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(平16.10.22裁決、裁決事例集No.68 125頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、自転車駐車場整備運営事業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)が有する自転車駐車場設備のうち、支柱付き鉄骨屋根(以下「本件鉄骨屋根」という。)に係る耐用年数の短縮承認申請に対し、原処分庁が却下した原処分の適否を争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成15年12月26日に、本件鉄骨屋根に係る耐用年数の短縮承認申請(以下「本件申請」といい、本件申請に係る申請書を「本件申請書」という。)を、法人税法施行令(以下「施行令」という。)第57条《耐用年数の短縮》第2項の規定に基づき、D税務署長を経由して原処分庁に行った。
ロ 原処分庁は、これに対し、平成16年2月27日付で、本件申請について却下の原処分をした。
ハ 請求人は、この処分に不服があるとして、平成16年4月23日に審査請求をした。

(3)関係法令等

イ 法人税法第31条《減価償却資産の償却費の計算及びその償却の方法》第1項は、内国法人の各事業年度終了の時において有する減価償却資産につきその償却費として第22条第3項(各事業年度の損金の額に算入する金額)の規定により当該事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入する金額は、その内国法人が当該事業年度においてその償却費として損金経理した金額のうち、その内国法人が当該資産について選定した償却の方法に基づき政令で定めるところにより計算した金額(以下「償却限度額」という。)に達するまでの金額とする旨規定している。
ロ 施行令第57条第1項は、内国法人は、その有する減価償却資産が次の(イ)ないし(ヘ)に掲げる事由のいずれかに該当する場合において、その該当する減価償却資産の使用可能期間を基礎としてその償却限度額を計算することについて納税地の所轄国税局長の承認を受けたときは、当該資産のその承認を受けた日の属する事業年度以後の各事業年度の償却限度額の計算については、その承認に係る使用可能期間をもって施行令第56条《減価償却資産の耐用年数、償却率及び残存価額》に規定する減価償却資産の耐用年数等に関する省令(以下「省令」という。)で定める耐用年数(以下「法定耐用年数」という。)とみなす旨規定している。
(イ)当該資産の材質又は製作方法がこれと種類及び構造を同じくする他の減価償却資産の通常の材質又は製作方法と著しく異なることにより、その使用可能期間が法定耐用年数に比して著しく短いこと。
(ロ)当該資産の存する地盤が隆起し又は沈下したことにより、その使用可能期間が法定耐用年数に比して著しく短いこととなったこと。
(ハ)当該資産が陳腐化したことにより、その使用可能期間が法定耐用年数に比して著しく短いこととなったこと。
(ニ)当該資産がその使用される場所の状況に基因して著しく腐しょくしたことにより、その使用可能期間が法定耐用年数に比して著しく短いこととなったこと。
(ホ)当該資産が通常の修理又は手入れをしなかったことに基因して著しく損耗したことにより、その使用可能期間が法定耐用年数に比して著しく短いこととなったこと。
(ヘ)上記(イ)ないし(ホ)までの事由以外の事由で法人税法施行規則第16条《耐用年数の短縮が認められる事由》に定める次のAないしCの事由により、当該資産の使用可能期間が法定耐用年数に比して著しく短いこと又は短いこととなったこと。
A 省令に定める一の耐用年数を用いて償却限度額を計算すべき減価償却資産の構成が当該耐用年数を用いて償却限度額を計算すべき同一種類の他の減価償却資産の通常の構成と著しく異なること。
B 当該資産が機械及び装置である場合において、当該資産の属する設備が省令別表第二に特掲された設備以外のものであること。
C その他上記の(イ)ないし(ホ)及び上記A及びBに準ずる事由。
ハ 施行令第57条第2項は、前項の承認を受けようとする内国法人は、同項の規定の適用を受けようとする減価償却資産の種類及び名称、その所在する場所、その使用可能期間その他財務省令で定める事項を記載した申請書に当該資産が前項各号に掲げる事由のいずれかに該当することを証する書類を添付し、納税地の所轄税務署長を経由して、これを納税地の所轄国税局長に提出しなればならない旨規定している。
ニ 施行令第57条第3項は、国税局長は、第2項の申請書の提出があった場合には、遅滞なく、これを審査し、その申請に係る減価償却資産の使用可能期間を認め、若しくはその使用可能期間を定めて第1項の承認をし、又はその申請を却下する旨規定している。

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(4)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 本件鉄骨屋根は、省令別表第一の区分により、種類は「構築物」、構造又は用途は「金属造のもの(前掲のものを除く)」、細目は「その他のもの」に該当し、その法定耐用年数は45年である。
ロ 請求人は、「民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律(平成11年法律117号)」に基づき、E株式会社(以下、請求人と併せて「本件事業者」という。)と共に、平成14年8月7日付で、P市との間に「○○自転車駐車場整備運営事業に関する事業契約」(以下「本件契約」、本件契約に係る事業を「本件事業」、本件契約に係る契約書を「本件契約書」という。)を締結し、本件契約に基づき、自転車駐車場設備の建設を行い、運営及び維持管理を行っている。
ハ 本件契約書には、要旨次のとおり記載されている。
(イ)本件事業の概要(第2条及び44条)
 本件事業者は、本件契約で定めるところに従い、P市から本件事業用地を賃借し、自己の責任と費用において既設自転車駐車場の解体撤去及び仮設自転車駐車場の整備を行った上で、自転車駐車場施設及び付帯施設(以下「本件各施設」という。)の設計及び本件事業用地上への本件各施設の建設を行い、本件各施設を自転車駐車場として運営及び維持管理を行い、本件契約第44条《期間満了時の取扱い》の規定に従い、平成14年11月20日から平成25年3月31日までの期間(以下「本件事業期間」という。)の終了後、P市に対し本件各施設を無償譲渡し又は解体撤去して更地にした上で本件事業用地を返還する。
(ロ)定義(第1条)
 本件各施設運営期間とは、本件各施設を建設した後、本件各施設の運営及び維持管理を実施する、平成15年3月1日から平成25年3月31日までの予定期間をいう。
ニ 本件申請書には、要旨次のとおり記載されている。
(イ)「申請の事由」欄及び「使用可能期間が法定耐用年数に比して著しく短い事由及びその事実の概要」欄には、いずれも、本件申請書の添附書類である「嘆願書」と題した書類の名称。
(ロ)「資産の種類及び名称」欄には、減価償却資産の種類は省令別表第一に定める「構築物」であり、「金属造りのもの」のうち「その他のもの」に該当し、その名称は「本件鉄骨屋根」。
(ハ)当該資産の「所在する場所」欄には「P市p町○−○」、「承認を受けようとする使用可能期間」欄には「10年」及び「法定耐用年数」欄には「45年」。
ホ 上記ニの(イ)の嘆願書には、耐用年数の短縮の申請事由として、〔1〕本件契約書に基づく本件事業は公共性の高い事業であること、〔2〕自転車駐車場設備を建設した後の本件事業用地の賃貸借期間が10年1か月であること、〔3〕当該設備を本件事業の用に供する期間も10年1か月であること、及び〔4〕本件事業の本件契約期間満了時において当該設備は無償譲渡又は解体撤去することは確実であることから、使用可能期間の10年に耐用年数の短縮の承認を申請する旨を記載している。

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2 主張

(1)請求人

 原処分は、次の理由により違法であるから、その取消しを求める。
イ 本件鉄骨屋根は、〔1〕本件事業に供するものであり、本件事業は公共性が極めて高いこと、及び〔2〕本件契約に更新の定めはなく、本件契約期間の満了日である平成25年3月31日を経過した時点でP市に無償譲渡する又は解体撤去することが確実であり、使用できる期間は10年1か月と客観的に明らかであることから、短縮承認を受けようとする使用可能期間は10年が相当である。
ロ 本件鉄骨屋根の法定耐用年数45年を適用して減価償却計算を行う場合には、本件契約期間が満了する日の属する事業年度前までは少額の減価償却費しか費用計上できず、本件契約期間の満了する日の属する事業年度においては多額の未償却残高が譲渡損又は除却損として計上されることになる。このように、本件鉄骨屋根は本件契約により、使用可能期間は10年が相当であるが、本件鉄骨屋根に法定耐用年数である45年を適用した場合には、適正な期間損益計算ができないこととなり、費用収益対応の原則に反するばかりでなく、法人税等についても担税力の伴わない負担となることは明らかである。

(2)原処分庁

 原処分は、次の理由により適法であるから、本件審査請求を棄却するとの裁決を求める。
 請求人は、本件鉄骨屋根の使用可能期間を10年に短縮する事由として〔1〕本件事業は公共性が高いこと、〔2〕本件鉄骨屋根の短縮承認を受けようとする使用可能期間は客観的にみても10年であるとの事由を主張するが、施行令第57条第1項には、内国法人の有する減価償却資産の耐用年数を短縮することができる事由が規定されており、これらの事由は同項に規定する事由のいずれにも該当しない。

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3 判断

 本件は、本件契約により、法定耐用年数に比して短い使用可能期間としている本件鉄骨屋根について、その耐用年数の短縮申請が認められるか否かに争いがあるので、以下審理する。

(1)原処分について

イ 認定事実
請求人の提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、本件鉄骨屋根は、支柱付きで両屋根及び片屋根の2種類から成り、屋根部分は金属であり、周壁のない屋外に設置されているが、現にその設置環境及びそれ自体に構造、用途等の変化が生じ、物理的、客観的に使用可能期間が短くなったという状況にはないことが認められる。
ロ 法令解釈等
(イ)法人税法第31条第1項は、上記1の(3)のイのとおり、所得金額の計算上損金の額に計上できる減価償却費は、施行令で定めるところにより計算した償却限度額を限度とする旨規定しており、施行令では、その償却限度額については、原則として省令で定める法定耐用年数により計算する旨規定している。
 そして、省令第1条《一般の減価償却資産の耐用年数》第1項は、減価償却資産の区分、種類、構造又は用途及び細目に応じて、別表第1ないし別表第4において、その法定耐用年数を掲げている。
 この法定耐用年数の算定は、原則として通常考えられる維持補修を加える場合において、その固定資産の本来の用途、用法により現に通常予定されている効果を維持して使用可能と認められる年数、すなわち通常の効用持続年数により定められたものと認められる。
 そして、法人税法が、減価償却資産の耐用年数について、原則として納税者が独自に見積もることを認めずその法定耐用年数によることとしているのは、その減価償却資産の一般的な使用可能期間を耐用年数とすることで、減価償却費の期間配分を適正なものとし、また納税者が耐用年数を恣意的に決定することを排除し、適正な課税所得を計算して課税の公平を図るとともに、納税者が、減価償却資産の種類等に応じて減価償却費の計算を一定の基準のもとに詳細かつ画一的処理ができるようにしたものであると解される。
(ロ)しかしながら、個別の減価償却資産の材質、製作方法、使用場所等が著しく異なる等の事由で、その使用可能期間が法定耐用年数に比して著しく短くなったような場合等でも、法定耐用年数を用いて償却限度額を計算させることは、その使用可能期間に応じた減価償却費の適正な期間配分を歪め、かえって課税の公平を欠くことになることから、上記1の(3)のロのとおり、施行令第57条は、限定列挙した事由により、その資産の使用可能期間が法定耐用年数より著しく短いこととなった場合には、その減価償却資産の使用可能期間を申請して所轄国税局長の承認を受けることで、当該使用可能期間を法定耐用年数とすることができる旨規定したと考えられる。
(ハ)施行令第57条第1項は、耐用年数の短縮が認められる場合として、減価償却資産について、材質又は製作方法が通常のものと異なること、地盤の隆起沈下があったこと、陳腐化したこと、腐しょくしたことなどによりその使用可能期間が著しく短いこととなったことを特別な事由として掲げている。
 この場合の使用可能期間とは、その減価償却資産の現状において、今後、通常の使用方法により使用した場合に、通常の効果を維持して使用可能と認められる効用持続を意味しているのであり、施行令第57条1項に掲げる事由は、いずれもその減価償却資産の使用可能期間が法定耐用年数よりも物理的ないしは客観的に短いこととなった事由が現に発生しているような場合に限られているものと認められる。
 したがって、使用者において、使用可能な期間が法定耐用年数より短いとしても、当該事由はその減価償却資産自体の本質に影響を与えるものではなく、耐用年数の短縮事由には該当しないと解するのが相当である。
ハ 原処分について
(イ)施行令第57条第2項及び法人税法施行規則第17条《耐用年数短縮の承認申請書の記載事項》は、耐用年数短縮の承認申請書には、耐用年数を短縮する事由がどの条項に該当するか、その短縮事由及びその事実を記載すべき旨規定しており、所轄国税局長は、当該申請書の記載内容を審理して、当該申請の承認又は却下を行うべき旨規定している。
(ロ)これを本件についてみると、本件申請書には耐用年数の短縮を求める事由として、上記1の(4)のニ及びホのとおり、〔1〕公共性が極めて高い本件事業に供する資産であり、また〔2〕本件契約は更新の定めがなく、契約期間満了時に、無償譲渡又は解体撤去することは確実であることが記載されている。
 しかし、本件申請書に記載された事由は、請求人自身の事情により、請求人において本件鉄骨屋根の使用できる期間に制限があることを示すに留まり、本件鉄骨屋根は現にその設置環境及びそれ自体に構造、用途等の変化が生じ、物理的、客観的に使用可能期間が短くなったという状況を意味していないから、当該事由が上記1の(3)のロに掲げる耐用年数を短縮すべき事由のいずれにも該当しない。
 そして、本件鉄骨屋根については、上記イのとおり、その材質及び製作方法が著しく異なったり、その地盤に隆起又は沈下が発生したり、また、陳腐化、腐しょく等本件鉄骨屋根自体に発生した事由により使用可能期間が著しく短くなったという状況はなく、本件申請書の提出時点において、施行令第57条第1項に規定する事由のいずれにも該当しないことは明らかである。
(ハ)なお、請求人は、耐用年数の短縮の承認を受けようとする使用可能期間の10年によらず、45年を適用して減価償却費の計算を行うと、適正な期間計算が行えず、本件事業期間終了後に多額の譲渡損又は除却損を計上することになり、費用収益対応の原則に反する旨主張する。
 しかしながら、上記1の(3)のイ及び上記ロの(イ)のとおり、減価償却資産はその一般的な使用可能期間に応じて、物理的に減価していくものであり、その減価に対応して減価償却費を計算することが期間計算に資すると解されるところ、本件鉄骨屋根には、その一般的な使用可能期間が短くなる状況にはないと認められる。そして、本件鉄骨屋根に係る譲渡損又は除却損は、実際に譲渡又は除却が発生した時点で、その資産の未償却残高に基づき計上すべきものと認められ、将来の減価償却資産の損失をあらかじめ配分することは許されないと解するのが相当である。
 したがって、この点に関して、請求人の主張は採用できない。
(ニ)以上のとおり、本件申請は、本件鉄骨屋根について、施行令第57条第1項に規定する耐用年数が短縮できる事由のいずれにも該当しないと認められるから、これを却下した原処分は適法である。

(2)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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