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(平16.10.29裁決、裁決事例集No.68 1頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、被相続人の平成4年分の譲渡所得について、その相続人である審査請求人A及びB(以下、2名を併せて「請求人ら」という。)ほか2名が、判決の理由中において土地譲渡の無効が確認されたことを理由としてした更正の請求が認められるか否かを争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ C(平成5年3月14日に死亡。以下「被相続人」という。)の平成4年分の所得税について、土地譲渡に係る分離課税の長期譲渡所得金額を48,389,800円、納付すべき税額を13,751,700円と記載した確定申告書(以下「本件申告書」という。)が法定申告期限までに提出された。
ロ 原処分庁は、被相続人が上記イの税額を納付することなく死亡し、その納期限後においても同税額が納付されなかったため、相続人である請求人ら、妻のD及び四男のEに対し、国税通則法(以下「通則法」という。)第5条《相続による国税の納税義務の承継》の規定に基づき承継した納税義務につき、平成6年5月30日付で法定相続分によりあん分計算した税額を通知した。
ハ 請求人ら、D及びEは、Aを相続人代表として、平成15年4月15日に被相続人の平成4年分の所得税について、土地譲渡に係る分離課税の長期譲渡所得金額を9,413,800円、納付すべき税額を2,058,900円とすべき旨の更正の請求(以下「本件更正の請求」という。)をした。
ニ 原処分庁は、これに対し、平成15年6月13日付で更正をすべき理由がない旨の通知処分をした。
ホ 請求人らは、原処分を不服として平成15年7月31日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成15年10月6日付で棄却の異議決定をした。
ヘ 請求人らは、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成15年10月31日に審査請求をした。
 なお、請求人らは、Aを総代として選任し、その旨を平成15年12月4日に届け出た。

(3)関係法令

イ 所得税法第152条《各種所得の金額に異動を生じた場合の更正の請求の特例》は、確定申告書を提出した者は、当該申告書に係る年分の各種所得の金額につき所得税法第63条《事業を廃止した場合の必要経費の特例》又は所得税法第64条《資産の譲渡代金が回収不能となった場合等の所得計算の特例》に規定する事実その他これに準ずる政令で定める事実が生じたことにより、通則法第23条《更正の請求》第1項各号の事由が生じたときは、当該事実が生じた日の翌日から2月以内に限り、通則法第23条第1項の規定による更正の請求ができるとし、この場合、通則法第23条第3項に規定する更正請求書には、当該事実が生じた日を記載しなければならない旨規定している。
ロ 上記イでいう「政令で定める事実」について、所得税法施行令第274条《更正の請求の特例の対象となる事実》第1号は、確定申告書を提出した者の当該申告書に係る年分の各種所得の金額の計算の基礎となった事実のうちに含まれていた無効な行為により生じた経済的成果がその行為の無効であることに基因して失われたことである旨規定している。
ハ 通則法第23条第2項は、納税申告書を提出した者は、同項各号の一に該当する場合には、同条第1項の規定にかかわらず、当該各号に掲げる期間において、その該当することを理由として同条第1項の規定による更正の請求をすることができる旨規定している。
 そして、通則法第23条第2項第1号は、その申告等に係る課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実に関する訴えについての判決(判決と同一の効力を有する和解その他の行為を含む。)により、その事実が当該計算の基礎としたところと異なることが確定したときは、その確定した日の翌日から起算して2月以内である旨規定し、また、同項第3号は、その他当該国税の法定申告期限後に生じた同項第1号及び第2号に類する政令で定めるやむを得ない理由があるときは、当該理由が生じた日の翌日から起算して2月以内である旨規定している。
ニ 上記ハの通則法第23条第2項第3号にいう「政令で定めるやむを得ない理由」について、国税通則法施行令(以下「通則法施行令」という。)第6条《更正の請求》第1項第2号は、その申告等に係る課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実に係る契約が、解除権の行使によって解除され、若しくは当該契約の成立後生じたやむを得ない事情によって解除され、又は取り消されたことである旨規定している。

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(4)基礎事実

 以下の事実は、請求人ら及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
イ 被相続人名義のP市p町○○番の地積2,898平方メートルの土地(以下「本件土地」という。)について、Dは、平成4年9月8日、株式会社F(以下「F社」という。)に対し、65,700,000円で譲渡(以下「本件土地譲渡」という。)した。
ロ 被相続人の相続財産について、平成7年10月20日、相続放棄をした2名を除く請求人ら、D及びEの相続人4名の間で遺産分割協議(以下「本件遺産分割協議」という。)が成立しており、その遺産分割協議書には、要旨次のとおり記載されている。
(イ)本件土地を含む3筆の土地は、D及びEが各2分の1ずつ相続する。
(ロ)D及びEは、上記(イ)の土地3筆を含む計4筆の土地の不動産売買に関する国税等一切の税債務を負担する。
(ハ)D及びEは、上記(ロ)以外の一切の遺産につき両名の法定相続分等にかかる第三者の権利及びEを債務者とする担保権、差押えを排除して必要な手続をなし、他の相続人に引渡すものとする。
(ニ)F社との係争に関する和解金3,000,000円は、請求人らに帰属する。
ハ 本件土地に設定されたEを債務者とするG株式会社(以下「G社」という。)名義の根抵当権設定登記(以下「別件根抵当権設定登記」という。)の抹消登記を求める訴えに関し、平成7年12月15日、J地方裁判所において、原告である請求人らと被告であるG社及び利害関係者であるF社との間で訴訟上の和解(以下「本件和解」という。)が成立しており、その和解調書の第三「和解条項」には、要旨次のとおり記載されている。
(イ)Eが負担する、同人がG社との間で締結した消費貸借契約に基づく各貸金債務(元金及び確定遅延損害金)の合計額の内、70,000,000円をF社が重畳的に引き受け、これを3回に分割してG社に支払う。
(ロ)G社は、本件土地についてなされている別件根抵当権設定登記等の抹消登記手続を速やかに行う。
(ハ)請求人らは、F社に対し、条件付所有権移転仮登記の抹消登記を求める訴え(控訴)を取り下げる。
(ニ)和解金として、F社が請求人らに対して3,000,000円を支払い、請求人らがこれを受領したことを確認する。
ニ 本件土地に係る登記事項証明書及び登記簿謄本には、要旨次のとおり記載されている。
(イ)平成4年9月11日、権利者をF社として平成4年9月8日売買を原因とする条件付所有権移転仮登記がされた。
(ロ)平成7年10月4日、権利者をHとして平成7年7月13日売買予約を原因とする上記(イ)の条件付所有権の移転請求権仮登記がされた。
(ハ)平成7年11月22日、権利者を共有者D及びE(持分各2分の1)として錯誤を原因とする所有権更正の登記がされた。
 なお、所有権更正の登記前の平成5年6月7日、権利者を共有者法定相続人6名として平成5年3月14日相続を原因とする所有権移転登記がされている。
(ニ)平成8年1月12日、権利者をHとして売買を原因とする共有者全員持分全部移転登記がされた。
(ホ)平成8年1月23日、別件根抵当権設定登記の抹消登記がされた。
(ヘ)平成10年1月28日、解除を原因とする上記(イ)の条件付所有権移転仮登記の抹消登記がされた。
ホ 原処分庁が請求人らの承継した上記(2)のロの滞納国税の額を徴収するためにした差押処分及び参加差押処分に関して、原告である請求人らと被告である原処分庁との間で争われたJ地方裁判所平成○年(○○)第○号差押処分等取消請求事件において、原告らの請求をいずれも棄却する旨の判決(以下「本件J地裁判決」という。)が平成15年2月26日に言い渡された。
 この判決文には、「事実及び理由」の第4「当裁判所の判断」において、本件土地譲渡に係る売買契約における無権代理行為については、原告らは追認拒絶の効果を維持する意思を有していたものと、また、本件土地以外の土地の譲渡に係る売買契約における無権代理行為については、原告らは追認したものとそれぞれ認定し、被相続人の平成4年分の所得税の確定申告のうち、本件土地譲渡に係る確定申告は無効、本件土地以外の土地の譲渡に係る確定申告は有効である旨記載されている。
 なお、この判決は控訴されることなく確定した。

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2 主張

(1)請求人ら

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 本件J地裁判決の理由中における本件土地譲渡の無効確認と所得税法第152条の規定の適用について
(イ)無効な行為に対して課税が行われている場合に、後にその行為が無効であることが確認されたために先に生じていた経済的成果が失われた場合には、前になされた課税を取り消し、又は変更し、更に納付済みの税額を還付すべきこととなり、そのために更正の請求制度が設けられている。
 本件J地裁判決は、本件土地譲渡に関して、Dの無権代理行為について追認があったとする旨の被告原処分庁の主張をことごとく一蹴し、請求人らの追認拒絶により無効と確定した旨言明している。
 この判決は原処分庁が行った差押処分等の取消しを求めた訴えに対するものであるが、その判決手続においては、本件土地譲渡の有効性(追認拒絶の有無)が主要な争点となり、原告である請求人らと被告である原処分庁の双方が十分な手続保障の下で主張立証を尽くし、結果、裁判所は本件土地譲渡は無効であると判断したのであり、その判断は極めて重いものといわねばならない。
 ここにおいて、本件土地譲渡が無効であることが確認されたものといわざるを得ず、本件土地譲渡によって被相続人に生じたとされていた経済的成果は失われたのであるから、本件更正の請求は認められるべきである。
(ロ)原処分庁は、本件J地裁判決に基づく権利関係の変動がないことを所得税法施行令第274条第1項第1号に規定する事由に該当する事実がないことの理由としている。
 しかし、本件土地譲渡が無効であることが判明すれば直ちに所得税法第152条及び所得税法施行令第274条第1項第1号の規定が適用されるものといわなければならず、本件J地裁判決後に本件土地譲渡に係る権利関係等に一切変化が認められないことを本件更正の請求の理由の有無を判断するにおいて考慮すべきではない。
 また、F社との間の本件土地の権利関係については、上記1の(4)の各事実から明らかなように、DからF社への本件土地譲渡は無権代理行為によって無効に帰し、平成7年10月20日の本件遺産分割協議の時点において、被相続人の遺産に復帰させたのであり、他方、F社も同社と請求人らとの間で争われた条件付所有権移転仮登記の抹消登記手続を求める訴えに係る判決に対して控訴しておらず、本件土地が被相続人に無断で譲渡されたことを認めた上で、これを被相続人の遺産に復帰させることに何ら異議を唱えていない。
 このように、F社との間の本件土地の権利関係については、本件遺産分割協議及び本件和解手続の中で、再び被相続人の遺産に復帰するという形で処理されており、本件土地を巡る権利関係は、被相続人及び遺産を取得したEを基準に形成されている。
(ハ)所得税法施行令第274条にいう「計算の基礎となった事実のうちに含まれていた無効な行為により生じた経済的成果がその行為の無効であることに基因して失われた」とは、「課税の基礎となった事実の無効が後に確認された」ということである。
 本件において、「課税の基礎となった事実」とは、「(無効な)本件土地譲渡を理由とする(無効な)本件申告書に係る確定申告」である。課税は、この申告に基づいて行われたものであり、そうであるからこそ、本件J地裁判決は、「本件土地譲渡に係る申告が無効である」ことを言明し、これに基づく差押処分も無効であると断定して「無効であることを事後的に確認した」のである。
 したがって、「課税の基礎となった事実の無効を後に確認した」ものとは、本件J地裁判決以外にはあり得ず、同判決確定の日から2月以内に本件更正の請求を行ったことは顕著な事実である。
ロ 本件J地裁判決と通則法第23条第2項第1号の規定の適用について
 判決の理由中の判断とはいえ、主要な争点として当事者双方が主張立証を尽くした結果下された判断については、民事訴訟においても、信義則上、その判断と矛盾した判断は成し得ないものとされており、また、いわゆる争点効といった効力を認め、理由中の判断についても当事者間に一定の拘束力を認める見解が存している。
 このような考え方の根底には、当事者が手続保障の下に攻撃防御を尽くした以上、いかに理由中の判断であっても軽視されてはならない、ということが存在するのである。
 したがって、通則法第23条第2項第1号にいう「判決」をもって、いわゆる「主文」を指すものと限定的に解釈すべき必然性はなく、本件J地裁判決も同号にいう「判決」に該当するものというべきであるから、本件更正の請求は認められるべきである。
ハ 本件土地譲渡の無効確認と通則法第23条第2項第3号の規定の準用ないしは類推適用について
 無効と解除・取消は法的には全く概念を異にするが、法的効果が無に帰するという点においては共通の効果をもたらすものである。
 したがって、本件J地裁判決によって本件土地譲渡の無効が確認されたことをもって通則法施行令第6条第1項第2号に規定する「解除され、又は取り消されたこと」と同視すべきであるから、通則法第23条第2項第3号の準用ないしは類推適用により、本件更正の請求は認められるべきである。

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(2)原処分庁

 原処分は、次の理由により適法である。
イ 本件J地裁判決の理由中における本件土地譲渡の無効確認と所得税法第152条の規定の適用について
(イ)所得税法第152条の規定を受けた所得税法施行令第274条の規定は、課税が実質的負担力に着目して行われることから、無効な行為であっても、その行為により経済的成果が発生してそのまま存続している場合には、それに対して課税が行われるが、その後にその法律行為が無効であることが確認され、先に生じていた経済的成果が失われたときは、納税者が、既にされた課税の取消し又は変更することを求めることができるというものである。
 これを本件についてみると、〔1〕本件J地裁判決は、原処分庁が行った差押処分等の取消しを求めた訴えに対するものであり、本件土地譲渡の無効の確認等を求めた訴えに対するものではないこと及び〔2〕本件J地裁判決後においても、本件土地譲渡の当事者間において、本件土地及び本件土地譲渡に係る譲渡代金の返還等が行われた事実はなく、本件土地譲渡に係る権利関係等に一切変化は認められないことから、本件J地裁判決によって先に生じていた経済的成果が失われたとは認められず、所得税法施行令第274条第1号に規定する事由に該当する事実はない。
(ロ)所得税法施行令第274条第1号に規定する更正の請求の対象となる事実とは、「課税の基礎となった事実の無効が後に確認されたため先に生じていた経済的成果が失われたこと」と解すべきであるから、仮に、請求人らが主張するとおり、本件土地譲渡により生じていた経済的成果が、本件土地譲渡が無効であることに基因して、本件遺産分割協議又は本件和解により失われていたとしても、所得税法第152条に規定する更正の請求をすることができる期間(当該事実が生じた日の翌日から2月以内)を徒過していることは明らかである。
ロ 本件J地裁判決と通則法第23条第2項第1号の規定の適用について
 通則法第23条第2項の規定は、同条第1項の規定による更正の請求が、その法定申告期限から1年以内に限りすることができることとされているため、納税申告書の提出時には存在していなかった当該納税申告書の減額更正をすべき事由が、法定申告期限から1年経過後に発生したような場合には、同条第1項の規定による更正の請求を求めることは無理であるので、このような後発的事由が発生してから一定の期間に限り、特に更正の請求を認めることとしているものである。
 そして、このような更正の請求が認められる後発的事由の一つとして、通則法第23第2項第1号では、その申告等に係る課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実に関する訴えについての判決により、その事実が当該計算の基礎としたところと異なることが確定した場合には、更正の請求ができることとされている。
 これを本件についてみると、本件J地裁判決は、原処分庁が行った差押処分等の取消しを求める訴えについての判決であり、本件申告書に係る課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実、すなわち、本件土地譲渡の存在や譲渡価額等の事実に関する訴えについての判決ではないので、同号に規定する「その申告等に係る課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実に関する訴えの判決」には該当しない。
ハ 本件土地譲渡の無効確認と通則法第23条第2項第3号の規定の準用ないしは類推適用について
 本件については、〔1〕通則法施行令第6条第1項第2号の規定は、課税の基礎となった事実に係る契約について、解除権の行使による解除又はやむを得ない事情による解除若しくは取消しに限定されていると解されること、〔2〕本件J地裁判決は、明らかに本件土地譲渡に係る契約の当事者間における訴えについての判決でないことから、同号に規定する理由に該当しないことは明らかである。

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3 判断

(1)認定事実

 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、本件J地裁判決の判決文の「事実及び理由」の第2「事案の概要」の1「前提事実」の(4)の(イ)には、平成7年7月21日、F社は、Hとの間で、本件土地を譲渡価額110,000,000円で譲渡する旨の契約を締結し、Hは、F社に対し同譲渡代金を平成8年3月29日までに5回に分割して完済した旨記載されている事実が認められる。
(2)本件J地裁判決の理由中における本件土地譲渡の無効確認と所得税法第152条の規定の適用について
イ 請求人らは、本件J地裁判決の理由中において本件土地譲渡が無効であることが確認されたことにより、被相続人に生じたとされていた経済的成果は失われたのであるから、本件更正の請求は認められるべきである旨主張する。
ロ ところで、課税所得は、専ら経済的、実質的に把握すべきものであり、その原因となる行為が有効なものか無効なものか、法律上所有権が移転しているものか否かには関係なく、現実にその利得を支配管理し、自己のためにそれを享受している限りは、課税所得を構成すると解するのが相当である。
 また、所得税法第152条にいう「政令で定める事実」について、所得税法施行令第274条第1号は上記1の(3)のロのとおり規定している。
ハ これを本件についてみると、上記1の(4)のニの(ハ)及び(ヘ)のとおり、平成7年11月22日に権利者をD及びEとする所有権更正登記がなされるとともに、平成10年1月28日に条件付所有権移転仮登記が抹消されていることから、土地の権利関係については本件土地譲渡がない状態が認められるものの、相続人、F社及びHの各相互間における本件土地に係る譲渡代金の返還・支払に関しては、本件遺産分割協議及び本件和解のいずれの合意内容にもその記述は認められないなど、返還・支払の事実あるいは本件土地の譲渡により生じた経済的成果を消滅させる行為の存在を裏付ける証拠資料等は一切見当たらない。
ニ そうすると、本件土地譲渡により被相続人に生じた経済的成果は失われることなく、引き続き、享受されているものと認めるのが相当であり、所得税法施行令第274条第1号に規定する事実が生じたということはできない。
 なお、請求人らは、所得税法第152条にいう更正の請求期間(通則法第23条第1項各号所定の事由が生じたときは、当該事実が生じた日の翌日から2月以内)について、本件土地譲渡が無効であることを事後的に確認した本件J地裁判決の言渡日をもって当該事実が生じた日である旨主張するが、上記ロで述べたとおり、所得税法施行令第274条は、その行為の無効により既に生じていた経済的成果が失われた場合に適用されるものというべきであり、本件の場合、本件土地譲渡により生じた経済的成果が失われた事実は認められない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(3)本件J地裁判決と通則法第23条第2項第1号の規定の適用について
 請求人らは、本件J地裁判決は、その理由中において、本件土地譲渡が無効であることを確認したものであるが、通則法第23条第2項第1号にいう「判決」をもって、いわゆる「主文」を指すものと限定的に解釈すべき必然性はないから、本件J地裁判決も同号にいう判決に該当する旨主張する。
 ところで、通則法第23条第1項は、納税申告書を提出した者は、当該申告書に記載した課税標準等若しくは税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったこと又は当該計算に誤りがあったことにより、当該申告書の提出により納付すべき税額が過大であるとき等の場合には、その法定申告期限から1年以内に限り、更正の請求をすることができる旨規定しており、さらに、同条第2項は、同項各号所定の事由が生じた場合には一定期間内に更正の請求をすることができる旨規定している。
 この通則法第23条第2項の規定を設けた趣旨は、納税者において、納税申告時には予想し得なかった事態その他やむを得ない事由が後発的に生じ、これにより課税標準等又は税額等の計算の基礎に変更を生じ税額の減額をすべき場合にも更正の請求を認めないとすると、帰責事由のない納税者に過酷な結果を生じる場合等があると考えられることから、例外的に、更正の請求を認めることによって、保護されるべき納税者の救済の途を拡充したものと解されている。
 そして、通則法第23条第2項第1号は、上記1の(3)のハのとおり規定しているところ、同条第2項の趣旨からすれば、同項第1号にいう「判決」とは、当事者間に権利関係の争いがあり、その後、判決により申告等があった当時の権利関係と異なる事実関係が生じた場合の判決を指すと解するのが相当である。
 これを本件についてみると、上記1の(4)のハのとおり、本件土地譲渡の有効性については、その当事者である請求人らとF社との間に争いがあって、この争いについては、平成7年12月15日の本件和解の成立により既に解決が図られており、また、本件J地裁判決の理由中において、本件土地譲渡の無効が確認されたとしても、そのことは、本件土地譲渡の当事者間の法律関係に何ら影響を及ぼし得ない以上、本件J地裁判決が同号にいう「判決」に当たるということはできない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(4)本件土地譲渡の無効確認と通則法第23条第2項第3号の規定の準用ないしは類推適用について
 請求人らは、通則法施行令第6条第1項第2号にいう解除・取消と無効は法的効果が無に帰するという点においては共通の効果をもたらすものであるから、通則法第23条第2項第3号の準用ないしは類推適用をすべきである旨主張する。
 ところで、通則法第23条第2項第3号は、上記1の(3)のハのとおり規定しているところ、同号にいう「やむを得ない理由」とは、通則法施行令第6条第1項各号に掲げる事実を指し、かつ、それに限定されているものと解するのが相当である。
 そして、通則法施行令第6条第1項第2号は、その「やむを得ない理由」として、「その申告、更正又は決定に係る課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実に係る契約が、解除権の行使によって解除され、若しくは当該契約の成立後生じたやむを得ない事情によって解除され、又は取り消されたこと」と規定している。
 そうすると、上記1の(4)のホとおり、本件J地裁判決は、その「事実及び理由」の第4「当裁判所の判断」において、本件土地譲渡がDの無権代理行為であることについて、請求人らの追認拒絶があったと認めたものであり、その内容は、本件土地譲渡の無効に関するもので契約の解除又は取り消されたものではないことから、通則法施行令第6条第1項第2号の規定に該当しないことは明らかである。
 したがって、通則法第23条第2項第3号の準用ないしは類推適用する余地はないといわざるを得ず、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(5)以上のとおり、請求人らの主張にはいずれも理由がなく、本件更正の請求に対し、更正をすべき理由がないとした通知処分は適法である。
(6)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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