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(平16.3.30裁決、裁決事例集No.67 679頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が相続により取得した取引相場のない株式の評価方法について、財産評価基本通達に定める評価方式によらない方法が認められるか否かが争われた事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成12年8月5日に死亡したAの相続人であるが、この相続(以下「本件相続」という。)に係る相続税について、別表1の「申告」欄のとおり記載した相続税の申告書を法定申告期限までに原処分庁に提出した。
ロ 請求人は、平成14年6月4日に原処分庁に対し、本件相続により取得したB株式会社(以下「B社」という。)及びC株式会社(以下「C社」という。)の株式の評価上誤りがあったとして、別表1の「更正の請求」欄のとおり、更正の請求(以下「本件更正の請求」という。)をした。
ハ 原処分庁は、これに対し、平成14年9月11日付で更正をすべき理由がない旨の通知処分(以下「本件通知処分」という。)をした。
ニ 請求人は、本件通知処分を不服として、平成14年11月8日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成15年2月5日付で棄却の異議決定をした。
ホ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成15年3月4日に審査請求をした。
ヘ 原処分庁は、本件相続に係る相続税について調査を実施し、平成15年12月25日付で、別表1の「更正処分」欄のとおり、更正処分をした。
 そこで、更正処分についてもあわせ審理する。

(3)関係法令等

イ 相続税法第22条《評価の原則》は、同法第3章で特別の定めのあるものを除くほか、相続、遺贈又は贈与により取得した財産の価額は、当該財産の取得の時における時価による旨規定している。
ロ 財産評価基本通達(昭和39年4月25日付直資56、直審(資)17(平成13年5月10日付課評2−6による改正前のもの)。以下「評価基本通達」という。)1《評価の原則》は、財産の評価は、時価によるものとし、時価とは、課税時期(相続、遺贈若しくは贈与により財産を取得した日若しくは相続税法の規定により相続、遺贈若しくは贈与により取得したものとみなされた財産のその取得の日をいう。)において、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行なわれる場合に通常成立すると認められる価額をいい、その価額は、この通達の定めによって評価した価額による旨定めている。
ハ 評価基本通達6《この通達の定めにより難い場合の評価》は、この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する旨定めている。
ニ 評価基本通達174《気配相場等のある株式の評価》は、登録銘柄の株式は、原則として、日本証券業協会の公表する課税時期の取引価格によって評価するが、その取引価格が課税時期の属する月以前3か月間の毎日の取引価格の各月ごとの平均額のうち最も低い価額を超える場合には、その最も低い価額によって評価する旨定めている。
ホ 評価基本通達は、178《取引相場のない株式の評価上の区分》ないし189‐7《新株引受権等の発生している特定の評価会社の株式の価額の修正》において、いわゆる取引相場のない株式について、会社の規模等の実体に即した評価方式、すなわち、大会社については原則として類似業種比準方式、小会社については原則として純資産価額方式、中会社についてはこれらを併用する方式を定めるとともに、会社の資産構成の特殊性に応じた評価方式、一定割合以下の株式取得者に対する配当還元方式などの評価方式を定めている。

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(4)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
イ B社及びC社の株式は、いわゆる取引相場のない株式である。
ロ 請求人が、本件相続により、B社及びC社の株式を取得した状況等は、次のとおりである。
(イ)請求人は、本件相続により、B社の株式981株、C社の株式6,200株を取得している。
(ロ)請求人は、上記(2)のイの相続税の申告書において、B社及びC社の株式について、評価基本通達に定める取引相場のない株式の評価方式に基づいて、1株当たりの価額をそれぞれ437,817円、2,293円と算定している。
ハ D株式会社(以下「D社」という。)は、昭和○年○月にいわゆる店頭市場に株式を登録し、その後、平成○年○月に○○証券取引市場第二部に株式を上場している。
 なお、日本証券業協会は、登録銘柄の株式について、証券会社の店頭で売買される日々の取引価格を公表しており、本件相続が開始した日(土曜日)に最も近い日である平成12年8月4日のD社の株式の取引価格は、1株当たり420円である。
ニ B社とD社は、平成12年6月5日、要旨次のとおり記載された合併契約書を取り交わしている(この契約書に基づく合併契約を、以下「本件合併契約」という)。
(イ)合併により、D社が存続会社となり、B社は解散する。
(ロ)D社は、合併に際して額面普通株式を3,880,000株発行し、合併期日前日のB社の株主名簿に登載された株主に対して、その所有するB社の株式1株につきD社の株式1,000株を割当交付する(この割当交付される比率を、以下「本件合併比率」という。)。
(ハ)合併期日を平成12年10月1日とする。
(ニ)新株式に対する利益配当金の計算は、平成12年10月1日を起算日としてこれを行う。
(ホ)本件合併契約締結の日から合併期日前日までの間において、B社又はD社のそれぞれの資産状態ないし経営状態に重大な影響が生じたときは、双方協議の上、合併条件を変更し又は本件合併契約を解除することができる。
(ヘ)D社は、合併交付金を支払わない。
ホ C社とD社は、平成12年6月5日、要旨次のとおり記載された株式交換契約書を取り交わしている(この契約書に基づく株式交換契約を、以下「本件株式交換契約」という)。
(イ)D社がC社の完全親会社となり、C社がD社の完全子会社となるため、株式交換を行う。
(ロ)D社は、株式交換に際し、6,710,000株の額面普通株式を発行し、株式交換期日前日のC社の株主名簿に登載された株主に対して、所有するC社の株式1株につきD社の株式5.5株を割当交付する(この割当交付される比率を、以下「本件株式交換比率」という。)。
(ハ)株式交換期日を平成12年10月3日とする。
(ニ)新株式に対する利益配当金の計算は、平成12年10月1日を起算日としてこれを行う。
(ホ)本件株式交換契約締結の日から株式交換期日前日までの間において、C社又はD社のそれぞれの資産状態ないし経営状態に重大な影響が生じたときは、双方協議の上、株式交換条件を変更し又は本件株式交換契約を解除することができる。
(ヘ)D社及びC社は、いずれも株式交換交付金を支払わない。
ヘ B社の株主総会は、平成12年6月27日、本件合併契約について審議し、これを承認している。
ト C社の株主総会は、平成12年6月28日、本件株式交換契約について審議し、これを承認している。
チ 平成12年10月1日、本件合併契約に基づく合併期日が到来し、B社の株式は、その効力を喪失している。
 なお、請求人は、本件相続により取得したB社の株式981株について、本件合併比率に従って、D社の株式981,000株を取得している。
リ 平成12年10月3日、本件株式交換契約に基づく株式交換期日が到来し、D社は、C社のすべての株式を取得している。
 なお、請求人は、本件相続により取得したC社の株式6,200株について、本件株式交換比率に従って、D社の株式34,100株を取得している。

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2 主張

(1)請求人の主張

原処分は、次の理由により違法であるから、その一部の取消しを求める。
イ 請求人は、本件相続により、B社及びC社の株式を取得した。
 本件相続が開始した時点において、既に、本件合併契約及び本件株式交換契約が成立していため、B社及びC社の株式は、平成12年10月1日の合併期日及び同月3日の株式交換期日をもって、それぞれの割当比率に従って、D社の株式を割り当てられることとなっていた。
 そして、請求人は、上記それぞれの期日をもって、それぞれの割当比率に従って、D社の株式を取得した。
ロ 上記イからすれば、本件合併契約及び本件株式交換契約が締結されてから、それぞれ合併期日、株式交換期日が到来し、D社の株式が割当交付されるまでの間においては、登録銘柄であるD社の株式の日々の取引価格が公表されているのであるから、仮に、B社及びC社の株式を譲渡するとした場合には、割当交付株式であるD社の株式の取引価格を参考として譲渡価額を算定することになる。
 そうすると、B社及びC社の株式の価額は、評価基本通達に定める評価方式によらなくても、D社の株式の取引価格により、合理的に算定することができるというべきである。
 具体的には、D社の株式は、本件相続が開始した日における取引価格がないので、その日に最も近い日である平成12年8月4日の取引価格(420円)で評価することになるが、この金額を基に、B社及びC社の株式1株当たりの価額をそれぞれの割当比率に従って算定すると、B社の株式の1株当たりの価額は420,000円、C社の株式の1株当たりの価額は2,310円となる。
ハ 相続税の株式の評価と直接的な結びつきはないが、相続税法第41条によれば、物納に充てることのできる財産は、納税義務者の課税価格計算の基礎となった財産で、株式等もこれに該当するとされているところ、本件の場合、仮に、物納申請をしようとしても、本件相続により取得したB社及びC社の株式は、物納申請時(相続税の申告書提出時)には既に手元になく、物納対象となる財産が存在しないという事態が生じており、他の納税者と比べて不合理となる。
 このような場合においても、D社の株式でもって課税価格計算が可能となれば、D社の株式を物納の対象とすることが可能となり、不合理を解消することができる。
 したがって、この点からも、上記ロの価額による評価を認めるべきである。

(2)原処分庁の主張

原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 相続税法第22条は、相続等により取得した財産の価額は、当該財産の取得の時における時価による旨規定しているところ、ここにいう「取得の時」とは、被相続人の死亡の日をいい、「時価」とは、相続開始時における財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額(客観的交換価値)をいうものと解されている。
ロ もっとも、相続税法は、時価の算定方法については何ら定めていないことから、財産評価の一般基準として評価基本通達及び評価基本通達に基づき毎年各国税局長が定める財産評価基準(以下「評価基準」という。)等が定められ、課税実務上は、特別の事情がない限り、評価基本通達、評価基準等に定められた評価方法によって財産を評価することとされており、特に租税平等主義という観点から、評価基本通達に定められた評価方法が合理的である限り、形式的にすべての納税者に適用されることによって租税負担の実質的な公平をも実現することができることから、特定の納税者あるいは特定の相続財産についてのみ評価基本通達に定める方法以外の方法によって評価することは、納税者間の実質的負担の公平を著しく欠くことになり、原則として許されないが、実質的な租税負担の公平を著しく害することが明らかである等の特別の事情がある場合には、例外的に他の合理的な時価の評価方法によることが許されるものと解されている。
ハ そこで、本件における評価対象となる財産についてみると、B社の株主は、合併期日の前日にB社の株式を所有していることを前提として、D社の株式を取得するのであるから、合併期日までは潜在的にD社の株式の割当てを合併期日において受ける権利を有しているに留まり、また、C社の株主は、株式交換の日の前日にC社の株式を所有していることを前提として、D社の株式を取得するのであるから、株式交換の日までは、潜在的にD社の株式の割当てを受ける権利を有しているに留まるものであり、本件相続が開始した時点において、これらの権利は、評価対象となり得る程度に顕在化していないから、合併期日若しくは株式交換の日までは、B社若しくはC社の株式を評価対象として、評価基本通達を適用することが相当と認められる。
ニ 以上のとおり、本件においては、B社若しくはC社の株式の価額の算定上、評価基本通達により難い特別な事情は認められない。
ホ また、上記(1)のハについては、請求人も自認しているとおり、相続税の株式の評価と相続税の物納には直接的な結び付きはないから、本件における適法性の判断に影響しない。

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3 判断

 双方の主張に基づいて調査、審理したところ、次のとおり判断される。

(1)認定事実

 原処分関係資料及び当審判所の調査したところによると、次の事実が認められる。
イ 本件合併契約及び本件株式交換契約の当事者は、B社、C社及びD社の1株当たりの株式の価額を算定するに当たり、次に記載した「時価純資産価額」方式及び「市場株価」方式という評価方式を採用して、それぞれの会社の株式を評価している。
(イ)「時価純資産価額」方式は、平成11年3月31日を評価時点とし、基本的には評価基本通達が定める純資産価額方式を準用しつつ、土地及び借地権の評価については、平成11年分の路線価及び評価倍率を適用して評価し、市場価格のない有価証券については、簿価純資産価額が判明するものは簿価純資産により、それが判明しないものは簿価により評価している。
(ロ)「市場株価」方式は、D社の株式については、平成12年1月1日から同年3月31日までの日本証券業協会が公表した「終値」の平均値により評価し、C社の株式については、基本的に評価基本通達が定める類似業種比準方式を準用して評価している。
ロ E株式会社は、D社の株式の価額を評価するに当たり、評価の目的について、D社とB社との合併比率の決定及びD社とC社との株式交換比率の決定の参考となる株式評価額を算定するものであるとしており、評価方法について、D社の株式には気配相場が存するが、合併比率又は株式交換比率は、合併又は株式交換当事会社はそれぞれ同様の評価方法により算定された株価により決定されるべきであるとして、D社の株式の評価に当たっても、株式非公開会社の評価方式を加味するのが妥当であるとしている。
ハ 監査法人Fは、C社の株式を評価するに当たり、算定の目的について、算定会社の株式交換にかかわる意思決定に際して、株式の交換比率を決定するための参考資料とすることにあり、他の一切の目的に資するものではないとしている。
ニ 本件合併比率は、別表2のとおり、D社及びB社の「1株当たりの時価純資産価額」と「1株当たりの市場株価平均価額」を算定し、これらの価額を加算して2で除した価額を基に算定されている。
 ただし、B社の「1株当たりの市場株価平均価額」は、算定されていない。
ホ 本件株式交換比率は、別表3のとおり、D社及びC社の「1株当たりの時価純資産価額」と「1株当たりの市場株価平均価額」を算定し、これらの価額を加算して2で除した価額を基に算定されている。

(2)相続税法上の時価

イ 上記1の(3)のイのとおり、相続税法第22条は、相続財産の価額は、特別に定める場合を除き、当該財産の取得時における時価による旨規定しているところ、ここにいう時価とは、相続開始時におけるその財産の客観的な交換価値をいうものと解するのが相当である。
 そして、財産の客観的な交換価値は、必ずしも一義的に確定されるものではないことから、課税実務上は、納税者間の公平、納税者の便宜、徴税費用の節減という見地から、相続財産評価の一般的基準が評価基本通達によって定められ、そこに定められた画一的な評価方式によって相続財産を評価することとされている。
ロ そうすると、租税平等主義という観点からして、評価基本通達に定められた評価方式が合理的なものである限り、これが形式的にすべての納税者に適用されることによって、租税負担の実質的な公平をも実現することができるものと解されるから、特定納税者あるいは特定の相続財産についてのみ、評価基本通達に定める方式以外の方法によってその評価を行なうことは、たとえその方法による評価額それ自体が相続税法第22条に規定する時価として許容できるものであったとしても、納税者間の実質的負担の公平を欠くものであり、原則として許されないというべきである。
ハ しかしながら、評価基本通達に定められた評価方式を画一的に適用するという形式的な平等を貫くことが、評価基本通達の趣旨を没却するだけでなく、実質的な租税負担の平等を著しく害することが明らかな特別の事情がある場合には、例外的に相続税法第22条の時価を算定する他の合理的な方式によることが許されると解するのが相当であり、このことは、上記1の(3)のハに記載した評価基本通達6の定めからも明らかである。

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(3)B社及びC社の株式の評価方法

イ 上記1の(4)のイのとおり、B社及びC社の株式は取引相場のない株式であるところ、取引相場のない株式は、証券取引所における市場価格や証券会社の店頭での取引のように取引価格を有するものではないことから、取引相場のない株式を相続により取得した場合の価額の算定方法について、上記1の(3)のホのとおり、評価基本通達は、会社の規模別に、大会社については、業種が同一又は類似する複数の上場会社の株価の平均値を比準して株価を求める類似業種比準方式を、小会社については、会社資本の割合的持分という株式の性質に応じた純資産価額方式を、中会社については、これらを併用する方式を採用し、また、資産構成の特殊性に応じた評価方式をも採用し、さらに、株式取得者の会社経営への影響力等による株式取得利益の大小を考慮して、一定割合以下の株式取得者に対しては、配当還元方式という簡便な評価方式を定めており、このような基準は一般に合理性を有するものということができるから、当審判所においても相当と認められる。
ロ そうすると、B社及びC社の株式を評価するに当たって、評価基本通達に定める取引相場のない株式の評価方式に従ってその価額を算定することは、原則として相当であると認められる。
ハ これに対し、請求人は、上記2の(1)のロのとおり、B社及びC社の株式の価額は、本件合併契約及び本件株式交換契約に基づいて取得することとなるD社の株式の本件相続が開始した時点における取引価格を基に、それぞれ本件合併比率及び本件株式交換比率を適用して合理的に算定することができるから、評価基本通達に定めた評価方式により難い特別の事情がある旨主張するので、以下検討する。
(イ)一般に、会社が合併する場合には、被合併会社と合併会社との間で、合併契約において合併比率(株式割当比率)が定められ、合併会社は、合併期日をもって、被合併会社の株主に当該合併比率に基づいて合併新株を割り当てることになるところ、合併会社及び被合併会社がともに上場会社である場合には、合併比率は、公開市場における双方の会社の株式の市場価格を基本として決定されるのが通例であり、その後、合併期日が到来するまで(実際は被合併会社の上場廃止の日まで)、双方の会社の株式の価格は、市場においておおむね当該合併比率どおりに推移する。
 他方、合併当事者の一方が上場会社で他方が非上場会社である場合には、合併当事者は、非上場会社の株式に取引相場がないことから、まず、非上場会社の株式を評価し、その価額を算定した上で、上場会社の株式の市場価格と比較するなどして合併比率を算定することになる。
 しかし、この場合に、非上場会社の株式を評価する目的は、客観的交換価値を算定するためのものではなく、あくまでも合併比率を算定するためのものであり、評価時点における当事者の思惑(合併比率の算定上、他の要素を加味すること)が介在する余地も考えられるから、このように算定された非上場会社の株式の価額を基にして決定された合併比率は、必ずしも純粋に株式の時価を反映しているとはいえない。
(ロ)また、株式を新たに取得しようとする者も、合併比率を念頭に置きつつも、合併による合併会社の将来性に着目し、長期的観点からの検討も加味して、株式の取得を検討するのが通常であるから、当初より株式の市場価格を基本として合併比率を決定する上場会社同士の合併の場合と異なり、一方が非上場会社である場合には、必ず合併比率に沿った価額で株式の取引がなされるとも言い得ないものと認められる。
(ハ)そして、完全親子会社を創設する場合の株式交換についても、その関係は、合併の場合と類似したものといえるから、株式交換契約の当事者の一方に非上場会社が存する場合には、株式交換契約において決定された株式交換比率は、必ずしも純粋に株式の時価を反映しているとはいえない。
(ニ)これを本件についてみると、それぞれの契約当事者は、D社、B社及びC社の株式の価額を別表2及び同3のとおり算定した上で、本件合併比率及び本件株式交換比率を決定したことが認められるところ、上記(1)のイ、ロ、ニ及びホのとおり、〔1〕D社の1株当たりの株式の価額を評価するに当たって、D社の株式が店頭市場における取引価格を有しているにもかかわらず、評価時点における「時価純資産価額」方式により算定した1株当たりの価額を加味していること、〔2〕C社の1株当たりの株式の価額を評価するに当たって、「時価純資産価額」方式により算定した価額と「市場株価」方式により算定した価額について、それぞれの比準割合を0.5として株式を評価しているが、それぞれの比準割合を0.5とすることが必ずしも合理的な方法であるとは限らないこと、〔3〕「時価純資産価額」方式において、評価対象会社が所有する土地及び借地権について、本件合併契約及び本件株式交換契約が平成12年になされているにもかかわらず、平成11年分の路線価及び評価倍率を適用して評価されており、また、評価対象会社が所有する市場価格のない有価証券について、簿価純資産ないし帳簿価額により評価されており、時価換算がなされていないことなどが認められ、さらに、上記(1)のロ及びハのとおり、D社及びC社の株式を評価する目的が合併比率又は株式交換比率の決定のためであることをも併せ考えると、これらの方法により算定されたD社、B社及びC社の株式の価額が、適正に時価(客観的交換価値)を示していると評価し得るか疑問がある。
(ホ)そうすると、結局、本件合併比率及び本件株式交換比率は、適正に時価(客観的交換価値)が反映されたものとも言い切れず、また、必ずしも、本件合併比率及び本件株式交換比率に市場が従うものとも限らないと認められるから、請求人の主張するB社及びC社の株式に係る評価方式が、未だ合併期日及び株式交換期日の到来していない段階における株式に係る相続税の財産評価の基準として、評価基本通達による以上の合理性があるとも、評価基本通達により難い特別の事情があるとも認められない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ニ また、請求人は、B社及びC社の株式の価額をD社の株式の取引価格を基に算定すべきであることの理由として、相続税の物納に充てることのできる財産について、上記2の(1)のハのとおり主張するが、そもそもB社及びC社の株式の評価方法と物納の手続とは関係のない事項であるから、その内容の適否を判断するまでもなく、請求人の主張には理由がない。
ホ 以上述べたとおり、請求人の主張にはいずれも理由がなく、本件においては、評価基本通達に定められた評価方式により難い特別の事情があるとは認められないから、本件更正の請求に対して、更正すべき理由がないとしてなされた本件通知処分は適法である。

(4)その他

原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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