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(平16.11.26裁決、裁決事例集No.68 71頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、E保険相互会社(以下「E社」という。)からF株式会社(以下「F社」という。)に勤務する審査請求人(以下「請求人」という。)に支払われた金員が、退職所得、あるいは一時所得のいずれに該当するかを争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成13年分の所得税について、確定申告書に別表の「確定申告」欄のとおり記載して法定申告期限までに申告した。
ロ 原処分庁は、平成13年12月19日にE社から請求人に対して支払われた3,677,430円の金員(以下「本件金員」という。)について、これを一時所得であるとして、平成15年6月30日付で、別表の「更正処分等」欄のとおり、更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
ハ 請求人は、これらの処分を不服として、平成15年8月28日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年11月26日付で異議申立てを棄却する旨の異議決定をした。
ニ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成15年12月25日に審査請求をした。

(3)関係法令

イ 所得税法第30条《退職所得》第1項は、退職所得とは、退職手当、一時恩給その他の退職により一時に受ける給与及びこれらの性質を有する給与(以下、これらを併せて「退職手当等」という。)に係る所得をいう旨規定している。
ロ 所得税法(平成13年法律第50号による改正前のもの。以下同じ。)第31条《退職手当等とみなす一時金》第3号は、適格退職年金契約に基づいて支給を受ける一時金で、その一時金が支給される基因となった勤務をした者の退職により支払われるものその他これに類する一時金で政令で定めるものは、上記イの所得税法第30条第1項に規定する退職手当等とみなす旨規定している。
ハ 所得税法第34条《一時所得》第1項は、一時所得とは、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得及び譲渡所得以外の所得のうち、営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の一時の所得で労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しないものをいう旨規定している。また、同条第2項は、一時所得の金額は、その年中の一時所得に係る総収入金額からその収入を得るために支出した金額(その収入を生じた行為をするため、又はその収入を生じた原因の発生に伴い直接要した金額に限る。)の合計額を控除し、その残額から一時所得の特別控除額を控除した金額とする旨規定している。
ニ 所得税法施行令(平成13年政令第375号による改正前のもの。以下同じ。)第183条《生命保険契約に基づく年金に係る雑所得の金額の計算上控除する保険料等》第2項は、生命保険契約等に基づく一時金(上記ロの所得税法第31条に掲げるものを除く。)の支払を受ける当該一時金に係る一時所得の金額の計算について規定し、また、同条第3項第3号は、この生命保険契約等には、退職年金に関する信託、生命保険又は生命共済の契約が含まれる旨規定している。
ホ 法人税法施行令(平成13年政令第375号による改正前のもの。以下同じ。)第159条《適格退職年金契約の要件等》第1項第1号は、適格退職年金契約は、退職年金(退職年金の支給要件が満たされないため、又は退職年金に代えて支給する退職一時金を含む。)の支給を目的とするものである旨規定し、また、同項第9号は、当該契約の全部又は一部が解除された場合には、当該契約に係る要留保金額は、同項第8号イからニに掲げる金額を除き、受益者等に帰属するものである旨規定している。

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(4)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 昭和59年3月1日、F社は、退職金支給規定を制定し、同日付で、E社との間で適格退職年金契約(以下「本件年金契約」という。)を締結した。
ロ 平成13年8月1日、F社は、同社の退職給与支給規定に退職給付の退職事由として「定年退職」のみと規定していたことから、同規定第10条に中途退職給付の退職事由を新たに加えた。
ハ 平成13年8月14日、F社は、同社の業績悪化を踏まえ、従業員全員を同年10月末に解雇し、本件年金契約を解約するとともに、退職金支給制度を適格退職年金制度から中小企業退職金共済制度に変更する旨を決定し、翌15日に、従業員全員を同年10月31日付で解雇する旨の通達(以下「本件通達」という。)を発した。
ニ 平成13年10月1日、F社は、退職金支給規定を改定し、退職金支給制度を適格退職年金制度から中小企業退職金共済制度へ移行することとした。
ホ 請求人は、他の従業員らとともに、平成13年10月31日付で、F社を退職し退職金の支給を受けた旨を記載した「退職届(願)」と題する書面及び「平成13年分退職所得の受給に関する申告書」(以下、これらを併せて「本件退職関係書類」という。)を、F社(代表取締役G)あてに提出した。
ヘ さらに、F社は、平成13年10月31日付で、本件年金契約の解約請求書(E社へ提出した新企業年金保険契約解約請求書をいい、以下「本件年金契約解約請求書」という。)を、E社あてに提出し、E社は、これを、同年11月5日に受理した。
ト F社は、上記ヘの本件年金契約解約請求書の提出に併せ、本件年金契約の被保険者である同社の従業員98名のうち、請求人を含む94名(以下「本件各従業員ら」という。)から徴した「企業年金・新企業年金解約返戻金請求書」(以下「本件解約返戻金請求書」という。)及び印鑑証明書をE社あてに提出したが、平成13年11月1日以降同社に在職することを希望しなかった者3名及び同年10月31日付で定年退職する者1名(以下、これら4名を併せて「本件離職者」という。)については、これらを提出していない。
チ 平成13年11月1日、請求人を含む本件各従業員らは、使用者であるF社(代表取締役G)に対し、「再雇用契約書」という標題の書面(以下「本件雇用契約書」といい、その契約書に係る契約を「本件雇用契約」という。)を提出した。
 なお、本件雇用契約書に記載の主な契約事項は、次のとおりである。
契約事項 契約内容
雇用期間 平成13年11月1日より
作業内容 従来どおり
就業場所 従来どおり
労働時間 従来どおり
年次休暇 継続
基本給  月額 (別途)  円
家族手当 月額 従来どおり 円
通勤手当 月額 従来どおり 円
役務手当 月額 従来どおり 円
他手当  従来どおり    円
休憩   従来どおり
退職金  新退職金規程(中退共)適用
リ 平成13年12月19日、上記への本件年金契約の解約請求に基づき、E社から本件各従業員らに対し、解約返戻金244,432,338円(以下「本件返戻金」という。)が支払われたが、このうち、請求人には、銀行振込(H信用金庫J支店の請求人名義の預金口座)の方法により本件金員3,677,430円が支払われた。
ヌ 平成13年12月19日、F社は、請求人に対し、「解約金支給明細書」という標題の書面(以下「解約金支給明細書」という。)を交付し、同社の退職金支給規定において、請求人が受領すべきとされる退職金額3,539,000円と本件金員との差額138,430円(以下「本件調整額」という。)を同社所定の預金口座に振り込むよう依頼した。
 なお、解約金支給明細書には、〔1〕適格企業年金解約により、解約金(本件金員)を支給すること、〔2〕E社から支給される解約金の計算方法と、F社の退職金の計算方法とが異なる旨の記載がされている。
ル その後、請求人は、F社の依頼に応じて本件調整額相当額の金員を、同社所定の銀行口座に振り込んだ。
ヲ 平成13年11月1日以降、本件離職者を除き、本件各従業員らは、引き続きF社に在職した。
ワ 請求人は、本件金員は退職所得に該当するとして、平成13年分の所得税の確定申告において、本件金員に係る申告をしなかった。
カ 原処分庁は、これに対し、本件金員は一時所得に該当するとして、平成13年分の所得税について、平成15年6月30日付で本件更正処分及び本件賦課決定処分を行った。

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2 主張

(1)原処分庁

原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 本件更正処分について
(イ)本件金員の所得区分
 本件金員は、本件年金契約の解約によりE社から請求人に支給されたものであり、平成13年10月31日前後において、請求人の作業内容、労働時間、休暇、給与等の額などの勤務条件に変動がないことや、社会保険の被保険者資格を喪失していないことからみて、請求人は、F社を退職したとは認められず、本件金員は、所得税法第31条第1項第3号に規定する「勤務した者の退職により支払われるもの」には該当しないから、退職所得とは認められず、同法第34条第1項の規定により一時所得に該当する。
 また、仮に、請求人がF社の退職金支給規定に基づき本件金員を受給したものであるとしても、本件金員は本件年金契約の解約によりE社から請求人に支給されたものであるから、請求人の退職により支給されたものとは認められない。
 したがって、本件金員は、退職所得ではなく、一時所得に該当する。
(ロ)総所得金額
A 一時所得の金額
 一時所得の金額は、本件金員相当額から、本件調整額と所得税法第34条第3項に規定する一時所得の特別控除額500,000円を控除した後の金額である。
B 給与所得の金額
 請求人の平成13年分の所得税の確定申告書に記載された金額である。
C 総所得金額
 以上の結果、請求人の平成13年分の総所得金額は、別表の「更正処分等」欄のとおりとなり、この金額は、本件更正処分の額と同額となるから、本件更正処分は適法である。
ロ 本件賦課決定処分について
 以上のとおり、本件更正処分は適法であり、また、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定に基づき行った本件賦課決定処分は適法である。

(2)請求人

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 請求人は、平成13年10月31日付でF社を退職し、本件金員を自己の労務の対価として支給されるべき退職金として受給したものであるから、本件金員は、請求人の退職により支給されたものとして退職所得に該当する。
 また、本件雇用契約の締結前後において、請求人の作業内容、労働時間等の状況に著しい変動がないこと及び請求人が社会保険の被保険者資格を喪失していないことは再雇用に当たっての新たな条件の一つと考えるべきである。
ロ 請求人は、本件調整額をF社に返金したことにより、請求人は同社の退職金支給規定に基づき、同規定に定める「会社都合による退職」の場合の退職金の額と同額を受給したのであるから、実質的にF社から退職金の支給を受けたことにほかならない。
ハ 請求人は、会社の都合による退職金の打切支給を受けたものであり、本件雇用契約後、それ以前の勤務期間は当該退職金計算の勤務期間に加味されない上、新たな退職金支給制度である中小企業退職金共済制度の下では、本件各従業員らの退職金の額は、従前に比し著しく低額なものとなることからすれば、請求人に支給された本件金員は、退職所得として認められるべきである。

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3 判断

 本件は、E社から請求人に対し支払われた本件金員が退職所得、一時所得のいずれに該当するかに争いがあるので、以下審理する。

(1)本件更正処分について

イ 適格退職年金制度の概要
(イ)適格退職年金制度は、厚生年金基金制度と並ぶ企業年金制度で、年金原資を金融機関等の外部機関に積み立てるなど、法人税法施行令第159条に基づき、信託銀行、生命保険会社等の金融機関が、企業年金を実施する企業と、退職年金に関する信託、生命保険等の契約を締結することにより、当該年金の運営の委託を受け、国税庁長官の承認を受け実施する年金制度である。当該年金制度は、退職年金の支給を目的としているが、退職年金に代えて支給する退職一時金等により給付することも認められている。
(ロ)そして、適格退職年金契約とは、退職年金に関する信託、生命保険又は生命共済の契約で、その契約に係る掛金又は保険料及び給付の額が適正な年金数理に基づいて算定されていることその他一定の要件を備えたものをいうが、被保険者数が15人未満となったときや、企業年金を実施する企業の業績の悪化等何らかの事情で当該契約を維持することが困難となったときには、契約が解除される。
 この場合、適格退職年金に係る要留保金額に相当する金額が被保険者に解約返戻金として支払われる。
ロ 退職手当等とみなす一時金
(イ)適格退職年金契約に基づいて支給を受ける一時金で、「その一時金が支給される基因となった勤務をした者の退職により支払われるものその他これに類する一時金で政令で定めるもの」は、勤務先以外の者から支給されるものであるとしても、その実質は退職手当等と同様の特性を有することから、所得税法第31条第1項第3号は、当該一時金を退職手当等としている。
(ロ)ところで、この退職手当等とみなす一時金については、昭和62年9月25日法律第96号により公的年金等に対する課税の仕組みについて全面的な見直しが行われたことに伴い、その一環として、その整備が行われ、例えば、企業年金等の制度の一つである適格退職年金契約に基づいて支給を受ける一時金については、旧所得税法第31条(昭和62年法律第96号による改正前のもの)では、この一時金をすべて退職所得としていたが、昭和62年の税法改正で、適格退職年金契約に基づいて支給を受ける一時金については、「その一時金が支給される基因となった勤務をした者の退職により支払われるもの」に限り、退職所得とする旨の改定が行われた。
 したがって、適格退職年金契約に基づいて支給を受ける一時金のうち、「その一時金が支給される基因となった勤務をした者の退職により支払われるもの」は退職所得に該当することになるが、それ以外の一時金は、所得税法第34条並びに同法施行令第183条第2項及び第3項第3号の規定により一時所得に該当することになる。
ハ 認定事実
 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の各事実が認められる。
(イ)本件年金契約の保険契約者はF社であり、請求人は、同契約の被保険者の1人である。
(ロ)F社の退職年金規程第24条(本制度の運営)第2項は、同社は、「本制度による支給の財源にあてるための費用及び制度管理のための費用をすべて負担する」旨規定し、同社は、本件年金契約の支払保険料を全額負担している。
 また、解約返戻金について、同条第3項は、「本制度が廃止されたときは、保険契約に係る解約返戻金を、制度廃止時における各加入者の責任準備金の額の割合に応じて当該加入者に分配する」旨規定し、当該退職年金規程の他の条項(第6条以下)で定める本制度の給付(退職年金、退職一時金、遺族年金及び選択一時金)とは別の条項で規定している。
(ハ)F社とE社との企業年金保険契約協定書(国税庁長官認定第○号に係るものをいい、以下「本件協定書」という。)には、契約が解約された場合の解約返戻金について、おおむね上記(ロ)後段の内容と同様の条項がある。
(ニ)平成13年10月17日付で、F社は、E社に対し、「新企業年金保険契約解約にあたって」という標題の書面(以下「本件確認書面」という。)により、本件返戻金の所得区分が一時所得であることについて、本件各従業員ら の確認を得ている旨、また、当該返戻金の算出方式についても承諾している旨回答している。
(ホ)F社は、E社への本件年金契約解約請求書の提出に併せ、請求人を含む本件各従業員らから徴した本件解約返戻金請求書を提出しているが、本件各従業員らは、本件解約返戻金請求書の所定の記入事項のうち、所得区分欄には、退職所得(解約時に退職する)ではなく、一時所得(引継(続)き勤務する)に該当する旨記入している。
(ヘ)E社は、F社から、上記(ニ)の本件確認書面及び上記(ホ)の本件各従業員らに係る本件解約返戻金請求書等が提出されたことから、本件各従業員らに本件返戻金を支払い、また、F社に対しては、その他の返戻金(ご契約者返還金)として40,034,010円を支払っている。
(ト)E社は、上記(ヘ)の支払に際し、F社に、新企業年金保険契約解約計算書、本件各従業員らに係る解約返戻金個人別明細及び本件離職者に係る未支払者明細書を交付したが、新企業年金保険契約解約計算書には、本件返戻金は、本件協定書及びF社の退職年金規程に基づき、解約返戻金対象額における各被保険者の将来法責任準備金の比率によりあん分して解約返戻金を計算している旨記載され、また、当該個人別明細には、本件各従業員らごとに各人の解約返戻金の額が記載されている。
(チ)本件各従業員らは、本件通達に従って、平成13年11月1日以後、給与額が初任給の額に減額されておらず、また、社会保険を国民年金・国民健康保険に切り替えていない。また、本件各従業員らの作業内容、就業場所、労働時間、年次休暇及び家族手当等の各種手当の金額、休憩時間は、平成13年11月1日前後で変更されていない。
(リ)その後、請求人は、平成13年12月31日付でF社を定年退職し、平成14年1月1日から新たに嘱託従業員として雇用されたが、その際、給与の基本給月額及び精勤手当月額は、142,950円、10,000円から、それぞれ96,000円、3,000円に減額されている。
ニ 関係人らの答述
(イ)F社の常務取締役K(以下「K常務」という。)は、当審判所に対し、要旨次のとおり答述している。
A 平成13年8月15日に、F社は、同社の従業員に対し本件通達を出し、上記解雇通知のほか、社員として残留を希望する者は、〔1〕同年11月1日入社とし、基本給は初任給とする、〔2〕社会保険の資格取得が平成14年1月1日になるので、それまでは国民年金・国民健康保険へ加入する旨を通知した。
B 平成13年10月31日、本件通達に基づき、F社は従業員全員を解雇し、翌11月1日、本件各従業員らと本件雇用契約を締結した。
C 本件通達により、本件各従業員らに通知した平成13年11月1日以後の給与及び社会保険等に係る条件が実現できなかった理由は、次のとおりである。
(A)給与の額を初任給に引き下げなかったのは、平成13年4月に既に5パーセントの基本給のカットを実施しており、また、従業員会にも反対され、会社としても業務の性質上、急激な従業員数の減少を避ける必要があったからである。
(B)社会保険を国民年金・国民健康保険へ切り替えなかったのは、当時、従業員の中に病気療養中の者や被扶養者が入院している者がおり、従業員会に反対されたからである。
(ロ)E社の企業年金課長L(以下「L課長」という。)は、当審判所に対し、要旨次のとおり答述している。
A 平成13年4月頃、F社からE社○○支社○○営業所に対し、中途退職による一時金の給付特約について相談があった。
B 平成13年9月に、F社から同月末日をもって本件年金契約を解約したい旨の口頭による申入れがあり、将来法責任準備金比率で各人別の解約返戻金の給付額を仮計算して示した。
C これに対し、F社から同社の退職金支給規定に従った金額での給付をしてほしい旨の要望があったが、同社の退職年金規程第24条には、各加入者の責任準備金の額に応じて分配すると規定されていることから、将来法責任準備金比率で、各人別の解約返戻金を計算することになる旨説明し、最終的には、F社側はこれに理解を示した。
D 本件各従業員らの解約返戻金は、上記Cの方法により算定し、また、本件離職者には、F社の退職年金規程の会社都合退職を適用し、勤務年数に応じた一時金に所定の計算を行って給付金額を算定した。
(ハ)本件各従業員らのうち2名(以下、それぞれ「従業員甲」及び「従業員乙」という。)は、当審判所に対し、要旨次のとおり答述している。
A 従業員甲
(A)F社からは、会社の業績が悪化し、本件年金契約の保険料を支払うことが困難になったので、中小企業退職金共済制度へ移行することとした旨、また、従業員をいったん解雇して退職金を支給したい旨の説明を受けたが、解雇は口頭で伝えられたようにも思うがはっきりしない。本件の退職と再就職というのは、退職金をいったん切って一から始めるとの認識である。
(B)再雇用に当たり、社会保険の説明はあった。給与はそれまで何回もカットされていたこともあり、それをさらに初任給に下げるという話はなかった。また、従業員間で、給与を初任給にしないようにするための交渉などしたことはない。
B 従業員乙
(A)F社からは、解雇をして退職金を精算するとの説明を受けた上、退職届などを出すように言われ、これらの書類に署名、押印して提出したが、署名、押印した時期は定かでない。
(B)再雇用してほしいと自分から依頼したことはなく、当然再雇用されるものと考えていた。また、再雇用に当たっての勤務条件などについてF社と交渉したことはなく、給与が初任給に下がるという話も聞いたことはない。
ホ そこで、これを上記イ及びロに照らし判断すると、次のとおりである。
(イ)本件金員の所得区分について
A 請求人が本件金員を受領するまでの経緯は、上記1の(4)の基礎事実に記載のとおりであるが、上記ハ及びニによれば、本件協定書及びF社の退職年金規程は、いずれも退職年金や一時金の給付の規定とは別に、本件年金契約の解約規定を設け、当該契約を解約した場合、各被保険者には、同人の責任準備金の額の割合に応じて解約返戻金を分配されることになっており、本件金員を含む本件返戻金は、この規定に基づき、被保険者(本件各従業員ら)の責任準備金の額の割合に応じて本件各従業員らに支払われていることが認められ、このことは、L課長の答述のほか、E社とF社との間の各種書類の記載内容からも明らかであり、しかも、本件返戻金は、本件離職者を除く、本件解約返戻金請求書を提出した本件各従業員ら全員に支払われたものである。そして、上述のとおり、本件協定書及びF社の退職年金規程は、いずれも退職年金や一時金の給付の規定とは別に、本件年金契約を解約した場合の規定を設けていることや、L課長の答述にあるとおり、本件各従業員らに支払われた本件返戻金と本件離職者に退職金として支払われた金員とは計算方法が異なることからすれば、本件返戻金と、本件離職者に退職金として支払われた金員とは、支給の性格が明らかに違うものといえ、本件返戻金は、F社の本件年金契約の解約請求に伴い、本件各従業員らから提出された本件解約返戻金請求書に基づき、E社から支払われた一時金で、本件年金契約の解約により支払われたものと認めるのが相当である。
 そうすると、本件返戻金のうち、請求人に支給された本件金員は、本件年金契約の解約に伴い、E社から請求人が支払を受けたもので、請求人の退職により支給された一時金ではないから、上記ロで述べたとおり、所得税法第31条第1項第3号の規定には該当せず、本件金員は、同法第34条並びに同法施行令第183条第2項及び第3項第3号の規定により一時所得に該当する。
 なお、付言するに、上記ハの(ニ)及び(ホ)のとおり、F社や本件各従業員らがE社に提出した各種書面によれば、F社の関係者及び本件各従業員らは、本件金員を含む本件返戻金が一時所得に該当することを認識していたことが認められる。
B ところで、上記Aに関し、請求人は、退職の事実があり、本件金員は退職により受領したものである旨主張するので、退職の事実の有無につき、以下審理する。
(A)退職所得と請求人の退職の存否
a 退職所得は、課税上、給与所得と異なる優遇措置が講じられているが、これは、雇用関係ないしそれに準ずる関係を基礎とする役務の対価である点は、給与所得と異なる性質を有するものでないが、それが一時にまとめて支給されること及び多くの場合老後の生活の糧となるものであって、他の一般の給与所得と同様に一律に累進税率による課税の対象とし、一時に高額の所得税を課することとしたのでは、公正さを欠き、かつ社会政策的にも妥当ではない結果を生ずることになるからであると解される。そして、この趣旨に照らすと、支給を受けた金員が退職所得に当たるというためには、〔1〕勤務関係の終了によってはじめて給付されるものであること、〔2〕継続的な勤務に対する労務の対価の後払いの性質を有すること及び〔3〕一時金として支払われることの3要件を備えることが必要であると解されるが、請求人は、F社に対し、平成13年10月31日付で本件退職関係書類を提出した上、同年11月1日付で本件雇用契約書を提出していることから、これら3要件のうち、〔1〕にいう「勤務関係の終了」の存否について、以下審理する。
b 請求人は、F社に対し、平成13年10月31日付で本件退職関係書類を提出した上、同年11月1日付で本件雇用契約書を提出し、同日において同社に在職していることが認められるところ、本件雇用契約書によれば、その契約内容は、上記1の(4)のチのとおり、作業内容、就業場所、労務時間、休憩及び家族手当、役務手当等の諸手当は、いずれも従来どおりとし、また、年次休暇を継続とするなど、退職金の支給規定を除くと、これら勤務条件は、本件雇用契約後も何ら変更していない上、本件離職者を除き、本件各従業員ら全員が同社に引き続き勤務し、従前の従業員数とほぼ変わっていないことが認められる。しかも、請求人の場合、定年退職を2月後に控えているにもかかわらず、平成13年11月1日以後、それ以前と同様の勤務条件で在職し、当該条件が変更となったのは、嘱託従業員となった2月後の平成14年1月1日以降である。加えて、F社は、上記1の(4)のハのとおり、本件通達により平成13年10月末日をもって同社の従業員に対し解雇する旨を通知したが、K常務、従業員甲及び従業員乙の答述によれば、これと併せ、本件各従業員らの基本給を初任給に引き下げるとともに、社会保険から国民年金及び国民健康保険へ切り替えることになる旨通知していることが認められる。しかしながら、実際には、解雇という形式は採らず、本件各従業員らから退職届(願)を徴した上で、本件各従業員らの基本給を初任給に引き下げることもなく、また、社会保険はそのまま継続して維持するなど、F社と従業員会との間の事情はともかくとして、同社は、本件通達の通知内容どおり実施していないことからすると、本件雇用契約の前後において、給与等のその他労働条件が従前と全く変更がないばかりか、年次休暇に至っては継続して取り扱われるなど、同社と本件各従業員らとの間には、実質的に従前の雇用関係がそのまま継続しているとみるべきである。
 そうすると、本件金員の支給を受けた請求人は、退職届を提出するとともに、本件雇用契約を締結しF社に再雇用される手続をしたことが認められるものの、当該手続をもって、いったん退職した上、再雇用されたものとは認められず、請求人を含む本件各従業員らとF社との間の継続的な雇用関係が実質的に終了したとはいえない。
 したがって、請求人は、F社を実質的に退職したとは認められない。
(B)ところで、この点に関し、請求人は、F社を退職し、本件金員は自己の労務の対価として退職金として受給したのであるから、退職所得に該当する旨主張する。
 しかしながら、上記Aのとおり、本件金員は、本件年金契約の解約に伴いE社から支払を受けたもので、請求人の退職により支給された一時金ではないから、一時所得に該当するのであって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(C)また、請求人は、本件雇用契約の締結前後において、請求人の作業内容、労働時間等の状況に著しい変動がないことや、請求人が社会保険の被保険者資格を喪失していないことは再雇用に当たっての新たな条件の一つと考えるべきである旨主張する。
 しかしながら、本件各従業員らは、実質的に退職したと認められないことは、上記(A)のとおりであり、F社が、給与額、勤務条件、社会保険資格等をすべて継続する条件の下での再雇用は、従前の請求人とF社との雇用関係を延長することにほかならず、雇用関係が実質的に終了したとはいえないから、この点に関する請求人の主張を採用することはできない。
(D)請求人は、本件調整額をF社に返金したことにより、同社の退職金支給規定に定める退職金額と同額を受給したこととなるから、本件金員は退職所得に該当する旨主張する。
 しかしながら、上記1の(3)のホに記載のとおり、法人税法施行令第159条第1項第9号により、本件年金契約の解約により本件各従業員らに支払われた本件返戻金は、これら従業員に帰属することが明らかであり、請求人が本件調整額をF社に支払ったとしても、本件金員の所得区分の判断に何ら影響を与えるものでないから、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(E)請求人は、会社都合による退職金の打切支給を受けたものであり、本件雇用契約以前の勤務期間は当該退職金計算の勤務期間に加味されず、また、中小企業退職金共済制度により支給される退職金額は適格退職年金制度で支給される退職金額より著しく低額であることなどから、本件金員は退職所得として認められるべきである旨主張する。
 しかしながら、本件金員は、本件年金契約の解約により支払われたものであり、上記(A)のとおり、F社との雇用関係が実質的に終了したとは認められないから、退職所得には該当せず、一時所得に該当するから、この点に関する請求人の主張には理由がない。
C 以上のとおり、請求人の主張はいずれも理由がなく、本件金員は、本件年金契約の解約に伴い請求人に支払われた一時金であるから、所得税法第34条第1項並びに同法施行令第183条第2項及び第3項第3号の規定により一時所得に該当する。
(ロ)総所得金額
 以上のとおり、本件金員に係る所得区分は、一時所得であるから、請求人の平成13年分の総所得金額は、次のとおりとなる。
A 一時所得の金額
(A)総収入金額
 総収入金額は、E社から支払われた本件金員の額3,677,430円となる。
(B)上記収入を得るために支出した金額
 原処分庁は、一時所得の金額の計算上、本件調整額相当額を、収入を得るために支出した金額として、総収入金額から控除しているが、上記(イ)のAのとおり、本件金員は、本件年金契約の解約に伴い、E社から請求人に対し支払われたもので、本件調整額は、本件金員の支払とは何ら関係がないものであるから、本件金員を得るために支出した金額とは認められず、他に当該支出をした事実も認められない。
 したがって、本件金員を得るために支出した金額は零円となる。
(C)特別控除額
 所得税法第34条第3項の規定により、特別控除額は、500,000円である。
(D)一時所得の金額
 以上の結果、上記(A)から(C)を控除した金額3,177,430円が一時所得となり、その2分の1に相当する金額1,588,715円を総所得金額に算入する。
B 給与所得の金額
 原処分庁は、給与所得の金額を、請求人の平成13年分の所得税の確定申告書に記載された金額1,738,000円により算定しているところ、当審判所の調査の結果によっても相当と認められる。
C 総所得金額
 以上の結果、請求人の平成13年分の総所得金額は、3,326,715円となり、この金額は、本件更正処分の額を上回るから、本件更正処分は適法である。

(2)本件賦課決定処分について

 以上のとおり、本件更正処分は適法であり、また、本件更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正前の税額の計算の基礎とされなかったことについて、請求人には国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定に基づいて行われた本件賦課決定処分は適法である。

(3)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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