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(平17.2.15裁決、裁決事例集No.69 113頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、会社役員である審査請求人(以下「請求人」という。)に対してされた平成12年分、平成13年分及び平成14年分(以下「各年分」という。)の所得税の各更正処分(以下「本件各更正処分」という。)及び過少申告加算税の各賦課決定処分について、違法を理由としてその全部の取消しが求められた事案であり、争点は次の2点である。
 争点1 理由附記のない更正処分は、違法か否か。
 争点2 所有する資産の価値が倒産等により減少したことで生じた損失を、譲渡所得の金額の計算上生じた損失として、他の所得と損益通算できるか否か。

(2)審査請求に至る経緯等

 各年分の所得税について、審査請求(平成16年7月6日請求)に至る経緯等は、別表のとおりである。

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2 主張

 当事者の主張は、別紙のとおりである。

3 判断

(1)争点1

 理由附記のない更正処分は、違法か否か。
イ 認定事実
 原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
 請求人が提出した各年分の所得税の確定申告書は、青色申告書以外の申告書である。
ロ 所得税法の規定
 所得税法第155条《青色申告書に係る更正》第2項は、青色申告書に係る年分の所得金額等の更正処分については、更正通知書に更正の理由を附記しなければならない旨規定しているが、青色申告書以外の申告書に係る更正処分については、更正通知書に更正の理由を附記しなければならない旨を定めた法令の規定はない。
ハ これを本件についてみると、次のとおりである。
 請求人が提出した各年分の所得税の確定申告書は、上記イのとおり青色申告書以外の申告書であるから、原処分庁が更正通知書に更正の理由を附記しなかったとしても、本件各更正処分が違法となるものではない。

(2)争点2

 所有する資産の価値が倒産等により減少したことで生じた損失を、譲渡所得の金額の計算上生じた損失として、他の所得と損益通算できるか否か。
イ ゴルフ会員権について
(イ)認定事実
 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
A Fカンツリーは、平成13年11月2日にG地方裁判所に対し民事再生手続開始申立てを行い、G地方裁判所は、平成14年1月15日に再生手続の開始を決定した。
 その後、平成15年7月4日付で再生計画案が認可決定され、同年8月6日付で認可決定が確定した。
B 本件再生計画は、要旨次のとおり定められている。
(A)再生計画の基本方針(第2)
a Fカンツリーは、営業施設及びゴルフ場営業のすべてを譲渡先会社であるHカントリーに金○○○億円で営業譲渡する。
 Hカントリーは、譲渡代金に相当する別除権付債権、優先債権及び共益債権等のすべての債務を引き受け、弁済をする。
 再生債権は、利息・遅延損害金は全額免除を受け、元本部分について95%の免除を受け、5%を10年間の分割で弁済する。
b Fカンツリーの会員債権者のプレー権は、一口当たりの預託金額の5%の金額をHカントリーに再預託する方法により、原則としてHカントリーが承継し、保証する。
(B)再生債権に対する権利の変更及び弁済方法(第4)
a 再生債権のうち利息・遅延損害金部分については全額の免除を受け、元本部分については、95%の免除を受ける。
b 免除後の金額については、次のとおり分割して、〔1〕第1回目は、再生計画認可決定が確定した日から2か月を経過した最初の月末日にその0.5%に相当する額を、〔2〕第2回目以降は、平成16年から平成24年までの毎年4月末日までにそれぞれその0.5%に相当する額を支払う。
(C)会員債権者の処遇(第5)
 会員債権者がプレー権の継続を希望するときは、認可決定確定後1か月以内にHカントリーが経営する新しいゴルフクラブに所定の入会申込みをし、弁済計画表記載の「弁済額(5%)」欄の金額をHカントリーに預託することにより、会員になることができる。
C 弁済計画表には、請求人名義のゴルフ会員権(入会金預り証書番号○−○○)が1口記載され、また、請求人が役員となっているJ社名義のゴルフ会員権(入会金預り証書番号○−○○)が1口記載されている。
D 請求人は、平成15年10月18日、同人名義の上記ゴルフ会員権につき、本件再生計画第5に基づき、再生計画に基づく指示書(預託金250,000円)、誓約書(据置期間満10年)及び入会申込書にそれぞれ署名及び押印した上、Fカンツリーに係る入会金預り証書を同封し、Hカントリーへ当該書類を郵送することにより、入会手続(以下「本件入会手続」という。)をした。
E J社は、平成15年9月12日、同法人名義の上記Cのゴルフ会員権につき、Hカントリーに対して本件再生計画第4に基づき再生債権額の支払を請求し、再生債権額250,000円を、K名義のL銀行M支店の普通預金口座(口座番号○○○○)に振り込むよう依頼した。
(ロ)所得税法の規定
A 所得税法第33条《譲渡所得》第1項は、譲渡所得とは、資産の譲渡による所得をいう旨規定しており、当該譲渡とは、売買のほか、交換、収用、競売、公売及び代物弁済等(以下「売買等」という。)により資産を他の者に移転させる行為を総称したものをいい、また、同項にいう資産とは、同条第2項各号に規定する棚卸資産等及び金銭債権以外の資産価値の増加益を生ずべき資産と解される。
B 所得税法第69条《損益通算》第1項は、総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額を計算する場合において、不動産所得の金額、事業所得の金額、山林所得の金額又は譲渡所得の金額の計算上生じた損失の金額があるときは、同法施行令第198条《損益通算の順序》で定められた順序により、これを他の各種所得の金額から控除する旨規定している。
(ハ)預託金会員制ゴルフ会員権
A 預託金会員制のゴルフ会員権は、当該ゴルフクラブの会員となる者が当該ゴルフ場の経営会社に入会保証金を預託し、かつ、当該ゴルフクラブと入会契約を締結することによって生ずるもので、〔1〕当該ゴルフ場施設を一般の利用者に比し有利な条件で継続的に利用できる権利であるプレー権、〔2〕預託金返還請求権及び〔3〕年会費納入等の義務からなる契約上の地位を総称するものと解される。
 そして、当該ゴルフ会員権の譲渡が、売買等により金銭債権である預託金返還請求権及び年会費納入等の義務と併せてプレー権が一体不可分となって他の者に移転される場合には、所得税法第33条第1項に規定する譲渡所得に規定する資産の譲渡として取り扱われるものと解される。
B ところで、民事再生手続中のゴルフ場経営会社がゴルフ場施設と預託金債務を新経営会社に譲渡した場合は、各会員は新経営会社との間で減額された預託金により契約が継続し、ゴルフ会員権としての性質は、契約の相手方を除き、営業譲渡の前後を通じて維持されることから、各会員には譲渡行為がなく、したがって、所得税法第33条第1項に規定する資産の譲渡には当たらず、また、切り捨てられた預託金債権については各種所得の金額の計算上、必要経費に該当しない。
C さらに、預託金会員制ゴルフ会員権の所有者がゴルフクラブからの脱会に伴い預託金の返還を受けた場合は、当該ゴルフ会員権がゴルフ場施設のプレー権を内在した状態でゴルフ場経営法人に移転するものではなく、当該ゴルフ会員権の所有者自らがゴルフ場施設のプレー権を消滅させ、預託金という金銭債権の回収を行ったものであり、所得税法第33条第1項に規定する資産の譲渡には当たらない。
(ニ)これを本件についてみると、次のとおりである。
A 請求人は、上記(イ)のDのとおり、同人名義のゴルフ会員権の預託金を250,000円とし、据置期間を満10年とする旨の誓約書をHカントリーに提出した上で本件入会手続を行っている。
 しかしながら、預託金返還請求権が減額され経営主体が変更しているものの、依然として請求人自身が預託金返還請求権を有することに何ら変更もない上、請求人自身のプレー権は一貫して存続している。
 そうすると、上記(イ)のBのとおり、Hカントリーへの営業譲渡により切り捨てられた預託金債権4,750,000円は、各種所得の金額の計算上必要経費に当たらず、また、請求人は、本件入会手続により上記ゴルフ会員権をHカントリーに対して譲渡したものと認めることはできないから、所得税法第33条第1項に規定する資産の譲渡には該当せず、譲渡所得の金額の計算上譲渡損失も発生しないから、同法第69条第1項の規定に基づいて損益通算を適用することはできない。
B また、J社名義のゴルフ会員権が仮に請求人に帰属するものであったとしても、上記Aと同様、Hカントリーへの営業譲渡により切り捨てられた預託金債権4,750,000円は、各種所得の金額の計算上必要経費に当たらず、また、上記(イ)のEのとおり預託金の返還を請求した行為は、預託金債権という金銭債権の回収行為であって、所得税法第33条第1項に規定する資産の譲渡には該当せず、譲渡所得の金額の計算上譲渡損失も発生しないから、同法第69条第1項の規定に基づいて損益通算を適用することはできない。
ロ 株式について
(イ)認定事実
 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
A 請求人は、N社の額面50円の株式6,000株及びP社の額面50円の株式3,000株を所有しており、また、当該株式を譲渡した事実はない。
B N社は、平成14年8月19日にQ地方裁判所に対し民事再生手続開始申立てを行い、同年8月30日再生手続が開始され、平成15年5月16日付で再生計画認可決定が確定した。
 なお、N社は、平成14年○月○日に各証券取引所への上場が廃止された。
C P社は、平成12年○月○日にQ地方裁判所に対し会社更生手続開始申立てを行い、同年○月○日更生手続が開始され、平成13年○月○日更生計画が認可された。
 なお、P社は、平成12年○月○日に各証券取引所への上場が廃止され、平成13年○月○日に資本の額を100%減資した。
(ロ)ところで、個人が所有する株式の値下がりによる評価損については、所得税法第69条第1項に定める不動産所得の金額、事業所得の金額、山林所得の金額又は譲渡所得の金額の計算上生じた損失には該当しないから、同評価損を他の各種所得から控除することはできない。
(ハ)これを本件についてみると、上記(イ)のとおり請求人が所有しているN社は各証券取引所への上場廃止に伴い、また、P社は各証券取引所への上場廃止及び100%減資に伴い、資産価値が減少、消滅したことは認められるものの、これらの評価損は、所得税法第69条第1項に定める不動産所得の金額、事業所得の金額、山林所得の金額又は譲渡所得の金額の計算上生じた損失には該当しないから、これらの評価損を各種所得の金額から控除することはできない。

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(3)以上のとおり、上記各争点について、原処分に違法はない。

 また、加算税を含む原処分のその他の部分については、当審判所の調査の結果によっても、これを不相当とする理由は認められない。

別紙 当事者の主張

争点1 理由附記のない更正処分は、違法か否か。
請求人

 原処分庁は、更正処分を行う以上、どのような誤りがあると判断し、どのような根拠に基づいて更正の結論に達したかを明らかにしなければならないにもかかわらず、更正通知書に理由が附記されていないことは違法である。

原処分庁

 所得税法上、青色申告書以外の申告書に係る更正処分については、更正通知書に更正の理由を附記すべき旨を定めた法令の規定はない。

争点2 所有する資産の価値が倒産等により減少したことで生じた損失を、譲渡所得の金額の計算上生じた損失として、他の所得と損益通算できるか否か。
請求人

1 ゴルフ会員権について
(1)請求人は、Fカンツリー倶楽部(以下「Fカンツリー」という。)のゴルフ会員権2口を有していたが、同法人の倒産によりその営業権が別法人に移ったため、会員権債権が5%に減額され、95%の損失が生じているのであるから、その損失を他の所得から差し引いて計算すべきである。
(2)Fカンツリーのゴルフ会員権2口のうち1口については、プレー権を放棄しているにもかかわらず、この点について何ら言及されていない。
2 株式について
 請求人は、N社の株式6,000株及びP社の株式3,000株を所有しているが、当該各会社の倒産等により損失が生じたので、その損失の金額を他の所得金額から差し引いて税額を計算すべきである。

原処分庁

1 ゴルフ会員権について
(1)Fカンツリーは、G地方裁判所へ提出した平成15年1月31日付の再生計画案(修正)(以下「本件再生計画」という。)に基づき、同法人の営業施設及びゴルフ場営業のすべてをHカントリークラブ(以下「Hカントリー」という。)に営業譲渡しており、Fカンツリーのゴルフ会員権のうち請求人名義のゴルフ会員権の預託金の95%部分の金額は切り捨てられているが、残りの5%部分の金額については、Hカントリーに再預託することにより、同法人に承継され優先施設利用権(以下「プレー権」という。)が保証されている。すなわち、ゴルフ場の経営者が変更され、預託金が減額されたものの、ゴルフ会員権の性質たるゴルフ場のプレー権と預託金返還請求権は、上記営業譲渡の前後を通じて引き続き維持されている。
 そうすると、請求人名義のゴルフ会員権においては、単にゴルフ場の経営者が変更になったものにすぎず、そのことによって請求人に譲渡と評価されるものがあったとは認められない。
(2)再生債権弁済計画表(以下「弁済計画表」という。)によると、請求人の所有と確認できるものは、1口(届出番号○○)だけである。
2 株式について
 請求人が主張するように、N社及びP社の倒産等により、請求人が所有している当該株式の価値が滅失したとしても、当該損失は、所得税法第69条に規定する「不動産所得の金額、事業所得の金額、山林所得の金額又は譲渡所得の金額の計算上生じた損失」には該当しないため、当該損失を、他の各種所得の金額から控除することはできない。

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