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(平16.5.20裁決、裁決事例集No.67 767頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、固定資産課税台帳に登録された価格のない土地の所有権移転登記における、登録免許税の基礎となる土地の価額の多寡を争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、別表1の「登記」欄記載のとおり登録免許税を納付して、平成14年6月14日に、P市p町○−○所在の宅地(以下「本件土地」という。)の所有権移転登記(以下「本件登記」という。)を受けた。
ロ その後、請求人は、本件登記に係る登録免許税の課税標準の額及び税額は、別表1の「還付通知請求」欄記載のとおりであり、本件登記に当たり納付した登録免許税の額のうち、1,577,000円(以下「本件請求額」という。)は過誤納であるとして、平成15年4月8日、原処分庁に対し、登録免許税法第31条《過誤納金の還付等》第1項に基づくA税務署長への過誤納金の還付通知をすべき旨の請求(以下「本件還付通知請求」という。)をした。
ハ これに対し、原処分庁は、本件登記に係る登録免許税の課税標準の額及び税額は、別表1の「通知」欄記載のとおりであるとして、平成15年5月28日付でA税務署長に対し、本件請求額のうち374,900円については、還付すべき旨の通知をするとともに、同日付で、請求人に対し、本件請求額のうち1,202,100円は、還付通知をすべき理由がない旨を通知(以下「本件通知」という。)した。
ニ 請求人は、本件通知を不服として、平成15年6月10日に審査請求をした。

(3)関係法令

イ 登録免許税法第31条第1項は、登記機関は、登記等を受けた者が過大に登録免許税を納付して登記等を受けたときは、その過大に納付した登録免許税の額を、登記等を受けた者の登録免許税の納税地の所轄税務署長に通知しなければならない旨規定している。
ロ 租税特別措置法(平成15年3月31日法律第8号による改正前のものをいい、以下「措置法」という。)第84条の5《不動産登記に係る不動産価額の特例》は、平成8年4月1日から平成15年3月31日までの間に受ける土地の登記に係る課税標準たる土地の価額は、当該土地の、地方税法第341条《固定資産税に関する用語の意義》第9号に掲げる固定資産課税台帳に登録された価格(以下「固定資産税評価額」という。)を基礎として政令で定める価額に、三分の一を乗じて計算した金額とする旨規定している。
ハ 措置法施行令(平成15年3月31日政令第139号による改正前のものをいう。)第44条の2《不動産登記に係る不動産価額の特例》第1項は、措置法第84条の5に規定する政令で定める価額は、固定資産税評価額のない土地の場合は、当該土地に類似する土地の固定資産税評価額を基礎として、当該登記に係る登記官が認定した価額とする旨規定している。

(4)基礎事実

 以下の事実については、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
イ 本件登記は、国有地であった本件土地を請求人が売買により取得し、その所有権移転の事実を登記したものであること。
ロ 本件登記の時において、本件土地の固定資産税評価額はなかったこと。
ハ 原処分庁は、本件土地に係る措置法施行令第44条の2第1項に規定する価額(以下「本件土地の価額」という。)を、別表2のとおり認定したこと。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次のとおり違法であるから、課税標準の額38,144,000円及び登録免許税の額1,907,200円を超える部分の取消しを求める。
イ 本件土地は、きわめて不整形な土地であるから、本件土地の価額の認定に当たっては、不整形の補正をすべきである。
ロ 平成15年度に本件土地に付された固定資産税評価額は、本件土地が不整形であることを考慮して算定されているから、本件土地の価額は、平成15年度の本件土地の固定資産税評価額を基に、固定資産税の路線価の1年間の下落率2.5%を適用して時点修正を行い、次のとおり計算すべきである。
平成15年度の固定資産税評価額(時点修正)
本件登記の時の本件土地の価額
111,643,542円×(1+0.025)=114,434,630円
ハ したがって、本件土地の課税標準の額は、上記ロの価額に三分の一を乗じて計算した38,144,000円となり、これに基づく登録免許税の額は1,907,200円となる。

(2)原処分庁の主張

 原処分は、次のとおり適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 本件通知のときにおいて、原処分庁が認定した本件土地の価額は、P市長に照会して回答を得た本件土地に類似する土地の固定資産税評価額を基礎として、別表2の「本件通知」欄記載のとおり186,559,920円と算定したものであるから、請求人が主張する補正を行う必要はない。
ロ 請求人は、平成15年度の本件土地の固定資産税評価額を基に本件土地の価額を計算すべきである旨主張するが、登記のあった年の翌年の固定資産税評価額に基づいて、本件土地の価額を算定することはできない。
ハ したがって、本件土地の課税標準の額は、上記イの価額に三分の一を乗じて計算した62,186,000円となり、これに基づく登録免許税の額は3,109,300円となる。

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3 判断

 本件土地の価額の多寡に争いがあるので、以下審理する。

(1)認定事実

 原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
イ 原処分庁は、請求人から本件還付通知請求を受けた後の平成15年4月15日付で、P市長に対し、本件土地の所在地番を明示して、本件土地に類似する土地の平成14年度の固定資産税評価額を照会したこと。
ロ P市長は、平成15年4月30日付で、上記イの照会に対して、平成14年度の固定資産税評価額を、1平方メートル当たり141,000円である旨回答したこと。
ハ 原処分庁は、上記ロのP市長の回答額を基に、別表2の「本件通知」欄記載のとおり、本件土地の価額を186,559,920円と認定したこと。
ニ 上記ロのP市長の回答額は、本件土地が接面する南側の市道に付された平成14年度の固定資産税評価における路線価の額(不整形等の事情が一切考慮されない価額をいう。)と同額であること。
ホ 本件土地の間口、奥行き、形状及び接道状況は、別図のとおりであること。
ヘ 本件土地の周辺に、本件土地と間口、奥行き、形状及び接道状況が類似する土地は存在しないこと。

(2)本件土地の価額

イ 請求人は、本件土地はきわめて不整形な土地であるから、本件土地の価額の認定に当たっては、不整形の補正をすべきである旨主張し、これに対し、原処分庁は、本件土地の価額は、本件土地に類似する土地の固定資産税評価額を基礎として認定したものであるから、請求人が主張する補正を行う必要はない旨主張するので、以下、この点について検討する。
(イ)まず、本件土地の形状等についてみると、別図のとおり、本件土地は南側及び東側の二方の道路に接面した、間口が狭小の不整形な土地であることが認められる。
(ロ)次に、措置法施行令第44条の2第1項は、上記1の(3)のハのとおり、固定資産税評価額の付されていない土地の価額は、その土地に類似する土地の固定資産税評価額を基に、登記官が認定した価額とする旨規定しているところ、原処分庁の行った本件土地の価額の認定方法についてみると、確かに原処分庁は、上記(1)のイないしハのとおり、本件土地に類似する土地の固定資産税評価額をP市長に照会し、これに対する回答額を基として本件土地の価額を認定したことが認められる。
 しかしながら、このP市長の回答額は、原処分庁から、本件土地の所在地番が明らかにされた上で、これに類似する土地の固定資産税評価額を回答するように求められたにもかかわらず、上記(1)のニのとおり、不整形等の事情が一切考慮されない価額である、本件土地が接面する道路の路線価の額と同額を回答したものであって、その結果として原処分庁が認定した本件土地の価額は、本件土地に類似しない土地の価額を基礎として認定されたものであることが認められる。
(ハ)そうすると、原処分庁の認定した価額は、措置法施行令第44条の2第1項に従って算定されたものということはできない。
ロ そこで、当審判所において措置法施行令第44条の2第1項に従って本件土地の価額を算定すると、次のとおりとなる。
(イ)登録免許税における土地の課税標準の額は、上記1の(3)のロ及びハのとおり固定資産税評価額を基礎としているところ、固定資産税評価額の算定は、地方税法第388条《固定資産税に係る総務大臣の任務》第1項に規定する固定資産評価基準に基づき行うこととされている。
 そして、上記(1)のヘのとおり、本件土地と間口、奥行き、形状及び接道状況が類似する土地が存在しない本件にあっては、本件土地が接面する道路の平成14年度の路線価の額を基として、固定資産評価基準に定める不整形の補正率等を適用して本件土地の価額を算定することが、租税負担の公平の観点から最も合理的であると認められる。
(ロ)そこで、当審判所においてこの方法により本件土地の価額を算定すると、その額は、別表3の「〔12〕」欄記載のとおり、106,081,146円となる。

(3)本件登記に係る課税標準の額及び税額

 本件土地の価額は、上記(2)のとおりであるから、これに基づき、本件登記に係る登録免許税の課税標準の額及び登録免許税の額を算定すると、その額は、それぞれ別表3の「〔13〕」欄及び「〔14〕」欄記載のとおり、35,360,000円及び1,768,000円となる。
 したがって、原処分のうち、請求人の主張額を超える部分は取り消されるべきである。

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