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(平16.3.30裁決、裁決事例集No.67 718頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、平成12年11月12日(以下「本件相続開始日」という。)に死亡した被相続人E(以下「被相続人」という。)に係る相続(以下「本件相続」という。)に伴う相続税の課税価格を、原処分庁が、被相続人と同族会社との間に交わされた土地建物売買契約について、相続税法第64条《同族会社の行為又は計算の否認等》第1項の規定を適用して計算したことの適否を争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 原処分庁は、平成15年3月4日付で審査請求人(以下「請求人」という。)に対して、本件相続開始日に係る相続税について、別表1の「決定処分等」欄のとおりの決定処分(以下「本件決定処分」という。)及び無申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」といい、本件決定処分と併せて「本件決定処分等」という。)をした。
ロ 請求人は、これらの処分を不服として、平成15年5月2日に異議申立てをしたところ、異議審理庁が同年7月30日付でこれを棄却する旨の異議決定をしたので、同年8月26日に審査請求をした。

(3)関係法令等

 相続税法第64条第1項は、同族会社の行為又は計算で、これを容認した場合においてはその株主若しくは社員又はその親族その他これらの者と政令で定める特別の関係がある者の相続税又は贈与税の負担を不当に減少させる結果となると認められるものがあるときは、税務署長は、相続税又は贈与税についての更正又は決定に際し、その行為又は計算にかかわらず、その認めるところにより、課税価格を計算することができる旨規定している。

(4)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、本件相続により、次の土地及び建物ほかを相続した。
(イ)P市p町○−○の土地(地積129.78平方メートル)及びP市p町○−○○の土地(地積111.60平方メートル。以下、P市p町○−○の土地と併せて「本件土地」という。)
(ロ)本件土地上にある建物(木造瓦葺2階建、床面積395.76平方メートル。以下「本件建物」といい、本件土地と併せて「本件土地建物」という。)
ロ 本件土地建物の本件相続開始日現在における財産評価基本通達に基づいて評価した金額(以下「相続税評価額」という。)は、別表2の「合計」欄に記載のとおり、合計124,168,000円である。
ハ ○○法務局所属公証人Fは、平成12年10月18日、遺言者である被相続人の嘱託により、平成○○年第○○○号遺言公正証書(以下「本件遺言書」という。)を作成している。
 なお、本件遺言書には、要旨次の内容が記載されている。
(イ)被相続人は、G株式会社(以下「G社」という。)が所有する本件土地建物を、将来同会社から譲り受ける予定であるが、譲り受けた場合は、これを請求人に相続させる。(第7条)
(ロ)被相続人の負担に係る債務及び保証債務については、請求人が負担するものとする。(第8条)
ニ 被相続人は、平成12年10月20日、本件土地建物について、G社から売買価額1,652,000,000円で譲り受けるとした売買契約(以下「本件契約」という。)を交わしている。
 なお、本件契約書には、売買代金の支払について、要旨次の内容が定められている。
(イ)G社が本件土地建物を取得する際に、平成2年1月31日にH銀行○○支店(以下、「H銀行」という。)から借り入れた借入金債務の残高(以下「本件借入金残高」という。)1,652,000,000円の全額を被相続人が承継することにより、その支払に充当する。(第2条1項)
(ロ)被相続人は、第2条1項により承継した借入金債務を各返済期日までにG社の銀行口座に元金及び利息の合計金額を送金して支払う。(第2条2項)
(ハ)本件土地建物の所有権は、本件契約締結の日をもって被相続人に移転するものとする。(第3条)
(ニ)上記記載の被相続人がG社より承継した債務を全額返済した場合、本件土地建物の所有権移転登記手続をする。(その他特約事項)
ホ 請求人は、本件契約時において、G社の株主である。
ヘ G社は、本件契約が締結された時点で、発行済株式数が40,000株であり、このうち、被相続人が14,000株、請求人並びにその妻及び子供が合計11,700株、被相続人の長男であるJ並びにその妻及び子供が合計12,500株を有し、株主等の3人及びこれらと政令で定める特殊の関係のある個人が有する株式が合計38,200株となり、その所有割合は発行済株式数の95.5%と50%以上であることから、法人税法第2条《定義》第10号に規定する同族会社に該当する。

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2 主張

(1)原処分庁

イ 本件決定処分
(イ)被相続人は、同族会社であるG社から、本件相続開始の直前の平成12年10月20日に相続税評価額が124,168,000円の本件土地建物を1,652,000,000円で売買により取得し、本件借入金残高1,652,000,000円を負担することとしているが、被相続人とG社が行った上記行為により、被相続人の相続に係る相続税の課税価格は1,527,832,000円減少することになり、請求人の相続税の負担を不当に減少させる結果となる。
 上記の結果をもたらす被相続人とG社が締結した本件契約は、売買価額が相続税評価額の約13倍という異常に高額のものであり、このような取引は通常の経済人であれば行わないであろうと考えられ、経済的な観点からみて、不自然・不合理なものであると認められる。
 しかも、両者が被相続人に係る相続税対策とG社の再建を目的として本件契約を選択して締結し、その結果として、本件相続に係る相続税の計算においては、本件借入金残高を債務控除の対象としており、請求人自身も、本件契約が本件相続に係る相続税の負担を減少又はなくすために締結されたことを認めていることから、本件契約の締結が通常の経済人が合理的根拠をもって行った行為でないことは明らかであり、相続税法第64条第1項の規定を適用して行われた原処分は適法である。
 なお、請求人は、実質的には被相続人がG社に対し債権放棄したものである旨主張するが、原処分及び異議決定の段階において、それを明らかにする証拠の提出はなく、また、原処分庁が既に収集した資料に照らしても、請求人の主張には理由がない。
(ロ)請求人は、担税力がない者に対して相続税を課税すべきでない旨主張するが、租税法律主義の原則が貫かれるべき租税法律関係においては、納税者間の平等、公平という要請を犠牲にしてもなお当該課税処分にかかる課税を免れしめて納税者を保護しなければ正義に反するというような特別の事情が存する場合に初めてその適用の是非を考慮すべきであり、本件においてはそのような事情があるとは到底認められない。
ロ 本件賦課決定処分
 本件決定処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が、決定前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第66条《無申告加算税》第1項ただし書に規定する正当な理由がある場合には該当しないことから、同項本文の規定に基づいて行った本件賦課決定処分は適法である。

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(2)請求人

イ 本件決定処分
(イ)G社は、本件土地建物を平成2年1月31日に売買価額1,876,620,000円で取得し、その取得資金については、H銀行からの借入金1,737,000,000円と自己資金の139,620,000円で取得した。
 G社は、本件土地に貸ビルを建築する目的で取得し、建物の設計図面の作成も完了していたが、平成2年ころの近隣における家賃水準では貸ビルとしての採算が取れないことから、着工を見合わせていたものである。
 その後、G社は、バブルの崩壊により地価が下落し続けたため、貸ビルを建築することも外部に売却することもできなかったことから、H銀行からの借入金に対する支払利息の増加を最大の原因として業績が悪化して欠損会社に転落した。
 被相続人に係る相続税対策とG社の再建とは密接に関連していることから、被相続人に係る相続税対策として、本件土地建物を被相続人に譲渡し、銀行借入金を被相続人がすべて肩代わりする方法として、一つは、H銀行からの借入金残高を譲渡価額として譲渡する方法と、二つめは、時価で譲渡し、H銀行からの借入金残高と譲渡価額との差額については、被相続人が保証債務として履行し、G社に対する債権(求償権)を放棄する方法の二つの方法の提案を内容とする資料を、平成10年6月、H銀行に提出した。
 本件契約の背景には、被相続人がH銀行からの借入金の包括根保証人になっており、G社の経営状態からすると、保証債務の履行を迫られることは十分に予想され、たとえ被相続人が代位弁済してもG社に対して求償権を行使することは困難であり、いずれは求償権の放棄をすることとなると判断して、時価で取引した場合には行ったであろう当該債権放棄の意味合いもかねて、本件土地建物を本件借入金残高で被相続人に譲渡し、本件借入金残高を被相続人がすべてを肩代わりすることにより解決しようとしたもので、やむを得ず採った処置であり、請求人の相続税の負担を不当に減少させる意図など微塵もない。
 したがって、本件契約は、実質的には被相続人がG社に対し債権放棄したものと考えるべきであるから、相続税法第64条第1項の規定を適用して行われた本件決定処分は取り消されるべきである。
(ロ)また、請求人は、本件相続開始日における本件借入金残高1,652,000,000円を承継することとなり、本件決定処分等による472,011,800円の相続税及び70,801,500円の無申告加算税を負担する能力は全くないことから、担税力のない者にまで相続税法第64条第1項の規定を適用した本件決定処分等は、人の死亡に基因してその財産を相続又は遺贈により取得した人に担税力が生じることに着目して、その取得した人に相続税を課するとしている相続税の趣旨を無視することになり、本末転倒の行為である。
 さらに、相続税法第64条第1項の後段は「課税価格を計算することができる」旨規定しており、本件のように担税力のない者に対しては税務署長の裁量で処分を行わなかったとしても租税法律主義の原則に反するものではない。
ロ 本件賦課決定処分
 上記イのとおり本件決定処分は取り消されるべきであることから、同処分に基づいてなされた本件賦課決定処分は取り消されるべきである。

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3 判断

(1)本件決定処分

イ 認定事実
(イ)原処分関係資料によると、以下の事実が本件契約の約定に基づいて実行されていることが認められる。
A G社は、本件契約締結日に、借方に本件借入金残高1,652,000,000円、減価償却費累計額1,570,668円及び固定資産売却損226,816,825円、貸方に本件土地建物1,880,387,493円とした経理処理をしている。
B 被相続人は、本件契約に係る売買代金の決済手段として債務を承継した本件借入金残高と被相続人のG社に対する貸付金とを相殺するという経理処理により、第1回目の返済期日の平成12年10月31日に、その一部2,000,000円をG社の当座預金口座を介して返済した。
C 請求人の代理人K税理士(以下「K税理士」という。)が原処分庁へ提出した相続税試算資料には、本件土地建物が相続税がかかる財産の明細書に、また本件借入金残高から第1回目の返済期日に返済した2,000,000円を控除した金額が債務及び葬式費用の明細書に記載されている。
(ロ)H銀行の提出資料から、次の事実が認められる。
A 本件契約の締結以後における借入金名義は、G社のままであり、被相続人名義に変更されていない。
B 平成12年5月8日付のG社を与信先とする貸出条件変更申請書には、本件借入金残高は、平成12年10月31日に2,000,000円を返済され、同年11月30日に残額1,650,000,000円が返済される旨が記載されている。
(ハ)請求人提出資料及び原処分関係資料から次の事実が認められる。
A K税理士は、平成10年6月にH銀行あてに提出した資料において、当該資料作成時に公表されていた平成9年度の路線価から算出された本件土地の相続税評価額を191,890,000円として、相続税対策を実施しなかった場合の相続税の納付すべき税額を606,781,000円としている。
B 請求人は、H銀行に対して被相続人の生前から本件契約により本件借入金残高を被相続人に承継させたい旨の説明をしていたが、H銀行は、被相続人が高齢であるからとして融資先変更手続をとらなかった。
 また、被相続人の死後、本件契約の決済手段である本件借入金残高の残額は請求人が被相続人より承継して返済することとしたが、他の相続人から相続財産の分割等に関して公正証書遺言無効確認訴訟などが提起されたこともあり、H銀行との契約上は、本件借入金残高の残額に係る債務者はG社のままとなっている。
C 本件建物は平成14年4月ころにG社により撤去され、撤去費用についてはG社に対する貸付金を相殺し減額する方法で請求人が負担し、その後、本件土地は平成14年5月1日から月額330,000円でL株式会社に駐車場として一括して賃貸されており、同賃貸料は、H銀行の請求人名義普通預金口座に振り込まれている。
D 被相続人から本件契約の決済手段である本件借入金残高の残額1,650,000,000円を承継した請求人は、G社に対する貸付金と相殺する方法により、G社名義の預金口座を介して、H銀行へ分割返済している。
ロ 法令解釈
(イ)相続税法第64条第1項の規定は、同族会社を一方の当事者とする取引当事者が、経済的動機に基づき自然・合理的に行動したならば普通採ったはずの行為形態を採らず、殊更不自然・不合理な行為形態を採ることにより、その同族会社の株主その他所定の者の相続税又は贈与税の負担を不当に減少させると認められる場合には、税務署長は、この同族会社の行為計算を否認し、取引当事者が経済的動機に基づき自然・合理的に行動したとすれば、通常採ったであろうと認められる行為計算に従って相続税又は贈与税を課することができるというものであり、同条がこのように規定する趣旨は、私法上許された法形式を濫用することにより、租税負担を不当に回避し又は軽減することが企図されている場合には、実質的にみて租税負担の公平の原則に反することになるから、このような行為又は計算をいわゆる租税回避行為として、税法上は、これを否認して本来の実情に適合すべき法形式の行為に引きなおして、その結果に基づいて課税しようというものである。
(ロ)したがって、当該規定の適用に当たっては、その行為計算が単に結果において相続税又は贈与税の軽減を来たすということのみによってこれを決すべきものではなく、当該行為計算が経済的、実質的にみて、経済人の行為として、不自然・不合理なものと認められるか否かにより判断すべきである。
ハ これを本件についてみると、上記イ認定事実の(イ)のとおり、本件土地建物については、被相続人がG社より承継した債務を全額返済していないことから所有権移転登記手続は行われていないが、上記1の(4)基礎事実のニの(ハ)のとおり、G社では、本件契約書に所有権は本件契約締結日に被相続人に移転する旨明記されているとして帳簿から全額減算している。
 また、本件借入金残高については、H銀行がG社から被相続人への融資先変更手続を行っていないが、G社では借入金勘定の帳簿金額から全額減算し、被相続人も平成12年10月31日にG社に対する貸付金と相殺する方法で本件借入金残高の一部を返済するなど、本件土地建物及び本件借入金残高のいずれについても本件契約に沿った処理が行われている。
 これらのことから、本件契約は、当事者の意思に基づき締結された不動産売買を目的とした契約であり、本件契約を締結したことにより、被相続人が本件土地建物の所有権を取得したと判断するのが相当である。したがって、本件土地建物は、本件相続に係る相続税の課税価格の計算上、取得財産となる。
 他方、被相続人が本件契約に係る決済手段としてG社から承継したとされる本件借入金残高に相当する金額は、上記イ認定事実の(イ)のB及び同(ロ)のAのとおり、H銀行との間ではG社の銀行借入金を承継したとは認められておらず、被相続人が本件借入金残高について免責的引受けをしたとはいえない。
 したがって、被相続人が本件契約により負担し、請求人が相続したのは、本件借入金残高相当額のG社に対する本件土地建物の売買代金債務であると認められ(本件借入金の返済は、売買代金債務の弁済の手段である。)、本件相続開始日における当該売買代金債務の残額1,650,000,000円(1,652,000,000円−2,000,000円)は、通常は、本件相続に係る相続税の課税価格の計算上、債務控除の対象となるべきものである。
ニ しかしながら、本件契約は、請求人が自ら認めているようにG社の再建と被相続人に係る相続税対策を同時に可能にする方法として考え出され、G社の銀行借入金残高である本件借入金残高を不動産売買価額とした本件契約を締結することによりG社の銀行借入金を被相続人に移し変えることを図ったもので、これにより、G社は、大幅な債務超過の状況を脱することができ、また、被相続人に係る相続税の計算上も借入金であれば債務控除が可能となるとして実行されたものであると認められる。
 そして、不動産売買における価格の決定については、利害関係を共通しない経済人の間では近隣の売買実例や公示価格等を参考に時価に相当する金額が売買価額として形成されるのが通例であると考えられるところ、上記イ認定事実の(ハ)のAのとおり、本件契約の当事者間では、本件借入金残高1,652,000,000円が、本件契約締結時の本件土地建物の時価とは大幅にかい離していることを認識しながら本件借入金残高をもって売買価額としたものである。
 したがって、当該売買価額の決定は、経済人の行為として殊更不自然・不合理なもので、利害関係を共通しない経済人当事者の間では通常行われ得なかったものといわざるを得ず、売買代金債務のうち本件土地建物の時価を超える部分の金額については、債務控除が過大となり、G社の株主である請求人の相続税を不当に減少させるものと認めるのが相当であるから、相続税法第64条第1項を適用して本件相続に係る課税価格を計算することは適法である。
ホ 本件土地建物の時価相当額
(イ)上記ニのとおり、本件契約に係る売買金額のうち本件土地建物の時価を超える部分の金額は請求人の相続税を不当に減少させるものと認めるのが相当であり、ここにいう時価とは、必ずしも相続税評価額をいうものではなく、本来それぞれの財産の状況に応じ、ある時点で不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額、すなわち、客観的な交換価値を示す価額をいうものと解されるところ、本件契約締結時の本件土地建物の時価の算定に当たっては、〔1〕その近傍類似地域の売買実例を用いる方法及び〔2〕路線価又は公示価格を基に時価換算倍率を乗じて算出する方法などがあると考えられる。
(ロ)しかし、上記〔1〕については、本件土地の近傍類似地域に適当な取引事例が存在しない。
(ハ)上記〔2〕については、公示価格及び標準価格を路線価で除して得られる公示価格比準倍率及び標準価格比準倍率を用いる方法であるところ、類似地域にある地価公示法に基づく標準地3地点の平成12年1月1日を基準日とする公示価格を本件契約締結日に時点修正した後の公示価格比準倍率の平均値は1.05倍で、また、類似地域にある基準地1地点の平成12年7月1日を基準日とする標準価格を本件契約締結日に時点修正した後の標準価格比準倍率は1.07倍になり、公示価格比準倍率及び標準価格倍率の単純平均値は1.06倍となる。
(ニ)また、本件建物については、その建築年月日及び建築価額等が不明であること並びに同建物が既に取り壊されていることから、その時価を正確に算定する資料がなく、また、他に特別の事情やより合理的な方法もないため、本件契約締結時の本件建物の固定資産税評価額を時価として採用することは合理的な範囲にあると認められる。
(ホ)そして、本件土地建物の客観的な交換価値を算定する方法は必ずしも一つとは限らずまた容易でないものであるところ、これら上記の指標を用いて算定される価額は、原処分に係る金額124,168,000円とかい離はあるものの、標準地及び基準地の条件を考慮すると、両金額におけるかい離は絶対的とは認められないから、原処分に係る金額は不合理であり違法であるとの理由にはならない。
 したがって、本件契約について相続税法第64条第1項を適用して行う本件相続に係る課税価格の計算に当たって、本件土地建物の売買価額(時価相当額)は相続税評価額を基に算定した124,168,000円であるとして行うことは、合理的な範囲にあり、相当である。
ヘ 本件相続に係る課税価格等の計算
 本件契約に係る行為に相続税法第64条第1項を適用して、本件契約の売買価額のうち本件契約締結時の時価を超える金額は相続税を不当に減少させているから、当該不当に減少させる金額を除いたところで行われたものとして、本件契約に係る金額を124,168,000円とし算定した別表3の「〔2〕債務控除額」欄の原処分庁主張額384,757,400円から、上記イ認定事実の(イ)のBのとおり平成12年10月31日に貸付金と相殺させる形で返済された本件借入金残高の一部2,000,000円を差し引いた金額122,168,000円を債務控除額として請求人の課税価格等を計算すると、別表3の「審判所認定額〔2〕」欄のとおりであり、原処分庁主張額の相続税の課税価格及び納付税額を上回っている。
ト なお、請求人は、本件契約は、実質的には被相続人がG社に対し求償権を放棄する方法と経済効果は同様である旨主張するが、被相続人が本件相続開始日までにG社の債務について保証債務の履行を求められた事実も、また、代位弁済した事実もなく、さらには、求償権を放棄した事実もないことから、請求人の主張は採用できない。
チ また、請求人は、担税力がないものに対して相続税を課税すべきでない旨主張するが、請求人の担税力がなくなったことは、上記(1)のハのとおりG社が被相続人との間で経済的、実質的にみて、経済人の行為として不自然・不合理な本件契約を締結した結果、招来したものと認められることから、請求人の主張には理由がなく、本件決定処分は、原処分庁の裁量権の範囲を逸脱した賦課権限の濫用には当たらない。
 以上のことから、本件契約について相続税法第64条第1項を適用した上で、本件相続に係る課税価格の計算を行ったところでなされた本件決定処分は、それ自体に違法と認める点はなく、また、当該課税価格の金額及び納付税額等については上記のとおりであるから、適法である。

(2)本件賦課決定処分

 上記(1)のとおり本件決定処分は適法であり、国税通則法第66条第1項ただし書に規定するところの本件決定処分の前に期限内申告書の提出がなかったことについて正当な理由があると認められる場合に該当しないものであるから、同項本文の規定に基づいてされた本件賦課決定処分は適法である。
(3)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠書類等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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