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(平16.3.31裁決、裁決事例集No.67 421頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)の土地の譲渡所得につき、居住用財産の課税の特例及び保証債務の特例が適用できるか否かを争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成14年中に所有する別紙1の物件目録に記載した土地(以下「本件土地」という。)を144,675,000円で譲渡し、当該譲渡に係る譲渡所得(以下「本件譲渡所得」という。)の計算上、租税特別措置法第31条の3《居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例》及び同法第35条《居住用財産の譲渡所得の特別控除》の規定(これらの法令の要旨は別紙2のとおり。以下同じ。)による特例(以下、これらの規定を併せて「居住用の特例」という。)を適用し、別表1の「確定申告」欄のとおり記載して、平成14年分の所得税の確定申告書(以下「本件確定申告書」という。)を法定申告期限までに提出した。
ロ 原処分庁は、これに対し、居住用の特例を適用することができないとして、平成15年6月30日付で別表1の「更正処分等」欄のとおり、更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
ハ 請求人は、これらの処分を不服として、平成15年8月27日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は同年11月17日付でいずれも棄却の異議決定をした。
ニ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成15年12月11日に審査請求をした。

(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人が提出した本件確定申告書には、要旨次の内容が記載された不動産売買契約証書の写しが添付されていた。
(イ)売主、請求人・合資会社A(以下「A社」という。)と買主、B株式会社は、本件土地と別紙1の物件目録に記載した建物(以下「本件建物」という。)について売買契約を締結した。
(ロ)本件土地と本件建物の譲渡代金は、256,500,000円であり、その内訳は本件土地が144,675,000円、本件建物が106,500,000円、消費税額等が5,325,000円である。
ロ 本件土地と本件建物の不動産登記簿謄本には要旨次の記載がある。
(イ)本件土地の所有権は、平成7年10月31日相続を原因として請求人の父Cから請求人に移転されている。
(ロ)本件建物の保存登記は、昭和63年3月5日新築を原因として、同年6月13日付でA社にされている。
ハ 本件確定申告書には、別表1の「特別控除額」欄のとおり居住用の特例を適用する旨の記載があり、同表の「上記〔3〕の内訳」欄のとおり記載した譲渡所得の計算明細書の添付があるが、所得税法第64条《資産の譲渡代金が回収不能となった場合等の所得計算の特例》第2項(以下「保証債務の特例」という。)を適用する旨の記載はなく、保証債務の特例の適用を受けるための書類等の添付もない。

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2 主張

(1)請求人

 本件更正処分及び本件賦課決定処分は、次の理由により違法であるから、全部の取消しを求める。
イ 本件土地は、請求人が、長年、自己の居住用として家族とともに生活していた場所であり、本件建物とともに譲渡されているところ、本件建物の所有者であるA社の出資割合は請求人が6分の5、請求人の母Dが6分の1であるから、本件建物の所有者であるA社と本件土地の所有者である請求人とは実質的に親族関係に有り、かつ生計を一にしているとみられるから、「租税特別措置法(山林所得・譲渡所得関係)の取扱いについて」(昭和46年8月26日付直資4−5ほか国税庁長官通達。)31の3−19《居住用家屋の所有者とその敷地の所有者が異なる場合の取扱い》及び35−4《居住用家屋の所有者と土地の所有者が異なる場合の特別控除の取扱い》(以下、これらの通達を「居住用の特例通達」という。)の要件を満たしているので、居住用の特例を適用できる。
ロ 本件建物は、A社が昭和62年にE銀行から250,000,000円を借り入れて翌年に完成したもので、その際、請求人の父Cが当該借入金を保証し本件土地を担保提供していた(以下「本件保証債務」という。)ところ、平成7年に父の死亡により請求人が本件土地を相続するとともに、本件保証債務も相続した。そして、請求人は、本件土地の譲渡代金等から167,200,298円を本件保証債務の履行として弁済したが、主たる債務者であるA社は本件土地の譲渡時には事実上解散しているから求償権の行使は不能である。
 しかるに、請求人は、居住用の特例と保証債務の特例が重複適用できないと誤認したため、本件確定申告書に保証債務の特例の適用を受ける旨の記載をしなかったところ、本件土地の譲渡代金は、本件保証債務の弁済に充てられている等から、本件譲渡所得の計算上、保証債務の特例が適用されるべきである。

(2)原処分庁

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 居住用の特例については、個人が居住の用に供している建物とともにその敷地等を譲渡した場合には、これらの全部の資産についてその適用があるとしているのに対し、居住用の特例通達は、個人が敷地等のみを所有する場合であっても、家屋の所有者とその敷地等の所有者とが親族関係を有し、かつ、生計を一にしているなど、一定の場合に限り居住用の特例を適用できる旨定めている。しかしながら、本件建物の所有者はA社で、本件土地の所有者は請求人であるところ、A社と請求人とが親族関係を有するあるいは生計を一にすると認める理由がないことから居住用の特例通達に該当しない。したがって、本件譲渡所得の計算上、居住用の特例を適用することはできない。
ロ また、保証債務の特例は、確定申告書に保証債務の特例の適用を受ける旨のほか、譲渡した資産や保証債務の履行に伴う求償権の行使不能の状況などの記載がある場合に限り適用すると規定しているが、請求人の場合、本件確定申告書にこれらの記載がないので保証債務の特例を適用することはできない。
ハ 請求人の平成14年分所得税の本件譲渡所得は、別表2の「原処分庁主張額」欄のとおり133,056,932円となり、納付すべき税額は○○○○円となるので、この範囲内で行った本件更正処分は適法である。

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3 判断

(1)本件更正処分について

イ 居住用の特例の適用
(イ)居住用の特例は、個人が居住の用に供している家屋を譲渡した場合又は個人が居住の用に供している家屋とともにその敷地を譲渡した場合に適用されるものであって、居住の用に供している家屋とその敷地の所有者が異なっている場合においては、居住用の特例の解釈上、その適用範囲をその両者が親子又は夫婦等の親族関係にあり、かつ所得税の計算上同一の生活共同体にあって、その所有形態が、同一人の所有形態と同視し得る場合までは許されるとして居住用の特例通達が定められたものと解されるところ、当審判所においても、その定めは合理的であって相当なものであると認められる。
(ロ)これを本件についてみると、本件建物の所有者はA社であって、その敷地である本件土地の所有者である請求人とは、親族関係を有するものでないことはもとより、別人格の法人であるから、そもそも居住用の特例通達の定めには該当しない。
 したがって、A社が所有する本件建物とともにその敷地の用に供されている請求人所有の本件土地が譲渡されていても、本件譲渡所得には、居住用の特例を適用することはできない。
ロ 保証債務の特例の適用
(イ)保証債務の特例は、保証債務を履行するため資産の譲渡があった場合において、その保証債務の履行に伴い取得した求償権の全部又は一部を行使することができないこととなったとき、その行使することができないこととなった金額を所得金額の計算上なかったものとみなす所得計算の特例であり、求償権を行使することができなくなった事実が確定申告前に生じているときには、確定申告書に保証債務の特例の適用を受ける旨その他財務省令で定める事項の記載がある場合に限って適用されるものである。
(ロ)これを本件についてみると、請求人は、居住用の特例を適用して、本件土地の譲渡に係る分離長期譲渡軽課所得の金額を98,528,644円と算出し、居住用の特例を受けようとする旨記載した本件確定申告書を提出しているが、保証債務の特例の適用を受ける旨の記載はなく、保証債務の特例を適用した所得金額の算出もされていないことが明らかである。
 したがって、請求人は、保証債務の特例の適用を受けるための手続要件を具備しておらず、平成14年分所得税の所得計算につき、保証債務の特例を適用することはできないといわなければならない。
(ハ)請求人は、本件土地の譲渡においては居住用の特例と保証債務の特例とを重複適用できないと誤認したと主張する。
 しかしながら、税法の不知又は誤解は、所得税法第64条第4項に定めるやむを得ない事情とは認められないから、本件譲渡所得の計算上、保証債務の特例を適用することはできない。
ハ 本件更正処分の適法性
 請求人は、本件譲渡所得に係る総収入金額、取得費及び譲渡費用の額について原処分庁主張額を争わず、当審判所の調査の結果によっても相当と認められるところ、上記イ及びロのとおり、本件譲渡所得の計算上、居住用の特例及び保証債務の特例を適用することはできないから、本件譲渡所得の金額は、別表2の「審判所認定額」のとおり133,056,932円となる。
 そうすると、請求人の納付すべき税額は別表2の「審判所認定額」のとおり○○○○円となるから、この範囲内で行った本件更正処分は適法である。

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(2)本件賦課決定処分について

 上記(1)のとおり、本件更正処分は適法であり、また、本件更正処分により納付すべき税額の基礎となった事実が更正処分前の税額の基礎とされなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められない。
 そうすると、国税通則法第65条第1項及び第2項の規定により、本件更正処分に伴う過少申告加算税を算出すると1,481,500円となるので、この範囲内で行った本件賦課決定処分は適法である。

(3)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠書類等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

別紙1 物件目録

土地
所在○○県○○市○○町
地番○○番○
地目宅地
地積101.98平方メートル
建物
所在○○県○○市○○町○○番
家屋番号○○番○の○
種類店舗・事務所・居宅・倉庫
構造鉄骨鉄筋コンクリート・鉄筋コンクリート造陸屋根
地下1階付10階建
床面積1階70.40平方メートル
2階67.56平方メートル
3階67.56平方メートル
4階67.56平方メートル
5階67.56平方メートル
6階67.56平方メートル
7階67.56平方メートル
8階67.56平方メートル
9階67.56平方メートル
10階41.05平方メートル
地下1階61.50平方メートル

別紙2 関係法令等の要旨

1 居住用の特例関係
 租税特別措置法第31条の3《居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例》
(第1項)
 個人が、その有する土地等又は建物等でその年の1月1日において、所有期間が10年を超えるもののうち、居住用財産に該当するものの譲渡をした場合には、当該譲渡に係る課税長期譲渡所得金額に対して課する所得税の額は、同項第1号及び第2号の規定により算出する。
 租税特別措置法第35条《居住用財産の譲渡所得の特別控除》
(第1項)
 個人が、その居住の用に供している家屋で政令に定めるものの譲渡若しくは当該家屋とともにするその敷地の用に供されている土地若しくは当該土地の上に存する権利の譲渡(居住の用に供されなくなった日以後3年を経過する日の属する年の12月31日までの間に譲渡されるものに限る。)をした場合には、措置法第31条《長期譲渡所得の課税の特例》第1項に規定する長期譲渡所得の特別控除額は、同条第4項の規定にかかわらず、30,000,000円と当該資産の譲渡所得金額とのいずれか低い金額とする。
 租税特別措置法(山林所得・譲渡所得関係)の取扱いについて
 31の3−19《居住用家屋の所有者とその敷地の所有者が異なる場合の取扱い》及び35−4《居住用家屋の所有者と土地の所有者が異なる場合の特別控除の取扱い》
 租税特別措置法第31条の3第1項及び同条第35条第1項の適用に関し、居住用家屋の所有者以外の者がその家屋の敷地の用に供されている土地等の全部又は一部を有している場合において、その家屋の所有者とその家屋の所有者以外の者が有するその土地等をともに譲渡し、その家屋の所有者とその土地等の所有者とが親族関係を有し、かつ、生計を一にしており、かつその土地等の所有者はその家屋の所有者とともにその家屋を居住の用に供していることを要件として、本件居住用の特例の適用を受けることができる。
2 保証債務の特例関係
 所得税法第64条《資産の譲渡代金が回収不能となった場合等の所得計算の特例》
(第2項)
 保証債務を履行するため資産の譲渡があった場合において、その履行に伴う求償権の全部又は一部を行使することができないこととなったときは、その行使することができないこととなった金額を譲渡所得の金額の計算上、なかったものとみなす。
(第3項)
 その求償権を行使することができなくなった事実が法定申告期限後に生じたことにより同法第152条《各種所得の金額に異動を生じた場合の更正の請求の特例》の規定に基づいて更正の請求をする場合を除き、確定申告書に前項の規定の適用を受ける旨その他財務省令で定める事項の記載がある場合に限り、前項の特例を適用する。
(第4項)
 税務署長は、前項の記載がない確定申告書の提出があった場合においても、その提出がなかったこと又はその記載がなかったことについてやむを得ない事情があると認めるときは、第2項の規定を適用することができる。

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