ホーム >> 公表裁決事例集等の紹介 >> 公表裁決事例 >> 裁決事例集 No.65 >> (平15.5.12裁決、裁決事例集No.65 1047頁)

(平15.5.12裁決、裁決事例集No.65 1047頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、審査請求人であるH及びI(以下、それぞれ「H」、「I」といい、両名を併せて「請求人ら」という。)が、請求人らの亡父の遺産を相続するに当たり、請求人らの母であるK(以下「K」という。)との遺産分割協議に基づいて、相続財産である別表2の〔1〕及び〔2〕の不動産に係るKの共有持分(2分の1)のすべてを取得したことについて、そのことが〔1〕国税徴収法(以下「徴収法」という。)第39条《無償又は著しい低額の譲受人等の第二次納税義務》の規定に該当するか否か及び〔2〕その後の告知処分及び差押処分が適法か否かを争点とする事案である。

トップに戻る

(2)審査請求に至る経緯

イ 原処分庁は、Kの別表1の滞納国税(以下「本件滞納国税」という。)について、請求人らが徴収法第39条に規定する国税の第二次納税義務を負うとして、請求人らに対して、同法第32条《第二次納税義務の通則》第1項の規定に基づき、平成13年10月12日付の納付通知書によって、それぞれ32,067,070円を限度とする第二次納税義務の告知処分(以下「本件告知処分」という。)をした。
ロ その後、請求人らが本件告知処分に係る納期限である平成13年11月12日までに納付すべき税額を納付しなかったので、原処分庁は、同月21日付の納付催告書によって督促をした後、同年12月17日付で、別表2の不動産の差押処分(以下「本件差押処分」という。)をした。
ハ 請求人らは、これらの処分を不服として、本件告知処分については平成13年12月4日に、本件差押処分については平成14年1月15日に、それぞれ異議申立てをしたところ、異議審理庁は、本件告知処分については平成14年2月22日付で、本件差押処分については同月25日付で、いずれも棄却の異議決定をしたので、請求人らは、同年3月22日に審査請求をした。
 なお、請求人らは、Hを総代として選任し、その旨を平成14年3月26日に当審判所へ届け出た。

(3)関係法令等

イ 徴収法第39条は、滞納者の国税につき滞納処分を執行しても、なおその徴収すべき額に不足すると認められ、かつ、その不足すると認められることが、当該国税の法定納期限の1年前の日以後に、滞納者がその財産につき行った政令で定める無償又は著しく低い額の対価による譲渡等の処分に基因すると認められる場合において、その処分により権利を取得した者が滞納者の親族であるときは、その処分により受けた利益の限度において、その滞納に係る国税の第二次納税義務を負う旨規定している。
ロ 徴収法第32条第1項は、税務署長は、納税者の国税を第二次納税義務者から徴収しようとするときは、その者に対し、政令で定めるところにより、徴収しようとする金額、納付の期限その他必要な事項を記載した納付通知書により告知しなければならない旨規定し、同条第2項は、第二次納税義務者がその国税を同条第1項の納付の期限までに完納しないときは、税務署長は、納付催告書によりその納付を督促しなければならない旨規定している。
ハ 徴収法第47条《差押の要件》第1項第1号及び第3項は、第二次納税義務者が督促を受け、その督促に係る国税をその納付催告書を発した日から起算して10日を経過した日までに完納しないときは、徴収職員は、第二次納税義務者の財産を差し押さえなければならない旨規定している。
ニ 所得税法第64条《資産の譲渡代金が回収不能となった場合等の所得計算の特例》第2項は、保証債務を履行するため資産の譲渡があった場合において、その履行に伴う求償権の全部又は一部を行使できないこととなったときは、その行使することができないこととなった金額に対応する部分の金額は、各種所得の金額の計算上なかったものとみなす旨規定(以下、この規定による特例措置を「保証債務の特例」という。)している。

(4)基礎事実

 以下の事実は、請求人ら及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所が調査したところによっても、その事実が認められる。
イ Kは、原処分庁に対して、給与所得の金額が300,000円、分離課税の長期譲渡所得の金額(以下「本件譲渡所得」という。)が74,504,716円であるとする平成9年分の所得税の確定申告書(以下「本件確定申告書」という。)を法定申告期限内である平成10年3月16日に提出し、また、本件譲渡所得が81,374,716円であるとする修正申告書を同年10月1日に提出した。
ロ K及び請求人らは、平成6年1月19日に死亡したL(以下「被相続人」という。)の相続に伴い、平成9年7月7日に、次のとおりの遺産分割(以下「本件遺産分割」という。)をし、平成10年3月23日に、本件遺産分割に基づいて、相続財産である別表2の〔1〕及び〔2〕の不動産(以下「本件不動産」という。)についての請求人らへの所有権移転登記(以下「本件移転登記」という。)を行った。
(イ)Kは、財産を相続せず、被相続人の債務のすべてを承継し、葬式費用のすべてを負担する。
(ロ)Hは、本件不動産の持分2分の1とK及びIが相続した以外の財産を相続する。
(ハ)Iは、本件不動産の持分2分の1を相続する。
ハ 原処分庁が本件差押処分をした財産は、別表2の〔1〕、〔2〕及び〔3〕の不動産であるが、本件不動産は本件遺産分割によって請求人らが取得し、同表の〔3〕の不動産は請求人らが自ら新築したものであり、いずれも請求人らの所有財産である。

トップに戻る

2 主張

(1)請求人らの主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 本件告知処分
(イ)本件譲渡所得については、次の理由により本件滞納国税は発生しない。
 したがって、本件滞納国税の納付義務を前提とする本件告知処分は違法である。
A 本件譲渡所得は、Kが、被相続人の連帯保証人としての債務を履行するために、Kの所有不動産を売却したものであるから、保証債務の特例が適用され、所得金額の計算上なかったものとみなされる。
B 請求人らは、本件確定申告書を作成するに当たって、原処分庁での事前相談において、原処分庁から、申告をすれば保証債務の特例が適用される旨の説明を受け、請求人らが依頼した税理士にその旨を説明したが、当該税理士は、保証債務の特例の適用を受けない内容の本件確定申告書を提出したものである。
(ロ)本件不動産は、本件遺産分割とは別に作成した後記3の(1)のロの「覚え書」と題する書面(以下「覚書」という。)に記載のとおり、請求人らがKに対する株式取引資金等の立替金(以下「立替金」という。)の返還を求めないことを対価として取得したものであり、本件遺産分割によって本件不動産に係るKの持分を請求人らに取得させたこと(以下「本件持分譲渡」という。)は、徴収法第39条にいう無償又は著しく低い額の対価による譲渡には該当しないから、本件告知処分は違法である。
ロ 本件差押処分
 本件告知処分が、上記イのとおり違法であるから、本件告知処分に基づく本件差押処分も違法である。

(2)原処分庁の主張

 原処分は、次のとおりいずれも適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 本件告知処分
(イ)請求人らは、本件遺産分割に基づいて、本件移転登記を本件確定申告書の法定納期限の1年前の日以後である平成10年3月23日にしたことにより、Kの国税につき滞納処分を執行してもなおその徴収すべき額に不足を生じることになったものであるから、当該徴収不足は、本件持分譲渡に基因することになる。
(ロ)請求人らは、異議申立ての段階において提出しなかった覚書を、審査請求の段階において初めて提出した上、本件持分譲渡は請求人らがKに対し有する立替金と相殺したものであるから、有償で行われたものである旨主張する。
 しかしながら、覚書は、遺産分割協議書と同一日に作成されたもので、覚書に記載されている立替金は、請求人らが被相続人の株式の損失補てんのために出捐したものであり、本件持分譲渡は、無償であると認められるから、請求人らの主張には理由がない。
(ハ)以上のとおり、本件告知処分は、徴収法第39条の要件を満たした適法なものである。
ロ 本件差押処分
 上記イのとおり、請求人らに対する本件告知処分は適法であり、本件差押処分は、本件告知処分に基づいて、平成13年11月21日付の納付催告書によって督促を行った上、同年12月17日付で請求人らの不動産を差し押さえたものであるから、適法である。

トップに戻る

3 判断

(1)認定事実

 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所が調査したところによれば、次の事実が認められる。
イ K及び請求人らは、被相続人の法定相続人である。
 なお、Iは、Hの実子であるが、平成5年8月19日に、祖父母である被相続人夫婦と養子縁組の届出をしている。
ロ 覚書は、遺産分割協議書と同日付の書面であり、その要旨は、次のとおりである。
(イ)Kに対する立替金の額は、Hが14,489,050円、Iが10,906,972円である。
(ロ)Kが本件不動産を相続しないことを条件として、請求人らは、Kに立替金の返済を求めない。
ハ 請求人らは、異議申立ての段階では、覚書を提出しておらず、また、Kが本件不動産を相続しなかった理由については、原処分庁から税務相談の際に、Kが自己の財産を売却して相続債務全額を弁済すると、請求人らに対する関係で贈与税の課税が問題になると指摘を受けたので、Kは債務のみを相続し、請求人らが本件不動産を相続するようにしたと主張していた。
ニ K及びHは、当審判所に対して、要旨次のとおり答述した。
(イ)被相続人の借入金
A 被相続人は、昭和52年ころから株取引をし、平成元年10月以降はM銀行からの借入金を株取引の資金に充てていたが、被相続人の死亡時における同行からの借入金総額は、利息を含めて182,375,296円であった。
B K及びHは、上記借入金の連帯保証人になっていた。
(ロ)遺産分割協議
 遺産分割協議は、相続人間で異議なく成立している。
 なお、K及びHは、被相続人の連帯保証人であることから、相続放棄に関する手続をしていない。
(ハ)Kの株取引等
 Kは、昭和63年ころから平成3年ころにかけて、請求人らの資産を増やすつもりで、自己資金のほかに、請求人らの定期預金等を解約し、これらの資金を原資として、N株式会社○○支店(以下「N証券」という。)において、請求人ら名義の株式を購入したが、株価の下落により、最終的には約2,000万円の損をしたことから、Kは、その責任をとるために本件不動産を相続しなかったものである。
(ニ)立替金に係る金銭消費貸借契約書等
 請求人らは、Kに立替金の返済を求めたことはなく、Kとの間で立替金の返済方法、返済期日、金利等を取り決めた金銭消費貸借契約書等を作成していない。
(ホ)Iは、昭和52年9月ころから平成6年4月ころまで、学生であり、また、収入は皆無である。
(ヘ)銀行との取引状況等
A K及び請求人らの取引銀行における入出金等の手続は、外交員が請求人らの自宅を訪問する以外、Hが直接銀行に赴いて行っており、また、各預金通帳や使用印鑑は、Hが管理していた。
B P銀行のH名義の総合口座(No.○○○)に入金されている他店券は、Q株式会社が受領すべき家賃であり、また、同総合口座のRからの入金は、被相続人が同人に貸し付けたその返済金である。
C 昭和59年7月のM銀行からの借入金約3,000万円及び平成元年6月のP銀行からの借入金5,000万円は、被相続人が高齢で融資条件を満たさないこと及び銀行からの要請もあり、被相続人が自宅不動産を担保にして、H名義で借り入れたもので、いずれも被相続人が株取引の資金に充てていたものである。
D 上記借入金及びその利息の返済は、被相続人の株式売却代金をその返済資金に充てていたが、株価の下落に伴い、利息等の支払に追われるようになってからは、家族名義の預金を解約するなどして、やり繰りをしていた。
E I名義の古い積立金等の預金は、祖父母がIに贈与する目的で、毎月積み立てていたものであり、その預金通帳や使用印鑑は、Iの母であるHが管理し、それらが満期になった際の預け替えも、Hが行っていた。
(ト)立替金の総額
 立替金の額は、覚書を作成した時に計算していたが、審判所における請求人面談に当たって、立替金の額を再計算したところ、Hが13,367,714円、Iが8,979,525円になった。
 この立替金の額が前記(1)のロの(イ)の覚書と相違するのは、書類の不備によって、細かい点までの確認ができなかったことによるものである。
ホ 当審判所が、請求人らが立替金の内訳を証明する資料として提出した預金通帳及び振込送金資金受取書等の写しについて、調査したところ、次のとおりである。
(イ)Hが主張する立替金13,367,714円については、別表3の(1)ないし(5)のとおり、〔1〕Kの借入先であるS株式会社(以下「S社」という。)に1,281,646円が返済されていること、〔2〕Kの預金口座に2,210,000円が入金されていること、〔3〕被相続人の預金口座に1,049,858円が入金されていること、〔4〕H本人の預金口座に122,210円が入金されていること、及び〔5〕定期積金等の解約金のうち、使途の不明なもの(合計8,704,000円)が多数存在することなどの事実が認められる。
 また、別表3の(6)及び(7)のとおり、上記以外に〔1〕Kの預金口座からHの預金口座へ970,000円が入金されていること、〔2〕Kの預金通帳に「H口座へ」とメモ書された1,865,731円の出金が認められる。
(ロ)Iが主張する立替金8,979,525円については、別表4の(1)ないし(6)のとおり、〔1〕Kの借入先であるS社に310,412円が返済されていること、〔2〕KがN証券から株式を購入した際の代金935,275円が支払われていること、〔3〕Kの預金口座に67,000円が入金されていること、〔4〕被相続人の預金口座に167,869円が入金されていること、〔5〕Hの預金口座に244,442円が入金されていること、及び〔6〕定期積金等の解約金のうち、使途の不明なもの(合計7,254,527円)が多数存在することなどの事実が認められる。
(ハ)KがN証券で株取引をしていたのは、平成2年3月から平成4年9月までの期間であり、当該期間中にN証券のKの取引口座に入金されたものは、上記の935,275円以外に、請求人らからの入金であると認められるものは存在しない。
 また、N証券のKの取引口座への入金のうち、平成3年3月12日の1,021,937円、平成3年3月18日の6,559,740円については、被相続人のM銀行の総合口座(No.○○○)から、それぞれ出金されたものである。
(ニ)Hの定期積金を解約した749,786円は、昭和61年9月27日にHのM銀行の総合口座(No.○○○)へ入金された後、被相続人の借入金利息の支払に充てられている。
ヘ 原処分庁が告知した第二次納税義務の限度額32,067,070円は、別表5のとおり、それぞれ本件不動産の土地については平成9年分路線価を、建物については平成9年度の固定資産税評価額を、基礎として算定した価額である。
ト 本件滞納国税の法定納期限は、平成10年3月16日である。
(2)ところで、徴収法第39条は、滞納処分を執行しても、その徴収すべき額に不足すると認められ、かつ、不足することが、当該国税の法定納期限の1年前の日以後に、滞納者がその財産を無償又は著しく低い額の対価により処分したことに基因すると認められる場合には、その処分により権利を取得した者は、その滞納に係る国税の第二次納税義務を負う旨規定している。遺産分割協議が同条に規定する処分に該当するかどうかについては、遺産分割協議が、相続の開始によって共同相続人の共有となった相続財産の全部又は一部を各相続人の単独所有とし、又は新たな共有関係に移行させることによって、相続財産の帰属を確定させるものであることから、その法的性質は、財産権を目的とする法律行為であり、処分に該当すると解するのが相当である。
(3)これを本件について見ると、次のとおりである。
イ 本件告知処分
(イ)請求人らは、本件譲渡所得は保証債務の特例が適用できるので、本件滞納国税は発生しない旨主張するので、以下検討する。
A 第二次納税義務の告知は、主たる納税義務の徴収手続上の一処分としての性格を有するから、主たる納税義務を発生させた申告、処分等が不存在又は無効でない限り、当該申告、処分等の瑕疵は、第二次納税義務の納付告知の効力に影響を及ぼさない。
 したがって、第二次納税義務者として告知処分を受けた者は、主たる納税義務を発生させた申告、処分等が不存在又は無効でない限り、告知処分に対する不服申立手続において、主たる納税義務の存否を告知処分の違法事由として主張し得ないと解するのが相当である(最高裁昭和50年8月27日第二小法廷判決、民集29巻7号1226頁参照)。
B 保証債務の特例は、保証債務を履行するために資産の譲渡があった場合において、その履行に伴う求償権のうち行使することができないこととなった金額に対応する金額を、譲渡所得の金額の計算上なかったとみなすものである。
 ところで、民法上、保証人が保証人としての地位に基づいて、その債務を弁済した場合、保証人は主たる債務者に対する求償権を取得する(民法第459条及び第462条)が、保証人が主たる債務者の地位を相続した場合は、保証人は主たる債務者としての地位に基づく責任を負担することとなり、相続前から所有していた固有の資産を含めた保証人の一般財産が、その引当てとなると解される。
 さらに、保証人が主たる債務者の地位を相続した後にその債務を弁済した場合、主たる債務者に対する求償権が発生すると観念するとしても、当該求償権は自己を債務者とする債権として成立することとなり、債権及び債務が同一人に帰属する結果、民法第520条に規定する「債権及ヒ債務カ同一人ニ帰シタルトキ」に当たり、混同によって直ちに消滅することとなる。
 これを本件について見ると、前記1の(4)のロのとおり、Kは、本件遺産分割により被相続人の借入金債務のすべてを承継した後、当該借入金を返済していることから、Kが借入金を返済することによって取得する求償権は、自己を債務者とする債権として成立することになり、債権及び債務がKに帰属する結果、混同によって直ちに消滅することから、求償権を行使することができない場合に当たらず、保証債務の特例の適用は認められない。
 また、Kは、相続を放棄して主たる債務者としての地位を承継しないとすることも可能であったところ、そのような方途を選択しなかった以上、保証債務の特例の適用が受けられなかったとしても、その取扱いが不当であるとはいえない。
 さらに、申告納税制度の下における所得税の申告は、納税者自身の判断と責任においてなされるものであり、Kは自らの判断と責任において、これを提出したものである以上、仮に前記2の(1)のイの(イ)のBのようなことがあったとしても、Kがその責めを負うべきであり、この点に関する請求人らの主張には理由がない。
C 以上によれば、本件滞納国税の発生の基礎となったKの確定申告に無効事由は認められないから、請求人らの主張は失当である。
(ロ)請求人らは、Kに対する立替金の返還を求めないことを対価として本件持分譲渡を受けたものであるから、徴収法第39条に規定する無償譲渡等の処分に該当せず、本件告知処分は違法である旨主張し、それを証明するものとして、覚書を提出している。
A 当審判所が、当該覚書に記載のある立替金を検討したところ、次のとおりである。
(A)前記(1)のホの(イ)及び(ロ)のとおり、請求人らの預金口座からの出金の一部が、その出金をした日にKの借入金の返済に充てられたり、Kの預金口座等に入金されていることが認められ、その一方では、Kの預金口座からの出金の一部がHの預金口座に入金されている。
 また、請求人らが立替金であると主張するHの定期積金の解約金は、H本人の預金口座に入金され、Iの定期積金の解約金は、Hの預金口座に入金されているなど、親子間において特有な資金交流が認められることから、請求人らの提出した資料からは、請求人らが主張するようなKの株取引における損失の立替金であると認めることはできない。
(B)さらに、請求人らが立替金であると主張する金額の大部分については、請求人らから、その使途を明らかにする証拠の提出がなく、当審判所の調査によっても、その使途を確認することができないことから、覚書に記載された立替金の信ぴょう性は、極めて低いといわざるを得ない。
(C)加えて、Iの立替金であると主張する金額については、〔1〕同人が立て替えたと主張する昭和55年9月から平成6年4月までの期間は、学生であり、同人には収入がなかったこと、〔2〕I名義の預金通帳や印鑑はHが管理し、その運用もHが行っていたこと、及び〔3〕その積立金等の預金は、前記(1)のニの(ヘ)のEのとおり、K及び被相続人が積み立てたものであることが認められることから、Hがこれらの預金を取り崩して、被相続人の借入金等の返済に充てていたものと見るのが相当である。
B ところで、親子間の立替金や金銭消費貸借について主張する場合においては、第三者との関係における場合よりも、更に厳密な事実関係の立証が求められるところ、請求人ら及びKは、返済期間等を取り決めた金銭消費貸借契約書等を作成せず、また、上記Aのとおり、立て替えたとする金額の確定もできない。
 さらに、覚書は、審査請求の段階になって初めてその存在が主張されていること、及び請求人らは、前記(1)のハのとおり、審査請求前はKが本件不動産を相続しなかった理由について別の説明をしていたことが認められる。
 そうすると、覚書は、その内容が実態を伴っておらず、本件遺産分割時にKと請求人らとの間で覚書記載のとおりの合意がされたものとは認められないから、請求人らの預金等からの出金がKの株取引における損失分の立替金である本件持分譲渡が有償であるとする請求人らの主張は、採用できない。
C また、当審判所が原処分関係資料等を調査したところ、本件持分譲渡は、平成9年7月7日付の本件遺産分割によって行われ、平成10年3月23日に本件移転登記がされているから、本件持分譲渡は、本件滞納国税の法定納期限である平成10年3月16日の1年前の日以後に行われたものであり、当該滞納国税について滞納処分を執行してもなお徴収不足を生ずる基因となったものであることが認められる。
D 以上のとおり、本件持分譲渡は、徴収法第39条に規定する第二次納税義務の発生原因である無償による譲渡等の処分に該当することから、本件告知処分は適法である。
 したがって、請求人らの主張には理由がない。
ロ 本件差押処分
 請求人らは、本件告知処分が違法であるから、本件告知処分に基づく本件差押処分も違法である旨主張する。
 しかしながら、上記イのとおり、本件告知処分は適法であり、本件差押処分の対象となった財産は、いずれも請求人らの所有であるところ、原処分庁は、請求人らに対して、納付催告書により督促をし、当該催告書を発した日から起算して10日を経過した日後である平成13年12月17日付で本件差押処分を行っていることから、本件差押処分が違法とは認められない。
 したがって、この点に関する請求人らの主張には理由がない。
(4)原処分のその他の部分については、請求人らは争わず、当審判所に提出された証拠資料等によってもこれを不相当とする理由は認められない。

トップに戻る