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(平16.12.3裁決、裁決事例集No.68 170頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、審査請求人D(以下「請求人」という。)が、相続により取得した土地及び建物の価額は不動産鑑定士による鑑定評価額であるとして行った更正の請求に対してなされた更正処分につき、違法、不当であるとしてその一部の取消しを求めた事案であり、争点は、次のとおりである。
争点 請求人が相続により取得した後記甲土地、乙土地及び乙建物の価額

(2)審査請求に至る経緯

 平成15年10月8日付更正処分(以下「本件更正処分」という。)について、審査請求(平成16年2月27日請求)に至る経緯等は、別表1−1及び別表1−2のとおりである。

(3)関係法令等

 別紙1のとおりである。

(4)基礎事実

 以下の事実は、請求人と原処分庁の間に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
イ 請求人及びEは、平成14年9月15日(以下「本件相続開始日」という。)に死亡したF(以下「被相続人」という。)に係る相続(以下「本件相続」という。)の共同相続人である。
ロ 請求人は、本件相続により、P市Q町a番の土地(以下「甲土地」という。)、P市Q町b番及びc番の土地(以下「乙土地」といい、甲土地と併せて「本件各土地」という。)並びに乙土地上の建物(以下「乙建物」という。)を取得した。
ハ 相続税の課税価格に算入すべき乙土地の価額は、乙土地のうち200平方メートルについて、租税特別措置法(平成15年法律第8号による改正前のもの)第69条の4《小規模宅地等について相続税の課税価格の計算の特例》第1項(以下「小規模宅地等の特例」という。)の規定を適用した後のものである。
ニ 請求人及びEは、本件各土地及び乙建物の価額を、不動産鑑定士G作成の2002年(平成14年)12月16日付不動産鑑定評価書の鑑定評価(以下「本件鑑定」という。)の価額として更正の請求をした。

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2 主張

 当事者の主張は、別紙2のとおりである。

3 判断

(1)認定事実

 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
イ 甲土地について
(イ)甲土地は、市街化区域に存する農地で、実地測量による地積は991.72平方メートル(登記簿上991.0平方メートル)であり、その一部39.84平方メートルは本件相続開始日においても公衆用道路として使用されていることから、課税対象となる地積は951.88平方メートルである。
 なお、公衆用道路部分は平成15年6月3日付でQ町に寄付されている。
(ロ)本件相続開始日の現況は、〔1〕雑木、雑草が生い茂る自用の畑地であり、〔2〕隣接地に比して平均0.3メートル低く、特に擁壁を要する部分は0.4〜0.5メートル低くなっている。
(ハ)評価通達24−4の適用に当たり、その補正率算定のための公共公益的施設用地の地積は、Q町開発指導要綱等及びR県開発許可に関する技術的基準により算定すべきところ、当該地積について、原処分庁は隅切り部分の算定においてR県開発許可に関する技術的基準には沿わないで376.74平方メートルと算定している。
(ニ)甲土地が接する前面道路は、建築基準法第42条第2項に規定する道路には該当しないところ、原処分庁は、評価通達24−6を適用して評価しているが、甲土地はセットバックを必要とする宅地ではないので、同通達の適用はない。
ロ 乙土地について
(イ)乙土地は、市街化区域に存する宅地で、登記簿上の地積は433.05平方メートル、間口17.0メートルの不整形地である。
(ロ)乙土地が接する前面道路は、建築基準法第42条第2項に規定する道路に該当し、その幅員は約2.3メートルである。
ハ 乙建物について
(イ)乙建物は、昭和48年12月10日建築の鉄筋コンクリート造陸屋根2階建で、本件相続開始日の現況は、居宅部分(床面積は1階132.83平方メートル、2階94.72平方メートル)、倉庫部分(1階32.04平方メートル、2階27.90平方メートル)ともに被相続人の居住の用に供されていた。
 なお、平成15年6月ころにその全部が取り壊されている。
(ロ)建物の固定資産税評価額は、Q町役場においても、建物の構造、経過年数、損耗の程度、所在地域の状況、その他の利用価値等を考慮の上、固定資産税評価基準により評価されており、乙建物の平成14年度の固定資産評価額は、居宅部分9,093,405円、倉庫部分1,340,396円と決定されている。
ニ 基準地価格について
 本件各土地の所在する地域における地価変動の指標の一つとして、R県知事が公示している基準地(P市Q町d番)(Q(○)−○)価格は、以下のとおりである。

(イ)平成13年7月1日149,000円/平方メートル
(ロ)平成14年7月1日135,000円/平方メートル
(ハ)平成15年7月1日120,000円/平方メートル

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(2)相続税法第22条にいう「時価」について

イ 時価の意義及び評価通達等による評価
(イ)相続税法第22条は、別紙1の1のとおり規定しており、この時価とは、当該財産の取得の時において、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額、すなわち客観的な交換価値をいうものと解される。もっとも、現実には、相続財産には多種多様なものが存在し、その時価の評価も一律ではなく複数のものがあり得ることから、個別の財産ごとにその客観的な交換価値を示す価額を評価することは、租税の公平性、納税者の便宜、徴税費用の節減等の観点からみて必ずしも相当ではないと考えられる。この点、課税実務上は、評価通達の定める基準に基づき画一的に相続財産の評価を行っているところ、その基準が相続税法第22条の規定に合致する合理的なものである限り、是認することができるものと解される。
(ロ)評価通達では、市街地的形態を形成する地域にある土地の価額については、路線価方式により各国税局長が具体的に路線ごとに設定した路線価を基に評価している。この路線価は、宅地の価額がおおむね同一と認められる一連の宅地が面している路線ごとに1平方メートル当たりの宅地(標準宅地)の価格を表示したものであり、毎年1月1日を評価時点として、売買実例価額、公示価格、不動産鑑定士等による鑑定評価額、地価事情精通者の意見価格等を参酌し、かつ、隣接地域間における均衡をも考慮して評定し、さらに、1年間の地価変動に対応するなどの評価上の安全性を考慮して公示価格の8割程度の水準を目途として設定されている。
 したがって、路線価方式により評価した価額は、実勢価格をかなり正確に反映しているものと認められる。
(ハ)また、家屋の評価については、別紙1の2の(11)のとおり定めているところ、地方税法第341条《固定資産税に関する用語の意義》は、固定資産税に関する「価格」という用語の定義は、「適正な時価をいう」と規定し、この場合における適正な時価とは、正常な条件の下に成立する当該家屋の取引価格、すなわち、客観的交換価値をいうものと解される。
 そして、固定資産評価基準によると、固定資産税における家屋の評価は、3年ごとの基準年度に、再建築価格(評価の対象となった家屋と同一のものを、評価の時点においてその場所に新築するものとした場合に必要とされる建築費)を基準として、これに家屋の減耗の状況による補正及び需給事情による補正を行って評価する方法が採られている。
 したがって、評価通達による家屋の価額は、上記のように決定された固定資産税評価額に基づき評価されているものであるから、客観的交換価値を正確に反映しているものであり、時価として相当であると認められる。
(ニ)以上のとおり、相続財産の時価を客観的な基準に基づき算定することを予定している評価通達の定めは、その評価方法が合理的である限り、相続税法が規定する「時価」に合致するものであることから、評価通達を適用して評価することが特に不合理と認められる特別な事情がない限り、一般基準としての評価通達に基づき各種財産の時価を評価することには合理性があると認められる。
ロ 評価通達等による評価が不合理と認められる特別の事情の有無
(イ)本件各土地の所在する地域の地価変動について、上記(1)のニに基づき検討すると、平成13年7月1日から平成14年6月30日までの下落率はおおむね9.4%、平成14年7月1日から平成15年6月30日までの下落率はおおむね11.1%である。
 そして、本件各土地が接する路線に付された平成14年分及び15年分の各路線価を比較した場合の下落率はおおむね17〜18%であることから、平成14年分の路線価は、その評価時点(平成14年1月1日)から本件相続開始日までの間に20%を超える下落があったものとは認められない。
 そうすると、路線価は上記イの(ロ)のとおり公示価格の8割程度の水準で評定されていることから、本件相続開始日の時価を超えるということはできず、評価通達を適用して評価することが著しく不適当と認められる特別な事情があるとは認められない。
(ロ)また、固定資産税における家屋の評価は、上記イの(ハ)のとおり評価されており、乙建物の評価に当たっても、老朽化・陳腐化について加味されているものと認められることから、評価通達を適用して評価することが著しく不適当と認められる特別な事情があるとは認められない。
(ハ)さらに、請求人は、乙建物には祟りがあるから、評価通達によれない特別な事情があるとも主張するが、祟りがあることを示す証拠の提出もなく、仮に、請求人のいう祟りがあったとしてもその事実をもって評価通達を適用して評価することが著しく不適当と認められる特別な事情に当たるとは認められない。
(ニ)以上のとおり、本件各土地及び乙建物の価額については、評価通達を適用して評価することが著しく不適当と認められる特別な事情は認められないことから、評価通達第2章の定めに従って評価するのが相当である。

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(3)本件鑑定の検討

イ 鑑定評価の方式には、不動産の再調達に要する原価に着目した原価方式、不動産の取引事例に着目した比較方式及び不動産から生み出される収益に着目した収益方式の3方式があり(不動産鑑定評価基準(平成14年7月3日改正前のものをいい、以下「鑑定評価基準」という。)総論の第7)、鑑定評価方式の適用に当たっては、原則として、これら3方式を併用すべき旨が定められている(鑑定評価基準総論の第8)。
 さらに、自用の建物及びその敷地(建付地)の鑑定評価額は、積算価格(原価方式による試算価格)、比準価格(比較方式による試算価格)及び収益価格(収益方式による試算価格)を関連付けて決定すべき旨定められている(鑑定評価基準各論第1)。
 そして、積算価格、比準価格及び収益価格は、それぞれひとしく妥当性があるものとして尊重し、活用すべきものであり、これらを相互に関連付けることにより試算価格の調整を行い、鑑定評価額を決定すべきものとされている。
ロ これを本件鑑定についてみると、次のとおりである。
(イ)甲土地について
 本件鑑定の鑑定評価額55,100,000円は、原処分に係る評価額51,657,575円を上回る価額であり、請求人は原処分庁が主張する地積が正確なものであるなら争わない旨主張しているので、甲土地の地積についてみると、上記(1)のイの(イ)のとおりである。
(ロ)乙土地及び乙建物について
A 鑑定評価額の決定方法
 鑑定評価は、上記イのとおり、原価方式、比較方式及び収益方式の3方式を併用すべき旨定められているところ、乙土地及び乙建物の鑑定評価額は、別表2−1のとおり、原価方式と収益方式を併用して、比較方式による比準価格の算定を行わずに、それぞれ32,100,000円、2,100,000円と決定している。
 この点につき、不動産鑑定士Gは、〔1〕土地、建物が類似した複合不動産としての乙土地及び乙建物と同様の条件の取引事例が入手できず、通常一般的に複合不動産の取引事例の入手が困難であること、〔2〕仮に複合不動産の取引事例が入手できたとしても土地のみならず建物をも比較する作業には困難を伴う場合が多いことから、本件鑑定における乙土地及び乙建物の複合不動産としての比準価格については算定できなかったと答述している。しかしながら、一般的に複合不動産は、土地と建物を分離して取引する場合は少なく、むしろ複合不動産として取引される場合が多く、現に本件鑑定においても、積算価格を算定する上での土地の比準価格算定の際には複合不動産の取引事例から比準価格を算定していることが認められる。さらに、複合不動産の取引事例から比準価格算定のための比較作業に困難を伴うことが、比準価格を算定することに支障を来す理由とも認められない。
 そうすると、本件鑑定において、比準価格を算定していないことに合理的な理由は認められない。
B 乙土地
 別表2−2(1)のとおり、原価方式による積算価格算定の比準価格の試算において、その算定の際の個別格差率について、幅員「0.85」、居住環境「0.90」、方位「1.03」とした上で、個別格差率を78.8/100としている。
 しかし、上記(1)のロの(ロ)のとおり、前面道路の幅員は約2.3メートルと認められるところ、確かに標準画地より劣るものの土地評価比準表等に照らして考え合わせても最大格差率はマイナス4ポイントであり、幅員の格差率を「0.85」とまでする理由は認められない。
 さらに、本件鑑定の鑑定評価書の「対象不動産の概要」における環境条件は、「自然的条件」「供給処理施設」「その他」の条件について、「普通」とされていることからすると、居住環境の格差率を「0.90」とする理由も認められない。
 したがって、このように算定された積算価格には合理性が認められない。
C 乙建物
 別表2−2(2)のとおり、原価法による建物の経済的残存耐用年数を5年とした上で、再調達原価に減価修正(現価率0.05)を行って算定している。
 しかしながら、乙建物は上記(1)のハの(イ)のとおり、居宅・倉庫ともに鉄筋コンクリート造であり、一般に使用される耐用年数は居宅47年、倉庫38年であることから、本件相続開始日における経済的残存耐用年数は、それぞれ18年、9年になると認められる。
 請求人は、経済的残存耐用年数を5年として算定したのは、老朽化・損傷の進行が激しく、現状有姿の状態では使用に堪えない状況にある旨主張するが、本件鑑定の鑑定評価書に添付の写真及び請求人が当審判所に提出した写真からみても主張するような事実は認められない。
 以上のことから、乙建物の経済的残存耐用年数を5年として算定した現価率0.05には合理性が認められない。

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(4)本件各土地及び乙建物の価額

イ 甲土地
 上記(1)のイに基づき計算すると、控除すべき造成費相当額は別表3−1(注)「宅地造成費の計算」のとおり1平方メートル当たり4,534円、広大地補正率算定のための公共公益的施設用地の地積は、別表3−2開発計画図(広大地補正率の計算)のとおり358.24平方メートル(補正率0.62)となることから、甲土地の価額は別表3−1のとおり54,700,736円となる。
ロ 乙土地
 上記(1)のロに基づき計算すると、適用すべき奥行価格補正率は0.99、セットバックを要する地積は、後退を要する距離0.85メートル(2メートル−2.3メートル×1/2)に間口距離17.0メートルを乗じた14.45平方メートルとなることから、乙土地の価額は別表4−1のとおり36,846,098円となり、小規模宅地等の特例適用後の課税価格に算入する金額は28,337,590円となる。
ハ 乙建物
 上記(1)のハに基づき計算すると、別表4−2のとおり居宅9,093,405円、倉庫1,340,396円となる。
ニ 以上のとおり、本件各土地及び乙建物の価額の合計額は、別表5のとおり、本件更正処分に係る価額を上回ると認められるので、これを下回る価額でされた本件更正処分は違法とはいえないことから、請求人の主張には理由がない。
(5)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

別紙1 関係法令等

1 相続税法第22条《評価の原則》は、財産の価額について、この章で特別の定めのあるものを除くほか、相続、遺贈又は贈与により取得した財産の価額は、当該財産の取得の時における時価による旨規定している。
2 財産評価基本通達(昭和39年4月25日付直資56ほか2課共同、国税庁長官通達。ただし、平成15年5月15日付課評2−6による改正前のものをいい、以下「評価通達」という。)
(1)評価通達1《評価の原則》(2)は、時価の意義について、財産の価額は、時価によるものとし、時価とは、課税時期において、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額をいい、その価額は、この通達の定めによって評価した価額による旨定め、具体的な評価方法については、同通達第2章以下の定めによることとしている。
(2)評価通達6《この通達の定めにより難い場合の評価》は、この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する旨定めている。
(3)評価通達8《地積》は、地積は、課税時期における実際の面積による旨定めている。
(4)評価通達11《評価の方式》は、宅地の評価は、原則として、(1)市街地的形態を形成する地域にある宅地については路線価方式、(2)(1)以外の宅地については倍率方式によって行う旨定めている。
(5)評価通達13《路線価方式》は、路線価方式とは、その宅地の面する路線に付された路線価を基とし、15《奥行価格補正》から20−5《容積率の異なる2以上の地域にわたる宅地の評価》までの定めにより計算した金額によって評価する方式をいう旨定めている。
(6)評価通達20《不整形地の評価》は、不整形地の価額は、(1)から(4)までのいずれかの方法により15《奥行価格補正》から18《三方又は四方路線影響加算》までの定めによって計算した価額に、その不整形地の程度、位置及び地積の大小に応じた不整形地補正率を乗じて計算した価額により評価する旨定め、(1)から(4)の方法のうち(2)において、不整形地の地積を間口距離で除して算出した計算上の奥行距離を基として求めた整形地により計算する旨、定めている。
(7)評価通達24−4《広大地の評価》は、その地域における標準的な宅地の地積に比して著しく地積が広大な宅地で都市計画法第4条《定義》第12項に規定する開発行為を行うとした場合に公共公益的施設用地の負担が必要と認められるものの価額は、その広大地が路線価地域に所在する場合、次の算式により計算した数値を15《奥行価格補正》に定める補正率として、15から20−5《容積率の異なる2以上の地域にわたる宅地の評価》までの定めによって計算した金額によって評価する旨定めている。
(広大地の地積−公共公益的施設用地となる部分の地積)÷広大地の地積
 なお、評価通達24−4に定める「公共公益的施設用地」とは、都市計画法第4条第14項に規定する道路、公園等の公共施設の用に供されている土地、同法施行令第27条に掲げる教育施設、医療施設、交通施設、購買施設等の公益的施設の用に供される土地をいうものとする。
(8)評価通達24−6《セットバックを必要とする宅地の評価》は、建築基準法第42条《道路の定義》第2項に規定する道路に面しており、将来、建物の建替え時等に同法の規定に基づき道路敷きとして提供しなければならない部分を有する宅地の価額は、その宅地について道路敷きとして提供する必要がないものとした場合の価額から、その価額に次の算式により計算した割合を乗じて計算した金額を控除した価額によって評価する旨定めている。
 将来、建物の建替え時等に道路敷きとして
 (提供しなければならない部分の地積÷宅地の総面積)×0.7
(9)評価通達40《市街地農地の評価》は、市街地農地の価額は、その農地が宅地であるとした場合の1平方メートル当たりの価額からその農地を宅地に転用する場合において通常必要と認められる1平方メートル当たりの造成費に相当する金額として、整地、土盛り又は土止めに要する費用の額がおおむね同一と認められる地域ごとに国税局長の定める金額を控除した金額に、その農地の地積を乗じて計算した金額によって評価する旨定めている。
(10)評価通達に基づき国税局長が定める財産評価基準書では、平たんな土地を宅地に転用するための通常必要と認められる1平方メートル当たりの造成費に相当する金額は、造成工事の費目別の工事量(体積又は面積)を積算し、当該積算した工事量に費目別の工事単価を乗じて計算した金額の合計額を当該土地の地積で除して求めた金額とする旨定めており、○○国税局長が定めた平成14年分の宅地造成費相当額は次のとおりである。

イ 整地費整地を要する面積1平方メートル当たり1,000円
ロ 伐採・抜根費伐採等を要する面積1平方メートル当たり550円
ハ 地盤改良費地盤改良を要する面積1平方メートル当たり750円
ニ 土盛費土盛りを要する体積1立方メートル当たり2,900円
ホ 土止費土止めを要する擁壁の面積1平方メートル当たり37,000円

(11)評価通達89《家屋の評価》は、家屋の価額は、その家屋の固定資産税評価額に1.0倍を乗じて計算した金額によって評価する旨定めている。

別紙2

(1)相続税法第22条にいう時価について
請求人
 相続税法第22条及び評価通達にいう時価は、その財産の価額に影響を及ぼすべきすべての事情を考慮した客観的な交換価値であり、本件鑑定による本件各土地及び乙建物の評価額は、具体的な個別の価額に影響を及ぼすべき事情を考慮した「客観的な交換価値」であることから、適正である。
 なお、土地について、〔1〕路線価は1月1日現在に付されたもので、相続開始日現在までの地価下落が反映されていないこと、〔2〕地価下落が著しい状態で、実際の取引においても路線価では売却できないことから、本件各土地の評価について、評価通達によれない特別の事情がある。
 乙建物は、〔1〕居住するためには相当の修理費用が必要であること、〔2〕祟りのある建物であることから、乙建物の評価について、評価通達によれない特別の事情がある。
原処分庁
 相続税法第22条によれば、相続財産の価額は、その財産を相続により取得した時における時価による旨規定されており、この時価とは、当該財産の取得の時において、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立する価額、すなわち客観的な交換価値をいうものと解されている。
 しかし、相続財産の評価に当たり、多種多様の財産について具体的にこれを把握することは相当の困難を伴うものであり、また、納税者間で評価が異なることは、課税の公平の観点からみても好ましくなく、統一的運用を必要とするものであるから、具体的評価方法について、評価通達において定められている。
 したがって、評価通達に基づいて国税局長が定め、路線価等として公表している「財産評価基準書」の定めるところにより算定された評価額は、特別の事情がない限り、相続税課税においてその財産の時価と解するのが相当である。
 なお、本件については、特別な事情があるとは認められない。
(2)甲土地の時価
請求人
 審査請求時において、甲土地の相続税法第22条にいう時価は本件鑑定による評価額55,100,000円であると主張していたが、原処分庁主張額51,657,575円については争わない。
 なお、甲土地の面積(道路41.45平方メートル、利用可能有効面積949.55平方メートル)については、平成14年度固定資産税評価明細書、登記簿謄本、現地調査、役所での聴取調査の結果により判断したものであるが、原処分庁主張の面積が正確な客観的資料に基づくものあるなら争わない。
原処分庁
 本件甲土地の相続税法第22条にいう時価は評価通達による評価額51,657,575円であり、これは、同土地に係る本件鑑定による評価額55,100,000円を下回り、請求人に不利益を課すものではない。
 なお、具体的評価額は次のとおり。
○面積
 平成15年4月9日付の地積測量図により、道路39.84平方メートル、道路部分以外951.88平方メートルである。
○自用地としての価額
 (正面路線価)×(広大地補正率)=(1平方メートル当たりの価額)
 100,000円×0.60=60,000円
(1平方メートル当たりの価額)×(地積)=(自用地の評価額)
 60,000円×951.88平方メートル=57,112,800円
○セットバックを必要とする土地の価額
〔1〕自用地の評価額 57,112,800円
〔2〕セットバックを要する面積部分の評価減
57,112,800円×(27.24平方メートル÷951.88平方メートル)×0.7=1,144,080円
 セットバック面積  27.24平方メートル
 総面積      951.88平方メートル
 セットバックを必要とする土地の価額
 〔1〕−〔2〕=55,968,720円
○市街地農地の評価額
(自用地の評価額)÷(地積)=(評価の基となる1平方メートル当たり価額)
55,968,720円÷951.88平方メートル=58,798円
(1平方メートル当たりの価額)−(造成費)=(1平方メートル当たりの価額)
58,798円−4,529円=54,269円
(1平方メートル当たりの価額)×(地積)
54,269円 × 951.88平方メートル =51,657,575円
(3)乙土地及び乙建物の時価
請求人
 乙土地及び乙建物の相続税法第22条にいう時価は、個別具体的な影響を考慮した本件鑑定による評価額である。
 なお、乙土地の道路後退を要する部分の面積について、当初20.2平方メートルとしていたが、14.45平方メートルの誤りであることから乙土地の価額について主張を変更する。

 乙土地32,100,000円
 乙建物2,100,000円

1 具体的評価額(鑑定評価額)
・積算価格(原価法)

総額36,410,000円
内訳 土地34,140,000円
建物2,270,000円
・解体後更地価格(建物取壊後価格)
34,040,000円
・収益価格(現状有姿による収益還元法)
25,450,000円

 地域の事情、対象不動産の個別性(特に建物利用可能性及びその価値)、現下の不動産市場の動向等を勘案した結果、本件評価においては、住宅地域に存する自用の建物及びその敷地で資産価値が重視される要素が強いといえるので、解体後更地価格をも十分に参考にした上で、積算価格:収益価格=8:2でウエイト付けして鑑定評価額を決定。なお、土地・建物の内訳は積算価格の構成比によるあん分計算による。
・決定価格

総額34,200,000円
内訳 土地32,100,000円
建物2,100,000円

2 本件鑑定による評価額について
 乙土地及び乙建物の時価は、個別具体的な影響を考慮した本件鑑定による鑑定評価額である。
(1)乙土地及び乙建物の積算価格を算定する際の乙土地の土地価格は、公示価格等を規準とした価格との均衡に留意しながら十分に考慮に入れ、比準価格との勘案により土地価格を決定している。
(2)比準価格及び規準価格
 個別格差、地域格差、標準化補正比準価格等の算出過程は、鑑定評価書記載のとおり、
 「各取引事例の価格」×「事情補正」×「時点修正」×「標準化補正」×「地域格差」×「個別格差」=対象土地の価格であり、計算式の「標準化補正」までの段階で、当該事例の価格の事情を排除し、価格時点までの変動を考慮し、当該事例の個性を補正した、当該事例の存する地域における標準的画地の価格に補修正されることとなり、「地域格差」において事例及び対象土地の各地域要因を比較することにより、対象土地の存する地域における「標準的画地の価格」が試算され、これに対象土地の「個別格差」を乗ずることで「対象土地の価格」が試算されることになる。したがって、「個別格差」とは、「対象土地」にかかわる個別的要因に応じた格差のことを指すもので、採用する事例や基準地等によって異なるものでなく、一律に斟酌されるものである。
 以上のことから、個別格差における斟酌と地域格差・標準化補正における斟酌は、内容、主旨が異なるため、二重に斟酌したことにはならない。
 乙土地の存する集落内では400平方メートル〜500平方メートル程度の比較的大きな画地が大多数を占めており、また北向きあるいは南向きの画地がやはり大多数であることから、当該集落内での標準的画地としては、400平方メートル程度の北向き画地が妥当と判断されるところ、基準地Q(○)−○は地積100平方メートルの東向き画地である。
 当該基準地のように地域の一般的な画地と比較した場合、単価が割高になる傾向が強く、逆にいうと規模の大きい画地は単価が割安になる傾向が強いことから、このことを考慮し、基準地について画地規模(市場性)として15%の補正を、また、北向き画地が標準的であるので、東向き基準地について日照・採光面での快適性が優る程度として1%の補正が必要と判断した。
3 乙建物の本件鑑定による評価額
(1)建物等の再調達原価(200,000円/20平方メートル)及び再調達原価を区分するための比率(主体80%・設備20%)の根拠
 建築士・建設会社など建築の専門家において一般的に把握されている相場水準、市販の専門書籍(建物鑑定評価資料、財団法人建設物価調査会発行)、地価公示評価に際して社団法人日本不動産鑑定協会から示される運用指針、などを参考・考慮の上査定した。
(2)建物の経済的残存耐用年数
 乙建物は老朽化・損傷の進行、雨漏りの発生、地盤の沈下に伴う建物の傾きなど本体部分の減耗が著しく、維持管理の状態も劣悪であるなど、現状有姿の状態ではおよそ使用に堪えない状況にあったことから、建物の経済的残存耐用年数はほぼ満了していると判断され、最大で5年と査定した。
(3)観察減価率の斟酌
「不動産鑑定評価基準」において現価の査定すなわち減価修正に際しては、耐用年数に基づく方法と観察減価法を原則として併用するものとされているので、上記(2)のような時の経過に伴う減価以上の価値低下を斟酌・反映させたものである。
(4)乙土地建物の積算価格
 積算価格の算定に当たり調整率を90%としたのは、周辺地域で取引されている居住用建物の中心価格帯は大半が1,000〜2,000万円台で、3,000万円以上の取引はごくわずかで物件の動きも非常に悪いことから、3,000万円台後半の中古物件である乙土地建物は、成約に至るまでにやや長めの期間を要すると予測されるので、広告宣伝費等の過分な支出や期間中の元本価格下落リスクなどを考慮した結果、少なくとも10%以上の市場性減価が必要と判断した。
 以上のとおり、原処分は違法であるので、争点に係る原処分について、一部の取消しを求める。
原処分庁
 乙土地及び乙建物の相続税法第22条にいう時価は評価通達に基づく評価額である。
 乙土地 36,495,440円
 乙建物 10,433,801円
1 具体的評価額
(乙土地)
○自用地としての価額
(正面路線価)×(奥行価格補正率)=(1平方メートル当たり価額)
88,000円 ×0.99=87,120円
(1平方メートル当たりの価額)×(地積)=(自用地の評価額)
87,120円×433.05平方メートル=37,727,316円
○セットバックを必要とする土地の価額
〔1〕自用地の評価額 37,727,316円
〔2〕セットバックを要する面積部分の評価減
 37,727,316円×(20.20平方メートル÷433.05平方メートル)×0.7
 =1,231,876円
 セットバック面積    20.20平方メートル
 総面積        433.05平方メートル
 セットバックを必要とする土地の価額
 〔1〕−〔2〕=36,495,440円
(小規模宅地等特例の適用後28,067,906円)
(乙建物)
○居宅
 (固定資産税評価額)×(倍率)=(評価額)
 9,093,405円×1.0=9,093,405円
○倉庫
(固定資産税評価額)×(倍率)=(評価額)
1,340,396円×1.0=1,340,396円
2 乙土地の本件鑑定による評価額
 乙土地の鑑定評価額には、次のような問題点があり、相続税法第22条に規定する時価と認めることができない。
(1)地価公示法第8条によれば、不動産鑑定士等は、土地について鑑定評価を行う場合において、当該土地の正常な価格を求めるときは、公示価格を規準としなければならない旨規定されており、都道府県知事が公示している基準地価格についても同様であると解されているところ、本件鑑定では、乙土地に係る鑑定評価額を決定する際に、公示価格又は基準地価格は規準とされておらず、単に取引事例比較法による価格を求める際に、基準地価格が規準とされているにすぎない。
 したがって、乙土地に係る鑑定評価額は、公示価格と均衡が保持されているか否か定かではなく、適正に評定されたものとは認められない。
(2)比準価格及び規準価格
イ 個別格差
 別表2−2(1)の事例1ないし3の土地及び基準地Q(○)−○の街路幅員は各物件ごとに異なり、さらに、乙土地の街路条件(南側公道 幅員2.3メートル)ともそれぞれ異なるにもかかわらず、取引事例1ないし3の取引事例価格及びQ(○)−○の基準地価格に、個別格差として幅員0.85、居住環境0.90及び方位(南向き)1.03を乗じた割合(78.8/100)が一律に斟酌されていることから、適正な補正が行われているとは認められない。
ロ 地域格差
 事例1ないし3の土地の取引事例価格に個別格差として幅員及び居住環境が斟酌されているにもかかわらず、地域格差においても、事例1及び事例3の土地の取引事例価格について幅員及び居住環境が、また、事例2の土地の取引事例価格については居住環境が二重に斟酌されていることから、適正な補正が行われているとは認められない。
ハ 標準化補正
 事例1ないし3の土地の取引事例価格及びQ(○)−○の基準地価格に個別格差として方位(南向き)が斟酌されているにもかかわらず、標準化補正においても、事例1ないし3の土地の取引事例価格及びQ(○)−○の基準地価格に方位が二重に斟酌されていることから、適正な補正が行われているとは認められない。
 また、基準地価格は、土地の用途が同質と認められるまとまりのある地域において、土地の利用状況が通常と認められる土地について算定された客観的な交換価値を表す正常な価格であるため、標準化補正を行う必要は認められない。
3 乙建物の本件鑑定による評価額
 乙建物は、再調達原価に比率及び現価率を乗じた建物積算価格により本件家屋の評価額が算出されているが、当該現価率の算定の基礎となる経済的残存耐用年数(5年)については、具体的な計算根拠が示されておらず、適正に評定されたものとは認められない。
 以上のとおり原処分は適法である。

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