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(平16.3.30裁決、裁決事例集No.67 57頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)の親族名義でされた歯科医業に係る所得が請求人に帰属するとして行われた更正処分及びそれに係る重加算税の賦課決定処分の適否を主な争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成7年分及び平成8年分(以下、併せて「本件各年分」という。)の所得税について、青色の確定申告書に別表1の「確定申告」欄のとおり記載して、いずれも法定申告期限までに申告した。
ロ 請求人は、F税務署長所属の調査担当職員の調査(以下「本件署調査」という。)を受けて、平成8年分の所得税について、別表1の「修正申告等」欄のとおりとする修正申告書を平成12年3月10日に提出したところ、これに対し、F税務署長は、過少申告加算税の額を1,029,000円及び重加算税の額を1,046,500円とする賦課決定処分をした。
ハ その後、F税務署長は、本件各年分の請求人の申告に対し、原処分庁所属の調査担当職員(以下「本件調査担当職員」という。)の調査(以下「本件調査」という。)に基づき、平成14年7月17日付で平成7年分以後の所得税の青色申告承認の取消処分をし、その後、平成7年分を平成14年9月30日付で、また、平成8年分を同年10月23日付で別表1の「更正処分等」欄のとおりの各更正処分(以下、併せて「本件各更正処分」という。)並びに重加算税及び過少申告加算税の各賦課決定処分(以下、併せて「本件各賦課決定処分」という。)をした。
ニ 請求人は、原処分を不服として、平成14年11月28日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成15年3月24日付で棄却の異議決定をした。
ホ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成15年4月21日に審査請求をした。

(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、本件各年分において、別表2に記載した各歯科医院で診療を行っており、G歯科医院の事業(以下「本件事業」という。)で、平成7年1月から同年3月までの期間に生じた収益のほか、本件各年分のH歯科医院、J歯科医院及びK歯科医院の業務により生じた収益を基に事業所得の金額を算定して確定申告していた。
ロ 請求人の子で、歯科医師であるLは、M保健所長に対し平成7年3月14日付で同月11日からG歯科医院をNから引き継ぎ、診療所を開設する旨記載した届出書を提出し、その後、平成11年9月6日付で同月1日に同歯科医院を廃止した旨記載した届出書を提出した。
ハ 上記ロの診療所の開設から廃止までの期間(以下「本件期間」という。)のG歯科医院における社会保険診療報酬は、X銀行Y支店のL名義の普通預金口座(口座番号が○○○○であり、以下「本件甲口座」という。)に振り込まれている。
ニ 本件期間における本件事業により生じた現金の収入金額は、G歯科医院に勤務する従業員が作成した日計表とともに、H歯科医院に集められた上で本件甲口座に入金され、請求人の従業員が本件甲口座及び当該日計表を管理していた。
ホ 本件各年分のL名義の所得税の確定申告書(以下「本件各申告書」という。)は、請求人の関与税理士であるS(以下「S税理士」という。)が本件事業の遂行上生じた所得の金額などについて、別表3のとおり記載して作成した上、T税務署長に対し、いずれも法定申告期限までに提出された。
ヘ 本件各申告書に添付された各所得税青色申告決算書(一般用)(以下「本件各決算書」という。)には、別表4のとおり記載されている。
ト 請求人の本件各年分の確定申告書に添付された各所得税青色申告決算書(一般用)には、別表5のとおり記載されている。
チ 上記(2)のロの修正申告書は、事業所得の金額について、総収入金額が3,000,000円過少であること並びに売上原価の額が16,446,564円及び給料賃金の額が7,130,000円いずれも過大であることにより提出された。

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2 主張

(1)請求人

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 本件各更正処分の手続等について
(イ)本件調査は、任意に行われるべきものであるにもかかわらず、その初日の調査が深夜にまで及んだほか、本件調査担当職員が請求人の同意を得ずに請求人の自宅の部屋に入り込み、机の引き出しの中を勝手に調査したり、また、本件調査担当職員が請求人の帳簿書類等を一方的に箱に詰め込んで、形式的に「預り証」を差し置くのみで勝手に持ち出したりするなど、納税者の受忍義務の範囲をはるかに超えて行われたものであるから、本件調査は、違法な質問検査権の行使に基づき行われ、このような違法な調査に基づき行われた本件各更正処分は違法である。
(ロ)異議申立ては、原処分に対する全面的な再調査の請求であると解されるところ、異議申立てに係る調査の担当職員は、請求人の原処分の全面的再調査の請求に一切耳を貸さず、原処分の正当性を主張するのみであり、原処分の理由及びその内容については、異議決定通知書にすべて記載されるとし、原処分の追認に終始した。特に、本件事業の遂行上生じた所得の金額について、質問したところ、上記の担当職員は、本件事業により生じた収入金額及び必要経費については誤りがない旨言明し、原処分の内容を確認せずに、単に原処分を正当化するための形式的な調査を行った。
 このような調査に基づく異議決定は不当であるから、原処分は取り消されるべきである。
ロ 本件事業の遂行上生じた所得の帰属について
 本件事業の遂行上生じた所得は、次の事由により、Lに帰属するから、請求人の本件各年分の事業所得の金額の計算上、当該所得の金額を加算した本件各更正処分は違法である。
(イ)Lは、上記1の(3)のロのとおりM保健所長に対しG歯科医院を開設する旨記載した届出書を提出しているので、G歯科医院の医療法上の管理者が、本件期間においてLであったことは明らかである。
(ロ)G歯科医院に関する経理は、請求人が申告している上記1の(3)のイの各歯科医院に関する経理と明白に区分されている。
(ハ)本件事業により生じた収入金額は、上記1の(3)のハ及びニのとおりL名義である本件甲口座に入金されているところ、これは同一の都道府県内において一人で複数の診療所を開設することが原則としてできないこととしている医療法上の規定によるものであり、当該規定からみても、本件事業の遂行上生じた所得が請求人に帰属するものではなく、Lに帰属することは明らかである。
(ニ)S税理士が本件調査担当職員に対して行った申述は、「調査を査察調査に切り替えることもできる」、「(S税理士の事務所において)本件各申告書を作成したことは有印私文書偽造行使に当たる」などの脅迫的言辞と異様な雰囲気の下で行われ、これを基に調書が作成された。
 また、Lが本件調査担当職員に対して行った申述は、出産し産院を退院した直後の境遇の中で長時間にわたり誘導尋問により行われ、これを基に調書が作成された。
 以上のとおり、上記のS税理士及びLの申述は、これらの者に冷静な判断をすることができる場所と時間を与えず、思考が錯乱する中で強制的に申述させたものであるから、これらの申述内容を根拠に本件事業の遂行上生じた所得が請求人に帰属するとの結論を導き出すことはできない。
ハ 本件各更正処分について
(イ)請求人は、次の事由により偽りその他不正の行為により所得税を免れたのではないから、国税通則法第70条(関係法令の要旨は、別紙のとおりである。以下同じ。)第5項の規定を適用されないこととなるので、本件各更正処分は、更正の期間制限を超えて行われた違法なものである。
A 本件各更正処分により、事業所得の金額の計算上総収入金額に算入された自由診療報酬に係る収入金額及び過大であるとして必要経費に算入することができないとされた給料賃金の額については、請求人の事実誤認などに基づくものであり、意図的に所得金額を過少に計算したものではない。
B 本件事業の遂行上生じた所得を請求人の事業所得の金額の計算上加算しなかったことは、上記ロの(イ)及び(ハ)で述べたとおり、医療法上の制約からG歯科医院の開設者をLとして届け出たことから、本件事業の遂行上生じた所得もLとしただけであり、税のほ脱を意図した不正行為のためではない。
(ロ)請求人は、本件署調査の際に、その調査の担当職員から本件事業の遂行上生じた所得が請求人に帰属するのではないかという指摘を受けたが、S税理士は、F税務署長、同所属の副署長及び個人課税第○部門統括国税調査官と面接し、当該所得を請求人の事業所得の金額に加算することはできない旨の見解を示した上で、本件署調査の結果に基づき平成8年分、平成9年分及び平成10年分の所得税の修正申告書を提出した。
 したがって、請求人は、F税務署長が本件事業の遂行上生じた所得がLに帰属することを認めたものと認識していたのであるから、これを本件調査によって覆されることは到底納得できるものではない。
(ハ)仮に、本件事業の遂行上生じた所得が請求人に帰属するとしても、原処分庁は、総収入金額に加算した自由診療報酬に係る収入金額を過大に計算している。
ニ 本件各賦課決定処分について
 請求人は、次のとおり課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実を隠ぺい又は仮装していないから、重加算税の額に相当する部分の本件各賦課決定処分を取り消すべきである。
(イ)上記ハの(イ)のAで述べたとおり、請求人の事実誤認などに基づき所得金額が過少となったのであり、事実の隠ぺい又は仮装に基づくものではなく、また、請求人は、医療法上の制約から本件事業の遂行上生じた所得をLで申告すべきであると認識していたのであって、税のほ脱が目的ではない。
 なお、請求人は、LがQ市へ転居し、本件事業に従事できなくなった後、請求人がG歯科医院の開設者となり、同時にK歯科医院の開設者をUとする措置を採っているところ、K歯科医院よりG歯科医院の事業規模が大きいので、生じる所得金額が高額となることから、請求人が税のほ脱を意図していたのであれば、このような措置を採らないことは明らかである。
(ロ)平成12年7月3日付「申告所得税の重加算税の取扱いについて(事務運営指針)」(課所4−15ほか3課共同の通達であり、以下、「本件通達」という。)の第1の1の(3)のただし書は、配偶者、その他同居親族の名義により事業の経営又は取引等を行っているが、当該名義人が実際の住所地等において申告等をしているなど、税のほ脱を目的としていないことが明らかな場合は重加算税を賦課しない旨定めているところ、〔1〕Lは、本件各年分において請求人の同居の親族であること、〔2〕Lは、事業所の所在地で申告していること、〔3〕Lの申告した本件事業の遂行上生じた所得金額は、正確なものであることから、請求人が税のほ脱を意図していないことは明らかであるから、本件通達の定めにより、本件事業の遂行上生じた所得を請求人に帰属するとしたことにより増加する税額に相当する部分の金額については、重加算税の計算の基礎とすることはできない。
 なお、Lは、本件事業の遂行上生じた所得の金額について申告しているところ、当該所得の金額を実質所得者課税に基づき請求人に帰属するとした場合、累進税率の適用により請求人の税額が増加することとなる。
 そうすると、上記の増加する税額に相当する部分の金額は、Lが申告した正当な所得の金額に係る税額を含めて重加算税の計算の基礎とすることとなるが、当該所得の金額に相当する税額までも重加算税の計算の基礎とすることは、本件通達を逸脱している。

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(2)原処分庁

 原処分は、次のとおり適法であるから、審査請求をいずれも棄却するとの裁決を求める。
イ 本件各更正処分の手続等について
(イ)本件調査は、所得税法第234条《当該職員の質問検査権》第1項に規定する質問検査権を適法に行使して行われたものであり、本件各更正処分は適法である。
 なお、本件調査担当職員は、請求人の同意を得て帳簿書類等を借用したのであって、これを強要した事実はない。
(ロ)異議申立てに係る調査及び異議決定は適法に行われ、何ら違法はない。
ロ 本件事業の遂行上生じた所得の帰属について
(イ)上記1の(3)の各事実のほか、異議申立てに係る調査によれば次の事実が認められる。
A 平成7年5月から平成8年7月までの毎月15日に各400,000円及び平成8年8月から平成9年10月までの毎月15日に各500,000円が、本件甲口座からX銀行Y支店のL名義の普通預金口座(口座番号が××××であり、以下「本件乙口座」という。)に振り込まれており、これらの金額は、G歯科医院の会計帳簿上店主勘定に振り替えられている。
B 平成7年7月28日に3,000,000円、同年10月30日に7,000,000円及び同年12月15日に2,000,000円が本件甲口座からX銀行Y支店の請求人名義の普通預金口座(口座番号が△△△△であり、以下「本件丙口座」という。)に振り替えられ、更に同月29日に3,000,000円が本件甲口座からX銀行Y支店の請求人名義の貯蓄預金口座(口座番号が□□□□であり、以下「本件丁口座」という。)に振り替えられ、請求人名義の定期預金が設定された。
 また、平成8年12月30日に10,000,000円が本件甲口座から本件丁口座に振り替えられ、この金員が平成9年1月22日に請求人の住宅資金の借入金の返済に充てられている。
C 請求人は、特定の従業員に自ら行った自由診療報酬に係る収入金額の一部を除外するよう指示するなどして、本件各年分において、別表6のとおりの収入金額を総収入金額に算入せず、当該診療のカルテ、自由診療費入金表及び領収書控を破棄した。
D 請求人は、本件各年分において、支給した事実あるいは勤務した実績がない者の給料賃金について、別表7に記載した金額の給与明細書を作成し、現金で支給したかのように仮装し、架空の給料賃金の額を必要経費に算入した。
E 請求人は、本件調査担当職員から、平成7年4月から平成11年8月までの本件事業の遂行上生じた所得及び平成11年8月から平成13年12月までのK歯科医院の業務により生じた所得は請求人に帰属する旨並びに上記C及びDで述べた事項の指摘を受けたところ、請求人は、平成14年9月12日に平成9年分、平成10年分、平成11年分及び平成12年分の所得税の修正申告書をF税務署長に提出した。
(ロ)Lは、本件調査担当職員に対し、要旨次のとおり申述した。
A Lは、本件事業に従事する歯科医師として本件乙口座に振り込まれた固定給を受け取っているが、本件甲口座については知らない。
B Lは、G歯科医院の従業員や歯科医師の採用をはじめ、経営に関しては一切関与しておらず、実質的な経営者は請求人であると認識していた。
C Lは、本件各申告書がT税務署長に提出されている事実及びこれに対する納税の事実を知らない。
(ハ)S税理士は、本件調査担当職員に対し、要旨次のとおり申述した。
A 本件各申告書及び本件各決算書は、S税理士が請求人から税務代理の依頼を受けて作成したもので、これらの作成後、S税理士は、同人の事務員に本件各申告書及び本件各決算書にLの氏名を記載するよう指示し、請求人が押印した。
B S税理士は、G歯科医院の実質経営者が請求人であり、税法上実質所得者である請求人に課税すべきことは当然のことだという認識を強く持っており、請求人が申告するよう指導していたが、是正には至らなかった。
C S税理士は、Lに対して、本件各申告書及び本件各決算書の内容を説明した覚えはない。
(ニ)上記1の(3)及び上記(イ)の各事実並びに上記(ロ)及び(ハ)の各申述を所得税法第12条の規定に照らすと、次のとおりである。
A Lは、上記1の(3)のロのとおりG歯科医院を開設する旨届け出たが、上記1の(3)のニ及び上記(イ)のA、Bの各事実並びに上記(ロ)及び(ハ)の各申述によれば、本件事業に係る現金、預金及び帳簿等はすべて請求人が診療を行っているH歯科医院で管理されていること、請求人は、Lが管理する本件乙口座に毎月定額を振り込んでおり、同人は、この入金を給料が振り込まれたものと認識し、本件事業により生じた収入金額が入金されている本件甲口座の存在を知らないばかりか、G歯科医院に勤務する従業員や歯科医師の採用をはじめ、経営に関しては一切関知しておらず、実質的な経営者は請求人と認識していた旨申述していることなどの事実からすると、Lは、G歯科医院の従業員であることは明白である。
 さらに、平成7年中に本件甲口座から本件丙口座に12,000,000円が振り替えられ、その一部が請求人名義の定期預金に振り替えられていること及び平成8年中に本件甲口座から本件丁口座に10,000,000円が振り替えられ、この金員が請求人の住宅資金の返済に充てられていることなどを併せ考えると、請求人は、G歯科医院を実質的に経営しており、本件事業により生じた収益を享受しているものと認められる。
B また、上記(イ)のEのとおり、請求人は、本件調査担当職員から、平成7年4月から平成11年8月までの本件事業の遂行上生じた所得は請求人に帰属する旨の指摘を受けたところ、請求人は、これに納得して平成9年分、平成10年分、平成11年分及び平成12年分の所得税の修正申告書をF税務署長に提出したことが認められる。
C 以上のことから、本件事業の遂行上生じた所得は請求人に帰属するものと認められる。
ハ 本件各更正処分について
(イ)上記1の(3)及び上記ロの(イ)の各事実並びに(ロ)及び(ハ)の各申述によれば、次のとおりである。
 請求人は、自由診療報酬に係る収入金額の一部を除外し、書類を破棄するなどして総収入金額の一部を隠ぺいし、また、架空の給料賃金の額を計上するなどして仮装し、これに基づき確定申告書を提出していたことが認められる。
 さらに、請求人は、〔1〕本件事業の遂行上生じた所得は自己に帰属するものと十分に認識し、S税理士からも本件事業の遂行上生じた所得は請求人に帰属することについて十分に指導を受けていながら、S税理士をして本件各申告書を作成させ、自ら押印して、T税務署長に提出し、納税もしていること、〔2〕本件各申告書に記載されている内容をLに知らせず、同人もこれを知らないこと及び〔3〕本件事業により生じた収益を請求人自身が費消していることなどからすると、Lが本件各年分においてG歯科医院の事業者であるがごとく、事実を仮装し、本件各申告書を提出することで、請求人の所得を意図的に分散して、過少に申告したものと認められる。
 以上の請求人の行為は、国税通則法第70条第5項に規定する偽りその他不正の行為によりその全部若しくは一部の税額を免れ、納税申告書を提出していた場合に該当するものと認められる。
 したがって、本件各更正処分は、法定申告期限から7年を経過する日まですることができる。
(ロ)なお、F税務署長を始め同所属の幹部等の職員が、本件署調査において、本件事業の遂行上生じた所得がLに帰属することを認容した事実はなく、また、本件署調査の際に指摘しなかった事項を本件各更正処分で是正したとしても、そのことが本件各更正処分の適法性に何ら影響を及ぼすものではない。
(ハ)事業所得の金額
A 総収入金額
 本件各年分の総収入金額は、別表4及び別表5の各総収入金額並びに別表6の収入金額を合計した金額で、平成7年分が429,935,593円及び平成8年分が413,428,200円となる。
B 必要経費
(A)本件各年分の売上原価の額は、別表4及び別表5の各売上原価の額並びに上記ロの(イ)のAで述べた金額(Lに係る労務費の額で、平成7年分が3,200,000円及び平成8年分が5,300,000円となる。)を合計した金額から上記1の(3)のチの平成8年分の過大な売上原価の額16,446,564円を控除した金額で、平成7年分が197,573,238円及び平成8年分が178,701,457円となる。
(B)本件各年分の給料賃金の額は、別表4及び別表5の各給料賃金の額を合計した金額から別表7の架空の給料賃金の額及び上記1の(3)のチの平成8年分の過大な給料賃金の額7,130,000円を控除した金額で、平成7年分が62,316,059円及び平成8年分が49,576,411円となる。
(C)上記(A)及び(B)以外の必要経費は、別表4及び別表5の各その他の必要経費を合計した金額で、平成7年分が68,021,364円及び平成8年分が67,841,318円となる。
C 事業所得の金額
 本件各年分の事業所得の金額は、上記Aの総収入金額から上記Bの必要経費を控除すると別表8のとおりとなる。
(ニ)不動産所得の金額の計算上生じた損失の金額
 本件各年分の不動産所得の金額の計算上生じた損失の金額は、請求人の本件各年分の確定申告書に添付された各所得税青色申告決算書(不動産所得用)に記載されている総収入金額から同決算書に記載されている借入金利子以外の必要経費並びに請求人が貸付けの用に供しているP市p町○−○所在のマンション(以下「本件マンション」という。)及びその敷地の用に供する土地の取得に要した借入金の支払利子の額を控除した金額で、別表9のとおりとなる。
 また、本件各年分の土地の取得に要した借入金利子の額は、別表9の借入金利子の額に59.72%(本件マンションの敷地の用に供する土地の取得価額60,426,923円の本件マンションの取得価額101,187,192円に占める割合)を乗じた金額で、平成7年分が2,926,280円及び平成8年分が1,791,600円となり、これらの金額は、租税特別措置法第41条の4《不動産所得に係る損益通算の特例》の規定により所得税法第69条《損益通算》第1項の規定の適用を受けないので、これらの金額を控除した後の金額が不動産所得の金額の計算上生じた損失の金額となる。
 したがって、本件各年分の不動産所得の金額の計算上生じた損失の金額は、平成7年分が1,242,200円及び平成8年分が275,579円となる。
(ホ)給与所得の金額
 本件各年分の給与所得の金額は、請求人の確定申告書に記載されている給与の収入金額(平成7年分が688,128円及び平成8年分が689,438円である。)に本件各年分のV有限会社からの給与の収入金額6,000,000円をそれぞれ加算した後の金額に所得税法第28条《給与所得》第3項に規定する給与所得控除額を控除して算定すると、平成7年分が4,819,315円及び平成8年分が4,820,494円となる。
(ヘ)総所得金額
 本件各年分の総所得金額は、上記(ハ)の事業所得の金額に上記(ホ)の給与所得の金額を加えた後の金額に上記(ニ)の不動産所得の金額の計算上生じた損失の金額を控除した金額で、平成7年分が105,602,047円及び平成8年分が121,853,929円となる。
(ト)所得控除の合計額
A 本件各年分の社会保険料控除の額は、請求人がR市に支払った国民年金保険料及び国民健康保険料の合計額で、平成7年分が737,800円及び平成8年分が662,200円である。
B 上記A以外のその他の所得控除の額は、いずれも請求人の本件各年分の確定申告書に記載されている金額で、平成7年分が○○○○円及び平成8年分が○○○○円である。
C 本件各年分の所得控除の合計額は、上記Aの社会保険料控除の額に上記Bのその他の所得控除の額を加えた金額であり、平成7年分が○○○○円及び平成8年分が○○○○円となる。
(チ)算出税額
 課税総所得金額は、上記(ヘ)の総所得金額から上記(ト)の所得控除の合計額を控除した金額の1,000円未満の端数を切り捨てた後の金額で、平成7年分が○○○○円及び平成8年分が○○○○円となり、これらに税率を乗じた算出税額は、平成7年分が○○○○円及び平成8年分が○○○○円となる。
(リ)特別減税額
 本件各年分の特別減税額は、平成7年分所得税の特別減税のための臨時措置法第4条《特別減税の額》及び平成8年分所得税の特別減税のための臨時措置法第4条《特別減税の額》の規定に基づく金額で、いずれも○○○○円となる。
(ヌ)源泉徴収税額
A 平成7年分の源泉徴収税額は、請求人の確定申告書に記載されている源泉徴収税額13,481,015円に本件事業に係る社会保険診療報酬の額に係る源泉徴収税額2,979,073円を加えた金額で、16,460,088円となる。
B 平成8年分の源泉徴収税額は、請求人の確定申告書に記載されている源泉徴収税額13,436,983円に本件事業に係る社会保険診療報酬の額に係る源泉徴収税額3,885,205円及び上記(ホ)のV有限会社からの給与の収入金額に係る源泉徴収税額1,447,200円を加えた金額で、18,769,388円となる。
(ル)納付すべき税額
 納付すべき税額は、上記(チ)の算出税額から上記(リ)の特別減税額及び上記(ヌ)の源泉徴収税額を控除した金額の100円未満の端数を切り捨てた後の金額から、さらに、第一期分及び第二期分の予定納税額を控除した金額となり、別表10のとおりとなるが、これらの金額は、いずれも本件各更正処分の額と同額となるから、本件各更正処分は適法である。
ニ 本件各賦課決定処分について
 上記ハの(イ)のとおりの請求人の行為は、国税通則法第68条第1項に規定する納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし又は仮装したところに基づき法定申告期限までに納税申告書を提出していたときに該当する。
 したがって、収入金額の除外、本件事業の遂行上生じた所得の帰属の意図的な分散及び架空の給料賃金の額に相当する部分の税額について、国税通則法第68条第1項の規定に基づき重加算税の賦課決定処分をした本件各賦課決定処分は適法である。

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3 判断

(1)本件各更正処分の手続等について

イ 請求人は、本件調査が任意の調査における納税者の受忍義務の範囲をはるかに超えて行われた違法なものである旨主張する。
 しかしながら、当審判所に対する本件調査担当職員及び本件調査に立ち会ったS税理士の答述等によれば、本件調査担当職員は、請求人又はS税理士の同意を得た上で、現況を確認するための調査を開始したことが認められ、調査の途中においても請求人又はS税理士が異議を申し立てた事実はなく、また、調査を終了してもらいたい旨の申出もなかったので、事業所が複数存在する事案の性格上、初日の調査が長時間に及んだものと認められる。
 また、請求人にあて本件調査担当職員が平成14年5月8日に請求人の帳簿書類等を預ることを承諾する旨記載した同日付の預り証には、請求人を代理してS税理士が署名押印しており、本件調査担当職員は、請求人の代理人であるS税理士の同意を得て、請求人の帳簿書類等を借用したことが明らかである。
 以上のことから、本件調査は、請求人が受任した範囲において行われたものと認められ、所得税法第234条に規定する質問検査権の範囲を逸脱したとは認められず、本件調査は適法に行われたものと認められる。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ロ 請求人は、異議審理手続の不当を理由として原処分の取消しを求めるが、異議審理手続の不当は原処分の取消事由に当たらないから、この点に関する請求人の主張には理由がない。

(2)本件事業の遂行上生じた所得の帰属について

イ 認定事実
 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ)G歯科医院の水道光熱費などの必要経費は、本件甲口座から出金されていた。
(ロ)平成7年5月から平成8年7月までの毎月15日ころに各400,000円及び平成8年8月から平成9年10月までの毎月15日ころに各500,000円が、本件甲口座から本件乙口座に振り込まれており、これはG歯科医院の従業員の給料賃金の支払日と同日である。
(ハ)平成7年7月28日に3,000,000円、同年10月30日に7,000,000円及び同年12月15日に2,000,000円が本件甲口座から本件丙口座に振り替えられ、更に同月29日に3,000,000円が本件甲口座から本件丁口座に振り替えられ、請求人名義の定期預金が設定された。
 また、平成8年12月30日に10,000,000円が本件甲口座から本件丁口座に振り替えられ、この金員が平成9年1月22日に請求人の借入金の返済に充てられている。
ロ Lは、当審判所に対し、要旨次のように答述した。
(イ)Lは、請求人から勧められてG歯科医院で働き始めたが、同歯科医院は、そもそも請求人の診療所で、以前から請求人が診療を行っていた。
(ロ)Lは、経営に関与していなかったので、従業員に対する給料賃金、外注歯科技工料、設備のリース料などの経費の支出、従業員の採用及び本件事業に係る経理について関知していない。
(ハ)Lは、本件期間において、請求人からG歯科医院における診療に対する報酬を受領し、これを生活の糧としていたが、請求人との金銭の貸し借りはない。
(ニ)Lは、本件各申告書及び本件各決算書について、署名及び押印をしたことはなく、S税理士に作成を依頼したこともないので、一切知らない。
ハ 所得税法第12条に規定する事業から生じる収益を享受する者は、その事業を経営していると認められる者がだれであるかにより判定すべきものと解されるところ、これを本件についてみると次のとおりである。
(イ)上記1の(3)のロ及びハのとおり、Lは、M保健所長に対しG歯科医院を開設する旨記載した届出書及び同歯科医院を廃止する旨記載した届出書を提出したことから、Lは、本件期間におけるG歯科医院の管理を行うとして、保険医療機関の指定を受け、その結果、本件甲口座にG歯科医院における社会保険診療報酬が入金されたものと認められる。
 さらに、上記1の(3)のニ及び上記イの(イ)の事実によれば、本件事業により生じた収入及び費用は、L名義の本件甲口座で決済されていると認められるので、本件事業は、Lの名義で行われていることとなる。
(ロ)その一方で、上記ロのLの答述によれば、G歯科医院は、請求人の診療所で、以前から請求人が診療を行っており、Lは、請求人から勧められて働き始めたが、G歯科医院の経営に関与せず、上記イの(ロ)のとおり従業員の給料の支給日に毎月定額の報酬を平成7年分に合計3,200,000円及び平成8年分に合計5,300,000円受領していると認められる。
 また、請求人とLの間には、金銭の貸し借りがないにもかかわらず、上記イの(ハ)のとおり、本件各年分において本件事業により生じた収入金額が入金されている本件甲口座から本件丙口座及び本件丁口座に合計25,000,000円が振り替えられ、これが請求人名義の定期預金及び請求人の借入金の返済に充てられているが、Lが、当該収入金額について上記の報酬以外に費消した事実は認められない。
(ハ)以上の結果、本件事業は、Lの名義で行われているが、Lは、本件各年分においてG歯科医院の経営に関与せず、同歯科医院における役務の提供の対価として毎月定額の報酬を受領しているのみで、本件事業から生じた収入金額を費消したとは認められず、一方、請求人は、本件事業の遂行上生じた収入金額を請求人名義の本件丙口座及び本件丁口座に入金し、この金員を費消していることから、請求人が本件事業を経営し、その収益を享受していると認められるので、本件事業の遂行上生じた所得は、請求人に帰属するものと認められる。
ニ ところで、請求人は、本件事業の遂行上生じた所得は、〔1〕Lが本件期間において医療法上の管理者であること、〔2〕G歯科医院に関する経理が請求人が申告している他の各歯科医院に関する経理と明白に区分されていること及び〔3〕本件事業により生じた収入金額は、医療法上の規定により請求人が受領できないことからLに帰属する旨主張する。
 しかしながら、同一の者が複数の事業所において業務を営む場合に、その事業所ごとに取引内容を記帳し、帳簿書類を作成するなど経理が分けられることは、各事業所の損益を検討する必要性などの理由から一般に行われていることであり、このことが所得の帰属を裏付けるものとはならない上、上記ハの(ハ)のとおり、本件事業は、Lの名義で行われているが、請求人が本件事業を経営し、その収益を享受していると認められるので、本件事業の遂行上生じた所得は、請求人に帰属するものと認められる。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。

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(3)本件各更正処分について

イ 認定事実
 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ)請求人は、自由診療報酬に係る収入金額を受領した際に、自由診療費入金表を作成し、その金額を管理しているところ、当該入金表を除外し、別表6の自由診療報酬に係る収入金額を帳簿に記載しないで総収入金額に算入しなかった。
(ロ)請求人は、勤務していない者の賞与に係る給料明細書を作成するなどして、架空の給料賃金の額を別表7のとおり必要経費に算入した。
(ハ)本件各申告書及び本件各決算書にある印影が本件甲口座の届出印の印影と同一である。
ロ S税理士は、当審判所に対し、本件各申告書及び本件各決算書について要旨次のように答述した。
(イ)S税理士は、歯科医師であるLがM保健所長に対しG歯科医院を開設する旨の届出書を提出している上、請求人から本件事業の遂行上生じた所得はLの名義で申告したい旨の申出があったことから、G歯科医院の経営者は、Lであると認識していた。
(ロ)S税理士は、本件各申告書及び本件各決算書を請求人から依頼されて作成し、その説明を請求人の確定申告の内容の説明と併せて請求人に対し行った。
 その際、請求人は、本件各申告書及び本件各決算書に押印した。
(ハ)S税理士は、上記(ロ)の説明に際し、請求人から依頼されて本件各申告書及び本件各決算書を作成したので、その説明は、請求人に対し行えば足りると考えたところ、請求人からも、Lに説明しても分からないので、請求人が説明を聞く旨の申出があった。
ハ 請求人は、〔1〕収入金額の過少及び必要経費の過大は、事実誤認などに基づくものであり、意図的に所得金額を過少に計算したのではないこと、〔2〕G歯科医院の開設者をLとして届け出たので、本件事業の遂行上生じた所得もLとしただけであり、税のほ脱を意図した不正行為のためではないことを事由として、国税通則法第70条第5項の規定の適用がされない旨主張するので、以下審理する。
(イ)国税通則法第70条第5項に規定する「偽りその他不正の行為」とは、税額を免れる意図の下に、税の賦課徴収を不能又は著しく困難にするような何らかの偽計その他の工作を伴う不正の行為を行うことをいい、名義を仮装するなどして真実の所得を隠匿する行為がこれに該当するものと解されるところ、これを本件についてみると、次のとおりである。
(ロ)上記イの(イ)及び(ロ)のとおり、請求人は、平成7年分が3,778,580円及び平成8年分が6,217,060円の収入金額を除外して帳簿に記載しないことにより総収入金額を過少に計算し、また、平成7年分が7,660,000円及び平成8年分が1,380,000円の架空の給料賃金の額を計上することにより必要経費を過大に計算していることから、請求人は、収入金額の一部を隠匿し、また、架空の経費を計上することにより所得金額を過少に申告したと認められる。
(ハ)また、上記(2)のロの(ニ)のLの答述及び上記ロのS税理士の答述によれば、S税理士は、本件各申告書及び本件各決算書を請求人の依頼により作成し、本件事業の遂行上生じた所得がLに帰属すると認識していたが、請求人は、その内容についてLには分からないとして、S税理士がLに説明することを妨げ、請求人自らが本件各申告書及び本件各決算書に押印したと認められる。
 さらに、上記1の(3)のイ及びロのとおり、請求人は、本件期間より前のNがG歯科医院の開設を届け出ている期間について、本件事業の遂行上生じた所得を請求人に帰属するとして申告していることから、請求人は、自らG歯科医院を経営していることを認識していたが、本件事業がLの名義で行われていることを奇貨として、Lには本件各申告書及び本件各決算書を秘して、T税務署長に提出したと認められる。
 加えて、上記イの(ハ)のとおり、本件各申告書及び本件各決算書にある印影が本件甲口座の届出印の印影と同一であることから、請求人は、本件甲口座の預金の引出しに必要な届出印を管理し、上記(2)のハの(ハ)のとおり本件甲口座の預金を費消し、一方、Lには、G歯科医院における役務の提供の対価として定額の報酬のみを支払っていたことを併せ考えると、請求人は、本件事業の遂行上生じた所得をLに帰属するがごとく装うために同人に秘して、本件各申告書及び本件各決算書をT税務署長に提出したと認められる。
(ニ)そうすると、請求人は、本件各年分において、税額を免れる意図の下に所得の帰属を仮装するなどの偽計の行為を用いて真実の所得を隠匿したと認められるので、請求人の場合には、国税通則法第70条第5項の規定により、本件各更正処分に係る国税の法定申告期限から7年を経過する日まで、更正処分が行えることとなる。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ホ)請求人は、F税務署長が本件事業の遂行上生じた所得がLに帰属することを認めたものと認識していたのであるから、これを覆されることには納得できない旨主張する。
 しかしながら、本件署調査において是正を求められなかったからといって、本件事業の遂行上生じた所得について、誤りがあることが明らかになった段階で、是正を求めることは何ら違法又は不当なものとはいえず、また、当審判所の調査の結果によれば、F税務署長をはじめとして同所属の幹部が本件署調査において本件事業の遂行上生じた所得の帰属を指導し、又は当該所得が請求人に帰属することを積極的に認容した事実も認められないから、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ニ 事業所得の金額
 本件業務の遂行上生じた所得は、上記(2)のとおり請求人に帰属すると認められるので、これを前提に以下、事業所得の金額を算定する。
(イ)総収入金額
A 請求人は、原処分庁が総収入金額に算入した自由診療報酬に係る収入金額を過大に計算している旨主張する。
 しかしながら、請求人は、上記イの(イ)のとおり平成7年分が3,778,580円及び平成8年分が6,217,060円の収入金額を除外して帳簿に記載しないことにより過少に計算していると認められ、これらの金額は、いずれも原処分庁の認定額と同額となる。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
B そうすると、本件各年分の総収入金額は、別表4及び別表5の各総収入金額並びに別表6の収入金額を合計した金額で、平成7年分が429,935,593円及び平成8年分が413,428,200円となる。
(ロ)必要経費
A 原処分庁は、本件各年分の売上原価の額にLに係る報酬を労務費の額として加算しているが、当該報酬は、上記(2)のハの(ハ)のとおりLのG歯科医院における役務の提供の対価で、歯科医師としての治療行為によるものであるから、売上原価とは認められず、むしろ、給料賃金に該当する。
 そうすると、売上原価の額は、別表4及び別表5の各売上原価の額を合計した金額から上記1の(3)のチの平成8年分の過大な売上原価の額16,446,564円を控除した金額で、平成7年分が194,373,238円及び平成8年分が173,401,457円となる。
B 本件各年分の給料賃金の額は、別表4及び別表5の各給料賃金の額並びにLに係る報酬の額で平成7年分3,200,000円及び平成8年分5,300,000円を合計した金額から、別表7の架空の給料賃金の額及び上記1の(3)のチの平成8年分の過大な給料賃金の額7,130,000円を控除した金額で、平成7年分が65,516,059円及び平成8年分が54,876,411円となる。
C 上記A及びB以外の必要経費は別表4及び別表5の各その他の経費を合計した金額で、平成7年分が68,021,364円及び平成8年分が67,841,318円となる。
(ハ)事業所得の金額
 本件各年分の事業所得の金額は、上記(イ)の総収入金額から上記(ロ)の必要経費を控除すると、平成7年分が102,024,932円及び平成8年分が117,309,014円となる。
 なお、青色申告特別控除の額は、平成14年7月17日付の平成7年分以後の所得税の青色申告承認の取消処分により、本件各年分において事業所得の金額の計算上控除することはできない。
(ニ)不動産所得の金額の計算上生じた損失の金額
 本件各年分の不動産所得の金額の計算上生じた損失の金額については、請求人及び原処分庁の双方に争いはなく、当審判所の調査によっても相当と認められる。
 したがって、所得税法第69条第1項の規定の適用を受けない部分の金額を控除した後の、本件各年分の不動産所得の金額の計算上生じた損失の金額は、平成7年分が1,242,200円及び平成8年分が275,579円となる。
(ホ)給与所得の金額
 本件各年分の給与所得の金額については、請求人及び原処分庁の双方に争いはなく、当審判所の調査によっても相当と認められる。
 したがって、本件各年分の給与所得の金額は、平成7年分が4,819,315円及び平成8年分が4,820,494円となる。
(ヘ)総所得金額
 本件各年分の総所得金額は、上記(ハ)の事業所得の金額に上記(ホ)の給与所得の金額を加えた後の金額から、上記(ニ)の不動産所得の金額の計算上生じた損失の金額を控除した金額で、別表11のとおりとなる。
(ト)所得控除の合計額、算出税額、特別減税額及び予定納税額
 原処分庁が認定した所得控除の合計額、算出税額、特別減税額並びに第一期及び第二期の予定納税額については、当審判所の調査により算定した金額と同額となり、いずれも相当であると認められる。
(チ)源泉徴収税額
 原処分庁は、本件各年分の源泉徴収税額を上記2の(2)のハの(ヌ)のとおり算定しており、平成7年分のV有限会社からの給与の収入金額6,000,000円に係る源泉徴収税額を加算していない。
 ところで、所得税法第120条《確定所得申告》第1項第5号は、源泉徴収税額は、源泉徴収をされた又はされるべき所得税の額である旨規定しているので、給料の支給者が源泉徴収をしたか否か、又はこれを納付したか否かにかかわらず、源泉徴収すべき税額により計算するのが相当であると解される。
 そうすると、上記の給与の収入金額6,000,000円に係る源泉徴収税額に相当する金額は、所得税法第185条《賞与以外の給与等に係る徴収税額》第1項第2号の規定により月額120,600円に12を乗じた1,447,200円となるので、これを平成7年分の源泉徴収税額の計算上加算することとなる。
 したがって、本件各年分の源泉徴収税額は、平成7年分が17,907,288円及び平成8年分が18,769,388円となる。
(リ)納付すべき税額
 以上の結果、本件各年分の納付すべき税額は、別表12のとおりとなり、平成7年分の納付すべき税額は、同年分の更正処分の金額を下回るから、当該更正処分は、その一部を取り消すべきであるが、平成8年分の納付すべき税額は、同年分の更正処分と同額となるから、当該更正処分は適法である。

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(4)本件各賦課決定処分について

イ 請求人は、収入金額の過少及び必要経費の過大は、事実誤認などに基づき所得金額が過少となったのであり、事実の隠ぺい又は仮装に基づくものではなく、また、請求人は、医療法上の制約から本件事業の遂行上生じた所得をLで申告すべきであると認識していたのであって、税のほ脱が目的ではない旨主張する。
 ところで、国税通則法第68条第1項に規定する事実を隠ぺいするとは、課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実について、これを隠匿又は故意に脱漏することをいい、事実を仮装するとは、所得、財産又は取引上の名義等に関しあたかもそれが事実であるかのように装う等、事実をわい曲することをいうものと解される。
 これを本件についてみると、上記(3)のハのとおり、請求人は、収入金額の一部を隠匿し、また、架空の経費を計上することにより所得金額を過少に申告したことに加え、本件事業の遂行上生じた所得が自己に帰属するにもかかわらず、Lに帰属するがごとく装うために同人に秘して、本件各申告書及び本件各決算書をT税務署長に提出したことは、請求人は、本件各年分において税額を免れる意図の下に事実を隠ぺいし、又は仮装したところに基づき申告したと認められる。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ロ なお、請求人は、Lが本件事業に従事できなくなった後、請求人が他の歯科医院より事業規模の大きく、これから生じる所得が高額となるG歯科医院の開設者となったことから、税のほ脱を意図したのではない旨併せ主張する。
 しかしながら、Lは、上記1の(3)のロのとおり、平成11年9月1日にG歯科医院を廃止した旨記載した届出書を提出しているので、請求人が主張する行為は、同日以後に行われたものであるところ、請求人は、上記イのとおり本件各年分において税額を免れる意図の下に事実を隠ぺいし、又は仮装したところに基づき申告したので、本件各年分の確定申告の時点で隠ぺい及び仮装の行為は既に成立していることとなる。
 そうすると、請求人が主張する行為は、隠ぺい及び仮装の行為が成立した後のもので、請求人が本件各年分において税額を免れる意図の下に事実を隠ぺいし、又は仮装したところに基づき申告したことには何ら影響を及ぼさない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ハ 請求人は、本件通達の定めにより、請求人が税のほ脱を意図していないので、本件事業の遂行上生じた所得を請求人に帰属するとしたことにより増加する税額に相当する部分の金額については、重加算税の計算の基礎とすることができない旨主張する。
 確かに、本件事業の遂行上生じた所得は、本件各申告書によりLの名義で申告されているが、上記イのとおり、請求人は、Lに帰属するがごとく装うために同人に秘して、本件各申告書及び本件各決算書をT税務署長に提出しているので、Lが、事業所を納税地として本件各申告書及び本件各決算書をT税務署長に提出したとは認められないから、請求人の場合には、本件通達の第1の1の(3)のただし書に該当するとは認められない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ニ そうすると、隠ぺいし、又は仮装されていない事実のみに基づいて本件各年分の総所得金額及び納付すべき税額を算定すると別表13のとおりとなり、さらに本件各更正処分前の納付すべき税額を控除して、増加する納付すべき税額を計算すると、平成7年分が○○○○円及び平成8年分が○○○○円となる。
 これらの金額を基礎に国税通則法第118条《国税の課税標準の端数計算等》第3項及び同法第119条《国税の確定金額の端数計算等》第4項の規定を適用して、過少申告加算税の額を計算すると平成7年分が零円及び平成8年分が76,000円となる。
 また、別表12の納付すべき税額から本件各更正処分前の納付すべき税額を控除して、本件各更正処分による新たに納付すべき税額を計算すると、平成7年分が○○○○円及び平成8年分が○○○○円となる。
 したがって、これらの金額から上記の隠ぺいし、又は仮装されていない事実のみに基づき増加する納付すべき税額を控除し、国税通則法第118条第3項の規定を適用して、重加算税の額を計算すると平成7年分が4,728,500円及び平成8年分が3,153,500円となる。
ホ 以上の結果、本件各賦課決定処分の額は、平成7年分が4,728,500円及び平成8年分が3,229,500円となり、平成7年分の加算税の額は、同年分の賦課決定処分の額を下回るから、当該賦課決定処分は、その一部を取り消すべきであるが、平成8年分の加算税の額は、同年分の賦課決定処分と同額となるから、当該賦課決定処分は適法である。

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(5)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

別紙 関係法令の要旨

所得税法第12条《実質所得者課税の原則》

 資産又は事業から生ずる収益の法律上帰属するとみられる者が単なる名義人であって、その収益を享受せず、その者以外の者がその収益を享受する場合には、その収益は、これを享受する者に帰属するものとして所得税法の規定を適用する。

国税通則法第65条《過少申告加算税》

(第1項)
 期限内申告書が提出された場合において、更正があったときは、当該納税者に対し、その更正に基づき同法第35条第2項《期限後申告等による納付》の規定により納付すべき税額に100分の10の割合を乗じて計算した金額に相当する過少申告加算税を課する。

国税通則法第68条《重加算税》

(第1項)
 同法第65条第1項の規定により過少申告加算税を課すべき場合において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、過少申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額(その税額の計算の基礎となるべき事実で隠ぺいし、又は仮装されていないものに基づくことが明らかであるものがあるときは、当該隠ぺいし、又は仮装されていない事実に基づく税額として政令で定めるところにより計算した金額を控除した税額)に係る過少申告加算税に代え、当該基礎となるべき税額に100分の35の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課する。

国税通則法第70条《国税の更正、決定等の期間制限》

(第5項)
 偽りその他不正の行為によりその全部若しくは一部の税額を免れた国税についての更正は、その更正に係る国税の法定申告期限から7年を経過する日まですることができる。

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