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(平16.4.26裁決、裁決事例集No.67 135頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、不動産賃貸業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)が、賃借人から不動産賃貸借契約を中途解約された際、賃借人に返還することを要しないとされた敷金及び建設協力金が、一時所得となるか、不動産所得となるかを主たる争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

 請求人の審査請求(国税通則法第75条《国税に関する処分についての不服申立て》第4項第1号の規定により、平成15年7月8日請求)に至る経緯等は、別表のとおりである。

(3)関係法令

イ 所得税法第155条《青色申告書に係る更正》第2項は、税務署長は、居住者の提出した青色申告書に係る年分の総所得金額、退職所得金額若しくは山林所得金額又は純損失の金額の更正(その更正が不動産所得の金額、事業所得の金額及び山林所得の金額以外の各種所得の金額の計算又は損益通算及び損失の繰越控除の規定の適用について誤りがあったことのみに基因するものである場合を除く。)をする場合には、その更正に係る国税通則法第28条《更正又は決定の手続》第2項(更正通知書の記載事項)に規定する更正通知書にその更正の理由を附記しなければならない旨規定している。
ロ 所得税法第26条《不動産所得》第1項は、不動産所得とは、不動産、不動産の上に存する権利、船舶又は航空機の貸付けによる所得をいう旨規定している。
ハ 所得税法施行令第94条《事業所得の収入金額とされる保険金等》第1項第2号は、不動産所得、事業所得、山林所得又は雑所得を生ずべき業務を行う居住者が受ける当該業務の全部又は一部の休止、転換又は廃止その他の事由により当該業務の収益の補償として取得する補償金その他これに類するものは、これらの所得に係る収入金額とする旨規定している。
ニ 所得税法第2条《定義》第1項第24号は、臨時所得とは、役務の提供を約することにより一時に取得する契約金に係る所得その他の所得で臨時に発生するもののうち政令で定めるものをいう旨規定している。
ホ 所得税法施行令第8条《臨時所得の範囲》第3号は、一定の場所における業務の全部又は一部を休止し、転換し又は廃止することとなった者が、当該休止、転換又は廃止により当該業務に係る3年以上の期間の不動産所得、事業所得又は雑所得の補償として受ける補償金に係る所得は、臨時所得である旨規定している。
ヘ 所得税法第90条《変動所得及び臨時所得の平均課税》第1項は、居住者のその年分の変動所得の金額及び臨時所得の金額の合計額(その年分の変動所得の金額が前年分及び前前年分の変動所得の金額の合計額の2分の1に相当する金額以下である場合には、その年分の臨時所得の金額)がその年分の総所得金額の100分の20以上である場合には、その者のその年分の課税総所得金額に係る所得税の額は、平均課税の方法により計算する旨規定している。
 なお、同条第4項は、同条第1項の規定については、確定申告書に同項の規定の適用を受ける旨及び同項各号に掲げる金額の合計額の計算に関する明細の記載がある場合に限り、適用する旨規定しているが、同条第5項は、税務署長は、確定申告書の提出がなかった場合又は同条第4項の記載がない確定申告書の提出があった場合においても、その提出がなかったこと又はその記載がなかったことについてやむを得ない事情があると認めるときは、同条第1項の規定を適用することができる旨規定している。

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(4)基礎事実

 以下の事実は、請求人と原処分庁の間に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
イ 請求人及び請求人の妻E(以下これら2名を「請求人ら」という。)は、P市p町○番○ほか5筆に所在する鉄骨造亜鉛メッキ銅板葺2階建の店舗・倉庫(以下「本件建物」という。)を共有し、その持分割合は、それぞれ2分の1である。
ロ 請求人らは、平成3年5月13日、F株式会社(以下「F社」という。)との間で、本件建物に係る賃貸借契約(以下「本件賃貸借契約」という。)を締結した。
ハ 当該賃貸借契約書には、主たる契約内容として次の記載がある。
〈第1条〉請求人らは、F社の希望する設計に基づき、本件建物を建設し、F社に賃貸する。
〈第4条〉賃貸借期間は、平成3年11月2日から平成23年11月1日までの20年間とする。
〈第5条〉賃料は、月額2,300,000円(消費税別)とする。
〈第7条〉F社は、請求人らに敷金30,000,000円(以下「本件敷金」という。)を無利息で預託する。
〈第8条第1項〉本件賃貸借契約が期間満了その他の事由により終了し、かつ、F社が本件建物を明け渡したときは、請求人らはF社に対し、本件敷金を全額返還する。
〈第8条第2項〉契約終了時において、賃料の未払いその他本件賃貸借契約に基づくF社の債務がある場合、請求人らは敷金をもってこれらの債務の弁済に充当することができるものとし、その残金をF社に返還する。
〈第9条〉F社の請求人らに対する本件建物の建設協力金を120,000,000円(以下「本件建設協力金」という。)とし、これに対する利息は無利息とする。
〈第10条〉請求人らは、本件建設協力金を、本件建物引渡し月から20年間、毎月末日に500,000円ずつ、240回の均等払いにより、F社に返還する。
〈第18条第4項〉F社が本件賃貸借契約を解約した場合、請求人らは、F社から受託した本件敷金及び本件建設協力金の残額を違約金として没収する。
 ただし、F社が請求人らの承諾した代替借主を紹介し、請求人らがその借主との間で、本件賃貸借契約と同一条件以上の賃貸借契約を締結し、本件建物の賃貸借契約が継続した場合には、請求人らは、直ちに本件敷金及び本件建設協力金の残額をF社に返還する。
ニ F社は、営業不振により、本件建物における営業を平成7年7月16日をもって中止した。
ホ F社は、請求人らに対し、本件建物をH株式会社(以下「H社」という。)に転貸することを申し入れ、平成7年6月15日付で、請求人らと、これを承諾する旨の転貸借契約に関する覚書を交わした。
ヘ F社は、H社と、平成7年10月23日付で本件建物を転貸料月額1,400,000円(消費税別)で転貸する旨の契約を締結した。
ト 平成11年4月14日、請求人らは、F社との間で、本件賃貸借契約に係る賃料を月額2,300,000円(消費税別)から、月額1,768,000円(消費税別)に改定する旨の覚書を交わした。
チ 平成14年7月12日、F社は、請求人らに対し、本件賃貸借契約の解約を申し出て、同年8月28日、本件賃貸借契約を同年8月31日をもって解除することが合意された。
リ 請求人らとF社との間で交わされた平成14年8月28日付の「建物賃貸借契約の解約合意書」(以下「本件解約合意書」という。)には、主たる合意内容として次の記載がある。
〈第1条〉本件賃貸借契約は、平成14年8月31日付で合意解約する。
〈第2条〉平成14年9月1日以降、請求人らは、H社を賃借人とする本件建物の賃貸借契約を新たに締結する。
〈第3条〉本件敷金30,000,000円については、本件賃貸借契約第18条第4項ただし書を考慮の上、次のとおりとする。
1.金10,000,000円は、請求人らが没収する。
1.金10,000,000円は、平成14年8月31日までにF社に返還する。
1.金10,000,000円は、請求人らとH社の新契約終了、明渡し後、H社に返還する。
〈第4条〉本件建設協力金については、平成14年8月31日付の残額55,000,000円を請求人らが没収する。
ヌ 平成14年8月28日、請求人らはH社との間で、賃貸借期間は平成14年9月1日から平成23年11月1日まで、賃料は月額1,468,000円(消費税別)とする本件建物に係る賃貸借契約を締結した。
ル 平成15年3月3日、請求人は、返還を要しないこととされた本件敷金のうち10,000,000円及び本件建設協力金の残額55,000,000円の合計額65,000,000円について、請求人の持分割合2分の1に応じた金額32,500,000円(以下「本件返還不要敷金等」という。)を平成14年分の青色の所得税の確定申告書に一時所得の収入金額として記載し提出(以下「本件確定申告書」という。)した。
 なお、本件確定申告書には、所得税法第90条第1項の規定の適用を受ける旨及び同項各号に掲げる金額の合計額の計算に関する明細の記載はない。
ヲ これに対し、原処分庁は、平成15年6月24日付で更正処分(以下「本件更正処分」という。)を行ったが、当該更正通知書(以下「本件更正通知書」という。)には、更正の理由(以下「本件理由附記」という。)として、「あなたは、平成14年分の所得税の確定申告に当たり、平成14年8月28日にF株式会社と交わした本件解約合意書において返還不要となった敷金10,000,000円及び建設協力金の残額55,000,000円との合計額65,000,000円のうち、物件の共有持分割合2分の1に応じた金額32,500,000円を一時所得の収入金額として申告しておられます。しかしながら、賃貸借契約の解除による保証金の放棄は、違約金の支払と同じであり、将来に向けての不動産収入の補てん(収益の補償)と認められますので、一時所得の収入金額より減算し、不動産所得の収入金額に加算します。」と記載されている。

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2 主張

(1)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求をいずれも棄却するとの裁決を求める。
イ 本件理由附記
 青色申告書に係る更正通知書への理由附記については、所得税法第155条第2項に規定されている。
 その趣旨は、処分庁の判断の慎重、合理性を担保してそのし意専断を抑制するとともに、処分理由を相手方に知らせて不服の便宜を与えるためと解されているところ、帳簿の記載を前提として、納税者と異なる法的評価、判断により青色申告書に係る更正を行う場合、端的に処分庁の法的評価、判断根拠を示せば足り、それに至る理由、資料までも附記しなければならないものではないと解されている。
 これを本件についてみると、本件理由附記には、請求人が本件返還不要敷金等を一時所得として申告しているところ、本件返還不要敷金等は違約金の支払と同じであり、不動産収入の補てん(収益の補償)と認められることから、一時所得の収入金額より減算し、不動産所得の収入金額に加算する旨記載されており、請求人は、本件更正処分の具体的内容を了知することができ、また、その判断根拠として原処分庁は本件返還不要敷金等が違約金であり、収益補償と認められることを示しているのであるから、本件理由附記に不備はなく、違法ではない。
ロ 本件更正処分
(イ)本件返還不要敷金等の所得区分
A 所得税法第26条第1項に規定される不動産所得とは、不動産の貸付け等により生じる所得をいい、同法施行令第94条第1項第2号において、不動産所得を生ずべき業務の全部又は一部の休止、転換又は廃止その他の事由により当該業務の収益の補償として取得する補償金その他これに類するものは、当該所得の収入金額とする旨規定されている。
B これを本件についてみると、上記1の(4)のハのとおり、F社から解約の申出があった場合、違約金として本件敷金及び本件建設協力金の残額の返還を要しない旨、また、F社が本件賃貸借契約と同一条件以上にて代替借主を請求人らに紹介した場合には、請求人らは本件敷金及び本件建設協力金の残額の全額をF社に対し返還しなければならない旨の記載がある。
C そして、本件返還不要敷金等の金額は、本件賃貸借契約書の内容を考慮の上定められていることから、その意図するところは、本件賃貸借契約書におけるそれと何ら変わらないものである。
D したがって、本件返還不要敷金等は、賃料の減収によって生じる損失及び解約に伴う諸費用の実費弁償等として取得する補償金に類するものと認められ、不動産所得に該当することから、一時所得とはなり得えず、請求人の主張には理由がない。
(ロ)総所得金額
A 不動産所得の金額
 上記(イ)のとおり、本件返還不要敷金等は不動産所得に係る収入金額に該当し、また、請求人が申告した以外の不動産所得に係る必要経費を認めるに足りる資料の提出はなかったことから、不動産所得の金額は、請求人が本件確定申告書に記載した不動産所得の金額14,064,018円に本件返還不要敷金等の額32,500,000円を加算した金額46,564,018円となる。
B 一時所得の金額
 請求人は、本件返還不要敷金等に係る所得を一時所得の金額であるとして16,000,000円を本件確定申告書に記載しているが、上記(イ)のとおり、本件返還不要敷金等は不動産所得に該当するから、請求人の一時所得の金額は零円となる。
C その他の所得金額
 請求人の事業所得の金額は217,082円であり、雑所得の金額は2,177,406円である。これらの金額は、いずれも本件確定申告書に記載された金額と同額である。
D 結論
 上記AないしCのとおり、請求人の総所得金額は、不動産所得の金額46,564,018円、事業所得の金額217,082円及び雑所得の金額2,177,406円を合計した48,958,506円であり、本件更正処分のそれと同額である。
(ハ)臨時所得の平均課税
A 臨時所得については、所得税法第2条第1項第24号及び同法施行令第8条に規定されているところ、不動産所得に係る業務の休止又は転換等により受ける補償金については、同法施行令第8条第3項により、その補償に係る期間が3年以上の期間に対するものであれば当該所得に該当する旨規定されている。
B これを本件についてみると、その補償に係る期間は、本件返還不要敷金等の額32,500,000円を、請求人に対するF社の月額賃料928,200円(F社からの月額賃料1,856,400円(消費税を含む。)のうち請求人の持分割合2分の1に応じた金額)で除し算出したところ、およそ35か月分となり、3年に満たないことから、本件返還不要敷金等は、同法施行令第8条第3項の要件を満たしておらず、臨時所得には該当しない。
 したがって、平均課税を適用せず行った本件更正処分は、適法である。
ハ 過少申告加算税の賦課決定処分
 上記のとおり、本件更正処分は適法であり、請求人が過少申告したことについて、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由がある場合に該当するとは認められないから、同条第1項の規定に基づいて行われた過少申告加算税の賦課決定処分は適法である。

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(2)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部又は一部の取消しを求める。
イ 本件理由附記
 本件更正通知書には、更正理由として「賃貸借契約の解除による保証金の放棄は、違約金の支払と同じであり、将来に向けての不動産収入の補てん(収益の補償)と認められますので、一時所得の収入金額より減算し、不動産所得の収入金額に加算します。」との記載しかなく、なぜ、違約金の支払が将来に向かっての不動産収入の補てんになるのか、なぜ本件返還不要敷金等の全額が一時所得ではなく不動産所得に該当するのかなど、どのような理由で、いかなる条文を適用して更正処分をしたのか具体的な理由の記載がなく、更正の理由附記に不備があるから、違法な処分である。
 また、帳簿書類に記載の基本的な事実はそのまま認めた上、その事実に対する法的評価につき更正処分を行う場合であっても、原処分庁の主張するように端的に処分庁の法的評価、判断根拠を示せば足り、それに至る理由、資料までも附記しなければならないものではないとの考えを認めることはできない。
 したがって、本件更正処分は、その全部を取り消すべきである。
ロ 本件更正処分
 仮に、本件理由附記に不備がなかったとしても、次のとおり、本件更正処分は、不動産所得の収入金額の認定に誤りがある。
(イ)本件返還不要敷金等の所得区分
A 不動産の賃貸借契約の解除において、返還を要しなくなった敷金等の内容は一様ではなく、様々な要素を含むものが一体化されて表現されたものである。
 すなわち、新たに入居するテナントを紹介した上での中途解約であっても、月額賃料が減少するのであれば月額家賃の減少に伴う不動産所得の補てんを目的とした金額、契約解除による慰謝料の金額、中途解約による違約金額の支払など様々なものが含まれているのが一般的である。
 よって、本件返還不要敷金等の所得区分は一体として判断することなく、その内容によって所得区分されるべきである。
 そして、不動産所得の収入金額とされる金額は、飽くまでも当該業務の収益の補償として取得するものに限られるのであるから、賃料の減収によって生じる損失及び解約に伴う諸費用の実費弁償等として取得する補償金に類するものに限定されるものと解するべきである。
B また、解約に伴う諸費用の実費弁償に係る補償金等の取得も不動産所得の収入金額であるが、本件解約に伴う諸費用の額は発生しておらず、このことは本件確定申告書において解約等に伴う必要経費の計上がないことでも明らかである。
 さらに、請求人は、F社の希望する設計に基づき本件建物を建築し賃貸していたもので、解約に伴い新たにH社と賃貸借契約を交わしたが、本件建物等に何ら手を加えることなく現状のまま新たに賃貸したものであり、何ら費用負担は発生していない。
C したがって、F社が請求人の不動産収入の減収分として補てんすべき1か月当たりの金額は、F社の賃料(月額1,856,400円(消費税を含む。))と新たな賃借人H社の賃料(月額1,541,400円(消費税を含む。))との差額315,000円に請求人の持分割合2分の1を乗じた金額157,500円(以下「本件賃料差額」という。)であり、また、不動産収入の減収分として補てんすべき期間は、F社が本件賃貸借契約を合意解除した日の翌日の平成14年9月1日から賃貸借期間が終了する平成23年11月1日までの110か月間であるから、これらを乗じた金額(157,500円×110)17,325,000円(以下「本件収益減収額」という。)が不動産所得に係る収入金額である。
D そして、本件返還不要敷金等の金額32,500,000円と本件収益減収額17,325,000円との差額15,175,000円は、無利息の借入金の性格を有する本件建設協力金等の免除益であり、営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の一時の所得で、労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性格を有しないものであるから、一時所得に該当する。
 したがって、これと異なる本件更正処分は違法であるので、その一部を取り消すべきである。
(ロ)臨時所得の平均課税
A 仮に、本件返還不要敷金等の金額が不動産所得の収入金額であれば、本件返還不要敷金等の金額は、本件賃料差額の3年分を超えており、また、上記(イ)のCのとおり、不動産所得の収入金額を17,325,000円とした場合においても同様に3年分を超えているから、いずれの場合も所得税法第2条第1項第24号に規定する臨時所得に該当する。
B なお、原処分庁は、補償に係る期間の基礎となる月額賃料として、F社が支払っていた月額賃料928,200円(F社の月額賃料1,856,400円(消費税を含む。)のうち請求人の持分割合2分の1に応じた金額)を採用しているが、本件の場合は不動産所得の収入金額の補てんと認められる金額が、臨時所得に該当するか否かを判断すべきであり、補てんすべき賃料の月額は、上記(イ)のCのとおり、157,500円であるから、その補てんすべき賃料の月額の3年分以上となるか否かで判断すべきである。
C そして、いずれの場合も臨時所得の金額が総所得金額の20パーセントを超えているが、請求人は、本件確定申告書において本件返還不要敷金等を一時所得として申告したものであり、臨時所得あるいは変動所得に該当する金額がなかったため平均課税に関する記載をしなかったものであって、やむを得ない事情があったのであるから、所得税法第90条第1項に規定される平均課税が適用されるべきである。
したがって、平均課税を適用せずになされた本件更正処分は違法であるので、その一部を取り消すべきである。
ハ 過少申告加算税の賦課決定処分
 上記のとおり、本件更正処分は違法であり、その全部又は一部を取り消すべきであるから、これに基づく過少申告加算税の賦課決定処分もその全部又は一部を取り消すべきである。

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3 判断

(1)本件理由附記

イ 上記1の(3)のイのとおり、所得税法第155条第2項が、税務署長が青色申告書に係る年分の総所得金額等の更正をする場合には、更正通知書に更正の理由を附記すべきものとしているのは、法が青色申告制度を採用し、青色申告に係る所得の計算については、それが法定の帳簿組織による正当な記載に基づくものである以上、その帳簿の記載を無視して更正されることがないことを納税者に保障した趣旨にかんがみ、原処分庁の判断の慎重、合理性を担保してそのし意を抑制するとともに、更正の理由を相手方に知らせて不服申立ての便宜を与える趣旨によるものであるから、帳簿書類の記載自体を否認して更正をする場合において更正通知書に附記すべき理由としては、単に更正に係る勘定科目とその金額を示すだけではなく、そのような更正をした根拠を帳簿の記載以上に信ぴょう力のある資料を摘示することによって具体的に明示することを要するが、帳簿書類の記載自体を否認することなしに更正をする場合においては、納税者による帳簿の記載を覆すものではないから、更正通知書に記載された更正の理由が、更正の根拠を上記の原処分庁のし意抑制及び不服申立ての便宜という理由附記制度の趣旨、目的を充足する程度に具体的に明示するものである限り、法の要求する更正理由の附記として欠けることはないと解されている。
ロ これを本件についてみると、本件理由附記には、上記1の(4)のヲのとおり、〔1〕請求人が、平成14年8月28日にF社と交わした本件解約合意書によって返還不要となった本件返還不要敷金等を、本件確定申告書に一時所得の収入金額として申告したこと、〔2〕本件返還不要敷金等の放棄は、違約金の支払と同じであり、将来に向けての不動産収入の補てん(収益の補償)と認められること、及び、〔3〕本件返還不要敷金等を一時所得の収入金額より減算し、不動産所得の収入金額に加算することが記載されているところ、本件更正処分は、本件返還不要敷金等についての帳簿の記載を覆すことなくそのまま肯定した上で請求人の本件確定申告書における本件返還不要敷金等の所得区分の法的評価を修正するものにすぎず、本件理由附記によってどのような理由により当該課税処分が行われたのか、その根拠、判断過程は上記理由附記制度の趣旨、目的を充足する程度に具体的に明らかにされていると認められる。
 したがって、本件理由附記に法が要求する理由附記として欠けるところはないので、この点に関する請求人の主張には理由がない。

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(2)本件更正処分

イ本件返還不要敷金等の所得区分
(イ)認定事実等
A 原処分関係資料、請求人提出資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(A)請求人らは、平成3年7月24日、J株式会社(以下「J社」という。)との間で、本件建物に係る工事請負契約を締結した。
 なお、当該工事請負契約書によると、工事価格(消費税別)は、120,000,000円であり、工期は、平成3年7月25日から同年10月31日である。
(B)F社は、請求人らに対し、本件建設協力金を、平成3年5月31日、同年7月24日及び同年10月31日の3回に分割して支払った。
 そして、請求人らは、J社に対して、工事代金を、平成3年5月31日、同年7月25日及び同年10月31日の3回に分割して支払った。
(C)本件建物は、1階が店舗、2階が倉庫、事務室等、また、屋上には広告塔を設置する場所が設けられ、F社が、洋服及びこれに付随する商品の販売店舗として使用していた。
(D)H社は、CD等の販売及びビデオソフトレンタルの営業をする目的で、本件建物を賃借した。
B 請求人の妻Eは、当審判所に対して、要旨次のとおり答述した。
(A)本件建物は、F社の希望を取り入れたものであるが、特殊な設計や設備はなく、ただの箱だった。
(B)本件敷金については、本件賃貸借契約どおりだと、本来、全額もらっていいと思うが、一応H社を世話していることもあるので、間に入ったJ社が、本件解約合意書の条件を考えたのだと思う。
C J社○○支店の従業員であるKは、当審判所に対して、要旨次のとおり答述した。
(A)本件建設協力金は、その全額が本件建物の建築資金に使われて、他に流用されたようなことはない。
(B)本件解約合意書の条件は、F社が作って持ってきた。
(C)本件解約合意書の条件は、本件賃貸借契約第18条第4項の内容をベースにして作られた。
(ロ)これを本件についてみると、
A 本件賃貸借契約は、請求人らが所有する既存の建物を賃貸するという契約ではなく、特殊な設備はなかったにせよ、F社が希望する設計に基づき、請求人らにより新たに建設された本件建物を賃貸物件としていたが、その建設資金は、その全額がF社から請求人らに預託された本件建設協力金が充てられたものであるなど本件建設協力金及び契約終了時に賃料の未払い等の債務がある場合にこれらの債務の弁済に充当される本件敷金は、本件賃貸借契約と密接な関連性を有することが認められる。
B また、本件建設協力金は、本件建物の引渡し月から毎月500,000円、240回の均等払いにより、請求人らからF社に返還することとされていたが、F社が本件賃貸借契約を解約した場合には、本件敷金及び本件建設協力金の残額の全額が、違約金として請求人らに没収されることとされていたのであるから、本件賃貸借契約の解約により、請求人らは、本件敷金と解約時の本件建設協力金の残額55,000,000円の合計85,000,000円を没収できるところであったところ、一方で、F社が本件賃貸借契約と同一条件以上の代替借主を紹介し、賃貸借契約が継続した場合には、当該金額が直ちにF社に返還されることとなっていたことから、F社が本件賃貸借契約と同一条件以上とはいえないまでも、H社という代替借主を請求人らに紹介し、賃貸借契約が継続されることとなった点を考慮して、本件敷金の没収額を全額とせず、20,000,000円減額した本件解約合意書が締結されたものと認められる。
C このように、本件賃貸借契約の解約に際し、違約金が20,000,000円減額され65,000,000円とされたことについては、請求人らの今後の賃貸料の減収額などの具体的な計算に基づくものではないが、その趣旨は、H社という代替借主の存在により、一定の賃料収入が引き続き確保できることなど、請求人らの収益に与える影響が考慮された結果であることが認められる。
D そうすると、上記Bのとおり、本件賃貸借契約の解約により、請求人らは、本来違約金として85,000,000円没収できるところを、代替借主を考慮して違約金の額を減額したにすぎないのであり、そのすべてを本件賃貸借契約の解約によって生ずる損失等に対する補償として取得したのであるから、上記1の(3)のハのとおり、本件返還不要敷金等は、所得税法施行令第94条第1項第2号に規定する「不動産所得を生ずべき業務を行う居住者が、当該業務に係る収益の補償として取得する補償金その他これに類するもの」に当たり、不動産所得に係る収入金額であると解される。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ロ 総所得金額
 原処分庁は、本件更正処分に係る調査の結果に基づき、請求人の平成14年分の総所得金額は、別表の「更正処分等」欄のとおりであると認定しているところ、当審判所の調査によっても原処分庁の認定額は相当であると認められる。
ハ 臨時所得の平均課税
(イ)本件返還不要敷金等は、上記イの(ロ)のDのとおり、不動産所得に係る収入金額となるものであるが、平均課税の適用を受けるためには、上記1の(3)のヘのとおり、〔1〕本件返還不要敷金等が臨時所得に該当すること、〔2〕本件返還不要敷金等に係る不動産所得の金額が総所得金額の100分の20以上であること、〔3〕本件確定申告書に同項の規定の適用を受ける旨及び同項各号に掲げる金額の合計額の計算に関する明細があること、〔4〕この記載がない確定申告書が提出された場合には、その記載がなかったことについて、やむを得ない事情があることが必要である。
(ロ)これに対して、請求人は、本件返還不要敷金等は上記(イ)の〔1〕及び〔2〕に該当し、また、本件確定申告書には、上記1の(4)のルのとおり、所得税法第90条第1項の規定の適用を受ける旨及び同項各号に掲げる金額の合計額の計算に関する明細はないが、この点について、本件確定申告書においては、本件返還不要敷金等を一時所得として申告したものであり、臨時所得あるいは変動所得に該当する金額がなかったため、平均課税に関する記載をしなかったものであるから、やむを得ない事情があったとして、平均課税の規定が適用されるべきであると主張する。
 しかしながら、本件返還不要敷金等が上記(イ)の〔1〕及び〔2〕に該当するか否かはともかくとして、所得税法第90条第5項に規定するやむを得ない事情とは、例えば、災害により申告書を提出できない場合等、客観的に見て納税者の責めに帰すことができない事情と解されるところ、本件確定申告書に臨時所得あるいは変動所得に該当する金額がなかったのは、請求人が税法の解釈を誤って、本件返還不要敷金等を一時所得として申告したためであり、これは客観的に見て納税者の責めに帰すことのできない事情とはいえないから、やむを得ない事情があったと解することはできない。
 そうすると、本件返還不要敷金等に平均課税は適用できないから、この点に関する請求人の主張には理由がない。
 したがって、上記の各点から本件更正処分は適法である。

(3)過少申告加算税の賦課決定処分

 上記(1)及び(2)のとおり、本件更正処分は適法であり、また、請求人には本件更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が本件更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、原処分庁が同条第1項の規定に基づいて行った過少申告加算税の賦課決定処分は適法である。

(4)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所の調査によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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