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(平16.12.14裁決、裁決事例集No.68 33頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)に対し、過去に原処分庁所属の職員が指導した事項と異なる内容でされた更正処分が、信義誠実の原則(以下「信義則」という。)に反し違法なものか否かを争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成12年3月1日から平成13年2月28日まで、平成13年3月1日から平成14年2月28日まで及び平成14年3月1日から平成15年2月28日までの各課税期間(以下「本件各課税期間」という。)の消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)の確定申告書を別表1の「確定申告」欄のとおり記載して、いずれも法定申告期限までに申告した。
ロ 原処分庁は、本件各課税期間の消費税等について、原処分庁所属の職員の調査に基づき、平成15年12月26日付で、別表1の「更正処分等」欄のとおりの各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分(以下、それぞれ「本件各更正処分」及び「本件各賦課決定処分」という。)をした。
ハ 請求人は、これらの処分を不服として、平成16年2月4日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成16年4月28日付で、本件各更正処分については棄却し、本件各賦課決定処分についてはその全部を取り消す旨の異議決定をした。
ニ 請求人は、異議決定を経た後の本件各更正処分に不服があるとして、平成16年5月28日に審査請求をした。

(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、労働大臣(現在の厚生労働大臣)より、平成○年○月○日付で、職業安定法第30条に規定する有料職業紹介事業の許可を、また、平成○年○月○日付で、労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律第5条第1項に規定する許可をそれぞれ受けた、人材派遣業を営む法人である。
ロ 請求人は、本件各課税期間において、スーパーマーケット(以下「スーパー」という。)並びにスーパー等の店内及び店頭等で試食販売を行う食品会社等(以下「本件各取引先」という。)からの依頼に基づき、スーパーの鮮魚売場等に労働者を派遣している(以下、請求人が本件各取引先へ派遣した労働者を「本件各派遣労働者」という。)。
ハ 請求人は、本件各課税期間において、本件各取引先から、本件各派遣労働者の派遣の対価の支払を受けている。
 また、請求人は、本件各派遣労働者に対して、その役務の対価として別表2の金額を支払い、これを外注加工費の名目で経理処理している(以下、これら外注加工費として経理された金額を「本件外注費」という。)。
ニ 原処分庁は、本件外注費は給与等に該当するので、本件各派遣労働者の請求人に対する役務提供は、消費税法第2条《定義》第1項第12号に規定する課税仕入れには該当しないとして、本件外注費を課税仕入れに係る支払対価の額から差し引いて、本件各課税期間の課税仕入れ等の税額を計算し、本件各更正処分をした。
ホ 原処分庁は、平成12年10月に、請求人の法人税及び消費税等並びに源泉所得税について調査(以下「前回調査」という。)を実施している。

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2 主張

(1)請求人

 本件各課税期間の消費税等の申告書は、以下のとおり、原処分庁の指導に基づいて提出したものである。したがって、本件各更正処分のうち、本件外注費が課税仕入れの対価に該当しないとした部分については違法であるから、その取消しを求める。
イ 請求人は、前回調査の終了後に、原処分庁所属の調査担当職員(以下「前回調査担当者」という。)から、請求人が派遣労働者へ対価として支払う金員は、課税仕入れの支払対価の額に該当し、仕入税額控除の対象となる旨の指導を受けた。
ロ そこで、請求人は、派遣労働者への対価を「外注加工費」の勘定科目に経理処理し、消費税の課税仕入れの支払対価として申告したものであるが、原処分庁は、その消費税等申告書を受理しておきながら、前回調査から3年も経過してから本件各更正処分をしている。
ハ 本件外注費が、所得税法第28条《給与所得》第1項に規定する給与等に該当し、消費税の課税仕入れに係る支払対価とならないことは認めるが、本件各更正処分は、上記イ及びロのとおり、信義則に反する違法なものであるから、その一部を取り消すべきである。
ニ なお、原処分のその他の部分は争わない。

(2)原処分庁

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
 課税処分について信義則を適用し、租税法規に適合する課税処分を違法なものとして取り消すのは、納税者間の平等、公平という要請を犠牲にしても、納税者の信頼を保護しなければ正義に反するという特別な事情がある場合であり、本件の場合、前回調査担当者の請求人に対する指導の事実は、原処分庁の正式な見解を請求人に対して表示したものではなく、特別な事情とならないため、信義則が適用される余地はない。
 したがって、請求人の主張には理由がない。

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3 判断

(1)本件各更正処分について

 本件審査請求は、本件各更正処分が信義則に違反するか否かについて争いがあるので、以下審理する。
イ 認定事実
(イ)原処分庁が当審判所に提出した前回調査の資料によれば、前回調査担当者は、請求人の派遣労働者(マネキン)への支払は、人件費でないため、仕入税額控除の対象となりうる旨を、請求人の代表取締役であるEに対し、指導している。
(ロ)異議審理庁は、請求人が本件外注費を課税仕入れの支払対価とし、本件各課税期間に係る課税仕入れ等の税額を算定していたことについては、前回調査担当者の指導が誤っていたことに基因したものと認め、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する「正当な理由があると認められるものがある場合」に該当するとして、本件各賦課決定処分を取り消している。
ロ 信義則の適用
(イ)租税法規に適合する課税処分について、法の一般原理である信義則の法理の適用により、課税処分を違法なものとして取り消すことができる場合があるとしても、租税法律主義の原則が貫かれるべき租税法律関係においては、信義則の適用については慎重でなければならず、租税法規の適用における納税者間の平等、公平という要請を犠牲にしてもなお当該課税処分に係る課税を免れしめて納税者の信頼を保護しなければ正義に反するといえるような特別な事情がある場合に、初めてその適用の是非を考えるべきものと解されている。
 そして、上記の特別の事情があるというためには、少なくとも、税務官庁が納税者に対し信頼の対象となる公的見解を表示したこと、納税者がその表示を信頼しその信頼に基づいて行動したこと、その後に上記表示に反する課税処分が行われたこと、そのため納税者が経済的不利益を受けることになったこと、納税者が税務官庁の上記表示を信頼しその信頼に基づいて行動したことについて納税者の責めに帰すべき事由がないことが必要であると解するのが相当である(最高裁昭和62年10月30日第三小法廷判決)。
(ロ)これを本件についてみると、以下のとおりである。
A 請求人は、前回調査担当者の指導に基づいて本件各課税期間の確定申告書を提出したところ、その後に当該指導内容に反する本件各更正処分が行われたことは事実であると認められる。
B しかしながら、本件各更正処分は、本件各派遣労働者への支払の対価は給与等に該当することから行われた適正な課税処分であり、その結果、請求人は、法律の規定に従って正当な税額を負担することになったにすぎないものである。また、本件各更正処分に伴う本件各賦課決定処分は、上記イの(ロ)のとおり、取り消されていることからすると、請求人が本件各更正処分を受けたことにより、特に「経済的不利益」を被ったとは認められない。
C そして、仮に、本件各更正処分を取り消した場合には、請求人のみが正当な課税を免れ、かえって租税平等の原則に反する不当な結果を生ずることとなると認められる。
D 上記B及びCのことからみれば、本件においては、納税者間の平等、課税の公平を犠牲にしてもなお本件各更正処分に係る課税を免れさせ請求人の信頼を保護しなければ正義に反するといえる特別な事情があるとは認められない。
(ハ)請求人は、原処分庁が本件各課税期間の確定申告書を受理しておきながら、前回調査から3年も経過してから本件各更正処分をしていることが信義則に反する旨を主張するが、当該申告書を受理しただけでは、原処分庁がこれを適正な申告と認めたことに当たらないのは明らかであり、本件各更正処分は国税通則法第70条《国税の更正、決定等の期間制限》に規定している更正の期間制限の範囲内において行われていることからすると、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ニ)以上のとおり、本件各更正処分には、信義則の適用による違法は認められない。
 そして、当審判所の調査によっても、本件外注費は、課税仕入れに係る支払対価には該当しないと認められるので、本件各課税期間の課税仕入れ等の税額について、本件外注費を差し引いたところで計算した、本件各更正処分は適法である。

(2)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によってもこれを不相当とする理由は認められない。

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