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(平16.9.9裁決、裁決事例集No.68 255頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、漁業を営む審査請求人(以下、「請求人」という。)が、浜買い(市場を通さず、漁師等から直接魚介類を買うこと)に係る手数料として、請求人の役員に対して支払った金員が当該役員に対する臨時的な給与となるか否か、また、浜買いに係る支払対価の額について、消費税法第30条《仕入れに係る消費税額の控除》第1項に規定する税額控除(以下、この規定を「仕入税額控除」という。)が適用できるか否かを主な争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 法人税
(イ)平成11年5月1日から平成12年4月30日まで、平成12年5月1日から平成13年4月30日まで及び平成13年5月1日から平成14年4月30日までの各事業年度(以下、順次「平成12年4月期」、「平成13年4月期」及び「平成14年4月期」といい、これらを併せて「本件各事業年度」という。)の法人税について、審査請求に至る経緯等は別表1のとおりである。
(ロ)請求人は、本件各事業年度の法人税の各更正処分及び平成14年4月期の法人税に係る過少申告加算税の賦課決定処分を不服として、平成15年8月8日に審査請求をした。
ロ 消費税及び地方消費税
(イ)平成11年5月1日から平成12年4月30日まで、平成12年5月1日から平成13年4月30日まで及び平成13年5月1日から平成14年4月30日までの各課税期間(以下、順次「平成12年4月課税期間」、「平成13年4月課税期間」及び「平成14年4月課税期間」といい、これらを併せて「本件各課税期間」という。)の消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)について、審査請求に至る経緯等は別表2のとおりである。
(ロ)請求人は、本件各課税期間の消費税等の各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分を不服として、平成15年8月8日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、当該異議申立てについて、国税通則法(以下「通則法」という。)第89条《合意によるみなす審査請求》第1項の規定により審査請求として取り扱うことが適当であると認め、請求人に同意を求めたところ、請求人は、同年10月28日に同意したので、同日審査請求がされたものとみなされた。
(ハ)そこで、上記(イ)及び(ロ)の審査請求について併合審理する。

(3)関係法令

 別紙のとおりである。

(4)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所が調査したところによっても、その事実が認められる。
イ 請求人は、平成9年4月25日に、定置網漁業、魚類の養殖・運搬及び販売等を行うことを目的として設立された同族会社である。
 本件各事業年度における代表取締役はEであったが、平成15年1月18日に辞任した後、Fが代表取締役に就任している。
ロ 請求人は、本件各事業年度の確定した決算において、「原材料仕入高」として、平成12年4月期に72,840,878円(うち、浜買いに係るもの69,761,093円)、平成13年4月期に93,127,947円(うち、浜買いに係るもの92,022,128円)及び平成14年4月期に104,792,625円(うち、浜買いに係るもの97,306,517円)をそれぞれ売上原価の額に計上した。
ハ 請求人は、本件各事業年度の確定した決算において、Eに対する「鮮魚手数料」(以下、「本件鮮魚手数料」という。)として、平成12年4月期に557,535円、平成13年4月期に736,199円及び平成14年4月期に779,906円をそれぞれ損金の額に算入した。
ニ 請求人は、本件各課税期間の消費税の額の計算において、上記ロの浜買いに係る支払対価及び上記ハの本件鮮魚手数料の額を仕入税額控除の適用対象とした。
ホ Eは、本件各事業年度の期間を含む平成11年分ないし平成14年分の所得税について、本件鮮魚手数料を所得税法第27条《事業所得》に規定する事業所得の総収入金額とする青色の確定申告書を原処分庁に提出している。
ヘ 原処分庁は、本件鮮魚手数料について、Eに対する臨時的な給与と認定し、当該給与は役員賞与であるとして損金に算入することはできないとする本件各事業年度の法人税の各更正処分及び平成14年4月期の法人税に係る過少申告加算税の賦課決定処分をした。
ト 原処分庁は、本件鮮魚手数料及び浜買いに係る支払対価の額について、仕入税額控除の規定を適用できないとする本件各課税期間の消費税等の各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分をした。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 法人税
(イ)更正処分
 本件鮮魚手数料は、次のとおり、Eの個人事業に対する対価であるから、役員賞与以外の費用としてその全額を損金の額に算入すべきである。
A 請求人は、法人設立の当初において、Eがそれまで個人で営んできた事業のうち、浜買いについては請求人の事業に移行しないことを社員総会において承認し、社員相互間でも了解している。したがって、浜買いについては、請求人の事業ではなく、Eの個人事業であり、本件鮮魚手数料は、当該個人事業に対する対価である。
 なお、請求人の事業内容を限定した理由は、昭和38年にEが個人事業として開業以来、同人の個性と馴染みやすさが周辺の住民に浸透し、知名度が高いことから、同人の個人事業として浜買いを行う方が、漁師等の魚介類の持込みが容易であり、魚介類の仕入れが安定するからである。
 また、Eは、本件鮮魚手数料に係る所得を事業所得として、所得税の確定申告を行っている。
 以上のとおり、浜買いについては、請求人としては一切行わず、個人業務とする旨明白に限定しているのであるから、浜買いに係る手数料である本件鮮魚手数料は個人の商行為の対価と認めるべきである。
B Eが浜買いをいつどこで行ったとしても、同人が事業の主体であることに影響するものではなく、また、浜買いの場所も、たまたま請求人の所有する筏の場所が近くて便利であるから、Eが筏を利用しているだけであり、筏の所有者が請求人であることをもって、事業の主体が請求人であるといえるものではない。
C 浜買いは、E個人の資金により行われており、請求人がその資金を負担しているものではない。
D 上記Aで述べたとおり、浜買いについては、請求人の事業に移行しないことが、社員総会において承認されているのであるから、請求人との事業上の重複はなく、競業の問題は生じない。
(ロ)過少申告加算税の賦課決定処分
 上記(イ)のとおり、本件各事業年度の更正処分は、いずれも違法であるから、これに伴って、過少申告加算税の賦課決定処分も取り消すべきである。
ロ 消費税等
(イ)更正処分
A 本件鮮魚手数料
 本件鮮魚手数料は、上記イの(イ)のとおり、Eの個人事業に対する対価であり、請求人の課税仕入れに該当するから、仕入税額控除の対象として認めるべきである。
B 浜買いに係る支払対価
(A)浜買いに係る支払対価は、請求人がEから仕入れた魚介類の対価であるから、請求人の仕入先はEであり、その全額を仕入税額控除の対象として認めるべきである。
(B)仮に、浜買いに係る仕入先がEではなく、浜買いの相手先である漁師等であるとしても、次の理由から、消費税法施行令第49条第1項及び同条第2項の規定により、その全額を仕入税額控除の対象として認めるべきである。
a 浜買いの相手先は、請求書、納品書等の必要性やその知識に乏しく、取引の単純さを望み、請求人に対して領収書の発行すら行わない。
b 浜買いの相手先に住所、氏名を問い質すことは困難であり、強行すれば顧客の減少を来たし、商取引の危機を招く結果となる。
c 浜買いの相手先は、零細漁師、半漁で他に勤めている者、潜り士、釣り人と多種多様であって、概ね不特定多数の部類に属し、取引金額もほとんど3万円未満が多い。
(ロ)過少申告加算税の賦課決定処分
 上記(イ)のとおり、本件各課税期間の更正処分は、いずれも違法であるから、これに伴って、過少申告加算税の各賦課決定処分はいずれも取り消すべきである。

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(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 法人税
(イ)更正処分
A 法人がその役員に支払う金銭の性格は、法人の主観的意思によって左右されるものではなく、その金銭の支払いが役員の職務執行の対価の性質を有するかどうかという客観的な基準によって判断すべきであり、支払った金銭が役員の立場と全く無関係に、法人から見て純然たる第三者との関係ともいうべき態様のものでない限り、その職務の対価の性質を有するとみるべきである。
B 請求人は、魚介類の販売を事業とする者であるところ、浜買いの実務がEにより行われているとしても、次に述べるとおり、浜買いを請求人から独立して行われたEの個人事業とみることはできず、Eがその職務の一環として仕入れの実務を行っているとみるべきであるから、本件鮮魚手数料は、請求人からEに支払われた職務執行の対価、すなわち、給与等に該当する。
(A)浜買いは、専ら請求人の所有する筏で行われていること。
(B)浜買いにより支払われる金銭は、請求人の資金が使用されていること。
(C)請求人の定款には、その事業目的として、第2条第2号に魚類の養殖・運搬及び販売、第3号に稚魚採集販売及び第5号に上記各号に附帯する一切の業務と定められており、浜買いの業務もこれに含まれるところ、Eが浜買いを個人で行うというのであれば、競業避止義務について規定する有限会社法第29条の趣旨に反すること。
(D)Eが請求人から独立して浜買いを行っているのであれば、浜買いにより仕入れた魚介類を請求人に転売していることになり、Eは消費税の課税事業者に該当することになるが、消費税等の申告は行われていないこと。
C 以上のとおり、本件鮮魚手数料は給与等に該当し、かつ、本件鮮魚手数料は浜買いによる仕入金額に0.8%を乗じて計算され、仕入金額に応じて変動していること及びEのみに支給されていることから定期の給与には当たらず、法人税法第35条第4項に規定する臨時的な給与に該当し、同条第1項の規定により損金の額に算入することはできない。
(ロ)過少申告加算税の賦課決定処分
 上記(イ)のとおり、本件各事業年度の更正処分は、いずれも適法であり、また、請求人には通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定に基づき行った過少申告加算税の賦課決定処分は適法である。
ロ 消費税等
(イ)更正処分
A 本件鮮魚手数料
 上記イの(イ)とおり、本件鮮魚手数料は、請求人からEに対して支払われた職務執行の対価に当たり、消費税法第2条第1項第12号の規定により、課税仕入れには該当しない。
B 浜買いに係る支払対価
(A)原処分庁所属の調査担当職員(以下、「調査担当職員」という。)の調査によれば、次の事実が認められる。
a 請求人は、浜買いについて、個々の取引ごとに伝票を起票し、その日の取引高集計のためにノートを使用し、総勘定元帳に転記しているが、これらの帳簿書類には、浜買いの相手先の氏名又は名称の記載がされておらず、誰と取引を行ったものであるか不明である。
b 上記aの帳簿書類以外の帳簿書類についても、浜買いの相手先を特定し得る記載はない。
c 調査担当職員は、再三、浜買いの相手先の説明を求めたが、請求人は、相手先の名前が出ると仕入れができなくなるとの理由から、氏名又は名称はもとより、相手先を特定し得る説明は全くしていない。
(B)課税事業者が仕入税額控除の適用を受けるためには、消費税法第30条第7項の規定により、課税仕入れ等の事実を記載した帳簿及び課税仕入れ等の事実を証明する請求書等の保存が要件とされているところ、上記(A)の事実からすると、浜買いに係る支払対価について、仕入税額控除の適用を受けるための要件を欠いていることは明らかである。
 したがって、浜買いに係る支払対価について、仕入税額控除の対象とすることはできない。
 なお、請求人が主張するとおり、浜買いが個人事業であり、浜買いに係る支払対価が、請求人がEから仕入れた対価であるとすれば、Eは消費税の課税事業者に該当することになるところ、Eは消費税等の申告は行っておらず、請求人の主張は失当である。
(C)消費税法施行令第49条第1項の規定の適用を受けるためには、課税仕入れ等の事実を記載した帳簿の保存が必要とされているところ、上記(A)のとおり、請求人は、その要件を満たしていないのであるから、同項の規定を適用することはできない。
(D)消費税法施行令第49条第2項に規定する再生資源卸売業について、氏名又は名称の記載が省略できるのは、その事業形態として、課税仕入れの相手方が不特定かつ多数の一般消費者で個々の取引も少額であることから、個々の取引相手に係る氏名又は名称の記載を求めることは酷であるからと解されている。
 しかし、昭和38年から浜買いに携わってきたEにとって、長年の取引先である漁師、潜水漁業者等が不特定の者であることはあり得ず、このことは、法人成りにより包括的に事業を引き継いだ請求人がその実務を依然としてEに任せている以上同様であるから、浜買いが不特定の者との取引ということはできず、かつ、これらの相手先は、一般消費者の立場にある者でもないから、浜買いに係る事業を再生資源卸売業に準ずるものとして消費税法施行令第49条第2項の規定を適用することはできない。
(ロ)過少申告加算税の賦課決定処分
 上記(イ)のとおり、本件各課税期間の更正処分は、いずれも適法であり、また、請求人には通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づき行った過少申告加算税の各賦課決定処分はいずれも適法である。

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3 判断

 本件の争点は、本件鮮魚手数料が、Eに対する臨時的な給与に該当するか否か、また、浜買いに係る支払対価の額が仕入税額控除の対象となるか否かにあるので、以下審理する。

(1)認定事実

イ 本件各事業年度終了の日における請求人の定款には、第2条(目的)として、次の記載がある。
(イ)定置網漁業
(ロ)魚類の養殖・運搬及び販売
(ハ)稚魚採集販売
(ニ)遊漁船の経営
(ホ)旅館、その他の宿泊所の経営
(ヘ)飲食店業
(ト)上記各号に附帯する一切の業務
ロ 請求人が、当審判所に対して提出した平成9年4月24日付の臨時社員総会議事録には、取締役の業務認許及び自己取引承認の件として、要旨次のとおりの記載がある。
(イ)第1号議案 取締役の業務認許の件
 議長は、取締役Eが、「当所筏及び浜辺一帯における不特定多数にわたる魚介類の現金による小口買付業務」につき、法人成り後も引き続き個人事業者として営業したいと申し立てているが、今回この営業行為は当会社の設立後、当会社としては一切行わず、個人業務としてEへ一任することを詳細に説明し、この可否を議場に諮ったところ、満場一致をもって承認可決した。
(ロ)第2号議案 取締役の自己取引承認の件
 議長は、取締役Eが、「水産業のうち魚介類の小口現金買付業務」につき、平成9年4月24日から○○○○商店という名称で、当会社と自己取引することについて詳細に説明し、検討の上議場に諮ったところ、満場一致をもって承認可決した。
ハ 浜買いの際には、魚介類の品目、数量及び金額を記載した仕切書が作成されているが、当該仕切書に記載された数量及び金額は、請求人の総勘定元帳に記載された原材料仕入高の金額と同額である。
ニ 請求人の総勘定元帳によれば、浜買いに係る買付資金は、浜買いの都度、同額が請求人から支出されている。
ホ 本件鮮魚手数料は、各月に1回、各月の浜買いの合計金額に0.8%を乗じて算定され、Eに支払われている。
 なお、請求人とEとの間において、本件鮮魚手数料に係る契約書はない。
ヘ 請求人が保存している浜買いに係る原材料仕入れの事実を記載した帳簿書類及び仕切書には、浜買いの相手先である漁師等の氏名又は名称が記載されていない。
ト Eは、調査担当職員に対して、要旨次のとおり申述している。
(イ)浜買いに係る仕入れの相手先を明らかにすると、取引が中止となり、営業ができない状態になる。
(ロ)浜買いに係る仕入れの相手先を明らかにできる書類等は一切ない。

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(2)法人税

イ 更正処分
 請求人は、本件鮮魚手数料はEの個人事業である浜買いに係る手数料として、請求人がEに支払っているものであるから、役員賞与以外の費用としてその全額を損金の額に算入すべきである旨主張する。
(イ)浜買いの事業主体
 請求人は、浜買いは請求人の事業ではなく、Eが個人として行っている事業である旨主張しているので、浜買いの事業主体が請求人若しくはEのいずれにあるかについて、以下審理する。
 ところで、所得税法第27条《事業所得》に規定する「事業」とは、自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ反復継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務であると解される。
 これを本件についてみると、〔1〕上記(1)のハのとおり、浜買いの際に作成される仕切書に記載された数量及び金額は、その同数量及び同金額が請求人の総勘定元帳に原材料仕入高として計上されており、浜買いにより買い付けられた魚介類は、請求人以外の者と取引されるものではなく、すべて請求人に帰属していること、〔2〕上記(1)のニのとおり、浜買いの買付資金は、浜買いの都度、その同額が請求人から支出されており、浜買いに係る買付代金の決済は、請求人の資金により行われていると認められること及び〔3〕上記(1)のホのとおり、Eは、各月に1回、浜買いの取引総額に一定率を乗じた金額を請求人から収受しているのみで、請求人とEとの間において、請求書及び領収証の作成等、売買が行われていると認めるに足る証拠はないことから、浜買いに係る業務は、Eが請求人から独立して、自己の計算と危険において営んでいるといえるものではなく、当該業務は請求人が主体となって行っているものというべきである。
 したがって、浜買いの業務をEの個人事業と認めることはできず、浜買いの業務は、Eが請求人の役員として、請求人の仕入業務を担っているものと認めることが相当である。
 なお、請求人は、請求人の臨時社員総会において、浜買いについてはEの個人事業とすることが認許された旨主張するが、臨時社員総会における認許のみをもって、浜買いの事業主体が判断されるものではない。
(ロ)本件鮮魚手数料
 ところで、所得税法第28条第1項に規定する給与所得とは、雇用契約又はこれに類する原因に基づき、使用者の指揮命令に服して提供した労務の対価として使用者から受ける給付とされているが、その性質は、個人の非独立的ないし従属的な人的役務の提供の対価であると認められることから、使用人あるいは役員の地位又は職務に関連して受ける給付であると解される。
 これを本件についてみると、本件各事業年度においてEが請求人の代表取締役であることに争いはないところ、上記(イ)のとおり、浜買いに係る事業主体は請求人であり、浜買いの業務は、Eが役員として請求人の業務を遂行しているものと認めることが相当であるから、本件鮮魚手数料は、請求人が役員であるEの職務に関連して支給しているもの、すなわち、所得税法第28条第1項に規定する給与等に該当し、かつ、上記(1)のホのとおり、本件鮮魚手数料は、各月の浜買いの仕入金額に一定率を乗じて計算され、浜買いの仕入金額に応じて変動していることから、法人税法第35条第4項に規定する臨時的な給与に該当することとなり、法人税法第35条第1項の規定により損金の額に算入することはできない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ハ)以上のとおり、本件鮮魚手数料は、Eに対する臨時的な給与に該当するとして、法人税法第35条第1項の規定により損金の額に算入することができないとした本件各事業年度の法人税の各更正処分はいずれも適法である。
ロ 過少申告加算税の賦課決定処分
 上記イのとおり、法人税の各更正処分はいずれも適法であり、また、各更正処分により納付すべき税額の基礎となった事実が更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定に基づきされた平成14年4月期の法人税に係る過少申告加算税の賦課決定処分は適法である。

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(3)消費税等

イ 更正処分
(イ)請求人は、本件鮮魚手数料は仕入税額控除の対象として認めるべきである旨主張する。
 しかしながら、本件鮮魚手数料が所得税法第28条第1項に規定する給与等に該当することは上記(2)のイの(ロ)のとおりであり、消費税法第2条第1項第12号の規定により給与等は課税仕入れに該当しないことから、本件鮮魚手数料を仕入税額控除の対象とすることはできない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ロ)また、請求人は、浜買いに係る支払対価について、請求人の仕入先はEであるから、その全額を仕入税額控除の対象として認めるべきである旨主張する。
 ところで、消費税法第30条第7項は、事業者が法定帳簿及び法定請求書等を保存していない場合には、当該保存がない課税仕入れについては、仕入税額控除の規定は適用しない旨規定している。
 そして、消費税法第30条第8項第1号は、法定帳簿について、課税仕入れの相手方の氏名又は名称及び課税仕入れに係る資産又は役務の内容等の各事項が記載されているものをいう旨、また、同条第9項第2号は、法定請求書等について、書類の作成者の氏名又は名称、課税仕入れの相手方の氏名又は名称等の各事項が記載されているものをいう旨規定している。
 これを本件についてみると、上記(2)のイの(イ)のとおり、浜買いに係る事業主体についてEと認めることはできず、請求人の浜買いに係る仕入先は、浜買いの直接の相手先である漁師等と認めることが相当であるところ、上記(1)のヘのとおり、請求人が保存している帳簿書類及び仕切書には、浜買いの相手先である漁師等の氏名又は名称の記載がないのであるから、当該帳簿書類及び仕切書が法定帳簿及び法定請求書等としての要件を欠いていることは明らかであり、浜買いに係る支払対価の額について仕入税額控除の規定を適用することはできない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ハ)さらに、請求人は、仮に、請求人の仕入先が浜買いの相手である漁師等であるとしても、消費税法施行令第49条第1項及び同条第2項の規定により、その全額を仕入税額控除の対象として認めるべきである旨主張する。
A ところで、消費税法第30条第7項は、その括弧書きにおいて、課税仕入れに係る支払対価の額の合計額が少額である場合その他の政令で定める場合には、法定請求書等の保存がない場合であっても、法定帳簿の保存があれば仕入税額控除の適用を受けることができる旨規定し、政令で定める場合として、消費税法施行令第49条第1項に規定しているところ、上記(ロ)のとおり、請求人は法定帳簿を保存していないのであるから、請求人において、消費税法施行令第49条第1項の規定の適用を受けることはできない。
B 次に、消費税法施行令第49条第2項でいう再生資源卸売業とは、日本産業標準分類の中分類に規定されている空瓶・空缶等空容器卸売業、鉄スクラップ卸売業、非鉄金属スクラップ卸売業及び古紙卸売業等であり、また、再生資源卸売業に準ずるものとは、不特定かつ多数の者から課税仕入れを行う事業のうち、取引の実態から仕入れの相手方の氏名又は名称を確認することが不可能に近いという点で再生資源卸売業に準ずるものをいうと解される。
 これを本件についてみると、〔1〕請求人が、請求人の帳簿書類に、浜買いに係る仕入れの相手先を記載していない理由は、上記(1)のトの(イ)のとおり、請求人と当該相手先との関係及び請求人の営業上の問題に起因していること及び〔2〕請求人の原材料仕入高のうち、その大半を占める浜買いに係る相手先が、請求人にとって不特定多数の者であるとは考えられないことから、浜買いを、相手方の氏名又は名称を確認することができない取引実態であると認めることはできず、請求人において、消費税法施行令第49条第2項の規定を適用することはできない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ニ)以上のとおり、本件鮮魚手数料及び浜買いに係る支払対価の額を仕入税額控除の対象とすることはできず、これを認めることができないとした本件各課税期間の消費税等の各更正処分はいずれも適法である。
ロ 過少申告加算税の賦課決定処分
 上記イのとおり、消費税等の各更正処分は適法であり、また、各更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項並びに地方税法附則第9条の9《譲渡割に係る延滞税等の計算の特例》第1項の規定に基づきされた本件各課税期間の過少申告加算税の各賦課決定処分はいずれも適法である。

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(4)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

別紙 関係法令

1 所得税法第28条《給与所得》第1項は、「給与所得とは、俸給、給料、賃金、歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与(以下、「給与等」という。)に係る所得をいう。」と規定している。
2 法人税法第35条《役員賞与等の損金不算入》第1項は、「内国法人がその役員に対して支給する賞与の額は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない。」と規定し、また、同条第4項は、「前三項に規定する賞与とは、役員又は使用人に対する臨時的な給与(債務の免除による利益その他の経済的な利益を含む。)のうち、他に定期の給与を受けていない者に対し継続して毎年所定の時期に定額(利益に一定の割合を乗ずる方法により算定されることとなっているものを除く。)を支給する旨の定めに基づいて支給されるもの及び退職給与以外のものをいう。」と規定している。
3 消費税法第2条《定義》第1項第12号は、課税仕入れについて、「事業者が、事業として他の者から資産を譲り受け、若しくは借り受け、又は役務の提供(所得税法第28条第1項に規定する給与等を対価とする役務の提供を除く。)を受けることをいう。」旨規定している。
4 消費税法第30条第1項は、「事業者が、国内において課税仕入れを行った場合には、当該課税仕入れを行った日の属する課税期間の同法第45条《課税資産の譲渡等についての確定申告》第1項第2号に掲げる課税標準額に対する消費税額から、当該課税期間中に国内において行った課税仕入れに係る消費税額を控除する。」旨規定している。
5 消費税法第30条第7項は、「同条第1項の規定は、事業者が当該課税期間の課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿(以下、「法定帳簿」という。)及び請求書等(以下、「法定請求書等」という。)(同項に規定する課税仕入れに係る支払対価の額の合計額が少額である場合その他の政令で定める場合における当該課税仕入れ等の税額については、法定帳簿)を保存しない場合には、災害その他やむを得ない事情により、当該保存をすることができなかったことを当該事業者において証明した場合を除き、当該保存がない課税仕入れ等の税額については、適用しない。」旨規定している。
6 消費税法第30条第8項は第1号において、「同条第7項に規定する法定帳簿とは、〔1〕課税仕入れの相手方の氏名又は名称、〔2〕課税仕入れを行った年月日、〔3〕課税仕入れに係る資産又は役務の内容及び〔4〕課税仕入れに係る支払対価の額の各事項が記載されているものをいう。」旨、また、同条第9項は第2号において、「同条第7項に規定する法定請求書等とは、事業者がその行った課税仕入れにつき作成する仕入明細書、仕入計算書その他これらに類する書類である場合には、〔1〕書類の作成者の氏名又は名称、〔2〕課税仕入れの相手方の氏名又は名称、〔3〕課税仕入れを行った年月日、〔4〕課税仕入れに係る資産又は役務の内容及び〔5〕課税仕入れに係る支払対価の額の各事項が記載されているものをいう。」旨規定している。
7 消費税法施行令第49条《課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿等の記載事項等》第1項は、「消費税法第30条第7項に規定する政令で定める場合とは、課税仕入れに係る支払対価の額の合計額が〔1〕30,000円未満である場合及び〔2〕30,000円以上である場合において、請求書等の交付を受けなかったことにつきやむを得ない理由がある場合とする。」旨規定している。
8 消費税法施行令第49条第2項は、「再生資源卸売業その他不特定かつ多数の者から課税仕入れを行う事業で再生資源卸売業に準ずるものに係る課税仕入れについては、帳簿に記載することとされている事項のうち、課税仕入れの相手方の氏名又は名称の記載を省略することができる。」旨規定している。

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