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(平16.5.19裁決、裁決事例集No.67 103頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、開発費として資産計上したアドバイザリー業務に係る課税仕入れの時期について、仮装・隠ぺいがあったか否かを争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成13年11月9日から平成14年10月31日までの課税期間(以下「本件課税期間」という。)の消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)の確定申告書に課税標準額を189,000円、消費税等の還付税額を2,012,141円と記載して、法定申告期限内である平成14年12月25日に原処分庁に提出した。
ロ 請求人は、法定申告期限内である平成15年1月6日に、上記イの確定申告書の控除対象仕入税額に誤りがあったとして、課税標準額を189,000円、消費税等の還付税額を18,755,141円と記載した確定申告書(以下「本件確定申告書」という。)に差し替えた。
ハ 次いで、請求人は、原処分庁所属の調査担当職員の調査を受け、開発費として資産計上したアドバイザリー業務に係る役務提供が完了していないのに、当該アドバイザリー業務に係る消費税額を控除対象仕入税額に含めていたこと及び建設仮勘定の中に既に役務提供が完了しており控除対象仕入税額ができるものがあったことから、課税標準額を189,000円、消費税等の納付税額を13,143,000円と記載した修正申告書(以下「本件修正申告書」という。)を、平成15年2月26日に原処分庁に提出した。
ニ 原処分庁は、これに対し、平成15年3月31日付で重加算税の額を4,599,000円とする賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
ホ 請求人は、本件賦課決定処分を不服として、平成15年6月2日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年9月1日付で棄却の異議決定をした。
ヘ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成15年10月1日に審査請求をした。

(3)関係法令等

 国税通則法(以下「通則法」という。)第68条《重加算税》第1項は、同法第65条第1項《過少申告加算税》の規定に該当する場合において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、過少申告加算税に代え、重加算税を課する旨規定している。

(4)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、平成13年11月9日に設立した法人で、同月30日に原処分庁に対し、適用開始課税期間を同月9日から平成14年10月31日までとする消費税法第9条《小規模事業者に係る納税義務の免除》第4項に規定する消費税課税事業者選択届出書を提出している。
ロ 請求人は、E株式会社(以下「E社」という。)及びF株式会社(以下、E社と併せて「本件各相手方」という。)の2社との間に、契約締結日を平成14年10月1日とする不動産証券化アドバイザリー契約(以下「本件契約」という。)に基づく契約書(以下「本件契約書」という。)の作成、調印を行っているが、実際に調印したのは、同年11月25日である。
ハ 本件契約書には、要旨次のとおり記載されている。
(イ)第1条第1項には、本件契約書における不動産証券化による資金調達手段の策定のため、本件各相手方は本件契約書第2条に定めるアドバイザリー・サービス業務(以下「本件アドバイザリー業務」という。)を行うものとする旨記載されている。
(ロ)第3条には、請求人は、本件各相手方に対し、アドバイザリー報酬として333,000,000円(消費税等を除く)(以下「本件アドバイザリー報酬」という。)を、本件各相手方の別途指定する方法で支払うものとする旨記載されている。
(ハ)第5条には、本件契約期間は、本件アドバイザリー業務に基づく不動産証券化が実現するか否かにかかわらず、契約締結日から2005年11月末日までの期間とする旨記載されている。
ニ 請求人は、税務申告書の作成補助を、G有限会社(以下「本件事務管理会社」という。)に委託しており、平成13年11月9日に事務管理契約書を締結している。
ホ 本件事務管理会社は、平成14年12月26日に、E社から送信された「○○○○報告修正」と題する電子メール(以下「本件メール」という。)を受信しており、本件メールには、要旨次のことが記載されている。
(イ)アドバイザリー報酬 平成14年10月1日締結
(ロ)業務期間 契約締結から2005年11月末日まで
(ハ)報酬金額を平成14年11月28日に333百万円+消費税を支払

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2 主張

(1)請求人

 本件賦課決定処分については、仮装・隠ぺいの事実がないことから、重加算税の賦課決定処分の全部の取消しを求める。
イ 本件契約書の作成(調印)日は、平成14年11月25日であるが、役務提供に関する場合の課税仕入れの時期については、役務の提供が完了した日又は役務の提供を受けた日とされることから、契約日又は契約書締結日がいかなる日であっても、また、契約書の作成がされていなくても、役務提供に関する場合の課税仕入れの時期については、役務の提供が完了した日又は役務の提供を受けた日であるという事実が左右されるものではない。
 本件契約書は、本件アドバイザリー業務の完了近くになり、完了に伴う支払の基として確認のため作成したものであることから、請求人が本件契約書に平成14年10月1日と記載したことは、役務の提供が完了した日又は役務の提供を受けた日という課税仕入れの時期である事実を仮装したことには当たらない。
ロ 請求人は、通常、役務提供の完了した翌月にその対価の支払を行っているところ、本件アドバイザリー報酬の支払が、平成14年11月28日に行われていることから、本件管理会社が、請求人の決算期末である同年10月31日までに本件アドバイザリー業務が終了しているものと思い込んだために課税仕入れの時期を誤ったものであり、契約書記載の契約作成日が同月1日であることに起因していない。
ハ また、本件契約書の契約締結日に平成14年10月1日と記載されたのは、同年11月28日に本件アドバイザリー報酬を支払うことが決まっていたことから、E社の担当者が、契約書作成(調印)日を支払月の前月であれば良いと思ったためである。
ニ 以上のとおり、請求人は、課税仕入れの計上時期を決定する重要事項について何ら隠ぺい又は仮装行為を行っていないことから、本件賦課決定処分は違法である。

(2)原処分庁

 原処分は、次の理由により適法であるから、本件審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 請求人は、次の事実から総合的に判断すると、本件契約書の真実の契約締結日が平成14年11月25日であるにもかかわらず、これを同年10月1日であるかのごとく契約締結日を仮装し、本件アドバイザリー業務に係る消費税額を控除対象仕入税額に含めたところで過大な消費税等の還付税額を記載した本件確定申告書を原処分庁に提出し差し替えていることが認められ、このことは、通則法第68条第1項に規定する、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときに該当するので、原処分は適法である。
(イ)本件アドバイザリー業務は、平成13年11月20日から平成14年11月25日にかけて行われ、その対価である本件アドバイザリー報酬は同月28日に本件各相手方に支払われている。
(ロ)本件契約書の契約締結日は、本件契約書上、平成14年10月1日とされているものの、現実に請求人及び本件各相手方が本件契約書に記名捺印した日は同年11月25日である。
(ハ)本件確定申告書は、本件メールに基づいて作成されており、本件メールは、本件契約書に基づき作成されたものと認められる。
 そして、本件メールの記載事項のなかで、本件課税期間の末日までの日付として記載されている日付は、契約締結日として記載された平成14年10月1日だけであり、客観的にみれば、この日付を基に、請求人は、本件アドバイザリー業務に係る金額を本件課税期間の控除対象仕入税額に算入したものと認められる。
ロ また、請求人は、役務提供に係る課税仕入れの時期を決定するのは、契約締結日ではなく役務提供完了日であり、本件契約書には契約期間の終了の日の仮装はないことから、原処分は妥当性を欠く旨主張する。
 しかしながら、本件契約書に記載された契約期間は、契約締結日から2005年11月末日までとされているが、本件アドバイザリー業務が行われた期間は、平成13年11月20日から平成14年11月25日であることから、本件契約書に記載された契約期間はほとんど無意味なものと認められ、この点についての請求人の主張には理由がない。
ハ 請求人は、本件アドバイザリー業務に係る消費税額を控除対象仕入税額に含めてしまったのは、本件事務管理会社と本件各相手方との連絡が適切に行われなかったことによるもので、本件契約書の日付が平成14年10月1日であったことに起因するものでない旨主張する。
 しかしながら、上記イのとおり、請求人は、本件契約書に記載された平成14年10月1日の日付をもって本件アドバイザリー業務に係る消費税額を控除対象仕入税額に含めたと認められることから、この点についての請求人の主張には理由がない。

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3 判断

 本件は、請求人が、開発費として資産勘定で経理した本件アドバイザリー業務に係る課税仕入れの時期について、仮装・隠ぺいがあったか否かに争点があるので、以下審理する。

(1)本件賦課決定処分

イ 認定事実
 請求人提出資料、原処分庁関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
(イ)E社の○○部H次長(以下「H次長」という。)は、当審判所に対し、要旨次のとおり答述している。
A 本件契約書の締結日は、平成14年11月25日である。
B 本件アドバイザリー業務は、平成13年11月20日付のSC開発・運営に関する包括基本協定書の締結により、本件契約の主な内容が確立された。
C 当初、本件契約書の締結日と実際の調印も平成14年11月25日を予定していたが、融資分野の取りまとめを行っているJ銀行から、本件アドバイザリー報酬の受取予定日である同月28日と、契約締結日が同月25日であるとすると本件アドバイザリー業務を行った期間が4日間のみとなり不自然であるとの連絡を受けたことから、契約締結日を約1ヶ月前の日付にするよう契約書を作成している弁護士に連絡をした。
D 当初、本件契約書が本件事務管理会社に送付もれとなっていたことから、単に契約書があるという趣旨で本件事務管理会社に連絡をしたが、本件事務管理会社の担当者は、これを役務提供完了の契約がまだある旨の連絡だと思い込んだ。
(ロ)原処分関係資料によれば、本件事務管理会社の取締役であるK(以下「K」という。)は、原処分庁の異議調査担当者に対して、要旨次のとおり申述をしていることが認められる。
A 本件契約書の締結日は、平成14年11月25日である。
B 本件契約書に契約締結日として平成14年10月1日と記載した理由はわからない。
C 平成14年10月1日に、本件アドバイザリー業務に関する重要な役務提供がされた事実もない。
ロ 通則法第68条に規定する重加算税は、納税者が国税の課税標準等又は税額の計算の基礎となる事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出しているときに課されるものである。
 そして、ここでいう「事実を隠ぺいする」とは課税要件の全部又は一部を隠すことをいい、また、「事実を仮装する」とは、売上げ、仕入れ又は経費等に関し、あたかもそれが真実であるかのように装う等、事実をわい曲することをいうものと解することが相当である。
ハ ところで、消費税法第30条《仕入れに係る消費税額の控除》第1項は、事業者が、国内において課税仕入れを行った日の属する課税期間の課税標準額に対する消費税額から、当該課税期間中に国内において行った課税仕入れに係る消費税額を控除する旨規定している。
 この場合において、課税仕入れを行った日がいつであるかは、課税仕入れと課税資産の譲渡等が表裏の関係にあることから、資産の譲渡等の時期に準じて判定するのが相当と認められ、この資産の譲渡等の時期は、所得税法又は法人税における収益の認識基準と同様に、原則として引渡基準によるのが相当と認められる。
 すなわち、請負契約の内容が建設工事等の物の引渡しを要するものであるときの課税仕入れを行った日は、当該建設工事等の目的物を相手方から引渡しを受けた日であり、この引渡しを受けた日とは、具体的には作業が結了した日、検収を完了した日、使用収益ができることとなった日等、当該建設工事等の種類及び性質、契約の内容等に応じその引渡しを受けた日として合理的であると認められた日によるのが相当である。
 また、請負契約の内容が設計、作業の指揮監督、その他の役務の提供を行うことを目的とするような物の引渡しを要しないものであるときの課税仕入れを行った日は、原則として当該請負契約で約した役務の提供の全部を完了した日によるのが相当である。さらに、一の請負契約であっても、当該提供を受けるべき役務の内容が区分され、その報酬も区分された役務の内容ごとに合理的に算定され、かつ、それぞれの役務の提供を受けた都度その報酬が確定し支払義務が発生することとなっているような場合の、当該提供を受けるべき各役務の内容ごとの課税仕入れを行った日は、当該各役務の提供が完了した日とすることが相当である。
 そうすると、本件アドバイザリー業務に係る課税仕入れの時期については、本件アドバイザリー業務が役務の提供を行うことを目的とするものであり、提供を受けるべき役務が本件契約書において区分されていないことから、課税仕入れを行った日とは、当該請負契約で約した役務の全部が完了した日によることが相当である。
ニ 原処分庁は、本件アドバイザリー業務の真実の役務提供完了日は、本件契約書の契約締結日である平成14年11月25日であるにもかかわらず、請求人は、契約締結日を同年10月1日にバックデートして本件契約書に記載し、その本件契約書に基づいて本件アドバイザリー報酬の額に係る消費税額を本件課税期間の控除対象仕入税額に含めていることから、このことが仮装行為に当たる旨主張する。
ホ 確かに、本件の場合、本件契約書の真実の契約締結日については、請求人及び原処分庁の双方に争いはなく、また、上記イの(イ)及び(ロ)のとおり、H次長及びKの答述などからしても本件契約書の真実の契約締結日が平成14年11月25日であると認められることから、本件契約書に同年10月1日と記載されていることは、原処分庁の主張するとおり、真実の契約締結日が記載されているとは言えない。
ヘ しかしながら、本件アドバイザリー業務に係る課税仕入れの時期については、上記ハのとおり、役務提供の全部を完了した日であると解することが相当であるところ、本件アドバイザリー業務に係る役務提供の完了日については、上記1の(4)のハの(ハ)において、本件契約書では、2005(平成17)年11月末日までとされ、原処分庁は、上記2の(2)のイの(イ)で、役務提供の完了日を平成14年11月25日としているから、いずれにしても、本件課税期間においては、役務提供の全部が完了していないことについて、請求人及び原処分庁は争わず、当審判所においても相当であると認められ、本件課税期間の課税仕入れに該当しないことは明らかであるから、本件契約書の契約締結日が真実の契約締結日と異なっていたとしても、上記ハのとおり、本件契約書の契約締結日が課税仕入れの時期の判定要素となるものではないから、役務提供の真実の完了日を仮装したことにはならない。
ト そうすると、上記へのとおり、請求人が真実の契約締結日を本件契約書に記載しなかったことをもって、課税仕入れの時期について仮装があったと認めることはできず、他に課税仕入れの時期を仮装したと認めるに足りる客観的な証拠資料もないことから、原処分庁の主張には理由がない。
チ 以上のとおり、本件修正申告書により増加した所得に相当する部分については、重加算税の賦課要件を満たさないことは明らかであり、他方、通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、本件賦課決定処分については過少申告加算税を超える部分の金額につき取り消すのが相当である。

(2)その他

 原処分のその他の部分について、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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