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(平16.5.28裁決、裁決事例集No.67 707頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、相続税法第55条《未分割遺産に対する課税》を適用した申告に対する更正処分の取消訴訟が提起されている時において、遺産分割が確定したことにより相続税法第32条《更正の請求の特則》に基づく更正の請求が行われた場合、更正の請求の基礎となる総遺産価額は、申告額若しくは更正処分額のいずれによるべきかを争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 審査請求人(以下「請求人」という。)は、平成9年5月16日に死亡したA(以下「本件被相続人」という。)の共同相続人の1人であるが、この相続(以下「本件相続」という。)に係る相続税(以下「本件相続税」という。)について、遺産分割が未了であったことから、相続税法第55条の規定(法令の要旨は別紙のとおり。以下同じ。)を適用して別表1の「申告」欄のとおり記載した相続税の申告書(以下「本件申告書」という。)を法定申告期限内に提出した。
ロ 原処分庁は、これに対し、平成11年6月15日付で別表1の「第一次更正処分」欄のとおり更正処分(以下「第一次更正処分」という。)をした。
ハ 請求人は、上記ロの処分を不服として平成11年6月24日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は同年9月22日付で別表1の「異議決定」欄のとおり第一次更正処分の一部を取り消す異議決定(以下、異議決定後の第一次更正処分を「本件第一次更正処分」という。)をした。
ニ 請求人は、本件第一次更正処分に不服があるとして平成11年10月22日に審査請求をしたところ、当審判所が平成13年3月16日付で棄却の裁決(以下「平成13年裁決」という。)をしたため、本件第一次更正処分の取消しを求めて、○○地方裁判所に提訴した。
ホ 次いで、請求人は、本件相続に係る遺産分割について、平成15年2月○日に○○高等裁判所による遺産分割の審判の決定(以下「本件審判の決定」という。)により遺産分割が確定したことから、同年5月31日に別表1の「更正の請求」欄のとおりの更正の請求(以下「本件更正の請求」という。)をしたところ、原処分庁は、同年7月8日付で別表1「第二次更正処分」欄のとおり更正処分(以下「本件更正処分」という。)をした。
ヘ 請求人は、本件更正処分を不服として平成15年7月27日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年10月21日付で棄却の異議決定をし、その決定書謄本を請求人に対し同月24日に送達した。
ト 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、同年11月22日に審査請求をした。

(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 本件相続に係る相続人は、請求人、B及びCの3名である。
ロ 本件審判の決定により請求人が取得したP市p町○−○に所在する宅地271.99平方メートルの土地(以下「本件土地」という。)について、租税特別措置法第69条の3《小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例》第1項第3号(以下「小規模宅地等の特例」という。)により、本件相続税の課税価格に算入される価額は、本件土地の価額である136,538,980円から50,200,000円を減額したところの86,338,980円である。
ハ 本件第一次更正処分の基礎となった総遺産価額のうち別表2に記載した財産は、本件審判の決定に係る遺産目録には記載されていない。
ニ 平成13年裁決において、当審判所が認定した総遺産価額、相続税の総額、請求人の取得財産の種類別価額、課税価格、納付すべき税額は、別表1の(1)及び(2)の「異議決定(本件第一次更正処分)」欄の額と同額である。

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2 主張

(1)請求人

 原処分は、次の理由により違法であるから、本件更正処分のうち本件更正の請求に基づく請求額を超える部分の金額の取消しを求める。
イ 本件更正の請求は、本件審判の決定により遺産分割が確定し、当初の申告と異なる割合で遺産が分割されることとなったため、請求人の課税価格が減少することから、相続税法第32条の規定を適用して行ったものである。
ロ 請求人は、本件第一次更正処分の全部の取消しを求め○○地方裁判所に訴訟を提起しているところ、その判断がなされる前に本件相続の遺産分割が確定したのであるから、本件更正の請求に係る総遺産価額は、本件申告書に記載した総遺産価額の合計額である276,492,180円から小規模宅地等の特例により減額となる50,200,000円を減算したところの226,292,180円となるべきである。

(2)原処分庁

 原処分は、次の理由により適法であるから、本件審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 本件更正の請求の基礎となる総遺産価額について
 本件更正の請求は相続税法第32条第1号の規定に基づく更正の請求であると認められ、同条の規定に基づく更正の請求の基礎となる財産の価額は、申告の後に更正があった場合にはその更正により確定した価額を基礎とするところ、本件においては、本件申告書の提出後に本件第一次更正処分がなされているから、本件更正の請求に基づく本件相続税の計算に当たっては、本件第一次更正処分における総遺産価額を基礎として計算することになる。
 したがって、本件申告書に記載した総遺産価額を基礎とすべき旨の請求人の主張には理由がない。
ロ 本件更正処分について
 本件は、上記イのとおり本件第一次更正処分における総遺産価額を基礎とし、本件審判の決定による分割内容に応じて各相続財産を配分して算出することになるが、本件審判の決定に係る遺産目録に記載されていない別表2の財産については、未分割財産と認められるから、本件相続における共同相続人が法定相続分により取得したものとして課税価格を計算することとなる。
 そうすると、本件相続税に係る請求人の課税価格及び納付すべき税額は、それぞれ○○○○円、4,927,300円となり、別表1の(2)の「第二次更正処分」欄の〔10〕及び〔13〕欄に記載した金額と同額であるから、この金額と同額で行った本件更正処分は適法である。

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3 判断

(1)本件更正の請求の基礎となる総遺産価額について

 本件更正の請求は、上記1の(2)のホのとおり、本件審判の決定により未分割財産が分割確定したことに伴う相続税法第32条第1号に該当する更正の請求であるところ、同条に基づく更正の請求とは、同法第55条の規定により未分割財産を法定相続分の割合に従って課税価格を計算して確定した納付すべき税額が、その後の遺産分割の確定に伴い過大となるという後発的事由に基づいて相続税額の是正を求めるものであるから、この規定に基づく更正の請求の基礎となる財産の価額は、申告の後に更正があった場合にはその更正により確定した財産の価額を基礎とすることになり、本件においては、本件第一次更正処分により確定した総遺産価額が基礎となる。
 これに対し、請求人は、上記1の(2)のニのとおり、本件第一次更正処分について、取消訴訟を提起しているところ、その判断がされていないから、本件申告書に記載した総遺産価額を基礎とすべき旨主張する。
 しかしながら、行政事件訴訟法第25条第1項に、行政処分の取消しの訴えの提起は、処分の効力、処分の執行又は手続の続行を妨げない旨規定され、行政処分の取消しを求める争訟の提起があっても正当な権限に基づく取消しがない以上有効な行為としてその効力を否定することはできないとされているから、本件第一次更正処分は、取消訴訟の判断がなされていない以上、有効な行為としてその効力は否定されない。
 したがって、本件更正の請求の基礎となる総遺産価額は、本件第一次更正処分により確定した総遺産価額を基礎とすることになるから、請求人の主張には理由がない。

(2)本件更正処分について

イ 本件相続税に係る課税価額の合計額は、本件第一次更正処分により確定した総遺産価額380,793,087円を基礎として、遺産分割の確定に伴う小規模宅地等の特例の適用により50,200,000円を減額し、更に債務控除の合計額を差し引いたところの金額○○○○円(相続人ごとに1,000円未満の端数を切捨てた後の金額を合計したもの)となる。
 また、別表2の財産が本件相続税の総遺産価額に算入されることについては、平成13年裁決において適法と判断されているところ、当該財産は、本件相続の未分割財産として、法定相続分により算出した同表の「請求人の金額」欄の金額を請求人が取得したものとして計算することとなる。
ロ そうすると、上記イ及び本件審判の決定による遺産分割の内容に基づいて、請求人の本件相続税の課税価格及び納付すべき税額を計算したところ、それぞれ○○○○円及び4,927,300円となり、これらの金額はいずれも別表1の(2)の「第二次更正処分」欄の金額と同額となるので、本件更正処分は適法である。

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(3)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料によっても、これを不相当とする理由は認められない。

別紙 関係法令の要旨

相続税法第32条《更正の請求の特則》
(第1号)
相続税について申告書を提出した者は、相続税法第55条の規定により分割されていない財産について民法の規定による相続分の割合に従って課税価格が計算されていた場合において、その後当該財産の分割が行われ、共同相続人が当該分割により取得した財産に係る課税価格が当該相続分の割合に従って計算された課税価格と異なることとなったことにより当該申告に係る課税価格及び相続税額(当該申告書を提出した後更正があった場合には当該更正に係る課税価格及び相続税額)が過大となったときは、その異なることとなったことが生じたことを知った日の翌日から4月以内に限り、国税通則法第23条第1項の規定による更正の請求をすることができる。
相続税法第55条《未分割遺産に対する課税》
相続により取得した財産に係る相続税について申告書を提出する場合又は当該財産に係る相続税について更正若しくは決定をする場合において、当該相続により取得した財産の全部又は一部が共同相続人によってまだ分割されていないときは、その分割されていない財産については、各共同相続人が民法(第904条の2を除く。)の規定による相続分(法定相続分)の割合に従って当該財産を取得したものとしてその課税価格を計算するものとする。ただし、その後において当該財産の分割があり、当該共同相続人が当該分割により取得した財産に係る課税価格が当該相続分の割合に従って計算された課税価格と異なることとなった場合においては、当該分割により取得した財産に係る課税価格を基礎として、納税義務者において申告書を提出し、若しくは相続税法第32条の更正の請求をし、又は税務署長において更正することを妨げない。

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