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(平17.5.23裁決、裁決事例集No.69 10頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、原処分庁が審査請求人(以下「請求人」という。)の平成15年分の所得税に係る還付金を請求人の滞納国税に充当した処分について、請求人が、充当処分は裁量行為であるにもかかわらず、処分をすべきか否かについての正しい認識と判断に基づかずになされた違法事由があるとして、原処分の取消しを求めた事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成8年分の所得税について、平成9年3月17日に別表1の「平成8年分」欄の「確定申告」欄のとおり記載した確定申告書を原処分庁に提出した。
ロ 次いで、請求人は、平成8年分の所得税について、平成9年9月30日に別表1の「平成8年分」欄の「修正申告」欄のとおり記載した修正申告書を原処分庁に提出した(以下、当該修正申告書による申告を「平成8年分修正申告」という。)。
ハ 原処分庁は、平成8年分修正申告に対し、別表1の「平成8年分」欄の「賦課決定処分」欄のとおり、過少申告加算税の賦課決定処分をした。
ニ 請求人は、平成8年分修正申告により増加した所得税額455,700円に関して、別表2の「納付済額等」欄のとおり、平成9年12月29日から平成13年7月23日までの5回にわたり合計29,000円を納付した。
ホ 請求人は、平成14年分の所得税について、平成15年2月28日に別表1の「平成14年分」欄の「確定申告」欄のとおり記載した確定申告書をA税務署長に提出した。
ヘ A税務署長は、上記ホの平成14年分の所得税に係る還付金の額に相当する税額○○○○円について、別表2の「納付済額等」欄のとおり、平成8年分修正申告により増加した所得税額に係る納付未済額に充当し、平成15年5月21日付でその旨を請求人に通知した。
ト 請求人は、平成15年分の所得税について、平成16年5月24日に別表1の「平成15年分」欄の「確定申告」欄のとおり記載した確定申告書を原処分庁に提出した。
チ 原処分庁は、上記トの平成15年分の所得税に係る還付金の額に相当する税額○○○○円(以下「本件還付金」という。)について、平成8年分修正申告により増加した所得税額に係る納付未済額○○○○円及び上記ハの過少申告加算税に係る納付未済額45,000円に充当し、更に平成8年分修正申告に係る延滞税352,300円に充当する処分(以下「本件充当処分」という。)をし、平成16年6月28日付でその旨を請求人に通知した。
リ 請求人は、本件充当処分を不服として、平成16年8月29日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年10月21日付で棄却の異議決定をし、同年11月2日に異議決定書を請求人に送達した。
ヌ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成16年12月1日に審査請求をした。

(3)関係法令

イ 国税通則法(以下「通則法」という。)第56条《還付》第1項は、税務署長は、還付金又は国税に係る過誤納金(以下「還付金等」という。)があるときは、遅滞なく、金銭で還付しなければならない旨規定している。
ロ 通則法第57条《充当》第1項は、税務署長は、還付金等がある場合において、その還付を受けるべき者につき納付すべきこととなっている国税があるときは、同法第56条第1項の規定による還付に代えて、還付金等をその国税に充当しなければならず、この場合において、その国税のうちに延滞税又は利子税があるときは、その還付金等は、まず、延滞税又は利子税の計算の基礎となる国税に充当しなければならない旨規定している。
ハ 通則法第57条第2項は、同条第1項の規定による充当があった場合には、政令で定める充当をするのに適すること(以下「充当適状」という。)となった時に、その充当をした還付金等に相当する額の国税の納付があったものとみなす旨、同条第3項は、充当したときは、その旨をその充当に係る国税を納付すべき者に通知しなければならない旨それぞれ規定している。
ニ 国税通則法施行令第23条《還付金等の充当適状》第1項(以下「本件施行令規定」という。)は、充当適状は、充当に係る国税の法定納期限と還付金等が生じた時とのいずれか遅い時とする旨規定し、上記法定納期限は、申告納税方式による国税で申告により納付すべき税額が確定したものについては、その申告があった時(第1号)、通則法第69条《加算税の税目》に規定する加算税については、その賦課決定通知書を発した時(第6号)、また、その国税に係る延滞税については、その納付の基因となった国税に係る本件施行令規定に定める法定納期限とする旨規定している。

(4)基礎事実

(当事者間に争いがなく、当審判所の調査によっても認められる事実)
イ 請求人は、平成16年5月24日に上記(2)のトの確定申告書を原処分庁に提出しており、同日、請求人に本件還付金が生じた。
ロ 請求人には、平成16年5月24日当時、次の(イ)ないし(ハ)の滞納国税(以下「本件滞納国税」という。)が存在していた。
(イ)平成8年分修正申告により増加した所得税額に係る納付未済額○○○○円(以下「本件未納所得税」という。)
(ロ)上記(2)のハの過少申告加算税に係る納付未済額45,000円(以下「本件未納過少申告加算税」という。)
(ハ)平成8年分修正申告に係る延滞税352,300円(以下「本件延滞税」という。)

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2 争点

 本件の争点は、本件充当処分の適法性である。

3 争点に対する当事者の主張

(1)請求人

 通則法第57条に規定する充当処分は、処分権者である税務署長の正しい認識と判断が要求される裁量行為であると解され、充当処分を行うに当たっては、納税者個々の生活状況に配慮する必要があるところ、本件充当処分には、請求人の経済的な貧窮の訴えについて正しく認識しないで行われた違法がある。

(2)原処分庁

 請求人には、本件還付金の還付時において本件滞納国税が存在していたことから、原処分庁が本件充当処分を行ったものであり、何ら違法又は不当な点はない。
 なお、通則法第57条に規定する充当処分は、税務署長が同一納税者の還付金等と納付すべき国税について、充当処分の実施に適する状態の有無・順序等を判断した上で納税者の意思にかかわりなく一方的に行われるものであり、納税者個々の状況を配慮しつつ行うものではないから、上記(1)の請求人の主張には理由がない。

4 判断

(1)認定事実

 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
イ 請求人は、平成8年分の所得税について、平成9年9月30日に平成8年分修正申告に係る申告書を原処分庁に提出した。
ロ 原処分庁は、平成8年分修正申告に対し、過少申告加算税の額を45,000円とする過少申告加算税の賦課決定処分をし、平成9年10月21日、請求人に対し、その旨の賦課決定通知書を発した。
ハ 請求人は、平成15年分の所得税について、平成16年5月24日に別表1の「平成15年分」欄の「確定申告」欄のとおり記載した確定申告書を原処分庁に提出した。
ニ 上記ハの確定申告書を受理した原処分庁は、本件還付金について、本件未納所得税及び本件未納過少申告加算税に充当し、更に本件延滞税に充当する処分をし、平成16年6月28日付でその旨を請求人に通知した。

(2)本件充当処分の適法性について

イ 上記(1)のイ及びロの事実によれば、本件滞納国税のうち、本件未納所得税及び本件延滞税の各法定納期限は、平成9年9月30日であり(本件施行令規定本文及び第1号)、本件未納過少申告加算税の法定納期限は、平成9年10月21日である(本件施行令規定第6号)。そして、上記1の(4)のイのとおり、本件還付金が生じたのは、平成16年5月24日である。
 そうすると、本件施行令規定により、本件滞納国税と本件還付金とが充当適状になった日は、平成16年5月24日となる。
 そして、上記(1)のニのとおり、本件充当処分は、本件滞納国税と本件還付金とが充当適状となった後に、まず、本件未納所得税及び本件未納過少申告加算税について行われ、次いで本件延滞税について行われており、かつ、原処分庁は、平成16年6月28日付で本件充当処分が行われた旨を請求人に通知している。
 したがって、本件充当処分は、通則法第57条に規定する充当の要件を充足しており、適法である。
ロ なお、請求人は、充当処分は裁量行為であることを前提に、本件充当処分は違法である旨主張する。
 しかしながら、通則法第57条第1項及び第2項の規定は、その文理上、還付金等と納付すべきこととなっている国税とが同一の納税者について存在し、かつ、これらが充当適状にある場合には、納税者の意思にかかわりなく、還付金等を納付すべき国税に充当することを税務署長に義務付けているものと解するべきであり、裁量行為ではない。
 したがって、上記請求人の主張は、独自の見解を前提としたものであり、採用することはできない。

(3)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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