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(平15.4.16裁決、裁決事例集No.65 1068頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、審査請求人G、H、I及びJ(以下、四名を併せて「請求人ら」という。)が、滞納者K(以下「K」という。)の連帯納付義務者であるL(以下「L」という。)から不動産の贈与を受けたことに対して、原処分庁が、国税徴収法(以下「徴収法」という。)第39《無償又は著しい低額の譲受人等の第二次納税義務》の規定に基づいて第二次納税義務の告知処分(以下「本件告知処分」という。)を行ったことが違法か否かを主たる争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 原処分庁は、国税通則法(以下「通則法」という。)第43条《国税の徴収の所轄庁》第3項の規定に基づき、平成12年12月18日付及び同月22日付で、M税務署長(以下「M署長」という。)からKの滞納国税について徴収の引継ぎを受けた上、Kの別表1記載の滞納国税(以下「本件滞納国税」という。)を徴収するため、請求人らに対し、徴収法第39条の規定に該当するとして、同法第32条《第二次納税義務の通則》第1項の規定に基づき、平成13年12月21日付の納付通知書(以下「本件納付通知書」という。)により、それぞれ6,934,670円を限度とする本件告知処分をした。
ロ 請求人らは、この処分を不服として、平成14年2月12日に異議申立てをしたところ、異議審理庁が同年4月1日付で棄却の異議決定をしたので、同月26日に審査請求をした。
 また、請求人らは、G(以下「G」という。)を総代として選任し、その旨を平成14年4月26日に届け出た。

(3)関係法令

イ 徴収法第39条は、滞納者の国税につき滞納処分を執行しても、なおその徴収すべき額に不足すると認められる場合において、その不足すると認められることが、当該国税の法定納期限の1年前の日以後に、滞納者がその財産につき行った政令で定める無償又は著しく低い額の対価による譲渡等の処分に基因すると認められ、これらの処分により権利を取得した者等が滞納者の親族等であるときは、これらの処分により受けた利益の限度において、その滞納に係る国税の第二次納税義務を負う旨規定している。
ロ 徴収法第32条第1項は、税務署長は、納税者の国税を第二次納税義務者から徴収しようとするときは、その者に対し、政令で定めるところにより、徴収しようとする金額、納付の期限その他必要な事項を記載した納付通知書により告知しなければならない旨規定している。
ハ 国税徴収法施行令(以下「徴収法施行令」という。)第11条《第二次納税義務者に対する納付通知書等の記載事項》第1項は、〔1〕納税者の氏名及び住所又は居所、〔2〕滞納に係る国税の年度、税目、納期限及び金額、〔3〕〔2〕の金額のうち第二次納税義務者から徴収しようとする金額並びにその納付の期限及び場所、〔4〕その者につき適用すべき第二次納税義務に関する規定を記載しなければならない旨規定している。
ニ 相続税法第34条《連帯納付の義務》第1項は、同一の被相続人から相続又は遺贈に因り財産を取得したすべての者は、その相続又は遺贈に因り取得した財産に係る相続税について、当該相続又は遺贈に因り受けた利益の価額に相当する金額を限度として、互いに連帯納付の責に任ずる旨規定している。
ホ 通則法第5条《相続による国税の納付義務の承継》第1項は、相続があった場合には、相続人は、その被相続人に課されるべき、又はその被相続人が納付し、若しくは徴収されるべき国税を納める義務を承継する旨規定している。
ヘ 通則法第51条《担保の変更等》第1項は、税務署長等は、国税につき担保の提供があった場合において、その担保として提供された財産の価額等によりその国税の納付を担保することができないと認めるときは、その担保を提供した者に対し、増担保の提供その他の担保を確保するため必要な行為をすべきことを命ずることができる旨規定している。
ト 通則法第72条《国税の徴収権の消滅時効》第1項は、国税の徴収を目的とする国の権利(以下「国税の徴収権」という。)は、その国税の法定納期限から5年間行使しないことによって、時効により消滅する旨規定し、また、同法第73条《時効の中断及び停止》第1項第4号は、国税の徴収権の時効は、督促にあっては、その効力が生じた時に中断し、督促状を発した日から起算して10日を経過した日までの期間を経過した時から更に進行する旨規定し、第4項は、国税の徴収権の時効は、延納に係る部分の国税につき、その延納がされている期間内は進行しない旨規定している。

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(4)基礎事実

 以下の事実は、請求人ら及び原処分庁の双方に争いはなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
イ Lは、平成4年9月2日に死亡したN(以下「被相続人」という。)の妻、Kは被相続人の長男、Gは被相続人の次男であり、Gを除く請求人らは、Gの妻及び子である。
ロ K及びLは、被相続人の財産を遺産分割協議書に基づいて相続(以下「本件相続」という。)し、M署長に対して、平成5年3月2日に本件相続に係る相続税の申告書を提出し、また、平成6年12月27日に本件相続に係る相続税の修正申告書を提出した。
 なお、上記遺産分割協議書及び相続税の申告書には、別表2記載の物件(以下「本件贈与物件」という。)をLが相続した旨の記載がある。
ハ Kは、上記ロの相続税の申告書及び修正申告書に係る納付すべき税額のうち132,000,000円について、平成7年3月9日に、M署長に対して、P市Q町○丁目○○番○の畑(以下「本件土地」という。)を担保として、相続税延納申請書を提出したところ、同年6月23日付で、分納期限を平成7年8月2日(第1回)から平成25年3月1日(第19回)までとする旨の延納の許可(以下「本件延納許可」という。)を受けた。
ニ Kは、本件延納許可に対する延納分納期限の変更を求めて、平成8年2月23日及び平成9年1月28日に、M署長に対して、相続税延納条件変更申請書を提出し、平成8年4月17日付及び平成9年11月28日付で、それらについての延納条件変更の許可を受けた。これらの条件変更許可により、分納期限は平成10年2月25日(第1回)から平成25年3月1日(第19回)までに変更された。
ホ 請求人らは、平成11年7月10日に、本件贈与物件について、Lからそれぞれ持分4分の1の贈与(以下「本件贈与」という。)を受けたとして、同月12日付で、本件贈与物件の所有権移転登記を行うとともに、平成12年3月13日に贈与税の申告書を提出した。
ヘ M署長は、Kが本件延納許可に係る分納税額を納付しなかったことから、平成12年2月29日付で、Kに対して、「相続税の延納分納額に係る納税催告書」及び「相続税延納取消に対する弁明を求めるためのお知らせ」を送付した。
ト Kの負担すべき相続税につき連帯納付義務者であるLは、平成12年4月27日に死亡し、相続人のひとりであるGが、同年8月10日、R家庭裁判所○○支部に相続放棄を申述し、受理されたことから、KがLのすべての財産を相続することになった。
チ M署長は、Kが所在不明であったことから、Kに対して、平成12年12月6日付で本件延納許可に係る相続税延納許可取消通知書及び同月15日付で担保物処分のための滞納処分の差押書を、それぞれ公示送達した。
リ M署長は、Kに対して、平成12年12月14日付で、本件滞納国税に係る督促状を公示送達した。
ヌ M署長は、Lの連帯納付義務をKが承継したとして、平成12年12月21日付で、Kに対して、納税義務承継通知書及びLから承継したKの連帯納付義務(以下、これらを「承継後の滞納国税」という。内容は、別表1の本件滞納国税に同じ。)に対する督促状をそれぞれ公示送達した。

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2 主張

(1)請求人らの主張

 原処分は、次の理由により違法かつ無効であるから、その取消しを求める。
イ 連帯納付義務の存否
(イ)Kに対する徴収手続
 原処分庁は、バブル崩壊による延納担保物の担保価値が減少している中、Kに対する本件延納許可に係る分納税額の履行監視、担保を維持管理する諸権限(増担保の提供命令、延納許可の取消し)の行使及びKが所有する延納担保物件以外の不動産に対する滞納処分など、相続税の徴収を確保するための必要な措置をしていないにもかかわらず、原処分を行っており、これは、国の過失又は不作為による徴収不足の責任を連帯納付義務者ひいては第二次納税義務者に転嫁しようとするものである。
 また、通則法第41条《第三者の納付及びその代位》第2項は、国税の納付について正当な利益を有する第三者又は国税を納付すべき者の同意を得た第三者が国税を納付すべき者に代わってこれを納付した場合において、その国税を担保するため抵当権が設定されているときは、これらの者は、その納付により、その抵当権につき国に代位することができる旨規定しており、これに関して、民法第504条は、法定代位者がある場合において、債権者が故意又は懈怠によってその担保を喪失又は減少させたときは、法定代位者はその限度において責めを免れる旨規定している。
 そうすると、L及び請求人らは、M署長が故意又は過失により延納担保物の価値を減少させた額を限度として、Kの相続税に係る納付義務を免れるものである。
(ロ)Lの連帯納付義務の消滅時効
 本来の納税者に生じた時効停止の効力は、連帯保証人(連帯納付義務者)には及ばないとされていることから、Kの相続税が、延納期間中は時効が停止していることにより、時効消滅していなくても、Lの連帯納付義務は、別途時効の中断措置を採らない限り、消滅時効は進行することとなる。
 そうすると、本件においては、連帯納付義務者であるLに対する時効の中断措置が採られていないことから、Lの連帯納付義務は、Lの納付義務に係る法定納期限である平成5年3月2日から5年を経過したことで、時効により消滅している。
(ハ)承継による連帯納付義務の消滅
 相続税法第34条第1項に規定する連帯納付義務は、契約により成立するところの民法上の保証債務とは異なるものであるが、法律で定めた保証責任あるいは保証債務類似の債務であり、保証人が主債務者を相続するような場合には、保証債務と主債務が同一人に帰すことになり、保証が債権者に利益を与えない限り、保証債務は消滅することとなる。
 そうすると、Lの連帯納付義務は、もともとKが納付すべき国税に係るものであるから、それをKが承継したことによって、Lの連帯納付義務は消滅している。
ロ 第二次納税義務
(イ)徴収不足の有無
 Kが本件延納許可に係る分納税額を納付しなくなった時点及び請求人らが連帯納付義務者であるLから本件贈与を受けた時点において、Kは、延納担保物件のほかに当該担保物件上にビルを所有しており、かつ、Lも多くの不動産を所有していたことから、K及びLから本件滞納国税を十分徴収できたはずであり、本件贈与が徴収不足を生じさせたとして行われた本件告知処分は、徴収法第39条の要件を欠いた違法な処分である。
(ロ)納付通知書
 本件納付通知書の「納税者」欄には、Kの氏名が記載されており、請求人らがKを本来の納税者とする第二次納税義務を負うこととされているが、請求人らは、Kから徴収法第39条が規定する財産の無償譲渡は受けていない。
 したがって、納税者名を誤った本件告知処分は、手続法である徴収法施行令第11条第1項の規定に反して明らかに無効なものであり、このことは、本件納付通知書の備考欄において、「請求人らは、L(Kの相続税に係る連帯納付義務者)から土地・建物の贈与を受けたため。」と記載された文言によって治癒されるような軽微な暇疵ではない。
(ハ)Lに対する徴収手続
 Lが、徴収法第39条に規定する滞納者に当たるとしても、Lに対して相続税法第34条の連帯納付義務の徴収手続(納付通知書又は督促状の発付)をせずに行った請求人らに対する第二次納税義務の賦課は違法である。
 なお、異議審理庁は、連帯納付義務について、格別の確定手続を要することなく連帯納付義務を負う者に対して徴収手続を行うことが許されると判示した昭和55年7月1日の最高裁判所の判決を引用している。
 しかしながら、同判決は、連帯納付義務についての確定手続を経ることなく、徴収手続を行うことができるということを判示しているのであって、徴収手続である督促が不要であるとは判示していない。
 また、第二次納税義務関係事務実施要領の第2節(督促)には、第二次納税義務者に対する納付通知書は、なるべく本来の納税者に対して督促状を発した後に発するものとするとされていることから、本件告知処分は、同取扱要領通達にも違反している。
(ニ)本件贈与物件の帰属
 本件贈与物件のうち別表2の番号3の居宅・車庫部分(以下「本件居宅」という。)については、Gの自己資金により昭和51年末に新築し、昭和61年8月に改築したものであり、また、昭和51年から現在まで、唯一の居宅として本籍を構えて居住するとともに、本件居宅の固定資産税についてもGが納付しており、当該居宅は、もともとGに帰属するものであることから、第二次納税義務の賦課の基因となった無償譲渡(贈与)の対象とはならない。

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(2)原処分庁の主張

 原処分は、次のとおり違法又は不当な点はないから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 連帯納付義務の存否
(イ)Kに対する徴収手続
 金沢地方裁判所平成14年2月18日判決は、本来の納税義務者に対する徴収手続と連帯納付義務者に対する徴収手続は本来別個の手続であり、相続税法、通則法及び徴収法のいずれにも、税務署長等が担保を維持管理する諸権限の行使を怠ったことを理由に、連帯納付義務者の責任の消滅あるいは軽減を認める規定は存在せず、また、国税の徴収について民法第504条を準用する規定もなく、この類推適用を根拠付ける規定も見当たらない旨判示していることから、請求人らの主張には理由がない。
 なお、M署長は、Kの相続税について、本件延納許可をしたが、結果的に延納制度の趣旨に沿った納税が期待できないと判断し、本件延納許可を取り消したものであり、この間、Kに対しては、納付のしょうようはもとより、同人が申し立てた自己保有財産の売却による納税資金のねん出計画に基づいて、延納条件の変更許可の措置等をしており、Kからの徴収を怠ったと評価される事実は全くない。
(ロ)Lの連帯納付義務の消滅時効
 Kに対しては、民法第147条あるいは通則法第73条に規定する時効中断の措置が採られており、Kに対する国税の徴収権は消滅しておらず、また、時効中断の効力は、連帯納付義務者にも及ぶと解されていることから、Lに係る連帯納付義務についての国税の徴収権も時効消滅していない。
(ハ)承継による連帯納付義務の消滅
 通則法第5条は、相続があった場合には、相続人は、その被相続人に課されるべき、又はその被相続人が納付し、若しくは徴収されるべき国税を納める義務を承継する旨規定しており、Lの死亡に伴い、Lの連帯納付義務は、Lの相続人であるKに承継される。
 しかしながら、Kの本来の納付義務とKが承継したLの連帯納付義務は、別個の納付義務であって、Lの連帯納付義務をKが相続したからといって、Kが承継したLの連帯納付義務が消滅するものではない。
ロ 第二次納税義務
(イ)徴収不足の有無
 徴収法第39条が規定する「滞納者の国税につき滞納処分を執行してもなおその徴収すべき額が不足する」かどうかを判定する基準時は、第二次納税義務者に対する告知の時(本件においては平成13年12月21日)とされており、当該告知時点において、Kには本件土地以外に所有財産がないことから、その時点において、徴収不足の状態にあったといえる。
 そうすると、Lが本件贈与物件を請求人らに贈与しないで保有しておれば、現在の徴収不足は生じていないことになり、徴収不足が当該贈与に基因すると認められることから、本件告知処分は何ら違法ではない。
(ロ)納付通知書
 本件納付通知書には、納税者欄にKの氏名が記載され、備考欄にLが連帯納付義務者であるとして、第二次納税義務の基因となった処分行為を付記しているが、これは、本来であれば、納税者欄には無償譲渡等の処分をした連帯納付義務者であるLの氏名を記載するところ、Lが死亡しているため、通則法第5条第1項の規定によって、その承継人であるKの氏名を記載したものであるから、本件納付通知書の記載内容は適法である。
(ハ)Lに対する徴収手続
 連帯納付義務は、相続税の徴収の確保を図るため、各相続人相互に課した相続税法上の特別の責任であるため、各相続人は、当該相続により受けた利益の価額に相当する金額を限度として、互いに連帯して納付する義務を負い、同時又は順次に、すべての相続人に対して滞納処分ができるものである。
 したがって、連帯納付義務者であるLに対して格別の確定手続を要するものではなく、仮に督促がなかったとしても連帯納付義務の存否に影響するものではない。
 また、Lの連帯納付義務は、Lの死亡によりKに承継され、それに伴って、Kに承継後の滞納国税についての督促を行っているから、当該連帯納付義務に係る徴収手続に何ら問題はない。
(ニ)本件贈与物件の帰属
 本件居宅は、Lが本件相続により被相続人から取得したものであり、Gに対する聞き取り調査においても、Gは、本件居宅は被相続人からLが相続し、その後、請求人らがLから贈与を受けた物件であることを認めていることからすると、本件居宅は、Lが所有していたと認められる。

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3 判断

(1)連帯納付義務の存否

イ Kに対する徴収手続
 請求人らは、M署長が故意又は過失により延納担保物の価値を減少させた額を限度として、LはKの相続税に係る連帯納付義務を免れるものである旨主張するので、以下検討する。
(イ)相続税法第34条第1項の連帯納付義務については、補充性がないことから、連帯納付義務は、第二次納税義務のように、本来の納税義務者に対する滞納処分を執行しても徴収すべき額に不足すると認められる場合に限って、納税義務を負担するものではない。
 すなわち、本来の納税義務者に対する徴収手続と連帯納付義務者に対する徴収手続は本来的には別個独立の手続であるということができる。
 そうすると、仮に、税務署長が、本来の納税義務者に対する滞納処分等の徴収手続を適正に行っておれば、本来の納税義務者から滞納に係る相続税を徴収することが可能であったにもかかわらず、税務署長が徴収手続を怠った結果、本来の納税義務者から相続税を徴収することができなくなったという事実があったとしても、その事実は、相続税法第34条第1項の規定によって、各相続人に課されている連帯納付義務の存否又はその範囲に影響を及ぼすものではなく、また、税務署長が、各相続人に対して、連帯納付義務の履行を求めて徴収手続を進めたとしても、これをもって違法ということはできないと解される。
 しかしながら、税務署長が、単に本来の納税義務者から相続税の徴収を怠ったというにとどまらず、本来の納税義務者が現に十分な財産を有し、同人から滞納に係る相続税を徴収することが極めて容易であるにもかかわらず、同人又は第三者の利益を図る目的をもって、し意的に相続税の徴収を行わず、相続税法第34条第1項の規定に基づいて、他の相続人に対して徴収手続を行ったというような場合には、国税の徴収権の濫用に当たるとして、違法となる余地があると解される。
(ロ)これを本件について見ると、当審判所の調査したところによれば、M署長は、本件土地を192,773,350円と評価し、相続税の延納必要担保額148,835,400円を充足する担保物件であると認めて、平成7年6月23日付で、当該土地に抵当権の設定を受けるとともに本件延納許可をし、その後におけるKに対する徴収手続についても、前記基礎事実のニ、へ及びチのとおり、適法に行っていることが認められ、上記(イ)のような国税の徴収権の濫用に当たる徴収手続を行った事実は認められない。
(ハ)また、請求人らは、国税の徴収について、民法第504条の規定を準用又は類推適用すべきであると主張するが、相続税法、通則法、徴収法のいずれにおいても、民法第504条を準用すべきものであるとする規定もなく、類推適用を根拠付ける規定もない。
(ニ)したがって、請求人らの主張には理由がない。
ロ Lの連帯納付義務の消滅時効
 請求人らは、Kに生じた時効停止の効力は連帯納付義務者であるLには及ばず、また、Lに対して別途時効の中断措置が採られていないことから、Lの連帯納付義務は、Lの連帯納付義務に係る法定納期限である平成5年3月2日から5年を経過したことで、時効により消滅している旨主張するので、以下検討する。
(イ)相続税の連帯納付義務は、相続税の徴収の確保を図るために、各相続人相互に課した特別の責任であり、本来の納税義務者と連帯納付義務者との間には、附従性が認められるから、本来の納税義務者の納税義務の時効中断の効力は、連帯納付義務者にも及ぶものと解される。
 この点、相続税の連帯納付義務の性格については、民法上の連帯債務に類似するものであるとして、民法上の連帯債務においては一方に対する時効中断の効力は他方にその効果を及ぼさないとする見解がある。
 しかしながら、この見解によると、本来の納税義務が相続税の延納許可により履行遅滞でない場合であっても、連帯納付義務の時効中断のためにその徴収手続を開始しなければならないという不都合が生じることから、その性格を民法上の連帯保証債務に類似するものと解し、本来の納税義務についての時効中断の効力は附従性により連帯納付義務者にも及ぶと解するのが相当である。
(ロ)これを本件について見ると、Kは、M署長に対し、平成7年3月9日に本件相続に係る相続税延納申請書を、また、平成8年2月23日及び平成9年1月28日に延納条件変更申請書をそれぞれ提出している。
 ところで、自らが提出した延納申請書及び延納条件変更申請書は、時効中断の事由を規定している民法第147条の債務承認に当たり、Kの相続税に係る徴収権の時効は、延納申請書及び延納条件変更申請書を提出したことから、中断することになる。
 したがって、本件告知処分日(平成13年12月21日)において、Kの本件滞納国税については、徴収権の時効期間である5年を経過していないことになり、国税の徴収権の消滅時効はいまだ完成していない。
 そうすると、Lの連帯納付義務者についても、国税の徴収権の消滅時効は、いまだ完成していないことになるから、請求人らの主張には理由がない。
ハ 承継による連帯納付義務の消滅
 請求人らは、Kが承継したLの連帯納付義務は、元来Kが納付すべき国税に係る保証債務類似の債務であるところ、保証債務と主債務が同一人に帰する場合には、保証が債権者に利益を与えない限り保証債務は消滅するから、Kが承継したことによって、Lの連帯納付義務は消滅している旨主張するので、以下検討する。
 本件の場合、本来の納税義務者であるKは、Lの連帯納付義務を承継した納税義務者でもあり、連帯納付義務と本来の納付義務がKに帰すことになる。
 しかしながら、本来の納付義務と重複することとなった連帯納付義務が当然に消滅すると解すべき実定法上の根拠はない。また、本来の納付義務と連帯納付義務が同一人に帰した場合に、連帯納付義務が消滅する場合があり得るとしても、Lの連帯納付義務は、第二次納税義務の基因となる納付義務であり、当該連帯納付義務を存続させる実益があることからすると、当該連帯納付義務が消滅すると解するのは相当ではない。
 したがって、Lの連帯納付義務は、本来の納税義務者であるKが相続したことにより消滅するものではなく、請求人らの主張には理由がない。

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(2)第二次納税義務

イ 徴収不足の有無
 請求人らは、本件贈与が行われた時点において、K及びLは滞納国税を十分に徴収できる財産を有しているから、本件贈与が徴収不足を生じさせたとして行った本件告知処分は、徴収法第39条の要件を欠いた違法な処分である旨主張するので、以下検討する。
(イ)原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
A 本件贈与(平成11年7月10日)は、本件相続に係る相続税の法定納期限(平成5年3月2日)の1年前の日以降に行われた。
B 本件贈与に係る贈与税の申告書によると、請求人らが贈与を受けた金額は、各人がそれぞれ9,571,570円、総額では38,286,280円であり、贈与税負担額は、各人がそれぞれ2,636,900円、総額では10,547,600円となっている。
C 原処分庁は、平成13年11月26日現在におけるKの唯一の所有財産である本件土地の見積価額を11,844,000円と算定している。
D Kの承継後の滞納国税は、平成13年11月26日現在において、本税が130,231,400円、利子税が38,616,600円の合計168,848,000円である。
(ロ)ところで、徴収法第39条の徴収不足が無償譲渡等の処分に「基因する」とは、広く、その処分がなかったならば、徴収不足を生じなかったであろうことをいい、損害賠償請求の場合における「直接の因果関係」よりも広い概念として、当該基因関係を認めるのが相当と解され、また、徴収不足の判定は、第二次納税義務の告知処分をするときの現況によるべきものと解される。
(ハ)これを本件について見ると、本件告知処分時において、Lの連帯納付義務を承継したKが有する滞納処分を執行できる財産は本件土地だけであり、その見積価額は11,844,000円であり、本件滞納国税(168,848,000円)に不足することは明らかである。また、請求人らがLから本件贈与により受けた利益の金額の総額は、贈与を受けた金額の総額(38,286,280円)から贈与税負担額の総額(10,547,600円)を差し引いた金額である27,738,680円となることが認められ、本件贈与がなければ、本件贈与により受けた利益の金額の総額を承継後の滞納国税に充てることが可能であったといえる。
 そうすると、本件贈与と徴収不足との間に基因関係を認めることができるから、請求人のこの点に関する主張は採用できない。
ロ 納付通知書
 請求人らは、原処分は、本件納付通知書の納税者名が誤っているから、無効な処分である旨主張するので、以下検討する。
(イ)原処分関係資料によれば、本件納付通知書には、納税者欄の氏名又は名称が「K」と記載され、また、備考欄には、「あなたは平成11年7月10日にL(Kの相続税に係る連帯納付義務者)から土地・建物の贈与を受けたため。」と記載されていることが認められる。
(ロ)本件納付通知書の納税者欄には、本来の納税者、すなわち、第二次納税義務の基因となった納付義務を負う者の氏名が記載されるところ、Lは平成12年4月27日に死亡し、Lの連帯納付義務は、前記(1)のハのとおり、Kに承継され、そのため、Kが国税に関する法律の規定により国税を納める義務がある者となっていることからすると、本件納付通知書の納税者欄にKと記載し、備考欄にLがKの連帯納付義務者であると記載した本件納付通知書は、徴収法第32条第1項の規定に照らして適法なものであり、無効とする重大な暇疵があるとはいえない。
 したがって、請求人らの主張は採用することができない。
ハ Lに対する徴収手続
 請求人らは、Lに対する相続税法第34条の連帯納付義務の徴収手続(納付通知書又は督促状の発付)をせずに行った第二次納税義務の賦課は違法である旨主張するので、以下検討する。
(イ)第二次納税義務は、主たる納税義務とは別個に納税義務を負うが、主たる納税義務の履行のない場合に初めて二次的に履行の責めに任ずるものであり(補充性)、主たる納税義務なくしては成立しない(附従性)と解される。
(ロ)もっとも、徴収法第39条の規定は、主たる納税者の租税の納期限が経過したこと(いわゆる滞納となったこと)及び滞納処分を執行しても徴収不足を生じると認められることを第二次納税義務の発生要件としているものの、主たる納税者に対して実際に徴収手続に着手することを要件とするものではないと解される。徴収法基本通達第32条関係2《告知》の注書1は、第二次納税義務者に対する納付通知書は主たる納税者に対する督促の有無を問わず発することができると定めているが、主たる納税義務と第二次納税義務の関係につき同様の解釈を前提とするものであり、当審判所も上記通達の取扱いを相当と認める。
(ハ)そうすると、第二次納税義務の基因となったLの連帯納付義務について、徴収法第39条に規定する要件を満たせば、督促の有無にかかわらず、第二次納税義務者である請求人らに対して、本件告知処分を行うことができることとなる。
 なお、本件については、前記1の(4)のヌのとおり、本件告知処分に先立ち、主たる納税者であるLの連帯納付義務を承継したKに対し、督促を行っていることが認められる。
 したがって、請求人らの主張には理由がない。
ニ 本件贈与物件の帰属
 請求人らは、Gが自己資金によって本件居宅を新築したものであり、所有権はGに帰属するものであるから、第二次納税義務の賦課の基因となった無償譲渡(贈与)の対象とはならない旨主張するので、以下検討する。
(イ)当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
A Gは、当審判所に対して、次のとおり答述した。
(A)本件居宅は、昭和51年に自己資金900万円で居宅兼店舗として新築し、昭和61年に自己資金1,500万円で現在の居宅用に改築したものである。
(B)被相続人の財産を相続しなかったのは、長兄相続の慣習があったことと、Kの顧問税理士から相続すれば多額の相続税がかかると説得されたことによるものである。
(C)遺産分割協議書や本件相続に係る相続税の申告書の内容を詳しく見ずにこれらの書類に押印した。
(D)Lに対して本件居宅の敷地部分だけでももらえるよう頼んだところ、Lは、当該敷地と共にGが建てたとする本件居宅までL名義の相続登記をした上、請求人らへ贈与登記をした。
B Gは、○○地方の風習により、本件居宅を自ら建築した証拠であるとして、屋根裏の床柱に打ち付けられた板にGの名前が記載してある写真を提出した。
C 本件居宅については、平成11年6月11日にL名義の所有権保存登記がされ、同年7月12日にLから請求人らへの同月10日の贈与を原因とする所有権移転登記がされている。
(ロ)ところで、民法第177条は、登記について、「不動産ニ関スル物件ノ得喪及ヒ変更ハ登記法ノ定ムル所ニ従ヒ其登記ヲ為スニ非サレハ之ヲ以テ第三者ニ対抗スルコトヲ得ス」と規定しているが、登記は制度上その手続において、真正な、すなわち有効に存立する実質的な関係に基づくものであることが前提とされ、かつ、公の機関によって管理されているから、登記上の所有名義人は反証がない限り当該不動産の所有者と推定することが相当である。
(ハ)これを本件について見ると、本件居宅は、前記(イ)のCのとおりの登記がされていることから、Lが被相続人から相続した上で、Lから請求人らに贈与したと認めるのが相当である。
 これに対して、Gは、G自らが本件居宅を建築したと主張するが、前記1の(4)のロのとおり、遺産分割協議書及び本件相続に係る相続税の申告書において、本件居宅はLが相続する旨の記載があること、同ホのとおり、請求人らは、本件贈与について贈与税の申告をしていること、並びにGが建築したとする請負契約書や新築及び改築費用の資金出所を明らかにする領収書等の証拠書類を提出しないことからすると、本件居宅がGに帰属すると認めることはできない。
 したがって、請求人らの主張は採用することはできない。
(3)以上のとおり、請求人らの主張には理由がなく、原処分は適法である。
(4)原処分のその他の部分については、請求人らは争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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