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(平16.6.15裁決、裁決事例集No.67 778頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、贈与を原因とする所有権移転登記を受けた後において、錯誤を原因とする所有権抹消登記を受けたことにより、所有権移転登記の際に納付した登録免許税の額が過大であるとして行った登録免許税法第31条《過誤納金の還付等》第2項に規定する還付通知の請求に対して、当該通知をすべき理由があるか否かが争われた事案である。

(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、P市p町○番所在の宅地165.28平方メートル(以下「本件土地」という。)及び同番地所在の3階建居宅・車庫164.52平方メートル(以下「本件建物」という。)の所有権移転登記申請(以下「本件移転登記申請」という。)による登記に課されるべき登録免許税について、当該申請に係る登記申請書(以下「本件登記申請書」という。)に、課税標準の価格を12,950,000円及び登録免許税の額を129,500円(以下「本件登録免許税の額」という。)と記載し、その税額に相当する金額の収入印紙を本件登記申請書に貼付の上、これをP法務局○○出張所に提出することにより平成15年7月30日に納付した。
ロ その後、請求人は、平成16年3月4日に、錯誤を登記原因として本件土地の所有権抹消登記申請(以下「本件抹消登記申請」という。)をし、その旨の登記がされたので、同月9日に原処分庁に対し、本件登録免許税の額のうち本件土地に係る部分の94,750円につき、所轄税務署長に対し還付通知をすべきである旨の請求をしたところ、原処分庁は同月12日付で、還付通知をすべき理由がない旨の通知処分をした。
ハ 請求人は、この処分を不服として、平成16年3月13日に審査請求をした。

(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、平成15年7月30日、本件登記申請書に登記の目的を所有権移転、原因を平成15年7月30日贈与、権利者をA、義務者を請求人と記載して、本件移転登記申請を行い、原処分庁は、同申請を同日受付番号第○○○○号をもって受理し、登記を完了(以下、この登記を「本件移転登記」という。)した。
ロ 請求人は、平成16年3月4日、登記申請書に登記の目的を所有権抹消、原因を錯誤、権利者を請求人、義務者をAと記載して、本件抹消登記申請を行い、原処分庁は、同申請を同日受付番号第○○○○号をもって受理し、登記を完了(以下、この登記を「本件抹消登記」という。)した。

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2 主張

(1)請求人

 原処分は、次の理由により違法であるから、その取消しを求める。
 請求人は、本件建物のみの贈与として所有権の移転登記申請をすべきところ、本件土地も併せて贈与したとして本件移転登記申請をし、本件移転登記を受けたが、その後、錯誤を登記原因として本件抹消登記を受けていることから、原処分庁は、本件移転登記の際に納付した本件登録免許税の額のうち、本件土地の登記に係る部分の94,800円が過誤納となっているとして、所轄税務署長に還付すべき旨の通知を行うべきである。

(2)原処分庁

 原処分は、次の理由により適法であるから、本件審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 原処分庁は、本件登記申請書を平成15年7月30日受付番号第○○○○号をもって受付、調査したところ、登録免許税法所定の登録免許税が納付され、他に不動産登記法第49条各号による却下事由がないため、本件移転登記申請を受理し本件移転登記をした。
ロ ところで、登録免許税法の規定によると、登記を受ける者は、同法に定める課税標準及び税率により登録免許税を納める義務があり、登記申請時に納付すべきものとされる反面、〔1〕登記申請が却下されたとき、〔2〕登記申請が取り下げられたとき、〔3〕登録免許税を過大納付して登記を受けたときのいずれかに該当する事実があるときは、〔1〕、〔2〕の場合にはいったん納付した登録免許税の、また、〔3〕の場合には超過分の登録免許税の額の還付を受けることができるとされ、還付すべき事由が制限されている。
ハ 本件移転登記は、上記ロの〔1〕ないし〔3〕の還付すべき事由のいずれにも該当せず、たとえ後日錯誤の登記原因により当該登記が抹消されても、登記を受ける者からの登記申請があり、これが受理されて申請どおりの登記がされた以上、請求人が国家機関に求めた公証行為が実現され、登録免許税納付の目的は達成されたのであるから、還付を受ける余地はないものといわざるを得ず請求人の主張には理由がない。

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3 判断

 本件移転登記申請に際して納付された本件登録免許税の額に、登録免許税法第31条第2項の過誤納があるか否かに争いがあるので以下審理する。
(1)国税通則法第15条《納税義務の成立及びその納付すべき税額の確定》第2項第12号は、登録免許税の納税義務は、登記、登録、特許、免許、許可、認可、認定、指定又は技能証明の時に成立し、また、同条第3項第5号において、納税義務の成立と同時に特別の手続を要しないで納付すべき税額が確定する旨を規定している。
 そして、登録免許税法第31条第2項は、登記等を受けた者は、当該登記等の申請書に記載した登録免許税の課税標準又は税額の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったこと又は当該計算に誤りがあったことにより、登録免許税の過誤納があるときは、その旨を登記機関に申し出て、同条第1項の通知をすべき旨の請求をすることができる旨規定している。
(2)ところで、登録免許税は、登記、登録等を担税力の間接的表現としてとらえ、それを課税の対象とする租税であり、登記の時点をとらえ、登記をしたという行為に画一的に課されるものである。
 一方、不動産登記手続は、原則として、当事者(登記権利者及び登記義務者)の共同申請に基づき、これを登記官が受理してなされるものであり、その際、登記官は、不動産登記法第49条各号に掲げる事項に関するいわゆる形式的審査権を有するにすぎず、当該申請が実体関係と符合しているか否かを審査する実体的な審査権まではないと解される。
 したがって、いったん登記がされると、不動産登記法第49条各号規定の却下事由がない限り、実体とそごしていたとしても、それゆえに当該登記が当然に無効となるものではなく、まして、当該登記をしたという行為自体が登記の時点に遡及して消滅するものではないと解される。
 そうすると、登録免許税の課税標準及び税額についての計算に誤りがなく、一たび適法に登記を了し目的を達したときは、その登記を受けた者の納税義務は確定し、その後、抹消、変更、更正登記がされても、いったん確定した登録免許税の課税標準及び税額は何ら影響を受けるものではないと解される。
(3)請求人は、本件移転登記をしたが、その後、本件土地について錯誤を原因として、本件抹消登記をしていることから、本件登録免許税の額のうち本件土地の登記に係る部分の94,800円が過誤納である旨主張する。
 しかしながら、上記1の(3)の基礎事実及び原処分関係資料によれば、本件移転登記申請に際して納付された本件登録免許税の額は、登録免許税法第9条《課税標準及び税率》及び租税特別措置法第72条《不動産の登記に係る登録免許税の税率の特例》の規定に基づいて正当に税額の計算が行われていること、また、本件登記申請には不動産登記法第49条各号に該当する却下事由があると認めるに足りる証拠はなく、適法に申請されて受理されたもので、請求人はその申請どおりの登記を受けたことが認められる。
 したがって、上記(2)からすれば、請求人が本件登録免許税の額の計算に誤りのないまま、一たび適法に本件移転登記を受けた以上、その後に本件抹消登記申請をしても、それまでの間、本件移転登記申請をもって国家機関に求めた本件土地についての所有権関係を公示する目的は達せられており、その後において、本件抹消登記をしたことをもって、本件移転登記申請時に遡及して、本件移転登記申請行為及び本件移転登記を受けたこと自体が変更され、本件登録免許税の額が変更、減額されるものではないと認められるから、この点に関する請求人の主張には理由がない。
 以上のとおり、本件登録免許税の額に過誤納があるとは認められないから、原処分は適法である。
(4)その他
 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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