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(平17.2.23裁決、裁決事例集No.69 79頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、税理士である審査請求人(以下「請求人」という。)の、関与先への貸付金が、同人の事業の遂行上生じた貸付金であるか否かを争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成13年分及び平成14年分(以下、これらを併せて「各年分」という。)の所得税について、青色の確定申告書に別表1の「確定申告」欄のとおり記載して、いずれも法定申告期限までに申告した。
ロ 原処分庁は、原処分庁所属の調査担当職員の調査に基づき、請求人の各年分の事業所得の金額は、別表2の「更正等」欄のとおりであるとして、請求人に対し平成16年7月7日付で、各年分について別表1の「更正等」欄のとおりの更正処分(以下「本件各更正処分」という。)並びに過少申告加算税及び重加算税の賦課決定処分をした。
ハ 請求人は、本件各更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」という。)を不服として、平成16年9月2日に審査請求をした。

(3)関係法令

イ 所得税法第52条《貸倒引当金》第1項は、事業所得を生ずべき事業を営む居住者が、会社更生法の規定による更生計画認可の決定に基づいてその有する売掛金、貸付金、前渡金その他これらに準ずる金銭債権で当該事業の遂行上生じたもの(以下「貸金等」という。)の弁済を猶予され又は賦払により弁済される場合その他の政令で定める場合において、その一部につき貸倒れその他これに類する事由による損失が見込まれる貸金等(以下「個別評価貸金等」という。)のその損失の見込額として、各年において貸倒引当金勘定に繰り入れた金額については、当該金額のうち、その年12月31日において当該個別評価貸金等の取立て又は弁済の見込みがないと認められる部分の金額を基礎として政令で定めるところにより計算した金額に達するまでの金額は、その者のその年分の事業所得の金額の計算上、必要経費に算入する旨規定している。
ロ 所得税法第52条第2項は、青色申告書を提出する居住者で事業所得を生ずべき事業を営むものが、その有する売掛金、貸付金その他これらに準ずる金銭債権で当該事業の遂行上生じたもの(個別評価貸金等を除く。以下「一括評価貸金」という。)の貸倒れによる損失の見込額として、各年において貸倒引当金勘定に繰り入れた金額については、当該金額のうち、その年12月31日において有する一括評価貸金の額を基礎として政令で定めるところにより計算した金額に達するまでの金額は、その者のその年分の事業所得の計算上、必要経費に算入する旨規定している。
ハ 所得税法施行令第145条《一括評価貸金に係る貸倒引当金勘定への繰入限度額》第1項は、所得税法第52条第2項に規定する政令で定めるところにより計算した金額は、同項の居住者のその年12月31日において有する一括評価貸金の帳簿価額の合計額に、その者の営む事業所得を生ずべき事業のうち主たるものが金融業以外の事業の場合1,000分の55を乗じて計算した金額とする旨規定している。

(4)基礎事実

 以下の事実は請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、税理士業のほかに不動産鑑定士業を営んでいるが、貸金業の登録はしていない。
ロ 請求人は、顧問先である株式会社G(以下「本件顧問先」という。)に対し、平成13年12月31日現在30,000,000円及び平成14年12月31日現在30,000,000円の貸付金(以下、これらの貸付金を「本件貸付金」という。)を有している。
ハ 本件顧問先は平成14年○月○日付で○○地方裁判所から破産宣告を受けている。
ニ 請求人は、各年分の事業所得の計算上、貸倒引当金として以下の金額を必要経費に計上している。

年分・区分金額評価方法
平成13年分1,650,000円一括評価貸金
平成14年分10,550,000円個別評価貸金等

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2 主張

(1)請求人

 本件各更正処分は、次の理由により違法であるから、それぞれその一部の取消しを求める。
イ 本件各更正処分
 本件各更正処分のうち、各年分の総所得金額、平成13年分11,260,480円及び平成14年分6,840,340円を超える部分を取り消すべきである。
(イ)請求人が本件顧問先に金銭を貸し付けた行為は、本来の税理士の業務以外のものであるが、税理士業務の遂行に準じた行為である。
 請求人の本件顧問先に対する関与は35年間にも及び、請求人は、本件顧問先から相当なる収入を得、かつ、本件顧問先の全役員及び従業員並びに多数の同社の取引関連企業から税務・鑑定業務の相談及び委嘱を受けている。本件顧問先が発展することは、税理士・鑑定士である請求人の職業上の利益を将来にわたり享受させるものである。
 請求人は、税理士業歴の○年間において、本件顧問先を除く他の関与先からの融資の申出を受けたことはなく、また、これに応じたこともない。本件顧問先は、請求人の関与会社として35年の永きにわたり主要かつ収益性のある関与先である。請求人は、本件顧問先が、本件貸付金の使途を企業合理化のための機械設備の取得及び滞納消費税、滞納社会保険料の納付のためと明らかにして融資を要請したので、資金の必要性を検討して金銭を貸し付けたのであり、当該貸付行為は、請求人の本来の業務に付随するものである。
(ロ)税理士法には、税理士が関与先に対して、貸金を行うことを禁止する条項はない。また、J税理士会が定めた税理士紀律規則第6条の2《委嘱者との金銭貸借等の制限》において、金銭貸借を原因とする委嘱者との紛議等の未然防止のため、親族等の特別な場合を除き、委嘱者と金銭の貸借をし、又は委嘱者の債務についての保証人となることを慎むとの規則はあるが、これは、税理士の品位保持の要請規則であり、貸金行為を認めていないものではなく、反面認めている規則でもあるから、請求人が本件顧問先に貸し付けた行為は、税理士本来の業務に準ずる行為である。
(ハ)所得税基本通達51−10《事業の遂行上生じた売掛金・貸付金等に準ずる債権》は、「事業の遂行上生じた売掛金、貸付金、前渡金その他これらに準ずる債権」には、次に掲げるようなものも含まれるとし、その(2)は「自己の製品の販売強化、企業合理化等のため、特約店、下請先等に貸し付けている貸付金」としているが、これを「自己顧問契約の強化・企業合理化等のため、特約ある永年顧問先等に貸し付けている貸付金」と読み替えるべきである。この通達の定めるところは、将来の収益を得るための貸付金をも包含したものであり、本件貸付金もこの類例と等しくするものである。
(ニ)以上のとおり、本件貸付金は、「事業の遂行上生じた売掛金、貸付金等に準ずる債権」であるから、本件貸付金に係る貸倒引当金は、所得税法第52条に基づき、請求人の事業所得の計算上、必要経費に算入されるべきである。
(ホ)本件更正処分のその他の部分については争わない。
ロ 本件各賦課決定処分
 本件各更正処分は、上記イのとおりその一部を取り消すべきであるから、本件各賦課決定処分もこれに伴い減少する税額に係る部分を取り消すべきである。

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(2)原処分庁

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求をいずれも棄却するとの裁決を求める。
イ 本件各更正処分
(イ)上記1の(4)の事実を、上記1の(3)の規定に照らし判断すると次のとおりである。
 請求人は、本件貸付金は「事業の遂行上生じた売掛金、貸付金、前渡金その他これらに準ずる債権」であり、本件貸付金に係る貸倒引当金は、請求人の事業所得の金額の計算上、必要経費に算入されるべきである旨主張するが、貸倒引当金の対象となる貸付金等は、その業種業態からみて、事業の遂行上通常一般的に必要であると客観的に認め得るもの、換言すれば、当該事業による収入との間に因果関係の認められる貸付金等をいうものと解されるところ、請求人は、税理士及び不動産鑑定士の業務を行う事業者であって、本件顧問先への貸付金は、請求人の事業による収入との間に因果関係は認められない。
 また、たとえ請求人が、本件貸付金を本件顧問先に対して貸し付けることによって、自己の行う事業の収入の増加を期待するところがあったとしても、特定の関与先に対し、数千万円もの貸付けをすることが請求人の事業の遂行上、客観的一般的に通常必要とされるものでないことは明らかであることからすれば、本件貸付金は、所得税法第52条第1項及び第2項に規定する売掛金、貸付金、前渡金その他これらに準ずる金銭債権で当該事業の遂行上生じたものには該当しない。
(ロ)さらに、税理士法第2条《税理士の業務》第1項において、税理士は、他人の求めに応じ、租税に関し、税務代理、税務書類の作成及び税務相談を行うことを業とする旨規定し、同条第2項は、税理士は、第1項に規定する税理士業務のほか、税理士の業務を用いて、他人の求めに応じ、税理士業務に付随して、財務書類の作成、会計帳簿の記帳の代行その他財務に関する事務を業として行うことができる旨規定している。
 当該規定が規定する税理士業務及びその付随業務の範囲には、税理士自ら顧問先に対して融資を行うことは含まれないと解されるから、請求人が顧問先に対して金銭を貸し付けることが、税理士業務に含まれないことは明らかである。
 そして、請求人は、金融業を営んでいる事実もないから、本件貸付金の貸倒れによる損失の見込額として貸倒引当金に繰り入れた金額については、事業所得の必要経費に算入することはできず、請求人の主張には理由がない。
(ハ)請求人の各年分の納付すべき税額は、以下のとおり別表1の「更正等」欄の額と同額となるから、本件各更正処分に違法はない。
 各年分の事業所得の金額は、別表2の「更正等」欄のとおりである。
A 総収入金額
 請求人が、各年分の青色申告決算書(一般用)に記載した金額である。
B 貸倒引当金繰戻額
 平成13年分の金額は、請求人が所得税の確定申告書に記載した金額17,000円である。
 また、平成14年分については、平成13年分の事業所得の金額の計算上、必要経費に算入された貸倒引当金勘定の金額であり、所得税法第52条第3項の規定に基づき、総収入金額に算入した金額30,360円である。
C 給料賃金の額
 請求人が、各年分の青色申告決算書(一般用)に記載した金額から、K名で計上された給料賃金の額を差し引いた金額である。
D 貸倒引当金繰入額
(A)平成13年分については、上記イの(イ)及び(ロ)のとおり、本件貸付金は事業の遂行上必要と認められないことから、請求人の総勘定元帳に記載された未収入金552,000円に対して、所得税法施行令第145条第1項の規定により算出した金額30,360円である。
(B)平成14年分については、上記(イ)及び(ロ)のとおり、本件貸付金は事業の遂行上必要と認められないことから、零円である。
E 上記以外の必要経費の額
 請求人が、各年分の青色申告決算書(一般用)に記載した必要経費の額のうち、給料賃金の額及び貸倒引当金繰入額を除く必要経費の額の合計額である。
F 青色申告特別控除の額
 請求人が、各年分の青色申告決算書(一般用)に記載した金額である。
ロ 本件各賦課決定処分
 請求人の場合、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する「正当な理由があると認められるものがある場合」に該当しないので、同条第1項の規定に基づき各年分の過少申告加算税を賦課決定したことは適法である。

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3 判断

 請求人は、本件貸付金は税理士業の遂行上生じたものであり、これに係る貸倒引当金については所得税法第52条が適用され、事業所得の金額の計算上、必要経費に算入される旨主張するので、その当否につき以下審理する。

(1)本件各更正処分

イ 認定事実
 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ)請求人は、平成13年に本件顧問先から333,330円の税理士報酬を得ている。
(ロ)本件顧問先が、平成13年9月28日にH税務署長に提出した平成13年7月期の「法人事業概況説明書」によると、本件顧問先への請求人の関与状況欄として、「申告書の作成」、「調査立会」、「税務相談」及び「決算書の作成」に○印が付されている。
(ハ)請求人は、平成13年分の青色申告決算書(一般用)に、一括評価貸金の合計額を30,552,000円と記載しているが、その内訳は、本件貸付金30,000,000円及び本件顧問先外2社からの報酬の未収入金552,000円である。
ロ 所得税法第52条は、事業所得を生ずべき事業を営むものが、事業の遂行上生じた貸付金の貸倒れによる損失の見込額として、各年において貸倒引当金勘定に繰り入れた金額については、当該金額のうち政令で定めるところにより計算した金額に達するまでの金額は、その者のその年分の事業所得の金額の計算上、必要経費に算入する旨規定しているが、ここにいう「事業の遂行上生じた貸付金」とは、当該事業の遂行と何らかの関連を有する限りの貸付金のすべてをいうものではなく、その業種業態からみて、当該事業所得を得るために通常必要であると客観的に認め得る貸付金をいうものと解される。
 また、税理士法第2条は、税理士は租税に関し税務代理、税務書類の作成、税務相談等の人的役務を関与先に提供し、報酬を得ることを業とする旨規定しており、税理士の業務の範囲に金銭を貸し付ける行為が含まれないことは明らかである。
ハ 請求人は、35年の永きにわたり主要かつ収益性のある本件顧問先に対し、資金の必要性を検討して金銭を貸し付けたものであり、この行為は請求人の本来の業務に付随するものである旨主張するが、税理士としての請求人と本件顧問先との関係は、上記イの(イ)及び(ロ)のとおり、税理士法第2条に規定する業務の範囲を出ず、この範囲に金銭の貸付けは含まれないことは明らかであり、客観的にみて金銭の貸付けは、請求人の税理士としての事業所得を得るために通常必要な行為であるとは認められないので、この点に関する請求人の主張には理由がない。
 また、請求人は、金銭を貸し付けることにより本件顧問先が発展することは、請求人の職業上の利益を将来にわたり享受させるものである旨主張する。しかしながら、たとえ請求人が本件顧問先に対して金銭を貸し付けることにより、本件顧問先からの税理士報酬の増加、すなわち事業所得の増加を期待し、現実に税理士報酬の増加があったとしても、それは派生的に生じた間接的結果にとどまり、本件貸付金は、税理士としての事業所得を得るために通常必要なものであると認めることはできないのであり、この点に関する請求人の主張には理由がない。
 さらに、請求人は、税理士紀律規則第6条の2の規定があることをもって、請求人が本件顧問先に貸し付けた行為は税理士本来の業務に準ずる行為である旨主張するが、当該規則はJ税理士会が会員である税理士を対象として税理士の品位保持及び紛争防止のために慎むべき事項を定めた内部規則であり、当該規則をもって税理士に貸金行為を認める根拠であるとはいえず、この点に関する請求人の主張は採用できない。
ニ 請求人は、所得税基本通達51−10の(2)(以下「本通達」という。)の「自己の製品の販売強化、企業合理化等のため、特約店、下請先等に貸し付けている貸付金」を「自己顧問契約の強化・企業合理化等のため、特約ある永年顧問先等に貸し付けている貸付金」と読み替えるべきであると主張する。ところで、本通達は、所得税法第51条《資産損失の必要経費算入》第2項の規定の対象となる債権が、事業所得を生ずべき事業の遂行上生じた債権に限られることから、事業の遂行上生じた債権の範囲を例示したものである。しかしながら、上記ロに記載したとおり税理士の業務の範囲には金銭を貸し付ける行為が含まれないことは明らかであって、請求人の主張するように本通達を解釈することはできないから、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ホ 以上のとおり、本件貸付金は、請求人の事業の遂行上生じたものとは認められないから、請求人が各年分の本件貸付金に係る貸倒引当金として繰り入れた金額は、請求人の各年分の事業所得の必要経費に算入することはできない。
ヘ 請求人の平成13年分の事業所得における貸倒引当金繰入額は、上記イの(ハ)のとおり、税理士報酬の未収入金の合計552,000円に1,000分の55を乗じた30,360円であり、平成14年分の貸倒引当金繰戻額として、同額が総収入金額に算入されることとなる。
ト 請求人の各年分の事業所得の金額は、別表2の「更正等」欄のとおりとなり、各年分の納付すべき税額は別表1の「更正等」欄の額と同額となることから、本件更正処分は適法である。

(2)本件各賦課決定処分

 本件各更正処分は上記(1)のとおり適法であり、また、本件各更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が、本件各更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する「正当な理由があると認められるものがある場合」に該当しないから、同条第1項及び第2項の規定に基づいてされた本件各賦課決定処分はいずれも適法である。

(3)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠書類等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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