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(平16.5.17裁決、裁決事例集No.67 401頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、破産宣告を受けた法人が経営するゴルフ場に係るゴルフ会員権について、所得税法第33条《譲渡所得》第1項に規定する譲渡所得の対象となる資産に該当するか否かを争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 審査請求人(以下「請求人」という。)は、平成13年分の所得税について、青色の確定申告書に次表の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告した。

項目/区分確定申告更正処分等
総所得金額9,710,339円9,710,339円
内訳
不動産所得の金額4,151,2164,151,216
給与所得の金額3,159,2003,159,200
雑所得の金額2,399,9232,399,923
総合長期譲渡所得(△6,258,000)0
分離長期譲渡所得の金額7,629,03213,887,032
納付すべき税額○○○○○○○○
過少申告加算税の額 125,000

(注)「確定申告」欄の分離長期譲渡所得の金額は、分離長期譲渡所得14,887,032円から、総合長期譲渡所得(ゴルフ会員権の譲渡)の損失金額6,258,000円を控除し、さらに、租税特別措置法第31条《長期譲渡所得の課税の特例》第4項に規定する特別控除額1,000,000円を控除した後の金額を表す。
ロ 原処分庁は、これに対して、平成15年6月30日付で上表の「更正処分等」欄のとおりの更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
ハ 請求人は、これらの処分を不服として、平成15年8月1日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年10月22日付で棄却の異議決定をした。
ニ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成15年11月19日に審査請求をした。

(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によっても、その事実が認められる。
イ 請求人は、平成2年3月29日に、A株式会社(以下「A社」という。)が経営するBカントリークラブ(以下「本件ゴルフクラブ」という。)の預託金会員制のゴルフ会員権(個人正会員:証書番号○○−○○○号。以下「本件会員権」という。)を6,268,000円(名義書換料及び取引手数料を含む。)で取得した。
ロ A社は、平成13年5月10日に○○地方裁判所より破産宣告(破産事件:平成○年(○)第○○○号。以下「本件破産宣告」という。)を受けた。
 その後、請求人は、○○地方裁判所に対して、本件会員権の入会預託金1,200,000円について破産債権とする旨の届出を行ったところ、平成13年9月19日にA社の破産管財人より年会費の未納分を控除した額を債権額とする旨の通知を受けた。
ハ C株式会社が作成した平成13年11月29日付「ゴルフ会員権取引計算書」と題する書面によれば、請求人は本件会員権を代金60,000円、取引手数料50,000円で取引(譲渡)する旨記載がある(以下、当該取引を「本件取引」という。)。
ニ 破産管財人が平成15年4月1日付で本件ゴルフクラブの会員に対して送付した書面には、要旨次のとおりの記載がある。
(イ)平成15年4月1日午前零時よりD株式会社及びE株式会社(以下、両社を併せて「引受会社」という。)が、本件ゴルフクラブの新たな経営法人となり、ゴルフ場の名称を「Fカントリークラブ」(以下「新ゴルフクラブ」という。)として経営を開始する。
(ロ)平成15年4月1日午前零時をもって本件ゴルフクラブの営業の全部を終了し、本件ゴルフクラブの会員資格については、営業終了と同時に会員及び全準会員共にすべて終了する。
(ハ)本件ゴルフクラブの各会員がA社に預託したお金は既にゼロであり、A社から引受会社には預託金返還債務は、一切引き継がれない。
(ニ)プレー資格については、平成15年4月1日午前零時現在における本件ゴルフクラブの旧会員のうち、引受会社の指定する方法により新規登録申込みをし、指定のカード利用と平成15年度会費を支払った者のみ認める。
(ホ)新規登録完了後の新ゴルフクラブでのプレー資格も、平成15年4月1日午前零時現在における本件ゴルフクラブの旧会員その人の身代(一代)に限る。
ホ 請求人は、本件取引はゴルフ会員権の譲渡に当たるとして総合長期譲渡所得により生じた損失を分離長期譲渡所得により生じた利益と通算して申告したところ、原処分庁は、本件取引は総合長期譲渡所得に当たらず、譲渡所得内の通算はできないとして本件更正処分をした。

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2 主張

(1)請求人

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 本件更正処分について
(イ)本件ゴルフクラブは、A社が破産宣告を受けた後も引き続きプレーをすることが可能であり、本件破産宣告によって破産債権に移行するのは預託金返還請求権のみであって、「プレーをする権利」ないしは「プレーができる権利」は、破産債権とはならないから、本件会員権に係る施設利用権は消滅していない。
 また、施設利用権が消滅する日は、破産宣告の日ではなく破産管財人の任務終了の日と解すべきであり、そうすると、本件取引の時期において本件会員権は譲渡所得の対象となる資産に該当する。
 なお、上記1の(3)のニのとおり、新ゴルフクラブは、本件ゴルフクラブの旧会員が有する施設利用権を承継することになっているので、破産宣告後のプレー権の行使は破産管財人の便宜供与であるとの原処分庁の認定は、事実誤認である。
(ロ)ゴルフ会員権の譲渡が、民事再生法の適用の場合には譲渡所得となり、破産法の適用の場合には譲渡所得とはならないと取扱いが法律によって異なるのは、形式的であり、かつ、著しく公正を欠いている。
(ハ)以上のとおり、本件会員権は、譲渡所得の対象となる資産に該当することから、本件会員権の譲渡により生じた損失を分離長期譲渡所得により生じた利益と通算することができる。
ロ 本件賦課決定処分について
 上記イのとおり、本件更正処分は違法であるので、本件賦課決定処分も違法である。

(2)原処分庁

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 本件更正処分について
(イ)破産は、破産宣告の時より効力を生じるから、A社が破産宣告を受けた日以後は、本件ゴルフクラブの管理処分権は破産管財人に専属し、A社自らが本件ゴルフクラブの施設をその会員に対して利用させることはできない。
 また、本件取引により、本件会員権に内包する施設利用権が新しいオーナーに承継されているという事実は認められない。
 したがって、破産宣告を受けた日において、A社と本件ゴルフクラブの会員との間にある優先的施設利用契約に基づく当該会員の施設利用権は消滅しており、当該会員が破産宣告後も施設利用ができるのは、破産管財人の便宜供与であると認められる。
(ロ)譲渡の時において、ゴルフ会員権が譲渡所得の基因となる資産に該当するか否かは、ゴルフ会員権としての性質を有しているか否かによって判断されるべきものであり、民事再生法又は破産法といった法律の違いによって判断を異にしているものではない。
(ハ)したがって、本件会員権は、譲渡所得の基因となる資産に該当しないので、本件取引は総合長期譲渡所得に当たらず、譲渡所得内の通算はできないことから、本件更正処分は適法である。
ロ 本件賦課決定処分について
 本件更正処分は、上記イのとおり適法であり、請求人の場合、国税通則法第65条第4項に規定する「正当な理由があると認められるものがある場合」に該当するとは認められないことから、本件賦課決定処分は適法である。

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3 判断

 本件ゴルフ会員権が譲渡所得の対象となる資産に該当するか否かについて争いがあるので、以下審理する。

(1)本件更正処分について

イ 所得税法第33条の解釈
(イ)所得税法第33条第1項は、譲渡所得とは、資産の譲渡による所得をいう旨規定するところ、譲渡所得の基因となる資産とは、同条第2項各号に規定する資産及び金銭債権以外の、一般にその経済的価値が認められて取引の対象とされる資産価値の増加益又は減少損を生ずるようなすべての資産をいうものと解される。
(ロ)ところで、預託金会員制のゴルフ会員権とは、ゴルフクラブの会員となる者が、ゴルフ場の経営法人に入会保証金を預託し、かつ、ゴルフクラブと入会契約を締結することによって生ずる、〔1〕ゴルフ場施設を一般の利用者に比して有利な条件で継続的に利用できる権利(以下「優先的施設利用権」という。)、〔2〕預託金据置期間経過後退会時の預託金返還請求権及び〔3〕年会費納入の義務からなる契約上の地位を総称しているものと解されている。
 そして、この契約上の地位の法的性質をみると、ゴルフ会員権は、会員となろうとする者が預託金を払い込むことにより会員資格を取得し、優先的施設利用権を有することとなることがその基本的な部分を構成するものであるから、主として預託金の支払と優先的施設利用権の取得とが対価性を有するところの双務契約(年会費支払義務がある場合の年会費支払も対価関係の一部と考えられる。)であると解されている。
 そうすると、ゴルフ会員権は、これらの権利義務が一体不可分となって経済的価値を有した一つの資産として、売買等によって他の者に移転されることから、譲渡所得の基因となる資産に該当するものと解される。
ロ 破産宣告を受けたゴルフ場のゴルフ会員権について
(イ)預託金会員制のゴルフ会員権は、ゴルフ場の優先的施設利用権と預託金返還請求権とが内在しているものであるから、ゴルフ場を所有又は経営する法人が破産した場合には、これらの権利は、破産法第15条《破産債権の意義》の規定により破産宣告前の原因に基づいて生じた財産上の請求権たる破産債権となり、同法第142条《破産宣告と同時に決定する事項》第1項の規定に基づき、ゴルフ会員権者は、破産裁判所に当該ゴルフ会員権を破産債権として届け出ることにより、破産債権者として破産手続によってその権利行使を行うことができることとなる。
(ロ)具体的には、預託金返還請求権は、破産法第17条《期限付債権の弁済期到来》の規定により破産宣告の時において弁済期に至ったものとみなされるから、預託金の金額において届け出られることで破産債権としての権利行使が可能となり、一方、優先的施設利用権は、破産法第22条《非金銭債権・不確定債権の額》の規定により債権の目的が金銭でないときは破産宣告の時における評価額とすることから、破産宣告時の評価額により届け出られることで破産債権としての権利行使が可能となる。
 この場合、預託金会員制のゴルフ会員権が対価性を有する双務契約であることからすると、その優先的施設利用権の金銭的評価は、預託金返還請求権と同一の評価となり、破産債権としては預託金返還請求権として届出た破産債権の中に実質的に吸収されることになる。
(ハ)また、破産法第16条《破産債権の行使》は、破産債権は破産手続によってのみ行使でき、個別的に権利行使することが禁止されているから、破産宣告後においては、ゴルフ会員権者の権利は、すべて破産債権として金銭化され、もはや優先的施設利用権として、ゴルフ場を所有又は経営する法人に対して施設利用を請求することはできないと解される。
 なお、このことはゴルフ場が破産宣告後において営業継続している場合であっても同様である。
(ニ)そうすると、ゴルフ場を所有又は経営する法人が破産し、その破産宣告を受けた後においては、ゴルフ会員権が有する契約上の地位に基づく優先的施設利用権などの権利は、破産債権としての金銭債権に変更されることとなると解するのが相当である。
 したがって、破産宣告後の預託金会員制のゴルフ会員権は金銭債権となるから、譲渡所得の基因となる資産に該当しない。
ハ 本件会員権について
(イ)本件会員権は、上記1の(3)のロ及びハのとおり、本件取引があった平成13年11月29日において、本件破産宣告を受けた後の預託金会員制のゴルフ会員権であるから、上記ロの(ニ)のとおり、本件会員権は譲渡所得の基因となる資産に該当しない。
(ロ)これに対し、請求人は、破産宣告後においても本件ゴルフクラブにおいて引き続きプレーすることができ、このプレーする権利は破産債権にならないから、本件会員権は譲渡所得の対象となる資産に該当する旨主張する。
 しかしながら、破産宣告を受けたゴルフ場の預託金会員制のゴルフ会員権については、上記ロのとおり、破産宣告によって、優先的施設利用権を含むすべての権利が破産債権に変更されるから、プレーする権利は破産債権とならないとする請求人の主張には理由がない。
 ところで、本件ゴルフクラブは破産宣告後においても引き続き営業を継続しており、本件ゴルフクラブの会員は従前と同様にプレーすることができるとされているが、本来、破産法による破産の法的整理が、破産者の総財産を破産財団とし、その破産財団を換価して債権者に対して公平に配当することにあるから、破産宣告後の営業の継続は、破産財団となったゴルフ場を換価するまでの期間、その財産的価値の保全を図る(ゴルフ場をそのまま放置するとその施設は荒れ放題となりその価値が低下するのは明らかである。)ことに破産管財人の最大目的があるのであって、破産管財人が、破産したゴルフ場の清算のための手段と手続の過程として、本件ゴルフ場の営業を継続し、本件ゴルフクラブの会員にそのプレーを許諾しているものと考えられる。
 そうすると、破産宣告後の営業継続によるプレーする権利は、預託金会員制のゴルフ会員権が持つ対価性を有するところの双務契約に基づく権利とは認められないから、預託金会員制のゴルフ会員権が持つ優先的施設利用権と同一のものと解することはできない。
 したがって、破産宣告後の営業継続によるプレーする権利があるからといって、本件会員権に優先的施設利用権が存することとはならないから、本件会員権が譲渡所得の対象となる資産に該当するとする請求人の主張には理由がない。
 なお、請求人は、新ゴルフクラブが本件ゴルフクラブの会員の施設利用権を承継する旨主張するが、この承継は、破産管財人が、本件ゴルフクラブの会員の保護を目的として、本件ゴルフ場の破産手続において引受者との換価条件として合意しているものであって、そこに何ら法的制約が存在していたものではないから、このことをもって本件会員権に優先的施設利用権が存していたと解することはできない。
(ハ)また、請求人は、ゴルフ会員権が、破綻手続の法律によって取扱いが異なるのは、形式的であり、かつ、著しく公正を欠いている旨主張するが、預託金会員制のゴルフ会員権が契約上の地位を総称しているものである以上、破綻したゴルフ場の法的整理の適用法によって、そのゴルフ会員権の権利義務関係が法的内容において異なることとなるから、本件会員権についても、本件ゴルフ場の破綻手続において適用された破産法の法的効果によって判断されるべきものである。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ニ 以上のとおり、本件会員権は、譲渡所得の基因となる資産に該当しないから、本件会員権の譲渡は、譲渡所得の対象とはならない。
 したがって、本件会員権の譲渡による損失は他の所得と損益通算ができないから、請求人の平成13年分の納付すべき税額は○○○○円となり、この金額と同額でした本件更正処分は適法である。

(2)本件賦課決定処分について

 本件更正処分は、上記(1)のとおり、適法であり、また、同処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が、同処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定に基づいてなされた本件賦課決定処分は適法である。

(3)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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