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(平17.1.28裁決、裁決事例集No.69 1頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、いわゆる宅配便業者を利用して法定申告期限内に発送した法人税並びに消費税及び地方消費税(以下、消費税及び地方消費税を併せて「消費税等」という。)の確定申告書が法定申告期限後に原処分庁に到達した場合、同申告書を期限内申告書として取り扱うべきか否かを主な争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、納付すべき法人税の額を5,933,500円と記載した平成15年4月1日から平成16年3月31日までの事業年度の法人税の確定申告書及び納付すべき消費税等の額を4,765,200円と記載した平成15年4月1日から平成16年3月31日までの課税期間の消費税等の確定申告書(以下、これらを併せて「本件各申告書」という。)を原処分庁に提出した。
ロ 原処分庁は、本件各申告書が法定申告期限の翌日である平成16年6月1日に到達したことから、これを期限後申告書として、同年7月27日付で法人税の無申告加算税の額を296,500円及び消費税等の無申告加算税の額を238,000円とする各賦課決定処分を行った。
ハ 請求人は、原処分を不服として、平成16年8月10日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年10月25日付で棄却の異議決定を行った。
ニ 請求人は、異議決定を経た後の原処分になお不服があるとして、平成16年11月18日に審査請求をした。

(3)関係法令

イ 民法第97条《隔地者に対する意思表示》第1項は、隔地者に対する意思表示はその通知の相手方に到達した時よりその効力を生ずる旨規定している。
ロ 国税通則法(以下「通則法」という。)第22条《郵送等に係る納税申告書の提出時期》は、納税申告書が郵便又は信書便により提出された場合には、その郵便物又は信書便物の通信日付印により表示された日にその提出がされたものとみなす旨規定している。
ハ 民間事業者による信書の送達に関する法律(以下「信書便法」という。)第2条《定義》第2項は、信書便とは他人の信書を送達すること(郵便に該当するものを除く。)をいう旨規定している。

(4)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、本件各申告書を、平成16年5月31日にA社の宅配便(以下「本件宅配便」という。)で発送した。
ロ A社は、平成16年5月31日現在まで信書便法に規定する信書便事業者としての総務大臣の許可を受けていない。
ハ 請求人は、本件各申告書に記載した納付すべき税額を、法定納期限前の平成16年5月28日に全額納付している。

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2 主張

(1)請求人

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部を取り消すべきである。
イ 請求人は、本件各申告書をその法定申告期限である平成16年5月31日にA社に引き渡しているのであるから、本件各申告書は期限内申告書である。
ロ 通則法第66条《無申告加算税》の規定の趣旨は、納税者に正しい税額の計算と期限内納税を行わせるためのものであり、請求人は本件各申告書に記載した納付すべき税額を法定納期限前に完納している。
 しかも、同条の規定自体が、次のとおり不合理なものであり法改正されてしかるべきであるから、これに基づいて行われた原処分は違法である。
(イ)無申告加算税は、納付すべき税額を基に計算されるため、納税額がある者だけに課され、また、納付すべき税額が多い者ほど多額になること。
(ロ)法定申告期限から申告書提出までの遅延が1日でも1年でも加算税の額は同一であること。

(2)原処分庁

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求をいずれも棄却するとの裁決を求める。
イ 本件各申告書の提出日について
(イ)法人税法第74条《確定申告》には、内国法人は、各事業年度終了の日の翌日から2月以内に、税務署長に対し、確定した決算に基づき申告書を提出しなければならない旨、また、消費税法第45条《課税資産の譲渡等についての確定申告》には、いわゆる課税事業者は、課税期間ごとに、当該課税期間の末日の翌日から2月以内に、申告書を税務署長に提出しなければならない旨それぞれ規定されているものの、これらの申告書の効力の発生時期に関する取扱いについては、税法上特別な規定は設けられていない。
 そこで、申告書の効力の発生時期は、民法第97条第1項の規定により、申告書が税務署に提出された時、すなわち税務署へ到達した時とされており、また、申告書が郵便又は信書便により提出された場合の提出日は、通則法第22条の規定により、その郵便物又は信書便物の通信日付印により表示された日とみなされている。
(ロ)この場合、郵便とは、郵便法の規定により日本郵政公社が行う送達の方法をいい、また、信書便とは、信書便法の規定により総務大臣の許可を受けた信書便事業者が行う送達の方法をいうところ、A社は、信書便法に規定する信書便事業者ではない。
(ハ)ところで、本件各申告書は、本件宅配便により、平成16年6月1日にB税務署の玄関に設置している「時間外文書収受箱」に投かんされて到達している。
 この点、請求人は、本件各申告書を平成16年5月31日にA社に配送を依頼したから、その日が提出日である旨主張するが、本件宅配便は、上記(ロ)のとおり、郵便にも信書便にも該当しない。
(ニ)したがって、本件各申告書の提出日は、通則法第22条の規定の適用はなく、原処分庁に本件各申告書が到達した平成16年6月1日であり、本件各申告書は、法定申告期限後に提出された期限後申告書となる。
ロ 賦課決定処分について
(イ)通則法第66条第1項は、期限後申告書の提出があった場合には、期限内申告書の提出がなかったことについて正当な理由があると認められる場合を除き、当該申告に基づき同法第35条第2項の規定により納付すべき税額に100分の15の割合を乗じて計算した金額に相当する無申告加算税を課する旨規定している。
 また、通則法第66条第3項は、期限後申告書の提出があった場合において、その提出が、その申告に係る国税についての調査があったことにより当該国税について更正又は決定があるべきことを予知してされたものでないときは、その申告に基づき同法第35条第2項の規定により納付すべき税額に係る同法第66条第1項の無申告加算税の額は、同項の規定にかかわらず、当該納付すべき税額に100分の5の割合を乗じて計算した金額とする旨規定している。
(ロ)これに対し請求人は、本件各申告書に記載した納付すべき税額は法定納期限内に完納しており、しかも、通則法第66条の規定は法改正されてしかるべき不合理なものであるから取り消されるべきである旨主張する。
 しかしながら、無申告加算税の額は、上記(イ)のとおり、期限後申告書に記載された納付すべき税額に一定の割合を乗じて計算することとされているから、納税額のある者のみに課することとなり、納税額を法定納税期限までに完納しているか否か、あるいは法定申告期限から申告書提出までの遅延期間の長短といったことなどによって影響を受けるものではない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ハ)そうすると、上記イのとおり本件各申告書は期限後申告書であり、また、請求人には本件各申告書が期限内に提出されなかったことについて正当な理由があったとは認められないことから、通則法第66条第1項及び第3項の規定に基づいて行われた原処分は適法である。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、本件宅配便で配達された本件各申告書の提出日等にあるので、以下審理する。

(1)本件各申告書の提出日について

イ 納税者から税務署長に納税申告書が提出された場合、いつの時点をもって提出日とするかについては、税法上特別な規定は設けられていないところ、民法第97条は隔地者に対する意思表示として、上記1の(3)のイのとおりその到達をもって効力を生じる旨規定していることから、申告書の効力発生の日(提出日)は同条に従い、原則として申告書が税務官庁に到達した日(到達主義)と解されている。
 そして、通則法第22条は、この到達主義の例外として、納税申告書が郵便又は信書便により提出された場合には、その通信日付印により表示された日に提出されたとみなす旨規定しているところ、これは、郵便又は信書便が郵便法又は信書便法の規定に従って配達されるため、紛失や配達の著しい遅延などの生じる蓋然性が相当に低いことや、納税者と関係税務官庁との地理的間隔の差異に基づく不公平を是正する必要性などの観点から設けられているものと解される。
ロ そこで、本件各申告書の提出日について、当審判所が原処分関係資料を調査したところによれば、本件各申告書は、平成16年6月1日にB税務署の玄関に設置されている「時間外文書収受箱」に投かんされたことで原処分庁に到達していることが認められる。また、A社は上記1の(4)のロのとおり、信書便法に規定する総務大臣の許可を受けた信書便事業者ではないことから、本件宅配便は、通則法第22条に規定する郵便又は信書便のいずれにも該当しない。
ハ そうすると、本件各申告書は、原処分庁に到達した日、すなわち平成16年6月1日に提出された期限後申告書となるから、これを法定申告期限内に提出したものとする請求人の主張には理由がない。

(2)賦課決定処分について

イ 請求人は、本件各申告書に記載した納付すべき税額は法定納期限内に完納しており、しかも、通則法第66条の規定は法改正されてしかるべき不合理なものであるから、これに基づいて行われた原処分は違法である旨主張する。
 しかしながら、無申告加算税の規定は、申告納税制度を維持するためには納税者により期限内に適正な申告が自主的にされることが不可欠であることにかんがみて、納税申告書の提出が期限内にされなかった場合の行政上の制裁として設けられたものであるから、納税申告書に記載された納付すべき税額が法定納期限内に完納されたか否かということで、その適用が左右されるものではない。
 さらに、無申告加算税を課すに当たり、その対象の範囲ないし負担について、例えば、納税者の責任の程度の差を考慮したり、申告遅延の月数による累進的取扱いをしたりするなどの方法も一応考えられなくはないが、どの方法によるかは、租税法律主義の見地から、法律の定めるところによらなければならない。
 そして、無申告加算税の課税要件が備わった場合、通則法第66条第1項及び第3項は、当該納税者に対し「納付すべき税額」に一律100分の15又は100分の5の割合を乗じて計算した金額に相当する無申告加算税を課する旨規定しており、これに従わない課税は違法となるのであって、適正な法の執行に携わる原処分庁として裁量の余地はない。
 なお、通則法第66条の規定は合理性がないもので法改正されてしかるべきものである旨の請求人の主張については、当審判所の権限外のことであり審理の限りでない。
 以上のとおりであるから、これらの点に関する請求人の主張は採用できない。
ロ そうすると、本件各申告書は上記(1)のハのとおり期限後申告書であり、また、請求人には本件各申告書が期限内に提出されなかったことについて正当な理由があったとは認められないことから、原処分は適法である。

(3)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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