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(平16.12.22裁決、裁決事例集No.68 135頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

本件は、裁判上の和解に基づく停止条件付の贈与を受けた審査請求人(以下「請求人」という。)について、贈与税の納税義務の成立時期である贈与財産の取得の時がいつであるかを争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、課税される財産の価額の合計額を○○○○円、納付すべき税額を976,800円と記載した平成12年分の贈与税の申告書及び課税される財産の価額の合計額を○○○○円、納付すべき税額を175,600円と記載した平成13年分の贈与税の申告書を、いずれも法定申告期限後の平成15年8月27日に提出した。
ロ 原処分庁は、これに対し、平成16年3月23日付で、贈与税の課税年分はいずれも平成12年分であるとして、取得した財産の価額の合計額を零円、納付すべき税額を零円とする平成13年分の贈与税の更正処分(以下「平成13年分更正処分」という。)をするとともに、取得した財産の価額の合計額を8,174,780円、納付すべき税額を2,029,600円とする平成12年分の贈与税の更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び無申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」といい、本件更正処分と併せて「本件更正処分等」という。)をした。
ハ 請求人は、これらの処分を不服として、平成16年5月7日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年7月22日付で、本件更正処分等は棄却、平成13年分更正処分は却下の異議決定をした。
ニ 請求人は、異議決定を経た後の本件更正処分等に不服があるとして、平成16年8月17日に審査請求をした。

(3)基礎事実

以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人、E、F及びG(以下、これら4名を併せて「原告ら」という。)は、母Hとの間において、HがJに不動産を売却した代金の内から各々4分の1及び一人当たり3,750,000円の贈与を受ける旨の平成10年5月18日付贈与証書(以下「贈与証書」という。)を作成している。
ロ 原告らは、平成10年9月3日にH及びK(以下、両名を併せて「被告ら」という。)を被告として、L地方裁判所に贈与金等請求の訴訟を提起していたところ、平成12年2月14日に和解が成立し、和解調書(以下「本件和解調書」という。)が作成されている。
ハ 本件和解調書の主な和解条項は、要旨次のとおりである。
(イ)本件和解調書第3の第4項
被告Hは、原告ら代理人及び被告ら代理人両名に対し、物件目録記載の不動産に関し、Jとの売買交渉、売買契約及び売買代金又は補償金(以下「売買代金等」という。)の受領並びに売買代金等の第5項及び第6項の定めに従った分配等一切の権限を委任する。
(ロ)本件和解調書第3の第5項
前項の売買契約が成立したときは、原告ら及び被告らは、売買代金等の金員のうち被告Hが4,230万円を取得することを確認する。ただし、被告Hが取得する4,230万円のうち、同被告がJの仲介により代替地を取得する場合は、Jが代替地取得代金を同土地所有者に支払い、これを控除した残余金を被告Hが取得する。
(ハ)本件和解調書第3の第6項
原告ら及び被告らは、原告らがJから被告Hに支払われる売買金等の金員から同被告の取得金額4,230万円を控除した残余金を各4分の1の割合で取得することを確認する。
(ニ)本件和解調書第3の第10項
原告らは、その余の請求を放棄する。
ニ Hは、平成12年7月4日にJと土地売買契約書、物件移転等に関する補償契約書及び残地等補償契約書(以下、これらを併せて「売買契約書等」という。)を取り交しており、当該売買契約書等に記載の売買代金等の総額は74,999,121円である。

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2 主張

(1)請求人

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 本件更正処分について
(イ)審査請求の原因となっている贈与契約は、元々贈与証書によるものであるが、それ自体について親族間で争いがあり、L地方裁判所において平成12年2月14日付で和解が成立し、本件和解調書に改めて停止条件付贈与契約をうたい込んだものである。
(ロ)本件和解調書の第3の第6項の趣旨は、売買代金等がJからHに支払われたら原告らに贈与することを意図した停止条件付贈与契約であり、Jからの売買代金等の支払いの事実と贈与契約の履行が連動する。
したがって、この贈与契約の条件が成就したのは、Jから売買代金が現金にて支払われた平成12年8月11日及び平成13年6月7日であり、支払があったそれぞれの日にHは、原告らへの贈与契約を履行したことになる。
(ハ)税務上の判断については、相続税法基本通達(平成15年6月24日付課資2−1ほかによる改正前のものをいう。以下同じ。)1・1の2共−8の(2)において、停止条件付の贈与である場合の財産取得の時期は、たとえそれが書面による贈与であってもその契約の効力が発生した時ではなく、その条件が成就した時と明確に定めているため、これに基づいて申告したものである。
ロ 本件賦課決定処分について
上記イのとおり、本件更正処分は違法で取り消されるべきであるから、本件賦課決定処分もその全部を取り消すべきである。

(2)原処分庁

原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求をいずれも棄却するとの裁決を求める。
イ 本件更正処分について
(イ)贈与による財産取得の時期
A 本件和解調書によれば、Hが取得する売買代金等の一部を原告らが取得することとなっていることから、Hと原告らとの間に書面による贈与契約が成立していると認められる。
B 本件和解調書第3の第5項及び第6項には、Jとの売買契約が成立したときは、売買代金等からHが42,300,000円を取得し、原告らがその残余金を各4分の1の割合で取得する旨記載されていることから、本件和解調書は、Jとの売買契約の成立を停止条件とした贈与契約であると認められる。
C Hは、平成12年7月4日にJと売買契約書等を取り交した結果、売買代金等の総額が74,999,121円と確定したことにより、原告らがHから贈与により取得する財産の価額も確定した。
D そうすると、贈与契約の停止条件が成就したのは、Jと売買契約書等を取り交した平成12年7月4日であり、この時が贈与による財産取得の時となるから、請求人の主張には理由がない。
(ロ)納付すべき贈与税額
A 請求人が取得した財産の価額の合計額は、売買代金等の総額74,999,121円から、Hが取得した42,300,000円を控除した残額の4分の1の金額8,174,780円(円未満切捨て)である。
B 基礎控除額は、相続税法第21条の5《贈与税の基礎控除》の規定により600,000円である。
C 課税価格は、上記Aの取得した財産の価額の合計額から上記Bの基礎控除額を控除した7,574,000円(国税通則法第118条《国税の課税標準の端数計算等》第1項の規定により千円未満の端数を切り捨てたもの)である。
D 納付すべき贈与税額は、相続税法(平成15年法律第8号による改正前のものをいう。以下同じ。)第21条の7《贈与税の税率》の規定に従い計算した2,029,600円(国税通則法第119条《国税の確定金額の端数計算等》第1項の規定により百円未満の端数を切り捨てたもの)である。
(ハ)以上のとおり、請求人の主張には理由がなく、また、請求人の平成12年分の贈与税の納付すべき税額は、本件更正処分の金額と同額であるので、本件更正処分は適法である。
ロ 本件賦課決定処分について
上記イのとおり本件更正処分は適法であり、また、本件更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実に、国税通則法第66条《無申告加算税》第1項ただし書に規定する無申告加算税を賦課しない場合の正当な理由があるとは認められないことから、同条第1項の規定に基づいて行った本件賦課決定処分は適法である。

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3 判断

本件審査請求は、停止条件付の贈与における条件が成就した時の解釈についての争いであるので、以下審理する。

(1)本件更正処分について

イ 停止条件付の贈与における条件成就の時
(イ)法令の規定等
A 国税通則法第15条《納税義務の成立及びその納付すべき税額の確定》第2項第5号は、贈与税の納税義務は贈与による財産の取得の時に成立する旨規定し、相続税法第1条の2《贈与税の納税義務者》は、贈与に因り財産を取得した個人は当該財産を取得した時において贈与税を納める義務がある旨規定しているところ、贈与による財産取得の具体的な時期がいつであるかについては何ら規定しておらず、相続税法基本通達において原則的取扱いを定めている。
B ところで、民法は、贈与とは、当事者の一方が自己の財産を無償で与える意思表示をし、相手方が受諾することによって成立する契約であり(民法第549条)、また、物権の変動について、物権の設定及び移転は当事者の意思表示のみに因りその効力を生ずる(民法第176条)と規定している。
そして、贈与、売買など物権の変動を終局の目的としている契約について、判例、通説は、特に反対の事情が存在しない限り、この契約には既に物権変動の意思表示が含まれているから、この契約の効力発生と同時に物権変動の効果も生ずるとし、ただ、直ちに物権変動の効果を生ずるについて障害がある場合(例えば、不特定物や他人の物の贈与など)は、これらの障害の除かれることを停止条件として、この条件成就の時に、当然に物権の変動が生ずる(民法第127条)としている。
C 相続税法における贈与による財産取得の時期について、相続税法基本通達1・1の2共―7の(2)には、書面による贈与は、贈与契約の効力の発生した時と定め、同通達1・1の2共―8の(2)には、停止条件付の贈与は、その条件が成就した時と定めているが、これらは、特に反対の事情が存在しない限り、当該契約の効力発生と同時に物権変動の効果も生じるという上記Bの考え方を前提とするものであり、当審判所においても相当と認められる。
(ロ)これを本件についてみると、以下のとおりである。
 本件は、本件和解調書第3の第5項において、Jとの売買契約が成立したときは、売買代金等の金員のうちHが42,300,000円を取得し、その第3の第6項で、原告らが、Hに支払われる売買代金等の金員から42,300,000円を控除した残余金を各4分の1の割合で取得するとなっていることから、これに上記(イ)のBを適用すると、請求人とHとの間には書面による停止条件付贈与契約が成立していると認められる。
そこで、本件の停止条件付の贈与における条件成就の時について判断すると、次のとおりである。
A 請求人は、本件和解調書第3の第6項について、和解をした原告らの意図から売買代金等がHに支払われた時が条件成就の時と解すべきであり、相続税法基本通達1・1の2共−8の(2)に定めるところにより、売買代金等の支払時を財産取得の時期として申告した旨主張する。
 しかしながら、本件和解調書第3の第6項にいうHに支払われる売買代金等とは、現実の支払日に支払われる売買代金等をいうのではなく、売買契約書等に定める金額の総額を指していると解すべきである。つまり、その売買代金等の内からHの取得金額42,300,000円を控除することとなるのであるから、売買代金等は売買契約書等に定める金額の総額と解さなければならず、逆に、売買代金等を現実の支払時における金額と解すれば、分割して支払を受ける都度、Hの取得金額42,300,000円の控除が行われることとなるが、本件和解調書第3の第5項には、Jとの売買契約が成立したときは、原告ら及び被告らは、売買代金等の金員のうち被告Hが42,300,000円を取得することを確認するとあり、このような解釈は成り立たない。
以上のとおり、本件和解調書第3の第5項及び第3の第6項を総合して判断すると、本件の停止条件付贈与契約の効力が生じる条件成就の時とは、Jとの売買契約書等を取り交した平成12年7月4日と解するのが相当であり、請求人の主張は採用することができない。
B なお、請求人は、売買代金等が支払われた事実と贈与契約の履行とが連動するとし、条件成就の時は、JからHに売買代金等が現金にて支払われた平成12年8月11日及び平成13年6月7日であり、それぞれの日に贈与契約が履行されたと主張するが、上記Aのとおり売買代金等の支払いの都度条件が成就すると解することはできない。
したがって、請求人の主張する日は、贈与契約の履行があった日に過ぎず、金銭の贈与の場合に受贈者の権利が確定したというためには、完全な履行があったこと、すなわち受贈者が当該金銭を現実に入手したことまで要するものではないと解すべきであり、請求人の主張には理由がない。
ロ 納税義務の成立時期
そうすると、国税通則法第15条第2項第5号に規定する贈与税の納税義務の成立時期は、平成12年となる。
ハ 納付すべき贈与税額
請求人の平成12年分の贈与税の納付すべき税額について、当審判所において調査したところ、原処分庁主張額は相当と認められる。
ニ 以上のとおり、本件贈与による請求人の贈与税の納税義務の成立時期は平成12年であり、また、納付すべき税額は、本件更正処分の額と同額となることから、本件更正処分は適法である。

(2)本件賦課決定処分について

上記(1)のとおり、本件更正処分は適法であり、また、期限内申告書の提出がなかったことについて、国税通則法第66条第1項ただし書に規定する正当な理由がある場合に該当しないので、本件賦課決定処分は適法である。

(3)その他

原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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