ホーム >> 公表裁決事例集等の紹介 >> 公表裁決事例 >> 裁決事例集 No.68 >> (平16.9.15裁決、裁決事例集No.68 276頁)

(平16.9.15裁決、裁決事例集No.68 276頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、簡易課税制度選択届出書を提出していない審査請求人(以下「請求人」という。)について、簡易課税制度の適用が認められるか否か、また、請求人が消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)の確定申告書を法定申告期限内に提出しなかったことについて、正当な理由があるか否かが争われた事案である。

トップに戻る

(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成12年10月1日から平成13年9月30日まで及び平成13年10月1日から平成14年9月30日までの各課税期間(以下、順次「平成13年9月課税期間」及び「平成14年9月課税期間」といい、これらを併せて「本件各課税期間」という。)の消費税等の確定申告書を、いずれも法定申告期限までに提出しなかったところ、原処分庁は、平成15年6月25日付で、別表のとおり、各決定処分(以下「本件各決定処分」という。)及び無申告加算税の各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」という。)をした。
ロ 請求人は、これらの処分を不服として、平成15年8月18日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年11月11日付で棄却の異議決定をした。
ハ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成15年12月9日に審査請求をした。

(3)関係法令

イ 消費税法(平成15年法律第8号による改正前のもの。以下、同じ。)第37条《中小事業者の仕入れに係る消費税額の控除の特例》第1項は、事業者がその納税地を所轄する税務署長にその基準期間における課税売上高が2億円以下である課税期間について、中小事業者の仕入れに係る消費税額の控除の特例(以下「簡易課税制度」という。)の適用を受けようとする旨を記載した届出書(以下「簡易課税制度選択届出書」という。)を提出した場合には、簡易課税制度選択届出書を提出した日の属する課税期間の翌課税期間から簡易課税制度を適用できる旨規定している。
ロ 国税通則法(以下「通則法」という。)第66条《無申告加算税》第1項は、通則法第25条《決定》の規定による決定があった場合には、当該決定に基づき納付すべき税額に100分の15の割合を乗じて計算した金額に相当する無申告加算税を課すこととなっているが、期限内申告書の提出がなかったことについて正当な理由があると認められる場合は、無申告加算税を課さない旨規定している。

(4)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、平成10年11月27日に設立された中古品小売販売を業とする同族会社である。
ロ 請求人は、本件各課税期間に係る基準期間の課税売上高がいずれも3,000万円を超えており消費税等の課税事業者に該当していたが、原処分庁に課税事業者の届出書を提出していない。
ハ 請求人は、本件各課税期間の初日の前日までに簡易課税制度選択届出書を原処分庁に提出していない。

トップに戻る

2 主張

(1)請求人

 原処分は、次の理由により違法又は不当であるから、本件各決定処分の一部の取消し及び本件各賦課決定処分の全部の取消しを求める。
イ 本件各決定処分について
 請求人が簡易課税制度選択届出書を提出できなかったのは、〔1〕会社設立時の届出をした際に、原処分庁から簡易課税制度について説明が一切なかったこと、〔2〕会社設立時の届出書類一式の中に簡易課税制度選択届出書の用紙がなかったこと、及び〔3〕簡易課税制度について原処分庁が十分な周知を行わなかったことが原因であるから、原処分庁は、簡易課税制度を適用して消費税等の納付すべき税額を計算すべきである。
ロ 本件各賦課決定処分について
 請求人が消費税等の確定申告書を法定申告期限までに提出できなかったのは、原処分庁が、〔1〕申告書用紙を送付してこなかったこと、及び〔2〕当該申告が必要であることを事前に通知しなかったことが原因であるから、これらをしないで行った本件各賦課決定処分は違法である。

(2)原処分庁

 原処分は、次の理由により適法であるから、本件審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 本件各決定処分について
 消費税制度について、原処分庁は、消費税導入当初から各種広報等を行っており周知義務を怠っていたということはない。
 請求人が簡易課税制度について知識を有していなかったことは、納税者の税法の不知といわざるを得ず、簡易課税制度選択届出書を提出できなかったことについて消費税法第37条第5項に規定する「やむを得ない事情」があったとは認められない。
 したがって、簡易課税制度を適用しないで行った請求人の本件各課税期間の納付すべき消費税等の額は、別表のとおりとなり、これらの金額はいずれも本件各決定処分の額と同額であるから、本件各決定処分は適法である。
ロ 本件各賦課決定処分について
 消費税等は自己の判断とその責任において行う申告納税制度を採用しており、申告の必要性の事前通知や申告書用紙の送付を義務付ける法令上の規定はないのであるから、申告の必要性の事前通知及び申告書用紙が送付されなかったことが、通則法第66条第1項ただし書に規定する無申告加算税を課すべきでない「正当な理由」とされる「納税者の責めに帰せられない外的事情など、法定申告期限までに申告書を提出しなかったことについて真にやむを得ない理由があったこと」には該当しないので、同項の規定に基づき行った本件各賦課決定処分は適法である。

トップに戻る

3 判断

 本件は、簡易課税制度の適用の可否及び無申告加算税の賦課決定処分の適否について争いがあるので、審理したところ、次のとおりである。

(1)本件各決定処分について

イ 事業者が簡易課税制度の適用を受けようとする場合には、上記1の(3)のイのとおり、簡易課税制度選択届出書をその適用を受ける課税期間の初日の前日までに所轄税務署長に提出しなければならないとされているところ、上記1の(4)のハのとおり、請求人の場合は、平成13年9月課税期間の初日の前日までに、簡易課税制度選択届出書を原処分庁に提出していないことから、簡易課税制度を適用した仕入税額控除が認められないことになる。
ロ 請求人は、簡易課税制度選択届出書を提出できなかったのは原処分庁の周知方法等が不十分であったことが原因であるから、原処分庁は、簡易課税制度を適用して消費税等の納付すべき税額を計算すべきである旨主張する。
 しかしながら、税務署長が所轄する納税地の納税者に対して、簡易課税制度について周知をしなければならないとする法令上の規定はなく、また、申告納税制度の下における消費税等の確定申告、申請及び届出等の手続は納税者自身の責任と判断においてなされるべきであり、税法の単なる不知により納税者自身不利益を受けたとしても、それは納税者自身において甘受せざるを得ないと解されるから、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ハ 以上のとおり、請求人は、本件各課税期間の課税標準額に対する消費税額から控除する仕入れに係る消費税額の計算に当たり簡易課税制度を適用することはできず、消費税法第30条《仕入れに係る消費税額の控除》から同法第36条《納税義務の免除を受けないこととなった場合等の棚卸資産に係る消費税額の調整》までに規定する控除の方法を適用して消費税等の額を計算することとなるが、これによって計算された本件各課税期間の納付すべき消費税等の額は、別表のとおりとなり、本件各決定処分と同額であるから、本件各決定処分は適法である。

(2)本件各賦課決定処分について

イ ところで、上記1の(3)のロのとおり、「正当な理由」があると認められる場合は無申告加算税を課さないこととされているが、この場合の「正当な理由」とは、無申告加算税を課することが納税者にとって不当又は酷と認められる特別な事情、例えば、災害、交通・通信の途絶等、納税者の責めに帰することができない外的事情等で、法定申告期限内に申告書を提出することができない真にやむを得ない理由がある場合がこれに該当するとされているところ、請求人の場合、これらに該当する特別な事情は認められない。
ロ 請求人は、消費税等の確定申告書を法定申告期限までに提出できなかったのは、原処分庁が、〔1〕当該申告が必要であることを事前に通知しなかったこと、及び〔2〕申告書用紙を送付してこなかったことが原因であるから、これらをしないで行った本件各賦課決定処分は違法である旨主張する。
 しかしながら、消費税法第45条《課税資産の譲渡等についての確定申告》において、事業者が税額等を記載した申告書を法定の期限内に税務署長に提出しなければならない旨規定するとおり、消費税は、税務署長からの通知、案内等の有無にかかわりなく、法定の期限内に確定申告書を提出することを義務付けられているのであり、原処分庁による申告書用紙の送付は、国民の納税義務の適正かつ円滑な履行を確保するため、行政上任意的に行われる納税者に対するサービスの一環にすぎず、消費税法その他の関係法令の規定に基づくものではないから、申告書用紙の送付がなかったからといって、それが法定申告期限内に提出ができなかったことの正当な理由にはならない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ハ 以上、上記(1)のとおり、本件各決定処分は、いずれも適法であり、また、上記イのとおり、請求人の場合、通則法第66条第1項ただし書に規定する無申告加算税の除外事由がなく、同項及び地方税法附則第9条の9第1項の規定に基づきされた本件各賦課決定処分は適法である。
(3)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

トップに戻る