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(平16.1.23裁決、裁決事例集No.67 33頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、平成10年5月28日に死亡したC(以下「被相続人」という。)の相続人であるが、この相続(以下「本件相続」という。)に係る相続税の申告書が法定申告期限までに提出できなかったことについて、国税通則法(以下「通則法」という。)第66条《無申告加算税》第1項のただし書に規定する「正当な理由があると認められる場合」に該当するか否かを争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、本件相続に係る相続税の申告書を、他の共同相続人とは別に、別表1の「申告」欄の内書のとおり記載して平成14年12月24日に提出した。
ロ 原処分庁は、これに対し、平成15年1月16日付で別表1の「賦課決定処分」欄のとおり、通則法第66条第3項に基づき無申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
ハ 請求人は、本件賦課決定処分を不服として平成15年3月13日に異議申立てをしたところ、異議審理庁が同年5月28日付で棄却の異議決定をしたので、同年6月30日に審査請求をした。

(3)関係法令

イ 通則法第66条第1項は、期限後申告書の提出があった場合には、当該納税者に対し、その期限後申告に基づき納付すべき税額に100分の15の割合を乗じて計算した金額に相当する無申告加算税を課すとし、同項ただし書は、期限内申告書の提出がなかったことについて「正当な理由があると認められる場合」は、この限りでない旨規定している。
ロ 通則法第66条第3項は、期限後申告書の提出があった場合において、その提出が、その申告に係る国税についての調査があったことにより当該国税について決定があるべきことを予知してされたものでないときは、無申告加算税の額は、当該納付すべき税額に100分の5の割合を乗じて計算した金額とする旨規定している。
ハ 相続税法第27条《相続税の申告書》第1項は、相続により財産を取得した者は、その被相続人から財産を取得したすべての者に係る相続税の課税価格の合計額がその遺産に係る基礎控除額を超える場合において、その者に係る相続税の課税価格に係る相続税額があるときに、その相続の開始があったことを知った日の翌日から10月以内に相続税の申告書を提出しなければならない旨規定している。

(4)基礎事実

 以下の事実は、請求人と原処分庁の間に争いがなく、当審判所が調査したところによっても、その事実が認められる。
イ 被相続人は、平成10年5月28日に死亡した。
ロ 被相続人の共同相続人は、請求人及び請求人の姉D、請求人の弟E(以下「E」といい、Dと併せて「Eら」という。)である。
ハ 本件相続に係る相続税の法定申告期限は、平成11年3月28日である。
ニ Eらは、原処分庁に平成14年11月27日に本件相続に係る相続税の期限後申告書を提出した。
ホ 請求人は、原処分庁に平成14年12月24日に本件相続に係る相続税の期限後申告書を提出した。
ヘ 本件相続に係る期限後申告書の提出は、その申告書に係る相続税についての調査があったことにより決定があるべきことを予知してなされたものではない。
ト 請求人は、平成4年5月13日に死亡した被相続人の母F(以下「F」という。)の遺産であるP市p町○○番の土地及び建物のうち被相続人の相続持分並びにQ市q町○○番の被相続人の自宅マンション(以下これらを併せて「本件被相続人相続不動産」という。)が、被相続人の相続財産であることを認識していた。
チ 請求人は、Fの遺産分割協議について、相続人間で紛争が生じたことから平成13年1月30日付で○○家庭裁判所に調停申立てをしており、また、本件相続に係る遺産分割についても同裁判所に調停を申し立てている。

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2 主張

(1)請求人

 本件相続に係る相続税の申告書を法定申告期限までに提出できなかったのは、次のとおり「正当な理由があると認められる場合」に該当するので、原処分は違法であり、取り消されるべきである。
イ 請求人は、前記1の(4)のトの本件被相続人相続不動産を除く被相続人の遺産については、Eらが管理していたので、その内容を全く知らなかった。
ロ 請求人は、前記1の(4)のチのとおりFの遺産分割について○○家庭裁判所に調停中であり、被相続人の相続財産についてはFの遺産分割の中で付随的に妥当な解決を図るため特に調査検討をしなかった。
ハ Eが異議審理庁の担当職員に申述した下記(2)のロの(イ)、(ロ)及び(ニ)の各事実は不知であり、同(ホ)については事実と反するものである。
ニ 請求人は、Eらの代理人であるG弁護士から平成14年5月に被相続人の遺産につき多額の信託財産がある旨連絡を受けたが、当該遺産が判明した経緯が不明で資料等も一切ないため、当該遺産の存在を確認できなかった。
ホ 請求人には、被相続人の遺産に関する調査等をする術は全くなく、法定申告期限までに相続財産を把握して相続税の申告をすることは不可能であったので帰責事由はない。

(2)原処分庁

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ Eは、平成10年8月7日にH銀行○○支店に被相続人の死亡連絡をした。
ロ Eは、異議審理庁の担当職員に対して、次のとおり申述した。
(イ)請求人及びEらは、平成10年夏に被相続人の自宅を訪れ、被相続人の財産に関するもの、その他大事なものをまとめて袋の中に入れて被相続人の自宅に保管し、その後数回被相続人の自宅に出向いた。
(ロ)Eらは、袋の中に入れたK銀行○○支店の通帳には預金残高があることを認識していた。
(ハ)請求人及びEらは、本件被相続人相続不動産が被相続人の所有不動産であることを認識していた。
(ニ)Eらは、平成11年春、M市役所及びN市役所から固定資産税の通知書がEの自宅へ送付されてきたため、M市m町○○番のマンション及びN市n町○○番のマンション(以下これらを併せて「本件マンション」という。)が被相続人の相続財産であることを認識した。
(ホ)Eらは、平成12年の被相続人の三回忌が終わったころ、H銀行○○支店及びT銀行○○支店に対して相続日現在の預金等の残高を確認するため、請求人も含めて相続人全員で上記銀行に行く予定であったが、請求人が来なかったため、預金等の残高を確認することができなかった。
ハ ところで、通則法第66条第1項ただし書に規定する期限内申告書の提出ができなかったことについて「正当な理由があると認められる場合」とは、期限内に申告書が提出されなかったことについて納税者に故意過失がなく、真にやむを得ない理由によるものである場合をいうものと解され、例えば、災害、交通・通信の途絶等、納税者の責めに帰せられない外的事情で期限内に申告書の提出を不可能にするものがこれに該当し、単に納税者の税法の不知若しくは誤解に基づく場合は、これに当たらないと解されている。
ニ 上記イ、ロを上記ハに照らして検討すると以下のとおりである。
(イ)相続税法第27条第1項の規定によれば、本件相続においては、相続税の課税価格が基礎控除額を超えているから、請求人は、被相続人が死亡した平成10年5月28日の翌日から10月以内の平成11年3月28日までに相続税の申告を行う必要があったと認められる。
(ロ)また、請求人は、上記(1)のホのとおり、遺産の調査等をする術はなく、期限内申告は不可能であったので帰責事由はない旨主張するが、本来、相続税の納税義務者は申告義務を負うとともに、その義務の履行の前提として、申告のため自らの遺産に関して慎重な調査を尽くすことが要求されているところ、上記ロによれば、請求人は、幾度となくEらと共に被相続人の自宅を訪ねており、その際、本件被相続人相続不動産以外の相続財産を把握することが可能であったはずであり、十分に調査を尽くしたとは認められない。
 そして、請求人が慎重に調査を行えば、本件相続に係る申告期限までに相続税の申告を行うことは十分可能であったと認められる。
(ハ)したがって、請求人の主張は、通則法第66条第1項ただし書に規定する「正当な理由があると認められる場合」に該当しない。

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3 判断

(1)原処分庁から提出された資料、請求人及びEらの各答述並びに当審判所が調査したところによれば、次の事実が認められる。
イ 銀行預金等の存在の認識可能性
 本件相続においては、下記(イ)のBの本件預金の総額が、別表2のとおり、相続税法第27条第1項に定める基礎控除額(8,000万円)を超えるものであると認められるところ、請求人は、法定申告期限内に、本件預金の存在を認識し得ない真にやむを得ない事情があったと主張するので以下審理する。
(イ)請求人及びEらは、当審判所に対して、要旨次のとおり答述した。
A Eらは、被相続人の死亡後、請求人と共に被相続人の自宅を訪ね、被相続人の財産等の整理を行った。なお、当該整理を行った時期・回数については、請求人は、平成10年の夏に1週間に一度の割合で5回程度(1回当たり7〜8時間程度)であったとし、Eらは平成10年6月中旬ごろから同年9月末ごろの日曜日の午前中に数回行ったとしている。
B 上記Aの被相続人宅の整理状況に関し、Eらは、〔1〕最初に整理した際にK銀行○○支店、H銀行○○支店、T銀行○○支店及びW銀行の各預金(これらを併せて「本件預金」という。)の通帳類等を整理し、請求人及びEらの3名で確認した後、黒いビニール袋に入れて保管した、〔2〕その後、平成10年9月ごろに本件預金のうちK銀行の通帳については、50万円程度の預金残高があることを同3名で確認した、〔3〕被相続人宅の掃除終了後、上記通帳類等を保管した袋は、請求人の合意の下にE宅の1階駐車場に置いて保管した旨答述した。
 しかし、請求人は、Eが当該袋を保管していた事実については認めているが、上記〔1〕ないし〔3〕及び当該袋にどのような書類等が詰められていたかについては不知であるとし、Eらの答述と相反している。
(ロ)このように、被相続人の自宅の整理の時期等について、請求人及びEらの答述内容に相違はあるものの、少なくとも、請求人は、Eらと共に平成10年の夏ごろに被相続人の自宅を訪ね相続財産等を整理していたことは事実として認められる。
(ハ)ところで、当審判所が、本件預金のうち、K銀行○○支店の被相続人名義の割引債券の解約手続状況について確認したところ、請求人及びEらは、平成10年9月8日付で同支店の被相続人名義の割引債券を解約し、額面金額503,902円を払い出したという事実がある。そして、この解約依頼書には請求人及びEらの3名の署名、押印があり、記載された住所・氏名は請求人自身の筆跡であることが認められる。
(ニ)上記の事実から総合的に判断すると、本件預金の存在の認識時期について、請求人とEらの答述内容は異なるものの、請求人とEらの相続財産の整理状況及びEらの答述内容並びに当審判所の調査の状況からみて、請求人は、Eらと共に相続財産等を整理していながら、請求人のみが通帳類等の存在に気づかなかったというのは不自然であり、請求人は本件預金の存在を認識し得たとみるのが相当である。仮に、Eらが請求人に相続税の申告には本件預金を含めて申告することが必要であることを言及しなかったとしても、そのことをもって、請求人が、法定申告期限内に本件預金を含めて申告しなかったことに真にやむを得ない事情があったとは認められない。
ロ 本件マンションの存在の認識可能性
(イ)本件マンションの存在の認識時期について、Eは、前記2の(2)のロの(ニ)のとおり、異議審理庁の担当職員に対し、本件マンションが被相続人の相続財産であることを認識したのは平成11年の春と申述していることから、請求人には、法定申告期期限内に、本件マンションの存在を認識し得ないとする真にやむを得ない事情があったか否かについて以下審理する。
(ロ)上記(1)のイの(ロ)のとおり、被相続人の自宅の整理の時期等について、請求人及びEらの答述内容に相違はあるものの、少なくとも、請求人は、Eらと共に平成10年の夏ごろに被相続人の自宅を訪ね相続財産等を整理していたことは事実として認められる。
(ハ)そこで、当審判所が、袋の中に入れたものを確認したところ、Eらは、通帳類のほか、本件マンションの権利書、納税通知書、領収書もあった旨答述した。
 このEらの答述に対し、請求人は、本件マンションの存在を平成14年5月以降に請求人の代理人のX弁護士から聞いて初めて知った旨答述した。
(ニ)このように本件マンションの存在の認識時期について、請求人及びEらの答述は相反しているが、上記イの(ニ)の本件預金の存在の認識時期と同様に、請求人とEらの相続財産の整理状況及びEらの答述内容並びに当審判所の調査の状況からみて、請求人は、Eらと共に相続財産等を整理していながら、請求人のみが本件マンションに係る権利書等の存在に気づかなかったというのは不自然であり、請求人は本件マンションの存在を認識し得たとみるのが相当である。
ハ 本件被相続人相続不動産の申告の必要性
 当審判所が、請求人に対し、本件被相続人相続不動産が被相続人の相続財産として期限内に申告しなかった理由について確認したところ、請求人は、相続財産評価額が基礎控除額を下回り少額であったため、相続税の申告は不要である旨答述した。
(2)ところで、通則法第66条第1項に規定する無申告加算税は、申告納税制度を維持するためには納税者により期限内に適正な申告が自主的にされることが不可欠であることにかんがみて、申告書の提出が期限内にされなかった場合の行政上の制裁として、申告書が法定申告期限後に提出されたという客観的事実のみにより課されるものであって、同項ただし書に規定する「正当な理由があると認められる場合」とは、無申告加算税を課することが納税者にとって不当又は酷となる特殊な事情、例えば、災害、交通や通信の途絶等、納税者の責めに帰することができない外的事情によるなど、法定申告期限内に申告できなかったことについて真にやむを得ない理由がある場合がこれに該当すると解されている。
(3)相続税法第27条第1項の規定に基づいて適正な相続税の申告をするためには、相続財産の全容を正確に認識していることが前提となるから、納税者としては、法定申告期限までに相続財産を調査し、その全容を把握するように努力すべきであると解される。
 もっとも、常に法定申告期限内に相続財産の全容を把握することができるとは限らないが、相続財産の全容を把握することができない場合に申告義務を免除したり猶予したりする規定は存しない。他方、申告後において相続税額に不足を生じたり過大になったりした場合には、修正申告又は更正の請求をすることができるとされている(通則法第19条《修正申告》、同法第23条《更正の請求》、相続税法第31条《修正申告の特則》、同法第32条《更正の請求の特則》)のであるから、基礎控除額を上回る額の相続財産が判明している限りは、判明している範囲で相続税の申告を行うべきものと解される。
 したがって、法定申告期限内に相続財産の全容を把握できない場合であっても、直ちに期限内に申告できなかったことにつき真にやむを得ない理由があるとはいえず、相当の努力を払って調査しても基礎控除額を上回る額の相続財産を把握することができなかったと認められる場合に初めて通則法第66条第1項ただし書にいう「正当な理由があると認められる場合」に該当すると解するのが相当である。
(4)これを本件についてみると以下のとおりである。
イ 請求人は、法定申告期限内に本件相続に係る相続財産の全容を解明するよう努力を行うべきであると解されるところ、上記(1)のイの(ニ)及びロの(ニ)のとおり、そのような努力を行っておれば本件預金及び本件マンションを相続財産として把握することは可能であったと認められる。
ロ そうすると、請求人が基礎控除額を上回る額の相続財産を認識しておらず、申告の必要がないと判断したとしても、それは必要な調査を尽くさなかった結果であるというべきであるから、本件相続に係る相続税の申告が法定申告期限内に提出されなかったことにつき、通則法第66条第1項ただし書に規定する「正当な理由があると認められる場合」に該当しない。
(5)以上のとおり、本件相続に係る相続税の期限後申告書の提出は、通則法第66条第1項ただし書に規定する「正当な理由があると認められる場合」に該当せず、かつ、前記1の(4)のヘのとおり、調査があったことにより決定を予知してなされたものではないから、同条第3項に基づいてした本件賦課決定処分は適法である。
(6)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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