成12年1月23日に行われたAの忌明け後の会合の席で、Aの相続人らに対して、「Aの相続をK(以下「K」という。)にさせ、Kに対し、預貯金及び不動産等を渡す」旨の遺言書と題する書面(以下「本件書面」という。)が存在することを説明し、その内容を明らかにしたが、その際、Bの二女Lが本件書面に異議を唱えたこともあり、その後、遺産分割協議について親族間の紛争が生じたことから、家庭裁判所で調停が行われた。
 なお、Kは、審査請求人Dの四男である。
ニ 請求人ら及びKは、平成12年10月13日に、Aに係る相続税の申告書をC税務署長に提出したが、当該申告書には、Bの記名押印がある。
ホ 請求人ら及びKは、平成13年9月12日に、相続税の修正申告書をC税務署長に提出したが、当該申告書には、Bの記名はあるが、押印はない。
ヘ Kは、平成13年5月ころ、M地方裁判所に対して、死因贈与により被相続人の全財産を譲り受けたとして、Bを被告とする不当利得返還等請求訴訟(M地方裁判所平成○年(○)第○○号、以下「本件訴訟」という。)を提起した。
ト M地方裁判所は、平成14年7月12日に、Kの主張をほぼ認容する旨の判決を言い渡したが、Bは、当該判決に不服であるとして控訴し、訴訟はN高等裁判所に係属中(平成○年(○)第○○号事件)である。

トップに戻る

2 主張

(1)請求人ら

 原処分は、次の理由により、違法又は不当であるから、その取消しを求める。
イ Bは、法定相続分である7分の1の割合により、Aの遺産を取得したとして、相続税の申告をしているが、Aの遺産は、同人の遺言書である本件書面によって、そのすべてをKが取得したものであること、また、Bが自らの申告に基づく相続税の納付を怠っていることから見て、本件申告書はBの錯誤に基づく無効なものであるから、当該無効な申告に基づいて確定したとされる本件相続税は、もともと不存在というべきであり、本件差押処分は違法な処分である。
ロ また、相続税額の計算の基礎となった遺産の帰属が裁判所で係争中であり、本件申告書による相続税額をそのまま確定させることはできないから、本件滞納国税は存在しておらず、本件差押処分は違法又は不当である。

(2)原処分庁

 原処分は、次のとおり適法であるから、本件審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ Bは本件申告書を、請求人らは修正申告書を、それぞれ提出しているが、本件相続税は、Bが本件申告書を提出したことにより適法に確定しているので、Bの共同相続人である請求人らは、本件相続税について連帯納付義務を負うことになる。
ロ 本件差押処分は、滞納者であるB及び請求人らが本件滞納国税を納期限までに納付しなかったことから行ったものであり、適法な処分である。
ハ 請求人らは、本件申告書が無効なものである上、相続税額の計算の基礎となった遺産の帰属についての訴訟が係属中であるから、本件滞納国税は存在していないと主張するが、本件滞納国税が権限ある者により減額されるまで、滞納者であるB及び請求人らには本件滞納国税の納付義務が存在している。

トップに戻る

3 判断

 本件審査請求において、請求人らは、本件申告書が無効なものである上、遺産の帰属についての訴訟が係属中であるから、本件滞納国税は存在していないと主張して、本件差押処分の取消しを求めているので、以下審理する。

(1)請求人ら提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。

イ Kは、当審判所に対して、請求人ら及びKの平成12年10月13日付の相続税の申告書の「遺産を取得した人」欄にあるBの記名押印について、「Bの押印は、同人の同意を得たものではなく、弁護士に相談して、私が押印したものである。なお、私が押印した理由は、延納の許可を受けるため及び無申告加算税の賦課を避けるためである。」旨答述した。
ロ Bの二女Lは、C税務署の職員に対して、Bが本件申告書にAの遺産の7分の1を取得した旨記載した経緯について、「〔1〕Bは、請求人らの申告を承知していない。〔2〕遺産分割が未了であるのに、請求人らの申告内容は、分割したことになっている。〔3〕Bが期限後に申告書を提出することになったのは、請求人らの申告について、申告漏れ財産があったからである。〔4〕Aの遺産分割について、一部の相続人が大部分の財産を取得しようとしているのが実情である。」旨申述した。
ハ Kは、C税務署の職員に対して、請求人ら及びKが平成13年9月12日付の相続税の修正申告書を提出した経緯について、「修正申告をしたのは、〔1〕遺産分割による取得財産の増額、〔2〕相続財産の一部申告漏れ及び計算誤りによるものである。」旨申述した。
 なお、上記修正申告書には、請求人ら及びKが、本件書面によって遺産を取得し、Bについての取得分はない旨が記載されている。
ニ 本件滞納国税は、督促状が発せられた後においても完納されていない。
ホ 本件訴訟における第一審の判決は、〔1〕AとKとの間で、遅くとも平成11年12月10日に、死因贈与契約が成立しており、本件書面は、死因贈与契約証書として有効なものであり、〔2〕Kは、Aの死亡に伴い、Aの預金及び不動産を取得した旨判示した。
ヘ Kは、当審判所に対して、「Bから本件申告書の開示を受けたことはなく、Bに対して請求人らの平成13年9月12日付修正申告書を開示したこともない。」旨答述した。

(2)関係法令等

イ 通則法第16条《国税についての納付すべき税額の確定の方式》第1項第1号は、申告納税方式による相続税の納付すべき税額について、納税者のする申告により確定することを原則とする旨規定している。
ロ 相続税法第34条第1項は、同一の被相続人から相続又は遺贈に因り財産を取得したすべての者は、その相続又は遺贈に因り取得した財産に係る相続税について、当該相続又は遺贈に因り受けた利益の価額に相当する金額を限度として、互いに連帯納付の責めに任ずる旨規定している。
 そして、当該連帯納付義務は、相続税徴収の確保を図るため、相互に各相続人等に課した特別の責任であって、その義務履行の前提条件をなす連帯納付義務の確定という事実に照応して、法律上当然に生ずるものであるから、連帯納付義務につき格別の確定手続を要するものではないと解するのが相当である。
ハ 国税徴収法第47条《差押の要件》第1項第1号は、滞納者が督促を受け、その督促に係る国税をその督促状を発した日から起算して10日を経過した日までに完納しないときは、徴収職員は、滞納者の国税につきその財産を差押えなければならない旨規定している。

トップに戻る

(3)そこで、前記1の(3)及び3の(1)の各事実を上記(2)に照らして判断すると、以下のとおりである。

イ 請求人らは、Aの遺産は、同人の遺言書である本件書面によって、そのすべてをKが取得したものであり、また、Bは自らの申告に基づく相続税の納付を怠っていることから見ても、Bが法定相続分7分の1の割合でAの遺産を取得したとする本件申告書は、Bの錯誤に基づく無効なものであると主張する。
(イ)ところで、相続税について、その申告書の記載内容について錯誤があるときには、錯誤による無効を主張できる場合があり得るが、それは、相続税法の定める申告及び修正申告、更正の請求等の制限の趣旨を考慮すると、当該錯誤が客観的に明白かつ重大であって、通則法等に定める是正方法以外にその是正を許さないとすると、納税義務者の利益を著しく害すると認められる特段の事情がある場合に限り許されるものと解すべきである。
(ロ)これを本件について見ると、〔1〕Bは法定相続分である7分の1の割合で遺産を取得した旨を本件申告書に記載していること、〔2〕本件書面の内容は、KがAの遺産のほとんどを取得するものであること、〔3〕Bが本件申告書に係る相続税の納付をしていないことが、それぞれ認められるものの、他方で、Bが本件書面の内容を争い、遺産の一部の帰属についての訴訟が係属中であることに照らすと、これら〔1〕ないし〔3〕の事情が認められるからといって、直ちにBの申告について客観的に明白かつ重大な錯誤がある場合に該当するとはいえない。
 また、本件申告書は、請求人らの平成12年10月13日付の申告書に遺産の一部申告漏れのあることに気付いたBが、K及び請求人らと遺産分割協議中であったため、相続税法の規定に従い、Bの取得財産を記載し、法定申告期限後に、提出したものであり、その時点において、遺産の取得者に関して、客観的に明白かつ重大な錯誤があったと容易に判断しうる場合に当たらないことは明らかである。
 さらに、Bにおいて、本件訴訟又は遺産分割協議等の結果、課税価格及び相続税額が過大となったときは、税務署長に対する更正の請求の方法により本件申告書を是正することも可能であるから、納税義務者の利益を著しく害すると認められる特段の事情があるとは認められない。
(ハ)以上により、本件申告書が錯誤により無効である旨の請求人らの主張には理由がない。
ロ また、請求人らは、相続税額の計算の基礎となった遺産の帰属が裁判所で係争中であり、本件申告書による相続税額をそのまま確定させることはできないから、本件滞納国税は存在しておらず、本件差押処分は違法又は不当である旨主張する。
(イ)ところで、申告は、納税義務の成立した租税債権の納付すべき税額を確定させることを目的とする手続であるのに対して、差押処分は、既に確定した租税債権の強制履行を目的とする滞納処分の一環であって、両者は別個に独立した法律効果の発生を目的とするものであり、結合して単一の法律効果を生ずるものではないから、外形上客観的に一見して看取し得る程度の重大かつ明白な瑕疵が申告自体にある場合を除き、申告に内在する瑕疵を理由にして、差押処分の取消しを求めることはできないと解すべきである。
(ロ)これを本件について見ると、〔1〕Aの遺産分割に関する親族間の紛争が生じ、KとB間において遺産の帰属についての訴訟が係属中であること、〔2〕遺産分割協議又は裁判の結果によっては、Bの本件申告書に係る遺産の取得分に変更もあり得ることは認められるが、これらのことをもって、直ちに本件相続税の申告に瑕疵があるとはいえず、ほかに外形上客観的に一見して看取し得る程度の重大かつ明白な瑕疵があるとは認められないから、この点に関する請求人らの主張には理由がない。
ハ そして、本件差押処分の適否について検討すると、〔1〕Aの相続税について、請求人ら及びKとBとは、互いの申告内容を知ることもなく、それぞれが申告書を提出しているところ、Bの申告に係る本件相続税は、通則法第16条第1項第1号の規定により納付すべき税額として有効に確定していること、〔2〕Aの遺産を取得した請求人らには、相続税法第34条第1項の規定により本件相続税等についての連帯納付義務が当然に生じていること、〔3〕C税務署長は、請求人らに対して、本件滞納国税についての督促状を発したが、請求人らは、上記督促状を発した日から起算して10日を経過した日までに、本件滞納国税を完納していないことがそれぞれ認められる。
 そうすると、原処分庁が、別紙1記載の各不動産について、請求人らの各持分につき行った本件差押処分には、違法及び不当な点が何ら認められないから、本件差押処分は適法かつ相当な処分である。

トップに戻る

(4)その他

 原処分のその他の部分については、請求人らは争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

別紙1 不動産目録

1所在○○市○○○字○○
地番○○番○
地目宅地
地積104.19平方メートル
2所在○○市○○○字○○○
地番○○番
地目宅地
地積360.33平方メートル
3(主たる建物の表示)
所在○○市○○○字○○○○○番地
家屋番号○○番
種類居宅
構造鉄筋コンクリート造陸屋根2階建
床面積1階49.98平方メートル2階14.33平方メートル
(附属建物の表示)
符号
種類物置
構造コンクリートブロック造スレート葺平家建
床面積14.36平方メートル
4所在○○市○○○字○○○
地番○○番
地目宅地
地積182.61平方メートル
5所在○○市○○○字○○○
地番○○番○
地目宅地
地積181.91平方メートル
6所在○○市○○町字○○
地番○○番○
地目
地積1911平方メートル
7所在○○市○○町字○○○
地番○○番○
地目
地積1705平方メートル
8所在○○市○○町字○○○
地番○○番○
地目
地積400平方メートル
9所在○○市○○○町字○○○
地番○○番○
地目雑種地
地積223平方メートル
10所在○○市○○○町字○○○
地番○○番○
地目
地積519平方メートル
11所在○○市○○○町字○○○
地番○○番
地目雑種地
地積1110平方メートル
12所在○○市○○○町字○○
地番○○番
地目宅地
地積852.89平方メートル
13(主たる建物の表示)
所在○○市○○○町字○○○○番地
家屋番号○○番
種類事務所
構造木造亜鉛鋼板葺平家建
床面積35.66平方メートル
(附属建物の表示)
符合
種類自転車置場
構造軽量鉄骨造亜鉛鋼板葺平家建
床面積88.35平方メートル
14所在○○市○○○町字○○
地番○○番○
地目宅地
地積234.71平方メートル
15所在○○市○○○町字○○
地番○○番○
地目宅地
地積419.83平方メートル
16所在○○市○○○町字○○
地番○○番
地目宅地
地積1219.83平方メートル
17所在○○市○○○○字○○○
地番○○番○
地目
地積192平方メートル
18所在○○市○○○
地番○○番○
地目宅地
地積126.45平方メートル
19所在○○市○○○町字○○
地番○○番
地目雑種地
地積2294平方メートル
20所在○○市○○○
地番○○番
地目
地積543平方メートル
21所在○○市○○○
地番○○番○
地目雑種地
地積857平方メートル
22所在○○市○○字○○○○
地番○番○
地目
地積1009平方メートル
23所在○○市○○字○○○○
地番○番○
地目
地積574平方メートル
24所在○○市○○字○○○○
地番○番
地目
地積839平方メートル
25所在○○市○○字○○○○
地番○番○
地目
地積138平方メートル
26所在○○市○○字○○
地番○番○
地目
地積157平方メートル
27所在○○市○○字○○○
地番○番
地目
地積1550平方メートル
28所在○○市○○字○○
地番○○番○
地目宅地
地積162.42平方メートル
29所在○○市○○字○○
地番○○番
地目
地積1064平方メートル
30所在○○市○○町字○○
地番○○番○
地目雑種地
地積251平方メートル
31所在○○市○○○字○○○
地番○○番○
地目宅地
地積231.40平方メートル
32所在○○市○○○字○○○
地番○○番○
地目宅地
地積496.42平方メートル
33(主たる建物の表示)
所在○○市○○○字○○○○番地○、○番地○、○番地○
家屋番号○○番○
種類車庫
構造鉄骨造スレート葺平家建
床面積128.04平方メートル
(附属建物の表示)
符号
種類事務所
構造木造瓦葺平家建
床面積38.80平方メートル
34所在○○市○○○字○○○
地番○○番○
地目宅地
地積373.55平方メートル
35所在○○市○○○
地番○○番
地目宅地
地積240.37平方メートル
36所在○○市○○○町字○○○
地番○○番○
地目宅地
地積1114.04平方メートル
37(主たる建物の表示)
所在○○市○○○町字○○○○○番地○
家屋番号○○番○
種類店舗・共同住宅
構造鉄筋コンクリート造コンクリート屋根7階建
床面積1階336.08平方メートル、2階265.71平方メートル
3階265.71平方メートル、4階265.71平方メートル
5階265.71平方メートル、6階265.71平方メートル
7階265.71平方メートル
38所在○○市○○○
地番○○番○
地目宅地
地積40.29平方メートル
39所在○○市○○○字○○○
地番○○番○
地目宅地
地積1438.01平方メートル
40所在○○市○○○字○○○
地番○○番○
地目宅地
地積323.27平方メートル

トップに戻る