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(平16.6.3裁決、裁決事例集No.67 291頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、譲渡に際して支払った茶室設備の解体移転のための費用が所得税法第33条《譲渡所得》第3項に規定する資産の譲渡に要した費用に該当するか否かを争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 審査請求人(以下「請求人」という。)は、平成13年分の所得税の確定申告書に別表の「確定申告」欄のとおり記載して法定申告期限までに申告した。
ロ 請求人は、平成15年3月17日に、上記イの申告について租税特別措置法第36条の6《特定の居住用財産の買換え及び交換の場合の長期譲渡所得の課税の特例》(以下、この規定を「居住用財産の買換え特例」という。)を適用すべきであるとして、別表の「更正の請求」欄のとおりの更正の請求をした。
ハ 原処分庁は、これに対し、平成15年7月1日付で更正をすべき理由がない旨の通知処分(以下「本件通知処分」という。)をした。
ニ 請求人は、この処分を不服として、平成15年8月31日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年11月28日付でこれを棄却する旨の異議決定をした。
ホ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成15年12月27日に審査請求をした。
 なお、請求人は、居住用財産の買換え特例の適用を本件審査請求の理由としていたが、これを取り下げ、資産の譲渡に要した費用の控除漏れを理由とする旨に変更した。

(3)関係法令等

イ 所得税法第33条《譲渡所得》第3項では、譲渡所得の金額は、その年中の当該所得に係る総収入金額から当該所得の基因となった資産の取得費及びその資産の譲渡に要した費用(以下「譲渡費用」という。)の額の合計額を控除し、その残額の合計額から譲渡所得の特別控除額を控除した金額とする旨規定している。
ロ 所得税基本通達(昭和45年7月1日付国税庁長官通達)33−7《譲渡費用の範囲》では、所得税法第33条第3項に規定する「譲渡費用」とは、資産の譲渡に係る次に掲げる費用をいう旨定めている。
(イ)資産の譲渡に際して支出した仲介手数料、運搬費、登記若しくは登録に要する費用その他当該譲渡のために直接要した費用
(ロ)上記(イ)に掲げる費用のほか、借家人等を立ち退かせるための立退料、土地を譲渡するためその土地の上にある建物等の取壊しに要した費用、既に売買契約を締結している資産を有利な条件で他に譲渡するため当該契約を解除したことに伴い支出する違約金その他当該資産の譲渡価額を増加させるため当該譲渡に際して支出した費用

(4)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、平成13年1月26日に、P市p町○番地○及び同所○番地○に所在する鉄骨鉄筋コンクリート造陸屋根地下1階付16階建の建物のうち14階部分の○○号室(以下「本件専有部分」という。)の利用権をD株式会社に本件専有部分の利用権に係る保証金を含めて106,986,463円で売却した(以下「本件譲渡」という。)。
ロ 請求人は、本件専有部分に造った茶室設備(以下「本件茶室」という。)を、平成13年12月6日に移築工事費用としてE有限会社(以下「E社」という。)へ6,700,00円(領収証は7,700,000円。以下「本件移築費用」という。)を支払い、現在の請求人住所地に移設した。

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2 主張

(1)請求人

 本件移築費用は、本件譲渡の際に支払った費用であるから、所得税法第33条第3項の「譲渡費用」に該当し、譲渡所得の金額の計算上控除すべきである。
 したがって、原処分の一部の取消しを求める。

(2)原処分庁

 原処分は、次のとおり適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 原処分庁の調査によれば、次の事実が認められる。
(イ)請求人が平成15年3月17日に平成13年分所得税の更正の請求書とともに提出した「譲渡所得の内訳書(計算明細書)【土地・建物用】」には、居住用財産の買換え特例の適用として買換取得した資産の購入代金などの費用として、項目を「工事費」、支払先を「E社」、支払金額を「7,403,860円」の記載がある。
(ロ)E社が請求人に宛てた平成13年9月20日付「見積書」には、次の記載がある。
A 受渡し場所は、「Fマンション○○○号室」である。
B 合計は「7,403,860円」、税込み合計金額は「7,774,053円」である。
C 摘要は「本件茶室」である。
(ハ)E社が請求人に発行した平成13年12月6日付「領収証」には、金額7,700,000円、本件茶室工事代金と記載がある。
ロ 所得税法第33条第3項は、上記1の(3)のイのとおり規定しているところ、「譲渡費用」とは、資産の譲渡のために直接要した費用、資産の譲渡価額を増加させるために支出した費用と解されており、具体的には、資産の譲渡に際して支出した仲介手数料、運搬費、登記若しくは登録に要する費用のほか、土地を譲渡するためにその土地の上にある建物等の取壊しに要した費用、既に売買契約を締結している資産を更に有利な条件で他に譲渡するため当該契約を解除したことに伴い支出する違約金などが当たる。
ハ そして、本件移築費用は、上記イの各事実から、平成13年1月26日に請求人が取得した「Fマンション○○○号室」に係る支出であると認められ、請求人が譲渡した本件専有部分の利用権に係る支出とは認められないことから、本件譲渡に要した費用として譲渡所得の金額から控除することはできない。

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3 判断

 本件は、本件移築費用が、譲渡所得の金額の計算上、譲渡費用に該当するか否かに争いがあるので、以下審理する。

(1)認定事実

 原処分関係資料、請求人の答述及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
イ 請求人とD株式会社との間で締結された平成12年11月14日付利用権等売買契約書によれば、本件譲渡の対象資産は、本件専有部分に係る契約上の地位(昭和56年12月25日付の建物利用権設定契約、建物利用権保証金約款、建物利用権設定契約に関する所有者の保証契約及び建物管理契約に基づく一切の権利)である。
ロ E社が当審判所に提出した平成13年5月16日付の工事の見積書の写しによれば、本件移築費用は、「本件茶室」解体移築工事として、〔1〕天井、造作及び柱材などの取りはずしと搬出費及び使用材の洗いと乾燥費等の4,151,840円、〔2〕搬入費及び建方・造作・左官工事費等の2,163,500円となっており、本件茶室を本件専有部分から取り外して現在居住しているマンション室内に据え付けるためのものである。

(2)請求人の答述

イ 本件茶室は、昭和48年頃に造らせたもので具体的にどの位の金額を要したかは不明であるが、設備に高額の材料を取り寄せて据え付けたものであり、請求人は本件譲渡によって本件茶室を消失したくないと考えていた。
ロ 本件建物の明渡しの時期については、本件茶室を移転するマンションの売買契約をしてからとする条件で交渉し、現在住んでいるマンションならば本件茶室を移転することができるため、平成13年1月26日に「Fマンション○○○号室」を取得した。

(3)本件移築費用について

イ 所得税法第33条第3項に規定する譲渡費用については、法令上特段の定めがないが、譲渡所得の課税が譲渡資産の保有期間中に発生している資産の値上がりによる増加益について譲渡行為によって実現したときに所得として課税するものであることから、譲渡の際に支出する仲介手数料などの譲渡のために直接要した費用をいうものと解され、所得税基本通達では具体的な例示を掲げてその解釈を定めている。
 そして、当該通達をみると、上記1の(3)のロのとおりであり、譲渡のために直接要した費用のほか、資産の譲渡価額を増加させるため譲渡に際して支出した費用も譲渡費用とする旨定めており、このことは、譲渡所得の課税が資産の値上がりによる価値の増加益に対するものであるといっても、その所得を実現するためには譲渡者の努力とか手腕とかが必要であって、より多くの所得を得るために寄与したと認められる支出があるならば、その費用は、譲渡所得に対応するものと考え譲渡費用に含めることとしているものと解される。
ロ これを本件でみると、次のとおり判断される。
(イ)「譲渡のために直接要した費用」の該当性
 本件譲渡の対象資産は本件専有部分に係る契約上の地位であって、本件茶室は本件譲渡の対象資産ではないから、本件移築費用が譲渡のために直接要した費用とならないことは明らかである。
(ロ)「資産の譲渡価額を増加させるため譲渡に際して支出した費用」の該当性
 本件移築費用は、上記(1)のロのとおり、本件茶室を請求人の現在の住所地に移築するための支出であり、このことは、請求人の答述においても明らかであるから、本件移築費用は、いわば、本件茶室の保存のため、本件茶室を現在の住所地に設置するための一連の工事費と認められるものであって、本件譲渡のための支出ではなく、このことによって、本件専有部分の譲渡価額に何ら影響するものでもない。
 したがって、本件移築費用は、資産の譲渡価額を増加させるため譲渡に際して支出した費用に該当しない。
(ハ)これに対し、請求人は、本件移築費用が本件譲渡の際に支出したものであるから譲渡費用に該当する旨主張する。
 しかしながら、本件移築費用は、上記(イ)及び(ロ)のとおり、「譲渡のために直接要した費用」及び「資産の譲渡価額を増加させるため譲渡に際して支出した費用」のいずれにも該当しないから、本件移築費用を本件譲渡に際して支払ったとしても、このことをもって所得税法第33条第3項に規定する譲渡費用となるものではない。
ハ 以上のとおり、請求人の主張には理由がなく、本件移築費用が譲渡費用に該当しないから、譲渡所得の金額の計算上、本件移築費用を控除しないで行った本件通知処分は適法である。

(4)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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