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(平16.2.5裁決、裁決事例集No.67 747頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、宗教法人である審査請求人(以下「請求人」という。)が実施した合宿研修について、合宿参加者より徴収した宿泊費収入が資産の譲渡等の対価に該当するか否かを争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成11年4月1日から平成12年3月31日までの課税期間及び平成13年4月1日から平成14年3月31日までの課税期間(以下、順次「平成12年3月課税期間」及び「平成14年3月課税期間」といい、これらを併せて「本件各課税期間」という。)の消費税及び地方消費税について、確定申告書に次表のとおり記載して、いずれも法定申告期限までに申告した。

項目/課税期間平成12年3月課税期間平成14年3月課税期間
課税標準額1,199,211,000円1,447,355,000円
納付すべき消費税額20,043,100円36,410,600円
納付すべき地方消費税額5,070,200円9,102,600円

ロ  原処分庁は、これに対して、平成15年5月30日付で次表のとおり、本件各課税期間の各更正処分(以下「本件各更正処分」という。)及び過少申告加算税の各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」という。)をした。

区分項目/課税期間平成12年3月課税期間
更正処分課税標準額1,422,082,000円
 納付すべき消費税額23,636,200円
 納付すべき地方消費税額5,967,300円
賦課決定処分過少申告加算税の額449,000円
区分項目/課税期間平成14年3月課税期間
更正処分課税標準額1,725,447,000円
 納付すべき消費税額40,003,200円
 納付すべき地方消費税額10,000,800円
賦課決定処分過少申告加算税の額449,000円

ハ 請求人は、これらの処分を不服として、平成15年6月23日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年9月19日付で棄却の異議決定をした。
ニ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成15年10月14日に審査請求をした。

(3)関係法令等

イ 消費税法第4条《課税の対象》第1項は、国内において事業者が行った資産の譲渡等には、消費税を課する旨規定している。
ロ 消費税法第2条《定義》第1項第8号は、資産の譲渡等とは、事業として対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供をいう旨規定している。
ハ 消費税法基本通達5−1−1《事業としての意義》の(注)2は、法人が行う資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供は、そのすべてが「事業として」に該当する旨を定めている。
ニ 消費税法基本通達5−1−2《対価を得て行われるの意義》は、消費税法第2条第1項第8号(資産の譲渡等の意義)に規定する「対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供」とは、資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供に対して反対給付を受けることをいう旨を定めている。
ホ 消費税法基本通達5−5−3《会費、組合費等》は、同業者団体、組合等がその構成員から受ける会費、組合費等については、当該同業者団体、組合等がその構成員に対して行う役務の提供等との間に明白な対価関係があるかどうかによって資産の譲渡等の対価であるかどうかを判定する旨、また、同通達の(注)1は、当該同業者団体、組合等がその団体としての通常の業務運営のために経常的に要する費用をその構成員に分担させ、その団体の存立を図るというようないわゆる通常会費については、資産の譲渡等の対価に該当しないものとして取り扱って差し支えない旨を定めている。

(4)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、請求人の会員を対象として、本件各課税期間ごとに合宿研修(以下「本件各合宿研修」という。)を開催している。
ロ 請求人が発行する機関紙には、本件各合宿研修の募集記事として、要旨次のとおり掲載されている(実施期日については、男子部、女子部、壮年部、婦人部ごとに異なる。)。
(イ)標題  本年の「合同研修」詳細決定(平成14年3月課税期間)
(ロ)参加資格  班長以上の幹部(女子部、婦人部においては子供連れでも参加できる。)
(ハ)会期  2泊3日
(ニ)研修地  P県Q市「Rホテル」
(ホ)期日  7月後半から8月後半
(ヘ)宿泊費  2泊3日(6食)25,500円、小人(小学生)17,500円、幼児(3才ないし6才)12,500円
ハ 請求人は、本件各合宿研修に要した費用(以下「本件各合宿研修費」という。)の全額を旅行代理店へ支払っている。
 なお、請求人は、本件各合宿研修へ参加した会員から「宿泊費」名目で徴収した金額(以下「本件宿泊費」という。)の総額と、旅行代理店に支払った本件各合宿研修費との差額を、請求人の公益部門会計の「寄付金」勘定に収入計上している。
 なお、本件各課税期間における本件宿泊費、本件各合宿研修費及び寄付金として収入計上した金額は次表のとおりである。

区分/課税期間平成12年3月課税期間平成14年3月課税期間
本件宿泊費の総額234,015,090円291,996,450円
本件各合宿研修費211,741,803円265,000,000円
寄付金(上記の差額)22,273,287円26,996,450円

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2 主張

(1)請求人

 原処分は、次の理由により違法であるから、その一部の取消しを求める。
イ 本件各合宿研修は、請求人の定款に記載された請求人の本来の目的を達成するために組織的活動の一環として行われているものであるから、本件各合宿研修へ参加した会員から宿泊代、食事代及び交通費等を賄うために徴収した本件宿泊費には、明白な対価性はなく、消費税の課税対象とはならない。このことは、平成14年6月国税庁消費税室の消費税関係質疑応答事例集1−30に掲載されている「定例総会等の費用を賄うために徴収する特別参加費」、同様に消費税審理事例集−国税庁作成−目次に掲載されている1−160「記念行事の費用を賄うために徴収する特別負担金」、同1−161「イベント開催のための会費」及び同1−162「学会の年会参加費等」ほかの質疑応答事例においても、対価性は認められないとして不課税とされていることでも明らかである。
 また、本件各合宿研修は、本来であれば、請求人の本部会館で無料で行うものであるが、会場の関係でやむを得ず、ホテルの集会場を賃借して行っているものであり、その実費相当額を参加会員に負担してもらっているに過ぎず、収入を得る目的で行うセミナーや研修会とはその性質を異にするものであって、課税資産の譲渡等の対価には該当しないことから、消費税の課税対象とはならない。
ロ 本件宿泊費は、本件各合宿研修の宿泊費等の実費相当額を概算的に徴収したものであるが、本件各合宿研修の結果、多少の利益が出たとしても、これは、合宿研修の計画の初期の段階において参加費を決定しなければならないなどの状況からすれば、ある程度の余裕を持って参加費用を決定することは通常行われていることであるから、これをもって対価性があるとは即断できない。
 したがって、本件宿泊費は、資産の譲渡等に該当しないことから、本件各更正処分は違法である。
ハ 上記イ及びロのとおり、本件各更正処分は違法であるから、本件各賦課決定処分はいずれもその一部が取り消されるべきである。
ニ 原処分のその他の部分については争わない。

(2)原処分庁

 原処分は、次の理由により適法であるから、本件審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 請求人は、本件各合宿研修の企画及び各会員に対する参加の案内をし、この研修に参加する会員から本件宿泊費を徴収した上で、本件各合宿研修を行っており、これに参加する各会員は、本件宿泊費を請求人に支払うことにより研修に参加することができることとなると認められ、翻って、請求人は、本件各合宿研修という各会員らに対する役務の提供の対価として本件宿泊費を受領するとともに、本件各合宿研修に係る役務の提供等の対価たる費用として本件各合宿研修費を旅行代理店に支払っているものと認められる。
ロ 対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供とは、上記1の(3)のニのとおり資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供に対し反対給付を受けることと解すべきであり、本件各合宿研修が収入を得る目的で行われたか否か、また、本件宿泊費と本件各合宿研修費の差額(利益の額)の多寡等により、資産の譲渡等に当たるか否かを判断すべきものではないから、請求人の主張には理由がない。
 したがって、本件宿泊費は、資産の譲渡等の対価に該当することから、本件各更正処分は適法である。
ハ 上記イ及びロのとおり、本件各更正処分は適法であり、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する「正当な理由があると認められるものがある場合」には該当しないことから、同条第1項及び地方税法附則第9条の9《譲渡割に係る延滞税等の計算の特例》第1項の各規定に基づいてされた本件各賦課決定処分はいずれも適法である。

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3 判断

 本件の争点は、本件各合宿研修が、対価を得て行われる役務の提供に該当するか否かであるので、以下審理する。

(1)本件各更正処分について

イ 認定事実
 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ)宗教法人「A会」規則及び平成6年3月31日付の「A会」規約によれば、請求人の会員全員が参加するいわゆる総会に関する定めはない。
(ロ)請求人は、数珠・教本等売上、購読料売上、食堂売上等の収益部門及び広布御供養を主とする公益部門を有している。
(ハ)本件各合宿研修は、請求人の会長が開催を企画するとともに、責任役員3名を含む5名による理事会において計画案を承認し、請求人の責任において行われている。
(ニ)請求人は、旅行代理店であるB株式会社との間で本件各合宿研修費の金額を交渉し、取り決めている。
(ホ)請求人は、本件各合同研修への参加を申し込み、本件宿泊費を払い込んだ会員が、後日都合により参加できなかった場合又は中途で帰宅した会員に対して、徴収した宿泊費の全部又は一部を返金している。
ロ 法令等の解釈
 消費税法は、上記1の(3)のイ及びロのとおり、国内において事業として対価を得て行われる役務の提供は、消費税の課税の対象に該当する旨規定している。
 そして、消費税法基本通達5−1−1の(注)2及び同通達5−1−2は、上記1の(3)のハ及びニのとおり、法人が行うすべての役務の提供は「事業として」行うものであり、役務の提供に対して反対給付を受けることは「対価を得て行われる」ものであることを明らかにしており、当審判所においてもこれらの取扱いは相当であると認められる。
 また、「対価を得て行われる」ことの意義については、消費税法第28条《課税標準》第1項は、課税標準となる対価の額の意義として「対価として収受し、又は収受すべき一切の金銭又は金銭以外の物若しくは権利その他経済的な利益の額」をいう旨規定していることから、一般に対価を得て行う取引は広く課税の対象になると解される。
ハ 本件について、上記1の(4)及び上記イの事実を上記ロにあてはめると、次のとおりである。
(イ)請求人は、法人であるから、請求人の行った役務の提供は、事業として行われたものに該当する。
(ロ)上記1の(4)のロ及び上記イの(ハ)の事実によれば、請求人は、本件各合宿研修を企画立案し、その実施を決定した後に、発行する機関紙においてその実施を周知し参加者を募集していると認められる。
 また、上記1の(4)のロ及び上記イの(ニ)の事実によれば、請求人は、本件各合宿研修について、旅行代理店に、本件各合宿研修に係る往復の交通手段や宿泊先の手配などを請け負わせるとともに、本件宿泊費の額を決定していると認められる。
 以上のことから、本件各合宿研修を会員に対して提供したのは請求人自身と認められ、このことは請求人の会員に対する役務の提供に該当する。
(ハ)上記1の(4)のロの事実によれば、本件各合宿研修は、会員全員を対象に無料で実施するものではなく、参加資格を有する会員といえども本件宿泊費を支払わなければ、本件各合宿研修に参加できないことが認められる。
 また、上記イの(ホ)の事実によれば、請求人は、参加者以外の会員からは、本件宿泊費を受領していないことが認められる。
 以上のことから、本件各合宿研修と本件宿泊費との間には、明白な対価関係があるといわざるを得ない。
(ニ)上記(イ)から(ハ)までのことから、本件各合宿研修は、請求人が、事業として対価を得て行った役務の提供に該当し、消費税の課税の対象になると解するのが相当である。
ニ 請求人は、本件各合宿研修は、宗教法人である請求人の本来の目的を達成するため組織的活動の一環として行われたものであり、本件宿泊費は、参加会員から本件各合宿研修に要する宿泊代、食事代及び交通費等を賄うために徴収したものであるから、両者の間には明白な対価性はなく、消費税の課税対象とはならない旨主張する。
 しかしながら、上記ハの(ハ)のとおり、請求人が企画し実施した本件各合宿研修と、参加会員から本件宿泊費との間には、明白な対価関係が認められるので、この点についての請求人の主張に理由はない。
ホ 請求人は、本件各合宿研修と本件宿泊費との間に明白な対価関係がないことは、国税庁消費税室が作成した質疑応答事例等においても明らかである旨主張する。
 ところで、請求人の主張する質疑応答事例は、上記1の(3)のホの消費税法基本通達5−5−3に基づいたもので、同業者団体、組合等が開催した総会、イベント等(以下「総会等」という。)と、その参加に際して徴収される会費、参加費等(以下「会費等」という。)との対価関係について判断したものである。そして同業者団体、組合等が会の運営維持のために要する経費、参加者が共同して負担すべき行事の開催に要する費用等が会費等として徴収されるとしても、当該会費等と、それを支払う組合員等が受ける役務の提供との間における対価関係が希薄であることを理由として、上記のような取扱いを行っていると認められ、当審判所においても、当該取扱いは相当であると認められる。
 しかしながら、本件各合宿研修では、参加する会員に対し、ホテルでの飲食、宿泊及びホテルまでの旅行という役務の提供がされるところ、会員は、一律の宿泊費名目の金員を請求人に支払うことにより、その他の負担なしでこれらの役務の提供が受けられることが認められるから、本件各合宿研修と本件宿泊費との間には、明らかに対価関係が認められる。
 したがって、本件は、請求人の主張する質疑応答事例のケースとはその内容を異にするものであり、この点において、請求人の主張には理由はない。
ヘ 請求人は、本件各合宿研修は、本来は請求人の施設において無料で行うべきであるが、会場の関係でやむを得ずホテルを使用したのであり、参加した会員にホテルの利用に要する実費相当額を負担してもらったにすぎないので、収入を得る目的で行うセミナーや研修会とはその性質を異にするものであるから、消費税の課税対象とはならない旨主張する。
 しかしながら、上記ハの(ロ)及び(ハ)のとおり、請求人は、単に会員から実費相当額を預かって旅行代理店に取り次いでいるのではなく、旅行代理店との間で本件各合宿研修費の額を交渉し、会員の参加費用の単価を自ら決定していると認められるので、本件宿泊費は、請求人が、本件各合宿研修に参加した会員から、その対価として収受していると解するのが相当であり、この点に関する請求人の主張には理由はない。
ト 以上のとおり、本件各合宿研修は、請求人が行った資産の譲渡等に該当し、消費税の課税の対象となることから、本件各更正処分は適法である。

(2)本件各賦課決定処分について

 上記(1)のとおり、本件各更正処分は適法に行われており、かつ、請求人には過少申告加算税の基礎となった事実が国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があると認められるものがある場合に該当しないことから、同条第1項及び地方税法附則第9条の9第1項の規定に基づいて行った本件各賦課決定処分はいずれも適法である。

(3)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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