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(平16.7.9裁決、裁決事例集No.68 246頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、消費税法第30条《仕入れに係る消費税額の控除》第7項に規定する帳簿及び請求書等(以下「帳簿書類等」という。)を保存していないことが「災害その他やむを得ない事情」に該当するか否かを主たる争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成11年6月1日から平成12年5月31日までの課税期間(以下「平成12年5月期」という。)及び平成12年6月1日から平成13年5月31日までの課税期間(以下、「平成13年5月期」といい、平成12年5月期と併せて「本件各課税期間」という。)の消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)について、確定申告書に別表の「確定申告」欄のとおり記載して、いずれも法定申告期限までに申告した。
ロ これに対し、原処分庁は、平成15年2月3日付で別表の「更正処分等」欄のとおりの各更正処分(以下「本件各更正処分」という。)及び過少申告加算税の各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」という。)をした。
ハ 請求人は、これらの処分を不服として平成15年4月2日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年6月25日付で棄却の異議決定をした。
ニ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成15年7月23日に審査請求をした。

(3)関係法令等

イ 消費税法第30条第1項は、事業者が国内において課税仕入れを行った場合には、当該課税仕入れを行った日の属する課税期間の課税標準額に対する消費税額から、当該課税期間中に国内において行った課税仕入れに係る消費税額を控除(以下「仕入税額控除」という。)する旨規定し、同条第7項では、同条第1項の規定は、当該課税期間の課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿書類等の保存がない場合には、災害その他やむを得ない事情により当該保存をすることができなかったことを当該事業者において証明した場合を除き、当該保存がない課税仕入れについては、適用しない旨規定している。
ロ そして、消費税法基本通達(以下「基本通達」という。)11−2−22《災害その他やむを得ない事情の意義》は、「災害」とは、震災、風水害、雪害、凍害、落雷、雪崩、がけ崩れ、地滑り、火山の噴火等の天災又は火災その他人為的災害で自己の責任によらないものに基因する災害をいい、「やむを得ない事情」とは、災害に準ずるような状況又は当該事業者の責めに帰することができない状況にある事態をいう旨定めている。
ハ また、消費税法施行令第50条《課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿等の保存期間等》第1項は、消費税法第30条第1項の規定の適用を受けようとする事業者は、同条第7項に規定する帳簿書類等を整理し、当該帳簿についてはその閉鎖の日の属する課税期間の末日の翌日、当該請求書等についてはその受領した日の属する課税期間の末日の翌日から2月(清算中の法人について残余財産が確定した場合には1月とする。)を経過した日から7年間、これを納税地又はその取引に係る事務所、事業所その他これらに準ずるものの所在地に保存しなければならない旨規定している。

(4)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、平成元年10月2日に「消費税簡易課税制度選択届出書」を原処分庁に提出しているが、本件各課税期間の基準期間における課税売上高が2億円を超えていることから、消費税法第30条第1項に規定する仕入税額控除の方法により作成した本件各課税期間の消費税等の確定申告書を原処分庁に提出した。
ロ 請求人は、平成14年11月28日に原処分庁の調査担当者(以下「調査担当者」という。)の同席の下で「嘆願書」と題する文書(以下「本件嘆願書」という。)を作成し、調査担当者を通じて原処分庁に提出した。
ハ 請求人は、代表取締役をDとする左官工事業を営んでいた同族会社で、平成14年12月31日に解散、Dが清算人に就任し、平成15年4月1日に清算結了の登記をした。

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2 主張

(1)請求人

 原処分は、次の理由により、違法かつ不当であるから、その全部の取消しを求める。
イ 請求人が帳簿書類等を保存していなかったのは、当時の経営状況が廃業状況に追い込まれていたところ、従業員の要請に基づき事業を継続するためには人員の削減が不可欠であり、「廃業状況にある」ことを示す目的で一部書類を処分したものであり、それほどまでに追い詰められていた経営状況であったという事実からして、これ以上の「やむを得ない事情」はあり得ない。
ロ 請求人は、帳簿書類等の保存がないことについて「やむを得ない事情」があることに理解を示した調査担当者の口頭による指導に基づき本件嘆願書を作成し、提出したものであるにもかかわらず、そのような事実がなかったとの真実をゆがめる原処分庁の主張は断じて許されず、このような不当な行為に基づく原処分は直ちに取り消すべきである。

(2)原処分庁

 原処分は、次の理由により、適法かつ正当であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 本件各更正処分について
(イ)原処分に係る調査(以下「本件調査」という。)及び異議申立てに係る調査(以下「異議調査」という。)によれば、次の事実が認められる。
A Dは、異議調査の担当者に対して、「法の趣旨に照らして帳簿書類等を保存しなければならないことは理解しているが、本件調査の時にも回答したとおり、帳簿書類等は処分しており、残っている分があったとしても法律要件を満たしているものはないと思う。これから取りそろえたところで、どうなるものでもないことも理解している。」旨申し述べている。
B 本件嘆願書には、上記Aと同趣旨の記載がある。
C 請求人は、本件調査に際し、本件各課税期間の仕入税額控除に係る帳簿書類等を提示しなかった。
(ロ)消費税法第30条第7項は、上記1の(3)のイのとおり、仕入税額控除は同項所定の帳簿書類等の保存がない場合は適用されず、例外的に認められる「災害その他やむを得ない事情」の意義については、基本通達11−2−22において、上記1の(3)のロのとおり定めている。
 また、消費税法施行令第50条第1項は、上記1の(3)のハのとおり、その保存期間をそれぞれ同項所定の日から7年間、納税地等同項所定の所在地に保存することを義務付けている。
 なお、税務調査において正当な理由がなく帳簿書類等を提示しなかった場合には、上記保存がないものと推定され、仕入税額控除の適用がないと解されている。
(ハ)これを本件についてみると、次のとおりである。
A 請求人は、帳簿書類等を処分するに至った経緯から、これ以上の「やむを得ない事情」はあり得ない旨主張するが、いかに請求人が廃業寸前の厳しい経営状況に追い込まれ、事業継続のために人員削減が不可欠であるという事情があったとしても、廃業状況にあることを従業員に示す目的で帳簿書類等を処分するということは、甚だ軽率な行為であり、基本通達11−2−22で定める「災害」に準ずるような状況又は当該事業者の責めに帰することができない状況にある事態とは到底認められず、消費税法第30条第7項に規定する「やむを得ない事情」に該当しないことから、請求人の主張には理由がない。
B 請求人は、帳簿書類等の保存がないことにつき「やむを得ない事情」があることに理解を示した調査担当者の指導に基づき本件嘆願書を作成し、提出したものであり、原処分庁の主張は事実に反する旨主張するが、本件嘆願書の作成の経緯は、本件調査の際にDが、「ないものはどうしようもない。あとは税務署長が判断することだ。」と発言したことから、調査担当者が、「帳簿書類等がないことについて、税務署長に対し何か申し述べたいことがあれば、書類を作成して提出してください。」と応じたところ、同席していた請求人の監査役であるEが作成した文書にDが署名・押印したものであり、その内容について確認を求められた事実はあるものの、調査担当者が、帳簿書類等の保存がないことにつきやむを得ない事情があるとしてその証明のために作成させたものではなく、何ら事実に反するものではない。
 なお、請求人は、本件調査及び異議調査を通じ、また、本件嘆願書においても、帳簿書類等を保存していない理由は、業績不振から平成14年7月に会社を閉鎖することにし、関係書類等を処分したためである旨申し述べているところ、これは、請求人の判断に基づいて帳簿書類等を処分したものと認められ、消費税法第30条第7項に規定する「やむを得ない事情」に該当しない。
C 以上のとおり、請求人が本件各課税期間の仕入税額控除に係る帳簿書類等を保存していないことは明らかであり、保存がないことにつきやむを得ない事情があったとは認められないから、消費税法第30条第7項の規定により仕入税額控除の適用がないとして行った本件各更正処分は適法である。
ロ 本件各賦課決定処分について
 上記イのとおり、本件各更正処分は適法であり、請求人の場合、国税通則法(以下「通則法」という。)第65条《過少申告加算税》第4項に規定する「正当な理由と認められる場合」には該当しないので、同条第1項及び第2項の規定に基づき行った本件各賦課決定処分は適法である。

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3 判断

(1)本件各更正処分について

イ 原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
(イ)請求人は、本件調査に当たり、調査担当者に対し、本件各課税期間に係る帳簿書類等を提示していない。
(ロ)本件嘆願書には、本件調査の際、本件各課税期間に係る帳簿書類等の保存がないことから提示できなかった旨及び保存がない理由は、業績の不振から会社を閉鎖するために関係書類を処分したことによるものである旨記載されている。
ロ ところで、仕入税額控除について、消費税法第30条第7項は、上記1の(3)のイのとおり、帳簿書類等が「災害その他やむを得ない事情」により保存をすることができなかったことを当該事業者において証明した場合を除き、当該保存がない課税仕入れについては適用しない旨、また、仕入税額控除に係る帳簿書類等の保存期間について、同法施行令第50条第1項は、上記1の(3)のハのとおり、所定の日から7年間、納税地等の所在地に保存しなければならない旨規定している。
 また、基本通達11−2−22は、消費税法第30条第7項に規定する「やむを得ない事情」として、上記1の(3)のロのとおり、災害に準ずるような状況又は当該事業者の責めに帰すことができない状況にある事態をいうものと定めており、この取扱いは、当審判所においても相当と認められる。
ハ 請求人は、帳簿書類等を保存していなかったのは廃業状況にあることを従業員に示すために処分したからで、それほどまでに追い詰められていた経営状況にあったという事実からして、これ以上の「やむを得ない事情」はあり得ない旨主張する。
 しかしながら、上記イのとおり、請求人が業績の不振から会社を閉鎖するために、従業員にその状況を示す目的で関係書類を処分し、本件調査に際し、本件各課税期間に係る帳簿書類等を調査担当者に対して提示できなかったとしても、このことは、請求人自身の責めに帰するものといわざるを得ず、消費税法第30条第7項に規定する「やむを得ない事情」によるものとは認めることができない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ニ 請求人は、帳簿書類等の保存がないことについて「やむを得ない事情」があることに理解を示した調査担当者の指導に基づき本件嘆願書を作成し、提出したものであり、そのような事実はないとの真実をゆがめる原処分庁の主張は断じて許されず、このような不当な行為に基づく原処分は取り消されるべきである旨主張する。
 しかしながら、租税法規に適合する課税処分について、取り消すことができるのは、信義誠実の原則の適用によって、少なくとも、原処分庁が納税者に対し信頼の対象となり得る公的見解を表示したことが前提となるべきところ、上記1の(4)のロのとおり、本件嘆願書は、調査担当者の同席の下で作成され、同人を通じて原処分庁に提出された事実は認められるものの、当審判所の調査によれば、調査担当者が本件嘆願書を提出すれば、消費税法第30条第7項に規定する「やむを得ない事情」に該当し、仕入税額控除が認められるということまで指導した事実は認められず、本件各更正処分が違法・不当なものとして取り消されるべきであるとの請求人の主張は採用することができない。
以上のとおり、原処分庁が本件各課税期間における仕入税額控除の適用がないとして行った本件各更正処分は適法である。

(2)本件各賦課決定処分について

 上記(1)のとおり、本件各更正処分は適法であり、本件各更正処分により納付すべき消費税等の額について、通則法第65条第4項に規定する「正当な理由と認められる場合」には該当せず、同条第1項及び第2項の規定に基づき行われた本件各賦課決定処分は適法である。

(3)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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