ホーム >> 公表裁決事例集等の紹介 >> 公表裁決事例 >> 裁決事例集 No.67 >> (平16.3.30裁決、裁決事例集No.67 165頁)

(平16.3.30裁決、裁決事例集No.67 165頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、会社員であって不動産所得を有する審査請求人(以下「請求人」という。)が、組合員となっている民法上の任意組合からの船舶の賃貸事業に係る損益であるとする金額が、所得税法第26条《不動産所得》第1項に規定する不動産所得の金額の計算上、総収入金額又は必要経費に当たるか否かを争点とする事案である。

トップに戻る

(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成10年分、平成11年分及び平成12年分(以下、これらを併せて「本件各年分」という。)の所得税について、船舶の貸付けに係る損益が不動産所得に当たるとして、本件各年分の不動産所得の金額を計算し、確定申告書に別表1の「確定申告」欄のとおり記載して、いずれも法定申告期限までに申告した。
ロ 原処分庁は、これに対し、原処分に係る調査を担当した職員(以下「本件調査担当職員」という。)の調査に基づき、平成14年3月13日付で、本件各年分の所得税について、上記船舶の貸付けに係る損益は不動産所得に該当しないなどとして、別表1の「更正処分」欄のとおりの更正処分(以下「本件各更正処分」という。)及び別表1の「賦課決定処分」欄のとおりの過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」という。)をした。
ハ 請求人は、本件各更正処分及び本件各賦課決定処分を不服として、平成14年5月1日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成14年8月1日付で棄却の異議決定をした。
ニ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成14年8月29日に審査請求をした。

(3)関係法令等

イ 所得税法第26条第1項は、不動産所得とは、不動産、不動産の上に存する権利、船舶又は航空機(以下この項において「不動産等」という。)の貸付け(地上権又は永小作権の設定その他他人に不動産等を使用させることを含む。)による所得(事業所得又は譲渡所得に該当するものを除く。)をいう旨、及び同条第2項は、不動産所得の金額は、その年中の不動産所得に係る総収入金額から必要経費を控除した金額とする旨それぞれ規定している。
ロ 所得税基本通達26−3《用船契約に係る所得》は、いわゆる裸用船契約に係る所得は、所得税法第26条第1項に規定する船舶の貸付けによる所得に該当し、船員とともに利用させるいわゆる定期用船契約又は航海用船契約に係る所得は、事業所得又は雑所得に該当する旨定めている。
ハ 所得税基本通達36・37共−19《任意組合の事業に係る利益等の帰属の時期等》は、任意組合(民法第667条《組合契約》の規定による組合をいう。以下36・37共−20において同じ。)の組合員の当該組合の事業に係る利益の額又は損失の額は、当該組合の計算期間を基として計算し、当該計算期間の終了する日の属する年分の各種所得の金額の計算上総収入金額又は必要経費に算入する旨定めている。
ニ 所得税基本通達36・37共−20《任意組合の事業に係る利益等の額の計算》は、同通達36・37共−19により任意組合の組合員の各種所得の金額の計算上総収入金額又は必要経費に算入する利益の額又は損失の額は、原則として、当該組合の収入金額、支出金額、資産、負債等を、組合契約又は民法第674条《組合員の損益分配の割合》の規定による損益分配の割合(以下この項において「分配割合」という。)に応じて各組合員のこれらの金額として計算する方法により計算するものとし、例外として、その者が継続して当該組合の収入金額、その収入金額に係る原価の額及び費用の額並びに損失の額をその分配割合に応じて各組合員のこれらの金額として計算する方法又は当該組合について計算される利益の額又は損失の額をその分配割合に応じて各組合員にあん分する方法により計算している場合には、その計算を認めるものとする旨定めている。

トップに戻る

(4)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、土地及び船舶の貸付けに係る損益を不動産所得として本件各年分の確定申告をしている。
ロ 請求人が本件各年分の確定申告において、船舶の貸付けに係る賃貸料収入及び必要経費であるとしている金額は、次のとおりであり、この結果、いずれの年分も損失となっている。
(イ)平成10年分
 平成10年分は、賃貸料収入額が4,063,784円、必要経費が6,249,914円であり、損失の金額は2,186,130円である。
(ロ)平成11年分
 平成11年分は、賃貸料収入額が4,063,784円、必要経費が5,398,727円であり、損失の金額は1,334,943円である。
(ハ)平成12年分
 平成12年分は、賃貸料収入額が4,063,784円、必要経費が4,647,859円であり、損失の金額は584,075円である。
ハ 本件に関わる経緯及び概要は、要旨次のとおりである。
(イ)請求人は、請求人の夫であるFから、G株式会社(以下「G社」という。)が企画した商品名を「H」と称する、船舶名を「○○○○」とする船舶(以下「本件船舶」という。)に係る投資商品(以下「本件商品」という。)について説明を受け、自己資金及び借入金をもって本件船舶の共有持分権を購入し、共同で船舶の用船(賃貸)事業を行うとするシステム(以下「投資システム」という。)に参画した。
 G社の担当者が、Fに本件商品を説明するに当たって提示した「○○・リファレンス・ブック」(以下、「リファレンスブック」といい、その記載内容は、要旨別紙1のとおりである。)及び「○○○○のご案内」(以下、「ご案内」といい、その記載内容は、要旨別紙2のとおりである。)の記載によれば、本件商品の概要は、以下のようなものである。
A 各購入者は、購入単位50,000,000円に小口化された本件船舶の共有持分権をG社の100%子会社であるK株式会社(以下「K社」という。)から購入し、本件船舶に関して設立された組合にその購入した本件船舶の共有持分権を現物出資して、組合に参加し、共同で船舶の裸用船事業を行う。
 設立される組合の名称は、L組合(以下「本件組合」という。)であり、理事長にはK社が選出される。
B 本件組合は、英国領ケイマン諸島(以下「ケイマン諸島」という。)に設立されるG社の子会社をゼネラルパートナーとするパートナーシップ(組合)に、リミテッドパートナーとして本件船舶を現物出資するものとし、前記パートナーシップは、裸用船の形態で本件船舶を賃貸する事業及び本件船舶の賃貸事業終了後、本件船舶を売却する事業を行う(以下、本件船舶を裸用船の形態で賃貸する事業を「本件船舶賃貸事業」といい、本件船舶賃貸事業と本件船舶を売却する事業を併せて、「本件事業」という。)。
C 本件事業のメリットとして、〔1〕不動産投資にはない大きな節税効果があること、〔2〕用船期間中に新たな資金負担が発生しないこと及び〔3〕用船先はM株式会社(以下「M社」という。)なので賃貸料の回収リスクの懸念がなく安心できること等が挙げられている。
(ロ)本件事業に関し、別表2の各種契約書等にそって、要旨次のような行為がなされている。
A G社は、K社との間で、本件船舶に係る「販売委託契約書」に基づき、販売委託契約を締結するとともに、G社とK社が発起人となって本件組合設立契約書に基づき組合設立契約を締結し、本件組合を設立した。
 なお、本件組合の発起人の間で、本件組合規約に基づき、本件組合の組合規約が定められている。
B 本件組合は、G社が100%出資しているケイマン諸島の現地法人であるN社(以下「N社」という。)との間で、本件パートナーシップ契約書に基づき、N社をゼネラルパートナーとし、本件組合をリミテッドパートナーとするパートナーシップ契約を締結し、ケイマン諸島の「THE EXEMPTED LIMITED PARTNERSHIP LAW 1991」(以下「特例パートナーシップ法」という。)の下、P・リミテッド・パートナーシップ(以下「本件パートナーシップ」という。)を設立した。
C 本件組合に関して
(A)請求人は、G社に対し、平成7年3月22日付の表題を「購入申込書」とする書面に基づき、本件船舶の共有持分権1口、価額50,000,000円の購入申込みを行い、併せて同日付の表題を「セットローン申込書」とする書面に基づき、G社に35,000,000円の借入申込みをした。
(B)請求人は、G社との間で、平成7年3月22日付で金銭消費貸借契約書等に基づき、金銭消費貸借契約及び譲渡担保契約を締結し、G社から35,000,000円を借り入れるとともに、「代理受領承諾依頼書」をG社に提出し、同契約に基づく借入金の全額を受領する権限をK社に授与し、貸付けの実行は、K社の銀行口座に送金するよう依頼した。
(C)請求人は、K社との間で、平成7年3月22日付の船舶共有持分権売買契約書に基づき、本件船舶の共有持分権1口、価額50,000,000円を上記(B)のG社からの借入金35,000,000円のほか、Q銀行q支店からの借入金15,000,000円を原資として取得した。
(D)請求人は、本件組合の発起人との間で、本件組合設立契約書及び本件組合規約の写しが添付された平成7年3月22日付の本件組合参加契約書に基づき組合参加契約を締結し(以下、この組合の組合員を、便宜上、「本件組合員」という。)、上記(C)の船舶共有持分権を本件組合に現物出資した。
(E)請求人は、金銭消費貸借契約書等に基づき、本件組合員として有する一切の権利(別紙5の9のとおり。以下「本件担保」という。)を担保として貸付実行日付でG社に譲渡するとともに、平成7年3月22日付の表題を「通知および承諾書」とする書面を本件組合に提出し、本件担保に関する一切の支払をG社の銀行口座に送金するよう依頼した。
 なお、1995年4月1日付の表題を「創立総会及び理事会の件」とする書面には、同年3月31日に創立総会が開催され、理事にK社、G社及び他1名を選任し、更に理事会においてK社が理事長に就任した旨記載されている。
D 本件組合は、本件船舶を本件パートナーシップに現物出資し、本件パートナーシップは、M社のパナマ共和国現地法人であるR社(以下「本件用船者」という。)との間で、本件裸用船契約書に基づき裸用船契約を締結した。
ニ 本件組合からの分配金は、次表のとおり、請求人名義の預金口座に入金されている。

入金年月日金額合計
平成12年 6月30日87,500円262,500円
平成12年 9月29日87,500円 
平成12年12月29日87,500円 

ホ 上記ハの(ロ)のCの(C)のQ銀行q支店からの借入れに係る各年分の支払利息の額は、次表のとおりである。

年分支払利息の額
平成10年147,538円
平成11年86,976円
平成12年37,608円

トップに戻る

2 主張

(1)原処分庁

原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 本件各更正処分について
 請求人が不動産所得として申告した本件組合の本件船舶賃貸事業に係る損益は、以下の理由から請求人の不動産所得に当たらない。
(イ)本件事業に係る契約書等によれば、以下の事実が認められる。
A 業務執行権
 以下の事実から、本件組合員は、本件事業に係る業務執行権を有さず、経営に参画していないことが認められる。
(A)本件組合においては、組合員総会の決議事項とされている事項を除き、理事会が組合運営に必要なすべての事項を決定する権限を有することとされ、本件組合の理事会を構成する理事3名の内の2名は、本件組合の創立総会によって、K社とG社が選任され、更に、本件組合の理事会で選任された理事長は、自ら業務執行者となり本件組合の業務を行うこととされ、当該理事長にはK社が選任されていること。
 また、理事長及び理事の任期は、本件組合の存続期間中とされ、正当な理由がなければ解任されないこととされていること。
(B)本件組合員が自らの意思を反映させようとした場合、総出資口数の10分の1以上を有する組合員が業務執行者に請求して組合員総会を開催する必要があるが、G社及びK社を除く本件組合員には本件組合の組合員名簿(以下「本件組合員名簿」という。)が配付されていないため、本件組合員において意思の疎通を図ることは困難であり、組合員総会の開催は実質的に不可能であること。
(C)経済情勢の変化等で本件組合の目的の達成又は業務の遂行が不可能又は著しく困難となり、本件船舶の処分を相当と業務執行者が判断したときは、理事会の同意及び組合員総会の承認をもって、本件船舶の処分ができるとされているが、業務執行者の判断が前提とされており、本件組合員には、本件船舶の処分の必要性の有無を判断する権限が与えられていないこと。
B 本件船舶の帰属
以下の事実から、本件組合員は、本件船舶を実質的に保有していないものと認められる。
(A)本件組合員は、本件組合に係る組合員としての地位、出資持分並びに本件組合規約に基づき現在及び将来において有する権利及び義務について、その一部又は全部にかかわらず、業務執行者の同意がない限り、第三者に対し譲渡、移転、担保提供その他の処分をすることができないこと。
(B)本件組合員は、金銭消費貸借契約書等の定めによって、組合員としての地位並びに組合員として現在及び将来において有する一切の権利をG社に譲渡していること。
(C)本件パートナーシップの財産は、本件パートナーシップの準拠法である特例パートナーシップ法上、本件パートナーシップの資産として信託され、ゼネラルパートナーが保有するものとみなされるため、本件組合はゼネラルパートナーに対し本件船舶の所有権を主張できないこと。
C 本件組合員の責任
 以下の事実から、本件組合員は本件事業のリスクについて、出資した船舶の持分を限度とした責任だけを負うことが認められる。
(A)本件組合設立契約書及び本件組合規約によれば、本件組合が負担する債務について、本件組合員は出資持分割合に応じてその責任を負担すること。
(B)本件船舶の用船料収入についてはドル建てとなっているが、本件パートナーシップとS銀行との間で締結している通貨スワップ契約により、為替リスクが発生しないこと。
(C)本件パートナーシップにおいては、N社が無限責任組合員となり、本件組合は有限責任組合員となっていることから、本件組合員も有限責任組合員となること。
(D)本件船舶には本件用船者の負担により船舶保険がかけられ、船舶事故等が発生した場合の保険金の受取人は、本件パートナーシップとなっていること。
D 本件事業に投資した意図等
 以下の事実から、請求人はG社が行う本件事業に投資を行って節税効果を重要な要素とする利殖を図る意思のみを有し、本件事業を行う意思がなかったことが認められる。
(A)請求人は、〔1〕船舶賃貸事業に関する知識は持っていない、〔2〕本件組合員同士の面識はない、〔3〕G社の担当者から本件事業に関する説明は受けていない、〔4〕本件事業は、請求人の夫であるFが決めたことであり、詳しい内容は知らない旨申し述べていること。
 また、通常、請求人のように50,000,000円を投資して不動産所得が生ずる事業を開始する者は、事業内容の確認等をすることなく、投資することは考えられないこと。
(B)ご案内には、メリットの一番目に、しかも紙面の半分以上を割いて、毎年の所得を大きく圧縮し税負担を軽減できることが強調して記載されていること。
(C)本件組合参加契約書による組合参加契約を締結する以前に、T社から面白い節税商品の紹介として、最初の5、6年間は収入のある自分が節税に利用し、節税メリットがなくなり収益が生まれそうになった頃に、収入のない(又は少ない)子供に贈与できる商品がある旨記載されているファックスがFあてに届いていること。
(D)本件組合への参加は、G社及びK社が発起人となって設立した本件事業のすべてが既に決定されている本件組合に出資者が参加するのみの形式であること。
E 本件事業に係る契約の特異性
 本件事業に係る契約内容等には、以下のとおり、通常の経済取引では行われない特異な点が認められる。
(A)本件パートナーシップの設立の際に、ゼネラルパートナーであるN社が100円の金銭出資を行っていること。
 また、本件パートナーシップ契約書に基づく契約が平成7年2月14日付で締結されているにもかかわらず、本件組合及びN社は、上記100円の出資を平成9年9月30日に行っていること。
(B)G社の担当者は、ケイマン諸島の現地法人を貸主にすると、個人投資家から資金を集めた場合に匿名組合となり任意組合とならないため、当スキ−ムが成り立たなくなる旨申し述べ、更に、本件組合が任意組合でなければならないのは、任意組合でなければ投資家の所得区分が不動産所得にならないからである旨申し述べていること。
(C)G社は、一隻の船舶の賃貸のために、現地法人1社のほかにあえて2つの組合を設立していること。
(D)K社は、所得税法に規定する損益通算による所得税の軽減というメリットがなかったとしたら、投資家を募れなかったであろうことが容易に窺えること。
(E)G社は、不動産賃貸事業を行う事業者にとって契約に当たっての二大要素というべき「賃貸料」及び「賃借人」の決定を請求人が投資する前に行っていること。
(ロ)本件船舶賃貸事業における所得区分の判定等
 課税は、私法上の行為によって現実に発生している経済効果に即して行われるものであるから、第一義的には私法の適用を受ける経済取引の存在を前提として行われるが、課税の前提となる私法上の当事者の意思を、当事者の合意の単なる表面的・形式的な意味によってではなく、経済実態を考慮した実質的な合意内容に従って認定し、その真に意図している私法上の事実関係を前提として法律構成をして課税要件への当てはめを行うべきである。
 これを本件に当てはめると、上記(イ)で述べたとおり、〔1〕請求人は本件事業の経営に参画しておらず、更に、本件事業のリスクについては出資持分を限度としていること、〔2〕請求人も自認しているとおり、船舶賃貸事業についての知識のないままメリットがあるとの思惑から投資したに過ぎないことが認められ、かつ、G社も本件事業の全容を説明しておらず、請求人においてもあえて知ろうとしないことが認められることからしても、請求人は船舶を所有することよりむしろ投資することにより多額の税の軽減を受けることをもくろんで出資したことが窺えること、〔3〕G社が作成したご案内からも明らかなように、本件商品による最大のメリットは、船舶の貸付けによる賃貸料収入ではなく、他の所得との損益通算によって生ずる税の軽減であること、〔4〕契約内容に特異な点が認められるが、これはG社の担当者も述べているとおり、不動産所得とするためには現地法人1社のほかにあえて2つの組合を設立し、匿名組合ではなく任意組合とする必要があり、その形式を整えなければならなかったことから、請求人の真の意図は、本件事業を行うことではなく、G社が行う本件事業に対して投資することであったと認められる。
 また、本件事業に係る一連の取引については、もし、所得税法に規定する損益通算による所得税の軽減というメリットがなかったとしたら、到底投資していなかったであろうことが容易に窺うことができ、請求人の所得税の軽減という目的以外に投資する経済的・合理的な理由は何らない。
 ところで、所得税法第26条第1項によれば、船舶の貸付けによる所得は不動産所得であると規定されている。
 しかし、請求人が行った投資は、船舶の貸付けによる賃貸料を得ることより、むしろ、他の所得との損益通算をするために損失を生じさせることを目的としたものということができ、損益通算によって得る税の軽減までも船舶の貸付けによる所得と同一視することはできない。
 およそ、投資することによって得られる最も大きな効果が、他の所得との損益通算によって得られる税の軽減であるとする本件のような金融商品においては、たとえ、その投資が最終的には船舶に行き着いたとしても、所得税法に規定する不動産所得ということはできない。
(ハ)租税法律主義
 請求人は、請求人の所得計算が所得税法及び所得税基本通達に基づいて行われており、本件各更正処分は租税法律主義に違反している旨主張するが、昭和45年7月1日付の国税庁長官通達「所得税基本通達の制定について」において「この通達の具体的な適用に当たっては、法令の規定の趣旨、制度の背景のみならず条理、社会通念をも勘案しつつ、個々の具体的事案に妥当する処理を図るよう努められたい。」と明確に定めており、本件各更正処分は租税法律主義に反するものではない。
(ニ)課税総所得金額
 以上のとおり、本件船舶賃貸事業に係る損益は、請求人の不動産所得の金額の計算上、総収入金額又は必要経費には当たらない。また、請求人が、平成12年中に本件組合から受領した分配金は、G社が組成した本件事業を利用した金融商品からの分配金(配当金相当額)であり、当該分配金の額262,500円から本件組合への出資のための金融機関からの借入金に係る支払利息37,608円を減算した224,892円が、雑所得の金額となる。
 その結果、請求人の本件各年分の所得税の課税総所得金額は、別表3の「原処分庁主張額」欄のとおりとなり、本件各年分の所得税の課税総所得金額は、異議決定を経た後の本件各更正処分の課税総所得金額と同額である。
 したがって、本件各更正処分は適法である。
ロ 本件各賦課決定処分について
(イ)本件各更正処分により増加した納付すべき税額の計算の基礎となった事実には、いずれも国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する過少申告加算税を賦課しない場合の正当な理由があるとは認められない。
(ロ)上記イのとおり、本件各更正処分は適法であり、本件各年分の過少申告加算税の額は国税通則法第65条第1項の規定に従い、それぞれ別表3の「原処分庁主張額」欄のとおり正しく計算されている。

トップに戻る

(2)請求人

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 本件各更正処分について
(イ)原処分庁の認定
 下記AないしEのとおり、原処分庁の事実認定はすべて誤りであり、したがって、原処分庁の「請求人の真の意図は、本件船舶を所有し本件船舶賃貸事業を行うことではなく、G社が行う本件船舶賃貸事業に対して投資することであった。」との結論は誤りであることは明らかである。
 また、原処分庁は、「請求人の所得税の軽減という目的以外に投資する経済的・合理的な理由は何らない。」などと決めつけるが、かかる認定も誤りであることは下記Eの(D)のとおりである。
A 本件事業の業務執行権
 本件組合員は、次のとおり本件事業に係る重要な業務に直接関与できる権能を有しているのであって、上記(1)のイの(イ)のAの原処分庁の認定は、失当かつ誤りである。
(A)民法第670条《業務執行の方法》第2項は、組合規約で組合の業務を一定の組合員に委任し、組合員が業務執行権を有しない組合を認め、そのような方法による経営参画を承認している。
 したがって、本件組合が理事長という業務執行者を置き、本件組合員が理事長に業務執行を委任していることをもって、本件組合員が経営に参画していないとの認定の理由とすることは、法の明文を無視するものである。
 なお、組合員総会の決議事項とされていない場合でも、理事長は組合規約及び理事会の決議に従い業務を行うものであり、また、理事長は受託者として民法第671条《委任の規定の準用》、同法第644条《受任者の注意義務》に基づく善管注意義務を負っているので、理事長の業務執行は自由裁量ではない。
(B)本件組合は本件組合規約の第6条に基づき、本件組合員名簿を作成し(本件組合員名簿は、本件組合員の氏名、組合員証番号、口数、持分が記載された名簿及びこれと一体となって管理されている組合員の住所が記載された名簿からなる。)、本件組合員の閲覧に供しており、本件組合員は、これを閲覧して他の組合員の名前、住所等を知ることにより、組合員総会を開催することができるのであるから、組合員総会の開催は十分可能である。
(C)理事及び理事長はいずれも受託者として善管注意義務を負っているので、本件船舶の処分が客観的に必要と判断されるときは、理事長が理事会及び組合員総会に処分の是非を図らなければ、理事長は善管注意義務違反となる。
 したがって、本件船舶の処分が客観的に必要と判断されるときには、本件船舶の処分の是非について、組合員総会に必ず提案がなされるので、本件組合員は本件船舶の処分の必要性の有無について判断をする機会は担保されている。また、本件組合員は、本件組合規約の第14条により、また民法第673条《組合員の業務・財産の状況の検査権》により、組合業務・財産についての検査権を有しており、この検査権は最終的には理事の解任権で担保されている。
B 本件船舶の帰属
 上記(1)のイの(イ)のBの原処分庁の主張は、次のとおり事実誤認に基づくものであり、失当である。
(A)民法上の任意組合は、組合員が出資して、共同して事業を営むことが要素であり、いかなる者が組合員として加入するかは重要であるから、組合契約において組合の持分権の譲渡等を制限することは当然許されている。
 したがって、本件組合員が持分権の譲渡等を制限していることを根拠とする原処分庁の主張は、任意組合の特性を無視しており失当である。
(B)本件組合員は、本件組合員の地位等を出資金の一部を借りる際の担保としてG社に譲渡しているに過ぎないところ、原処分庁は、単なる譲渡として主張することは、極めて不当である。
(C)特例パートナーシップ法上、本件パートナーシップの財産は、一般的に「ゼネラルパートナーが、特例パートナーシップの財産として、委託を受けて保有し、又は保有するものとみなされる」と訳すのが妥当であり、その意図するところは、ゼネラルパートナーが特例パートナーシップのために本件船舶を管理するということである。
 本件パートナーシップ名義で登録されている本件船舶の所有権が形式的な意味でも、ゼネラルパートナーのみにあって本件組合にないなどとされることはあり得ない。
 また、所有権とは、一般に物の使用権、収益権及び処分権があれば所有権があるとしているところ、〔1〕本件パートナーシップのリミテッドパートナーは、本件パートナーシップ契約書の定めに従い、本件船舶を賃貸して使用権を行使しており、〔2〕本件船舶の賃貸料その他の収入は、管理費等の費用を控除して本件パートナーシップのリミテッドパートナーに分配されているので、本件パートナーシップのリミテッドパートナーは、収益権を行使しており、〔3〕本件船舶を売却する際には、本件パートナーシップのリミテッドパートナーの書面による同意がなくしては本件船舶の売却はできず、本件パートナーシップのリミテッドパートナーである本件組合は処分権を有していることは明らかであることから、本件パートナーシップのリミテッドパートナーである本件組合は、本件船舶に対する所有権を有することとなる。
 なお、特例パートナーシップ法によれば、本件パートナーシップは、その法主体としての本質は、「共同して事業を行う人的関係」で、日本では民法第667条以下の組合契約と酷似しており、ゼネラルパートナーは本件パートナーシップのためにその業務を執行する者であるから、本件パートナーシップは、日本での「業務執行組合員の存在する任意組合」と同視できる。したがって、税法を含む日本法を適用する場合は、任意組合に関する法令を適用すべきといえ、日本法においては、任意組合の財産は組合員の共有に属するものとされる(民法第668条)ので、このことからも、本件パートナーシップのリミテッドパートナーである本件組合が本件船舶を所有していることになる。
 更に、原処分庁が主張するように、本件パートナーシップの財産は本件パートナーシップの資産として信託され、ゼネラルパートナーが保有するものとみなされると解したとしても、所得税法第13条《信託財産に係る収入及び支出の帰属》第1項は、「信託財産に帰せられる収入及び支出については、次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める者がその信託財産を有するものとみなして、この法律を適用する(以下略)」旨規定し、同項第1号によると、受益者が特定している場合その受益者が信託財産を有するものとみなしており、この規定は外国の信託にも適用があると解釈されているので、これを本件に当てはめれば、ゼネラルパートナーが「信託」により保有する本件パートナーシップの財産は、本件パートナーシップのリミテッドパートナーである本件組合が保有していると解釈されることは明らかである。
C 本件組合員の責任
 次のとおり、本件組合員は、通常行われている船舶賃貸事業と同等の事業リスクや責任を負担していることは明らかであり、上記(1)のイの(イ)のCの原処分庁の主張は誤っている。
(A)請求人は、本件組合員として、民法上、対外的に無限責任を負っている。更に民法第675条《債権者に対する組合員の損失分担の割合》は、ある債権者が組合員間での損失分担額の定めを知らない場合は、当該債権の請求を各組合員均一に行うとされていることから、本件組合員の責任が本件船舶の持分を限度とするということはあり得ない。
(B)通貨スワップ契約自体、現在の国際取引では多用される一般的取引であり、本件パートナーシップにおいても為替リスクを極小化するため、S銀行にスワップ手数料を支払って、通貨スワップ契約を締結している。
 いかなる事業においても、事業者はそれぞれの事業リスクを極小化しながら事業を行うものであり、極小化策を取ったからといってそれが事業でなくなったり、税法上の所得区分が変更されるものでないのは自明の理である。
 なお、極論すればS銀行が破綻した場合は、通貨スワップ契約も不履行となり、為替リスクは生じるのである。
(C)確かに、本件組合は本件パートナーシップの有限責任組合員として出資しており、本件パートナーシップの債務につき、その出資の範囲内で責任を負う。しかしながら、本件組合員は、上記(A)のとおり、本件組合の債権者に対して無限責任を負っているのであり、有限責任ではない。また、本件事業からの具体的事業リスクについても、S銀行の倒産や借入金の返済のリスクを負っているのであるから、この点の原処分庁の主張も誤りである。
(D)そもそも、裸用船取引において、保険は用船者が付保するのが通常であり、上記(B)のとおり、いかなる事業においても事業主が事業の全部又は一部に保険をかけて、事業リスクを極小化するのは常態である。
(E)なお、本件組合員のほとんどは、本件事業に組合員として参加する際、K社より本件船舶の共有持分権を購入するため、G社より購入資金の借入れを行っている。これらの借入れは、金銭消費貸借契約書等を見れば明らかなように、本件組合員が元本と利息の全額返済債務と人的責任を負う一般借入れである。したがって、本件用船者の倒産等により用船料が不払いになった場合や、経済情勢の変化で本件船舶の売却価格が予想より低かった場合等では、本件事業からの収入では借入れは返済できず、本件組合員は別途返済しなければならない。
D 本件事業に投資した意図等
 上記(1)のイの(イ)のDの原処分庁の認定は、次のとおり根拠のない恣意的認定であり、誤りである。
(A)請求人の夫であるFは、G社の担当者からリファレンスブック及びご案内を受領し、これらにより本件事業の説明を受け、更に、署名捺印した契約書の内容の説明も受け、これを理解している。そして、請求人は、自ら本件船舶の共有持分権を取得し、船舶のオーナーとなって賃貸事業に参加するという本件事業の仕組み・内容についてFから説明を受けており、これを理解している。
 したがって、請求人が「事業内容を確認することなく投資」したとの原処分庁の認定は誤りである。
 なお、本件組合員相互の面識がないことは、〔1〕本件組合では、理事が理事会を構成して業務執行の意思決定を行い、理事長が業務執行を行うものとされており、本件組合員相互に面識がなくとも、本件組合の業務執行には支障がないこと、〔2〕本件組合員は、本件組合員名簿を閲覧して他の組合員の氏名等を知ることにより、組合員総会を開催し、本件組合の業務執行に関する意思決定に関与する機会も保障されていることから、請求人に本件事業を行う意思がなかったとの認定には結びつかない。
(B)請求人は、Fから本件事業の仕組み・内容を説明された際に、節税効果について説明を受けた記憶はなく、節税効果を期待して本件事業に参加したのではない。請求人は、船舶の所有及び賃貸による収入を期待して本件事業に参加している。
 また、本件組合員に配付されたリファレンスブック及びご案内は、その大半が船舶賃貸事業の要素である船舶の概要、用船契約の条件、組合等の管理・運営、組合の損益分配、船舶売却時の予測及び事業リスク等を説明するものであり、決して税負担の軽減が強調されているわけではない。
 原処分庁のご案内における税効果の引用は、そのごく一部のみを断片的に取り出し、これを恣意的に引用したもので、極めて作為的な主張である。
 また、およそいかなる事業や取引を行う場合にも、その税効果を検討するのは当然のことであり、それを一つの要素として出資決定をすることがあっても、所得区分の判定上何ら問題とされるべきものではない。税効果を考えれば船舶賃貸事業を行う意思が認められないとの原処分庁の主張は、そもそも誤りである。
(C)T社から届いた当該ファックスは、Fあてに届いたものであり、請求人は当該ファックスを見ていない。
(D)G社とK社が発起人となって本件組合を設立したのは事実であるが、本件事業のすべてが既に決定されたわけではない。
 また、任意組合が事業を開始するに当たり、主たる組合員が事業の主要条件を決定し、他の組合員は出資により共同事業に参加するという形態は古くから一般的になされており、原処分庁の主張は失当である。
 なお、本件組合が発足した後は、本件組合員は、本件組合規約に従い業務執行に参画して共同で事業を行っている。
E 本件事業に係る契約の特異性
 上記(1)のイの(イ)のEの原処分庁の主張は、通常の経済取引を踏まえない何ら根拠のないものである。
(A)本件パートナーシップにおいてゼネラルパートナーとなる会社は、本件パートナーシップの業務の執行を行うため出資するものであるから、出資額の多寡は本質的な問題ではない。
(B)G社の担当者は、上記(1)のイの(イ)のEの(B)の説明は全くしていない。
 ケイマン諸島の現地法人を貸主とする場合でも、事業参加者が任意組合を組織し、任意組合を通じて現地法人に出資する形態はあり得るのであって、原処分庁が主張するような説明をすることはあり得ない。
(C)G社が一隻の船舶の賃貸のために現地法人一社のほかに2つの組合を設立したのは、複数の個人が組合を設立して一隻の船舶を所有し、パナマ共和国船籍として登録して本件船舶賃貸事業を行うために必要な手続であったからであり、何ら特異な点は存在しない。
(D)本件事業の利点は、〔1〕保有資産の多様化、〔2〕船舶の所有・賃貸によって不動産投資に比べ高い利回りでの収入、〔3〕用船先が信用力の高い法人の子会社であり、倒産リスクが少なく、不動産投資と異なり用船料収入で投下資本の大部分を回収できる、〔4〕船舶売却時にもキャピタルロスが発生しづらいよう配慮し、高値で売れる場合にはキャピタル・ゲインも望めることであり、請求人はこれらに期待して、本件事業に参加したのであって、所得税法に規定する損益通算による所得税の軽減は付加的要素である。所得税の軽減というメリットがなかったとしたら投資家が募れなかったであろうことが容易に窺えるという原処分庁の主張は何ら根拠のない憶測にすぎない。
(E)「賃貸料」や「賃借人」の決まっている船舶を購入して賃貸事業をすることは何ら特異なことではない。
(ロ)本件船舶賃貸事業及び所得区分の判定等
 次のとおり、本件事業に係る各取引は、本件パートナーシップを通して本件組合が行い、本件事業から生じる損益もすべて本件組合に帰属しており、本件事業が本件組合員の共同事業として行われていることは明らかである。
 そして、本件船舶賃貸事業に係る用船料は、所得税法上、所得税基本通達26−3に規定するいわゆる「裸用船契約に係る所得」として所得税法第26条第1項に規定する「船舶の貸付けによる所得」に区分され、また、本件事業は、請求人を組合員とする民法第667条の任意組合である本件組合の事業として行っているので、所得税基本通達36・37共−19及び36・37共−20(一)に基づき、本件船舶賃貸事業から生ずる収入及び支出を本件組合への出資持分比率に応じてあん分計算して得られた額及び本件船舶購入に要した借入金の支払利息等の額が、請求人の不動産所得の計算上算入されることとなる。
 したがって、本件組合の本件船舶賃貸事業を通じて得られる所得は、請求人の不動産所得に該当する。
A 本件における任意組合の成立
 本件組合を組成する本件組合設立契約書及び本件組合規約によれば、本件組合において2人以上の組合員が共同して本件船舶の共有持分権を現物出資し、本件船舶を賃貸・売却する事業を営むことに合意している。したがって、本件組合が民法第667条の規定により有効に成立していることは明らかである。
B 本件事業が本件組合の事業であること。
 本件組合が、組合の事業として本件事業を行っていることは、主として以下の点から明らかである。
(A)本件船舶は、本件組合設立契約書の定めのとおり、本件組合員より、その全共有持分権が本件組合に対して現物出資されたこと。
(B)本件組合は本件船舶を本件パートナーシップに現物出資して事業を遂行していること。
 なお、本件パートナーシップを介在させたのは、船舶の登録が容易で規制の少ないパナマ共和国において船舶登録を受けるためであり、本件パートナーシップを媒体として利用することとしたに過ぎず、本件組合が自ら事業を遂行していることに変わりはない。
(C)本件事業から生ずる用船料収入その他の収入はすべて本件組合に帰属しており、また、本件事業に要する管理手数料その他の支出は、すべて本件組合に帰属していること。
C 本件事業は組合員の共同事業であること。
 民法上の任意組合において事業の共同性が認められるためには、組合員全員が組合の事業の遂行に関与する権利を持つことが必要であるところ、かかる関与の程度については、民法上、すべての組合員が自ら業務執行権や代表権を有する必要はなく、業務執行に対する監督権、具体的には民法第673条の検査権を有すれば足りるとされている。この点、本件組合では、本件組合規約の第14条により明文で本件組合員に検査権が認められている。
 次に本件組合規約の第13条第2項によれば、本件組合員は総出資口数の10分の1以上で組合員総会を開催することができる旨定められており、本件組合員の発意により組合員総会を開催し、組合の業務及び財産に関する決議を行うことができる。
 更に、本件組合規約の第9条第1項、第12条第3項及び第4項で理事に対する選任・解任権を定めており、本件組合員は業務執行権を有する理事の選任権・解任権を有している。
 その上、本件組合員には、上記のような業務執行に対する監督権(検査権、組合員総会開催及び理事の選任・解任権)のみならず、本件組合規約の第21条に定める組合決算についての承認権限、本件組合規約の第32条第2項による本件船舶の売却など重要な業務執行について直接関与する権限、本件組合規約の第33条に基づく組合の解散決議の権限等が認められている。
 以上のとおりであるから、本件事業が、法律上、本件組合員の共同事業であると認められることは明白である。
(ハ)租税法律主義
 法の明文の規定がない場合にも私法上有効に成立した法律関係を課税上無視することを内容とする、いわゆる狭義の租税回避行為の否認は、現行法上、認められないことは明らかであり、原処分庁が主張する(1)のイの(ハ)の「所得税基本通達の制定について」の記載によっても決して正当化されるものではない。したがって、原処分庁が原処分の適法性を主張するためには、請求人らのなした法律行為が私法上仮装行為であり、真実の法律関係はこれと異なるものであるとの主張が前提となるはずである。
 しかるに、原処分庁は上記(イ)のとおり、原処分の前提となるべき事実関係について一切明らかになし得ておらず、請求人らのなした法律行為が私法上仮装行為であり、真実の法律関係がこれと異なるものであることを何ら主張・立証なし得ていない。
 以上のとおり、請求人の不動産所得の金額は、所得税法及び所得税基本通達の具体的な明文規定に基づいて計算されたものであるにもかかわらず、原処分は、本件組合からの本件船舶賃貸事業に係る損益を、何ら合理的な理由なく不動産所得の計算から除外しており、所得税法及び所得税基本通達の明文規定に違反するだけでなく、憲法上の保障である租税法律主義にも違反するものであり、本件各更正処分は取り消されるべきである。
ロ 本件各賦課決定処分について
 以上のとおり、本件各更正処分は違法であり、その全部を取り消すべきであるから、これに伴い本件各賦課決定処分もその全部を取り消すべきである。

トップに戻る

3 判断

 本件は、請求人が本件組合からの本件船舶賃貸事業に係る損益であるとする金額が、請求人の不動産所得の金額の計算上、総収入金額又は必要経費に当たるか否かを争点とする事案であるので、以下において、当審判所の判断を加える。

(1)本件各更正処分について

 請求人は、Fから本件商品の説明を受け、K社から本件船舶の共有持分権を購入した上、本件組合に参加して本件船舶賃貸事業を行っており、本件船舶賃貸事業に係る損益は、請求人の不動産所得の金額の計算上、総収入金額又は必要経費に算入すべきであると主張する。これに対し、原処分庁は、本件事業に係る一連の契約の実態を総体として見た様々な事実を主張して、上記請求人の主張を争っている。
 そこで、検討してみると、上記1の(4)の基礎事実によれば、確かに本件においては、請求人の主張に沿うように、請求人が本件船舶の共有持分権を買い受け、本件組合に参加し、本件組合において、本件パートナーシップと本件用船者との間で裸用船契約を締結したことを示す各文書が作成されており、本件船舶賃貸事業というべきものの私法行為の法形式が整えられていることは、否めない。
 ところで、所得税は、個人の所得を課税物件とする租税であり、所得とは、金銭的価値で表現された財貨又は人的役務の獲得、利用という経済的利得を意味する。所得という概念は、このようないわゆる租税法の固有概念であって、ある利得が生じているかどうかは、私法行為などその利得の発生原因をなす行為の法的評価をしばらく離れて、経済的成果が発生していると言えるか否かという観点から判断すべきである。換言すれば、原因行為とされる私法行為の法形式が私法上有効であるかどうかなどの問題とは、一応は切り離されているということができる。
 もっとも、原因行為の私法行為の法形式が整っている限り、一般にその法形式には実質的な経済的成果が伴っていることが通常であろうから、特段の事情の認められない限り、その法形式に伴う経済的成果が発生していると推定され、所得税の課税物件である所得の発生が認められるべきである。しかしながら、その原因行為とされる私法行為の各当事者にその法形式に通常伴うはずの経済効果に対する意図がもともと欠落しており、その結果、現にその法形式に通常伴う経済効果が生じていないなどの理由によりその法形式に基づいては実質的な経済的成果が生じていないと認めるべき特段の事情が認定される場合には、所得税法固有の観点から、その私法行為の法形式によっては所得税法上の所得が発生したと認めることはできないと判断されるべきこととなる。この立場から、試みに、例えば、ある資産について売買という法形式が整えられている場合を想定してみると、通常は、売主にとって、その売買にはその資産に係る経済的成果が発生していると推定すべきである。しかし、その売買が担保目的で行われたにすぎない場合には、売買という法形式は整えられており、所有権は売主から買主に移転されるし、所有権移転の不動産登記が経由されれば、租税関係にあっても固定資産税が買主の負担に帰する場面が発生することとなるものの、この法形式の当事者は、担保権が実行されて清算手続が現実化するまでは(ちなみに、経済社会では、契約時に双方ともに担保権実行の現実化がほとんどあり得ないと予測している場合が少なくない。)、売買という法形式に通常伴う経済効果を実現させる意図を欠いており、また、その結果として現にその経済効果も生じないことから、売買という法形式に基づく実質的な経済的成果は生じていないと理解することができる。したがって、担保目的の売買がされただけでは、いまだ所得税法第33条《譲渡所得》第1項所定の「資産の譲渡による所得」が発生していないと説明することが可能である。
 そして、以上の理は、所得課税の認定に当たって、積極的に計上される利得の金額について妥当するばかりでなく、控除すべき損失の金額についても、全く同様に適用されることは当然である。
 本件においては、上記のとおり本件船舶賃貸事業なるものについては私法行為の法形式が整えられているため、上記特段の事情がない限り、その法形式に伴う経済的成果が発生したと推定すべきであるので、その特段の事情があるかどうかについて、本件証拠資料を精査して検討してみると、以下のとおり判断され、本件においては、本件事業の一部である本件船舶賃貸事業なるものに関しては、請求人との関係において実質的な経済的成果が発生していないと認めるべき特段の事情があると認定することができるから、本件船舶賃貸事業に係る損益を、請求人の所得税法第26条第1項所定の不動産所得の金額の計算上、総収入金額又は必要経費に算入することはできないし、また、本件商品の購入又は投資システムへの投資に係る損益は、本件事業の終了に伴い確定するものであるから、本件各年分においては、それに係る利得も損失も発生していないというべきである。
イ 認定事実
 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ)本件パートナーシップ契約書には、要旨別紙7のとおり記載されていること。
(ロ)本件裸用船契約書には、要旨別紙8のとおり記載されていること。
 なお、本件裸用船契約書に定められた約定損失補償額と約定損失補償額の支払日における本件組合の債務総額(本件組合員がセットローンを利用した場合のセットローンの残額、セットローンを原資としない出資金額(自己資金の額)及び1期分(3か月分)の管理手数料の合計額)を比較すると別表4のとおりとなる。
(ハ)別表5の各書面によれば、M社は本件パートナーシップに対して、本件用船者の船舶所有者に対する義務の履行と全株式の保有を保証しており、G社は本件用船者に対して、N社の本件パートナーシップの無限責任組合員としての義務の遂行と全株式を保有することを保証していること。
(ニ)別表6の各書面によれば、本件船舶は、M社の100%出資子会社でありパナマ共和国の現地法人であるU社(以下「U社」という。)からN社に売却され、更にN社からK社に売却されていること。
(ホ)N社と本件パートナーシップとは、1995年3月3日付の表題を「SWAP AGREEMENT」とする書面(以下「スワップ契約書〔1〕」といい、その記載内容は、要旨別紙13のとおりである。)により、スワップ契約を締結しており、更に本件パートナーシップは、S銀行との間で1995年3月3日付の表題を「通貨スワップ取引契約証書」とする書面(以下「スワップ契約書〔2〕」といい、その記載内容は、要旨別紙14のとおりである。)により、スワップ契約を締結していること。
(ヘ)本件事業に関する主な契約書等の契約締結日は、別表7のとおりであること。
(ト)本件事業に関する主な契約書等の契約当事者名及び署名者並びに署名者の契約当時の親会社における役職等は、別表8のとおりであること。
(チ)本件各船舶売買契約書及び本件裸用船契約書におけるそれぞれの契約当事者に対する通知先は、別表9のとおりとされていること。
(リ)本件事業に係る契約書等の諸条件を基に、本件裸用船契約書に定められた見直日に本件用船者のオプション権が行使され、本件事業が終了した場合で、セットローンを除く借入金の支払利息を考慮しない場合の請求人の本件事業からの損益及び配分額を計算すると、別表10のとおりであること。
 また、本件組合が請求人に交付している本件組合の事業開始から平成12年までの「組合決算ご報告の件」に記載された請求人の船舶賃貸収入及び必要経費の金額は、上記別表10の金額と同額であること。
(ヌ)請求人の夫であるFは、本件調査担当職員に対し、要旨次のとおり申述していること。
A 深く考えずにG社を信頼して始めた。契約の内容など考えたこともない。本件組合が締結した契約書等は見たことがない。
B 船舶リース事業についてのノウハウは持っていない。
C 他の組合員については知らないし、興味がない。
D 自分以外の組合員で持分権を親族に譲渡した人は知らないし、組合員の変更についての連絡を受け取った覚えもない。
E 本件組合への出資について、節税効果も含めて全体として面白いと思った。
(ル)請求人の夫であるFは、G社の担当者からリファレンスブック及びご案内を受領し、これらにより本件事業の説明を受け、そして、請求人は、そのFから、本件事業の仕組み・内容について説明を受けていること。
(ヲ)G社の○○○○部長付のVは、当審判所に対し、本件組合員名簿は、本件組合員に配付されておらず、組合員名簿の閲覧は、本件組合規約どおり組合の所在地でのみ行う旨答述していること。
(ワ)M社の○○課長代理のXは、当審判所に対し、本件船舶は、同型の船舶を3隻建造し、同一航路を巡回させるというM社の船舶運用計画の中の1隻であり、船舶は通常、全額借入金により建造しているところ、当時負債のオフバランス化を図ることが企業として求められていたことから、建造した3隻のうち1隻は売却した上、裸用船により借り上げ、運行することを予定していたものである旨答述していること。
(カ)本件事業の取引関係図を示すとおおむね別表11のとおりであること。
 なお、当取引関係図は、理解の便宜のための概念図であり、その記載内容は認定事実を示すものではない。
ロ 本件各一連の行為に係る経済的成果
(イ)本件にあっては、FからG社が企画した本件船舶を対象とする投資システムである本件商品の説明を受けた請求人によって、本件船舶の共有持分権の購入、同持分権の本件組合への現物出資から、M社の子会社である本件用船者による本件船舶の用船等、種々の行為(以下「本件各一連の行為」という。)が存在している。そして、以下において検討するところからも、本件各一連の行為は明らかに全体で一体不可分のものとして企画立案され、請求人らもそのようなものとしてこれに加わったことが自明である。
 そこで、上記1の(4)の基礎事実及び上記イの認定事実の下で、本件各一連の行為に関与した当事者の経済的な意図などの観点から本件各一連の行為の経済的成果について検討する。
(ロ)請求人は、Fから本件商品の説明を受け、その投資システムに参画したものであるが、請求人が説明を受けたご案内には、「安心の運用システム 用船契約」として、〔1〕用船契約期間は15年であるが、用船条件は10年間のみ確定条件であり、10年後の金融情勢及び用船マーケットによりその条件を見直し、残り5年間用船を継続する、〔2〕本件購入オプションが行使された場合には、船舶を用船者に一括売却し、その売却収入は任意組合を経由してオーナーに配分され、同組合及びリミテッド・パートナーシップは早期に解散する、〔3〕11年目ないし15年目の用船継続期間中、リミテッド・パートナーシップは、用船者の同意を得て、用船契約付で船舶を中古マーケットで売却することができる(中古マーケットの状況から船舶を売却した方が有利と判断された場合には、船舶を一括して売却する場合がある。)、〔4〕リミテッド・パートナーシップは、用船契約終了後(15年後)に船舶を中古マーケットで一括して売却し、その売却収入は任意組合を経由してオーナーに配分され、同組合及びリミテッド・パートナーシップは早期に解散する旨が記載されており、そして、〔5〕上記イの(ヌ)のとおり、請求人に本件商品の説明をしたFも、「節税効果も含めて全体として面白いと思った。」と申し述べているところである。
 したがって、請求人は、本件商品が本件船舶の賃貸とその売却とがセットされたものであり、そして、それらに係る収入金額から投資資金が回収され、収益の分配を受けるという投資システムであることを認識して、本件商品に出捐したと認められる。
(ハ)Fが説明を受けたご案内に添付された本件予想表によれば、不動産収支累計の額は、本件購入オプションの行使時、又は用船期間満了時のいずれの時期においても、拠出した自己資金の額(投資額の3割程度)を上回ることはなく、本件船舶の売却収入を加えて初めて拠出した自己資金の額を上回ることが示されており、請求人は、このことを認識していたと認められる。
 なお、本件各一連の行為に関わる契約書等の諸条件を基に、本件裸用船契約書に定められた本件購入オプションが行使され、本件事業が終了した場合における損益及び配分額を計算すると、それは別表10のとおりであり、また、本件組合が請求人に交付している本件組合の事業開始から平成12年までの「組合決算ご報告の件」に記載された請求人の船舶賃貸収入及び必要経費の金額が、この別表10の金額と同額であることからも、本件事業とりわけ本件船舶賃貸事業は、本件船舶の売却収入を切り離しては成り立ち得ず、本件船舶の売却収入を加えてようやく本件事業全体に係る損益がプラスに転じるものであることは明らかである。
(ニ)請求人は、G社との間で金銭消費貸借契約書等により金銭消費貸借契約及び譲渡担保契約を締結するとともに、G社からの借入金(K社からの本件船舶の共有持分権の購入代価に充てられるもの)につき「代理受領承諾依頼書」を提出したので、G社からの貸付けの実行はK社の銀行口座に対してされた。そして、請求人は、この貸付実行日において、本件組合の組合員として有する一切の権利(組合利益分配請求権、持分払戻請求権、残余財産分配請求権を含む。)を、G社に対して、担保として譲渡するとともに、本件組合に対して「通知および承諾書」を提出し、この担保に関する一切の支払をG社の銀行口座に送金するよう依頼したので、本件組合からの用船料収入の分配は、当該借入金の元本返済及び支払利息として、本件組合から直接G社へ優先的に支払われることとされた。
 したがって、〔1〕用船料収入の大半が優先的にG社からの借入金の弁済に充てられ、請求人がそれを現実に取得することは期待できないから、〔2〕G社からの借入分は、実質的には、請求人の投資といえず、G社の投資にほかならないこととなり、結局、〔3〕請求人に残るのは、拠出した自己資金の回収と船舶売却後の最終損益の分配だけ、ということになる。
 更には、本件組合の理事及び業務執行権限を有する理事長については、本件組合の創立総会において、理事3名のうちの2名にG社とK社が選任され、その理事会において、K社が理事長に選任されたとされているところ、本件組合規約によれば、理事及び理事長の任期は本件組合の存続期間中とされ、正当な理由がなければ解任されないとされており、また、下記ニの(イ)のとおり、本件組合員名簿が組合員に配付されておらず、組合員総会の開催は実質的に不可能であることなどからして、本件組合員は実効性ある理事の解任権を有していなかったと認められるため、本件組合が何らかの意味において事業実態を有していたと評価し得る余地があるとしても、そもそも、G社及びK社を除く本件組合員は、その事業運営への参加を実質的に全く保障されていなかった。
 実際的にも、例えば、〔1〕本件パートナーシップ契約書の契約日においては、本件組合の創立総会及び理事会は開催されておらず、組合の理事及び理事長は決定されていないにもかかわらず、本件パートナーシップ契約書に、本件組合を代表して署名したのはK社(代表取締役Y)であり、その肩書欄には本件組合の理事長と記載され、〔2〕別表8のとおり、本件事業に関する契約書の契約当事者として署名した者は、契約当時のG社及びM社の担当部課の職員であり、〔3〕別表9のとおり、本件各船舶売買契約書及び本件裸用船契約書の契約当事者に対する通知先は、G社及びM社の担当部課とされていた。
 これらのことに上記(ロ)及び(ハ)の点を併せて考察してみると、請求人は、本件商品を購入して投資システムに資金を投下した後において、直ちに裸用船契約を含む本件各一連の行為の主体の地位から離脱しており、本件各一連の行為に関わる請求人の地位ないし権能は、まさに、本件各一連の行為全体から得られる一体としての投資効果だけを目的とする投資者としてのものにすぎないと認められる。
(ホ)本件各一連の行為に関しては、多くの法人又は組合が関与しているが、それらは、G社又はM社のそれぞれの100%子会社であるか、G社が設立して管理している民法上の組合(本件組合)又はケイマン諸島で設立されたリミテッド・パートナーシップであるところ、これらの子会社及び組合を含めて、本件各一連の行為に関わる当事者をG社側とM社側に区分してみると、それは別表11のとおりとなり、これらの取引に関する契約書等の契約締結日は別表7のとおりである。
 これらによると、本件船舶は、海運会社であるM社側からリース会社であるG社側にいったん譲渡され、同日に、G社側からM社側に貸し戻されていることが明らかであり、このことに、上記イの(ワ)のM社の担当者の答述の内容、本件船舶は譲渡後もM社のロゴである「○○○」を船名に冠していること、M社は、本件パートナーシップに対して、本件用船者の船舶所有者に対する義務の履行と全株式の保有を保証し、他方、G社は、本件用船者に対して、N社の本件パートナーシップの無限責任組合員としての義務の遂行と全株式の保有を保証していることを併せ考慮すると、本件船舶の譲渡と貸戻しとが一体の取引(借り手が所有している資産をいったん貸手に売却した後、貸手から借り手がその資産をリース物件としてリースを受ける取引、いわゆる「セール・アンド・リースバック取引」)であることは明らかである。
 そうすると、経済的成果を目的とした経済活動という観点から本件各一連の行為をみると、リース会社であるG社側にとっては、本件船舶の購入代金としての支払により、それ相当額の融資をM社側に対して行ったと全く同一の効果をもたらし、他方、海運会社であるM社側にとっては、本件船舶をその融資に係る担保に供していることと全く同一の効果をもたらしている。したがって、有力な企業であることが公知であるG社とM社は、その効果を十分に認識して積極的にこれに参加したことが容易に推定できるから、要するに、本件各一連の行為は、G社からのM社に対する金融を目的とした取引ということができ、請求人も、G社又はK社がこの金融を行うための資金調達のために企画した本件商品につき説明を受け、それを購入し、その投資システムに参画したものであるといえる。
 また、請求人が、本件船舶に係る裸用船事業を営んでいると主張する本件パートナーシップは、本件組合をリミッテッドパートナー、G社の子会社をゼネラルパートナーとするリミテッド・パートナーシップであり、そして、一般的に、リミテッド・パートナーシップの事業を営んでいる者はゼネラルパートナーであり、リミッテッドパートナーは、投資者たる地位にあるにすぎず、事業遂行に対して意見を述べることのないのが通常であると評されているところである。
(ヘ)ところで、利得又は損失が発生しているかどうかの場面での経済的成果は、それに特に影響を与える何らかの規制がない場面では、一般的には原因行為である私法行為の法形式の経済的リスクに対応するのが通常である。原因行為の法形式に一般的に伴う経済的リスクが現実に存在する中で一定の経済効果が発生しているとすれば、その経済効果はその法形式に基づく経済的成果と強く推定される。これに対し、採用された法形式によれば、元来は一般的なその法形式に伴うはずの経済的リスクが具体的なその法形式においてはほとんど排斥されたと同様の場面で生じた経済効果には、別の配慮が必要である。殊に、当該特定の法形式が他の法形式と組み合わされて一体となっている場面では、一体としてとらえた場合に経済的リスクがほとんどないと評価し得るときは、その当該特定の法形式に対応する極小部分だけを取り出した場合には、果たして経済効果が発生しているといい得るのか、また、経済効果が発生しているとしてもそれを当該特定の法形式による経済効果といい得るのかに大きな疑いが生じ、結局この極小部分を評して利得又は損失に該当する経済的成果というには重大な疑問が生まれるからである。
 したがって、利得又は損失の発生があるかどうかを判断する場面においては、帰納的な有力判断手法として、経済的リスクを要素として検討することが考慮されるべきである。
 そこで、本件各一連の行為について本件組合員のリスク負担の観点から検討してみる。まず、本件組合は、民法上は、任意組合であるから、本件組合員は本件組合の債務について原則的には無限責任を負うべきこととなる。また、本件組合員は、当然のことであるが、セットローンの返済責任を負担しており、この点では、いわば無限責任を負担する。
 ところが、本件においては、〔1〕本件パートナーシップ契約書及び本件パートナーシップ契約書の準拠法である特例パートナーシップ法によれば、本件組合は、本件パートナーシップにおいて有限責任組合員とされ、本件パートナーシップの債務について出資の範囲内での責任しか負わないこと、〔2〕リファレンスブック及びご案内によれば、高い用船料収入があり、セットローンの返済及びその他のコスト等についても用船料収入の中から負担するので本件組合員には用船期間中に新たな資金負担が発生しないこと、投下資金の大部分が用船料収入により回収できること、船舶売却価格は見込みであり中古マーケットの状況により損失が発生することがあること、船舶事故のリスクについては、用船先が加入している船舶保険から用船契約に基づく用船先からの損害請求額の回収を行い、本件組合を通じて本件組合員に配分すること、用船先倒産のリスクについては、リミテッド・パートナーシップは用船先に解約損害金を請求するとともに、船舶の売却により投資対価の回収に努めるが、船舶の売却価格によっては、当初期待した収益が上がらないことが明らかにされている。
 そして、本件裸用船契約書に定める約定損失補償額は、別表4のとおり、セットローンの残額及びセットローンを原資としない出資金額(自己資金の額)を本件組合員に払い戻し、管理手数料を支払うために必要な額を回収できるよう約定されており(約定損失補償額が米ドル補償分と日本円補償分に区分されており明示されてはいないが、約定時に現実に予測された為替レートを考慮して実質的に十分な補償額の確保が約定されているものと認められる。)、また、本件用船者は約定損失補償額の約105%の金額の保険を付すこととされ、本件用船者の本件パートナーシップに対する債務は、M社が保証していることからすれば、本件組合の責任は、出資額の範囲内であるばかりでなく、そのリスクは極めて少ないものと認められる。
 したがって、本件組合は、本件パートナーシップとして行った行為についてその出資額を限度とした責任しか負わず、本件組合に参加する者も、現実的に出資額の範囲内でしかリスクを負わない構造となっているのであるから、本件各一連の行為に沿った私法行為の法形式の場合に伴うべき経済的リスクは、最小限の範囲でしか負担しない構造となっており、それだからこそ請求人らも本件組合に出資する法形式を選択したと認定することができる。
 前述のとおり、本件各一連の行為は、G社からM社に対する金融を目的として複数の法形式が組み合わされて一体とされた取引であり、請求人もこのことを認識して参加しているのであるから、本件船舶賃貸事業の部分だけを取り出して所得税法上の利得又は損失の根拠となる経済的成果があるというには、重大な疑問があるというべきである。
(ト)以上の検討結果に前記基礎事実及び認定事実を総合すると、本件にあっては、本件商品は、Hと名付けられて、G社によって一体の投資システムとして請求人らに示されていたものであり、そして、G社又はK社は請求人らからの参加を得て資金の投下を受けたのであるが、その内容を構成する本件各一連の行為において、現実に本件事業の一部を切り離した場合には、他の部分、殊に本件で問題となる船舶の賃貸事業は全く成り立ち得ない一方で、本件組合の出資者には、実質的に組合員としての事業参加の機会は全く予定されておらず、しかも、その投資システムでは、通常の組合契約、借入金を原資とするいわゆる不動産投資に伴う通常のリスク負担も予定されておらず、要するに、本件商品は、本件船舶の賃貸とその売却とが一体不可分にセットされ、それらに係る収入金額から購入代金すなわち投資資金が回収され、収益の分配を受けるという経済的成果をもたらすものであることが明らかである。
 また、この本件各一連の行為に関わった者の経済的成果に関する意図も、その実質的な当事者と目されるG社にあっては、M社に対する融資資金の調達にあり、他方、請求人にあっては、本件事業の経済的成果、殊に船舶の賃貸に係る経済的成果の享受にではなく、本件商品の購入という投資システム全体への投資に係る経済的成果の享受にしか眼中にないことが明らかであり、本件各一連の行為は、この経済的成果を企図して一体不可分のものとして企画立案され、また請求人の参加を得たと認められる。
 そして、最後にもう一度、本件各一連の行為による取引のすべてを振り返って観察してみると、全体で一体としてしか機能せず、個々の法律関係ないし取引行為が切り離された単独のものとしての経済的成果を生ずべきものとしてなされていないことは明らかである。
 したがって、本件船舶賃貸事業については、本件船舶の賃貸借という法形式に伴う実質的な経済的成果が発生していないと認めるべき特段の事情があると認定できる。
ハ 本件商品に係る経済的成果と課税関係
 本件商品の内容は、上記ロの(ロ)及び(ハ)のとおりであり、また、〔1〕本件裸用船契約書によれば、用船契約の早期終了に伴い用船者が船舶所有者に支払う約定損失補償額は見直日までしか定められておらず、また、その約定損失補償額は見直日における本件購入オプションの価額と同額であること、〔2〕金銭消費貸借契約書等によれば、借入利率及び元利金の返済額については、本件裸用船契約書に定める見直日までは確定しているが、当該見直日以後は確定していないこと、〔3〕スワップ契約書〔2〕によれば、用船料に係るスワップ契約が本件裸用船契約書に定める見直日を通貨スワップの最終期限としていること、また、最終期限における米ドル建元本払金額と米ドル建利払金額の合計額(41,062,094.01米ドル)及び円貨建元本払金額と円貨建利払金額の合計額(3,858,027,823円)は、それぞれ、本件購入オプションの価額と用船料の額との合計額の米ドル建価額(41,062,094.03米ドル)及び円建価額対価(3,858,027,827円)とほぼ一致しており、本件事業においては、本件購入オプションの行使が予定されていると認められること、及び〔4〕上記ロの(ホ)のとおり、本件各一連の行為がG社とM社との間の金融を目的とした取引であることからすると、本件商品は、主要な契約条件が確定している本件裸用船契約書に定められた見直日に本件用船者の購入オプションが行使され、用船契約を終了させることを予定しているものであることが窺われる。
 そうすると、本件商品は、本件裸用船契約書に定める用船期間の満了又は本件購入オプションの行使等所定の契約終了事由の発生を、その計算期間の終期とするものと認められるから、本件商品に係る経済的成果はこの終期において確定するということになる。そして、本件各年分においては、いずれの事由も発生していないと認められるから、本件商品に係る課税関係も生じていないこととなる。
ニ 請求人の主張についての補足説明
(イ)請求人は、本件事業に係る業務執行権に関し、本件組合員は本件事業に係る重要な業務に直接関与できる権能を有している旨主張する。
 しかし、本件組合規約によれば、G社及びK社を除く本件組合員は、組合員総会の決議事項を除く事項について通常その意思を反映させ得る状況になく、理事会の意に反した意思を反映させるためには組合員総会の開催を請求し、理事を解任させる必要があるところ、組合員総会は総出資口数の10分の1以上の賛同がなければ開催要求ができないものであるが、発起人以外の他の組合員は、発起人が自ら募集し、申込みがあった者と組合参加契約を締結することについて同意することとされており、G社及びK社を除く本件組合員は、お互いに一切関知し得ない状況で本件組合に参加しているものであるのに、本件組合員名簿が本件組合員に配付されていないこと、また、上記イの(ヲ)のG社の担当者の当審判所に対する答述のとおり、本件組合員名簿が現実に配付されていないことからすれば、見も知らない他の組合員に連絡して総出資口数の10分の1以上の賛同を得ることは現実性のないことであり、更に、理事を解任するためには、総出資口数の過半数を有する組合員が出席した組合員総会における総出資口数の3分の2以上による解任の決議及び後任理事の選任の決議を必要とすることから、G社及びK社を除く本件組合員は、実効性のある解任権を有しているとはいえない。
 更に、本件パートナーシップ契約書によれば、〔1〕N社は、本件パートナーシップの無限責任組合員となり、業務管理を行う権利及び権限を有すること、〔2〕有限責任組合員は、他のすべての組合員の同意を得た場合にのみ、本件パートナーシップの組合員としての権利の全部又は一部を譲渡することができること、〔3〕いずれの組合員も他の組合員が書面で同意しない限り脱退することはできないこと、及び〔4〕契約条件はすべての組合員の書面による同意による場合に限り修正できることなどが認められることから、本件組合は、わずか100円の出資しかしていないN社に本件パートナーシップにおける権利を制限されており、また、有限責任組合員たる本件組合は、本件船舶の売却についての合意又は指示、相手方組合員の脱退及びパートナーシップ契約の修正についての同意といった権限は認められているものの、これらの権限のうち本件組合の組合員総会の決議事項とされている事項は本件組合規約の第32条第2項に定める特定の場合の本件船舶の売却についてのみであり、その他の事項については、本件組合の理事会に決定権があることから、G社又はK社を除く本件組合員には業務執行に関する権利はないに等しいといえる。
 したがって、請求人の主張は採用できない。
(ロ)請求人は、本件パートナーシップのリミテッドパートナーである本件組合は、本件船舶に対する所有権を有しているとし、そのことをも原処分の取消事由を基礎づける根拠として主張する。
 しかし、実質的に所有権を有し、それが実効性のあるものとして行使し得る状態にあると評価するためには、本件船舶についての排他的な支配権、使用収益権の存在が必要であるところ、〔1〕本件組合員が本件船舶の共有持分権を本件組合に現物出資すること並びに本件裸用船契約書に定められた本件購入オプションの行使があった場合、本件裸用船契約書による契約が終了した場合及び用船料の見直日以降における本件船舶の売却行為が、当初から、決定されていたこと、〔2〕本件裸用船契約書による契約が終了したとき、及び用船料の見直日以降における本件船舶の売却については、前記のとおり、実効性ある解任権が及ばない理事によって構成される理事会の同意を得て、理事長が本件パートナーシップに処分させることができるとされていること、及び〔3〕金銭消費貸借契約書等によれば、請求人が本件船舶の共有持分権を取得するには、本件担保をG社に譲渡し、本件担保に関する支払を本件組合から直接受けることなくG社に支払われることが条件とされており、請求人の本件船舶に係る使用収益権が、本件船舶の共有持分権を取得した時点から制限されていると認められることから判断すれば、G社及びK社を除く本件組合員の本件船舶に対する支配権又は使用収益権は、G社又はK社によって著しく制限されていることが認められるため、本件船舶に対する名目上の所有者の所有権は、まさに名目上のものでしかない。
 したがって、請求人の主張は採用できない。
(ハ)なお、請求人は、本件組合の本件船舶賃貸事業に係る損益を不動産所得の計算から除外することは、所得税法及び所得税基本通達の明文の規定に反するだけでなく、憲法上の保障である租税法律主義にも違反する旨主張する。
 確かに、租税の賦課は必ず法律の根拠に基づく必要があるという租税法律主義の原則があり、現在の租税行政においても、現実の取引社会を前提として、国民の経済生活に予測可能性と法的安定性を与えるという租税法律主義の機能に、深い配慮がされるべきであるし、現に配慮がされてきているということができる。
 しかしながら、ご案内には、本件商品の第一のメリットは税負担の軽減である旨記載されており、また、本件事業において課税回避のメリットが最大となるのは、見直日に本件購入オプションが行使され、定められた価額により船舶を譲渡する場合であるとされ、また、本件購入オプションが行使されず、用船期間が長期化するにつれて本件商品の第一のメリットである税負担の軽減額が減少することが示されており、実に詳細な点にまでわたって税負担の軽減についての説明がされていることが認定できる。
 この認定事実に前記ロにおいて検討した結果も併せると、請求人らは、本件の投資をする際、第一義的に船舶の賃貸事業に係る損失を他の所得と通算することによる所得税の軽減を目的として本件各一連の行為に加わったにすぎず、他の経済的成果などは極めて軽視されていたということができ、本件事業のうちでも殊に船舶の賃貸事業に係る経済的成果の享受には関心がなかったことが明らかである。
 租税行政の執行の場面で、租税法律主義によって守られるべき予測可能性、法的安定性を問題としなければならない場面は、合法性の原則、手続的保障原則などの適用場面などでいくつか想定されるが、一つの典型的な場面は、あらかじめ経済主体が一定の経済的成果を実現したいと考えて契約など何らかの私法行為をしようとする場面である。そこでは、経済主体は、経済的成果の中に税効果をも考慮に入れるのが通常であり、中でも複数の私法行為の法形式を選択する余地があるときはとりわけである。経済的成果を目指して私法行為に踏み切るかどうか、踏み切るとしてどのような法形式を選択するかは、経済主体の正当な関心事といってよい。その場面で、どの法形式を選択したときにどのような課税関係が発生するかができるだけ明確であることは、その経済主体がその後の経済活動を営む上での予測可能性という見地からも、他の経済主体との関係での法的安定性という見地からも望ましく、事案ごとに具体的に結論が検討されて明確な結論が導かれるべきことになる。
 ところが、本件において、請求人らには、特に新たな経済的成果を得るという目的はなく、単にご案内に誘われて、所得税の軽減を目的として本件の投資システムに近づいたにすぎないことが示されており、ここでは、何らかの新たな経済取引に入るについて守られるべき予測可能性も法的安定性の問題も存在しないと同然であるということができる。すなわち、本件の投資システムによる税効果が否定されるからといって、請求人らは、元来納付すべき額の所得税を納付することになるにすぎず、実質的に特に新たな経済的成果を得られなくなるのではなく、特に予測可能性や法的安定性が害されるわけではない。もし本件の投資システムにより所得税の軽減が図られるときは、かえって、他の納税者との間において公平な課税が害され、法的安定性も害されるに至るものである。
 前記した当審判所の判断は、請求人と同様の租税法規を前提として導かれたものであり、請求人は、独自の見解を述べるのにすぎない。
 しかも、ご案内においては、「ご購入に際しての注意点」として、本件において、G社及びK社が請求人らに発生するはずの税務上の恩典の享受について何ら保証するものでないことが明記されており、G社及びK社も、当審判所の判断の結論が十分にあり得ることを予見していたことが認められ、この事実からも、予測可能性や法的安定性が害されることはないことが示されている。
ホ 本件各更正処分の適否
 以上のとおり、請求人には、本件各年分において、本件商品に係る収入金額及び必要経費は発生していないことになるため、これに基づき、本件各年分の所得金額を計算すると、請求人の課税総所得金額は、別表3の「審判所認定額」欄のとおりとなり、平成10年分及び平成11年分の課税総所得金額は、平成10年分及び平成11年分の所得税の各更正処分に係る課税総所得金額と同額であるから適法であり、平成12年分の課税総所得金額は、同年分の更正処分の課税総所得金額を下回るから、その一部を取り消すべきである。

トップに戻る

(2)本件各賦課決定処分について

イ 平成10年分及び平成11年分の所得税の各更正処分は、上記(1)のとおり適法であり、同更正処分により増加した納付すべき税額の計算の基礎となった事実には、いずれも国税通則法第65条第4項に規定する過少申告加算税を賦課しない場合の正当な理由があるとは認めらないから、同条第1項の規定により過少申告加算税の賦課決定をした原処分は適法である。
ロ 平成12年分の更正処分は、上記(1)のとおり、その一部を取り消すべきであるから、過少申告加算税の賦課決定処分の基礎となる税額は、170,000円となる。
 また、この税額の計算の基礎となった事実については、国税通則法第65条第4項に規定する過少申告加算税を賦課しない場合の正当な理由があるとは認めらない。
 したがって、請求人の過少申告加算税の額は、別表3の「審判所認定額」欄のとおり17,000円となり、賦課決定処分の金額に満たないから、平成12年分の過少申告加算税の賦課決定処分は、その一部を取り消すべきである。

(3)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

別紙1 リファレンスブック

1 「商品(H)の概要」として
(1)Hとは、次のとおり、購入単位50百万円に小口化された船舶を共有持分という形で、オーナーが購入し、共同で船舶の用船(賃貸)事業を行うシステムであること。
イ Hでは、G社の100%子会社が、大型コンテナ船を160口に分割して販売するため複数のオーナーが誕生することから任意組合をつくる。
ロ 任意組合は、パナマ共和国船籍を取得するため、船舶の現物出資により英国領ケイマン諸島(以下「ケイマン諸島」という。)にリミテッド・パートナーシップ(有限責任組合)をつくり、パートナーシップを通してM社のパナマ共和国現地法人(借主)に裸用船の形態で賃貸する。
ハ パートナーシップが受け取る用船料収入は、任意組合経由で各オーナーに配分される。
ニ 任意組合及びパートナーシップの存続期間は原則15年間となる。
(2)「投資対象」として
 投資対象である本件船舶の概要は、次のとおりであること。

船名○○○○
船種大型コンテナ船
総トン数61,000t
船籍パナマ共和国
造船者J株式会社
竣工予定1995年3月24日
船体価格総額約85億円

(3)「取引の流れ」として
イ 任意組合より現物出資された船舶は、パナマ共和国においてパートナーシップ名で登記・登録されること。
ロ 用船料収入は、アメリカ合衆国ドル(以下「米国ドル」という。)建てとなるが、通貨スワップ契約により円建てに変え、パートナーシップの管理コストを控除後、任意組合にその用船料収入を送金するため、オーナーには為替リスクが生じないこと。
(4)「用船契約の概要」として
イ  主要条件は、次のとおりであること。

(イ)用船者R社(M社のパナマ共和国現地法人)
(ロ)船主ケイマン諸島のリミテッド・パートナーシップ
(ハ)用船開始1995年3月24日(予定)
(ニ)用船期間15年
(ホ)用船料米国ドル建て/3か月毎後払
(ヘ)売却予定価格船体価格の10%
(ト)公租公課船舶に関する公租公課等については、用船者が別途負担する。
(チ)保険用船者が自らの費用負担により、対象船舶に関する保険を締結するが、保険金受取人は、原則としてケイマン諸島のリミテッド・パートナーシップとなる。

ロ 用船条件/オプション等は、次のとおりであること。
(イ)0年〜10年  予定する用船利回り(円建て)を確保できるよう通貨スワップにより、米国ドル建ての用船条件を設定している。
(ロ)10年〜15年  10年経過時点の金融情勢(金利・為替等)により、用船条件の見直しを行い、残り5年間の用船条件を米国ドル建てで設定する。
(ハ)上記(ロ)の見直しに際しては、最低用船料利回り(円建て)が設定されているため、オーナーの用船料収入は確保されている。
(ニ)買取オプションとして、10年目用船料見直し条件が合意できなかった場合、用船者は、船舶を船舶の船体価格の約44.6%で買い取ることができる。したがって、10年経過時点で用船事業による運用が終了することがある。
(ホ)売却オプションとして、10年〜15年の用船継続期間中、船主は、用船者が承認する第三者に用船債権付で船舶を売却することができるため、中古船市場マーケットの状況により、パートナーシップは船舶を一括売却することがある。
 なお、売却オプションは、オーナーにキャピタル・ゲインが発生する場合のみ行使する。
(5)「組合の運営・管理」として
イ 任意組合は、業務執行組合員である理事長1名、業務執行組合員である理事2名及び組合員から構成され、理事長にはK社、理事2名にはG社及びオーナーから1名選出されること。
ロ 任意組合事業の執行は、理事長及び理事2名で構成する理事会の決定に基づき運営され、その他重要事項は、同組合の最高意思決定機関である組合員総会で決定すること。
 なお、組合員総会は年一回開催し、業務報告及びその他組合運営に関連する重要事項を決定すること。
ハ 任意組合は、パートナーシップ契約の締結、船舶持分の現物出資、ケイマン諸島のパートナーシップの用船料収入の受領及び収支報告等の管理、オーナーへの現金分配及び収支報告の業務を行うこと。
(6)「中途脱退について」として
 任意組合の運営期間中は中途脱退できないが、途中でやむを得えない事由で解約したい場合には、同組合の理事長の承認を得たものについては、一定の手続を経た上で中途脱退ができること。
 なお、中途脱退の場合は、出資持分の処分価格の4%相当の脱退費用が必要となること。
2 「取引内容等について」として
(1)裸用船契約とは、船舶オーナーが船舶を用船者に用船するもので、用船者が、船長をはじめとする乗務員を乗せ、あたかも自分の所有船と同様に管理権を持ち、船舶の使用及び運行に関する管理をするものであること。
 本件の用船事業は、長期(15年間)の裸用船契約の形態で行うため、用船期間中はM社側が運行等に関わる管理をすることになること、また、船舶オーナーとしての煩わしい手続は、G社が全面的にバックアップするため、オーナーは安心して船舶の共有持分を運用することができること。
(2)任意組合は、組合の業務執行機関として、理事会(組合員3名で構成)を設立し、組合を代表して運営・管理を行うこと。
(3)リミテッド・パートナーシップについては、日本にはこれを規定する法令はないが、日本の民法上の組合に類似する概念であると言われていること。
 Hで利用するリミテッド・パートナーシップは、ケイマン諸島に設立され、ゼネラルパートナー(無限責任組合員)とリミテッドパートナー(有限責任組合員)から構成されること。
 本件では、G社の100%子会社(ケイマン諸島現地法人)が、任意組合より出資された船舶を運営・管理するゼネラルパートナーとなり、同組合はリミテッドパートナーとなることから、オーナーは出資した船舶の共有持分権が責任限度となるため、船舶オーナーとしてのリスクをミニマイズすることができるので安心して用船事業での運用ができること。
(4)任意組合の事務管理手続については、理事長であるK社が、パートナーシップについてはG社のケイマン諸島の現地法人が事務管理手続をすべて代行するため、オーナーは、パートナーシップの管理手数料及び組合管理手数料を事務管理手数料としてそれぞれ年3万円(1口当たり)を用船料収入から負担する。なお、任意組合及びパートナーシップで負担すべき費用については、事務管理手数料の中から、K社及びG社のケイマン諸島の現地法人が負担すること。
(5)大型コンテナ船である本件船舶は最新鋭機種であることから中古船の売買実例はないが、類似する船舶の売買実例においては、15年前後の船齢の船舶の売買価格は、新造船の建造価格の20%前後という事例がほとんどであること。コンテナ船は、船舶構造上、非常に丈夫な船であって、物理的耐用年数は一般に30年以上と見積もられているため、用船の満了する15年後においても、更に10年程度の使用が可能であること。
 また、船舶の場合には、スクラップ価値もある程度見込める性質があり、15年後においてもある程度資産価値が見込めることから、将来のインフレ効果を加味すれば、オーナーの船舶売却リスクは非常に少ないものと思われ、むしろキャピタル・ゲインが発生する可能性が非常に高いものと見込まれること。
3 「取引当事者の概要」として
 M社は、海運会社であり、事業規模、資産内容、業績ともに安定した優良企業であること。
4 「本件事業のリスクについて」として
(1)Hにおいて、船舶の沈没等の大きな船舶事故が発生した場合には、用船契約は早期に中途解約となる場合があること。用船期間中は、用船者が船舶事故等のリスクをカバ−する船舶保険に加入し、万一、船舶事故等が発生した場合には、保険金から用船契約に基づく損害請求額をパートナーシップが受け取り、損害請求額を配分後、パートナーシップ及び組合は解散すること。
(2)Hにおいて、用船者が万一倒産した場合には、期待した用船料収入が確保できない場合があること。万一、用船者に倒産等の事態が発生した場合には、パートナーシップは解約損害金を用船者に請求するとともに、船舶の売却により、オーナーの投資対価の回収に努めること。また、用船契約は解約となり、船舶の売却収入を配分後、パートナーシップ及び任意組合は早期に解散すること。なお、船舶の売却が未回収の残高に満たない場合は、当初期待した収益が上がらないことがあること。
(3)Hの用船料収入等はすべて米国ドル建ての収入となるため、パートナーシップが通貨スワップをすることにより、収入をすべて日本円建てに交換すること。したがって、Hにおける為替リスクは、すべてリスクヘッジされていること。
(4)Hにおいては、15年後の用船契約満了時に船舶購入価格の約10%の売却予定価格を設定しているが、実際の売却価格が10%に満たない場合には、当初予定した収益が上がらないことがあること。
(5)購入に際しての注意点として、本件においては、G社及びK社が「本件実行による収益性」及び「税務上の恩典の享受」等について何ら保証するものではないこと。
5 「お問い合わせ先」として
 問い合わせ先は、G社の○○○○であること。

別紙2 ご案内

1 「資産運用の新戦略」として
 Hは、船舶を投資対象とした全く新しい投資商品であり、Hの基本コンセプトは、不動産投資等の商品と同様であるが、その性格は今までの不動産投資にない、高い運用利回りとキャピタルロスの懸念の少ない安全な投資商品として設計されていること。
2 「Hとは」として
 Hとは、購入単位50百万円に小口化された船舶を共有持分という形でオーナーが購入し、共同で船舶の用船(賃貸)事業を行うシステムであること。
3 「○○○○」として
 ○○○○とは投資する大型コンテナ船の船名であり、竣工予定は1995年3月20日、船体価格は約80億円(予定)であること。
4 「安心の運用システム ご購入」として
 K社が対象の大型コンテナ船を160口に分割して販売すること。購入に際しては、G社が船舶持分の70%まで利用できるセットローンを用意するため、自己資金で約30百万円から購入できること。
5 「安心の運用システム 共同事業」として
 複数のオーナーが1隻の大型コンテナ船を所有することになるため、意思統一を図り、一括の財産として運用するために任意組合をつくること。
 任意組合は、ケイマン諸島にパートナーシップ(組合)をつくり、パートナーシップを経由してM社のパナマ共和国現地法人(借主)に裸用船の形態で賃貸すること。
 パートナーシップが受ける用船料収入は、任意組合経由で各オーナーに配分されること。
 なお、任意組合及びパートナーシップの存続期間は原則15年間となること。
6 「安心の運用システム 用船契約」として
 用船契約期間は15年であるが、用船条件は10年間のみ確定条件で、10年後の金融情勢及び用船マーケットにより用船条件を見直し、残り5年間用船を継続すること。
 ただし、以下の場合には用船契約が終了すること。
(1)10年後の用船料見直し時に借主側に船舶の購入選択権(以下「本件購入オプション」という。)があるため、この本件購入オプションが行使された場合には、船舶を借主に一括売却し、売却収入は任意組合を経由してオーナーに配分され、同組合及びパートナーシップは早期に解散すること。
(2)11年〜15年の用船継続期間中、パートナーシップは借主の同意を得て用船契約付きで船舶を中古マ−ケットで売却することができ、中古マーケットの状況により船舶を売却した方が有利と判断される場合は、船舶を一括して売却する場合があること。
(3)パートナーシップは用船契約期間終了後(15年後)に船舶を中古マーケットで一括して売却し、売却収入は任意組合を経由してオーナーに配分され、同組合及びパートナーシップは早期に解散すること。
 なお、10年後の見直し条件は、用船利回り4.2%(実質利回り)の最低利回りが保証されていること。
7 「メリット1 毎年の所得を大きく圧縮できます。」として
 毎年税金で困っている方が所得を減らすことができること。
 船舶の用船事業における所得(裸用船契約)による収入は、〔1〕不動産所得に分類され、Hの場合、用船期間の前半の数年間は、船舶の減価償却費及び借入金の支払利息が用船料収入を上回るため、所得計算上は大きな赤字が発生し、この赤字により不動産所得を圧縮することができ、〔2〕不動産所得の赤字は、給与所得や事業所得の他の所得と損益通算ができるため、不動産収入のない方でも納税負担を軽減することができ、〔3〕Hの場合、購入した船舶の共有持分すべてが減価償却資産であり、「不動産に係る損益通算特例」の適用もなく、支払利息も全額必要経費に算入できるため、不動産投資にない大きな節税効果があること。
 また、2口100百万円(自己資金30百万円)をセットローンで購入した場合の効果概要として、当初の約6年間で不動産所得赤字累計額が29,315千円となり、投下資金(自己資金)とほぼ同額の所得圧縮効果があること。その際の納税圧縮額は19,055千円とされ、高額所得者のオーナーは節税効果のみで投下資金の大半を回収することが可能であること。
8 「メリット2 船舶投資ならではの年利8%(表面利回り)の高利回り。」として
 Hの場合、高い用船料収入があるため、セットローンの返済及びその他コスト等についても、用船料収入の中から負担するため、用船期間中に新たな資金負担が発生しないこと。
9 「メリット4 用船先が信用力の高いM社(パナマ共和国現地法人)なので安心です。」として
 用船者はM社(パナマ共和国現地法人)なので回収リスクの懸念がなく安心であること。
10 「メリット5 不動産投資とは異なり、キャピタルロスを抑えられるよう配慮されています。」として
 Hの場合、投下資金の大部分が用船料収入で回収でき、大きなキャピタルゲインはないが大きなキャピタルロスが発生しないよう安全性に十分配慮していること。
11「ご購入に際しての注意点」として
 本件においては、G社及びK社が「本件実行による収益性及び税務上の恩典を享受」等について、何ら保証するものではないこと。
12 「ご購入メンバーの募集要領 セットローンの概要」として
(1)貸主はG社であること。
(2)融資金額は、購入価格の70%までであること。
(3)融資期間は、原則15年間であること。
(4)担保は、組合持分権の譲渡担保を設定すること。
(5)利率は、年率5.2%(10年間固定)であること。
(6)提携ローンの返済は、用船事業収入で全額返済が可能であること。
13 「取引当事者の概要 用船先の概要」として
 用船者は、M社の全額出資子会社(パナマ共和国現地法人)であり、M社がオーナーの実質的な与信先となること。また、M社は、海運会社で、事業規模、資産内容、業績とも安定した優良企業であること。
14 「用船事業損益予想表」(上記7の「2口100,000千円(自己資金30,000千円)をセットローンで購入した場合の効果概要」の詳細として、10年目以降の用船及びセットローンの条件に変更がなかった前提で、本件購入オプションが行使された場合の船舶売却収入が44,607千円、用船契約満了時の船舶売却収入が10,000千円、不動産所得及び譲渡所得に係る税率が65%、船舶売却に伴う譲渡所得は総合課税長期譲渡所得として作成されたもの。以下「本件予想表」という。)として
(1)用船期間中の不動産所得に係る各年の用船料収入の金額
(2)用船期間中の不動産所得に係る各年の必要経費(減価償却費、支払利息及びその他経費)の金額
(3)用船期間中の不動産所得に係る各年の節税効果累計の額
 なお、用船開始から本件購入オプションの行使時までの期間は14,416千円であるが、用船契約満了時までの期間では節税効果は無くなり、2,628千円の納税となること。
(4)用船期間中の不動産所得に係る各年の現金収支の額(現金受領額)
(5)不動産所得に係る不動産収支累計の額(上記(3)の不動産所得に係る節税効果累計の額に上記(4)の不動産所得に係る現金収支の額を加算した額)は、用船開始から本件購入オプションの行使時までの期間は17,916千円、用船契約満了時までの期間は21,462千円であること。
(6)本件購入オプションが行使された場合の譲渡所得に係る税引後収支の額は、船舶売却収入の額44,607千円から譲渡所得に係る納税額7,370千円及び融資残債務返済の額17,099千円を減算した20,138千円であること。
(7)用船契約期間終了後の譲渡所得に係る税引後収支の額は、船舶売却収入額10,000千円から譲渡所得に係る納税額零円及び融資残債務返済の額零円を減算した10,000千円であること。
 なお、本件船舶に係る譲渡原価は、9,964千円であること。
(8)本件購入オプションが行使された場合の終了時収支見込みの額は、上記(5)の不動産所得に係る不動産収支累計の額17,916千円に上記(6)の譲渡所得に係る税引後収支の額20,138千円を加算した38,053千円であること。
 また、用船契約満了時の終了時収支見込みの額は、上記(5)の不動産所得に係る不動産収支累計の額21,462千円に上記(7)の譲渡所得に係る税引後収支の額10,000千円を加算した31,462千円であること。
(9)用船契約終了時の船舶売却価格は、あくまで見込みであり、船舶の中古マーケットの状況により損失が発生することがあること。
15 「お問い合わせ先」として
 問い合わせ先は、G社の○○○○であること。

別紙3 本件組合設立契約書

1 G社及びK社(両者を併せて発起人という。)は、下記16(本事業の概要)の事業を行うことを目的として、本件組合を設立し、組合員を募集するために、1995年2月10日付で本契約を締結すること(前文)。
2 本件組合の設立日は、本契約締結日(1995年2月10日)とすること(4)。
3 本件組合に関する細則は、別途定める本件組合規約によること(5)。
4 創立総会終了後の本件組合の運営は、理事会、理事長及び組合員総会により行われること(7.2)。
5 最初の理事は、創立総会で組合員の中から選任され、最初の理事長は、最初の理事の中から選任されること(7.3)。
6 本件組合の出資の単位は、1口(50,000,000円相当の本船の共有持分権)であり、総出資口数は、本件船舶の価格を50,000,000円で除した数(少数点以下切上げ)とすること(8.1)。
7 本件船舶の価格は、為替予約で確定される出資日における86,859,500米ドルの円相当額とすること(8.2)。
8 本件組合に対する出資は、出資日に、各々の出資口数に相当する共有持分権を本件組合に現物出資することにより行われること(9.2)。
9 第9条第2項にかかわらず、第8条の総出資口数の計算により生ずる50,000,000円に満たない金額分については、労務による出資と併せて1口とすること(9.3)。
10 発起人は本件組合に出資すること(10.1)。
11 第9条第3項により労務出資と合わせて1口とされた分は、G社が出資すること(10.2)。
12 発起人は、本件事業に参加する者を募集することができること(11.1)。
13 募集に対する申込みがあった場合、発起人は申込人の資産等審査の上相当と判断するときは、当該申込人との間で組合参加契約を締結する。他の組合員は、発起人が他の組合員を代理して組合参加契約を締結することに同意すること(11.2)。
14 新たに本契約の当事者となった者は、組合設立手数料として、発起人に対し、1口当たり100,000円を支払うこと(11.3)。
15 本契約のいずれの当事者も、本契約に基づく権利義務の全部又は一部について、第三者に対し譲渡、移転、担保供与その他の処分をすることができない。ただし、共有持分権購入のためのG社からの借入金について担保設定する場合又は発起人の事前の書面による承諾を得た場合はこの限りではないこと(14)。
16 本事業の概要として
(1)本件組合は、本件船舶をパナマ共和国船籍の船舶として登録するため、N社との間で、N社をゼネラルパートナー、本件組合をリミテッドパートナーとするリミテッド・パートナーシップ契約を締結し、ケイマン諸島にP・リミテッド・パートナーシップと称するリミテッド・パートナーシップを設立すること。
(2)本件船舶の共有持分権を、出資日に本件組合の組合員が各々購入して本件組合に出資することにより、本件組合は本件船舶の所有者となること。
(3)本件組合は、本件船舶をP・リミテッド・パートナーシップに現物出資すること。
(4)P・リミテッド・パートナーシップは、本件船舶を同パートナーシップ名義のパナマ共和国船籍の船舶として登録すること。
(5)P・リミテッド・パートナーシップは、本件船舶をR社に裸用船させるためR社と裸用船契約を締結すること。
(6)P・リミテッド・パートナーシップは、R社から用船料等を受領してこれを本件組合に分配し、本件組合はこれを各組合員に分配すること。
(7)本件船舶は、裸用船契約が終了する場合又は必要に応じて処分され、その対価から債務費用等を控除した残金が残余財産として組合員に分配されて本件組合は清算されること。

別紙4 本件組合規約

1 本件組合規約は、本件組合の組織運営に関する事項を定めたものであること(前文)。
2 本件組合の出資の単位は、1口50,000,000円相当の本件船舶の共有持分権とし、総出資口数は166口とすること。ただし、G社は1口のうち、26,632,625円相当分を労務により出資し、労務出資分は、利益及び損失の分配を受けず、業務執行報酬も支払われないものとすること(4)。
3 理事長は、本件組合に対する総出資口数の出資の履行完了を確認した後、遅滞なく、本件組合の組合員名簿を作成し、これを本件組合の所在地に備え付けて組合員の閲覧に供すること(6)。
4 発起人は、出資日後も、発起人の保有する出資持分を取得して組合員を募集することができること(7.1)。
5 本件組合規約第7条第1項の募集に対する申込みがあった場合、理事会が申込人の資産状況等審査の上相当と判断したときは、本件組合は、当該申込人との間で、組合参加契約を締結する。発起人以外の他の組合員は、理事長が代理して組合参加契約を締結することに同意すること(7.2)。
6 本条の規定により、新たに組合員となった者は、発起人に対し、参加手数料として出資持分1口当たり100,000円を支払うこと(7.4)。
7 組合員総会の決議により、組合員の中から理事3名を選任する。理事は、理事会を構成し、本件組合の業務執行の意思決定を行うこと(9.1)。
8 理事会は、本件組合規約上組合員総会の決議事項とされている事項を除き、本件組合運営のために必要なすべての事項を決定する権限を有すること(9.2)。
9 理事会の決議により、理事の中から理事長1名を選任すること(10.1)。また、理事長は、本件組合の業務執行組合員となり、本件組合規約及び理事会の決議に従い、本件組合の業務を行うこと(10.2)。
10 理事長は、本件組合の業務執行を決定又は遂行する対価として、出資持分1口当たり月額2,500円の業務執行報酬を得ること(11)。
11 理事及び理事長の任期は本件組合の存続期間中であり、正当な理由がなければその地位を辞任できず、解任もされない。
 また、理事を解任するためには、総出資口数の過半数を有する組合員が出席した組合員総会における総出資口数の3分の2以上による解任の決議及び後任理事の選任の決議を必要とすること(12)。
12 組合員総会は、理事会が必要と認めるとき又は総出資口数の10分の1以上を有する組合員が理事長に開催要求したときに開催されること(13.2)。
13 本件組合員は、その必要がある場合、事前に理事長に書面により通知して、相当な場所及び時間並びに方法において、本件組合の業務及び組合財産の状況を検査することができること(14)。
14 本件組合員は、本件組合の清算前に組合財産の分割を請求することができないこと(15.3)。
15 本件組合員は、決算報告又は監査報告の内容に異議があるときは、本件組合規約第13条第2項に従い、理事長に組合員総会の開催を求めることができ、これにより組合員総会が開かれた場合には、当該年度の決算は、組合員総会において承認を得ることを要すること(21.2及び21.3)。
16 組合員は、本件組合規約に特別の規定がある場合を除き、組合員としての地位、出資持分並びに本規約に基づき現在及び将来において有する権利及び義務について、その一部又は全部にかかわらず、第三者に対し譲渡、移転、担保供与その他の処分をすることができないこと(23.1)。
 ただし、組合員が、共有持分権又は出資持分の購入資金の調達のためG社との間で締結した金銭消費貸借契約及び譲渡担保契約の元利金弁済義務の履行の担保として、組合員としての地位、出資持分並びに組合員として現在及び将来において有する一切の権利(組合利益分配請求権、持分払戻請求権)の上に、G社のために設定する担保についてはこれを有効とすること(23.3)。
17 G社は、本件組合規約第23条第3項の担保を金銭消費貸借契約及び譲渡担保契約に従って処分することにより、本件組合規約第26条の規定によらずに、当該組合員の有していた出資持分について、本件組合の組合員になることができること(23.4)。
18 本件組合規約第23条第4項によりG社が組合員となった出資持分については、G社は、同条第1項及び第2項の規定にかかわらず、これを他の組合員又は第三者に対して、本件組合規約第26条の規定によらずに更に処分することができること(23.5)。
19 本件組合規約第23条第3項に定めるほか、組合員は、理事会の事前の承認を得た場合に限り共有持分権又は出資持分の購入資金の借入先に対し、その元利金弁済義務の履行を担保するため、組合員としての地位、出資持分並びに組合員として現在及び将来において有する権利の上に担保権を設定することができること。本項により設定された担保権が当該担保権の設定契約に従い実行される場合、理事会の事前の承認を得た場合に限り、本条第4項を準用することができること(23.6)。
20 組合員は、組合存続期間中、理事会によりやむを得ない事由があると認められた場合を除き、本件組合を脱退できないこと(24)。
21 組合員に次のいずれかの事由がある場合、理事長は理事会の承認を得た上、当該組合員に通知して、除名することができること(25.2)。
(1)本件組合に対し、その業務を妨害する等重大な背信行為をしたとき又はそのおそれがあると認められるとき。
(2)金銭消費貸借及び譲渡担保契約の期限の利益を喪失し又は喪失するおそれがあるとき。
(3)仮差押え、仮処分又は差押えの申立てがあったときその他公権力による処分を受けたとき。
(4)公租公課について滞納処分を受けたとき。
(5)その他本件組合規約の履行が困難になると認められる相当の事由があるとき。
22 組合員が脱退した場合、理事長は脱退した組合員の代理人として、出資持分を次の手続により処分し、処分価格を受領し、本規約第29条により処分価格を清算すること(26.1)。
(1)理事長は、脱退の理由、本件組合の事業状況等の諸事情を考慮した上、相当と認められる専門家の意見を斟酌し、脱退組合員及び理事会の承認を得て処分価格を決定する。
(2)理事長は脱退した組合員以外の組合員に対し、処分価格を提示し、買受申出期間を定めて当該出資分の買受人を募集する。理事長は、申し出た希望者の資産状況等を調査した上で、本件組合が最も有利な申出をした希望者を決定し、理事会が当該希望者を承認するときには、これを買受人と定め、脱退した組合員との間で出資持分売買契約を締結し、本件組合との間で組合参加契約を締結する。
(3)上記(2)により買受人が決定されない場合、理事長は、理事会及び他の組合員が推薦する第三者に対し募集を行い、申し出た希望者の資産状況等を調査した上で、本組合に最も有利な申出をした希望者を決定し、理事会が当該希望者を承認したときには、これを買受人と定め、脱退した組合員との間で出資持分売買契約を締結し、本件組合との間で組合参加契約を締結する。
(4)上記(3)の手続によっても買受人が決定されない場合、理事長は、G社に買取価格を含めた買受条件の提示を請求することができる。
(5)上記(4)によって提示された買受条件が脱退した組合員に承認された場合には、理事長は買受人をG社と定め、脱退した組合員との間で出資持分売買契約を締結し、本件組合との間で組合参加契約を締結する。この際、理事長が同条件で自ら買受人となることを妨げない。
23 上記22の(5)により、G社が取得した出資持分は、G社は、第23条第1項及び第2項の規定にかかわらず、第三者に対して更に処分することができること(26.2)。
24 理事長は、前条による出資持分の処分により受領した代金から、当該処分に関する理事長の業務執行報酬として処分価格の4%及び当該処分に要した費用並びに当該脱退組合員の負担に帰すべき組合債務並びに当該脱退組合員が本件組合に対して負担している一切の未履行債務を控除した残額を、脱退組合員に支払うこと(28.1)。
25 理事長は、用船契約が終了したとき又は2005年4月1日以降において、本件船舶の処分を相当と判断するときは、理事会の同意を得てリミテッド・パートナーシップに本件船舶を処分させリミテッド・パートナーシップを解散及び清算させることができること(32.1)。
 ただし、本件組合設立後、経済情勢の変化、法令の改廃又は組合員の多数の脱退等の組合存続に重要な影響が生ずる事由その他の事由により本組合の目的の達成又は組合業務の遂行が不可能又は著しく困難となり、理事長が本件船舶の処分を相当と判断するときは、理事長は、理事会の同意及び組合員総会の承認を得て、リミテッド・パートナーシップに本件船舶を処分させ、リミテッド・パートナーシップを解散及び清算させることができること(32.2)。
26 本件組合は、〔1〕本規約第32条に基づくリミテッド・パートナーシップによる本件船舶の処分、〔2〕本事業の終了又は事業の遂行が困難になったと認められる事由が発生したとき、〔3〕組合員総会における解散決議により解散すること(33)。
27 本件組合規約の修正は、組合員総会における承認によるものとすること(38)。

別紙5 金銭消費貸借契約書等

1 債務者は、G社から35,000,000円を借り受けること(1)。
2 借入金は、本件組合に出資するために購入する共有持分権(1口相当)の購入代金に当てられること(1.(2))。
3 貸付実行日は、1995年3月24日又はG社が指定する日であること(1.(3))。
4 最終支払日は2010年3月末日であること(1.(4))。
5 支払日は、1995年6月末日を第1回とする最終支払日までの毎年3月、6月、9月及び12月の各末日であること(1.(5))。
6 利息は、貸付実行日から2005年3月末日までが年5.2%、2005年4月1日から最終支払日までが2005年3月31日現在の長期プライムレートに0.3%を加えた年利であること(1.(6))。
7 元本及び利息の支払方法は、貸付実行日から2005年3月末日までは、一部元本据置きによる元利均等払い(下記12のとおり)であり、2005年4月1日から最終支払日までは、元利均等払いであること(1.(7))。
8 債務者は、本契約締結と同時に、「代理受領承諾依頼書」をK社の連署を得て、G社に提出すること(2.1)。
9 債務者は、本件債務の履行を担保するため、本件組合の組合員としての地位並びに本件組合の組合員として、債務者が現在及び将来において有する一切の権利(組合利益分配請求権、持分払戻請求権、残余財産分配請求権を含む。)を貸付実行日付で、G社に譲渡すること(5.1)。
10 本契約に基づく上記9の担保の保全及び行使のため、債務者は「通知および承諾書」を作成し、G社に提出すること(5.2)。
11 本契約に基づく上記9の担保を、必ずしも法定の手続によらず一般に適当と認められる方法、時期、価格等により任意に処分の上、その処分価格から諸費用を差し引いた残額を、法定の順序にかかわらず、本件債務及び債務者がG社に対し負担するその他の債務の弁済に充当することができること(5.3)。
12 元利金弁済期日表として
(1)「1995年3月24日」から「2005年3月31日」までの期間の各支払日における元利金返済額、元本額、利息額及び元本残額がそれぞれ記載されていること。
(2)各支払日における元利金返済額は、第1回目の支払日である1995年6月30日は1,086,252円であり、第2回目の支払日である1995年9月30日から第20回目の支払日である2000年3月31日までは1,000,946円、第21回目の支払日である2000年6月30日から第40回目である2005年3月31日までは、913,446円であること。

別紙6 船舶共有持分権売買契約書

1 本契約は、売主であるK社及び買主との間で、本件組合に買主が現物出資する本件船舶の共有持分権の売買のため締結されたこと(前文)。
2 売主は、以下の割合で表示される本件船舶の共有持分権を買主に売り渡し、買主はこれを買い受けること(2)。
  8,273,367,375分の50,000,000
3 共有持分権の売買代金は、金50,000,000円とすること(3.1)。
4 買主は、本契約により購入した共有持分権を組合契約に従って本件組合に出資しなかったときは、本契約は売主の買主に対する通知により遡及的に効力を失うこと(8)。

別紙7 本件パートナーシップ契約書

1 本リミテッド・パートナーシップ契約は、1995年2月14日に〔1〕ケイマン諸島の法律に基づき設立され存在する法人であり、無限責任組合員となるN社(以下「無限責任組合員」という。)及び〔2〕日本国の法律に基づき設立され存在するパートナーシップ形態企業であり、有限責任組合員となる本件組合(以下「有限責任組合員」という。)の間において締結されるものであり、無限責任組合員及び有限責任組合員は、特例パートナーシップ法(1991)に従い、リミテッド・パートナーシップを設立し、以下のように合意すること(前文)。
2 名称
 本契約により設立されるリミテッド・パートナーシップの名称はP・リミテッド・パートナーシップとすること(1)。
3 目的
 P・リミテッド・パートナーシップは、リミテッド・パートナーシップが特例パートナーシップ法の下にできるであろうあらゆる合法的活動に従事するため、とりわけ、パナマ共和国で登録されている又は登録される予定の本件船舶を所有し、また裸用船契約に基づき、M社又はその子会社、とりわけパナマ共和国の子会社の本件用船者に対してリースするために設立されること(2)。
4 権限
 無限責任組合員は、P・リミテド・パートナーシップを経営し、業務管理を行う権利及び権限を有すること。
 無限責任組合員の権限には、ケイマン諸島の法律に基づき無限責任組合員が所持することのできるすべての制定法上又はその他の権限が含まれること(5)。
5 期間
 P・リミテッド・パートナーシップは無限責任組合員と有限責任組合員が書面で合意することにより、本契約が早期に終了される場合を除き、P・リミテッド・パートナーシップが本件船舶の所有を止める日まで事業を継続するものとすること。
 本件船舶は、本契約が無限責任組合員及び有限責任組合員並びに他の組合員間の合意書によって、売却することが可能であること(6)。
6 初回出資金
 本契約書日付現在、P・リミテッド・パートナーシップの組合員は、以下の金額を現金又はその他の財産の形でP・リミテッド・パートナーシップに出資しており、その他の財産は出資していないこと(7)。
(1)無限責任組合員  100円
(2)有限責任組合員  100円
7 船舶による現物出資
 1995年3月27日又は当事者間で合意されるその他の日付において、有限責任組合員は、以下のように評価される以下の資産を現物出資するものとすること(8)。
(1)86,859,500米ドルの本件船舶
(2)本件船舶の評価額は、該当する為替予約取引で決定されている固定為替レートにおける、出資日現在の日本円評価相当額である。
8 管理料
 十分な純資産があり、キャッシュフロー状況からみて可能な限り、無限責任組合員は本件船舶の評価額の2万分の1(1/20,000)に相当する金額の管理料を毎月、受け取る権利を有するものとすること(10)。
9 損益の分配
 すべての損益は(ケイマン諸島の法律で認められる範囲まで)、有限責任組合員に分配され、有限責任組合員が2人以上いる場合は、各有限責任組合員に対して、当該有限責任組合員のP・リミテッド・パートナーシップへの出資割合に応じて分配されるものとすること(11)。
10 現金の分配
 十分な純資産があり、キャッシュフロー状況からみて可能な限り、P・リミテッド・パートナーシップが本件船舶の用船契約に基づき用船料又はその他の金額を受け取った場合、本件船舶の購入者から金額を受け取った場合又は本件船舶に関してその他の金額を受け取った場合は、無限責任組合員は速やかに、管理料及びその他の費用並びに適切な積立金を差し引いた後、当該現金を有限責任組合員に分配するものとし、有限責任組合員が2人以上いる場合は、各有限責任組合員に対して、当該有限責任組合員のP・リミテッド・パートナーシップへの出資割合に応じて分配するものとすること(12)。
11 譲渡
 本契約の有限責任組合員又は他の有限責任組合員は、他のすべての組合員の同意を得た場合にのみ(当該同意を行うか留保するかは、他の組合員各自の単独裁量による。)、組合員としての権利の全部又は一部を譲渡することが可能であり、譲渡が許可された場合、組合員として権利の譲受人が、代わりの組合員として認められるものとすること(13)。
12 終了
 P・リミテッド・パートナーシップの無限責任組合員、本契約の有限責任組合員及び他の有限責任組合員のいずれも、他の組合員が書面で同意しない限り、P・リミテッド・パートナーシップから脱退することはできず、無限責任組合員が全員、脱退した場合は、P・リミテッド・パートナーシップは解散し、その業務は特例パートナーシップ法に従って清算されるものとすること(14)。
13 契約の修正
 本契約の条件は、P・リミテッド・パートナーシップの全組合員の書面による同意により、いつでも時宜に応じて変更又は修正することができること(15)。

別紙8 本件裸用船契約書

1 契約締結日 1995年3月23日
2 船主 P・リミテッド・パートナーシップ
3 裸用船者 本件用船者
4 船名 本件船舶
5 用船期間 引渡日から2010年3月31日まで
6 用船料 168,105,974円(3か月当たり)
7 保険 約定損失補償額の米ドル表示の約105%(第12条適用)
8 補遺として
(1)本補遺は、1995年3月(日付不詳)に以下の当事者間で締結された裸用船契約の第2部及び第3部の補遺として作成されたものであること(前文)。
イ 船舶所有者であるP・リミテッド・パートナーシップ
ロ 用船者であるR社
(2)「引渡日」とは、1995年3月24日又は船舶所有者と用船者との間で合意されるその他の日を意味すること(付加条項A)。
(3)「用船料支払日」とは、1995年6月末から開始し、本用船契約の期間中続く、各暦年の3月、6月、9月及び12月の各末日とすること(付加条項A)。
(4)「用船料支払期間」とは、初回期間については、船舶引渡日(同日を含む。)から開始し初回用船料支払日(同日を含む。)に終わる期間を意味し、その後の期間については、当該用船料支払日の翌日(同日を含む。)に開始し翌用船料支払日(同日を含む。)又は用船再引渡日に終わる各期間を意味すること(付加条項A)。
(5)「見直日」とは、2005年3月31日とすること(付加条項A)。
(6)船舶所有者及び用船者は、見直日までの用船期間について、用船料は米ドル価額で支払われることに同意し、また、用船者は、船舶所有者が当該用船料についてスワップ契約を結んでおり、用船料に対する米ドル価額は2,322,757.00米ドルであることを認めること(付加条項H(b))。
(7)初回用船支払期間及び最終用船支払期間が3か月を超えるか又は3か月未満である場合、当該期間についての用船料は、用船支払期間を90日間として、当該用船支払期間を超える実際の日数又は当該期間の実際の日数に応じてあん分計算されるものとし、前払いが行われる場合、上記に応じて行われるものとすること(付加条項H(c))。
(8)見直日の2か月から1か月前の期間中、見直日以降の用船料を船舶所有者及び用船者の協議により見直すこと。ただし、いかなる場合も、3か月当たりの総額は168,105,974円を下回ってはならないこと(付加条項H(g))。
(9)用船者は、船舶所有者に事前に書面で通知することにより、見直日に本件船舶を3,689,921,853円で買い取る選択権を行使することができること。船舶所有者及び用船者は、上記金額が、米ドル価額で支払われることに同意し、用船者は、米ドル価額が38,739,337.07米ドルであることを認めること(付加条項H(h))。
(10)約定損失補償額、スワップ損害費用及び損害
イ 用船者は、以下のいずれかの理由により本用船契約を早期終了する場合には、本用船契約に添付されている付属書類2に従って、船舶所有者に約定損失補償額を支払うものとすること(32(1))。
(イ)用船者側の不履行事象(債務不履行・支払不能等用船契約解約事由)が原因で、本用船契約が終了される場合
(ロ)本件船舶が第10条(d)項に記載の喪失又は行方不明となった場合
(ハ)本件船舶が第12条(d)項に記載の現実全損、推定全損又は協定全損となった場合
(ニ)本件船舶が第23条(b)項に記載の強制的取得の対象となった場合
(ホ)本用船契約が第24条(c)項の記載に従って、戦争の勃発により取り消された場合
(ヘ)本用船契約が第35条に従って終了される場合
 ただし、上記(ヘ)の場合、日本又はケイマン諸島の司法管轄権に帰することのできる何らかの理由により、第35条に従って本用船契約が終了される場合は、約定損失補償額は米ドル金額のみが支払われ、日本円金額は支払われないものとすること。
ロ  用船者は、以下のいずれかが発生した場合、スワップ損害費用から船舶所有者を免責すること(32(2))。
(イ)用船者側の不履行事象(債務不履行・支払不能等用船契約解約事由)が原因で、本用船契約が終了される場合
(ロ)本件船舶が第10条(d)項に記載の喪失又は行方不明となった場合
(ハ)本件船舶が第12条(d)項に記載の現実全損、推定全損又は協定全損となった場合
(ニ)本件船舶が第23条(b)項に記載の強制的取得の対象となった場合
(ホ)本用船契約が第24条(c)項の記載に従って、戦争の勃発により取り消された場合
(ヘ)本用船契約がパナマの司法管轄権に帰することのできる何らかの理由により、第35条に従って終了される場合
 不明瞭さを避けるため、日本又はケイマン諸島の司法管轄権に帰することのできる何らかの理由により、第35条に従って本用船契約が終了される場合は、船舶所有者がスワップ損害費用を負担することを確認すること。
ハ 用船者は、用船者側の不履行から生じ又はそれに関連して船舶所有者が被る損害並びに約定損失補償額及びスワップ損害費用を支払うものとする。船舶所有者は、船舶所有者側の不履行から生じ又はそれに関連して用船者が被る損害額を支払うものとすること(32(3))。
ニ 船舶所有者は、本第32条に従って用船者が約定損失補償額、スワップ損害費用(該当する場合)及び損害額(該当する場合)を船舶所有者に支払った時点で、本船舶及び本船舶に帰属するすべての物を用船者に譲渡し、移転する(32(4))。
(11)船舶の売却
 船舶所有者は、見直日までは、用船者の事前の書面による許可なく用船者以外の者に本件船舶を売却してはならない。ただし、見直日以降は、1か月前に書面で事前通知を用船者に行うことにより、本用船契約に基づく船舶所有者の権利及び義務並びに契約上の立場とともに、本件船舶を第三者に売却することができるが、当該通知から1か月の期間中に、用船者は先買権を与えられるものとすること(33)。
(12)不履行事象(債務不履行・支払不能等用船契約解約事由)
 船舶所有者は、以下のいずれかの事象(「不履行事象」)が起こった場合、書面で通知することにより、本用船契約を終了し、本件船舶を引き上げることができること(36)。
イ 第10条(e)項に記載の事象
ロ 第12条の245行目から251行目までの文章に記載の事象
ハ 用船者が、本用船契約で要求されている保険が適用されない場所又は方法で本件船舶を運転した場合
ニ 用船者又はその親会社が破産若しくは会社更生を申し立てた、又は用船者若しくはその親会社に対して破産若しくは会社更生が申し立てられた場合
ホ 用船者又はその親会社が支払不能となった、若しくは債務の支払期日に弁済ができなくなった若しくはできないとみなされた、若しくはできないことを認めた場合
ヘ 用船者又はその親会社が債務のいずれかについて支払一時停止を宣言した、若しくは債権者集会を開催し債権者との和議若しくは示談若しくは債権者のための譲渡を提案した若しくは行った、若しくは用船者又はその親会社の解散に関して申立てが行われた若しくは決議のための集会が招集された若しくはその他の措置が講じられた場合
ト 用船者又はその親会社の事業若しくは資産若しくはその一部を、抵当権者が占有した、若しくはそれらに関して管財人、管理委員、清算人、破産管財人、管理人、管理者、司法管理者若しくは同様の役員が任命された場合
(13)通知
 本用船契約に基づくすべての通知は、書面で行い、下記の住所の受取り側当事者の許可された代表者宛に、配達記録付きの書留郵便、宅配便、手渡し又はファクシミリで送達するものとすること(38)。
イ  船舶所有者への通知の場合
 P・リミテッド・パートナーシップ
 無限責任組合員 N社
(イ)住所 〒○○○ W県a市b町○○−○
               G社 内
(ロ)電話 ○○−○−○○○○−○○○○
(ハ)ファックス ××−×−××××−××××
(ニ)気付 ○○○○部
ロ 用船者への通知の場合
 R社
(イ)住所 〒○○○ W県c市d町○○−○
               M社 内
(ロ)電話 □□−□−□□□□−□□□□
(ハ)ファックス △△−△−△△△△−△△△△
(ニ)気付 ××××部
9 付属書類2として
 引渡日(1995年3月24日)及び用船料支払日(1995年6月30日から2005年3月31日までの間の各支払日)における用船者が船舶所有者に支払うべき約定損失補償額が、米ドル金額と日本円金額に区分され記載されていること。
 なお、2005年3月31日における約定損失補償額は、38,739,337.07米ドルである。

別紙9 M社の保証書

1 M社は、本件船舶の所有者であるP・リミテッド・パートナーシップと同船の用船者でありパナマ共和国にあるM社の1OO%子会社である本件用船者との間で、本保証書日付と同日付で同船の用船に関して締結される裸用船契約(同契約のその後の修正契約及び更新契約を含む。)に従い、本件用船者がP・リミテッド・パートナーシップに対して負うあらゆる義務(損害賠償、損失又は費用の支払を含む。)の履行を保証し、本保証は撤回不能とし、また、本件用船者の債務を連帯して支払うことに同意すること。
2 M社は、本保証書に基づくM社の義務がすべて履行されるまで、本件用船者に対する全株式を保有し続けることを約束すること。

別紙10 G社の保証書

1 G社は、ケイマン諸島にあるG社の100%子会社であり、ケイマン諸島の法律に基づき設立されたP・リミテッド・パートナーシップのゼネラルパートナーとして支払義務を負い、用船者である本件用船者と本件船舶の裸用船の船主P・リミテッド・パートナーシップとの間でまさに本保証書作成日に裸用船契約を締結したN社のすべての義務(損害、損失又は費用の支払を含む。)の遂行をここに取り消すことなく保証し、N社の当該義務を共同かつ個別に支払うことに同意すること。
2 G社は、本保証書に基づくG社のすべての義務が免じられるまで、N社の全株式を保有することを保証すること。

別紙11 船舶売買契約書〔1〕

1 本契約は、1995年3月23日に、パナマ共和国の法律に従って正式に組織され現存するU社(以下「売主」という。)とN社(以下「買主」という。)との間で締結され、〔1〕売主とJ社(以下「造船者」という。)は、1993年5月25日に造船契約を締結し、造船者は売主のために本件船舶を建造することに、売主は、本件船舶を造船者から購入することに合意し、〔2〕売主は、買主に本件船舶を売却して引き渡すことを希望し、買主は、売主から本件船舶を購入して、その引渡しを受け入れることを希望しており、よって、本契約の両当事者は以下のとおり合意すること(前文)。
2 購入価格
 船舶の購入価格は、現金で83,000,000ドル(支払は米ドルのみ)とすること(1)。
3 支払
 買主は、Z銀行○○本店の売主の口座又は売主が指定する他の銀行口座に、引渡日に有効な電信為替により購入価格を支払うものとすること(2.1)。
4 通知
 本契約に基づく各当事者への通知はすべて、下記住所宛に行われるものとすること(8.1)。
(1)売主に通知する場合
イ 住所 〒○○○ W県c市d町○○−○ M社 気付
ロ 電話 □□−□−□□□□−□□□□
ハ ファックス △△−△−△△△△−△△△△
ニ 宛先 ××××部
(2)買主に通知する場合
イ 住所 〒○○○ W県a市b町○○−○ G社 気付
ロ 電話 ○○−○−○○○○−○○○○
ハ ファックス ××−×−××××−××××
ニ 宛先 ○○○○部

別紙12 船舶売買契約書〔2〕

1 本契約は、1995年3月23日に、N社(以下「売主」という。)とK社(以下「買主」という。)との間で締結され、〔1〕U社とJ社(以下「造船者」という。)は、1993年5月25日に造船契約を締結し、造船者はU社のために本件船舶を建造することに、U社は、本件船舶を造船者から購入することに合意し、〔2〕U社と売主は同日付で契約覚書を締結し、U社は売主に本件船舶を売却し、〔3〕売主は、買主に本件船舶を売却して引き渡すことを希望し、買主は、売主から本件船舶を購入して、その引渡しを受け入れることを希望しており、よって、本契約の両当事者は以下のとおり合意すること(前文)。
2 購入価格
 船舶の購入価格は、現金で7,905,750,000円とすること(1)。
3 支払
 買主は、S銀行○○本店の売主の口座又は売主が指定する他の銀行口座に、引渡日に有効な電信為替により購入価格を支払うものとすること(2.1)。
4 通知
 本契約に基づく各当事者への通知は、すべて下記住所宛に行うこと(8.1)。
(1)売主に通知する場合
イ 住所 〒○○○ W県a市b町○○−○
     G社 気付
ロ 電話 ○○−○−○○○○−○○○○
ハ ファックス ××−×−××××−××××
ニ 宛先 ○○○○部
(2)買主に通知する場合
イ 住所 〒○○○ W県a市b町○○−○
ロ 電話 ○○−○−○○○○−○○○○
ハ ファックス ××−×−××××−××××
ニ 宛先 ○○○○部

別紙13 スワップ契約書〔1〕

 本契約は、1995年3月3日に以下の当事者間において締結されたものであること(前文)。
(1)N社
 ケイマン諸島の法律に基づき設立され存在する法人であり、登記簿上の事務所を#1−1,hStreet,gTown,Cayman Islandsに置くこと。
(2)P・リミテッド・パートナーシップ
 ケイマン諸島の法律に基づき組織され存在するリミテッド・パートナーシップであり、登記簿上の事務所を#1−1,hStreet,gTown,Cayman Islandsに置き、N社を代表者とすること。
1 定義
 以下の用語及び表現は、文脈上、異なった要求がある場合を除き、以下の意味を持つこと。
「営業日」:東京及びニューヨークにおいて銀行及び外国為替市場が営業のためにオープンしている日(土曜日及び日曜日を除く。)をいう。
「有効日」:1995年3月24日又は契約当事者によって文書で同意されたその他の営業日をいう。
「円量」:7,905,750,000円
「米ドル量」:83,000,000米ドル
2 通貨交換
 N社は、83,000,000米ドルと交換にP・リミテッド・パートナーシップに対して7,905,750,000円を支払い、P・リミテッド・パートナーシップは、7,905,750,000円と交換にN社に対して83,000,000米ドルを支払うこと。
3 口座
 第2条における支払は、次の口座に対して行うこと。
 N社宛:
  S銀行
  普通預金口座 No.○○○○
  受取人:N社
 P・リミテッド・パートナーシップ宛:
  S銀行
  普通預金口座 No.××××
  受取人:P・リミテッド・パートナーシップ
4 不履行
 もし、契約当事者の誰かが適切な通貨で適切な金額を支払うことができない場合は、他の契約当事者が被ったあらゆる又はすべての損害を他の契約当事者に弁済すること。
5 譲渡
 いずれの契約当事者も、他の契約当事者が事前の書面による承諾によって同意しなければ、本契約に基づく権利又は義務をいかなる第三者にも譲渡することはできないこと。
6 契約の修正
 本契約の条件と条項は、すべての契約当事者により正規に作成された文書によってのみ、変更又は修正することができること。
7 準拠法
 本契約は、日本の法律に準拠し、これに従って解釈されるものとすること。
8 上記の証として、本契約は、冒頭に期された年月日に、正式に権限を与えられた契約当事者のそれぞれの代表者により作成されたこと。

別紙14 スワップ契約書〔2〕

 本契約は、P・リミテッド・パートナーシップ(以下「甲」という。)がS銀行(以下「乙」という。)に差し入れた銀行取引約定書を承認の上、甲と乙の間に1995年3月3日付にて締結されたものであること(前文)。
1 定義
 本契約において使用する下記の用語の定義は、それぞれ以下に定めるところによること(1)。
(1)「取引開始日」とは、1995年3月24日をいう。
(2)「営業日」とは、東京、ロンドン及びニューヨークにおいて銀行が開店して営業を行っている日(土曜日を除く。)をいう。
(3)「支払日」とは、1995年6月30日を初回とし最終期限(同日を含む。)までの毎年3月31日、6月30日、9月30日、12月31日及び最終期限をいう。ただし、その日が営業日以外の日に該当する場合には、その直前に到来する営業日をもって支払日とする。
(4)「米ドル建固定利率」とは年率7.625%を意味する。
(5)「円貨建固定利率」とは年率4.20%を意味する。
(6)「計算期間」とは、初回は取引開始日(同日を含む。)に始まり初回の支払日の前日(同日を含む。)までの期間をいい、次回以降は各支払日(同日を含む。)に始まり次の支払日の前日(同日を含む。)までの各期間をいう。
(7)「計算期間日数」とは、各計算期間におけるその実経過日数(初日及び末日を含む。)をいう。
(8)「米ドル建元本金額」とは、後記別表1に掲げる各計算期間に応じた計算元本金額をいう。
(9)「円貨建元本金額」とは、後記別表2に掲げる各計算期間に応じた計算元本金額をいう。
(10)個々の支払日についていう「米ドル建元本払金額」及び「米ドル建利払金額」とは、後記別表3に掲げる各支払日に応じた元本払金額及び利払金額をいう。
(11)個々の支払日についていう「円貨建元本払金額」及び「円貨建利払金額」とは、後記別表4に掲げる各支払日に応じた元本払金額及び利払金額をいう。
(12)「最終期限」とは、2005年3月31日をいう。ただし、その日が営業日以外の日に該当する場合には、その直前に到来する営業日をもって最終期限とする。
2 米ドル建元本金額と円貨建元本金額の交換についての合意(2)
(1)本契約において別段の明文の定めがある場合を除き、甲は取引開始日に乙に対して米ドル建元本金額(US$83,000,OOO.00)と交換に円貨建元本金額(7,905,750,OOO円)を支払うことを約し、乙は取引開始日に甲に対して円貨建元本金額(7,905,750,OOO円)と交換に米ドル建元本金額(US$83,000,OOO.00)を支払うことを約すること。
(2)本契約において別段の明文の定めがある場合を除き、甲は各支払日及び最終期眼に乙に対して円貨建元本払金額と交換に米ドル建元本払金額を支払うことを約し、乙は各支払日及び最終期限に甲に対して米ドル建元本払金額と交換に円貨建元本払金額を支払うことを約すること。
3 米ドル建利払金額と円貨建利払金額の支払についての合意(3)
(1)本契約において別段の明文の定めがある場合を除き、各支払日に甲は当該米ドル建利払金額を、乙は当該円貨建利払金額をそれぞれ相手方に支払う債務を負担するものとすること。
(2)乙は各支払日の7営業日前までに、当該支払日における米ドル建利払金額及び円貨建利払金額を計算の上、これを甲に通知するものとすること。
4 支払についての特約(5)
 第2条第1項及び第2項に定める元本金額及び元本払金額の交換における支払及び第3条第1項に定める利払金額の支払は、以下のとおりとすること。
(1)甲が乙に支払う米ドル建元本払金額及び米ドル建利払金額は、乙における甲名義の下記外貨預金口座からの自動支払の方法によるものとする。
 この場合、乙は甲が支払う米ドル建元本払金額及び米ドル建利払金額については、外貨預金約定にかかわらず外貨預金払戻請求書によらず下記外貨預金口座から払戻しの上、充当することができるものとする。
(2)甲が乙に支払う円貨建元本金額は、乙における甲名義の下記円預金口座からの自動支払の方法によるものとする。
 この場合、乙は甲が支払う円貨建元本金額については、当座勘定規定又は普通預金規定にかかわらず、当座小切手又は普通預金通帳及び同払戻請求書によらず預金口座から払戻しの上、充当することができるものとすること。
(3)乙が甲に支払う米ドル建元本金額は、乙における甲名義の下記外貨預金口座への入金の方法によるものとする。
(4)乙が甲に支払う円貨建元本払金額及び円貨建利払金額は、乙における甲名義の下記円預金口座への入金の方法によるものとする。

店名預金種目口座番号
入金・支払用円預金口座  ○○営業部普通預金○○○○
入金・支払用外貨預金口座 ○○営業部外貨普通預金○○○○

5 別表1として
 取引開始日から最終期限までの各計算期間における米ドル建元本金額は、それぞれ「米ドル建元本金額」欄に記載された金額であること。
6 別表2として
 取引開始日から最終期限までの各計算期間における円貨建元本金額は、それぞれ「円貨建元本金額」欄に記載された金額であること。
7 別表3として
 支払日における米ドル建元本払金額及び米ドル建利払金額は、それぞれ「米ドル建元本払金額」欄及び「米ドル建利払金額」欄に記載された金額であり、1995年6月の支払日における米ドル建元本払金額と米ドル建利払金額の合計額は2,529,224.29米ドル、1995年9月から2004年12月までの各支払日における米ドル建元本払金額と米ドル建利払金額の合計額はそれぞれ2,322,757米ドル、最終期限における米ドル建元本払金額と米ドル建利払金額の合計額は41,062,094.01米ドルであること。
8 別表4として
 支払日における円貨建元本払金額及び円貨建利払金額は、それぞれ「円貨建元本払金額」欄及び「円貨建利払金額」欄に記載された金額であり、1995年6月の支払日における円貨建元本払金額と円貨建利払金額の合計額は183,048,727円、1995年9月から2004年12月までの各支払日における円貨建元本払金額と円貨建利払金額の合計額はそれぞれ168,105,974円、最終期限における円貨建元本払金額と円貨建利払金額の合計額は3,858,027,823円であること。

トップに戻る