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(平16.6.1裁決、裁決事例集No.67 412頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、会社役員である審査請求人(以下「請求人」という。)が預託金会員制ゴルフ会員権をゴルフ場経営会社に譲渡したとする行為が、所得税法第33条《譲渡所得》第1項に規定する資産の譲渡に該当し、これにより生じた損失の金額を同法第69条《損益通算》第1項の規定を適用して他の所得の金額から控除することができるか否かを争点とする事案である。

(2)審査請求に至る経緯

 審査請求(平成15年12月18日請求)に至る経緯及び内容は、別表のとおりである。

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2 平成13年分の更正処分について

(1)基礎事実

 次の事実については、請求人と原処分庁の間に争いはなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
 請求人は、平成2年10月25日にE株式会社から、F株式会社(以下「F社」という。)が経営するGカントリークラブ(以下「Gクラブ」という。)の預託金会員制ゴルフ会員権(以下「G会員権」という。)を6,800,000円で購入し、同年11月4日に名義書換登録料824,000円をF社に支払った。

(2)主張

 当事者の主張は、次のとおりである。
請求人
 請求人は、7,624,000円で取得したG会員権を、F社に預託金券面金額1,000,000円で譲渡した。
 この譲渡は、所得税法第33条第1項に規定する譲渡所得の起因となる資産の譲渡に該当するため、譲渡代金1,000,000円と取得価額7,624,000円との差額6,624,000円を譲渡損失として、同法第69条第1項の規定に基づき損益通算をすることができる。
原処分庁
 請求人は、F社に対して、G会員権の預託金の返還を求め、F社は、請求人の求めに応じて預託金返還処理及び請求人のGクラブ退会処理を行ったもので、これらの一連の行為は、請求人がG会員権の預託金返還請求権を行使したにすぎないことから、所得税法第33条第1項に規定する譲渡所得の起因となる資産の譲渡に該当せず、よって、その損失額については、同法第69条第1項の規定に基づく損益通算をすることができない。

(3)判断

イ 認定事実
 原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
(イ)Gカントリークラブ会則(以下「Gクラブ会則」という。)には、要旨次のとおりの定めがある。
A 名義書換による新名義人の預託金返還は、名義書換最終決済日より起算して7ヶ年の据置きとする(第13条)。
B 会員は、譲渡、退会、死亡及び除名の場合、その資格を失う(第15条)。
C Gクラブを退会する場合は、その旨書面をもって届け出て理事会の承認を得るものとする(第16条)。
(ロ)請求人は、平成13年9月10日、F社にGクラブ会則第16条に基づく退会届及びG会員権の会員証を提出した。
 F社は、同日、請求人に対し、小切手及び約束手形により、預託金1,000,000円を返還した。
ロ 所得税法の規定について
(イ)所得税法第33条第1項は、譲渡所得とは、資産の譲渡による所得をいう旨規定しており、当該譲渡とは、売買のほか、交換、収用、競売、公売、代物弁済等(以下「売買等」という。)により資産を他の者に移転させる行為を総称したものをいい、また、同項にいう資産とは、同条第2項各号に規定する棚卸資産等及び金銭債権以外の資産価値の増加益を生ずべき資産と解される。
(ロ)所得税法第69条第1項は、総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額を計算する場合において、不動産所得の金額、事業所得の金額、山林所得の金額又は譲渡所得の金額の計算上生じた損失の金額があるときは、これを他の各種所得の金額から控除する旨規定している。
ハ 預託金会員制ゴルフ会員権について
(イ)預託金会員制ゴルフ会員権は、ゴルフクラブの会員となる者が、ゴルフ場経営法人に入会金を預託し、かつ、当該ゴルフクラブと入会契約を締結することによって生ずる〔1〕ゴルフ場施設を一般の利用者に比して有利な条件で継続的に利用できるという事実上の権利(以下「ゴルフ場施設の優先利用権」という。)、〔2〕預託金返還請求権及び〔3〕年会費納入等の義務という債権債務からなる契約上の地位を総称したものであり、当該ゴルフ会員権の譲渡が所得税法第33条第1項に規定する資産の譲渡として取り扱われているのは、売買等により金銭債権たる預託金返還請求権と年会費納入等の義務と併せてゴルフ場施設の優先利用権とが一体不可分となって他の者に移転されることによるものと解される。
(ロ)このため、預託金会員制ゴルフ会員権の所有者がゴルフクラブからの退会に伴い預託金の返還を受けた場合は、当該ゴルフ会員権がゴルフ場施設の優先利用権を内在した状態でゴルフ場経営法人に移転するものではなく、当該ゴルフ会員権の所有者自らがゴルフ場施設の優先利用権を消滅させ、預託金という金銭債権の回収を行ったものであり、所得税法第33条第1項に規定する資産の譲渡には当たらないと解するのが相当である。
ニ これを本件について見ると、上記イによれば、請求人はF社に対して退会届を提出しており、これを受けてF社は、会員資格消滅事由のうちの退会に該当するとして、預託金の返還手続を行っている。
 そうすると、Gクラブを退会し、預託金の返還を受けた請求人の行為は、金銭債権の回収というべきであり、所得税法第33条第1項に規定する資産の譲渡には該当せず、譲渡所得の計算上、譲渡損失も発生しないため、同法第69条第1項の規定に基づく損益通算をすることはできない。
 したがって、平成13年分の更正処分は適法である。

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3 平成14年分の更正処分について

(1)基礎事実

 次の事実については、請求人と原処分庁の間に争いはなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
イ 請求人が、平成5年12月27日にH株式会社(以下「H社」という。)から購入したと主張する、Jカントリー株式会社(以下「J社」という。)が経営するJカントリークラブ(以下「Jクラブ」という。)の会員番号第○○号の預託金会員制ゴルフ会員権(以下「J会員権」という。)は、K名義である。
ロ J社は、○○地方裁判所により、平成14年5月31日会社更生法による更生手続開始決定を受けた。

(2)主張

 当事者の主張は、次のとおりである。
請求人
イ J会員権の所有者について
 請求人は、平成5年12月27日に、H社から、J会員権を4,120,000円で購入した。
 また、J会員権の名義はKになっているが、請求人が真実の所有者であるからこそ、請求人がJ会員権の会員証を所持していたものである。
ロ J会員権の譲渡について
 請求人は、4,120,000円で購入したJ会員権を、J社が会社更生法に基づく更生手続開始決定を受けたため、平成14年11月14日に同社に対し無償で譲渡した。
 この譲渡は、所得税法第33条第1項に規定する譲渡所得の起因となる資産の譲渡に該当するため、取得価額4,120,000円を譲渡損失として、同法第69条第1項の規定に基づき損益通算をすることができる。
 なお、更生債権の届出書を期限までに○○地方裁判所第○民事部(以下「本件地裁」という。)に対し提出しなかったため、J会員権の預託金返還請求権は失ったが、同会員権のゴルフ場施設の優先利用権は失っていない。
原処分庁
イ J会員権の所有者について
 J会員権の名義がKである上、請求人は自らが真実の所有者であることにつき何らの証拠資料を提出していないことから、その所有者は請求人であるとは認められない。
ロ J会員権の譲渡について
 仮に、J会員権の所有者が請求人であったとしても、本件地裁に対する更生債権の届出が平成14年7月31日までに行われておらず、預託金返還請求権は喪失していることになる。
 このため、J社へJ会員権の会員証が返却された平成14年11月14日時点において、預託金返還請求権と不可分の関係にあるゴルフ場施設の優先利用権も喪失していることから、請求人が主張する同会員権の譲渡は所得税法第33条第1項に規定する譲渡所得の起因となる資産の譲渡に該当せず、よって、その損失額については、同法第69条第1項の規定に基づく損益通算をすることができない。

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(3)判断

イ J会員権の所有者について
(イ)認定事実
 原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
A H社が、平成5年12月27日に発行したJ会員権の4,120,000円の領収証のあて名は、請求人である。
B J会員権の年会費は、請求人が経営するL株式会社(以下「L社」という。)名義のM銀行○○支店の普通預金口座(口座番号○○○○)から引き落とされている。
C 請求人は、当審判所に対して、J会員権は、取得した平成5年当時、L社の取締役常務であったKが、得意先の接待用として自由にエントリーできるようにするため、請求人がK名義で購入したものである旨答述している。
(ロ)上記(イ)によると、J会員権の年会費の支払者はL社であるものの、同会員権購入時の領収証のあて名、会員証の所持人、請求人の答述などを総合勘案すると、請求人がKの名義を借用して同会員権を取得したものと認められる。
ロ 譲渡行為について
(イ)認定事実
 原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
A 請求人は、本件地裁に対し、J会員権に係る更生債権届出書を提出していない。
B 請求人は、平成14年10月ころ、JクラブにJ会員権の会員証を提出した。Jクラブは、請求人の求めにより、同年11月14日付で同会員証の受領書を作成し、請求人に交付した。
 請求人は、同年12月18日付内容証明郵便により、Jクラブに対し、J会員権の権利を放棄する旨通知した。
C J社は、N株式会社(以下「N社」という。)傘下のグループ法人であり、平成15年12月1日付でN社に吸収合併されている。
D N社のS課長は、当審判所に対して、要旨次のとおり答述している。
(A)会員が更生債権届出書を平成14年7月31日までに届けられない場合は、預託金返還請求権及びゴルフ場施設の優先利用権(以下、これらを併せて「会員たる地位等」という。)を喪失することとなる。このため、更生債権届出書が提出されなかったJ会員権は、その会員たる地位等が自然消滅することになる。
(B)N社は、請求人からJ会員権の会員証等の提出を受けたが、Jクラブの会則上、Jクラブのゴルフ会員権を買い取る制度がないため、買い取りはしていない。
 また、J社の更生管財人からは、会員たる地位等が喪失した会員証の回収は不要である旨指示を受けている。
(ロ)旧会社更生法(昭和27年法律第172号)第125条《更生債権等の届出》には、更生手続に参加しようとする債権者は指定された債権届出期間内に、債権の内容を裁判所に届け出なければならない旨規定されており、債権者が指定された債権届出期間内に届出を怠った場合は、更生計画の認可により原則としてその債権を失うものと解される(同法第241条)。
(ハ)請求人は平成14年11月14日にJ会員権を譲渡した旨主張するが、ゴルフ会員権の譲渡が所得税法第33条第1項に規定する資産の譲渡として取り扱われているのは、上記2の(3)のハのとおり、売買等により金銭債権たる預託金返還請求権と年会費納入等の義務と併せてゴルフ場施設の優先利用権とが一体不可分となって他の者に移転されることによるものと解されるところ、J会員権を譲渡した旨請求人が主張する行為は、更生債権の届出をしない以上会員たる地位等を喪失することになるため、J会員権の権利を放棄する意思の下に会員証をJ社に返却したものにすぎず、所得税法第33条第1項に規定する資産の譲渡には該当しない。
(ニ)したがって、請求人の主張には理由がなく、譲渡所得の計算上、譲渡損失は発生しないことから、同法第69条第1項の規定に基づく損益通算をすることはできず、平成14年分の更正処分は適法である。
4 加算税を含む原処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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