ホーム >> 公表裁決事例集等の紹介 >> 公表裁決事例 >> 裁決事例集 No.68 >> (平16.12.13裁決、裁決事例集No.68 231頁)

(平16.12.13裁決、裁決事例集No.68 231頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が行った輸入貨物に係る消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)の申告(以下「本件輸入申告」という。)に対して、D税関長から委任を受けたE税関支署長、D税関F出張所長、D税関G出張所長及びD税関H出張所長(以下「E税関支署長ら」という。)が行った更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分について、違法、不当を理由として、その全部の取消しが求められた事案であり、争点は次の3点である。
争点1 税関長が消費税等の更正処分を行うことができるか否か。
争点2 原処分庁の調査に不当性があったか否か。
争点3 原処分庁が行った輸入貨物に係る消費税等の課税価格の算定が適正か否か。

(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成14年3月14日から平成15年4月10日までの間に、別表の「申告」欄のとおりE税関支署長らに対してそれぞれ本件輸入申告をした。
ロ E税関支署長らは、これに対して平成16年3月5日付で別表の「更正処分」欄のとおりの消費税等の更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び別表の「加算税」欄のとおりの過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」といい、本件更正処分と併せて「本件更正処分等」という。)をした。
ハ 請求人は、本件更正処分等を不服として、平成16年3月16日に異議申立てをしたところ、異議審理庁が同年4月27日付で棄却する旨の異議決定をしたので、同年5月12日に審査請求をした。

(3)基礎事実

 次の事実については、請求人と原処分庁の双方に争いはなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、国内で仕入れた墓石の原石を中華人民共和国(以下「中国」という。)の加工業者に輸送し、墓石(以下「本件輸入貨物」という。)に加工させて輸入している。
ロ 請求人の本件輸入申告は、中国の加工業者へ支払う加工賃、輸入港までの船賃及び乙仲に対する諸費用の合計額を課税価格としている。
ハ 原処分庁の調査担当職員(以下「調査担当職員」という。)は、平成15年3月11日から同年3月13日までの間に、本件輸入貨物に対する調査(以下「本件調査」という。)を行った。

トップに戻る

2 主張及び判断等

(1)争点1 税関長が消費税等の更正処分を行うことができるか否か。

イ 主張
請求人
税関長は、関税と消費税等が同時に発生した場合についてのみ、消費税等の更正処分をすることができるのであって、消費税等の単独による更正処分を行うことはできないから、処分権限のないE税関支署長らが行った本件更正処分は違法である。
原処分庁
国税通則法(以下「通則法」という。)第30条及び輸入品に対する内国消費税の徴収等に関する法律施行令(以下「輸徴法施行令」という。)第30条により、輸入品に係る消費税等の更正処分は、税関長及び税関長から委任された税関支署長等が行う旨規定されており、本件更正処分は適法である。
ロ 判断
(イ)関係法令等
A 通則法第24条《更正》は、税務署長は納税申告書に記載された課税標準等又は税額等が、調査したところと異なるときには、その調査により当該申告書に係る課税標準等又は税額等を更正する旨規定している。
B 通則法第30条《更正又は決定の所轄庁》第4項は、輸入品に係る申告消費税等についての更正は、当該消費税等の納税地を所轄する税関長が行い、この場合においては、同法第24条の規定の適用については、規定中「税務署長」とあるのは、「税関長」とする旨規定している。
C また、輸徴法施行令第30条《税関長の権限の委任》第1項第1号では、税関長が有する不服申立てに関する権限以外の権限(次号の規定により同号に掲げる税関官署の長に委任されるものを除く。)を税関支署長に、第2号では、内国消費税の確定、納付、徴収及び還付並びにこれらに係る手続の際にされる処分に関する権限を税関出張所長に委任する旨規定している。
(ロ)これらの法令の規定に照らすと、本件輸入申告に対する本件更正処分等の所轄庁はD税関長ということになり、処分権限の有る税関長から委任されたE税関支署長らが行った本件更正処分等は適法である。

(2)争点2 原処分庁の調査に不当性があったか否か。

イ 主張
請求人
1 本件調査において、調査担当職員から、「修正申告に応じなければ全量検査になるはめになる。」との発言があるなど不当な圧力があり、このような不当な調査に基づいてされた本件更正処分等は取り消されるべきである。
2 平成14年以降各年の1月から5月の間の税関の検査回数は年々増加し、特に本件更正処分以後に極端に検査回数が増えており、これが税関の不当な調査の実態である。
原処分庁
1 本件調査の結果に基づいて請求人の今後の輸入申告の方法について指導した際に、次の事項について説明しただけで、調査担当職員が請求人に圧力を掛けたとする事実はない。
(1)税関としては、明らかに誤った課税価格をもって輸入申告を行うのであれば、これを容認することはできないこと。
(2)輸入貨物について誤った申告を続けた場合、輸入申告時の関係書類では、逆委託加工契約に基づき請求人が提供した原材料を使用した輸入貨物と使用していない輸入貨物とを区別できないため、個々の貨物について審査を行い、それぞれ適正であるかどうか確認する必要が生じるため開披検査等を実施せざるを得ない結果となること。
2 輸入貨物の検査は、関税法第67条《輸出又は輸入の許可》の「貨物を輸出し、又は輸入しようとする者は、政令で定めるところにより、当該貨物の品名並びに数量及び価格その他必要な事項を税関長に申告し、貨物につき必要な検査を経て、その許可を受けなければならない。」旨の規定に基づき実施しているものであり、請求人の主張は独自の見解というほかはなく理由がない。
ロ 判断
(イ)関係法令等
A 消費税法第62条《当該職員の質問検査権》第3項は、税関の当該職員は消費税に関する調査について必要があるときは、課税貨物を保税地域から引き取る者に質問し、又は当該課税貨物若しくはその帳簿書類その他の物件を検査することができる旨規定している。
B 通則法第24条及び同法第30条第4項により、税関長は、納税申告書に記載された課税標準等又は税額等が調査したところと異なるときには、その調査により当該申告書に係る課税標準等又は税額等を更正する。
C 輸入貨物に対する検査の範囲、程度、時期、場所などについては、関係税法等に実施細目に関する特段の定めがない場合は、検査担当職員の合理的な判断にゆだねられていると解される。
 また、更正処分の適否は、課税要件事実の存否によって決まるものであり、質問検査権に基づく調査は、これらの課税要件に該当する事実の存否を調べるための手続にすぎないことから、仮に調査手続に何らかの違法な点が存在した場合であっても、それが全く調査を欠き、あるいは公序良俗に反するような方法によって課税標準を認定するなどの重大な瑕疵がない限り、その瑕疵は課税処分の取消事由とはならないと解される。
(ロ)これを本件について見ると、次のとおりである。
A 調査担当職員は、〔1〕明らかに誤った課税価格をもって申告を行うのであれば、これを容認できないこと、〔2〕本件輸入貨物と同様に誤った申告を続けた場合、関係書類の審査では当該貨物とそれ以外の貨物の区別ができないため、関税法第67条の規定に基づき個々の貨物について検査を行い、適正であるかどうか確認するため開披検査等を実施せざるを得ないことを、今後の請求人の申告について指導をした際に説明したにすぎない旨答述しており、また、調査関係資料を見ても、調査担当職員が請求人に圧力をかけたと認めるべき事情はない。
 また、請求人は調査担当職員の不当な発言を録音した録音テープがある旨主張するが、その証拠の提出に応じないことから、その事実の確認ができない。
B また、請求人が当審判所に提出した「2002年1月〜5月通関明細」、「2003年1月〜5月通関明細」及び「2004年1月〜5月通関明細」によると、請求人に対する輸入貨物の検査回数は、請求人の答述するとおり増加しているが、本件更正処分以後に増加しているとしても、これをもって本件更正処分の適法性を左右するものとは認められない。
(ハ)そうすると、本件調査において、請求人が主張するような不当な圧力や本件更正処分等を取り消さなければならないほどの瑕疵があったとは認められない。
 したがって、請求人の主張には理由がない。

トップに戻る

(3)争点3 原処分庁が行った輸入貨物に係る消費税等の課税価格の算定が適正か否か。

イ 主張
請求人
本件更正処分の対象となった輸入墓石は、国内において仕入れた原石を中国に輸送し、墓石に委託加工したものであり、この原石については仕入時に消費税等を支払っている。
そうすると、輸入墓石に係る消費税等の課税価格は、加工賃、船代及び諸費用の合計額によるべきであって、その価格に原石代を含めると、結果的に原石について二度の消費税等が課税されることになり、消費税法違反になる。
原処分庁
輸入貨物に係る消費税等の課税標準は、関税定率法(以下「定率法」という。)第4条から第4条の8までの規定に準じて算出した価格に、当該貨物の保税地域からの引取りに係る消費税以外の消費税等の額及び関税の額に相当する金額を加算した金額とすることとされている。
1 請求人が行っている取引は委託加工であり、定率法第4条第1項に規定する輸入取引には該当しないから、同項の規定により課税価格を決定することができない。
2 請求人の輸入貨物は個々に加工の程度が異なり、同種又は類似の貨物が存在しないため、定率法第4条の2の規定により課税価格を決定することができない。
3 請求人の輸入貨物は国内の再販売先に対する売買利潤が一定率でないこと等から、再販売価格からの逆算が困難であり、また、輸出者における個々の輸入貨物に係る製造原価が明確に算定できないことから、定率法第4条の3の規定により課税価格を決定することができない。
4 定率法第4条ないし同法第4条の3の規定に基づいて課税価格を決定することができない場合には、同法第4条の4の規定により課税価格を決定することとされており、請求人が輸出者に支払った加工賃等の額に原材料である石材の取得費用及び提供費用の額を加算することにより、課税価格を合理的に算出することができるため、当該価格を定率法の課税価格とした。
以上のとおり、消費税等の二重課税の事実はなく、消費税の課税標準は、消費税法第28条第3項の規定に基づいて算出した適法なものである。
ロ 判断
(イ)関係法令等
A 消費税の課税標準に関する規定について
 消費税法第28条《課税標準》第3項は、保税地域から引き取られる課税貨物に係る消費税の課税標準は、定率法第4条から第4条の8までの規定に準じて算出した価格に、当該課税貨物の保税地域からの引取りに係る消費税以外の消費税等(ここでは、通則法第2条《定義》第3号に規定する消費税等をいう。)の額及び関税の額に相当する金額を加算した金額とする旨規定している。
B 定率法による課税価格に関する規定について
(A)定率法第4条《課税価格の決定の原則》第1項は、輸入貨物に係る輸入取引がされた時に、買手より売手に対して現実に支払われた又は支払われるべき価格に、その含まれていない限度において第1号ないし第5号に掲げる運賃等の額を加えた価格とする旨規定している。
(B)定率法第4条の2《同種又は類似の貨物に係る取引価格による課税価格の決定》は、前条第1項の規定により課税価格を計算することができない場合には、当該輸入貨物と同種又は類似の貨物に係る取引価格とする旨規定している。
(C)定率法第4条の3《国内販売価格又は製造原価に基づく課税価格の決定》は、前二条の規定により課税価格を計算することができない場合には、当該輸入貨物の国内販売価格から逆算した価格又は製造原価から積算した価格とする旨規定している。
(D)定率法第4条の4《特殊な輸入貨物に係る課税価格の決定》は、前三条の規定により課税価格を計算することができない場合には、これらの規定により計算される課税価格に準ずるものとして政令で定めるところにより計算される価格とする旨規定している。
(E)関税定率法施行令第1条の11《特殊な輸入貨物に係る課税価格の決定》第2号は、定率法第4条の4に規定する政令で定める課税価格は、「1994年の関税及び貿易に関する一般協定」の第7条及び「1994年の関税及び貿易に関する一般協定第7条の実施に関する協定」に適合するものとして税関長が定める方法により計算される価格とする旨規定している。
(F)これらの規定によると、輸入貨物に対する課税価格は、輸入貨物の実際の取引価格に一定の要素を加算したものを課税価格とすることを原則とし、売手(輸出者)と買手(輸入者)との間の特殊な関係等により、実際の取引価格により課税価格を算定できない場合の計算方法については、同種・類似貨物の課税価格、国内販売価格からの逆算価格、あるいは製造原価を基礎とする価格等を採用することとされており、これらの方法によっても課税価格が算定できない場合は、税関長が定める方法により計算することとなる。
(ロ)これを本件について見ると、次のとおりである。
A 本件輸入貨物は、〔1〕原石を提供した加工賃方式による逆委託加工貿易により輸入された貨物であり、定率法第4条第1項にいう輸入取引に該当しないことから、同項の規定により課税価格を決定できないこと、〔2〕販売用途に応じて加工されたものであり、加工の程度、使用する原材料の数量等が異なるなど同種又は類似の貨物が存在しないことから、定率法第4条の2の規定により課税価格を決定できないこと、〔3〕それぞれ別個の品質、形状を有するものであり、国内販売価格からの逆算又は製造原価からの積算により課税価格を算定することは困難であり、定率法第4条の3の規定により課税価格を決定できないことから、本件輸入貨物の課税価格は、定率法第4条の4、同法施行令第1条の11第2号に基づき、D税関長が定めた方法により算出すべきものである。
B このことについて、当審判所において、原処分庁が課税価格算定の証拠資料として提出した国内石材仕入先からの仕入明細資料及び通関業者からの輸出通関料金の請求資料などの原処分関係資料に基づき調査したところ、当該課税価格は、輸入インボイス記載の価格に当該墓石の原材料である原石の仕入価格及び原石の輸出関連費用を加算して算出されており、この方法は本件輸入貨物の取引形態に合致するものであって、定率法第4条の4の規定により合理的かつ適法に算出されたものであると認められ、したがって、本件輸入貨物に係る消費税等の課税標準は、定率法により算出された課税価格に基づく適法なものといえる。
(ハ)なお、請求人は、輸入のときに墓石の原石に対しても消費税等が課されると、結果的に二度の消費税等が課税される旨主張する。しかし、原処分関係資料によれば、本件輸入貨物の課税価格の算出に当たり、原石の仕入価格は消費税相当分を除いた価格(いわゆる税抜価格)で計算されており、また、保税地域から引き取る課税貨物に課された消費税額等については、消費税法第30条《仕入れに係る消費税額の控除》第1項の規定により、税務署長に提出する消費税の確定(中間)申告において、課税標準額に対する消費税額から控除されることから、いずれにしても、請求人の主張は採用することができない。
(4)本件賦課決定処分を含め、原処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

トップに戻る